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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1303534
審判番号 不服2014-6314  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-04-07 
確定日 2015-07-22 
事件の表示 特願2007-557674「発光素子」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 4月24日国際公開、WO2008/047744〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成19年10月15日(優先権主張平成18年10月16日)を国際出願日とする出願であって、平成22年 9月 3日に手続補正書が提出され、平成25年 1月18日付けで拒絶理由が通知され、同年 3月19日に意見書が提出されたが、同年12月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成26年 4月 7日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。


第2 補正の却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成26年 4月 7日提出の手続補正書による手続補正を却下する。

〔理由〕
1 補正の内容
平成26年 4月 7日提出の手続補正書による手続補正(以下「本件補正」という。)は、平成22年 9月 3日提出の手続補正による補正後(以下「本件補正前」という。)の明細書及び特許請求の範囲について補正しようとするもので、そのうち、請求項1の補正については、本件補正前の請求項1を引用する請求項3を新たな請求項1とするものであって、以下のとおりである。(下線は補正箇所を示す。)

(1)本件補正前の請求項1及び請求項3
ア 請求項1
「陽極と陰極との間に少なくとも発光層が存在し、電気エネルギーにより発光する素子であって、該発光層は少なくとも、ドーパントとして一般式(1)で表されるピロメテン骨格を有する化合物もしくはその金属錯体、およびホストとして一般式(2)で表されるナフタセン誘導体を含有する発光素子;
【化1】

ここで、R^(1)?R^(7)はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、シアノ基、カルボニル基、カルボキシル基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、アミノ基、シリル基、ホスフィンオキサイド基、ならびに隣接置換基との間に形成される環構造の中から選ばれる;Xは炭素原子または窒素原子であるが、窒素原子の場合には上記R^(7)は存在しない;金属錯体の金属は、ホウ素、ベリリウム、マグネシウム、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛および白金から選ばれる少なくとも一種である;
【化2】

ここで、R^(8)?R^(19)はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、シアノ基、カルボニル基、カルボキシル基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、アミノ基、シリル基、ホスフィンオキサイド基、ならびに隣接置換基との間に形成される環構造の中から選ばれる。」

イ 請求項3
「【請求項3】
前記金属錯体が下記一般式(3)で表される請求項1または2記載の発光素子;
【化3】

ここで、R^(20)?R^(26)はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、シアノ基、カルボニル基、カルボキシル基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、アミノ基、シリル基、ホスフィンオキサイド基、ならびに隣接置換基との間に形成される環構造の中から選ばれる;R^(27)およびR^(28)は同じでも異なっていてもよく、ハロゲン、水素、アルキル、アリールおよび複素環基から選ばれる;Xは炭素原子または窒素原子であるが、窒素原子の場合には上記R^(26)は存在しない。」

(2)本件補正後の請求項1
「陽極と陰極との間に少なくとも発光層が存在し、電気エネルギーにより発光する素子であって、該発光層は少なくとも、ドーパントとして一般式(3)で表されるピロメテン骨格を有するホウ素錯体、およびホストとして一般式(2)で表されるナフタセン誘導体を含有する発光素子;
【化1】

ここで、R^(20)?R^(26)はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素、アルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロアリール基ならびに隣接置換基との間に形成される環構造の中から選ばれる;R^(27)およびR^(28)はフッ素原子である;Xは炭素原子または窒素原子であるが、窒素原子の場合には上記R^(26)は存在しない;
【化2】

ここで、R^(8)?R^(19)はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素、アリール基の中から選ばれる。」


2 補正の目的の適否及び新規事項の有無
上記補正のうち、「ドーパント」に関する補正は、本願の願書に最初に添付された特許請求の範囲(以下、願書に最初に添付された明細書を「当初明細書」といい、願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面をあわせて「当初明細書等」という。)の請求項1を引用する請求項3において、本件補正前の「一般式(3)」で表される金属錯体の構造から、置換基の択一的記載の要素の一部を削除するものである。また、「ホスト」に関する限定は、当初明細書等の請求項1における「一般式(2)」で表されるナフタセン誘導体の構造から、置換基の択一的記載の要素の一部を削除するものである。

したがって、上記補正はいずれも、本願の当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされた補正であり、また本件補正前の請求項1を引用する請求項3に記載された発明特定事項を限定するものであって、本件補正の前後で当該請求項に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であると認められるから、限定的減縮を目的とする補正である。

よって、本件補正は、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たし、また、特許法17条の2第5項2号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、以下、本件補正後の特許請求の範囲に記載された発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定を満たすか)について、検討する。


3 独立特許要件の検討
(1)本願補正発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)は、上記第2〔理由〕1(2)に記載したとおりである。

(2)引用刊行物とその記載事項
ア 原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先権主張の日の前に頒布された刊行物である特開2003-12676号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は当審で付した。以下同様。)

(ア)「【請求項1】一般式(1)で示されることを特徴とするピロメテン金属錯体。
【化1】

(R^(1)、R^(2)およびLは同じでも異なっていてもよく、水素、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、水酸基、メルカプト基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、複素環基、ハロゲン、ハロアルカン、ハロアルケン、ハロアルキン、シアノ基、アルデヒド基、カルボニル基、カルボキシル基、エステル基、カルバモイル基、アミノ基、ニトロ基、シリル基、シロキサニル基、隣接置換基との間に形成される縮合環および脂肪族環の中から選ばれる。Mはm価の金属を表し、ホウ素、ベリリウム、マグネシウム、クロム、鉄、ニッケル、銅、亜鉛、白金から選ばれる少なくとも一種である。Ar^(1)?Ar^(5)はアリール基を表す。)
【請求項2】一般式(2)で示されることを特徴とする請求項1記載のピロメテン金属錯体。
【化2】

(R^(3)?R^(6)は同じでも異なっていてもよく、水素、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、水酸基、メルカプト基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、複素環基、ハロゲン、ハロアルカン、ハロアルケン、ハロアルキン、シアノ基、アルデヒド基、カルボニル基、カルボキシル基、エステル基、カルバモイル基、アミノ基、ニトロ基、シリル基、シロキサニル基、隣接置換基との間に形成される縮合環および脂肪族環の中から選ばれる。Ar^(6)?Ar^(10)はアリール基を表す。)
【請求項3】一般式(1)のAr^(1)?Ar^(4)のうち少なくとも1つが炭素数4以上のアルキル基で置換されていることを特徴とする請求項1記載のピロメテン金属錯体。
【請求項4】R^(5)とR^(6)がともにフッ素であることを特徴とする請求項2記載のピロメテン金属錯体。
【請求項5】請求項1記載のピロメテン金属錯体を用いたことを特徴とする発光素子材料。
【請求項6】陽極と陰極の間に発光物質が存在し、電気エネルギーにより発光する素子であって、該素子が請求項5記載の発光素子材料を含むことを特徴とする発光素子。
【請求項7】前記発光素子材料がドーパント材料であることを特徴とする請求項6記載の発光素子。」
(イ)「【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかし、従来技術に用いられる発光材料(ホスト材料、ドーパント材料)には、発光効率が低く消費電力が高いものや、化合物の耐久性が低く素子寿命の短いものが多かった。また、フルカラーディスプレイに必要な三原色の内、緑色発光においては高性能の発光材料が見い出されているが、青色や赤色、特に赤色においては十分な特性、とりわけ高輝度、高色純度の両方を満たす発光材料は得られていない。本発明は、かかる従来技術の問題を解決し、発光効率が高く、色純度に優れた発光素子を可能にする新規ピロメテン金属錯体、およびそれを用いた発光素子を提供することを目的とするものである。」
(ウ)「【0014】また、一般式(1)で表される金属錯体の中でも下記一般式(2)のホウ素錯体が蛍光量子収率が高い。
【0015】
【化5】

【0016】ここで、R^(3)?R^(6)は同じでも異なっていてもよく、水素、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、水酸基、メルカプト基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、複素環基、ハロゲン、ハロアルカン、ハロアルケン、ハロアルキン、シアノ基、アルデヒド基、カルボニル基、カルボキシル基、エステル基、カルバモイル基、アミノ基、ニトロ基、シリル基、シロキサニル基、隣接置換基との間に形成される縮合環および脂肪族環の中から選ばれる。Ar^(6)?Ar^(10)はアリール基を表す。これらの置換基については上記一般式(1)の説明と同様である。
【0017】上記一般式(1)のAr^(1)?Ar^(4)のうち少なくとも1つ、上記一般式(2)のAr^(6)?Ar^(9)のうち少なくとも1つが炭素数4以上のアルキル基で置換されていると、薄膜中での分散性が向上し、高輝度発光が得られる。さらに材料の入手しやすさや、合成の容易さを考えると上記一般式(2)のR^(5)およびR^(6)はともにフッ素であることが好ましい。上記のようなピロメテン金属錯体として具体的には以下のような化合物があげられる。」
(エ)「【0018】【化6】?【0027】【化15】
(各化合物の図は省略するが、上記段落に記載された具体的化合物のいずれにおいても、上記一般式(2)のR^(3)及びR^(4)となる部分は、水素又はアリール基である。)」
(オ)「【0036】発光物質とは、1)正孔輸送層/発光層、2)正孔輸送層/発光層/電子輸送層、3)発光層/電子輸送層、4)正孔輸送層/発光層/正孔阻止層、5)正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層、6)発光層/正孔阻止層/電子輸送層そして、7)以上の組合わせ物質を一層に混合した形態のいずれであってもよい。即ち、素子構成としては、上記1)?6)の多層積層構造の他に7)のように発光材料単独または発光材料と正孔輸送材料や正孔阻止層、電子輸送材料を含む層を一層設けるだけでもよい。さらに、本発明における発光物質は自ら発光するもの、その発光を助けるもののいずれにも該当し、発光に関与している化合物、層などを指すものである。」
(カ)「【0038】発光層は発光材料(ホスト材料、ドーパント材料)により形成され、これはホスト材料とドーパント材料との混合物であっても、ホスト材料単独であっても、いずれでもよい。ホスト材料とドーパント材料は、それぞれ一種類であっても、複数の組み合わせであっても、いずれでもよい。ドーパント材料はホスト材料の全体に含まれていても、部分的に含まれていても、いずれであってもよい。ドーパント材料は積層されていても、分散されていても、いずれであってもよい。
【0039】本発明ピロメテン金属錯体は発光材料として好適に用いられる。従来、ピロメテン金属錯体は発光材料、特にドーパント材料として、高輝度発光を示すことは知られており、また、ピロメテン骨格の1,3,5,7位に芳香環等を導入することにより、赤色発光を示すことも知られている。・・(略)・・本発明のピロメテン金属錯体はホスト材料として用いてもよいが、蛍光量子収率が高いことや、発光スペクトルの半値幅が小さいことから、ドーパント材料として好適に用いられる。」
(キ)「【0041】ホスト材料としては特に限定されるものではないが、以前から発光体として知られていたアントラセンやピレンなどの縮合環誘導体、トリス(8-キノリノラト)アルミニウムをはじめとする金属キレート化オキシノイド化合物、ビススチリルアントラセン誘導体やジスチリルベンゼン誘導体などのビススチリル誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、クマリン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピロロピリジン誘導体、ペリノン誘導体、シクロペンタジエン誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾロピリジン誘導体、ピロロピロール誘導体、ポリマー系では、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、そして、ポリチオフェン誘導体などが使用できる。」
(ク)「【0055】ついで、化合物〔1〕を用いた発光素子を次のように作製した。ITO透明導電膜を150nm堆積させたガラス基板(旭硝子(株)製、15Ω/□、電子ビーム蒸着品)を30×40mmに切断、エッチングを行った。得られた基板をアセトン、”セミコクリン56”で各々15分間超音波洗浄してから、超純水で洗浄した。続いてイソプロピルアルコールで15分間超音波洗浄してから熱メタノールに15分間浸漬させて乾燥させた。この基板を素子を作製する直前に1時間UV-オゾン処理し、真空蒸着装置内に設置して、装置内の真空度が5×10^(-5)Pa以下になるまで排気した。抵抗加熱法によって、まず正孔輸送材料として4,4’-ビス(N-(m-トリル)-N-フェニルアミノ)ビフェニルを50nm蒸着した。次にホスト材料として下記に示すHST1、ドーパンド材料として化合物〔1〕を用いて、ドーパント濃度が1wt%になるように15nmの厚さに共蒸着し、ホスト材料を35nmの厚さに積層した。次にリチウムを0.5nm、銀を150nm蒸着して陰極とし、5×5mm角の素子を作製した。ここで言う膜厚は水晶発振式膜厚モニター表示値である。この発光素子からの発光スペクトルは、ピーク波長が618nm、発光効率は4.2cd/Aの赤色発光が得られた。」
(ケ)「【0089】
【発明の効果】本発明は、発光素子等に利用可能な高蛍光性のピロメテン金属錯体を提供できる。また、本発明のピロメテン金属錯体を用いることにより、電気エネルギーの利用効率が高く、高輝度かつ高色純度の発光素子を提供できるものである。」

(コ)上記(ア)?(ケ)から、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

「ピロメテン金属錯体を用いた発光素子材料を含む、赤色発光を示す発光素子であって、
前記ピロメテン金属錯体は、一般式(2)で示され、

(R^(3)及びR^(4)は水素又はアリール基であり、R^(5)およびR^(6)はともにフッ素であり、Ar^(6)?Ar^(10)はアリール基を表す)
発光素子は、陽極と陰極の間に発光物質が存在し、電気エネルギーにより発光する素子であり、
前記発光物質は、発光層を含む形態であり、
前記発光層は、発光材料(ホスト材料、ドーパント材料)により形成されるホスト材料とドーパント材料との混合物であって、
前記ピロメテン金属錯体は、ドーパント材料として用いられ、
前記ホスト材料としては、特定の材料に限定されないが、縮合環誘導体が使用できる、
発光素子。」

イ 原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先権主張の日の前に頒布された刊行物である特開2003-338377号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。

(ア)「【請求項1】陽極側より、それぞれ少なくとも1層の発光層、電子輸送層、および電子注入層が順次積層された構造を持つ有機EL素子において、
前記電子輸送層がナフタセン誘導体および/またはアントラセン誘導体を含有する有機EL素子。」
(イ)「【請求項16】 発光層がホスト材料とドーパント材料とを含有し、ホスト材料がナフタセン誘導体を含有する請求項1?15のいずれかの有機EL素子。
【請求項17】 発光層が含有するナフタセン誘導体が下記式(2)で表される請求項16の有機EL素子。
【化4】

[式(2)中、Q^(10)、Q^(20)、Q^(30)、Q^(40)、Q^(50)、Q^(60)、Q^(70)、Q^(80)、Q^(110)、Q^(120)、Q^(130)およびQ^(140)は、それぞれ水素、アルキル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリーロキシ基、アリールチオ基、アルケニル基、アラルキル基または複素環基を表し、これらは同一でも異なるものであってもよい。] 」
(ウ)「【0016】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、高効率で耐久性に優れ、かつ高色純度の有機EL素子を提供することである。」
(エ)「【0086】本発明に用いるナフタセン誘導体としては下記式(2)で表されるものが好ましい。
【0087】
【化38】

【0088】式(2)中、Q^(10)、Q^(20)、Q^(30)、Q^(40)、Q^(50)、Q^(60)、Q^(70)、Q^(80)、Q^(110)、Q^(120)、Q^(130)およびQ^(140)は、それぞれ水素、アルキル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリーロキシ基、アリールチオ基、アルケニル基、アラルキル基または複素環基を表し、これらは同一でも異なるものであってもよい。
【0089】式(2)中、Q^(10),Q^(20),Q^(30)およびQ^(40)(まとめてQ^(10)?Q^(40)と表す。)は水素、またはアルキル基、アリール基、アミノ基、複素環基およびアルケニル基のいずれかであることが好ましい。また、より好ましくはアリール基である。また、特に、Q^(10),Q^(40)が水素かつQ^(20),Q^(30)が上記置換基であるものも好ましい。
【0090】また、Q^(10)とQ^(40)、Q^(20)とQ^(30)はそれぞれ同じものであることが好ましいが異なっていてもよい。
【0091】Q^(50),Q^(60),Q^(70)およびQ^(80)(まとめてQ^(50)?Q^(80)と表す。)は、水素、アルキル基、アリール基、アミノ基、アルケニル基および複素環基のいずれかが好ましく、特に好ましくは水素またはアリール基である。また、Q^(50)とQ^(60)、Q^(70)とQ^(80)は、それぞれ同じものであることが好ましいが、異なっていても良い。また、Q^(110)、Q^(120)、Q^(130)およびQ^(140)(まとめてQ^(110)?Q^(140)と表す。)は水素が好ましい。」
(オ)「【0427】本発明において、電子輸送層に接して設けられる発光層は、ホスト材料とドーパント材料とを含有するものであることが好ましい。
【0428】この場合のホスト材料としては、ナフタセン誘導体、アントラセン誘導体、テトラアリールジアミン誘導体、キノキサリン誘導体、金属錯体化合物などがあるが、アントラセン誘導体、ナフタセン誘導体を用いることが好ましく、ナフタセン誘導体は特に好ましい。
【0429】ナフタセン誘導体としては、電子輸送層用のものと同様のものを用いることができ、好ましいものも同様であり、特に好ましくは式(2)(さらには、式(2a)、(2b)、特には式(2a))で表されるナフタセン誘導体である。」
(カ)「【0435】一方、ドーパント材料としては、それ自体で発光し、かつホスト材料中で電子をトラップすることが可能な材料であればいずれであってもよいが、フルオランテン誘導体を用いることが好ましい。」
(キ)「【0530】また、ナフタセン誘導体は非常に安定であり、キャリアの注入に対する耐久性が高いため、ナフタセン誘導体をホスト材料とし、フルオランテン誘導体をドーパント材料とした組み合わせの素子は非常に長寿命である。」
(ク)「【0554】実施例1
ITO透明電極付きガラス基板を、中性洗剤、アセトン、エタノールを用いて超音波洗浄し、煮沸エタノール中から引き上げて乾燥した。透明電極表面をUV/O_(3)洗浄した後、真空蒸着装置の基板ホルダーに固定して、槽内を1×10^(-4)Pa以下まで減圧した。次いで、減圧状態を保ったまま、ホール注入層としてN,N’-ジフェニル-N,N’-ビス[N-(4-メチルフェニル)-N一フェニル-(4-アミノフェニル)]-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミンを蒸着速度0.1nm/secで60nmの膜厚に蒸着した。次いで、ホール輸送層としてN,N,N’,N’-テトラキス(m-ビフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミンを蒸着通度0.1nm/secで10nmの厚さに蒸着した。
【0555】さらに、減圧を保ったまま、ホスト材料となる化合物I(Naph)とドーパント材料となる化合物II(インデノペリレン)を、質量比を99:1で、全体の蒸着速度0.15?0.20nm/secとして40nmの厚さに蒸着し、発光層とした。
【0556】次いで、減圧状態を保ったまま化合物I(Naph)を蒸着速度0.1nm/secとして25nmの厚さに蒸着し電子輸送層とした。
【0557】さらに、減圧状態を保ったまま、化合物III(B-phen)を蒸着速度0.1nm/secで5nmの厚さに蒸著し、電子注入層とした。
【0558】次いで、LiFを蒸着速度0.01nm/secで0.3nmの厚さに蒸着し、電子注入電極とし、保護電極としてAlを150nmの厚さに蒸着し有機EL素子を得た。
【0559】この有機EL素子に直流電圧を印加し、初期には10mA/c^(2)の電流密度で、駆動電圧が3.9Vで、660cd/m^(2)の発光が確認できた。このときの発光極大波長λmax=610nm、色度座標は(x,y)=(0.66,0.34)であった。この時の効率は5.3 lm/Wであった。
【0560】また、この素子に50mA/cm^(2)の一定電流を流し、連続発光させたところ、初期輝度3100cd/m^(2)で、2000時間経過時の輝度減衰は15%であった。」
(上記発光極大波長及び色度座標から、実施例1に記載された有機EL素子は赤色発光が生じており、2000時間経過時の輝度減衰は15%であることから、輝度半減期が十分2000時間を超えることが見て取れる。)

ウ 原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先権主張の日の前に頒布された刊行物である特開2002-8867号公報(以下「引用文献3」という。)には、次の事項が記載されている。

(ア)「【請求項1】一対の電極間に少なくとも発光機能に関与する1種または2種以上の有機層を有し、
前記有機層の少なくとも1層には下記式(I)?(IV)で表される基本骨格を有する有機物質から選択される1種又は2種以上と、下記式(V)で表される骨格を有する有機物質の1種又は2種以上とを同時に含有する有機EL素子。
【化1】

[式(I)中、Q^(1)?Q^(8)は、それぞれ水素もしくは置換または非置換のアルキル基、アリール基、アミノ基、複素環基またはアルケニル基を表す。]
【化2】

[式(II)中、R_(1)、R_(2)、R_(3)およびR_(4)は、それぞれアリール基、フルオレン基、カルバゾリル基、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミノ基またはハロゲン原子を表し、R_(1)、R_(2)、R_(3)およびR_(4)のうちの少なくとも1つはアリール基である。r1、r2、r3およびr4は、それぞれ0または1?5の整数であり、r1、r2、r3およびr4が同時に0になることはない。R_(5)およびR_(6)は、それぞれアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、アリール基またはハロゲン原子を表し、これらは同一でも異なるものであってもよい。r5およびr6は、それぞれ0または1?4の整数である。]
【化3】

[式(III)中、A_(101)は、モノフェニルアントリル基またはジフェニルアントリル基を表し、これらは同一でも異なるものであってもよい。Lは水素もしくは単結合またはn価の連結基を表す。nは1?4の整数である。]
Qn-L_(101) (IV)
[式(IV)中、Qは窒素原子を0?2個含む六員芳香環が縮合したピラジニル基を表し、nは2または3であり、Qは各々同一でも異なるものであってもよい。L_(101)は単結合またはn価の基を表す。nは1または2の整数である。]
【化4】

[上記式(V)中、・・(置換基の詳細略)・・]
【請求項2】前記有機層の少なくとも1層にはホスト物質と、ドーパントとを含有し、
前記ホスト物質は、式(I)?(IV)で表される基本骨格を有する有機物質から選択される1種又は2種以上であり、
前記ドーパントは、式(V)で表される骨格を有する有機物質から選択される1種又は2種以上である請求項1の有機EL素子。」
(イ)「【0010】また、ドーピング法により有機EL素子を作成した場合、励起状態のホスト分子からドーパントヘのエネルギー移動は100%ではなく多くの場合ドーバントと共にホスト材料自体も発光してしまう。特に、赤色素子の場合ドーパントよりもホスト材料の方が視感度の高い波長領域で発光するため、ホスト自体のわずかな発光のために色純度を悪化させてしまう場合が多い。さらに、発光寿命、耐久性の面でも実用に向けて更なる特性の向上も必要とされている。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、十分な輝度の発光、特に長波長における発光が得られ、優れた色純度、特にフルカラーディスプレイに用いるのに十分な色純度が得られ、かつ良好な発光性能が長期にわたって持続する耐久性に優れた有機EL素子を提供することである。」
(ウ)「【0026】<ナフタセン系化合物>本発明の好ましいホスト材料となる化合物の一つは、下記式(I)で表される基本骨格を有する。
【0027】
【化13】

【0028】本発明の素子ではナフタセン誘導体を好ましくはホスト材料として用いることにより、ドーパントからの強い発光を得ることが出来る。
【0029】ナフタセン誘導体は上記有機材料群のなかでも特にホスト材料として好ましい有機材料である。例えば、後述の実施例1のホスト材料であるナフタセン誘導体に、実施例1のドーパントであるジベンゾ〔f,f’〕ジインデノ〔1,2,3-cd:1’,2’,3’-lm〕ペリレン誘導体を1質量%ドープした膜の光励起による蛍光強度を測定すると、他の有機物質(例えばAlq3)をホストとした場合に比べて約2倍の蛍光強度が得られる。
【0030】このような強い蛍光が得られる理由としては、ナフタセン誘導体と前記ドーパント物質はエキサイプレックスの生成等の相互作用が生じることのない理想的な組み合わせあり、さらには両分子間での双極子相互作用により蛍光強度が高く維持されていることが考えられる。
【0031】また、ドーパントが赤色である場合にはエネルギーギャップが比較的ドーバントのそれと近いため、電子交換によるエネルギー移動に加えて発光再吸収によるエネルギー移動現象も生じており、このような高い蛍光輝度が得られると考えられる。
【0032】さらに、上記ホスト物質との組み合わせにより、ドーパントの濃度消光性は非常に小さく抑えることができることもこのような強い蛍光強度に寄与している。
【0033】また、上記ドープ膜を発光層とした有機EL素子を作成すると、10mA/cm^(2)の電流密度において、最大で600cd/m^(2)以上の輝度が得られ、このときの駆動電圧は6V程度と低電圧である。さらに、600mA/cm^(2)程度の電流密度では20000cd/m^(2)以上の輝度が安定して得られる。これは、他の有機物質(例えばAlq3)をホストとした場合に比べて、電流効率にして約4倍の発光効率であり、さらに低い電圧で駆動できるため、電力効率では約5倍の効率である。さらに、上記の例のような赤色ドーパントをドープした場合には、ホストからドーパントへのエネルギー移動効率が良好なため、ホストからの発光は殆ど見られず、ドーパントのみが発光した高い色純度を有する素子が得られる。」
(エ)「【0036】また、ナフタセン誘導体は非常に安定であり、キャリアの注入に対する耐久性が高いため、前記ホストとドーパントの組み合わせで作成した素子は非常に長寿命である。例えば、式(VII')で表される化合物に、実施例1のジベンゾ〔f,f’〕ジインデノ〔1,2,3-cd:1’,2’,3’-lm〕ペリレン誘導体を1質量%ドープした発光層を有する素子では、50mA/cm^(2)で駆動した際には、2400cd/m^(2)以上の輝度が、1%程度以下の減衰のみで1000時間以上持続するような高耐久性の素子を得ることもできる。」
(オ)「【0038】式(I)中、Q^(1)?Q^(4)はそれぞれ水素、あるいは非置換、または置換基を有するアルキル基、アリール基、アミノ基、複素環基およびアルケニル基のいずれかを表す。また、好ましくはアリール基、アミノ基、複素環基およびアルケニル基のいずれかである。また、Q^(1),Q^(4)が水素かつQ^(2),Q^(3)が上記置換基であるものも好ましい。」

(3)対比
ア 引用発明1の「陽極と陰極の間に発光物質が存在し、電気エネルギーにより発光する素子であり、前記発光物質は、発光層を含む形態であり」は、本願補正発明の、「陽極と陰極との間に少なくとも発光層が存在し、電気エネルギーにより発光する」に相当する。
イ 引用発明1の「『前記ピロメテン金属錯体は、一般式(2)で示され、

(R^(3)及びR^(4)は水素又はアリール基であり、R^(5)およびR^(6)はともにフッ素であり、Ar^(6)?Ar^(10)はアリール基を表す)』及び『前記ピロメテン金属錯体は、ドーパント材料として用いられ』」は、本願補正発明の「ドーパントとして一般式(3)で表されるピロメテン骨格を有するホウ素錯体
【化1】

ここで、R^(20)?R^(26)はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素、アルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロアリール基ならびに隣接置換基との間に形成される環構造の中から選ばれる;R^(27)およびR^(28)はフッ素原子である;Xは炭素原子または窒素原子であるが、窒素原子の場合には上記R^(26)は存在しない」に相当する。

ウ したがって、本願補正発明と引用発明1とは、
「陽極と陰極との間に少なくとも発光層が存在し、電気エネルギーにより発光する素子であって、該発光層は少なくとも、ドーパントとして一般式(3)で表されるピロメテン骨格を有するホウ素錯体、およびホストを含有する発光素子;

ここで、R^(20)?R^(26)はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素、アルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロアリール基ならびに隣接置換基との間に形成される環構造の中から選ばれる;R^(27)およびR^(28)はフッ素原子である;Xは炭素原子または窒素原子であるが、窒素原子の場合には上記R^(26)は存在しない;」
である点で一致し、次の点で相違している。

相違点:
本願補正発明が、ホストとして「一般式(2)で表されるナフタセン誘導体
【化2】

ここで、R^(8)?R^(19)はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素、アリール基の中から選ばれる。」
を含有するのに対し、引用発明1では、ホストを有するが、特定の材料に限定されるものではなく、縮合環誘導体が使用できるものの上記一般式(2)で表されるナフタセン誘導体に特定されていない点。

(4)判断
上記相違点について検討する。

ア 引用文献2には、発光層がホスト材料とドーパント材料とを含有する有機EL素子において、ナフタセン誘導体は非常に安定であり、キャリアの注入に対する耐久性が高いため、ナフタセン誘導体をホスト材料とした素子は長寿命であることが記載されており、赤色発光を生じる素子においても、輝度半減期2000時間を超える長寿命を達成することが、記載されている。(以下「引用文献2の技術事項」という。)

イ また、引用文献3においても、ホスト物質とドーパントとを含有する有機EL素子において、ナフタセン誘導体は特にホスト材料として好ましい有機材料であり、ドーパントが赤色である場合には、高い蛍光輝度及び高い色純度を有する素子を得られること、また、ナフタセン誘導体は非常に安定であり、キャリアの注入に対する耐久性が高いため、前記ホストとドーパントの組み合わせで作成した素子は非常に長寿命であること、が記載されている。(以下「引用文献3の技術事項」という。)

ウ 引用文献2及び引用文献3には、ナフタセン誘導体の、本願補正発明の一般式(2)のR^(8)?R^(19)は部分が、それぞれ水素またはアリール基を選択できることが記載されている。(引用文献2の記載事項(エ)、引用文献3の記載事項(オ))

エ 引用発明1は赤色発光を示す発光素子であり、引用文献1の記載事項(イ)から、発光効率が高く、色純度に優れた発光素子を可能にすることを目的としている。また、前記記載事項(イ)から、素子寿命の向上が発光素子としての従来からの課題であることも、明らかである。

オ したがって、引用発明1において、引用発明1と同様に赤色発光素子である引用発明2及び3に記載の技術事項を適用して、ホストとしてナフタセン誘導体を採用し、本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

カ そして、本願補正発明が奏する効果は、引用文献1?3に記載された効果と比べ格別な点は見いだせず、当業者が予測し得た程度のものである。

(5)まとめ
したがって、本願補正発明は、引用発明1、引用文献2及び3の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


4 本件補正の適否についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。



第3 本願発明について

1 本願発明
本件補正は前記のとおり却下されたので、本願の請求項1?4に係る発明は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1?4に記載されたとおりのものであり、そのうち請求項3に係る発明(以下「本願発明」という。)は,前記第2〔理由〕1(1)に本件補正前の請求項3として示したとおりのものである。

2 引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1?3の記載事項は、上記第2〔理由〕3(2)ア?ウに記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、上記第2〔理由〕1及び2で検討した本願補正発明から、ドーパント及びホストである化合物の構造に係る限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、より限定したものである本願補正発明が、上記第2〔理由〕3において検討したとおり、引用発明1、引用文献2及び3の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明1、引用文献2及び3の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1、引用文献2及び3の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。


よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-05-01 
結審通知日 2015-05-12 
審決日 2015-06-01 
出願番号 特願2007-557674(P2007-557674)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H05B)
P 1 8・ 121- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 濱野 隆  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 大瀧 真理
鉄 豊郎
発明の名称 発光素子  

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