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審決分類 審判 査定不服 4項3号特許請求の範囲における誤記の訂正 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1303536
審判番号 不服2014-8920  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-05-14 
確定日 2015-07-22 
事件の表示 特願2008-538908「微細構造光ファイバとその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 5月18日国際公開、WO2007/055881、平成21年 4月 9日国内公表、特表2009-515217〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、2006年(平成18年)10月19日(パリ条約による優先権主張外国庁受理、2005年(平成17年)11月8日・米国、2006年(平成18年)4月5日・米国、2006年(平成18年)9月20日・米国)を国際出願日とする出願であって、平成25年3月5日付けの拒絶理由の通知に対し、同年9月12日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、平成26年1月16日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年5月14日付けで審判請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。

2 本願発明
(1)平成26年5月14日付けの手続補正は、その補正前の請求項1である、
「微細構造光ファイバであって、
第一屈折率を具備するコア領域および前記ファイバを通して伝送される光が前記コア内に保持されるように前記コア領域の屈折率よりも低い第二屈折率を具備するクラッド領域を包含し、
前記クラッドは前記クラッド内において前記ファイバの長さに沿った長手方向の断面を見た場合に、非周期的に配置された複数個のボイドから成る少なくとも1つの領域を包含し、前記ボイドの各々は前記ファイバの長さに沿って伸長した長手形状を有しているが前記ファイバの全長に亘っては伸びておらず、前記ファイバの長さに沿った異地点での断面は不規則に配向された異なるボイドパターン及び不規則に配向された異なるボイドサイズを呈し、95%を超える前記ボイドが1550nm以下の最大直径を具備しており、前記ファイバは600nmから1550nmの間少なくとも1つの波長において500dB/km未満の減衰を示すことを特徴とする微細構造光ファイバ。」
を、
「微細構造光ファイバであって、
第一屈折率を具備するコア領域および前記ファイバを通して伝送される光が前記コア内に保持されるように前記コア領域の屈折率よりも低い第二屈折率を具備するクラッド領域を包含し、
前記クラッドは前記クラッド内において前記ファイバの長さに沿った長手方向の断面を見た場合に、非周期的に配置された複数個のボイドから成る少なくとも1つの領域を包含し、前記ボイドの各々は前記ファイバの長さに沿って伸長した長手形状を有しているが前記ファイバの全長に亘っては伸びておらず、前記ファイバの長さに沿った異地点での断面は不規則に配向された異なるボイドパターン及び不規則に配向された異なるボイドサイズを呈し、前記ボイドのうち95%を超えるボイドは1550nm以下の最大直径を具備しており、前記ファイバは600nmから1550nmの間の少なくとも1つの波長において500dB/km未満の減衰を示すことを特徴とする微細構造光ファイバ。」(下線は請求人が付与した補正箇所である。)
へと補正する事項を含むものである。
そして、上記補正事項は、「95%を超える前記ボイドが1550nm以下の最大直径を具備しており」を「前記ボイドのうち95%を超えるボイドは1550nm以下の最大直径を具備しており」とする補正事項(以下「第1補正事項」という。)と、「600nmから1550nmの間少なくとも1つの波長において」を「600nmから1550nmの間の少なくとも1つの波長において」とする補正事項(以下「第2補正事項」という。)とからなるものである。

(2)第1補正事項は、補正前の「95%を超える前記ボイド」との記載では、分母に当たるものを何とみて「95%を超える」としているのかが必ずしも明りょうではないことから、その点を明らかにするためのものであると解され、よって、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、第2補正事項は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第3号の誤記の訂正を目的とするものであることが明らかである。
したがって、第1補正事項及び第2補正事項に係る補正は適法である。

(3)上記(2)によれば、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成26年5月14日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものと認められる。

3 引用例
(1)引用例1
ア 原査定の拒絶の理由で引用された、本願の最先の優先日前に頒布された刊行物である、特開2004-20836号公報(以下「引用例1」という。)には、図とともに、次の記載がある(下線は当審が引いた。以下同じ。)。
(ア)「特許請求の範囲】」、
「コア領域の周囲にクラッド層を備えた光ファイバにおいて、上記クラッド層内に気泡の集合体領域を形成したことを特徴とする光ファイバ。」(請求項1)、
「上記気泡の集合体領域を、コア領域と同心円の層状に形成したことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ。」(請求項2)、
「上記クラッド層が、内部クラッドと、内部クラッドの周囲に設けられた外部クラッドとからなり、その内部クラッドに上記気泡の集合体領域を形成したことを特徴とする請求項1又は2に記載の光ファイバ。」(請求項3)、
「上記気泡を、直径4μm以下に形成したことを特徴とする請求項1から3いずれかに記載の光ファイバ。」(請求項4)、
「上記気泡の分布密度を径方向に変化させて、上記気泡の集合体領域の等価屈折率に径方向の分布を持たせたことを特徴とする請求項1から4いずれかに記載の光ファイバ。」(請求項5)、
「上記気泡の直径を径方向に変化させて、上記気泡の集合体領域の等価屈折率に径方向の分布を持たせたことを特徴とする請求項1から5いずれかに記載の光ファイバ。」(請求項6)、
「コア領域の周囲にクラッド層を形成する光ファイバの製造方法において、コア領域となるコアガラス母材の周囲にガラススート層を形成し、ガラス中での拡散係数がヘリウムよりも小さい不活性ガスを含むガス雰囲気中で上記ガラススート層を加熱してガラス化し、不活性ガスの気泡を有するガラス層を形成することを特徴とする光ファイバの製造方法。」(請求項7)、
「上記ガス雰囲気を、ガラス中での拡散係数がヘリウムよりも小さい不活性ガスのみで形成したことを特徴とする請求項7に記載の光ファイバの製造方法。」(請求項8)
「上記ガス雰囲気を、ヘリウムガスとガラス中での拡散係数がヘリウムよりも小さい不活性ガスとの混合ガスで形成したことを特徴とする請求項7に記載の光ファイバの製造方法。」(請求項9)、
「上記ガラス中での拡散係数がヘリウムよりも小さい不活性ガスが、窒素ガス又はアルゴンガスであることを特徴とする請求項7から9いずれかに記載の光ファイバの製造方法。」(請求項10)
(イ)「発明の属する技術分野」、
「本発明は、光通信分野において用いられる光ファイバのうち、さらなる大容量な通信を可能とする光ファイバ及びその製造方法に関するものである。」(段落【0001】)
(ウ)「従来の技術」
「これまでに提案されているフォトニッククリスタル光ファイバは、例えば、ホーリーファイバ(HF:Holey Fiber)のように、クラッドにファイバの長手方向に途切れることなく連続する空孔を設けてその領域の実効屈折率を下げる方法で実現している。尚、このホーリーファイバはクラッド中の空孔のデザインよって超広帯域単一モード伝送領域、大きな実効コア断面積、高屈折率差(High-△)、大きな構造分散など通常の光ファイバでは達成できない特性を実現可能である。」(段落【0004】)、
「このようなフォトニッククリスタル光ファイバは、例えば図3に示すように、外径約500μmの細径石英棒aと、内径約300μm程度の細径石英管bを長さそれぞれ300mm前後に切断し、その細径石英棒aの周囲を数百本の細径石英管b,b…で囲むように束ね、その束cを内径10?15mm、外径25mm程度の石英ジャケット管d内に挿入して、プリフォームeを形成した後、このプリフォームeを通常の光ファイバ線引工程によってこれら細径石英棒a及び細径石英管b,b…の束cと石英ジャケット管dを融着一体化させながら、所定のファイバ径である100?150μmに線引きして得られるようになっている。」(段落【0005】)、
「そして、このようなフォトニッククリスタル光ファイバにあっては、図3に示すように、上記細径石英棒aからなる軸心部分が光を伝播させるコア領域となると共に、その周囲の細径石英管b,b…からなる部分が多数の空孔を有する内部クラッド層となり、さらにその周囲の石英ジャケット管5からなる中実の部分が外部クラッド層となり、コア領域を伝播する光波の殆どを内部クラッド層で反射させてコア領域内に閉じ込めることで効率的に光波を伝播させるようにしたものである。」(段落【0006】)
(エ)「発明が解決しようとする課題」、
「ところで、このようにして得られる従来のフォトニッククリスタル光ファイバにあっては、細径石英棒aと細径石英管b,b…とを融着一体化させるときに石英管b径の差による融着残留応力がガラス内に残り、コア領域に異方応力を与え、PMD(偏波モード分散)特性等を悪化させ、内部クラッド層の繊細な屈折率分布制御が困難であるといった問題点がある。」(段落【0007】)、
「そこで、本発明はこのような課題を有効に解決するために案出されたものであり、その目的は、融着残留応力によるコア領域への異方応力の集中がなく、優れたPMD特性を有する新規な光ファイバ及びその製造方法を提供するものである。」(段落【0008】)
(オ)「課題を解決するための手段」、
「上記課題を解決するために本発明は、請求項1に示すように、コア領域の周囲にクラッド層を備えた光ファイバにおいて、上記クラッド層内に気泡の集合体領域を形成したものである。具体的には、請求項2に示すように、上記気泡の集合体領域を、コア領域と同心円の層状に形成し、請求項3に示すように、上記クラッド層を、内部クラッドと、内部クラッドの周囲に設けられた外部クラッドとで構成し、その内部クラッドに上記気泡の集合体領域を形成している。」(段落【0009】)、
「これによって従来のファイバのように、融着残留応力によるコア領域への異方応力の集中がなくなるため、優れたPMD特性を発揮し、内部クラッド層の繊細な屈折率分布制御を容易に達成できる。」(段落【0010】)、
「また、請求項4に示すように、上記気泡を、直径4μm以下に形成にすれば、上記の作用効果を顕著に発揮することができる。」(段落【0011】)、
「さらに、請求項5に示すように、上記気泡の分布密度を径方向に変化させて、上記気泡の集合体領域の等価屈折率に径方向の分布を持たせたり、請求項6に示すように、上記気泡の直径を径方向に変化させて、上記気泡の集合体領域の等価屈折率に径方向の分布を持たせれば、構造分散を制御し、大きな正分散ファイバ、及び負分散・負分散スロープを持つファイバーが得られる。」(段落【0012】)、
「一方、本発明は、請求項7に示すように、コア領域の周囲にクラッド層を形成する光ファイバの製造方法において、コア領域となるコアガラス母材の周囲にガラススート層を形成し、ガラス中での拡散係数がヘリウムよりも小さい不活性ガスを含むガス雰囲気中で上記ガラススート層を加熱してガラス化し、不活性ガスの気泡を有するガラス層を形成するものである。」(段落【0013】)、
「これによって、上述した本発明の光ファイバを得ることができる。」(段落【0014】)、
「具体的には、請求項8に示すように、上記ガス雰囲気を、ガラス中での拡散係数がヘリウムよりも小さい不活性ガスのみで形成したり、請求項9に示すように、上記ガス雰囲気を、ヘリウムガスとガラス中での拡散係数がヘリウムよりも小さい不活性ガスとの混合ガスで形成すれば、上記作用効果を顕著に発揮することができる。また、請求項10に示すように、上記ガラス中での拡散係数がヘリウムよりも小さい不活性ガスとしては、窒素ガス又はアルゴンガスが好ましい。」(段落【0015】)
(カ)「発明の実施の形態」、
「次に、本発明を実施する好適一形態を添付図面を参照しながら説明する。」(段落【0016】)、
「図1は、本発明に係る光ファイバ1の実施の一形態を示したものである。」(段落【0017】)、
「図示するように、この光ファイバ1は、軸心部に位置するコア領域2の周囲に、内部クラッド層3を有すると共に、その内部クラッド層3の周囲に外径が125μm程度の外部クラッド層4を一体的に備えたものである。」(段落【0018】)、
「内部クラッド層3には、直径が4μm以下の独立した気泡5が多数密に集合した領域が形成されており、上記コア領域2の周囲を囲繞するように層状に存在している。」(段落【0019】)、
「そして、このような構造をした本発明の光ファイバ1にあっては、従来のフォトニッククリスタル光ファイバのように細径石英棒aと細径石英管b,b…とを融着一体化させてなるものとは異なり、細径石英管bの融着残留応力によるコア領域への異方応力の集中がなくなるため、優れたPMD特性が発揮され、内部クラッド層3の繊細な屈折率分布制御を容易に達成できる。」(段落【0020】)、
「すなわち、この光ファイバ1は、プリフォームの製造工程中の内部クラッド層3の焼結工程において、焼結ガス(雰囲気ガス)に拡散係数の小さい不活性ガス、例えば窒素ガスやアルゴンガスを使用して焼結させたガラス層内に焼結ガスを残留させ、コア領域の周囲に気泡質層を形成した後、このプリフォームを外径125μm程度まで線引きすることで得られるようになっている。このため、従来のような融着残留応力が発生することはなく、コア領域への異方応力の集中といった事態を招くことがない。尚、この気泡5は、プリフォームの製造工程中においては略球形状であるが、その後の線引きにより、その長手方向に延びた長孔状になる。また、コア領域2と内部クラッド層3との等価比屈折率差を1%とすることにより、分散値の絶対値が大きいファイバを得ることができる。」(段落【0021】)、
「ここで、コア領域2の直径は特に限定しないが、シングルモード伝送を行うには2?10μmの大きさに設定される。また、内部クラッド層3の層厚は、得ようとする光ファイバの屈折率プロファイル、分散特性などに応じて、その最適厚さが変化するが、概ね5?30μmの範囲で設定される。さらに、気泡5の直径は、内部クラッド層3の層厚以下であることが絶対条件であるが、内部クラッド層3内に気泡密度の分布を形成することも考慮すると、4μm以下、好ましくは1?3μmとすることが望ましい。尚、本発明に係る光ファイバ1は、これらの寸法条件に何ら限定されるものではない。」(段落【0022】)、
「図2は、本発明の他の実施の形態を示したものであり、内部クラッド層3を構成する気泡5の密度をその径方向に変化させて屈折率差分布を制御したものである。すなわち、内部クラッド層3をコア領域2を中心として同心円上に3層の領域に分け、内部クラッド層3側の領域に気泡5を高密度に存在させ(高密度領域)、その外側の領域を低密度にし(低密度領域)、さらにその外側の領域をそれよりも高密度(中密度領域)にしたものである。これによって、図示するように内部クラッド層3内に多段階の、等価比屈折率差Δnを生じさせることができ、構造分散を制御し、大きな正分散ファイバ、及び負分散・負分散スロープを持つファイバーが得られる。また、上記内部クラッド層内の気泡の分布密度を径方向に変化させたり、内部クラッド層3を構成する気泡5の外径を径方向に変化させても、同様に等価屈折率に分布をもたせることが可能となる。」(段落【0023】(当審注:冒頭の「図3」は「図2」の誤記であると認められるので、訂正した上で摘記した。))、
「ここで、気泡の外径は、次の二つの方法で制御することができる。
一つは、コア母材の周囲に堆積する石英ガラススート層の嵩密度を変化させる方法である。加熱(焼結)によりスートをガラス化する際、スートの嵩密度が高いほどガスが逃げる隙間が小さいため、大きな気泡が残存する割合が高くなり、スートの嵩密度が低いほど小さな気泡が残存する割合が高くなる。」(段落【0024】)、
「他方は、焼結する際の炉内ガス雰囲気中のヘリウムガスと不活性ガスの割合を変える方法である。ヘリウムガスの割合が高いほど気泡は小さくなり易く、ヘリウムガスの割合が低いほど気泡は大きくなり易い。」(段落【0025】)、
「なお、気泡が大きいほど気泡の密度は高くなり、気泡が小さいほど気泡の密度は低くなる傾向にある。よって、石英ガラススート層の嵩密度と、焼結する際の炉内ガス雰囲気中のヘリウムガスと不活性ガスとの割合を調整することにより、気泡の直径及び気泡の密度の双方を制御することができる。」(段落【0026】)、
「また、気泡の大きさ及び形成位置を制御して、気泡の間隔を、伝搬させる信号光の波長の二分の一に調整すれば、本発明の光ファイバにおいても、フオトニックバンドギャップ構造を実現できる。」(段落【0027】)、
「なお、上述した実施の形態においては、コア領域を石英ガラスで構成した場合ついて説明を行ったが、これに限定するものではなく、純粋石英ガラス、屈折率を高めるための周知の不純物(例えばGe、Tiなど)を添加した石英ガラス、又はEr等の希土類元素を添加した石英ガラスのいずれも適用可能である。」(段落【0028】)、
「また、コア領域は中空であってもよく、この場合、上記したコア母材である細径石英捧aに代えて、中空の石英管を用いて製造を行えばよい。なお、この石英管にも、純粋石英ガラス、屈折率を高めるための周知の不純物(例えばGe、Tiなど)を添加した石英ガラス、又はEr等の希土類元素を添加した石英ガラスのいずれも適用可能である。」(段落【0029】)
(キ)図1?3は次のとおりである。

(ク)上記(カ)の段落【0024】及び段落【0028】の記載を踏まえて、上記(ア)の請求項7の記載をみると、請求項7の「コアガラス」及び「ガラススート層」の「ガラス」に、石英ガラスが含まれることが明らかである。
(ケ)上記(ウ)の段落【0004】?【0006】及び上記(エ)の段落【0007】には、「従来のフォトニッククリスタル光ファイバ」に関し、
a ホーリーファイバのように、クラッドにファイバの長手方向に途切れることなく連続する空孔を設けてその領域の実効屈折率を下げる方法で実現していること(段落【0004】)、
b コア領域を伝播する光波の殆どを内部クラッド層で反射させてコア領域内に閉じ込めることで効率的に光波を伝播させていること(段落【0006】)、
c コア領域に異方応力が与えられ、PMD(偏波モード分散)特性等が悪化し、内部クラッド層の繊細な屈折率分布制御が困難であるとの問題点があったこと(段落【0007】)、
が記載されていると認められる。
ここで、上記a及びbによれば、引用例1記載の「従来のフォトニッククリスタル光ファイバ」では、内部クラッド層の屈折率が、ファイバを通じて伝送される光がコア内に保持されるようにコア領域の屈折率よりも低いものと解される。
そして、引用例1は、上記c記載の「従来のフォトニッククリスタル光ファイバ」の課題を解決するために、上記(ア)の請求項1?6の光ファイバ及び請求項7?10の光ファイバの製造方法に係る発明を開示するものであるところ、これらの光ファイバに関し、気泡の集合体領域の「等価屈折率」との文言が使用されていること(上記(ア)の請求項5・6、上記(カ)の段落【0023】)やその製造方法の内容(上記(ア)の請求項7)にも照らせば、当業者であれば、引用例1の各請求項記載の光ファイバとして、「従来のフォトニッククリスタル光ファイバ」と同様に、そのコア領域が第一屈折率を具備するとともに、その内部クラッドがファイバを通じて伝送される光がコア内に保持されるようにコア領域の屈折率よりも低い第二屈折率を具備する態様が含まれることを把握できると認められる。

イ 上記アの各事項によれば、引用例1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「コア領域の周囲に、内部クラッドと内部クラッドの周囲に設けられた外部クラッドとからなるクラッド層を備えた光ファイバにおいて、
内部クラッドに気泡の集合体領域を形成しており、
そのコア領域が第一屈折率を具備するとともに、その内部クラッドがファイバを通じて伝送される光がコア内に保持されるようにコア領域の屈折率よりも低い第二屈折率を具備しており、
上記気泡を、直径4μm以下、好ましくは1?3μmに形成しており、
上記気泡の分布密度を径方向に変化させて、上記気泡の集合体領域の等価屈折率に径方向の分布を持たせた光ファイバであって、
コア領域となるコア石英ガラス母材の周囲に石英ガラススート層を形成し、ガラス中での拡散係数がヘリウムよりも小さい不活性ガスを含むガス雰囲気中で上記ガラススート層を加熱してガラス化し、不活性ガスの気泡を有するガラス層を形成することによってプリフォームを製造し、そのプリフォームを線引きすることで製造され、この気泡は、プリフォームの製造工程中においては略球形状であるが、その後の線引きにより、その長手方向に延びた長孔状になるものであって、
光通信分野において用いられる、
光ファイバ。」

(2)引用例2
ア 原査定の拒絶の理由で引用された、本願の最先の優先日前に頒布された刊行物である、特開2004-219568号公報(以下「引用例2」という。)には、図とともに、次の記載がある。
「特許請求の範囲」、
「光を導波させ得る光導波体であって、主媒質中にこの主媒質の屈折率より小さい屈折率を有する副媒質からなる微小領域が軸方向および径方向に分布しており、光を導波させる為の径方向の屈折率プロファイルが前記主媒質の屈折率分布または前記微小領域の分布密度もしくはサイズに基づいて形成されている、ことを特徴とする光導波体。」(請求項1)、
「前記主媒質がガラスまたは樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載の光導波体。」(請求項3)、
「前記副媒質が気体であることを特徴とする請求項1または2に記載の光導波体。」(請求項4)、
「前記微小領域のサイズが導波光の波長に対して1/10以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の光導波体。」(請求項5)、
「ファイバ形態を有していることを特徴とする請求項1または2に記載の光導波体。」(請求項6)

イ 上記アの各記載によれば、引用例2には次の事項が記載されていると認められる。
「主媒質中に、この主媒質の屈折率より小さい屈折率を有する気体からなる微小領域が軸方向および径方向に分布しているファイバ形態の光導波体において、光を導波させる為の径方向の屈折率プロファイルが前記主媒質の屈折率分布または前記微小領域の分布密度もしくはサイズに基づいて形成されており、微小領域のサイズが導波光の波長に対して1/10以下である光導波体。」

4 対比
(1)本願発明と引用発明1とを以下に対比する。
ア 引用発明1の「内部クラッドに気泡の集合体領域を形成して」いる「光ファイバ」は、本願発明の「微細構造光ファイバ」に相当する。

イ 引用発明1の「コア領域」及び「内部クラッド」は、それぞれ、本願発明の「コア領域」及び「クラッド領域」に相当する。
そして、引用発明1の「光ファイバ」は、「そのコア領域が第一屈折率を具備するとともに、その内部クラッドがファイバを通じて伝送される光がコア内に保持されるようにコア領域の屈折率よりも低い第二屈折率を具備して」いるから、本願発明の「第一屈折率を具備するコア領域および前記ファイバを通して伝送される光が前記コア内に保持されるように前記コア領域の屈折率よりも低い第二屈折率を具備するクラッド領域を包含」するとの特定事項を備えている。

ウ 引用発明1の(「光ファイバ」に含まれる)「気泡」は、本願発明の「ボイド」に相当する。
そして、引用発明1の「光ファイバ」は、「コア領域となるコア石英ガラス母材の周囲に石英ガラススート層を形成し、ガラス中での拡散係数がヘリウムよりも小さい不活性ガスを含むガス雰囲気中で上記ガラススート層を加熱してガラス化し、不活性ガスの気泡を有するガラス層を形成することによってプリフォームを製造し、そのプリフォームを線引きすることで製造され」るものであるとともに、「この気泡は、プリフォームの製造工程中においては略球形状であるが、その後の線引きにより、その長手方向に延びた長孔状になるものであ」るから、引用発明1は、本願発明の「前記クラッドは前記クラッド内において前記ファイバの長さに沿った長手方向の断面を見た場合に、非周期的に配置された複数個のボイドから成る少なくとも1つの領域を包含し、前記ボイドの各々は前記ファイバの長さに沿って伸長した長手形状を有しているが前記ファイバの全長に亘っては伸びておらず、前記ファイバの長さに沿った異地点での断面は不規則に配向された異なるボイドパターン及び不規則に配向された異なるボイドサイズを呈」するとの特定事項を備えると推認される。

エ 引用発明1の「光ファイバ」は、「コア領域となるコア石英ガラス母材の周囲に石英ガラススート層を形成し」て製造されるものであるから、石英ガラス製の光ファイバであり、また、「光通信分野において用いられる」ものである。そうすると、引用発明1の「光ファイバ」の減衰の程度は、技術常識に照らしてその用途に適合するといえる程度に低いものであることが明らかである。
また、引用例1の「従来のフォトニッククリスタル光ファイバ」の損失の程度は、技術常識(例えば、特開2003-313044号公報の段落【0019】には、「損失が1.5dB/km(@1550nm)と非常に低損失なフォトニッククリスタルファイバを得ることができた。」との記載がある。)に照らせば、「600nmから1550nmの間の少なくとも1つの波長において500dB/km未満の減衰」よりは、相当程度小さいものと推認される。そして、引用発明1の「光ファイバ」の損失の程度は、「600nmから1550nmの間の少なくとも1つの波長において500dB/km未満の減衰」という尺度からみれば、引用例1の「従来のフォトニッククリスタル光ファイバ」の損失の程度とさほど変わらないとみるのが自然である。
以上によれば、当業者であれば、引用発明1の「光ファイバ」として、本願発明の「前記ファイバは600nmから1550nmの間の少なくとも1つの波長において500dB/km未満の減衰を示す」との特定事項を備える態様を把握できると解される。

(2)上記(1)によれば、本願発明と引用発明1とは、
「微細構造光ファイバであって、
第一屈折率を具備するコア領域および前記ファイバを通して伝送される光が前記コア内に保持されるように前記コア領域の屈折率よりも低い第二屈折率を具備するクラッド領域を包含し、
前記クラッドは前記クラッド内において前記ファイバの長さに沿った長手方向の断面を見た場合に、非周期的に配置された複数個のボイドから成る少なくとも1つの領域を包含し、前記ボイドの各々は前記ファイバの長さに沿って伸長した長手形状を有しているが前記ファイバの全長に亘っては伸びておらず、前記ファイバの長さに沿った異地点での断面は不規則に配向された異なるボイドパターン及び不規則に配向された異なるボイドサイズを呈し、前記ファイバは600nmから1550nmの間の少なくとも1つの波長において500dB/km未満の減衰を示す微細構造光ファイバ。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点]本願発明では、前記ボイドのうち95%を超えるボイドは1550nm以下の最大直径を具備しているのに対し、引用発明1ではそのように特定されていない点。

5 相違点の判断
(1)上記[相違点]について検討する。
引用発明1の「光ファイバ」は、石英ガラス製(上記4(1)エ)であって、「光通信分野において用いられる」ものであるから、技術常識(例えば、引用例2の段落【0002】・【0003】を参照。)に照らせば、その使用波長として、1.3μm帯及び1.5μm帯のものが少なくとも想定されていることが明らかである。
そして、引用発明1の(光ファイバに含まれる)「気泡」(本願発明の「ボイド」に相当。)は、直径4μm以下に形成して」いるものであり、また、「上記気泡の分布密度を径方向に変化させて、上記気泡の集合体領域の等価屈折率に径方向の分布を持たせた」ものであるところ、引用例1の段落【0010】・【0011】(上記3(1)ア(オ))及び段落【0022】(上記3(1)ア(カ))の記載からすると、引用発明1の「気泡」の直径が4μm以下、好ましくは1?3μmに形成される技術的意義は、内部クラッド層内に気泡密度の分布を形成して、内部クラッド層の繊細な屈折率分布制御を行うことにあると解される。
他方、引用例2には、主媒質中に、この主媒質の屈折率より小さい屈折率を有する気体からなる微小領域が軸方向および径方向に分布しているファイバ形態の光導波体において、光を導波させる為の径方向の屈折率プロファイルが前記主媒質の屈折率分布または前記微小領域の分布密度もしくはサイズに基づいて形成されており、微小領域のサイズが導波光の波長に対して1/10以下である光導波体が記載されているところ、引用例2に記載された光導波体が、引用発明1と同様に、気泡の分布密度を径方向に変化させて、気泡の集合体領域の等価屈折率に径方向の分布をもたせた光ファイバであることが明らかである。
以上を踏まえ、さらに、引用例1に気泡5の直径にも関連して「尚、本発明に係る光ファイバ1は、これらの寸法条件に何ら限定されるものではない。」と記載されていることも併せ考慮すると、引用発明1において、内部クラッド層の繊細な屈折率分布制御を行うために、気泡(本願発明の「ボイド」に相当。)の直径をできるだけ小さくすることは当業者が適宜なし得たことであり、その際、引用例2の記載事項に照らして、上記[相違点]のようにすることも当業者が適宜なし得たことである。

(2)そして、本願発明のようにしたことによる効果は、引用発明1、引用例1の記載事項及び引用例2の記載事項に比して格別顕著なものとはいえない。

(3)したがって、本願発明は、当業者が、引用発明1、引用例1の記載事項及び引用例2の記載事項に基づいて容易に発明をすることができたものである。

6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-02-18 
結審通知日 2015-02-24 
審決日 2015-03-10 
出願番号 特願2008-538908(P2008-538908)
審決分類 P 1 8・ 574- Z (G02B)
P 1 8・ 573- Z (G02B)
P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉田 英一岡田 吉美大石 敏弘  
特許庁審判長 小松 徹三
特許庁審判官 松川 直樹
山村 浩
発明の名称 微細構造光ファイバとその製造方法  
代理人 藤村 元彦  

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