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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23L
管理番号 1303713
審判番号 不服2013-19862  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-10-11 
確定日 2015-07-29 
事件の表示 特願2011- 45386「カッサバのプロトプラストを生産し形質転換させる方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 7月14日出願公開、特開2011-135894〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成14年(2002年)4月11日を出願日(パリ条約による優先権主張2001年4月11日、米国)とする特願2002-109126号の一部を、特許法第44条第1項の規定により、平成23年(2011年)3月2日に新たな特許出願としたものであって、その請求項に係る発明は、平成25年10月11日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるものと認められるところ、そのうちの請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】 アミロペクチンカッサバ塊茎由来の、少なくとも95(質量)%のアミロペクチン含有量を有し、そして少なくとも1200(RVA単位)のピーク粘度を有する天然のアミロペクチンカッサバ澱粉。」
第2.引用例
1.原査定の拒絶の理由で引用例3として引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である「Plant Mol. Biol., (1993) vol.23, p.947-962」(以下、「引用例3」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は当審において付与した)。
ア.「カッサバの塊茎特異的cDNAライブラリーが構築され、貯蔵澱粉中のアミロースの合成を担う酵素である顆粒結合型澱粉合成酵素(ワキシータンパク質としても知られているGBSS)の完全長cDNAがクローニングされた。…馬鈴薯GBSSプロモーターとノパリンシンターゼターミネーターの間にアンチセンス方向に結合されたカッサバGBSS cDNAで馬鈴薯植物は形質転換された。これらの形質転換された馬鈴薯植物中の内生のGBSS遺伝子の発現は、部分的または完全に阻害された。カッサバアンチセンス遺伝子によるGBSS活性の完全な阻害は、ほぼ完全にアミロースを含まない馬鈴薯澱粉を生じさせる、GBSS蛋白とアミロースの不存在をもたらした。これはまた、異種遺伝子を他の植物種でアンチセンス効果を達成するために使用できることを示している。」(要約)
イ.「澱粉顆粒は通常、α-グルコース単位がα(1-4)結合した直鎖(アミロース)及びα(1-6)結合により架橋されたアミロースの分岐型(アミロペクチン)から構成されている。」(第948頁第2?8行)
ウ.「図1 カッサバ顆粒結合型澱粉合成酵素(GBSS)cDNAクローンG61の制限酵素地図及びセンス及びアンチセンスGBSS遺伝子の構築。
まず、G61の0.6kb SphI-BamHI 3’フラグメントを馬鈴薯GBSSプロモーター及びノパリンシンターゼターミネーターの間にクローニングした。残るG61の1.5kbの5’フラグメントのスタートコドンにわたって、SphI部位が創出され、その後、センス及びアンチセンス方向にSphI部位を適合させて、それぞれpG61及びpAG61を作製した。」(第950頁図1の説明)
エ.「馬鈴薯塊茎澱粉に対するアンチセンスの効果
異種宿主の遺伝子に対するアンチセンスの効果を調べるために、また、クローニングした遺伝子が確かにアミロース生産に関与する遺伝子であることを証明するために、カッサバGBSS遺伝子をアンチセンス方向で馬鈴薯に導入した。…野生型の馬鈴薯を、アンチセンス…(図1)カッサバGBSS cDNAを含むアグロバクテリウム(A. tumefaciens)で形質転換した。42のアンチセンス…形質転換植物を単離した。in vitroで形質転換植物から塊茎を誘導し、そしてまた、それらを温室での塊茎を得るために温室に移した。in vitro及び温室の塊茎を、染色法によりアミロースの存在を解析した。ヨウ素溶液で染色すると、アンチセンス形質転換植物の3つのクラスが見出された。…
アミロース含有量及びGBSS活性を、アンチセンス形質転換植物の3つのクラスの塊茎澱粉から測定した。T4及びT32(クラスIII)の赤に染色された塊茎では、アミロース含有量がほぼ完全に抑制され、GBSS活性がamf変異体レベル(バックグラウンドレベル)に等しいことがわかった…。」(第956頁左欄第19行?第957頁左欄最終行)
オ.「カッサバにおいて、有効な再生方法が使用可能であり、形質転換方法の開発が当研究室で進行中である。したがって、異種(馬鈴薯)の背景でのこれらの結果を得たことにより、カッサバにおいて同様の結果を得るための全ての本質的な要件が満たされている。」(第960頁右欄第23?29行)
カ.カッサバGBSS cDNA G61の核酸配列が記載された図3。
上記引用例3の摘記事項ア、ウ、エ及びカの記載からみて、引用例3には「カッサバのアンチセンスGBSS遺伝子により形質転換された馬鈴薯の塊茎から得られた、ほぼ完全にアミロースを含まない馬鈴薯澱粉」の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されていると認める。
2.原査定の拒絶の理由で引用例2として引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である「Euphytica (1997) vol.96, p.65-75」(以下、「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は当審において付与した)。
ア.「カッサバ澱粉の生合成に関与する主要酵素をコードする遺伝子がクローニングされて特徴付けられた。これらの遺伝子の分子解析は、澱粉を形成する植物種からの他のクローニングされた遺伝子との高いアミノ酸配列ホモロジーを示した。カッサバにおける澱粉生合成の経路を変更するためにこれらの遺伝子を使用することは、カッサバのための再現し得る形質転換および再生プロトコルの出現で可能になった。これは、異なる物理化学的特性及び用途を持つ澱粉を作り得る新しいカッサバ変種植物の開発を可能にするであろう。」(要約)
イ.「カッサバ澱粉構造の改良 カッサバにおいて、澱粉構造の変化は、関与する酵素、特にBE及びGBSSの活性を低減させることによってもたらすことができる。これは、澱粉における分枝度と同様にアミロース/アミロペクチンの比をかなり変えるであろう。…澱粉構造における遺伝的な変更は澱粉蓄積性の他の植物において報告されている。カッサバGBSSI遺伝子が、野生型の馬鈴薯中にアンチセンスで導入されると、低下したレベルで澱粉及び、場合によっては完全にアミロースを含まない馬鈴薯澱粉の産生に至った(Salehuzzaman et al., 1993)。…カッサバでは、アミロースを含まない変種または突然変異体は今のところ利用可能ではない。それ故に、GBSSIIと同様にGBSSIが、カッサバにおいてそのような植物を製造するのに理想的であるだろう。ある範囲のアミロースを有する植物は、アンチセンス法を用いて製造されているようである。…クローニングされ、特徴付けられたカッサバ澱粉遺伝子が利用可能となったことは、カッサバ澱粉の組成及び構造を変更するための新しい道筋を開いた。ある範囲の物理化学的特性および用途を有する澱粉を持つ新しいカッサバ栽培変種の開発は、再現性のある形質転換および再生方法が利用可能となったことでさらに促進される。」(第73頁左欄第1?3行)
3.原査定の拒絶の理由で引用例1として引用された、本願優先日前の2000年8月22日に頒布された刊行物である特表2000-510707号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は当審において付与した)。
ア.「1.カッサバ又は極関連した種の、植物に再生可能のプロトプラストを生産するための方法であって、
カッサバ又は極関連した種の移植片からフライアブル胚形成カルスを生産すること、及び
前記フライアブル胚形成カルスからプロトプラストを分離すること、
を含む方法。…
7.請求項1から6のいずれか1の方法により得られるプロトプラスト。
8.カッサバ又は極関連した種のプロトプラストを形質転換するための方法であって、
アグロバクテリウム・ツメファシエンスのような付加的な遺伝子情報を含むバクテリウムによる感染を介するか、前記付加的な遺伝子情報を含むベクターを与える電気穿孔法又は化学的穿孔法によるか、又は、粒子が前記付加的な遺伝子情報をコーティングされる粒子射突法により、前記付加的な遺伝子情報をもつ前記プロトプラストを与える工程、
を含み、請求項7のプロトプラストが形質転換される、ところの方法。
9.請求項8の方法により得られる形質転換したプロトプラスト。…
11.付加的な遺伝子情報がアンチセンス構造を含む、請求項9の形質転換したプロトプラスト。
12.アンチセンス構造が、アミローゼ合成経路を示すことができる、請求項11の形質転換したプロトプラスト。
13.胚を生産するために、請求項7、9-12のいずれか1のプロトプラストが誘導され、植物を生産するために、続けて、胚が誘導される、プロトプラストから植物を再生するための方法。
14.請求項13の方法によって得られる、カッサバ植物又はその極関連した種。
15.その塊茎が本質的にアミローゼを全く含まない、請求項12のプロトプラストから得られる請求項14の植物。」(【特許請求の範囲】)
イ.「プロトプラストからの植物の再生
プロトプラストの分離
プロトプラストの分離のために、固体GD2又は液体SH6のどちらで培養したFECでも使用することができる。しかし、プロトプラストの最高収率は、液体SH6で1?3週間培養したFECより得ることができた。
2グラムのFECが、細胞壁消化溶液10mlを入れたペトリ皿(Φ9cm)に置かれた。細胞壁消化溶液は、細胞壁分解酵素;10mg/lペクトリアーゼ、10g/lのセルラーゼ、200mg/lのマクロ酵素(machroenzyme)、成長調節物質(NAA 1mg/l)2,4-D 1mg/l)ゼアチン1mg/l);メジャーソルト(major salts)(368mg/l CaCl2、34mg/lのKH2PO4、740mg/lのKNO3、492mg/lのMgSO4.7H2O);マイナーソルト(minor salts)(19.2mg/lのNA-EDTA、14mg/lのFeSO4.7H2O)及びオスモチカム(91g/lのD-マンニトール)、並びに0.5g/lのMESの混合物を含む。細胞壁分解酵素セルラーゼ(1-10g/l)にマセロザイム(200mg/l)を加えたものが、プロトプラストの分離に成功した。ペクトリアーゼ(0.001-0.011g/l)及び/又はドリセラーゼ(0.02g/l)をさらに添加すると、プロトプラストの収率が高くなった。18時間のインキュベーション後、溶液に10mlの洗浄媒体(washing medium)が添加された。0.530mOsm/gのオスモル濃度である洗浄媒体は、メジャーソルト(細胞壁消化溶液参照)、45.5g/lのマンニトール及び7.3g/lのNaClを含む。消化された組織は、73μM孔径のフィルター(PA55/34Nybolt-Switzerland)を通して、250mlビーカーガラスの中にろ過された。ろ液は等しく2つの12ml円すいスクリューに分けられ、600rpmで3分間遠心された(Mistral2000)。洗浄手順は、上澄みの除去後、もう一度繰り返された。プロトプラスト溶液は、メジャー及びマイナーソルト(細胞壁消化溶液参照)及び105g/lスクロースを含む9.5mlの溶液に浮かべられて再懸濁された。pHは5.8であり、オスモル濃度は0.650mOsmであった。プロトプラストを含んだ溶液は、0.5mlの洗浄媒体を静かに頂部に添加する前に、5分間平衡をとることができた。700rpmで15分間遠心すると(Mistral2000)、プロトプラストは、スクロースと洗浄媒体の間のバンドに集められた。プロトプラストの層を、パスツール・ピペットで回収し、収率は、標準的なヘモサイトメーター・チェンバ(haemocytometer chamber)で計算された。
プロトプラスト培養
プロトプラストは、アガロース0.2%w/v(0.1-10mg/l)(Dons en Bouwer,1986)で凝固され、10mlの同様の液体培地を含む媒体で、ペトリ皿において培養された。次の媒体が、微小なカルスを形成した:
TM2G培地(Wolters et al.,1991)は、オーキシン(0.1-10mg/lのNAA若しくは0.1-10mg/lのピクロラム、又は0.1-10mg/lのIAA、又は0.1-10mg/lの2,4-D)又は0.1-10mg/lのダイカンバ(dicamba)又は0.1-10mg/l、又は0.1-10mg/l)のみを補充するか、又はオーキシンにサイトカイニン(0.01-1mg/lゼアチン、0.01-1mg/lの2-iP、0.01-1mg/lBA、0.01-1mg/l TDZ、0.01-1mg/lカイネチン)を加えたものを補充したものである。
培地A(Murashige and Skoog(1962)ソルト及びビタミン、4.5g/lミオ・イノシトール、4.55g/lマンニトール、3.8g/lキシリトール、4.55g/lソルシトール、0.098g/l MES、40mg/lアデニン硫酸塩及び150mg/lカゼイン加水分解塩(caseinhydrolysate)、0.5mg/l d-カルシウム-パントテナート(d-calcium-panthotcnate)、0.1mg/l塩化コリン、0.5mg/lアスコルビン酸、2.5mg/lニコチン酸、1mg/lピリドキシン-HCl、10mg/lチアミン-HCl、0.5mg/l葉酸、0.05mg/lビオチン、0.5mg/lグリシン、0.1mg/l L-システイン及び0.25mg/lリボフラビン及び59.40g/lグルコース)は、オーキシン(0.1-10mg/l NAA若しくは0.1-10mg/lピクロラム、又は0.1-10mg/l IAA、又は0.1-10mg/l 2,4-D、又は0.1-10mg/lダイカンバ(dicamba))のみを補充するか、又はオーキシンにサイトカイニン(0.01-1mg/lゼアチン、0.01-1mg/l 2-iP、0.01-1mg/l BA、0.01-1mg/l TDZ、0.01-1mg/lカイネチン)を加えたものを補充したものである。
媒体は10日毎に、9mlの新しい培地と交換することにより、新しくされた。最初の培地における培養から2ヶ月後、高品質のFECが選択され、さらなる増殖のためか、又は成熟のために培養された。増殖のために、FECは、40g/lのスクロース、7g/lのダイシン-アガー(Daichin-agar)及び2mg/lのピクロラムが補われたGresshoff and Doy(1974)の培地(GD4)に移された。3週間後、FECは、20g/lのスクロース、7g/lのアガー及び10mg/lのピクロラムが補われたGresshoff and Doy(1974)の培地(GD2)に移された。1.0gのFECを、10mg/lのピクロラムが補われた液体SH6%培地に移すことにより、浮遊培養が開始された。2週間後、最初のパックされた細胞の量(packed cell volume)を1.0mlにして、懸濁液が新しいフラスコに分けられた。
培養2ヶ月後、106/mlの密度で培養されたプロトプラストは、64ミクロ-カリ(micro-calli)のみを生成するにすぎないが、0.5mg/lのNAA及び1mg/lのゼアチンを補われた105/mlの密度のTM2Gで培養された104プロトプラストは、1058ミクロ-カリ(micro-calli)を生成した。TM2G培地を培地Aと置き換えると、どちらの密度においても、ミクロ-カリ(micro-calli)の数は著しく減少した。この段階において、少なくとも3タイプのカリを識別することができた。1つの型は、密度106で培養されたプロトプラストに、最も多く観察される、球状胚から成った。それらのいくつかは、明るい緑色の、構造(structures)のように発達した子葉であった。しかし、これらの胚は、正しく発芽することができなかった。もう1つの型は、早く生長し、大きく密集したカルスであり、このカルスは、どちらの密度で培養したプロトプラストにも観察された。第3の型は、どちらの密度でも観察された非常にもろいカルスであった。密度2-5×105(TM2G培地)において、約60%のカリがもろく、胚が形成された。FECは、さらなる増殖のためか、又は成熟のために継代培養された。
プロトプラストに由来したFECの増殖
次のFECの選択で、2mg/lピクトラムを加えたGD4上で培養された0.1gのFECは、3週間後、0.7gの組織へと増殖した。組織の95%以上が、高品質のFECから成った。次にこの組織は、10mg/lピクトラムを加えたGD2上での継代培養により、3週間維持された。浮遊培養を開始するために、FECが液体培地へと移された。この物質のパックされた細胞量(PCV)の増加は、元の物質のPCV(データは示していない)よりも、やや高かった。
プロトプラストに由来したFECの成熟
胚の成熟を誘導する試みでは、TM2Gで2ヶ月培養した後に分離されたFECが、成熟培地で培養された。成熟培地は、Murashige and Skoog(1962)ソルト及びビタミン、0.1g/lのミオ・イノシトール、20g/lのスクロース、18.2g/lのマンニトール、0.48g/lのMES、0.1mg/lのカゼイン加水分解塩(caseinhydrolysate)、0.08g/lのアデニン硫酸塩、0.5mg/lのd-カルシウム-パントテナート(d-calcium-panthotenate)、0.1mg/lの塩化コリン、0.5mg/lのアスコルビン酸、2.mg/lのニコチン酸、1mg/lのピリドキシン-HCl、10mg/lのチアミン-HCl、0.5mg/lの葉酸、0.05mg/lのビオチン、0.5mg/lのグリシン、0.1mg/lのL-システイン、0.25mg/lのリボフラビン及び1mg/lのピクロラムを含んだ。この成熟培地は3週間毎に新しい培地と交換された。
この培地上で、増殖から成熟へのゆるやかなシフトがあった。結果として、パックされた細胞量は、液体成熟培地において2週間培養した後、ファクター4(factor4)と共に増加した。固体成熟培地移した後も、増殖はある。固体培地上で2週間後、ほとんどの胚は球状型に達し、これらの球状胚のわずかなものだけが、さらに発達した。固体成熟培地で1月培養すると、一次魚雷型胚が見られるようになった。成熟胚及び魚雷型胚の数は、コロニー形成率に関連していないが、最初に培養されたプロトプラストの密度と関連していた。このような胚は、プロトプラストが成長調節物質なしにTM2G上で培養されたならば、得ることができなかった。成熟胚及び魚雷型胚の最大数は、0.5mg/lのNAA及び1mg/lのゼアチンを補ったTM2G上で培養したプロトプラストから形成された。NAAをピクロラムで置き換えると、魚雷型胚と成熟胚の数は、著しく低くなった(表2)。テストされたピクロラム濃度2mg/lのものから、最良の結果が得られた。培養3ヶ月後、アガロース1滴当たり60から200の間の魚雷型胚及び成熟胚が分離された。魚雷型胚は、新しい成熟培地、又は0.1mg/lのBAPを加えたMS2で培養されると、高頻度で成熟胚になった。
二次胚不定胚形成及びプロトプラストに由来した成熟胚の再生
10mg/lのNAA又は8mg/lの2,4-Dを補った液体又は固体MS2培地で培養すると、わずかな魚雷型胚のみが、二次胚を形成した(データは示していない)。成熟胚は、二次胚形成によりよく移植された。液体及び固体培地の両方において、二次胚の誘導のためには、NAAと比較して、2,4-Dが優れていた。成熟胚が第一に2,4-Dで培養され、次に液体NAAで培養されると、応答は2,4-D単独の培養と比較することができる。第一に2,4-Dを含む培地において二次胚形成のサイクルを経ている胚もまた、10mg/lのNAAを補ったMS20において、高い効率で二次胚を生成する。
液体培地において、オーキシン2,4-Dジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)又はナフタレン酢酸(NAA)により誘導された循環的(cyclic)又は二次胚の発芽が比較された。すべての遺伝子型において、乾燥は、胚に誘導されたNAAの正常な発芽を刺激する。しかし、乾燥された胚では、高頻度の発芽のために、ベンジルアミノプリン(BAP)のようなサイトカイニンを補った培地が必要とされた。結果としてできた実生の形態は、BAPの濃度に依存した。1mg/lのBAPでは、厚く短い主根及び短い節間をもつ枝分かれした苗条が生長した。0.1mg/lのBAPでは、主根は薄くて細く、苗条は1つ又は2つのみの先端分裂組織を有していた。胚が部分最適に(sub-optimally)乾燥されると、胚が発芽を刺激されるように最適に乾燥された場合よりも、より高い濃度のBAPが必要とされた。暗室で培養された、乾燥された胚は、より低い濃度のBAPを必要とし、さらに、これらの胚は、明室で培養された胚よりも早く発芽した。不定胚誘導の開始から4週間後に、完全な植物体が得られた。」(第13頁第14行?第18頁第13行)
ウ.「4.0遺伝子移植システム
過去何年もの間、シリコンファイバー法(Kaepplerら(1990))、ミクロ注入法(DeLaat及びBlaas(1987))及び電気泳動法(Griesbach及びHammond(1993))といった、DNAを植物プロトプラストヘ導入する様々な技術が開発されてきた。最も共通的に使用され且つ潜在的に応用可能なものは、アグロバクテリウム培養遺伝子導入法、ミクロ射出/粒子射突法及びプロトプラスト電気穿孔法である。・・・粒子射突法又はバイオリスチック(biolistic)を外来DNAの導入に使用すると、カッサバ形質転換の変形的な方法を与える。」(第18頁第18行?第19頁第21行)
第3.対比
本願発明と引用発明3を対比する。引用例3の摘記事項イによれば、塊茎澱粉は通常アミロースとアミロペクチンから構成されており、引用発明3の澱粉はほぼ完全にアミロースを含まないものであるから、高いアミロペクチン含有量を有するアミロペクチン塊茎澱粉であるといえ、その由来の馬鈴薯の塊茎は、アミロペクチン馬鈴薯塊茎であるといえる。
また、本願発明における「天然の」という記載は、本願明細書の段落【0088】の「したがって本発明はさらに、天然および誘導体化されたアミロペクチンカッサバ(タピオカ)澱粉、ならびにかかる澱粉を含有する組成物を含むことを意図するものである。」及び段落【0093】の「このような天然澱粉は、化学的修飾をすることなく所望の機能性を達成できるという追加の利点を持っている。」という記載からみて、澱粉が化学的修飾されていないことを意味すると解することができる。そうすると、引用発明3の馬鈴薯澱粉は化学的修飾されていないものであるから、「天然の」澱粉であるといえる。
したがって、両者は「アミロペクチン植物塊茎由来の、高いアミロペクチン含有量を有する天然のアミロペクチン植物澱粉」である点で一致するものの、
(相違点1)植物が、本願発明はカッサバであるのに対し、引用発明3は馬鈴薯である点、
(相違点2)本願発明は、アミロペクチン含有量が少なくとも95(質量)%であり、アミロペクチン植物澱粉が、少なくとも1200(RVA単位)のピーク粘度を有するものであるのに対し、引用発明3は、これらの特定がされていない点の2点で相違する。
第4.当審の判断
1.判断
まず、相違点1について検討する。
引用例1の摘記事項ア、引用例2の摘記事項ア及びイ、並びに引用例3の摘記事項オの記載からみて、カッサバ塊茎に、アミロースを含まないアミロペクチン澱粉を産生させることは、本願優先日前に周知の課題であった。しかも、引用例1の摘記事項ア、引用例2の摘記事項イ、並びに引用例3の摘記事項ア及びオの記載からみて、アンチセンスGBSS遺伝子で形質転換することによりGBSS活性が阻害されたカッサバを作製し、該カッサバ塊茎にアミロース含有量が低下したアミロペクチン澱粉を産生させようとすることが、引用例1?3に具体的に記載されている。
このような本願優先日前の技術水準の下、引用例1の摘記事項イのカッサバにおいて、プロトプラストから完全な植物体が得られたという記載に接した当業者であれば、その記載に基づいて、引用発明3の馬鈴薯に代えてカッサバを形質転換し、カッサバ由来のアミロペクチン澱粉を得ようとすることは自然な発想である。
そしてその際、形質転換に用いるカッサバのアンチセンスGBSS遺伝子が引用例3の摘記事項ウ及びカに具体的に記載されており、また、カッサバのプロトプラストの分離、培養、増殖、成熟、植物体への再生における手順や培地などの詳細な条件、及びDNAをプロトプラストに導入する方法も引用例1に記載されているから、カッサバのアンチセンスGBSS遺伝子を用いてGBSS活性が阻害された形質転換カッサバを作出し、該カッサバからアミロペクチン澱粉を取得することは、当業者が容易になし得たことである。
次に、相違点2について検討すると、このように得られるアミロペクチンカッサバ澱粉は、引用発明3の馬鈴薯澱粉と同様にほぼ完全にアミロースを含まないのであるから、本願発明と同等の性質、つまり、少なくとも95(質量)%のアミロペクチン含有量を当然有するものであり、かつ、少なくとも95(質量)%のアミロペクチン含有量を有するアミロペクチンカッサバ澱粉は、少なくとも1200(RVA単位)のピーク粘度を有するものである。
そして、本願発明において奏される効果が、引用例1?3の記載から当業者が予測できない程の格別なものとはいえない。
以上のとおりであるから、本願発明は、引用例1?3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
2.審判請求人の主張
(1)審判請求人は、平成25年10月11日付け審判請求書、及び平成26年9月17日付け回答書において、要するに、以下の点を主張する。
主張ア:引用例1には、カッサバのプロトプラストをアンチセンス技法により形質転換し、植物体を再生したことは記載されているが、その植物を栽培して、その植物の塊茎から、アミロースが欠失した澱粉を得たことは記載されていない。
主張イ:引用例2及び3で得られた澱粉はあくまで馬鈴薯澱粉であり、カッサバ澱粉ではない。また、馬鈴薯はナス科ナス属の草植物であるのに対して、カッサバはトウダイグサ科イモノキ属の低木植物であり、植物としての位置や性質が全く異なるので、導入されたアンチセンス遺伝子が、馬鈴薯におけるのと同様に、カッサバにおいても機能するとは限らない。さらに、馬鈴薯澱粉とカッサバ澱粉とでは澱粉の構造が異なるため、カッサバ植物中で導入したアンチセンス遺伝子が機能したとしても、アミロース含量に関し、馬鈴薯澱粉の場合と同じ現象がカッサバ澱粉において生ずるか否か全く不明である。
主張ウ:本願優先日前に公知のアミロペクチン澱粉である、ワキシートウモロコシ澱粉、アミロペクチン馬鈴薯澱粉と、本願発明のアミロペクチンカッサバ澱粉の性質をまとめると以下の様になり、
澱粉の 貯蔵 粘度効果 調理 糊化開始
種類 安定性 澄明性 温度
ワキシートウモロコシ 中程度 中程度 中程度 高い
アミロペクチン馬鈴薯 低い 高い 高い 高い
アミロペクチンカッサバ 非常に高い 高い 高い 低い
本願発明のアミロペクチンカッサバ澱粉が、ワキシートウモロコシ澱粉及びアミロペクチン馬鈴薯澱粉とは異なる性質を有している。特に、本願発明は高い貯蔵安定性、つまり高い老化困難性を有しており、この効果を引用例の記載から予測することは困難である。
(2)上記主張について検討する。
主張アについて
「第4.1」で述べたように、カッサバにおいて、アミロースを含まないアミロペクチン澱粉を産生させることは本願優先日前に周知の課題であり、また、引用例1?3には、アンチセンスGBSS遺伝子で形質転換することによりGBSS活性が阻害されたカッサバを作製し、該カッサバに、アミロース含有量が低下したアミロペクチン澱粉を産生させようとすることが具体的に記載されているのであるから、上記「第4.1」で述べた理由により、本願発明は、引用例1?3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
主張イについて
上述したように、カッサバにおいて、アミロースを含まないアミロペクチン澱粉を産生させることは本願優先日前に周知の課題であり、また、引用例2及び3には、カッサバのアンチセンスGBSS遺伝子で馬鈴薯を形質転換することによりGBSS活性が阻害された馬鈴薯を作製し、アミロース含有量が低下したアミロペクチン澱粉を産生できたことが記載されているのであるから、そのカッサバのアンチセンスGBSS遺伝子でカッサバを形質転換する場合には、馬鈴薯よりもむしろ確実にアミロペクチン澱粉が産生されることが技術常識である。
したがって、審判請求人の当該主張は採用できない。
主張ウについて
カッサバが、トウモロコシや馬鈴薯とは異なる植物である以上、それぞれが性質の異なる澱粉を産生すること自体は当業者に自明のことであるから、単に性質が相違することをもって、本願発明の奏する効果が顕著であるとは推認できない。
そこで、審判請求人の示した表を参考にして、本願発明のアミロペクチンカッサバ澱粉と、引用発明3のアミロペクチン馬鈴薯澱粉との間の性質の相違をみてみると、「老化困難性」が、本願発明は「非常に高い」のに対し引用発明3は「低い」点、及び糊化開始温度が、本願発明は「低い」のに対し引用発明3は「高い」点で性質に相違点がある。
しかし、そもそもカッサバ澱粉が馬鈴薯澱粉と比較して老化しにくい点は、例えば、刊行物1「澱粉科学, (1993) vol.40, p.233-243」、刊行物2「応用糖質科学, (1999) vol.46, p.65-74」及び刊行物3「澱粉科学, (1985) vol.32, p.2205-212」に記載され、また、カッサバ澱粉が馬鈴薯澱粉と比較して糊化開始温度が低い点も、例えば、上記刊行物1及び2に記載されているように、本願優先日前から当業者に周知の性質であったから、引用発明3の馬鈴薯に代えてカッサバを採用し、カッサバ由来のアミロペクチン澱粉を得ようとした当業者であれば、引用発明3のアミロペクチン馬鈴薯澱粉よりも老化困難性が高く、糊化開始温度が低いものが得られると予測し得たのである。
したがって、審判請求人の当該主張は採用できない。
第5.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用例1?3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-02-12 
結審通知日 2015-02-17 
審決日 2015-03-16 
出願番号 特願2011-45386(P2011-45386)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A23L)
P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼ 美葉子三原 健治  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 飯室 里美
小暮 道明
発明の名称 カッサバのプロトプラストを生産し形質転換させる方法  
代理人 古賀 哲次  
代理人 石田 敬  
代理人 中村 和広  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 中村 和広  
代理人 福本 積  
代理人 中島 勝  
代理人 中島 勝  
代理人 古賀 哲次  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 石田 敬  
代理人 青木 篤  
代理人 青木 篤  
代理人 福本 積  

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