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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1303715
審判番号 不服2013-20670  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-10-24 
確定日 2015-07-29 
事件の表示 特願2009-145235「インクジェット印刷方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 7月 1日出願公開、特開2010-145986〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
平成21年 6月18日 出願(パリ条約による優先権主張
2008年12月22日、韓国)
平成24年 3月19日付け 拒絶理由通知
平成24年 8月 9日(提出日) 意見書及び手続補正書
平成25年 2月 7日付け 拒絶理由通知
平成25年 5月14日(提出日) 意見書及び手続補正書(この手続補
正書による補正を、以下「本件補正
前の補正」という。)
平成25年 6月25日付け 拒絶査定
平成25年10月24日(提出日) 審判請求書及び手続補正書(この手
続補正書による補正を、以下「本件
補正」という。)
平成25年12月 6日付け 審尋
平成26年 3月 7日(提出日) 回答書


第2 補正の却下の決定
本件補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理 由]
1 本件補正の内容
本件補正は、本件補正前の補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1?4を削除し、請求項4を引用する請求項5を新たな請求項1として下記のとおりに補正しようとする事項を含むものである。

本件補正前の請求項4及び請求項5
「【請求項4】
赤色、緑色及び青色カラーフィルター材料を噴射する多数のノズルが具備された第1乃至第3ヘッド部方向へ基板を移動させながら、前記基板のサブ画素の各々に赤色、緑色及び青色カラーフィルターを形成する段階;
前記赤色、緑色及び青色カラーフィルターが形成される基板の1水平区間毎サブ画素の各々の透過度を順次測定する透過度測定段階;
予め設定されたサブ画素の基準透過度と前記測定されたサブ画素の透過度を比較して不良サブ画素を判別する段階;
前記不良サブ画素の補正数値をコントローラを用いて計算する段階;
前記補正数値に従って不良サブ画素に該当するノズルの噴射量セッティング数値をノズル噴射量調節部を用いて補正する段階;及び
前記噴射量セッティング数値に従ってノズルを用いて噴射量を調節する段階
を含み、
前記ノズル噴射量を調節する段階は、前記不良サブ画素各々の内部に注入されたカラーフィルター物質の量を調節し、
前記透過度測定段階は、前記赤色、緑色及び青色のカラーフィルターを同時に撮影するカメラにより測定され、
前記カメラは、前記基板の上に水平方向に配置されたカメラ支持バーに設置され、前記カメラ支持バーの長軸方向へ移動し、
前記透過度測定段階と前記噴射量を調節する段階は、前記カラーフィルターの形成前または前記第1乃至第3ヘッド部の交換または前記ノズルの交換以後に駆動される
ことを特徴とするインクジェット印刷方法。
【請求項5】
前記サブ画素の各々の透過度を測定する段階は、前記基板上に配置されたカメラと前記基板下に配置された光発光ユニットが水平方向へ移動しながら測定することを特徴とする請求項4記載のインクジェット印刷方法。」(なお、上記の下線は本件補正によって補正された箇所に対応する箇所を示す。)

本件補正後の請求項1
「【請求項1】
赤色、緑色及び青色カラーフィルター材料を噴射する多数のノズルが具備された第1乃至第3ヘッド部方向へ基板を移動させながら、前記基板のサブ画素の各々に赤色、緑色及び青色カラーフィルターを形成する段階;
前記赤色、緑色及び青色カラーフィルターが形成される基板の1水平区間毎サブ画素の各々の透過度を順次測定する透過度測定段階;
予め設定されたサブ画素の基準透過度と前記測定されたサブ画素の透過度を比較して不良サブ画素を判別する段階;
前記不良サブ画素の補正数値をコントローラを用いて計算する段階;
前記補正数値に従って不良サブ画素に該当するノズルの噴射量セッティング数値をノズル噴射量調節部を用いて補正する段階;及び
前記噴射量セッティング数値に従って前記不良サブ画素に該当するノズルの各々の内部に注入されたカラーフィルター物質の量を調節して、ノズルを用いて噴射量を調節する段階を含み、
前記透過度測定段階は、前記赤色、緑色及び青色のカラーフィルターを同時に撮影する複数個のCCDを備えるカメラにより測定され、
前記カメラは、前記基板の上に水平方向に配置されたカメラ支持バーに設置され、前記カメラ支持バーの長軸方向へ移動し、
前記基板上に配置されたカメラと前記基板下に配置された光発光ユニットが水平方向へ移動しながら測定され、
前記噴射量を調節する段階は、前記カラーフィルターの形成前に駆動され、調節された噴射量で各々のサブ画素毎に望む透過度のカラーフィルタ基板を形成することで染み不良を事前に防ぐことを特徴とするインクジェット印刷方法。」(なお、上記の下線は補正箇所を示す。)

2 補正の適否について
(1)補正事項と請求人主張の補正の根拠
ア 本件補正前の「前記噴射量セッティング数値に従ってノズルを用いて噴射量を調節する段階」との記載を、本件補正により「前記噴射量セッティング数値に従って前記不良サブ画素に該当するノズルの各々の内部に注入されたカラーフィルター物質の量を調節して、ノズルを用いて噴射量を調節する段階」と補正した。
請求人は審判請求書において上記補正の根拠を、「下線部の補正事項は、明細書段落0041の記載に基づくものである。」と主張している。

イ 上記補正事項アによる補正に伴い、本件補正前の「前記ノズル噴射量を調節する段階は、前記不良サブ画素各々の内部に注入されたカラーフィルター物質の量を調節し、」との記載を削除した。

ウ 本件補正前の「 前記透過度測定段階は、前記赤色、緑色及び青色のカラーフィルターを同時に撮影するカメラにより測定され」との記載を、本件補正により「前記透過度測定段階は、前記赤色、緑色及び青色のカラーフィルターを同時に撮影する複数個のCCDを備えるカメラにより測定され」と補正した。
請求人は審判請求書において上記補正の根拠を、「下線部の補正事項は、明細書段落0028の記載に基づくものである。」と主張している。

エ 本件補正前の【請求項5】の「前記サブ画素の各々の透過度を測定する段階は、前記基板上に配置されたカメラと前記基板下に配置された光発光ユニットが水平方向へ移動しながら測定することを特徴とする請求項4記載のインクジェット印刷方法。」との記載を、引用形式を独立形式にして新たな請求項1とする際に、「前記基板上に配置されたカメラと前記基板下に配置された光発光ユニットが水平方向へ移動しながら測定され、」と整理する補正を行った。
請求人は審判請求書において上記補正の根拠を、「下線部の補正事項は、明細書段落0033及び補正前の請求項5の記載に基づくものである。」と主張している。

オ 本件補正前の「前記透過度測定段階と前記噴射量を調節する段階は、前記カラーフィルターの形成前または前記第1乃至第3ヘッド部の交換または前記ノズルの交換以後に駆動される」との記載から、選択肢の一方を削除して他方のみに限定して「前記噴射量を調節する段階は、前記カラーフィルターの形成前に駆動され」と補正し、さらに「、調節された噴射量で各々のサブ画素毎に望む透過度のカラーフィルタ基板を形成することで染み不良を事前に防ぐ」との構成を付加する補正を行った。
請求人は審判請求書において上記補正の根拠を、「明細書段落0040及び0041の記載に基づくものである。」と主張している。

(2)新規事項についての判断
ア 上記(1)の補正事項アによる「前記噴射量セッティング数値に従って前記不良サブ画素に該当するノズルの各々の内部に注入されたカラーフィルター物質の量を調節して、ノズルを用いて噴射量を調節する段階」との補正について、請求人は、当該補正の根拠として出願当初明細書等の【0041】の記載に基づく旨主張しているが、当該【0041】には、「不良サブ画素のカラーフィルター物質を噴射するノズルの噴射量を調節すること」が記載されているものの具体的な噴射量の調節の仕方、特に、「ノズルの各々の内部に注入されたカラーフィルター物質の量を調節」することに関する説明はなされていない。

イ ここで、本願の願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面(以下これらをまとめて「出願当初明細書等」といい、明細書については、「出願当初明細書」という。)において、「カラーフィルター物質の量を調節」する事項に関連した記載を確認すると、以下の記載がある。(なお,下線は当審で付した。以下同様。)
(本ア)「【請求項1】・・(略)・・
前記カメラから測定された前記サブ画素の各々の透過度と予め設定された基準透過度を比較してノズルの噴射量を補正する噴射量調節部
を含むことを特徴とするインクジェット印刷装置。
【請求項2】
前記噴射量調節部は、
前記カメラから撮影されたサブ画素の各々の透過度に基づいて不良サブ画素を判別するコントローラ;及び
前記コントローラが不良サブ画素の透過度に基づいて算出した補正セッティング数値に従ってノズルの噴射量を調節するノズル噴射補正部
を含むことを特徴とする請求項1記載のインクジェット印刷装置。
・・(略)・・
【請求項6】・・(略)・・
予め設定されたサブ画素の基準透過度と前記測定されたサブ画素の透過度を比較して不良サブ画素を判別する段階;及び
前記不良サブ画素に該当するノズルの噴射量を前記比較結果から派生された補正セッティング数値だけ調節する段階
を含むことを特徴とするインクジェット印刷装置。」
(本イ)「【0014】・・(略)・・カラーフィルター層22は各々のサブ画素毎にカラーフィルター物質が噴射されて形成されるが、その際、基板の表面状態に従ってサブ画素各々に噴射されたカラーフィルターのサイズの差により画面ディスプレーの際に染み不良が発生する問題があった。」
(本ウ)「【0016】・・(略)・・前記カメラから測定された前記サブ画素の各々の透過度と予め設定された基準透過度を比較してノズルの噴射量を補正する噴射量調節部を含むことを特徴とする。
【0017】・・(略)・・及び前記不良サブ画素に該当するノズルの噴射量を電気比較結果から派生された補正セッティング数値だけ調節する段階を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】・・(略)・・前記不良サブ画素にカラーフィルター物質を噴射するノズルの噴射量を調節することで、カラーフィルター基板の信頼度を向上させることができる効果がある。」
(本エ)「【0021】
実施例1
・・(略)・・
【0024】・・(略)・・第1乃至第3ヘッド部111,113,115各々には、基板100の一定の領域を担当して赤色、緑色及び青色カラーフィルター物質を各々噴射する多数のノズル(Nozzle,図示せず)が含まれ、また、赤色、緑色及び青色カラーフィルターの物質が各々盛られている供給装置(図示せず)と連結される。
【0025】・・(略)・・第1乃至乃至第3ヘッド部111,113,115は、基板100の水平方向に赤色、緑色及び青色カラーフィルター物質を噴射して基板100のサブ画素101に赤色、緑色及び青色カラーフィルターを形成させる。」
(本オ)【0034】・・(略)・・不良判別されたサブ画素に該当するノズルの噴射量を補正する図4に示したような噴射量調節ユニットを更に含む。
【0035】
インクジェット印刷装置110の噴射量調節ユニットは、カメラ131から撮影されたサブ画素101の各々の透過度測定データを受信するコントローラ150と、コントローラ150がサブ画素101の各々の透過度測定データを基づいて判別した不良サブ画素に対応するノズルの噴射量を調節するノズル噴射補正部153と、ノズル噴射補正部153からセティング数値だけ噴射量が調節される赤色カラーフィルター、緑色カラーフィルター及び青色カラーフィルター物質噴射ノズル155,157,159とを含む。
【0036】・・(略)・・
【0038】
ノズル噴射補正部153は、コントローラ150から判別された不良サブ画素(基準透過量データと相違したサブ画素)を補正する。より具体的には、ノズル噴射補正部153は、不良サブ画素に噴射されるカラーフィルター物質の量を調節するための該当ノズルに貯蔵された噴射量セティング数値を補正する。
【0039】
赤色カラーフィルター、緑色カラーフィルター及び青色カラーフィルター物質噴射ノズル155,157,159は、ノズル噴射補正部153によって更新された補正セティング数値に該当する量のカラーフィルター該当のサブ画素に噴射する。
【0040】・・(略)・・
【0041】
以上では、基板100上にカラーフィルターを形成するインクジェット印刷装置110において、サブ画素101の各々の透過度を測定して予め設定された基準透過度と相違した透過度を有する不良サブ画素を判別し不良サブ画素のカラーフィルター物質を噴射するノズルの噴射量を調節することで、カラーフィルター基板の信頼度を向上させることができる。即ち、本発明のインクジェット印刷装置110は、各々のサブ画素毎に望む透過度のカラーフィルターを形成することで、染み不良を事前に防ぐことができる。
【0042】・・(略)・・
【0047】
不良サブ画素に該当ノズルのセッティング数値を算出してカラーフィルター物質の噴射量を補正セティング数値だけ調節して不良サブ画素の透過度を調節することができる(S140)。
【0048】・・(略)・・予め設定された基準透過度と相違した透過度を有するサブ画素に噴射されるカラーフィルター物質の噴射量を調節することで、・・(略)・・」

上記各記載によれば、「カラーフィルター物質を噴射するノズルの噴射量を調整する」ことが記載されていることは明らかである。

また、ノズルの内部構造に関して図面を含め出願当初明細書等には、具体的な説明がなされていない。

ウ そこで、上記出願当初明細書等における記載を再度参照すると、【0038】に、「ノズル噴射補正部153は、不良サブ画素に噴射されるカラーフィルター物質の量を調節するための該当ノズルに貯蔵された噴射量セティング数値を補正する。」との記載がある。
当該記載において、「貯蔵」との文言があるが、「ノズル」自体の内部に「貯蔵」されている物質の量を指しているのか、噴射時にノズルに供給されるために「ノズル」とは別途の場所に貯蔵される物質の量を指しているのか、「貯蔵」先が何処であるのかについては明確ではない。
そして、「貯蔵」に関する説明は当該記載のみであり、「ノズルに貯蔵された」物質の量そのものを調節することについての説明はなされておらず、ノズルの内部構造に関して、図面を含め出願当初明細書等に具体的な説明がなされていない事は上記したとおりであり、各々のノズル自体の内部に貯蔵するインクの量を可変とするインクジェットプリンタ用のノズル構造が周知のものであるとも言えない。
また、上記「該当ノズルに貯蔵された噴射量セティング数値を補正する。」との文言からは、「ノズルに」、「噴射量セティング数値」が「貯蔵されているかのような記載にもなっており、数値が貯蔵されているとの技術的意味が不明である。ここで、「噴射量セティング数値」については、【0035】に「ノズル噴射補正部153からセティング数値だけ噴射量が調節される赤色カラーフィルター、緑色カラーフィルター及び青色カラーフィルター物質噴射ノズル155,157,159」、【0039】に「赤色カラーフィルター、緑色カラーフィルター及び青色カラーフィルター物質噴射ノズル155,157,159は、ノズル噴射補正部153によって更新された補正セティング数値に該当する量のカラーフィルター該当のサブ画素に噴射する。」及び【0047】に 「噴射量を補正セティング数値だけ調節して不良サブ画素の透過度を調節することができる。」との記載があり、「噴射量セティング数値」に関する定義についての具体的な説明が無く、上記「貯蔵」されている場所との関係についても不明である。

してみると、上記【0038】の記載には「噴射量セティング数値」を補正することが記載されているものの、「ノズルの各々の内部に注入されたカラーフィルター物質の量を調節」することを説明しているとまでは言えない。
そして、出願当初明細書等の他の記載を参酌しても、「ノズルの各々の内部に注入されたカラーフィルター物質の量を調節」することに関する記載は認められない。

エ したがって、上記補正事項アによる補正は、出願当初明細書等に記載した事項の範囲内においてなされたものではない。
よって、上記補正事項アに係る補正を含む本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3 独立特許要件
(1)ここで、平成26年 3月 7日に請求人が提出した回答書によれば、
「明細書段落0018,0035,0038,0039,0041,0047,0048の記載に基づ」き、
「前記噴射量セッティング数値に従って前記不良サブ画素に該当するノズルの各々の内部に注入されたカラーフィルター物質の量を調節して、ノズルを用いて噴射量を調節する段階」
との発明特定事項を
「前記噴射量セッティング数値に従って前記不良サブ画素に該当するノズルから噴射されるカラーフィルター物質の量を調節して、ノズルを用いて噴射量を調節する段階」
と補正したい旨回答しており、当該記載内容であれば、出願当初明細書等に記載した事項の範囲内のものであることは明らかであるから、本件補正によって補正された請求項1に係る発明において、上記発明特定事項を上記補正案のように読み替えて、一応、本件補正が新規事項の追加ではないものと仮定して、独立特許要件(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するものであるのか否か)について以下、検討する。

なお、上記読み替えを行った請求項1に係る発明(以下「本願補正発明(読替)」という。)は以下のとおり。
「【請求項1】
赤色、緑色及び青色カラーフィルター材料を噴射する多数のノズルが具備された第1乃至第3ヘッド部方向へ基板を移動させながら、前記基板のサブ画素の各々に赤色、緑色及び青色カラーフィルターを形成する段階;
前記赤色、緑色及び青色カラーフィルターが形成される基板の1水平区間毎サブ画素の各々の透過度を順次測定する透過度測定段階;
予め設定されたサブ画素の基準透過度と前記測定されたサブ画素の透過度を比較して不良サブ画素を判別する段階;
前記不良サブ画素の補正数値をコントローラを用いて計算する段階;
前記補正数値に従って不良サブ画素に該当するノズルの噴射量セッティング数値をノズル噴射量調節部を用いて補正する段階;及び
前記噴射量セッティング数値に従って前記不良サブ画素に該当するノズルから噴射される(読み替え前「の各々の内部に注入された」)カラーフィルター物質の量を調節して、ノズルを用いて噴射量を調節する段階を含み、 前記透過度測定段階は、前記赤色、緑色及び青色のカラーフィルターを同時に撮影する複数個のCCDを備えるカメラにより測定され、
前記カメラは、前記基板の上に水平方向に配置されたカメラ支持バーに設置され、前記カメラ支持バーの長軸方向へ移動し、
前記基板上に配置されたカメラと前記基板下に配置された光発光ユニットが水平方向へ移動しながら測定され、
前記噴射量を調節する段階は、前記カラーフィルターの形成前に駆動され、調節された噴射量で各々のサブ画素毎に望む透過度のカラーフィルタ基板を形成することで染み不良を事前に防ぐことを特徴とするインクジェット印刷方法。」(なお、上記の下線は読み替え箇所を示す。)



(2)特許法第36条第6項第2号に関して
ア 拒絶査定における記載不備の拒絶の理由と請求人の主張の概要
(ア)拒絶査定の拒絶の理由
「・理由2(特許法第36条第6項第2号)
出願人は,平成25年5月14日付け意見書において,上記拒絶理由通知書(審決注:平成25年2月7日付けのもの)に記載した理由2.のd)について何ら意見を述べていないと認められる。
また,平成25年5月14日付け手続補正書による補正によっても,ノズルの噴射量を調節した後にどうするのかについては依然として明確でなく,最終的にどのようにサブ画素毎に望む透過度のカラーフィルターが形成できるのか理解することができない。
(なお,平成25年5月14日付け手続補正書による補正によって,カメラと噴射量調節部が,カラーフィルターの形成前に駆動されることが追加されたが,カラーフィルターの形成前には,そもそもサブ画素自体が存在しないから,カメラで何を撮影するのか不明であり,このような場合においても,どのようにサブ画素毎に望む透過度のカラーフィルターが形成できるのか理解することができない。)」
(イ)審判請求書において請求人は、以下の主張をしている。
「【記載不備の指摘事項に対する対処】
出願人は、審査官殿のご指摘に基づいて該当箇所を次のように補正した。 「前記噴射量を調節する段階は、前記カラーフィルターの形成前に駆動され、調節された噴射量で各々のサブ画素毎に望む透過度のカラーフィルター基板を形成することで染み不良を事前に防ぐ」
明細書段落0040を参照すると、本願発明の工程は、カラーフィルターの形成工程が行われる以前に行うことが明確に記載されており、また、明細書段落0041を参照すると、染み不良を事前に防ぐ工程であることが明確に記載されている。
したがって、本願発明は、「カラーフィルターの形成前」(段落0040及び0041参照)に基板(サンプル)からカラーフィルターを形成して噴射量を調節する発明であり、このように調節された噴射量で各々のサブ画素毎に望む透過度のカラーフィルター基板を形成することは、当業者にとって自明である。サンプルから噴射量を調節して、以後、基板を形成することは、引用文献6ないし8を参照しても当然な構成である。
このため、本願発明の特許請求の範囲の記載不備は解消される。」
(ウ)ここで、請求人主張の出願当初明細書【0040】、【0041】の記載は、以下のとおりである。
「【0040】
このように、インクジェット印刷装置110の噴射量調節ユニットは、始めに、基板100のカラーフィルター形成工程が進行される以前またはインクジェット印刷装置の構成交換(ノズル交換、ヘッド部交換、部品交換等)以後に駆動される。
【0041】
以上では、基板100上にカラーフィルターを形成するインクジェット印刷装置110において、サブ画素101の各々の透過度を測定して予め設定された基準透過度と相違した透過度を有する不良サブ画素を判別し不良サブ画素のカラーフィルター物質を噴射するノズルの噴射量を調節することで、カラーフィルター基板の信頼度を向上させることができる。即ち、本発明のインクジェット印刷装置110は、各々のサブ画素毎に望む透過度のカラーフィルターを形成することで、染み不良を事前に防ぐことができる。」

イ 判断
(ア)本件補正後の請求項1に記載の
「赤色、緑色及び青色カラーフィルター材料を噴射する多数のノズルが具備された第1乃至第3ヘッド部方向へ基板を移動させながら、前記基板のサブ画素の各々に赤色、緑色及び青色カラーフィルターを形成する段階;
前記赤色、緑色及び青色カラーフィルターが形成される基板の1水平区間毎サブ画素の各々の透過度を順次測定する透過度測定段階;
予め設定されたサブ画素の基準透過度と前記測定されたサブ画素の透過度を比較して不良サブ画素を判別する段階;
・・(略)・・前記噴射量セッティング数値に従って前記不良サブ画素に該当するノズルの各々の内部に注入されたカラーフィルター物質の量を調節して、ノズルを用いて噴射量を調節する段階を含み、」
との構成からは、「噴射量を調節する段階」を実施するためには、「基板の1水平区間毎サブ画素の各々の透過度を順次測定する透過度測定段階」が必要であり、透過度の測定を行うためには、「基板のサブ画素の各々に赤色、緑色及び青色カラーフィルターを形成する段階」を経ていることが必要であることは明らかである。
(イ)一方、本件補正後の請求項1の「噴射量を調節する段階は、前記カラーフィルターの形成前に駆動され、調節された噴射量で各々のサブ画素毎に望む透過度のカラーフィルタ基板を形成する 」との構成では、「カラーフィルターの形成前に」「噴射量を調節する段階」が「駆動され」るのであるから、当該「噴射量を調節する段階」が「駆動され」る時点では、カラーフィルターは形成されていないことになる。
したがって、本件補正後の請求項1の記載においては、「噴射量を調節する段階」における「カラーフィルターの形成」に関して矛盾した構成が含まれており、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
(ウ)なお、この点について請求人は、審判請求書において、上記ア(イ)の主張をしているが、【0040】には、「カラーフィルター形成工程が進行される以前」と記載されているが、カラーフィルターを形成する前とは記載されていない。また、【0041】には、「サブ画素101の各々の透過度を測定」するとの記載があるものの、当該「サブ画素」にカラーフィルターが形成されているか否かについては記載されておらず、また、「サンプル」に形成されている「サブ画素」である旨の説明もない。
さらに本願の出願当初明細書の【0043】には、「図5に図示されたように、本発明の一実施例によるインクジェット印刷方法は、まず始めに、基板にカラーフィルターを形成する前か、インクジェット印刷装置・・(略)・・に噴射量調節ユニットが駆動されるようにする(S100)。」との記載があるが、「駆動する」とは記載されておらず、図5のS100には、「印刷装備の構成交代完了」との記載があるものの、カラーフィルターを形成する前に噴射量調節ユニットを「駆動する」ことは記載されておらず、図5のフロー図自体には、S100の後に続けて「赤色、緑色、青色カラーフィルター形成」(S110)、「水平区間間サブピックセル各々の透過度測定」(S120)、「基準透過度と相違したサブピックセル判別」(S130)、「不良サブピックセルを補正することができるノズル補正」(S140)そして「終了」と示されており、カラーフィルター形成後に透過度を測定し、基準透過度と相違したサブピックセルを判別後不良サブピックセルを補正することができるノズル補正を行うことが示されているのみであり、これは、カラーフィルターの形成後に透過度測定及びノズル補正を行っていることを示していることは明らかである。
したがって、請求人の主張する出願当初明細書の記載を参酌しても、「カラーフィルター形成前」が、「基板(サンプル)」ではない「カラーフィルター基板を形成する」前であって、且つ基板(サンプル)にカラーフィルターを形成する時点であるとする根拠は見出せず、本件補正後の請求項1の記載は、依然として特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


(3)特許法第29条第2項に関して
ア 上記(2)イのように、「カラーフィルター形成前」との記載が不明瞭な記載ではあるが、上記(2)ア(イ)のように、「・・(略)・・サンプルから噴射量を調節して、以後、基板を形成することは、引用文献6ないし8を参照しても当然な構成である。」と請求人は主張していることから、「カラーフィルター形成前」が、出願当初明細書【0040】の「カラーフィルター形成工程が進行される以前」のことであって、なおかつ「噴射量を調節する段階」の為のカラーフィルターを形成し、調整を行ってから「カラーフィルター形成工程が進行される」ものであると仮定して、以下特許法第29条第2項についての検討を行う。
なお、上記仮定に際し、サンプル用の基板で調整を行って、調整後の噴射量で別途の製品用基板にカラーフィルターを形成することまでは、出願当初明細書の何れの記載からも限定できるものではない。
また、上記本件補正後の請求項1に係る発明の「前記噴射量セッティング数値に従って前記不良サブ画素に該当するノズルの各々の内部に注入されたカラーフィルター物質の量を調節して、ノズルを用いて噴射量を調節する段階」との発明特定事項については、上記(1)に記載したように、
「前記噴射量セッティング数値に従って前記不良サブ画素に該当するノズルから噴射されるカラーフィルター物質の量を調節して、ノズルを用いて噴射量を調節する段階」
と読み替えて、上記(1)で特定した「本願補正発明(読替)」について、以下検討する。

イ 刊行物及びその摘記事項
(ア)原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された、本願の優先権主張日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2000-266920号公報(以下「刊行物1」という。)には、「カラーフィルタの着色装置およびカラーフィルタ及び表示装置及び表示装置を備えた装置」(発明の名称)に関して、図1?図28と共に次の事項が記載されている。
(刊1ア)「【0006】
【課題を解決するための手段】上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係わるカラーフィルタの着色装置は、インクジェットヘッドによりカラーフィルタ基板に向けてインクを吐出して該カラーフィルタ基板を着色するためのカラーフィルタの着色装置であって、インクジェットヘッドによりカラーフィルタ基板を着色するための1つ以上の描画装置部と、前記カラーフィルタ基板の着色部の色濃度を光学的に測定するための1つ以上の測定装置部と、前記着色部の色濃度の測定結果に基づいて、前記描画装置部の着色動作条件を決定する着色動作条件決定部と、前記描画装置部と、前記測定装置部と、前記着色動作条件決定部の動作を制御するための制御手段とを具備することを特徴としている。
【0007】また、この発明に係わるカラーフィルタの着色装置において、前記描画装置部は、インクを吐出するためのインクジェットヘッドと、前記カラーフィルタ基板と前記インクジェットヘッドとを相対的に移動させるための移動手段とを備えることを特徴としている。
・・(略)・・
【0019】また、この発明に係わるカラーフィルタの着色装置において、前記測定装置部の測定結果に基づいて、カラーフィルタの各画素毎に付与されているインクの過不足量を算出する演算手段と、該演算手段により算出された各画素毎のインクの過不足量と、カラーフィルタの着色に用いられた着色動作条件とから、着色に使用するインクジェットヘッドの各ノズルの吐出条件を決定する吐出条件決定手段とを更に具備し、前記着色動作条件決定部は、前記吐出条件決定手段により決定された吐出条件に基づいて、着色動作条件を決定することを特徴としている。」

(刊1イ)「【0060】以下、本発明の第1の実施形態について説明する。
【0061】・・(略)・・
【0069】次に、各装置部の機能について述べる。
【0070】<描画(着色)装置部>描画装置部は、インクジェットヘッドからインクを吐出してカラーフィルタ基板を所望のパターンに着色する機能を持つ。
【0071】図9に描画装置部の模式図を示す。描画装置部は基板ステージ64と、基板をのせるチャック65と、RGBのインクジェットヘッド及びそれを固定するインクジェットヘッドユニット67とを備えている。基板ステージ64及びインクジェットヘッドユニット67は図8に示したステージコントローラにより位置制御可能である。またインクジェットヘッドによるインクの吐出は図8に示したヘッドコントローラにより制御することができる。
【0072】本実施形態では画素を短いラインパターンの集まりと考えて着色する。そこで画素に打ち込むインク量を、描画装置部のインク打ち込み密度(=インク打ち込み間隔)で制御する。図10は、打ち込みピッチをXマイクロメートルとして画素にインクを打ち込む模式図を表している。例えば、画素へ打ち込むインク量を増やすには、インク打ち込み密度を増やす。
【0073】描画時にはステージコントローラ、及びヘッドコントローラに所望のカラーフィルタ描画用の描画パラメータを設定することで、カラーフィルタを着色することができる。
【0074】<測定装置部>測定装置部は、インクジェットヘッドからのインク吐出により着色されたカラーフィルタの画素の一部またはすべてを光学測定する機能を持つ。
【0075】図11に測定装置部の模式図を示す。測定装置部は、基板ステージ74と、それをコントロールするステージコントローラ77と、CCDカメラ72と、画像処理装置75と、光源71と、照明系73と、制御用コンピュータ76とを備えて構成されている。照明系から光をカラーフィルタ基板の画素に照射し、その透過光をCCDカメラ72で撮影する。基板ステージ74を動かし、CCDカメラ72からのデータを画像処理装置75で処理することにより、所望のカラーフィルタ画素の透過光学濃度をデジタル値として得、測定結果をファイルとして保存できる。
【0076】本実施形態では、測定データはRGB各画素の透過率として記述した。本実施形態の処理範囲の一例について図12に示す。1画素の処理範囲は、RGBについてそれぞれの色の開口部すべての範囲である。測定範囲を設定することは、あるノズルで着色された画素について、その画素の光学測定値(ここでは透過率)を得ることを目的として行われる。したがって、測定の趣旨に沿っていれば、同時に複数の画素を測定しても構わない。
【0077】本実施形態での透過率とは、ある波長分布を持った光源を使用し、ある波長の感度分布を持ったCCDカメラで測定した透過率であるため、本実施形態の測定装置部の構成の中でのみ再現性のある透過率である。
【0078】カラーフィルタの測定時には、ステージコントローラ、画像処理装置75が必要とする測定パラメータを設定することで、行うことができる。
【0079】<着色条件決定部>着色条件決定部は、着色条件決定手段を持つ装置部である。着色条件決定とは、描画装置部がカラーフィルタの着色動作を行うために必要な描画パラメータを作製することである。カラーフィルタ画素に対してどの画素をどのノズルで着色するか、各画素についてどのようなインク打ち込み密度で着色するかを決定する。例えば、画素の色濃度を濃くしようとすれば、その画素を着色するインク打ち込み密度を高くする。
【0080】また着色条件決定部は、測定装置部の測定値に対して、最適インク打ち込み密度の変更量のテーブルを持っている。測定装置部によるある画素の測定データがAの場合には、その画素のインク打ち込み密度をB倍するといったものである。このテーブルは測定装置部の検出器の感度特性、照明の波長分布、使用するインクの種類などにより異なった値をとる。本実施形態では、使用するインク毎に、実験により変換テーブルを変更している。
【0081】カラーフィルタの着色時には、測定データ、測定パラメータ及び測定基板の描画パラメータデータをうけとることで、新描画パラメータを新しく生成する。
・・(略)・・
【0088】・・(略)・・初期描画パラメータには、描画装置部のインクジェットヘッドによりカラーフィルタの着色を行うことができる必要最小限のデータが含まれている。具体的には、カラーフィルタの各画素を着色するために使用するノズルの情報、及びインク打ち込み密度に関する情報が記述されている。」

(刊1ウ)「【0115】<着色条件決定部の動作>着色条件決定部は、着色システム制御部からの新描画パラメータ作製命令により、測定データの評価と新描画パラメータの作製を行う。
【0116】・・(略)・・
【0119】測定データは光学的な濃度に相関するため、各色ごとに各画素の光学濃度が標準値からどれだけずれているかで色むらを判断する。ずれ量が多い場合色むら不良品と判断する。標準値として絶対基準カラーフィルタ基板を測定装置部で測定した値を用いる。
【0120】・・(略)・・。
【0123】この後新描画パラメータを作製する(ステップS223)。新描画パラメータ作製命令に記述されている測定データ、描画パラメータから、各画素毎に、着色に使用したインクジェットヘッドノズルとインク打ち込み密度、その画素の透過率がわかるため、新描画パラメータでは透過率が一定となるようなインク打ち込み条件に設定できる。ここで初期描画パラメータの場合はインク打ち込み密度は予め設定されているものとなる。」

(刊1エ)「【0127】<着色システム制御部の全体動作>次に着色システム全体の制御について説明する。
【0128】本実施形態では着色システムの全体制御は、着色システム制御部で行う。
【0129】着色システム制御部による着色システムの全体制御の方法を示す。
【0130】・・(略)・・
【0138】描画パラメータ変更命令で着色システム制御部が指定する描画パラメータは以下の3種類に分けられる。
(a)適切描画パラメータ(良品が作製できると予想できる描画パラメータ、着色条件決定部から取得)
(b)初期描画パラメータ
(c)着色停止命令用描画パラメータ(着色動作停止命令)
適切描画パラメータは、測定データに基づいた描画パラメータである。
【0139】初期描画パラメータは、測定データに基づいていない描画パラメータである。
【0140】初期描画パラメータは、ヘッド交換やカラーフィルタ種の変更によりカラーフィルタ各画素の着色に使用するインクジェットヘッドノズルが変わった時に使用する。この時、初期描画パラメータbを初期描画パラメータ作製要求により作製しておく。
【0141】着色停止命令用描画パラメータは、描画装置部への着色動作停止命令に相当した描画パラメータである。描画装置部は、描画パラメータを(c)に変更する旨の描画パラメータ変更命令を受信すると、着色動作を停止するような構成になっている。
【0142】本実施形態では、一つの描画装置部を対象にして、新たに初期描画パラメータを提供する場合をスタートとして全体の流れを説明する。
【0143】着色システム制御部は、まず最初に、描画パラメータを(b)に変更する旨の描画パラメータ変更命令を出す(ステップS301)。
【0144】次に、(b)のパラメータによる描画装置部の着色動作が一回終わると(ステップS302)、この基板に対して測定命令を出す(ステップS303)。
【0145】続いて着色システム制御部は、描画パラメータを(c)に変更する旨の描画パラメータ変更命令(着色動作停止命令)を出す(ステップS304)。描画パラメータを(c)に変更する旨の描画パラメータ変更命令(着色動作停止命令)を出す理由は、(b)のパラメータにより描画装置部で着色動作を行った場合、不良品の確率が高いことが予想できるからである。
【0146】(b)による着色が終了したカラーフィルタ基板は、着色システム制御部による基板搬送部の制御により、速やかに測定装置部に送られる。測定装置部の測定と、これに続く着色条件決定部の新描画パラメータ決定により、着色システム制御部は新描画パラメータ(a1)を得る(ステップS305)。そして、描画パラメータを(a1)に変更する旨の描画パラメータ変更命令を出す(ステップS306)。
【0147】ここで(a1)と表現した理由は、適切描画パラメータ(a)の内容は更新可能なため説明上その内容の変更を表現するためである。描画パラメータを(a1)に変更する旨の描画パラメータ変更命令により(a1)による着色動作が始まる。着色システム制御部は、(a1)により描画装置部で着色した基板がX枚(例えば10枚)に達すると(ステップS307)、X枚目(10枚目)のカラーフィルタ基板に対し測定命令を出す(ステップS308)。
【0148】次に着色システム制御部が(a1)の条件で作製したX枚目(10枚目)のカラーフィルタ基板の測定データに基づく新描画パラメータ(a2)を受け取ると(ステップS305)、着色システム制御部は、描画パラメータを(a2)に変更する旨の描画パラメータ変更命令を出す(ステップS306)。・・(略)・・」

(刊1オ)図11として測定装置の模式図が記載されており、当該図面から、CCD72と照明系73とが、基板ステージ74上の板状物を挟んで対向していることが看取できる。
また、図12として測定装置の測定範囲を示す図が示されており、四角領域の斜線内にR,G,Bの各白抜き領域が有ることが看取できる。

上記摘示事項(刊1ア)?(刊1エ)を整理すると、刊行物1には次の発明が開示されている。
「インクジェットヘッドによりカラーフィルタ基板を着色するための1つ以上の描画装置部と、前記カラーフィルタ基板の着色部の色濃度を光学的に測定するための1つ以上の測定装置部と、前記着色部の色濃度の測定結果に基づいて、前記描画装置部の着色動作条件を決定する着色動作条件決定部と、前記描画装置部と、前記測定装置部と、前記着色動作条件決定部の動作を制御するための制御手段とを具備し、前記測定装置部の測定結果に基づいて、カラーフィルタの各画素毎に付与されているインクの過不足量を算出する演算手段と、該演算手段により算出された各画素毎のインクの過不足量と、カラーフィルタの着色に用いられた着色動作条件とから、着色に使用するインクジェットヘッドの各ノズルの吐出条件を決定する吐出条件決定手段とを更に具備し、前記着色動作条件決定部は、前記吐出条件決定手段により決定された吐出条件に基づいて、着色動作条件を決定するインクジェットヘッドによりカラーフィルタ基板に向けてインクを吐出して、各画素を着色することによりカラーフィルタを製造する装置の動作方法において、
描画装置部は、基板ステージ64と、基板をのせるチャック65と、RGBのインクジェットヘッド及びそれを固定するインクジェットヘッドユニット67と、前記カラーフィルタ基板と前記インクジェットヘッドとを相対的に移動させるための移動手段とを備え、基板ステージ64及びインクジェットヘッドユニット67はステージコントローラにより位置制御可能であり、インクジェットヘッドによるインクの吐出はヘッドコントローラにより制御し、画素を短いラインパターンの集まりと考えて着色する際に、画素に打ち込むインク量を、描画装置部のインク打ち込み密度(=インク打ち込み間隔)で制御し、
測定装置部は、インクジェットヘッドからのインク吐出により着色されたカラーフィルタの画素の一部またはすべてを光学測定する機能を持ち、基板ステージ74と、それをコントロールするステージコントローラ77と、CCDカメラ72と、画像処理装置75と、光源71と、照明系73と、制御用コンピュータ76とを備えて構成され、照明系から光をカラーフィルタ基板の画素に照射し、その透過光をCCDカメラ72で撮影し、基板ステージ74を動かし、CCDカメラ72からのデータを画像処理装置75で処理することにより、所望のカラーフィルタ画素の透過光学濃度をデジタル値として得、測定結果をファイルとして保存し、測定データはRGB各画素の透過率とし、1画素の処理範囲は、RGBについてそれぞれの色の開口部すべての範囲であり、あるノズルで着色された画素について、その画素の光学測定値(ここでは透過率)を得ることを目的として行われ、同時に複数の画素を測定しても構わず、
着色条件決定部は、カラーフィルタ画素に対してどの画素をどのノズルで着色するか、各画素についてどのようなインク打ち込み密度で着色するかを決定する着色条件決定手段を持つ装置部であり、測定装置部の測定値に対して、最適インク打ち込み密度の変更量のテーブルを持ち、カラーフィルタの着色時には、測定データ、測定パラメータ及び測定基板の描画パラメータデータをうけとることで、新描画パラメータを新しく生成するものであって、
着色条件決定部の動作として、
標準値として絶対基準カラーフィルタ基板を測定装置部で測定した値を用い、各色ごとに各画素の光学濃度が標準値からどれだけずれているかで色むらを判断し、ずれ量が多い場合色むら不良品と判断し、
測定データ、描画パラメータから、各画素毎に、着色に使用したインクジェットヘッドノズルとインク打ち込み密度、その画素の透過率から、透過率が一定となるようなインク打ち込み条件に設定し、
描画パラメータには、描画装置部のインクジェットヘッドによりカラーフィルタの着色を行うことができるデータが含まれ、カラーフィルタの各画素を着色するために使用するノズルの情報、及びインク打ち込み密度に関する情報が含まれており、
着色システム制御部の全体動作として、
まず最初に、描画パラメータを、ヘッド交換やカラーフィルタ種の変更によりカラーフィルタ各画素の着色に使用するインクジェットヘッドノズルが変わった時に、予め設定され測定データに基づいていない描画パラメータである初期描画パラメータ(b)に変更し、
初期描画パラメータ(b)による描画装置部の着色動作が一回終わると描画パラメータを着色停止命令用描画パラメータ(c)に変更する旨の描画パラメータ変更命令(着色動作停止命令)を出し、
初期描画パラメータ(b)による着色が終了したカラーフィルタ基板は、測定装置部に送られ、測定装置部の測定と、これに続く着色条件決定部の新描画パラメータ決定により、着色システム制御部は新描画パラメータである適切描画パラメータ(良品が作製できると予想できる描画パラメータ、着色条件決定部から取得)(a1)を得、描画パラメータを適切描画パラメータ(a1)に変更する旨の描画パラメータ変更命令により適切描画パラメータ(a1)による着色動作が始まる
カラーフィルタを製造する装置の動作方法」(以下「刊行物発明」という。また、「着色条件決定部」、「着色動作決定部」は、同一のものであるので、以下両者を共に、「着色動作決定部」という。)

ウ 刊行物1に基づく当審の判断
(ア)対比
本願補正発明(読替)と刊行物発明とを対比すると、
a 刊行物発明の「インクジェットヘッドノズル」は、本願補正発明(読替)の「ノズル」に相当し、刊行物発明の「RGBのインクジェットヘッド」は、「RGB」のインク用の「インクジェットヘッドノズル」であることは明らかであるから、刊行物発明の「RGBのインクジェットヘッド」と、本願補正発明(読替)の「赤色、緑色及び青色カラーフィルター材料を噴射する多数のノズルが具備された第1乃至第3ヘッド部」とは、「赤色、緑色及び青色カラーフィルター材料を噴射する」「ノズルが具備された」「ヘッド部」である点で一致する。
b 刊行物発明は、「カラーフィルタ基板と前記インクジェットヘッドとを相対的に移動させるための移動手段」を有し、「RGBについてそれぞれの色の開口部」を「ノズルで着色」することで、RGBカラーフィルターを製造するのであるから、刊行物発明のRGBカラーフィルターを製造することと、本願補正発明(読替)の「ヘッド部方向へ基板を移動させながら、前記基板のサブ画素の各々に赤色、緑色及び青色カラーフィルターを形成する段階」とは、「ヘッド部と基板とを相対的に移動させながら、前記基板のサブ画素の各々に赤色、緑色及び青色カラーフィルターを形成する段階」点で一致する。
c 刊行物発明は「初期描画パラメータ(b)による描画装置部の着色動作が一回終わると」、「初期描画パラメータ(b)による着色が終了したカラーフィルタ基板は、測定装置部に送られ、測定装置部の測定」がなされ、「着色動作条件決定部」により「カラーフィルタ画素に対してどの画素をどのノズルで着色するか、各画素についてどのようなインク打ち込み密度で着色するかを決定」されるものであるから、着色動作1回分についての測定が行われることは明らかである。
そして、測定は、「照明系から光をカラーフィルタ基板の画素に照射し、その透過光をCCDカメラ72で撮影し、基板ステージ74を動かし、CCDカメラ72からのデータを画像処理装置75で処理することにより、所望のカラーフィルタ画素の透過光学濃度をデジタル値として得」、「1画素の処理範囲は、RGBについてそれぞれの色の開口部すべての範囲であり、あるノズルで着色された画素について、その画素の光学測定値(ここでは透過率)を得ることを目的として行われ、同時に複数の画素を測定しても構わ」ないものであり、「各色ごとに各画素の光学濃度が標準値からどれだけずれているかで色むらを判断」している。
ここで、「同時に複数の画素を測定しても構わ」ないとしていることから、複数の画素を測定する際に、1画素毎の測定を行うことが前提となっていることは明らかであり、この場合隣の画素へ測定のために移動するものと理解するのが相当である。また、引用発明は、「各色ごとに」「色むらを判断」しているのであるから、RGBにより形成される画素のR、G、Bそれぞれの開口部即ち本願補正発明(読替)の「サブ画素」のそれぞれについて、それぞれの透過度を測定しているものである。
してみると、引用発明の測定装置部による測定は、本願補正発明(読替)の「赤色、緑色及び青色カラーフィルターが形成される基板の1水平区間毎サブ画素の各々の透過度を測定する透過度測定段階」の点で一致する。
d 刊行物発明の「着色動作条件決定部」の「標準値として絶対基準カラーフィルタ基板を測定装置部で測定した値を用い、各色ごとに各画素の光学濃度が標準値からどれだけずれているかで色むらを判断し、ずれ量が多い場合色むら不良品と判断」することは、本願補正発明(読替)の「予め設定されたサブ画素の基準透過度と前記測定されたサブ画素の透過度を比較して不良サブ画素を判別する段階」に相当する。
e 刊行物発明の「着色動作条件決定部」、「『着色システム制御部』及び『ヘッドコントローラ』」は、それぞれ本願補正発明(読替)の「コントローラ」、「ノズル噴射量調節部」に相当し、また、刊行物発明の「描画パラメータ」は、「描画装置部のインクジェットヘッドによりカラーフィルタの着色を行うことができるデータが含まれ、カラーフィルタの各画素を着色するために使用するノズルの情報、及びインク打ち込み密度に関する情報」を含んでいるから、
刊行物発明の「着色動作条件決定部」は、「前記測定装置部の測定結果に基づいて、カラーフィルタの各画素毎に付与されているインクの過不足量を算出する演算手段と、該演算手段により算出された各画素毎のインクの過不足量と、カラーフィルタの着色に用いられた着色動作条件とから、着色に使用するインクジェットヘッドの各ノズルの吐出条件を決定する吐出条件決定手段」「により決定された吐出条件に基づいて、着色動作条件を決定」し、その際、「測定装置部の測定値に対して、最適インク打ち込み密度の変更量のテーブルを持ち、カラーフィルタの着色時には、測定データ、測定パラメータ及び測定基板の描画パラメータデータをうけとることで、新描画パラメータを新しく生成するものであって」、「カラーフィルタ画素に対してどの画素をどのノズルで着色するか、各画素についてどのようなインク打ち込み密度で着色するかを決定」すること、及び、「着色動作条件決定部の新描画パラメータ決定により、着色システム制御部は新描画パラメータである適切描画パラメータ(良品が作製できると予想できる描画パラメータ、着色動作条件決定部から取得)(a1)を得、描画パラメータを適切描画パラメータ(a1)に変更する旨の描画パラメータ変更命令により適切描画パラメータ(a1)による着色動作が始ま」り、その際に、「描画装置部」の「ヘッドコントローラにより」「インクジェットヘッドによるインクの吐出」「を制御し」、「画素に打ち込むインク量を、描画装置部のインク打ち込み密度(=インク打ち込み間隔)で制御」することと、
本願補正発明(読替)の「前記不良サブ画素の補正数値をコントローラを用いて計算する段階: 前記補正数値に従って不良サブ画素に該当するノズルの噴射量セッティング数値をノズル噴射量調節部を用いて補正する段階:及び前記噴射量セッティング数値に従って前記不良サブ画素に該当するノズルから噴射される(読み替え前「の各々の内部に注入された」)カラーフィルター物質の量を調節して、ノズルを用いて噴射量を調節する段階」とは、
「不良サブ画素の補正パラメータをコントローラを用いて設定する段階:補正パラメータに従って不良サブ画素に該当するノズルの噴射量をノズル噴射量調節部を用いて補正する段階:及び噴射量セッティング数値に従って前記不良サブ画素に該当するノズルから噴射されるカラーフィルター物質の量を調節して、ノズルを用いて噴射量を調節する段階」の点で一致する。
f 引用発明のCCDカメラ72は、カメラとして、CCDを備えていることは明らかであるから、引用発明の「照明系から光をカラーフィルタ基板の画素に照射し、その透過光をCCDカメラ72で撮影し、基板ステージ74を動かし、CCDカメラ72からのデータを画像処理装置75で処理することにより、所望のカラーフィルタ画素の透過光学濃度をデジタル値として得、測定結果をファイルとして保存し、測定データはRGB各画素の透過率とし、1画素の処理範囲は、RGBについてそれぞれの色の開口部すべての範囲であり、あるノズルで着色された画素について、その画素の光学測定値(ここでは透過率)を得る」ことと、
本願補正発明(読替)の「透過度測定段階は、前記赤色、緑色及び青色のカラーフィルターを同時に撮影する複数個のCCDを備えるカメラにより測定され、前記カメラは、前記基板の上に水平方向に配置されたカメラ支持バーに設置され、前記カメラ支持バーの長軸方向へ移動し、前記基板上に配置されたカメラと前記基板下に配置された光発光ユニットが水平方向へ移動しながら測定され、」とは、
「透過度測定段階は、前記赤色、緑色及び青色のカラーフィルターを同時に撮影するCCDを備えるカメラにより測定され、
前記カメラは、前記基板の上に設置され、
前記基板上に配置されたカメラと前記基板下に配置された光発光ユニットと基板とを相対的に移動しながら測定され」る点で一致している。
g そうすると、両者は、
「赤色、緑色及び青色カラーフィルター材料を噴射するノズルが具備されたヘッド部と基板とを相対的に移動させながら、前記基板のサブ画素の各々に赤色、緑色及び青色カラーフィルターを形成する段階;
前記赤色、緑色及び青色カラーフィルターが形成される基板の1水平区間毎サブ画素の各々の透過度を順次測定する透過度測定段階;
予め設定されたサブ画素の基準透過度と前記測定されたサブ画素の透過度を比較して不良サブ画素を判別する段階;
前記不良サブ画素の補正パラメータをコントローラを用いて設定する段階:
前記補正パラメータに従って不良サブ画素に該当するノズルの噴射量をノズル噴射量調節部を用いて補正する段階:及び
前記噴射量セッティング数値に従って前記不良サブ画素に該当するノズルから噴射されるカラーフィルター物質の量を調節して、ノズルを用いて噴射量を調節する段階
を含み、
前記透過度測定段階は、前記赤色、緑色及び青色のカラーフィルターを同時に撮影するCCDを備えるカメラにより測定され、
前記カメラは、前記基板の上に設置され、
前記基板上に配置されたカメラと前記基板下に配置された光発光ユニットと基板とを相対的に移動しながら測定される、
インクジェット印刷方法。」
の点で一致するものの、次の点で相違する。

*相違点1:ヘッド部が、本願補正発明(読替)では、「多数のノズルが具備された第1乃至第3ヘッド部」であるのに対して、刊行物発明では、ヘッドの構造が不明である点。

*相違点2:カラーフィルター形成時の基板の移動について、本願補正発明(読替)では、「ヘッド部方向へ基板を移動させながら」形成しているのに対して、刊行物発明では、「相対的に移動」させる点。

*相違点3:サブ画素の各々の透過度の測定に際して、本願補正発明(読替)では、「順次」行っているのに対して、引用発明では、その様な特定がなされていない点。

*相違点4:ノズルからの噴射量の補正について、本願補正発明(読替)では、「補正数値をコントローラを用いて計算」し、「前記補正数値に従って」「ノズルの噴射量セッティング数値」を補正し、補正された「前記噴射量セッティング数値に従って前記不良サブ画素に該当するノズルから噴射されるカラーフィルター物質の量を調節して、ノズルを用いて噴射量を調節」しているのに対して、刊行物発明では、その様な特定がなされていない点。

*相違点5:カメラが備えているCCDが本願補正発明(読替)では、「複数」であり、カメラが、「基板の上に水平方向に配置されたカメラ支持バーに設置され、前記カメラ支持バーの長軸方向へ移動し」、また、「基板上に配置されたカメラと前記基板下に配置された光発光ユニットが水平方向へ移動」するのに対して、刊行物発明では、CCDが複数で有るか否か不明であり、また、カメラと照明は移動せず、基板が移動する点。

*相違点6:「噴射量を調節する段階」を、本願補正発明(読替)では、「前記カラーフィルターの形成前に駆動され、調節された噴射量で各々のサブ画素毎に望む透過度のカラーフィルタ基板を形成することで染み不良を事前に防ぐ」のに対して、刊行物発明では、「ヘッド交換やカラーフィルタ種の変更によりカラーフィルタ各画素の着色に使用するインクジェットヘッドノズルが変わった時」に行う点。

(イ)相違点についての判断
ここで、上記各相違点について検討する。

a 相違点1について
カラーフィルター形成用のインクジェット装置の技術分野において、例えば、特開2008-249986号公報(以下「刊行物2」という。)の【0080】の「インクジェットヘッドは1ヘッドにつき100ノズルを有するものを用い、1色につき1ヘッド、すなわちRGB3色にて3ヘッドを用いた。」、2000-147243号公報(以下「刊行物3」という。)の【0032】の「カラーフィルタ製造装置90に使用されるインクジェットヘッド55の構造を示す図である。図1においては、インクジェットヘッドはR,G,Bの3色に対応して3個設けられ」及び【0033】の「図3において、インクジェットヘッド55は、・・(略)・・複数の吐出口108が形成」との記載等、多数のノズルを有する各色毎の複数のヘッドを設けることは、周知の技術手段にすぎず、引用発明においても、その様な構成を有しているか、少なくともその様な構成を採用することは必要に応じて適宜設定する設計事項にすぎない。

b 相違点2について
引用発明においては、「カラーフィルタ基板と前記インクジェットヘッドとを相対的に移動」させるものであり、基板とインクジェットヘッドとの何れを移動させても良いことは明らかである。
また、基板ステージを形成して、基板を移動させることは、例えば、刊行物3の【0048】の「インクジェットヘッドが基板上を相対的に複数回走査しながらインクを吐出する際、インクジェットヘッドを固定して基板を移動させることにより相対的走査を行う場合と、基板を固定してインクジェットヘッドを移動させることにより相対的走査を行う場合のいずれも可能である」、特開2003-191462号公報(以下「刊行物4」という。)の【0059】の「先ずX軸テーブル23が駆動し、基板Wを主走査方向に往動させると共に複数の機能液滴吐出ヘッド7を駆動して、機能液滴の基板Wへの選択的な吐出動作が行われる。基板Wが復動した後、こんどはY軸テーブル24が駆動し、ヘッドユニット26を1ピッチ分、副走査方向に移動させ、再度基板Wの主走査方向への往復移動と機能液滴吐出ヘッド7の駆動が行われる。」、【0061】の「ヘッドユニット26に対し、その吐出対象物である基板Wを主走査方向(X軸方向)に移動させるようにしているが、ヘッドユニット26を主走査方向に移動させる構成であってもよい。また、ヘッドユニット26を固定とし、基板Wを主走査方向および副走査方向に移動させる構成であってもよい。」との記載にもあるように周知の技術事項である。
したがって、引用発明において、カラーフィルター形成時の基板の移動について、「ヘッド部方向へ基板を移動させながら」行わせることは、実質的に記載されているか、少なくとも適宜設定しうる設計的事項にすぎない。

c 相違点3について
引用発明では、「RGBについてそれぞれの色の開口部すべての範囲」をカメラで撮影し、RGBの各色ごとの透過度を検出している。各色ごとの透過度の検出に際しては、どの様に処理を行っているのか具的な方法が記載されていないものの、各開口部毎に個別にデータ処理をしなければ、各色ごとの透過度を特定できないことは明らかであるから、画像データの処理に際して、各色毎に順次処理を行うのか、同時並列的に行うのかは適宜設定しうる設計的事項の範囲のものである。
また、引用発明においては、RGBの各開口毎に透過度を特定することが必要であるから、RGBの全開口部を同時に撮影して、個別に処理を行う物に変えて、各開口毎に撮影をするようすることも当業者の設計的事項にすぎない。
したがって、サブ画素の各々の透過度の測定に際して「順次測定」することが、撮影したデータ内のサブ画素毎の処理を順次行うにしろ、撮影自体を順次行うにしろ、何れにおいても当業者ならば容易に想到し得た事項にすぎない。
なお、特開平10-319228号公報(以下「刊行物5」という。)の【0053】には、「個々の単色画素の着色層毎に1組の光源と受光素子を配置することもできるが、少ない光源又は/及び受光素子の走査により順次測定する」との記載があり、色毎に測定することが記載されている。

d 相違点4について
(a)相違点4に係る本願補正発明(読替)の「補正数値をコントローラを用いて計算」することについて検討する。
引用発明は、「測定装置部の測定結果に基づいて、カラーフィルタの各画素毎に付与されているインクの過不足量を算出する演算手段と、該演算手段により算出された各画素毎のインクの過不足量と、カラーフィルタの着色に用いられた着色動作条件とから、着色に使用するインクジェットヘッドの各ノズルの吐出条件を決定する吐出条件決定手段とを更に具備し、前記着色動作条件決定部は、前記吐出条件決定手段により決定された吐出条件に基づいて、着色動作条件を決定するインクジェットヘッドによりカラーフィルタ基板に向けてインクを吐出して、各画素を着色する」ものである。
上記「インクの過不足量」の「算出」に際しては、まず、「着色動作条件決定部」の「標準値として絶対基準カラーフィルタ基板を測定装置部で測定した値を用い、各色ごとに各画素の光学濃度が標準値からどれだけずれているかで色むらを判断し、ずれ量が多い場合色むら不良品と判断」するものであり、標準値としての光学濃度と測定値としての光学濃度との差分を算出してずれ量としていることは明らかである。
また、引用発明では、「インクの過不足量と、カラーフィルタの着色に用いられた着色動作条件とから、着色に使用するインクジェットヘッドの各ノズルの吐出条件を決定」する際に、「測定装置部の測定値に対して、最適インク打ち込み密度の変更量のテーブルを持」っており、「測定データ、測定パラメータ及び測定基板の描画パラメータをうけとることで、新描画パラメータを新しく生成するものであって」、「各画素についてどのようなインク打ち込み密度で着色するかを決定」しているものである。
ここで、単一の実測定値のみではテーブル変換で得られるのは、測定した画素の打ち込まれたインクの量だけであり、各画素毎のインクの過不足量からノズルの吐出条件を決定するためには、標準値とのずれ量に応じたインクの量をテーブルから得ていることも当業者にとって明らかである。
したがって、引用発明における上記「インクの過不足量」の「算出」に際しては、測定した光学濃度値と標準値とのずれ量である差分を算出して、当該差分値に応じたインクの過不足量をテーブルから得ているものである。
そして、測定値からずれ量を算出し、あらたなインクの量を得るために、テーブルを用いるか、関係式を作成して算出をするかは、異なるパラメータ間の変換に際しての常套手段にすぎず、インクジェットによってカラーフィルターを作成する技術分野において、作成したカラーフィルターの光学的検出値に基づいて、新たなインクの量を算出する際にも、例えば、特開2000-193814号公報(以下「刊行物6」という。)の下記【0030】?【0036】の記載のように周知技術手段にすぎず、引用発明においても、テーブルに変えて、関係式を用いた補正値の算出を行うことは適宜設定しうる事項にすぎない。
したがって、相違点4に係る本願補正発明(読替)の「補正数値をコントローラを用いて計算」することは、当業者ならば刊行物6に記載された周知技術に基づいて容易に想到し得た事項である。

<<刊行物6の記載事項>>
「【0030】次に、上記検査結果をインク量の決定手段とするカラーフィルタの製造手順について説明する。
【0031】(a)適切なインク量で着色されたカラーフィルタの各着色部について、上記検査手順で透過率を測定する。該透過率が目標値となる。
【0032】(b)何点かインク量を振って着色を行ない、その透過率から、インク変化量と透過率変化量の対応づけを行なう。これに基づいて、透過率変化量を実際のインク量の変化量に換算する係数を算出する。
【0033】以上が前準備にあたる。
【0034】(c)新たに着色したカラーフィルタについて、前記検査手順に沿って透過率を測定して色ムラの検査を行ない、その結果と上記(a)の目標値とのずれ量を算出する。
【0035】(d)上記(c)で算出したずれ量に対して、(b)で算出した変換係数を考慮して、新たなインク量を算出する。
【0036】(e)上記(d)の結果をカラーフィルタの着色工程へフィードバックし、インク量の制御を行なう。尚、オンデマンド型インクジェットヘッドを用いたカラーフィルタの着色工程を用いる場合には、インク量の制御はノズルから吐出されるインク滴の体積を制御する方法の他に、カラーフィルタ上に付与されるインク滴の間隔で制御されることが一般的である。」

(b)相違点4に係る本願補正発明(読替)の「前記補正数値に従って」「ノズルの噴射量セッティング数値」を補正し、補正された「前記噴射量セッティング数値に従って前記不良サブ画素に該当するノズルから噴射されるカラーフィルター物質の量を調節して、ノズルを用いて噴射量を調節」することについて検討する。
引用発明は、「インクの過不足量」を得て「新描画パラメータを新しく生成」し、「新描画パラメータ」に応じたインクの量を吐出するのであるから、引用発明の「インクの過不足量」、「新描画パラメータ」は、それぞれ本願補正発明の「補正数値」、「『ノズル噴射量セッティング数値』及び『噴射量セッティング数値』」に相当するものである。
ここで、引用発明の吐出量としては、「インク打ち込み密度」を調節しているところ、吐出するインクの体積自体の調節を行うか、インク滴の間隔即ち密度の調整を行うかは、例えば、刊行物6の上記【0036】の「インク量の制御はノズルから吐出されるインク滴の体積を制御する方法の他に、カラーフィルタ上に付与されるインク滴の間隔で制御されることが一般的」との記載、刊行物3の【0034】の「従って、ヒータ102に加える駆動パルスを制御、例えば電力の大きさを制御することにより気泡の大きさを調整することが可能であり、吐出口から吐出されるインクの体積を自在にコントロールすることができる。」及び【0071】の「次に、図14乃至図16は、各インク吐出ノズルからのインク吐出密度を調整することにより、インクジェットヘッドの走査方向の濃度ムラを補正する方法(以下シェーディング補正と呼ぶ)を示す図である。」との記載、特開2007-136310号(以下「刊行物7」という。)の【0017】の「これらの場合、データ補正工程は、各ノズルからのショット数の増減および/または1ショット当たりの機能液吐出量の増減により、機能液付与量が増減するように、吐出パターンデータを補正することが好ましい。」、【0018】の「この構成によれば、各ノズルからのショット数を増減させる、あるいは1ショット当たりの機能液吐出量を増減させるという簡易な制御により、各仮想分割部位に対する機能液付与量を増減させることができる。」との記載等に示されているように、周知の選択的な設計的事項にすぎない。
したがって、引用発明において、周知の選択的事項の一方を選択することで、相違点4に係る本願補正発明(読替)の「前記補正数値に従って」「ノズルの噴射量セッティング数値」を補正し、補正された「前記噴射量セッティング数値に従って前記不良サブ画素に該当するノズルから噴射されるカラーフィルター物質の量を調節して、ノズルを用いて噴射量を調節」する構成とすることは、当業者の設計的事項にすぎない。

e 相違点5について
(a)相違点5に係る本願補正発明(読替)のCCDが「複数」ある点について検討する。
引用発明は、「CCDカメラ72からのデータを画像処理装置75で処理する」際の「1画素の処理範囲は、RGBについてそれぞれの色の開口部すべての範囲であり、あるノズルで着色された画素について、その画素の光学測定値(ここでは透過率)を得ることを目的として行われ、同時に複数の画素を測定しても構わ」いとされており、少なくとも、1回の測定において、RGBについてそれぞれの色の開口部すべての範囲である1画素分のデータを取得しているものである。CCDは、そのセンサ領域及び分解能において種々のものがあり、2次元の領域で画像データを取得するに際して、各色毎にラインセンサを複数設けるか、2次元画像を一度に取得する単一のエリアセンサを用いるか、或いは小さなエリアセンサを複数用いるか等は、費用対効果等によって適宜設定する設計事項にすぎない。
また、上記「c 相違点3について」での検討において摘記した刊行物5の上記【0053】の記載のように、各色ごとに1組の光源と受光素子を配置することからも、CCDを複数とすることは適宜採用しうる程度のものである。
なお、本願の当初明細書の【0028】には、「カメラ131は、赤色、緑色及び青色カラーフィルターの透過度を一度に撮影することができるように複数個のCCD(・・(略)・・)を具備する。」旨説明されており、CCDを複数用いる際の信号処理、或いは、複数のCCDの配置関係等について特段の説明は記載されておらず、3色のフィルターを一度に撮影することができれば「複数」との限定をすることによって、特段の技術的意味がある旨の説明はなされておらず、本願補正発明(読替)に「複数個のCCD」との発明特定事項において格別な効果は見いだせない。

(b)相違点5に係る本願補正発明(読替)の、カメラが、「基板の上に水平方向に配置されたカメラ支持バーに設置され、前記カメラ支持バーの長軸方向へ移動し」、また、「基板上に配置されたカメラと前記基板下に配置された光発光ユニットが水平方向へ移動」する点について検討する。
引用発明は、基板上の所定の位置を選択してカメラによる撮影を行うに際して、基板を移動させるものであるが、基板の所定の位置を設定するに際しては、基板に対して、カメラと照明とが同時に相対的に移動すれば良いことは明らかであり、引用発明において、カメラを固定して基板の移動のみに限定させるべき特段の理由はなく。適宜選択的に設定しうる設計事項にすぎない。
また、基板上を、部材を横断させる手段として、支持部材を基板上に横断的に配置し、支持部材の長軸方向に沿って部材を移動させることは、例えば、刊行物5の図5の、基板43上のガイドレール42と受光素子47、特開2004-117739号公報(以下「刊行物8」という。)の図1のカラーフィルタ50上のコラムの梁部2aとカメラ5との配置関係等周知の技術手段にすぎない。
そして、引用発明においては、基板上の複数画素を相対的に移動してカメラによる測定をする際には、透過度という光学的測定を行うことから、移動に際しては、基板とカメラとの間隔及び照明とカメラとの間隔を一定の状態にしておく必要があることは明らかであるから、上記のように、基板上をカメラが移動することを採用した場合には、基板に対してカメラが平行状態である水平方向に移動させ、カメラと共に、照明も間隔を一定として移動させるようにすること即ち水平方向に移動させることは、当然考慮される事項にすぎない。

f 相違点6について
引用発明は、「ヘッド交換やカラーフィルタ種の変更によりカラーフィルタ各画素の着色に使用するインクジェットヘッドノズルが変わった時」に、予め設定された初期描画パラメータに基づいて最初の着色動作を一回行って、当該着色動作によって形成されたカラーフィルタの透過度を測定して、新たな描画パラメータを設定し直しているものであり、初期描画パラメータによる着色動作が必ずしも適切でないことが明らかであるために透過度の測定を行っているものであるから、一種のテストを行っているものである。
そして、テストを行うに際して、テスト専用領域を設けるか、製品領域内でのテストとするかは何れも周知の技術手段であり、カラーフィルタの製造技術の分野においても、例えば、刊行物5の【0037】に記載されている「製造直前の吐出テストで用いる方法である。この場合には、非表示領域部であるダミー基板や基板の非表示領域部に対して、あらかじめインクジェットヘッドからインクを吐出してダミーの着色層を形成する。この着色層の吸光度を同色の別の画素の着色層の吸光度とで比較する。その吸光度の差が所定値内になるように、各インクジェットノズルへの駆動状態を変更してインクの吐出量を調整する。その後に、表示領域部に対してインクの吐出を行う。」等のテスト方法等よく知られたものである。
したがって、引用発明において、上記最初の着色動作を行う領域を、テスト専用の領域として位置付けるか、製品領域におけるテスト領域として扱うか、或いは、ずれ量が大きい場合には不良品として扱う製品領域とするかについては、適宜設定しうる設計的事項の範囲のものである。
また、引用発明において、製品領域外のテスト専用領域でテストを行う方法を採用すれば、「前記カラーフィルターの形成前に駆動され、調節された噴射量で各々のサブ画素毎に望む透過度のカラーフィルタ基板を形成することで染み不良を事前に防ぐ」ことになるのは明らかである。
したがって、引用発明において上記周知技術に基づき、相違点6に係る本願補正発明(読替)の構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。

(ウ)刊行物1に基づく当審の判断のまとめ
したがって本件補正発明における本件補正事項に係る構成が、新規事項の追加ではないものと仮定しても、本願補正発明(読替)は、刊行物発明及び刊行物2?8に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)独立特許要件に関するまとめ
本件補正後の請求項1に係る発明の「前記噴射量セッティング数値に従って前記不良サブ画素に該当するノズルの各々の内部に注入されたカラーフィルター物質の量を調節して、ノズルを用いて噴射量を調節する段階」との発明特定事項が、仮に、「前記噴射量セッティング数値に従って前記不良サブ画素に該当するノズルから噴射されるカラーフィルター物質の量を調節して、ノズルを用いて噴射量を調節する段階」であるとの意味であったとしても、上記(2)のように、本件補正後の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
さらに、「カラーフィルター形成前」との記載が、仮に、「カラーフィルター形成工程が進行される以前」であって、「噴射量を調節する段階」の為のカラーフィルターを形成し調整を行ってから、「カラーフィルター形成工程が進行される」ものであるとの意味であったとしても、上記(3)のように、本願補正発明(読替)は、刊行物発明及び刊行物2?8に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

4 まとめ
よって、上記2より、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
或いは、上記3より、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願の請求項1?5に係る発明について
1 本願の請求項1?5に係る発明
本件補正は上記「第2 補正の却下の決定」での検討のとおり却下されたので、本願の請求項1?5に係る発明は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1?5に記載されたとおりのものであるところ、請求項5に係る発明(以下「本願発明」という。)は、請求項4に係る発明を引用していることから請求項4及び請求項5に記載された次のとおりのものである。

「赤色、緑色及び青色カラーフィルター材料を噴射する多数のノズルが具備された第1乃至第3ヘッド部方向へ基板を移動させながら、前記基板のサブ画素の各々に赤色、緑色及び青色カラーフィルターを形成する段階;
前記赤色、緑色及び青色カラーフィルターが形成される基板の1水平区間毎サブ画素の各々の透過度を順次測定する透過度測定段階;
予め設定されたサブ画素の基準透過度と前記測定されたサブ画素の透過度を比較して不良サブ画素を判別する段階;
前記不良サブ画素の補正数値をコントローラを用いて計算する段階;
前記補正数値に従って不良サブ画素に該当するノズルの噴射量セッティング数値をノズル噴射量調節部を用いて補正する段階;及び
前記噴射量セッティング数値に従ってノズルを用いて噴射量を調節する段階
を含み、
前記ノズル噴射量を調節する段階は、前記不良サブ画素各々の内部に注入されたカラーフィルター物質の量を調節し、
前記透過度測定段階は、前記赤色、緑色及び青色のカラーフィルターを同時に撮影するカメラにより測定され、
前記カメラは、前記基板の上に水平方向に配置されたカメラ支持バーに設置され、前記カメラ支持バーの長軸方向へ移動し、
前記透過度測定段階と前記噴射量を調節する段階は、前記カラーフィルターの形成前または前記第1乃至第3ヘッド部の交換または前記ノズルの交換以後に駆動される
ことを特徴とするインクジェット印刷方法(【請求項4】)において、
前記サブ画素の各々の透過度を測定する段階は、前記基板上に配置されたカメラと前記基板下に配置された光発光ユニットが水平方向へ移動しながら測定することを特徴とする請求項4記載のインクジェット印刷方法(【請求項5】)。」

2 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、「平成25年 2月 7日付けの拒絶理由通知書に記載した理由2及び3によって拒絶をすべきものである。」というものであり、「平成25年 2月 7日付けの拒絶理由通知書に記載した理由2及び3」の概要は以下のとおりである。
「2.この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。」
「3.この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」

3 特許法第36条第6項第2号に関する当審の判断
(1)本願発明の「前記ノズル噴射量を調節する段階は、前記不良サブ画素各々の内部に注入されたカラーフィルター物質の量を調節し、」との記載について検討する。
(2)本願発明では、「前記ノズル噴射量を調節する段階」に至るまでに、概ね以下の工程が特定されている。
ア 「基板のサブ画素の各々・・・(略)・・・カラーフィルターを形成する段階」
イ 「サブ画素の各々の透過度を順次測定する透過度測定段階」
ウ 「不良サブ画素を判別する段階」
エ 「補正数値を」「計算する段階
オ 「ノズルの噴射量セッティング数値を」「補正する段階」
カ 「ノズルを用いて噴射量を調節する段階」
そして、上記カの工程を更に特定する上記「前記ノズル噴射量を調節する段階は、前記不良サブ画素各々の内部に注入されたカラーフィルター物質の量を調節し、」との限定が付加されている構造となっている。
(3)上記カの「ノズルを用いて噴射量を調節する段階」との記載は、単に噴射する量を調節する行為のみで有ることは明らかであり、その様な調整をする段階においては、既に形成され不良サブ画素自体に対して何らの行為もしていないのであるから、「前記不良サブ画素各々の内部に注入されたカラーフィルター物質の量を調節」することはできないことは明らかであり、矛盾した記載となる。
また、仮に、上記段階が、調節された噴射量で噴射する行為であったとしても、噴射を行うに際して、どの様にして、「不良サブ画素各々の内部に注入されたカラーフィルター物質の量を調節」するのかが不明である。
したがって、この出願は,特許請求の範囲の記載が明確ではなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

4 特許法第29条第2項に関する当審の判断
(1)上記3のように、請求項4に係る発明は、明確ではなく、また、本件補正による補正によっても上記「第2 2 (2)」での判断のように新規事項となるが、上記「第2 3 (3)ア」で検討したように、上記「前記ノズル噴射量を調節する段階は、前記不良サブ画素各々の内部に注入されたカラーフィルター物質の量を調節し、」との記載及び上記カの「ノズルを用いて噴射量を調節する段階」を、仮に、「前記噴射量セッティング数値に従って前記不良サブ画素に該当するノズルから噴射されるカラーフィルター物質の量を調節して、ノズルを用いて噴射量を調節する段階」と読み替えて以下検討する。(読み替えた本願発明を以下「本願発明(読替)」という。)

(2)刊行物1及び刊行物2?8の摘記事項
刊行物1の摘記事項は、上記「第2 2(3)イ 刊行物及びその摘記事項」、刊行物2?8の摘記事項は、「第2 2(3)ウ (イ)相違点についての判断」に記載されたとおりである。

(3)対比・判断
ア 本願発明(読替)は、上記「第2 2 (3)ウ 刊行物1に基づく当審の判断」で検討した本願補正発明(読替)における、
イ 「前記透過度測定段階は、前記赤色、緑色及び青色のカラーフィルターを同時に撮影する複数個のCCDを備えるカメラにより測定され」との記載から、「複数個のCCDを備える 」との記載を削除し、
ウ 「前記噴射量を調節する段階は、前記カラーフィルターの形成前に駆動され」との記載において、調節する段階での選択肢1つ追加して「前記透過度測定段階と前記噴射量を調節する段階は、前記カラーフィルターの形成前または前記第1乃至第3ヘッド部の交換または前記ノズルの交換以後に駆動される」とし、
エ さらに「、調節された噴射量で各々のサブ画素毎に望む透過度のカラーフィルタ基板を形成することで染み不良を事前に防ぐ」との記載を削除するものである。
ここで、上記ウについてみると、本願補正発明(読替)は、本願発明(読替)の2つの選択肢の内の1つに限定したものであるから、当該選択肢に関して、本願補正発明(読替)が本願発明(読替)の構成要件を含んでいるものである。

(2)そうすると、本願発明(読替)の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明(読替)が上記「第2 2(3)ウ 刊行物1に基づく当審の判断」に記載したとおり、刊行物1に記載された発明及び刊行物2?8に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明(読替)も、同様に、刊行物1に記載された発明及び刊行物2?8に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 結言
この出願は,特許請求の範囲の記載が明確ではなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができず、また、本願の請求項4を引用する請求項5に係る発明は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2?8に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願の請求項1?4に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-02-25 
結審通知日 2015-03-03 
審決日 2015-03-16 
出願番号 特願2009-145235(P2009-145235)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (G02B)
P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B)
P 1 8・ 561- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 倉持 俊輔野田 洋平  
特許庁審判長 西村 仁志
特許庁審判官 清水 康司
藤原 敬士
発明の名称 インクジェット印刷方法  
代理人 梶並 順  
代理人 梶並 順  
代理人 上田 俊一  
代理人 曾我 道治  
代理人 曾我 道治  
代理人 吉田 潤一郎  
代理人 吉田 潤一郎  
代理人 上田 俊一  

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