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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23L |
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管理番号 | 1303716 |
審判番号 | 不服2013-20788 |
総通号数 | 189 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-09-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-10-25 |
確定日 | 2015-07-29 |
事件の表示 | 特願2010-512298号「加工肉製品を調製するための方法及び組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成20年12月18日国際公開、WO2008/154536、平成22年8月26日国内公表、特表2010-528679号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2008年6月10日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2007年6月11日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成25年6月18日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成25年10月25日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1ないし20に係る発明は、平成25年5月17日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし20に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。 「肉又は肉製品を加工する加工剤を調製するための方法であって、肉加工方法とは別途に行い: (i)少なくとも50ppmの硝酸塩を含む植物材料を選択すること、 (ii)当該植物材料を、硝酸塩を亜硝酸塩に変換できる生物に接触させること、及び (iii)所定の量の硝酸塩を亜硝酸塩に変換し、所定の量の亜硝酸塩が製造された後、当該生物が殺される、又は、加工剤から除去されること を含む方法であって、当該生物が、Micrococcaceae科、Micrococcus属、Staphylococcus属、グラム陽性球菌、Enterococcus、Lactococcus、Leuconostoc、Pediococcus、Streptococcus、乳酸細菌、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、方法。」 第3 引用文献 1.原査定で引用文献1として引用され、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である「特開昭48-82054号公報」(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。 (引1-1)「本発明は、魚卵、魚肉ハム・ソーセージ、畜肉ハム・ソーセージ、鯨肉製品等の発色剤若しくは変色防止剤の製造法、具体的には野菜を水に浸漬抽出して発色効果のある野菜エキスないしはその粉末の製造方法に関するものである。」(第1頁右欄第7?11行) (引1-2)「畜肉ハム・ソーセージ、鯨肉製品、魚肉ハム・ソーセージ、筋子は含有している血色素 ミオグロビンの酸化により褐色或いは黒変が起こる。 この防止のために亜硝酸ソーダ硝石等が使用されているが、本発明は、野菜中に天然に含まれる硝酸根をその野菜又は他の野菜に合体する硝酸還元酵素によつて分解して、亜硝酸根を含む液または粉末を製造し、発色若しくは変色防止の目的とこれに加うるに同時に抽出される呈味、香味成分を有効に利用することを目的としたものである。」(第1頁右欄第12行?第2頁左上欄1行) (引1-3)「使用される野菜は特に限定はされないが、大根、てん菜糖、かぶ、ほうれん草、小松菜、白菜、アスパラガスは特に好ましく、その他硝酸根を含む野菜はすべて該当する。」(第2頁左上欄2?5行) (引1-4)「第1工程は、生野菜を1種または1種以上組合せてそのまゝか或いは細切してその2倍から15倍の水を加え、温度を10°C以上50°C未満の間で静置若しくは撹拌しながら3時間以上抽出を行なう。」(第2頁左上欄第9?13行) (引1-5)「この反応は野菜に含まれる硝酸還元酵素によつて含有されている硝酸塩が還元分解されて亜硝酸塩になつたものである。」(第2頁右上欄第6?9行) (引1-6)「第2工程として亜硝酸根が50?600PPM生じた時点でこれを70°C以上に加熱し酵素作用を失活させる。次いで野菜を沈殿若しくは濾過して溶液と沈殿物に分ける。 本溶液は発色剤若しくは変色防止剤として使用できる。」(第2頁右上欄第19行?左下欄第4行) (引1-7)「魚肉ハム・ソーセージ、畜肉ハム・ソーセージ、鯨肉製品では、使用する豚肉、マトン肉、馬肉、鯨肉、鮪肉に塩、香辛料を加えて漬込む際、これに該抽出液を加え亜硝酸根を5PPM以上になるように漬込むと肉塊は発色し、この原料より製造すると色のよいハム・ソーセージまたは鯨肉製品ができる。」(第2頁右下欄第13?19行) これらの記載によれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「畜肉ハム・ソーセージ等の発色剤若しくは変色防止剤の製造法であって、同剤は使用する豚肉、マトン肉、馬肉を漬込む際、これに加えるものであって、 硝酸根を含む野菜を使用し、 野菜に含まれる硝酸還元酵素によつて含有されている硝酸塩が還元分解されて亜硝酸塩にされ、 亜硝酸根が50?600PPM生じた時点でこれを70°C以上に加熱し酵素作用を失活させることを含む方法。」 2.原査定で引用文献2として引用され、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である「米国特許第6689403号明細書」(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。(「()」内の日本語訳は当審による仮訳である。) (引2-1)「The invention relates to a reddening mixture for covering meat products, especially boiling sausages, by adding plant products, in particular vegetable products, and nitrate-reducing microorganisms.」(第1欄第6?9行) (本発明は、植物、特に野菜と、硝酸還元微生物とによって、肉製品、特に煮込みソーセージを対象にした赤色化混合物に関するものである。) (引2-2)「The microorganisms concerned are those that have been introduced to and are customarily used in food technology. These are, in particular, nitrate-reducing microorganisms of the following genera: staphylococcus, micrococcus, halomonas and paracoccus. They are especially germs with a nitrate reductase and thus are able to provide the required nitrite from the nitrate of the vegetable products Nitrite is the basis for the formation of nitric oxide that is required for the reddening.」(第1欄第52?60行) (関連する微生物は、食品工学において紹介されかつ慣用されてきたものである。これらは特に以下の属の硝酸還元微生物である:staphylococcus, micrococcus、halomonas 及びparacoccus。これらは特に硝酸還元酵素を有する細菌であって、そのため野菜の硝酸塩から必要な亜硝酸塩を生成することができる。亜硝酸塩は赤色化に必要な酸化窒素を生成する基礎となる。) (引2-3)「Basically any vegetable products that have a nitrate content of 100 to 5000 mg/kg, especially 1,000 to 2,500 mg/kg in the fresh state, as required according to the invention, can be used as plant products. These include, aside from the actual vegetable product itself, also vegetable extracts and juices and, if necessary, in an enzymatic or microbially fermented form, as well as such products in a dried form.」(第2欄第5?12行) (基本的に硝酸塩含有量が生の状態で100から5000 mg/kg、特に1,000から 2,500 mg/kgであるどんな野菜でも、本発明において必要に応じて、植物として利用可能である。これらには実際の野菜そのものだけでなく、野菜の抽出物及びジュースも含まれ、必要であれば、それらの製品の酵素によるものや微生物により発酵させたものも、乾燥されたものも含まれる。) (引2-4)「Preferable vegetable products within the meaning of the invention are various forms of lettuces, especially head lettuce, lamb’s lettuce, iceberg lettuce, as well as Chinese cabbage, spinach, beetroot or celery.」(第2欄第13?16行) (本発明の意義の範囲内で好適な野菜として、様々な種類のレタス、特に結球レタス、ラムズレタス、アイスバーグレタスも、白菜、ほうれん草、ビートの根やセロリもある。) 第4 対比 本願発明と引用発明とを対比すると、 引用発明の「硝酸根」、「亜硝酸根」及び「硝酸根を含む野菜を使用」は、それぞれ本願発明の「硝酸塩」、「亜硝酸塩」及び「硝酸塩を含む植物材料を選択すること」に相当する。 引用発明の「発色剤若しくは変色防止剤」は、「畜肉ハム・ソーセージ等」について「使用する豚肉、マトン肉、馬肉を漬込む際、これに加えるもの」であって、肉又は肉製品の加工に用いる剤といえるから、本願発明の「肉又は肉製品を加工する加工剤」に相当し、 引用発明の「製造法」は、発色効果を奏するように原料を調整しており、製造した剤は、「使用する豚肉、マトン肉、馬肉を漬込む際、これに加えるもの」であって、同剤の製造を肉の加工とは別途行っていることは明らかであることから、本願発明の「調製するための方法であって、肉加工方法とは別途に行」う方法に相当する。 引用発明の「野菜に含まれる硝酸還元酵素によつて含有されている硝酸塩が還元分解されて亜硝酸塩にされ、亜硝酸根が50?600PPM生じた時点でこれを70°C以上に加熱し酵素作用を失活させること」と、本願発明の「所定の量の硝酸塩を亜硝酸塩に変換し、所定の量の亜硝酸塩が製造された後、当該生物が殺される、又は、加工剤から除去されること」とは、少なくとも「硝酸塩を亜硝酸塩に変換し、所定の量の亜硝酸塩が製造された後、硝酸塩を亜硝酸塩に変換するのを止める」ものであるとの限度で一致する。 そうすると、両者は、 「肉又は肉製品を加工する加工剤を調製するための方法であって、肉加工方法とは別途に行い: (i)硝酸塩を含む植物材料を選択すること、 (iii)硝酸塩を亜硝酸塩に変換し、所定の量の亜硝酸塩が製造された後、硝酸塩を亜硝酸塩に変換するのを止めること を含む方法」 の点で一致し、以下の点で相違している。 [相違点1] 本願発明の植物材料は、「少なくとも50ppmの硝酸塩を含む」ものであって、「所定の量の硝酸塩を亜硝酸塩に変換」する方法であるのに対し、引用発明の植物材料は硝酸塩の含有濃度が不明であり、どの程度の量の硝酸塩を亜硝酸塩に変換(還元分解)するものかが明らかでない点。 [相違点2] 本願発明の方法が、「(ii)当該植物材料を、硝酸塩を亜硝酸塩に変換できる生物に接触させること」を含み、「当該生物が、Micrococcaceae科、Micrococcus属、Staphylococcus属、グラム陽性球菌、Enterococcus、Lactococcus、Leuconostoc、Pediococcus、Streptococcus、乳酸細菌、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される」ものであって、「所定の量の亜硝酸塩が製造された後、硝酸塩を亜硝酸塩に変換するのを止めること」が、「当該生物が殺される、又は、加工剤から除去されること」であるのに対し、引用発明の方法は、「所定の量の亜硝酸塩が製造された後、硝酸塩を亜硝酸塩に変換するのを止めること」が、「野菜に含まれる硝酸還元酵素」「を70°C以上に加熱し酵素作用を失活させること」であって、硝酸塩を亜硝酸塩に変換(還元分解)できる生物を用いていない点。 第5 判断 1.[相違点1]について 引用文献1の摘示(引1-2)に、 「本発明は、野菜中に天然に含まれる硝酸根をその野菜又は他の野菜に合体する硝酸還元酵素によつて分解して、亜硝酸根を含む液または粉末を製造し、発色若しくは変色防止の目的とこれに加うるに同時に抽出される呈味、香味成分を有効に利用することを目的としたものである。」 と記載されており、肉又は肉製品の発色や変色防止等の効果が十分に奏するだけの量の亜硝酸塩が必要となるところ、実際に生成された亜硝酸塩について50?600PPMという具体的な含有濃度が記載されている。 そして、亜硝酸塩は硝酸塩を変換して生成されるものであることに照らせば、所定の量の亜硝酸塩が製造されるために所定の量の硝酸塩を亜硝酸塩に変換していることは当然であるし、50?600PPMの亜硝酸塩を生成するために、原料となる植物材料における亜硝酸塩の濃度も相応に高い方が好都合であることは、当業者が容易に予測できたことである。 また、引用文献2の摘示(引2-3)及び(引2-4)に、硝酸塩含有量が100から5000 mg/kg(特に1,000から 2,500 mg/kg。ここで、「1mg/kg」は10^(-6)であるから「1ppm」である。)である野菜の好適なものの例として、ほうれん草が挙げられているところ、これは本願明細書の第【0008】段落で少なくとも約50ppmの硝酸塩を含有する硝酸塩含有植物材料の好適な例として挙げられているとともに、引用文献1の摘示(引1-3)にも特に好ましい硝酸根を含む野菜として挙げられているものであって、「少なくとも50ppm」程度の硝酸塩を含む植物材料として、ほうれん草やその他の種々の野菜材料が知られていたといえる。 してみれば、引用発明において、上記所定の濃度の亜硝酸塩を得るために原料となる植物材料として「少なくとも50ppmの硝酸塩」を含むものを選び、所定の量の硝酸塩を亜硝酸塩に変換することは、当業者が容易に想到し得たことである。 2.[相違点2]について 肉又は肉製品の加工において、野菜の硝酸塩から必要な亜硝酸塩を生成する際に、硝酸塩を亜硝酸塩に変換できる硝酸還元微生物を用いること、また、具体的な硝酸還元微生物として本願発明で列挙されている生物に含まれるMicrococcus属やStaphylococcus属を用いることは、引用文献2の摘示(引2-1)?(引2-4)に記載されているとおり、食品加工の分野において慣用されているものにすぎない。そして、引用発明と引用文献2に記載の方法は、野菜の硝酸塩から必要な亜硝酸塩を生成する硝酸還元酵素を利用したもので共通していることから、引用発明において、硝酸塩を亜硝酸塩に変換する手段として、野菜に含まれる硝酸還元酵素によって行うことに代えて、引用文献2に記載の硝酸還元微生物を用いることを採用することは、当業者が容易に想到し得たものである。 ここで、引用発明において、所定の量の亜硝酸塩が製造された後、「野菜に含まれる硝酸還元酵素」「を70°C以上に加熱し酵素作用を失活させる」ことは、所定の亜硝酸塩が製造された時点で硝酸還元酵素による反応を止める目的であることは明らかなところ、上記のとおり、硝酸塩を亜硝酸塩に変換する手段として、引用文献2に記載の硝酸還元微生物を用いることを採用した場合、硝酸還元酵素の作用を失活させるために、硝酸還元微生物を殺す又は加工剤から除去することは、硝酸還元酵素の作用を失活させるという目的に鑑みれば当然であって、当業者であれば容易に想到し得たことである。 そして、本願発明の効果について検討しても、引用発明及び引用文献2に記載の事項から当業者が予測できた範囲内のものであり、格別に顕著な効果ではない。 なお、平成25年12月12日付け手続補正書(方式)の請求の理由では、 「引用文献2、3には食肉加工の分野において、硝酸塩を亜硝酸塩に変換するために、微生物を使用することは記載されていますが、本願発明の重要なポイントの1つである、肉加工方法とは別途に、肉又は肉製品を加工する加工剤を調製することについて記載も示唆もされていません。むしろ、引用文献2、3ともに、肉の加工及び硝酸塩から亜硝酸塩への変換を同一の反応系において行っております。このような文献を、引用文献1に積極的に組み合わせる動機付けはないものと思料します。」等の主張もしているが、引用文献2に記載の方法のように肉の加工及び硝酸塩から亜硝酸塩への変換を同一の反応系において行うか、引用発明の方法のように別途に行うかの違いはあるものの、上述のとおり引用発明と引用文献2に記載の方法は、野菜の硝酸塩から必要な亜硝酸塩を生成する硝酸還元酵素を利用したもので共通しているのであって、肉加工方法とは別途に加工剤を調整する引用発明に「積極的に組み合わせる動機付けはない」という主張は採用できない。 また、同手続補正書(方式)の請求の理由において、参考資料1?7を提出し、本願発明が顕著な効果を奏することを主張している。しかしながら、参考資料1の11段落、参考資料2の7段落及び参考資料3の9段落においてそれぞれ主張しているのは、主として、本願発明が「加工剤の形成を別の方法とすることによって、より一貫性のある安全な加工製品を提供できること」(参考資料1の11段落)であるところ、そのような利点は、引用発明においても、肉の加工とは別途、加工剤を調整していることから同様に奏するものであることから、本願発明が顕著な効果を奏するものともいえない。 なお、参考資料4及び5による主張は本願の特許請求の範囲、明細書及び図面に記載された事項に基づかないものである。また、参考資料6及び7については、同手続補正書(方式)の請求の理由において特段の主張はない。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明は、本願優先権主張日前に頒布された引用文献1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできない。 したがって、本願は、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-02-25 |
結審通知日 | 2015-03-03 |
審決日 | 2015-03-16 |
出願番号 | 特願2010-512298(P2010-512298) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A23L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 松原 寛子 |
特許庁審判長 |
紀本 孝 |
特許庁審判官 |
千壽 哲郎 小野 孝朗 |
発明の名称 | 加工肉製品を調製するための方法及び組成物 |
代理人 | 鎌田 光宜 |
代理人 | 土井 京子 |
代理人 | 小池 順造 |
代理人 | 高島 一 |
代理人 | 當麻 博文 |
代理人 | 田村 弥栄子 |
代理人 | 村田 美由紀 |