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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04N
管理番号 1303776
審判番号 不服2014-6335  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-04-07 
確定日 2015-07-30 
事件の表示 特願2008-301500「投写型表示装置および投写用調整方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 6月10日出願公開、特開2010-130225〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成20年11月26日を出願日とする出願であって、手続の概要は以下のとおりである。

手続補正 :平成23年11月16日
拒絶理由通知 :平成25年 3月 6日(起案日)
手続補正 :平成25年 5月 8日
拒絶査定 :平成25年12月24日(起案日)
拒絶査定不服審判請求 :平成26年 4月 7日
手続補正 :平成26年 4月 7日
拒絶理由(当審・最初) :平成27年 3月10日(起案日)
手続補正 :平成27年 5月15日

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成27年5月15日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

【請求項1】
投写面に向けて画像を投写して表示する投写型表示装置であって、
焦点距離の調整機構を備え、画像の投写を行う投写手段と、
前記投写型表示装置のユーザーに対して前記投写型表示装置の設置位置の調整を示唆するガイド表示画像と、少なくともフォーカス調整に用いられる校正画像と、を重畳し、一の画像として前記投写手段によって投写させる調整用画像制御手段と、
投写された前記校正画像を撮像した撮像画像に基づいて、前記投写面までの距離である投写距離を測定する投写距離測定手段と、
該投写距離に基づいて、前記焦点距離の調整機構を動作させて、フォーカス調整を行い、前記ガイド表示画像を合焦の状態で表示するフォーカス調整手段と
を備え、
前記校正画像は、長方形の輪郭線と、前記輪郭線の中心を通る十字線とを重ねた図形である投写型表示装置。

第3 刊行物の記載事項
(1)刊行物1の記載
当審における拒絶の理由の通知において引用された特開2005-151310号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

【0001】
本発明は、液晶プロジェクタやDLPプロジェクタに代表される投射型画像表示装置をスクリーンに対向して設置する際、前記投射型画像表示装置を最適な位置に設置するための調整を支援する投射型画像表示装置の設置調整システムに関するものである。

【0023】
(実施の形態1)
図1は本発明の投射型画像表示装置の設置調整システムの構成図である。
【0024】
図1において、1は液晶プロジェクタやDLPプロジェクタに代表される投射型画像表示装置、2は前記投射型画像表示装置(以下、プロジェクタと称する)1から投射された画像を投影するスクリーン、3は前記プロジェクタ1に対し使用者が種々の操作を行うための入力手段で、好ましくはリモコンやボタンスイッチにより構成される。また、11はプロジェクタ1の設置位置調整を行う時にプロジェクタ1から投射するテストパターンを発生するテストパターン発生手段、18は前記テストパターンをスクリーン2に拡大投射する投射駆動手段であり、液晶パネルやDLPパネルに代表される表示素子やランプに代表される光源を駆動する表示駆動手段12及び投射レンズ13から構成される。14はスクリーン2上に投射された画像を撮像する撮像手段で好ましくはCMOSカメラセンサ或いはCCDカメラレンズを含むカメラモジュールにより構成される。15は撮像手段14により撮像された画像を解析しスクリーン2に対しプロジェクタ1が現在どの位置に設置されているかを検出する検出手段、16は検出手段15で検出された結果を元にプロジェクタ1の設置位置調整者に対しどの方向にプロジェクタを移動すればスクリーン2に正対して設置可能かを制御する制御手段、17は制御手段16から制御された情報を基にどの方向にプロジェクタを移動するかを示した設置位置調整支援画像を出力する設置位置調整支援画像発生手段であり、前記設置位置調整支援画像はテストパターン発生手段11へ出力され制御手段16により制御され前記テストパターン上に重畳される。
【0025】
以上のように構成された投射型画像表示装置の設置調整システムについて、図2の動作フローチャートを用いてその動作を説明する。
【0026】
まず、プロジェクタ1の設置位置調整者がスクリーン2に対し適切な位置にプロジェクタ1を設置した後に、入力手段3により設置位置調整命令をプロジェクタ1に送信する。設置位置調整命令を受信した制御手段16はまず、プロジェクタ1内の電源回路やランプ駆動回路などの各回路ブロックに対し初期化を行う(ステップS1)。次に、テストパターン発生手段11からプロジェクタ設置位置調整用テストパターンを発生し、投射駆動手段18からスクリーン2に対し前記テストパターンを拡大投射する(ステップS2)。前記テストパターンとしては、投射画像領域を全て同一色で光らせる全白パターンが好ましいが、投射画像領域を全て光らせるものであれば、全白パターンではなく通常のPC画面上の画像でもビデオなどの動画像でも同様な効果を得る。これはプロジェクタ1の設置位置情報をスクリーン2上に投射されたプロジェクタ1の投射画像領域の形状から得ているため、投射画像領域の形状が判断できれば、その画像自体には何の意味も持たないためである。ここで、プロジェクタ1とスクリーン2との位置関係によりスクリーン上に投射されたテストパターン画像の形状が異なる例を図3に示す。図3(a)はスクリーン2に対しプロジェクタ1が正対して設置された状態を示す。この場合、スクリーン2上に投射されたテストパターン画像は矩形となる。図3(b)はスクリーン2に対しプロジェクタ1が水平方向に斜めからテストパターン画像を投射した例を示し、スクリーン2に投影されたテストパターン画像は左右の対辺の長さが異なる台形となる。図3(b)において、プロジェクタ1はスクリーン2に対して左側から斜め投射を行っているため、スクリーン2上の投射画像は投射距離が長くなる右辺が長い台形となるが、プロジェクタ1がスクリーン2に対して右側から斜め投射を行った場合は逆に左辺が長い台形となる。更に、スクリーン2に対しプロジェクタ1の設置位置が正対方向から外れるほど対辺の長さの差は大きくなる。また、図3(c)はスクリーン2に対しプロジェクタ1が垂直方向に斜めからテストパターン画像を投射した例を示し、スクリーン2に投影されたテストパターン画像は上下の対辺の長さが異なる台形となる。このようなスクリーン2上に投射されたテストパターンを撮像手段14にて撮像する(ステップS3)。撮像手段14にて撮像された投射画像は検出手段15で解析され現在のプロジェクタ1の設置位置がスクリーン2に対してどの位置にあるかを検出し(ステップS4)、その検出結果よりスクリーン2に対するプロジェクタ1の設置位置が最適な位置にあるか否かを判定する(ステップS5)。
【0027】
ここで、検出手段15におけるプロジェクタ1の設置位置検出は、前述図3に示したようにスクリーン2の位置とプロジェクタ1との位置関係によりスクリーン2上には固有の形をした投射画像が得られることより、その投射画像を撮像して各対辺の長さを比較することで容易に行うことが可能となる。
【0028】
ステップS5において、スクリーン2に対するプロジェクタ1の設置位置が最適な位置にある(ステップS3で撮像された画像が矩形)と判定された場合、スクリーン2に対しプロジェクタ1が正対して設置されているため、プロジェクタ1の設置位置調整を終了する。一方、スクリーン2に対するプロジェクタ1の設置位置が最適な位置にない(ステップS3で撮像された画像が台形)と判定された場合、検出手段15の検出結果に従い、制御手段16は設置位置調整支援画像発生手段17に対し所望の設置位置調整支援画像を出力するように制御し、前記設置位置調整支援画像はテストパターン発生手段11から出力されるテストパターンに重畳され、投射駆動手段18からスクリーン2に対し投射され(ステップS6)、再度ステップS3に戻る。
【0029】
ここで、図4から図8にプロジェクタ1から投射される前記設置位置調整支援画像が重畳された画像の一例を示し説明を行う。
【0030】
図4にスクリーン2に対しプロジェクタ1が左側に設置され斜め投射を行っている例を示す。スクリーン2上の投射画像より、ステップS4において検出手段15はプロジェクタ1がスクリーン2に対し左側に設置され斜め投射を行っていることがわかる。ステップ6において、制御手段16は、プロジェクタ1をスクリーン2に対し正対させるために、設置位置調整支援画像発生手段17に対し図4に示すようなプロジェクタ1を現在の設置状態から反時計方向にプロジェクタ1を回転させると直感的にプロジェクタ1の設置位置調整者に認識させる設置位置調整支援画像を出力するように制御し、投射駆動手段18を経由して前記設置位置調整支援画像をスクリーン2上に投射する。このような設置位置調整支援画像を見たプロジェクタ1の設置位置調整者は、現在の設置位置に対してどの方向にプロジェクタ1を動かせばスクリーン2に正対して設置できるかを容易に把握可能となる。この時、前記設置位置調整支援画像は前記テストパターン画像の外形にかからないように図4に示すように内側に表示させることが望ましい。これは、前述したようにステップS4において、プロジェクタ1の設置位置を検出する際に、スクリーン2上に投射されたテストパターンの外形情報を基にプロジェクタ1の設置位置検出を行うためである。
【0031】
図5はスクリーン2に対しプロジェクタ1が上方向から斜め投射を行っている例である。スクリーン2上の投射画像より、ステップS4において検出手段15はプロジェクタ1がスクリーン2に対し上側に設置され斜め投射を行っていることがわかるため、ステップS6において、プロジェクタ1の前面を上方向に持ち上げる或いはプロジェクタ1の後面を下方向に下げるような設置位置調整支援画像をプロジェクタ1からスクリーン2に対し投射することで、その投射画像を見た調整者は、どのようにプロジェクタ1を動かせばスクリーン2に正対してプロジェクタ1を設置できるのかを容易に把握可能となる。
【0032】
また、プロジェクタ1の設置位置状態により、スクリーン2に対し水平及び垂直の両方向から同時に斜め投射が行われる場合もある。このような場合、ステップS4において、左右方向及び上下方向の対辺の長さの差をそれぞれ求め、その差が大きい方から先に設置位置調整支援画像をプロジェクタ1から投射し順に設置位置調整を行う方法がある。これは、設置位置がより外れている方向からプロジェクタ1の設置位置を調整することにより、素早く設置位置調整が行えるためである。また、図6に示すように、両方向の設置位置調整支援画像をスクリーン2上に同時に表示させることでも同様な効果を得る。
【0033】
更に、本実施の形態の構成により、スクリーン2として広大な壁面ではなく壁掛けスクリーンや自立型スクリーンのようにスクリーン枠21が存在する場合、スクリーン枠21内にプロジェクタ1からの投射画像を投影するようにプロジェクタ1の設置位置調整を支援することが可能となる。図7はスクリーン2にプロジェクタ1が左方向に正対して投射を行っており、プロジェクタ1から投射された画像の左側がスクリーン枠21より外れている例である。ステップS4において、検出手段15はプロジェクタ1からの投射画像がスクリーン枠21の左辺より外れて投射されており、且つ各対辺の長さが同一であることより、現在プロジェクタ1がスクリーン2に対して左方向に正対して設置されていることを検出する。スクリーン枠21の左辺から投射画像が外れている事は、ステップS3で撮像された画像においてスクリーン枠21内外でのテストパターン画像の明るさ(輝度)が明確に異なることより容易に検出可能である。このようにプロジェクタ1がスクリーン2に対して左側に正対して外れて設置していることを検出したプロジェクタ1は図7に示すような設置位置調整支援画像を投射することにより、プロジェクタ1の設置位置調整者に対しどのようにプロジェクタを移動させればよいかを明確に示すことが可能となる。ここで、プロジェクタ1からの投射画像がスクリーン枠21から外れているが、矩形ではなく、図4或いは図5のような歪みを持つ場合は、まず、歪みを無くすような設置位置調整支援画像を投射することが望ましい。これは、斜め投射をすることが原因でスクリーン枠21から投射画像が外れている場合が多いためである。
【0034】
また、前述のようにスクリーン枠21が存在する場合、スクリーン枠21に対してプロジェクタ1が正対しているが傾いて設置されている場合においても、正常な設置位置をプロジェクタ1から設置位置調整支援画像により調整可能となる。図8のように、スクリーン2上に投射された画像の対辺の長さが同一にもかかわらず、スクリーン枠21に対し平行に投射されていない場合、ステップS4にてプロジェクタ1がスクリーン2に正対しているが傾いて設置されていることが検出され、更に、スクリーン枠21に対する投射画像の傾き方により、プロジェクタ1がどの方向に傾いて設置されているかを検出可能となる。これより、ステップS6において、図8中に示すような設置位置調整支援画像をプロジェクタ1から投射することにより、その投射画像を見た設置位置調整者はどの方向にプロジェクタ1を移動させればよいかを容易に把握できる。このプロジェクタ1の傾き調整も、図4或いは図5に示した投射画像の歪みを無くした後に行うことが望ましい。これは、投射画像の歪みがある状態ではスクリーン枠21に対し、いずれかの辺が平行に投影されていないためである。
【0035】
ステップS5において、スクリーン2上に投射された画像の対辺の長さが一致した状態でプロジェクタ1の設置位置調整を終了するとしたが、もちろん、対辺の差が任意の設定値(例えば、対辺の全長に対して2パーセント以内)に収まった時点でプロジェクタ1の設置位置調整を終了しても良い。
【0036】
また、プロジェクタ1の設置位置調整を開始して、ある一定時間経っても適切な設置位置にならない(ステップS5において“NO”と判断)場合、強制的に設置位置調整を終了し、強制終了したメッセージをプロジェクタ1から投射することにより、無限ルーチンに陥ることを回避することが可能となる。また、プロジェクタ1の設置位置調整中に入力手段3から調整終了命令が入力された場合、強制的に設置位置調整を終了する或いは調整終了を行っても良いか否かの確認メッセージをプロジェクタ1から投射して設置位置調整者に選択させる機能を備えることにより、操作性がより向上した設置調整システムが構成される。
【0037】
以上のように本実施の形態によれば、スクリーン上の投射画像を基にプロジェクタとスクリーンとの設置位置関係を検出し、プロジェクタをどの方向に移動すればスクリーンに正対して設置できるかをプロジェクタの設置位置調整者に知らしめる設置位置調整支援画像を前記スクリーン上に投射する手段を備えることにより、プロジェクタの設置位置調整者は、前記投射された設置位置調整支援画像を見るだけで容易にプロジェクタを最適な位置に設置可能となる。これより、プロジェクタの設置位置が原因で生じるスクリーン上での投射画像の歪みが無くなり、画質劣化が生じる電気的な歪み補正を用いなくとも矩形の投射画像を得ることができる。

(2)刊行物2の記載
当審における拒絶の理由の通知において引用された特開2006-133679号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

【0041】
次に上記実施の形態の動作について説明する。
図3は、制御部35がキースイッチ部15またはリモートコントローラの「AF/AK」キーの操作に対して実行する、初期設定の動作プログラムの具体的な処理内容を示すものである。
【0042】
その当初に制御部35は、投影範囲内の複数点位置までの距離を測定する(ステップM01)。
【0043】
図4(A)は、この複数点位置の測距の処理内容を示すサブルーチンであり、その当初には投影レンズ12を含む投影系により図4(B)に示す横チャート画像HCを投影表示させる(ステップS01)。
【0044】
この横チャート画像HCは、等間隔で投影範囲PAの水平方向いっぱいに配列された3つのポイント画像からなる。
この横チャート画像HCを投影表示させた状態で、中央に位置するポイントの投影画像位置までの距離「LC」を測距センサ13及び測距処理部36により測定する(ステップS02)。
【0045】
その後、同様にしてプロジェクタ装置10から向かって右側に位置するポイントの投影画像位置までの距離「LR」と左側に位置するポイントの投影画像位置までの距離「LL」を順次測定する(ステップS03,S04)。
次に、上記横チャート画像HCに代え、今度は図4(B)に示す縦チャート画像VCを投影表示させる(ステップS05)。
【0046】
この縦チャート画像VCは、中央のポイントが上記横チャート画像HCの中央ポイントと重なるように位置する、等間隔で投影範囲PAの垂直方向いっぱいに配列された3つのポイント画像からなる。
この縦チャート画像VCを投影表示させた状態で、上側に位置するポイントの投影画像位置までの距離「LT」を位相差センサ13及び測距処理部36により測定する(ステップS06)。
【0047】
その後、同様にして下側に位置するポイントの投影画像位置までの距離「LB」を測定する(ステップS07)。この場合、中央に位置するポイントの投影画像位置までの距離「LC」は、上記横チャート画像HCの場合と同一であり、上記ステップS02で既に測定しているので、その測定値を援用するものとし、ここでの測定処理は省略する。
【0048】
以上でこのサブルーチンの処理を終了し、図3のメインルーチンに戻って、上記測定し5点分の距離データから、例えば代表となる中心位置の距離データ「LC」の内容がこのプロジェクタ装置10に予め設定されている最大投影可能範囲、例えば15.0[m]を超えているか否かを判断する(ステップM02)。
【0049】
ここで、最大投影可能範囲を超えていると判断した場合には、全体にプロジェクタ装置10の設置位置が投影対象となるスクリーンから離れすぎており、正確に合焦した画像を投影することができないものとして、図5(A)に示すような第1のガイドメッセージの画像PIを投影レンズ12により投影対象のスクリーンに向けて投影表示させると共に、この内容と同様の音声を音声処理部37によりスピーカ16で拡声報音させ(ステップM03)、ユーザにプロジェクタ装置10の設置位置を変えるように促して、この図3の処理を一旦終了する。
【0050】
図5(A)では、第1のメッセージとして「プロジェクタをスクリーンに近づけて下さい」なる文言の内容を画像及び音声によりユーザに報知出力した場合を例示しており、このうちの画像はその内容すべてがユーザに認識される可能性は低いものの、何らかのガイドメッセージが投影されていることは理解される可能性は充分あり、併せて音声でも同様の内容を報知しているため、より確実にユーザに設置位置の変更を促すことができる。
【0051】
また、上記ステップM02で投影範囲PAの中心位置の距離データ「LC」がこのプロジェクタ装置10に予め設定されている最大投影可能範囲以内であると判断した場合には、次いで、得た各距離データによりこのプロジェクタ装置10と投影対象となるスクリーンとの相対位置関係、具体的には投影範囲PAの中心位置の距離データ「LC」と共に、各距離データ「LT」「LB」により投影光軸に対する垂直方向の傾斜角度、同じく各距離データ「LL」「LR」により投影光軸に対する水平方向の傾斜角度を算出する(ステップM04)。
【0052】
ここで、スクリーンがプロジェクタ装置10からどれだけ離れており、且つ投影光軸に対してどの方向にどれだけ傾斜しているか、を算出すると、次にその傾斜方向と傾斜角度により、手動で台形補正可能な傾斜方向及び傾斜角度の範囲内にあるか否かを判断する(ステップM05)。
【0053】
ここで、例えばこのプロジェクタ装置10が自動で台形補正可能な範囲が上下、左右共に±30[°]であり、手動で台形補正可能な範囲が上記自動で可能な範囲を超える、上
下、左右共に各±40[°]であるものとして、上記ステップM05で実際の投影光軸に対するスクリーンの傾斜角度が上記手動で台形補正可能な範囲を越えていた場合には、自動、手動のいずれによっても台形補正を行なうことができないものとして、図5(B)に示すような第2のガイドメッセージの画像PIを投影レンズ12により投影対象のスクリーンに向けて投影表示させると共に、この内容と同様の音声を音声処理部37によりスピーカ16で拡声報音させ(ステップM06)、ユーザにプロジェクタ装置10の設置位置を変えるように促して、この図3の処理を一旦終了する。
【0054】
図5(B)では、第2のメッセージとして「プロジェクタをスクリーン正面寄りに設置し直して下さい」なる文言の内容を画像及び音声によりユーザに報知出力した場合を例示しており、このうちの画像は著しく台形歪みが発生している状態である筈なのでその内容すべてがユーザに認識される可能性は低いものの、何らかのガイドメッセージが投影されていること自体は充分ユーザに理解され、併せて音声でも同様の内容を報知しているため、より確実にユーザに設置位置の変更を促すことができる。
【0055】
また、上記ステップM05で設置位置が手動で台形補正可能な傾斜方向及び傾斜角度の範囲内にあると判断した場合には、次に上記した自動の台形補正可能な傾斜方向及び傾斜角度の範囲内にあるか否かを判断する(ステップM07)。
【0056】
ここで、手動での台形補正可能な範囲内にはあるものの、自動での台形補正を行なう範囲からは外れていると判断した場合には、上記「AF/AK」キーの操作に伴う自動台形補正を実行することはできないので、図5(C)に示すような第3のガイドメッセージの画像PIを投影レンズ12により投影対象のスクリーンに向けて投影表示させると共に、この内容と同様の音声を音声処理部37によりスピーカ16で拡声報音させ(ステップM08)、ユーザに手動(マニュアル)で台形を行なうように促し、併せて上記検出した投影範囲PAの中心位置の距離データ「LC」に基づく投影レンズ12を駆動しての自動合焦処理を実行して(ステップM09)、以上でこの図3の処理を一旦終了する。
【0057】
図5(C)では、第3のメッセージとして「マニュアルで台形補正をして下さい」なる文言の内容を画像及び音声によりユーザに報知出力した場合を例示しており、このうちの画像はある程度の台形歪みが発生している状態ではあるがユーザには充分認識される可能性は高く、併せて音声でも同様の内容を報知しているため、確実にユーザに内容が理解されるものと思われる。
【0058】
また、上記ステップM07で設置位置が自動での台形補正可能な傾斜方向及び傾斜角度の範囲内にあると判断した場合には、直ちに最大の矩形の投影範囲が得られるような自動台形補正処理を実行し(ステップM10)、その後に上記検出した投影範囲PAの中心位置の距離データ「LC」に基づく投影レンズ12を駆動しての自動合焦処理を実行して(ステップM11)、以上でこの図3の処理を一旦終了する。

(3)刊行物3の記載
当審における拒絶の理由の通知において引用された特開2007-102244号公報(以下、「刊行物3」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

【0052】
ここで、本実施形態の動作を説明する前に、図4乃至図6を参照して、このプロジェクタ装置10に用いられる位相差センサ方式による角度検出の方法について説明する。なお、ここではプロジェクタ装置10に設けられた2組の位相差センサ131と位相差センサ132のうち、水平測距用の位相差センサ132を例にして説明するが、垂直測距用の位相差センサ131についても同様である。
【0053】
まず、三角測距の原理について説明する。
【0054】
図4はその説明図であり、水平測距用の位相差センサ132を上から見た場合を示している。位相差センサ132は、前記一対の測距レンズ13c,13dと、この測距レンズ13c,13dに対向して配設された一対のフォトセンサアレイ51,52とから構成されている。
【0055】
今、位相差センサ132から被写体53までの距離を測定する場合において、被写体53に対して照射された光の反射光が一方の測距レンズ13cを通じてフォトセンサアレイ51に結像すると共に、その反射光が他方の測距レンズ13dを通じてフォトセンサアレイ52に結像する。図中の54及び55がその被写体像を示している。
【0056】
ここで、各測距レンズ13c、13dの光軸と結像間のそれぞれ距離をx1、x2とし、測距レンズ13c、13d間の距離をB、フォトセンサアレイ51、52と測距レンズ13c、13d間の距離をfとすると、被写体53までの距離dは以下のように式で求められる。
d=B*f/(x1+x2)
前記式において、B、fはセンサ固有の値であるので、被写体53までの距離dはフォトセンサアレイ51、52の位相(x1,x2)で求められることになる。

【0071】
図8は、電源がオンされている状態で、本体メインキー/インジケータ15の「AFK」キー15dの操作により強制的に実行される割込み処理としての自動合焦及び自動台形補正の処理内容を示すもので、その制御は制御部39が内部のROMに記憶されている動作プログラムに基づいて実行する。
【0072】
なお、ここでは「AFK」キー15dの操作に対応して自動合焦と自動台形補正の処理を1回のみ実行するワンショットモードと、「AFK」キー15dが1回目に操作されてから再度2回目に操作するまでの間、自動合焦と自動台形補正の処理を繰返し連続して実行するコンティニューモードとのいずれか一方を、予め本体メインキー/インジケータ15の「menu」キー15gと「アップ」キー15k、「ダウン」キー15l、及び「Enter」キー15o等の操作によりユーザが任意に切換設定しておくものとする。
【0073】
その処理当初には、「AFK」キー15dの操作がなされるのを待機し(ステップA01)、「AFK」キー15dが操作されたと判断した時点で、それまでの動作を中断して割込み処理としての自動合焦と自動台形補正を開始する状態を設定した上で(ステップA02)、まず1回目の自動合焦と自動台形補正を実行する(ステップA03)。
【0074】
図9は、この自動合焦と自動台形補正の処理内容を示すサブルーチンであり、その当初には投影レンズ12を含む投影系により、画像記憶部40に記憶されている画像データに基づいて、図7(A)に示すような縦チャート画像61をスクリーン上に投影表示させる(ステップB01,B02)。この縦チャート画像61は、会社のロゴ63の形状を表した測距用の明暗パターン64を有する。
【0075】
このような縦チャート画像61を投影表示させた状態で、まず、垂直測距用の位相差センサ131を駆動し、垂直走査ラインL1上に存在する3箇所の測定点P1,P2,P3(明点)を順次読み取ることにより(ステップB03)、これらの測定点P1,P2,P3の各投影画像位置までの距離を順次測定する(ステップB04)。
【0076】
なお、各測定点P1,P2,P3を測距する順番は、特に限定されるものではなく、例えば中央ポイントとなる測定点P2を先に測定した後、画面に向かって上ポイントとなる測定点P1、そして、画面に向かって下ポイントとなる測定点P3といった順で測定することでも良い。
【0077】
また、ここでは縦チャート画像61の投影により垂直測距を先に行うようにしたが、先に横チャート画像62を投影して水平測距を行うことでも良い。ここで得られた各測定点P1,P2,P3の距離データは、制御部39に設けられた測距結果記憶部39aに記憶保持される。
【0078】
各測定点P1,P2,P3の測距後、前記測距結果記憶部39aに記憶された各測定点P1,P2,P3の距離データに基づいて、投影光軸に対するスクリーン投影面の上下方向(垂直方向)の角度「θv」を算出する(ステップB05)。
【0079】
次に、前記縦チャート画像61に代え、今度は図7(B)に示すような横チャート画像62を画像記憶部40から読み出して投影表示させる(ステップB06,B07)。この横チャート画像62は、会社のロゴ63の形状を表した測距用の明暗パターン65を有する。
【0080】
このような横チャート画像62を投影表示させた状態で、水平測距用の位相差センサ132を駆動し、垂直走査ラインL2上に存在する3箇所の測定点P4,P5,P6(明点)を順次読み取ることにより(ステップB08)、これらの測定点P4,P5,P6の各投影画像位置までの距離を順次測定する(ステップB09)。
【0081】
なお、各測定点P4,P5,P6を測距する順番は、特に限定されるものではなく、例えば中央ポイントとなる測定点P5を先に測定した後、画面に向かって左ポイントとなる測定点P4、そして、画面に向かって右ポイントとなる測定点P6といった順で測定することでも良い。ここで得られた各測定点P4,P5,P6の距離データは、制御部39に設けられた測距結果記憶部39aに記憶保持される。
【0082】
各測定点P4,P5,P6の測距後、前記測距結果記憶部39aに記憶された各測定点P4,P5,P6の距離データに基づいて、投影光軸に対するスクリーン投影面の左右方向(垂直方向)の角度「θh」を算出する(ステップB10)。
【0083】
次いで、前記ステップB04またはB09で測定された中央に位置する測定点P2またはP5の投影画像位置までの距離をそのまま投影画像を代表する距離値であるものとして取得し、レンズモータ38により、その距離値に応じた合焦位置となるように投影レンズ12を移動させる(ステップB11)。
【0084】
その後、前記ステップB05、B10で得られた画像を投影しているスクリーン投影面の上下方向の角度「θv」及び左右方向の角度「θh」を基にして、スクリーン投影面が全体でどの方向にどれだけの角度で斜めになっており、投影画像を入力される画像信号と同一の適正なアスペクト比の矩形とすればよいのか、必要な台形補正の角度を算出し、表示エンコーダ33にビデオRAM34で展開記憶させる画像データの上辺と下辺の比、及び左辺と右辺の比を補正させるように設定した上で(ステップB12)、この図9による一連のサブルーチンを一旦終了して前記図8の処理に戻る。

(4)刊行物4の記載
当審における拒絶の理由の通知において引用された特開2007-94036号公報(以下、「刊行物4」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

【0103】
なお、上記実施の形態では、図4に示した縦縞模様のチャート画像を用いる場合について示したが、スクリーンの被投影面SCの複数の点を測定するに当たっては、投影範囲内でなるべく離れた位置を測定する方が角度誤差の割合を小さくすることができるため、例えば上記図4のチャート画像に代えて図7に示すようなチャート画像を用いるものとしてもよい。
【0104】
すなわちこの図7では、投影範囲の四隅にそれぞれ白い(明)矩形パターンを配したチャート画像を例示しており、上記図4に示したものに比して、第1の撮像レンズ13と第2の撮像レンズ14とを結ぶ配置方向と平行する方向、及び直交する方向の双方で明暗パターンが変化するものとなっている。
【0105】
したがって、これら四隅に配置された各矩形パターンの位置を調べることによって方向を決定するものとすれば、投影画角を検知するための特別なセンサ等を用いずとも投影レ
ンズ12での投影画角を把握することができる。
【0106】
したがって、この投影画角に対応して測定する方向を投影レンズ12でのズーム位置に基づく投影画角に連動させることができる。そのため、その時点での投影画角を勘案して適正な範囲の距離と角度とを算出し、台形補正の精度をより向上できる。

第4 刊行物に記載された発明
以上の記載によれば、刊行物1には次の発明(以下、刊行物1発明という。)が記載されている。

4a.刊行物1の【0001】には「投射型画像表示装置をスクリーンに対向して設置する際、前記投射型画像表示装置を最適な位置に設置するための調整を支援する投射型画像表示装置の設置調整システムに関する」とあるから、刊行物1には「投射型画像表示装置」に関する発明が開示されているといえる。

4b.刊行物1の【0024】に「18は前記テストパターンをスクリーン2に拡大投射する投射駆動手段であり、液晶パネルやDLPパネルに代表される表示素子やランプに代表される光源を駆動する表示駆動手段12及び投射レンズ13から構成される。」の記載があるから、刊行物1には、テストパターンをスクリーンに拡大投射する投射駆動手段が記載されている。

4c.刊行物1の【0024】-【0028】及び図4の記載をみると、【0024】に「17は制御手段16から制御された情報を基にどの方向にプロジェクタを移動するかを示した設置位置調整支援画像を出力する設置位置調整支援画像発生手段であり、前記設置位置調整支援画像はテストパターン発生手段11へ出力され制御手段16により制御され前記テストパターン上に重畳される。」との記載があり、【0028】に「制御手段16は設置位置調整支援画像発生手段17に対し所望の設置位置調整支援画像を出力するように制御し、前記設置位置調整支援画像はテストパターン発生手段11から出力されるテストパターンに重畳され、投射駆動手段18からスクリーン2に対し投射され」の記載があるから、設置位置調整支援画像とテストパターンとを制御手段により制御することで重畳し、投射駆動手段から投射させる手段を有しているといえる。

4d.刊行物1の【0026】の記載によれば、上記テストパターンは、上記テストパターンを撮像し、撮像された投射画像は検出手段で解析され現在のプロジェクタの設置位置がスクリーンに対してどの位置にあるかを検出し、その検出結果よりスクリーンに対するプロジェクタの設置位置が最適な位置にあるか否かを判定するためのパターンであることが開示されている。
さらに、刊行物1の【0028】の記載によれば、上記判定は、撮像された画像が矩形と判定された場合スクリーンに対しプロジェクタが正対して設置されていると判定し、撮像された画像が台形と判定された場合、スクリーンに対するプロジェクタの設置位置が最適な位置にないと判定するものであるといえる。
以上まとめると、刊行物1に記載されたテストパターンは、上記テストパターンを撮像し、撮像された投射画像は検出手段で解析し、撮像された画像が矩形と判定された場合スクリーンに対しプロジェクタが正対して設置されていると判定し、撮像された画像が台形と判定された場合、スクリーンに対するプロジェクタの設置位置が最適な位置にないと判定するテストパターンであるといえる。

4e.まとめ
以上まとめると、刊行物1発明として、以下のとおりのものを認定することができる。

投射型画像表示装置であって、
テストパターンをスクリーンに拡大投射する投射駆動手段と、
設置位置調整支援画像とテストパターンとを制御手段により制御することで重畳し、投射駆動手段から投射させる手段と、
上記テストパターンは、上記テストパターンを撮像し、撮像された投射画像は検出手段で解析し、撮像された画像が矩形と判定された場合、スクリーンに対しプロジェクタが正対して設置されていると判定し、撮像された画像が台形と判定された場合、スクリーンに対するプロジェクタの設置位置が最適な位置にないと判定するテストパターンである投射型画像表示装置。

第5 対比
本願発明と刊行物1発明とを対比する。

5a.刊行物1発明の「投射型画像表示装置」が「投写面に向けて画像を投写して表示する投写型表示装置」といえることは、当業者には明らかであるから、刊行物1発明は、「投写面に向けて画像を投写して表示する投写型表示装置」に関する発明である点で、本願発明と相違がない。

5b.刊行物1のテストパターンが画像であることは明らかであり、刊行物1発明の「投射駆動手段」は、「画像の投写を行う投写手段」といえる点で、本願発明と相違がない。
もっとも、本願発明の「画像の投写を行う投写手段」は、「焦点距離の調整機構を備え」ているのに対し、刊行物1発明の投射駆動手段は、焦点距離の調整機構について特定していない点で相違する。

5c.刊行物1発明の「設置位置調整支援画像」は、発明の詳細な説明の【0030】、【0031】の記載も参酌すると、(スクリーンに対して投写型表示装置が垂直対向しておらず、)斜め投射を行っているとき、投写型表示装置の設置状態を調整する方向を示唆する画像といえるから、刊行物1発明の投写型画像表示装置を利用する利用者に対して、上記表示装置の設置位置の調整を示唆しているといえ、本願発明の「前記投写型表示装置のユーザーに対して前記投写型表示装置の設置位置の調整を示唆するガイド表示画像」と相違がない。
また、刊行物1発明の「テストパターン」は、「撮像された画像が矩形と判定された場合、スクリーンに対しプロジェクタが正対して設置されていると判定し、撮像された画像が台形と判定された場合、スクリーンに対するプロジェクタの設置位置が最適な位置にないと判定するテストパターン」であるから、投射された画像が台形である場合、投写型表示装置の設置位置を調整して、この台形の状態を調整する(以下、この調整を『台形調整』という。)ためのテストパターンといえ、本願発明のフォーカス調整に用いられる校正画像とは、投写型表示装置の設置位置の調整に係る「校正画像」である点で共通しているといえる。
そして、刊行物1発明は、設置位置調整支援画像とテストパターンとを制御手段により制御することで重畳し、投射駆動手段から投射させる手段を有しているのであるから、前記投写型表示装置の設置位置の調整を示唆するガイド表示画像と、校正画像とを重畳し、一の画像として前記投写手段によって投写させる調整用画像制御手段を有しているといえる。
以上のことから、刊行物1発明は、「前記投写型表示装置のユーザーに対して前記投写型表示装置の設置位置の調整を示唆するガイド表示画像と、校正画像と、を重畳し、一の画像として前記投写手段によって投写させる調整用画像制御手段」を有している点で本願発明と相違がない。
もっとも、本願発明の校正画像は「少なくともフォーカス調整に用いられる校正画像」であるのに対し、刊行物1発明の校正画像は「台形調整のための校正画像」である点で相違する。

5d.刊行物1発明は、フォーカス調整について特定していないから、本願発明の、
「投写された前記校正画像を撮像した撮像画像に基づいて、前記投写面までの距離である投写距離を測定する投写距離測定手段と、
該投写距離に基づいて、前記焦点距離の調整機構を動作させて、フォーカス調整を行い、前記ガイド表示画像を合焦の状態で表示するフォーカス調整手段」についても特定されていない点で本願発明と相違する。

5e.刊行物1発明のテストパターンは、「長方形の輪郭線と、前記輪郭線の中心を通る十字線とを重ねた図形」との特定がない点で、本願発明と相違する。

5f.まとめ(一致点・相違点)
以上まとめると、補正後発明と刊行物1発明とは以下の一致点で一致し相違点で相違する。

(一致点)
投写面に向けて画像を投写して表示する投写型表示装置であって、
画像の投写を行う投写手段と、
前記投写型表示装置のユーザーに対して前記投写型表示装置の設置位置の調整を示唆するガイド表示画像と、校正画像と、を重畳し、一の画像として前記投写手段によって投写させる調整用画像制御手段と、
を備えた投写型表示装置。

相違点1
本願発明の「画像の投写を行う投写手段」は、「焦点距離の調整機構を備え」ているのに対し、刊行物1発明の投射駆動手段は、焦点距離の調整機構について特定していない点。

相違点2
本願発明の校正画像は「少なくともフォーカス調整に用いられる校正画像」であるのに対し、刊行物1発明の校正画像は「台形調整のための校正画像」である点。

相違点3
刊行物1発明は、本願発明の、
「投写された前記校正画像を撮像した撮像画像に基づいて、前記投写面までの距離である投写距離を測定する投写距離測定手段と、
該投写距離に基づいて、前記焦点距離の調整機構を動作させて、フォーカス調整を行い、前記ガイド表示画像を合焦の状態で表示するフォーカス調整手段」について特定されていない点。

相違点4
刊行物1発明のテストパターンは、「長方形の輪郭線と、前記輪郭線の中心を通る十字線とを重ねた図形」との特定がない点。

第6 判断
6a.相違点1について
一般に投写型表示装置の投射手段が焦点距離の調整機構を備えていることは、当たり前のことであり、刊行物1の他の実施の形態(実施の形態6)には、焦点距離の調整機構を備えた構成もあるから、刊行物1発明において、投射手段が焦点距離の調整機構を備えるようにすることは、当業者が普通に想起し得たことである。

6b.相違点2、相違点3について
刊行物1発明の投写型表示装置では、投射画像領域を撮像した画像が台形であるか否かにより、台形調整の必要があるか否かを判定しているといえるが、投写型表示装置において、台形調整の必要があるか否かを判定するとき、投射画像領域に複数の測定点を表す画像を投射し、上記測定点の画像を複数の撮像部で撮像し、該撮像した画像の位相差を見ることで測定点と投写型表示装置との間の距離を求め、当該距離から投射画像領域となる面と投写型表示装置とが垂直に相対しているか検出することで台形調整の必要があるか否かを判定する構成は、刊行物2、刊行物3にあるように本願出願前周知の技術事項であるといえる。
くわえて、測定点と投写型表示装置との間の距離を求めて台形調整を行う構成を有する投写型表示装置では、上記台形調整のために投写型表示装置とスクリーンとの間の距離を求めることを利用して、当該求めた距離から、投写型表示装置の焦点距離の調整を行うことも普通に行われていたことであることは上記刊行物2、刊行物3にあるようによく知られたことである。
刊行物1発明と刊行物2、刊行物3に記載された事項は、いずれも投写型表示装置における台形調整のための技術であるから、刊行物1発明に、刊行物2、刊行物3に記載された構成を適用し、台形調整の必要があるか否かを判定し、さらに、焦点距離の調整機構として、刊行物2、刊行物3にある構成も適用することは、当業者が容易になしえたことであるといえる。
このとき、台形調整と焦点距離の調整の順序を、刊行物3にあるように、焦点距離の調整を行った後に台形補正を行う構成とすれば、「前記ガイド表示画像を合焦の状態で表示する」構成となることは、当業者には明らかである。
したがって、刊行物1発明に、刊行物2、刊行物3の台形調整に係る技術を適用し、相違点2、相違点3の構成とすることは当業者が容易になしえたことである。

6c.相違点4について
台形調整の必要があるか否か判定するための画像として、どのような形状の図形を採用するかは、当業者が適宜なしえた設計的事項であり、当該図形として、相違点4の構成を採用することは当業者が適宜なしえたことである。

以上のように、上記各相違点は、当業者が容易に想到し得たものと認められ、本願発明全体としてみても格別のものはなく、その作用効果も、上記各相違点に係る構成の採用に伴って当然に予測される程度のものにすぎず、格別顕著なものがあるとは認められない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1ないし刊行物3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、残る請求項2ないし請求項7に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-06-01 
結審通知日 2015-06-02 
審決日 2015-06-15 
出願番号 特願2008-301500(P2008-301500)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大室 秀明  
特許庁審判長 藤井 浩
特許庁審判官 豊島 洋介
渡邊 聡
発明の名称 投写型表示装置および投写用調整方法  
代理人 特許業務法人明成国際特許事務所  

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