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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01N |
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管理番号 | 1303782 |
審判番号 | 不服2014-9279 |
総通号数 | 189 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-09-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-05-19 |
確定日 | 2015-07-30 |
事件の表示 | 特願2009-123819「気化制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成22年12月 2日出願公開、特開2010-271213〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成21年5月22日に出願した特願2009-123819号であって、平成25年4月17日付けで拒絶理由が通知され、これに対して同年6月24日に意見書が提出されるとともに同日付けで手続補正がなされたが、平成26年2月7日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年5月19日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がなされたものである。 第2 平成26年5月19日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成26年5月19日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について (1) 本件補正は、補正前の特許請求の範囲、すなわち平成25年6月24日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲、の請求項1の記載を、以下のとおり、補正後の特許請求の範囲の請求項1のものに補正する事項を含むものである(下線は補正箇所を示す)。 (補正前) 「【請求項1】 媒体に存する気化成分又は気化可能な物質を気化させる気化手段を有する気化装置の気化動作を制御する気化制御装置において、 前記気化装置による気化動作によって当該気化装置の筐体内の前記媒体又は気化可能な物質から気化した気化成分の濃度を、前記筐体内を計測領域として、赤外域の波長のレーザ光により計測する計測手段と、 前記計測手段の計測結果に基づき、前記気化装置の気化手段を制御して、前記媒体又は気化可能な物質から気化する気化成分の気化量を制御する制御手段と、 を備えて構成することを特徴とする気化制御装置。」 が、 (補正後) 「【請求項1】 媒体又は気化可能な物質を囲む筐体を備え、前記媒体に存する気化成分又は気化可能な物質を気化させる気化手段を前記筐体内に有する気化装置の気化動作を制御する気化制御装置において、 前記気化装置による気化動作によって前記筐体内の前記媒体又は物質から気化した気化成分の濃度を、前記筐体内を計測領域として、赤外域の波長のレーザ光を前記計測領域に投光することにより計測する計測手段と、 前記計測手段の計測結果に基づき、前記気化装置の気化手段を制御して、前記媒体又は物質から気化する気化成分の気化量を制御する制御手段と、 を備えて構成することを特徴とする気化制御装置。」 と補正された。 (2) 本件補正による特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項の、「気化装置の筐体」、「気化手段を有する」こと、及び「レーザ光により計測する」ことについて、それぞれ「媒体又は気化可能な物質を囲む」こと、「前記筐体内」であること、及び「前記計測領域に投光すること」を限定したものである。 よって、本件補正による特許請求の範囲の補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の限定的減縮を目的としているから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項を目的とするものであるといえる。 そこで、次に、本願補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定に違反しないか)について検討する。 2 本願補正発明 本願補正発明は、平成26年5月19日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのもの(上記「1」の(1)の記載を参照。)である。 3 引用例 (1) 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2002-282589公報(以下、「引用例」という。)には、次の事項が記載されている(下線は当審において付加したものである)。 ア 「【0010】 【課題を解決するための手段】本発明は上記目的を達成するため提案されたもので、請求項1に記載のものは、石油系溶剤によって洗浄した被洗浄物を収納する乾燥室と、この乾燥室内に温風を供給する温風供給路と、乾燥室の排気口に接続された排気流路と、該排気流路の途中に設けたガス濃度センサとを備え、ヒーターによって加熱された空気を温風供給路を介して給気口から乾燥室内に供給するとともに、排気口から排気流路を介して排気を行なって乾燥室内の被洗浄物を乾燥させる乾燥機構において、上記排気流路の途中に開口部を設け、該開口部の外側に突出した検知室を形成し、該検知室内に、ガス濃度センサの検知部を該検知部の周囲に被検ガスが通るように空間を設けた状態で取り付けたことを特徴とする石油系溶剤による被洗浄物の乾燥機構である。」 イ 「【0015】乾燥室1は、周面に多数の孔を開口し、内面には撹拌凸部2を有する略円筒状の回転ドラム3を内部に有し、前面の開閉扉(図示せず)からドラム3内に衣類などの被乾燥物を出し入れすることができるように構成されている。」 ウ 「【0017】排気流路7の途中にガス濃度センサ16を設ける場合、本実施形態では図2に示すように、排気流路7を構成しているダクト20に開口部21を丸く開設し、該開口部21の外側に突出した検知室22を形成し、該検知室22内に、ガス濃度センサ16の検知部23を、該検知部23の周囲に被検ガス(石油系溶剤のガスを含んだ乾燥室1からの排気)が通るように空間を設けた状態で取り付ける。検知室22は、両端にフランジ部24a,24bを形成した金属製円筒体25の一方の開口をセンサ取付板26により閉塞し、センサ取付板26とは反対側のフランジ部24aをダクト20にねじ止めして固定し、このフランジ部24a側の開口をダクト20の開口部21に連通させる。そして、この検知室22には結露防止用のヒーター27を設ける。具体的には、検知室22を構成している円筒体25の外周面にベルトヒーター27を巻き付けるとともに、ベルトヒーター27の外側に断熱材28を重ね合わせてその外周面に断熱材カバー29を被覆する。」 エ 「【0018】本実施形態に使用するガス濃度センサ16は光学式であり、検知部23には赤外エミッタと赤外センサとにより構成された光パワー測定系を備え、石油系溶剤が発生するハイドロカーボンが3.4μm付近の赤外線を吸収する特性を利用したものである。そして、本実施形態においては、上記検知部23を検知室22内に挿入し、この検知部23の先端に突起部材30を取り付け、この突起部材30を排気流路7内に突出させる。」 オ 「【0035】被乾燥物から蒸発したガスを含んだ乾燥室1内の空気は、排気口6から排気流路7へ排気され、途中のリントフィルタ12で糸屑が除去されてからクーラー14で冷却される。したがって、空気中の石油系溶剤ガスが液化され、この液化された石油系溶剤は回収路52を介して水分分離器53に導入され、ここで水分と溶剤とに分離され、溶剤は溶剤タンク(図示せず)に回収される。そして、クーラー14を通過して冷却された空気は、大気中に放出されることなく温風供給路5側に戻されて循環使用される。」 カ 「【0042】また、ガス濃度センサ16が上記設定値75%よりも高い濃度、例えば85%LELを超えたガス濃度を検出した場合には、制御装置が運転を強制的に停止する。但し、送風ファン11の運転は継続して排気を大気放出してガス濃度の低下を促進させる。」 キ 「【0045】 【発明の効果】以上説明したように本発明によれば、以下の効果を奏する。請求項1の発明は、乾燥室からの排気が通る排気流路の途中に開口部を設け、該開口部の外側に突出した検知室を形成し、該検知室内に、ガス濃度センサの検知部を、該検知部の周囲に被検ガスが通るように空間を設けた状態で取り付けたので、ガス濃度センサの検知部を排気流路内に挿入した場合に比較して、排気の流速の影響を受けにくく、正確なガス濃度を安定して得ることができる。したがって、ガス濃度の監視を適正に行うことができ、安全性を高めることができる。」 ク 上記摘記事項アの「被洗浄物を収納する乾燥室」及び「乾燥室内の被洗浄物を乾燥させる乾燥機構」、並びに上記摘記事項イの「乾燥室1は」「衣類などの被乾燥物を出し入れすることができるように構成」を踏まえると、上記摘記事項アの「被洗浄物」は、上記摘記事項イの「被乾燥物」を示すと認める。 ケ 上記摘記事項ウの「石油系溶剤のガスを含んだ乾燥室1からの排気」とは、上記摘記事項オの「被乾燥物から蒸発したガスを含んだ乾燥室1内の空気は」「排気流路7へ排気され」の記載を踏まえると、上記摘記事項ウの「被検ガス」とは、「被乾燥物から蒸発した」「石油系溶剤のガスを含んだ乾燥室1からの排気」のことであると認める。 (2) 引用例に記載された発明の認定 上記(1)のアないしケを含む引用例全体の記載を総合すると、引用例には、 「石油系溶剤によって洗浄した被乾燥物を収納する乾燥室と、この乾燥室内に温風を供給する温風供給路と、乾燥室の排気口に接続された排気流路と、該排気流路の途中に設けたガス濃度センサとを備え、ヒーターによって加熱された空気を温風供給路を介して給気口から乾燥室内に供給するとともに、排気口から排気流路を介して排気を行なって乾燥室内の被乾燥物を乾燥させる乾燥機構において、 乾燥室は、回転ドラムを内部に有し、ドラム内に被乾燥物を出し入れすることができるように構成され、 ガス濃度センサは光学式であり、被乾燥物から蒸発した石油系溶剤のガスを含んだ乾燥室からの排気を被検ガスとする検知部には赤外エミッタと赤外センサとにより構成された光パワー測定系を備え、石油系溶剤が発生するハイドロカーボンが3.4μm付近の赤外線を吸収する特性を利用したものであり、正確なガス濃度を安定して得ることができ、 ガス濃度センサが設定値よりも高い濃度のガス濃度を検出した場合には、制御装置が運転を強制的に停止するとともに送風ファンの運転は継続して排気を大気放出してガス濃度の低下を促進させる、 被乾燥物の乾燥機構。」 の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 4 本願補正発明と引用発明との対比 (1) 対比 ア 引用発明の「被乾燥物」、「蒸発」、「検出」、「乾燥機構」、「運転」、及び「制御装置」は、それぞれ本願補正発明の「媒体」、「気化」、「計測」、「気化装置」、「動作」、及び「制御装置」に相当する。 イ (ア) 引用発明の「石油系溶剤」は、「蒸発」することで「石油系溶剤のガス」になることが可能となっている。よって、上記アを踏まえると、引用発明の「蒸発」可能な「石油系溶剤」は、本願補正発明の「気化可能な物質」に相当する。 (イ) 引用発明において、「被乾燥物」から「蒸発」する前の「石油系溶剤」は、「被乾燥物」に存在するから、上記アを踏まえると、引用発明の「被乾燥物」に存する「石油系溶剤」は、本願補正発明の「媒体に存する気化成分」に相当する。 (ウ) 引用発明の「乾燥室」及び「排気流路」は、両者が「乾燥室の排気口」によって「接続」される結果、「乾燥室」の内部及び「排気流路」の内部を含む単一の内部空間を囲む一体の構成となっている。そして、「被乾燥物」は、「乾燥室」の内部、すなわち前記単一の内部空間の一部、に「収納」されているから、「被乾燥物」は「乾燥室」及び「排気流路」によって囲まれている。 さらに、上記(イ)のとおり「石油系溶剤によって洗浄した被乾燥物」には「被乾燥物」から「蒸発」する前の「石油系溶剤」が存在するから、「被乾燥物」から「蒸発」する前の「石油系溶剤」も、前記単一の内部空間の一部に「収納」されている。よって、「石油系溶剤」も「乾燥室」及び「排気流路」によって囲まれている。 よって、上記ア及び(ア)を踏まえると、引用発明の「被乾燥物」又は「蒸発」可能な「石油系溶剤」を囲む「乾燥室」及び「排気流路」は、本願補正発明の「媒体又は気化可能な物質を囲む筐体」に相当する。 (エ) 引用発明の「回転ドラム」では、「温風供給路」から供給された「加熱された空気」によって、その「内部」に入れられた「被乾燥物」から「石油系溶剤」が「蒸発」する。よって、上記(ア)及び(イ)を踏まえると、引用発明の、「被乾燥物」に存する「石油系溶剤」又は「蒸発」可能な「石油系溶剤」を「蒸発」させる「回転ドラム」は、本願補正発明の「媒体に存する気化成分又は気化可能な物質を気化させる気化手段」に相当する。 (オ) 引用発明では、「乾燥室は、回転ドラムを内部に有」するから、上記ア及び(ウ)を踏まえると、引用発明の「回転ドラム」を「乾燥室」及び「排気流路」の内部に有する「乾燥機構」は、本願補正発明の「気化手段を前記筐体内に有する気化装置」に相当する。 (カ) 引用発明の「制御装置」は、「ガス濃度センサが設定値よりも高い濃度のガス濃度を検出した場合に」、「被乾燥物の乾燥機構」の「運転を強制的に停止するとともに送風ファンの運転は継続して排気を大気放出してガス濃度の低下を促進させる」ものである。当該「被乾燥物の乾燥機構」の「運転」とは、「被乾燥物」を「乾燥」させるものであるから、引用発明の「乾燥機構」の「乾燥」「運転」を「制御」する「乾燥機構」及び「制御装置」は、本願補正発明の「気化装置の気化動作を制御する気化制御装置」に相当する。 (キ) 上記(ア)ないし(カ)を踏まえると、引用発明における、「被乾燥物」又は「蒸発」可能な「石油系溶剤」を囲む、「乾燥室」及び「排気流路」を備え、「被乾燥物」に存する「石油系溶剤」又は「蒸発」可能な「石油系溶剤」を「蒸発」させる「回転ドラム」を、「乾燥室」及び「排気流路」の内部に有する「乾燥機構」の「乾燥」「運転」を「制御」する「乾燥機構」及び「制御装置」は、本願補正発明の「媒体又は気化可能な物質を囲む筐体を備え、前記媒体に存する気化成分又は気化可能な物質を気化させる気化手段を前記筐体内に有する気化装置の気化動作を制御する気化制御装置」に相当する。 ウ (ア) 上記イを踏まえると、引用発明における、「乾燥機構」による「乾燥」「運転」によって、「乾燥室」及び「排気流路」内の「被乾燥物」又は「石油系溶剤」から「蒸発した石油系溶剤のガス」は、本願補正発明の「前記気化装置による気化動作によって前記筐体内の前記媒体又は物質から気化した気化成分」に相当する。 (イ) 引用発明では、「被乾燥物から蒸発した石油系溶剤のガスを含んだ乾燥室からの排気を被検ガス」として、「石油系溶剤が発生するハイドロカーボンが3.4μm付近の赤外線を吸収する特性を利用した」「ガス濃度センサ」で「ガス濃度を検出」していることから、「ガス濃度センサ」で検出される「ガス濃度」とは、「石油系溶剤のガス」のものとなっている。 よって、引用発明の「石油系溶剤のガス」の「ガス濃度」は、本願補正発明の「気化成分の濃度」に相当する。 (ウ) 引用発明の「ガス濃度センサ」の「検知部」に備えられた「赤外エミッタ」は、「赤外」域の波長の光を投光するものである。そして、「ガス濃度センサ」は、当該「赤外エミッタ」を備える「検知部」による「光学式」のものであるから、「赤外エミッタ」が「赤外」域の波長の光を投光することによって、「ガス濃度を検出」するものとなっている。 よって、上記アを踏まえると、引用発明における、「ガス濃度」を、「赤外」域の波長の光を投光することにより「検出」する「ガス濃度センサ」と、本願補正発明における「濃度を、前記筐体内を計測領域として、赤外域の波長のレーザ光を前記計測領域に投稿することにより計測する計測手段」とは、「濃度を、赤外域の波長の光を投光することにより計測する計測手段」である点で共通する。 (エ) 上記(ア)ないし(ウ)を踏まえると、引用発明における、「乾燥機構」による「乾燥」「運転」によって、「乾燥室」及び「排気流路」内の「被乾燥物」又は「石油系溶剤」から「蒸発した石油系溶剤のガス」の「ガス濃度」を、「赤外」域の波長の光を投光することにより「検出」する「ガス濃度センサ」と、本願補正発明における「前記気化装置による気化動作によって前記筐体内の前記媒体又は物質から気化した気化成分の濃度を、前記筐体内を計測領域として、赤外域の波長のレーザ光を前記計測領域に投光することにより計測する計測手段」とは、「前記気化装置による気化動作によって前記筐体内の前記媒体又は物質から気化した気化成分の濃度を、赤外域の波長の光を投光することにより計測する計測手段」である点で共通する。 エ (ア) 引用発明において、「ガス濃度センサが設定値よりも高い濃度のガス濃度を検出した」ことは、「ガス濃度センサ」の「検出」結果である。また、上記イ(エ)及び上記イ(カ)を踏まえると、そのような「検出」結果の「場合に」「制御装置が運転を強制的に停止する」ことによって、「乾燥機構」において「被乾燥物」から「石油系溶剤」を「蒸発」させる「回転ドラム」の「運転」も「停止」されるように「制御」される。 よって、引用発明における、「ガス濃度センサ」の「検出」結果に基づき、「乾燥機構」の「回転ドラム」を「制御」することは、本願補正発明における、「前記計測手段の計測結果に基づき、前記気化装置の気化手段を制御」することに相当する。 (イ) 上記(ア)を踏まえると、引用発明では、「制御装置が運転を強制的に停止する」と、「被乾燥物」から「石油系溶剤」を「蒸発」させる「運転」が「停止」されるように「制御」されるから、当該「制御」は、「被乾燥物」から「石油系溶剤」が「蒸発」する量を減少させるものとなっている。 よって、上記ア及びイを踏まえると、引用発明における、「被乾燥物」又は「石油系溶剤」から「蒸発」する「石油系溶剤のガス」の「蒸発」量を「制御」する「制御装置」は、本願補正発明における、「前記媒体又は物質から気化する気化成分の気化量を制御する制御手段」に相当する。 (ウ) 上記(ア)及び(イ)を踏まえると、引用発明における、「ガス濃度センサ」の「検出」結果に基づき、「乾燥機構」の「回転ドラム」を「制御」し、「被乾燥物」又は「石油系溶剤」から「蒸発」する「石油系溶剤のガス」の「蒸発」量を「制御」する「制御装置」は、本願補正発明における、「前記計測手段の計測結果に基づき、前記気化装置の気化手段を制御して、前記媒体又は物質から気化する気化成分の気化量を制御する制御手段」に相当する。 (2) 一致点 よって、本願補正発明と引用発明とは、 「媒体又は気化可能な物質を囲む筐体を備え、前記媒体に存する気化成分又は気化可能な物質を気化させる気化手段を前記筐体内に有する気化装置の気化動作を制御する気化制御装置において、 前記気化装置による気化動作によって前記筐体内の前記媒体又は物質から気化した気化成分の濃度を、赤外域の波長の光を投光することにより計測する計測手段と、 前記計測手段の計測結果に基づき、前記気化装置の気化手段を制御して、前記媒体又は物質から気化する気化成分の気化量を制御する制御手段と、 を備えて構成する、気化制御装置。」 の発明である点で一致し、次の点で相違する。 (3) 相違点 (相違点1) 本願補正発明では、赤外域の波長の光がレーザ光であるのに対し、引用発明ではその点が記載されていない点。 (相違点2) 本願補正発明では、計測手段が筐体内を計測領域として、赤外域の波長の光を前記計測領域に投光するのに対し、引用発明では、その点が記載されていない点。 5 当審の判断 各相違点について検討する。 (1)相違点1について ア 乾燥機構において気化した成分の濃度を正確に測定するために、赤外域の波長のレーザ光を用いることは、例えば、原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である実願昭57-54778号(実開昭58-157942号)のマイクロフィルム(以下、「周知例1」という。)(明細書第4頁第7行-第7頁第8行を参照。)のほか、本願の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2007/115965号(以下、「周知例2」という。)(第1欄第4行-第15行,第4欄第23-26行,第10欄第10行-第13行,第12欄第8行-第13欄第18行を参照。)に記載されているように、本願の出願前において周知の技術である。 イ そして、引用発明の「ガス濃度センサ」には、「乾燥機構」における「正確なガス濃度を」「得ることができ」ることが要求されているから、引用発明には、そのような「正確なガス濃度を」「得ることができ」るような「赤外エミッタ」(赤外光源)を特定する必要があるという自明の課題が存在する。 ウ 上記アの周知の技術は「乾燥機構において気化した成分の濃度を正確に測定する」ためのものであるから、上記イを踏まえると、引用発明において上記自明の課題を解決するために、上記周知の技術を採用して、「赤外エミッタ」として当該赤外域の波長のレーザ光を発するものを用いることで、上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項のように構成することは、当業者が容易に想到しうることである。 (2)相違点2について ア 乾燥機構において気化した成分の濃度を正確に測定するために赤外域の波長の光を計測領域に投光するにあたり、当該乾燥機構の筐体内を当該計測領域に設定することも、例えば周知例1(明細書第4頁第7行-第7頁第8行及び第5図を参照。)及び周知例2(第1欄第4行-第15行,第4欄第23-26行,第12欄第8行-第14欄第5行及びFIG.1を参照。)のほか、本願の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2007/063840号(段落[0006],[0011]-[0014]を参照。)に記載されているように、本願の出願前において周知の技術である。 イ 一方、引用発明の「ガス濃度センサ」には、「乾燥機構」における「正確なガス濃度を」「得ることができ」ることが要求されているから、引用発明には、「赤外エミッタ」からの光を投光するにあたり、そのような「正確なガス濃度を」「得ることができ」る計測領域を設定する必要があるという自明の課題が存在する。 ウ 上記アの周知の技術は「乾燥機構において気化した成分の濃度を正確に測定する」ことが前提となっているから、上記イを踏まえると、引用発明において上記自明の課題を解決するために、上記周知の技術を採用して、一体の構成である「乾燥室」及び「排気流路」の内部を計測領域に設定し、「赤外エミッタ」からの光を当該計測領域に投光することで、上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項のように構成することは、当業者が容易に想到しうることである。 (3) 本願補正発明の奏する作用効果 また、本願補正発明の作用効果は、引用発明及び周知の技術から、当業者が予測できる範囲のものである。 (4) まとめ したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 6 むすび したがって、本件補正後の請求項1に係る発明は、その特許出願の際独立して特許を受けることができないから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものである。よって、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 平成26年5月19日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という)は、平成25年6月24日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのもの(上記「第2」の「1」の(1)を参照。)である。 2 引用例 原査定の拒絶の理由に引用された引用例1、及びその記載事項は上記「第2」の「3」の(1)ないし(2)に記載したとおりである。 3 当審の判断 上記「第2」の「1」の(2)を踏まえると、本願発明は、上記「第2」で検討した本願補正発明から、「媒体又は気化可能な物質を囲む」こと、「前記筐体内」であること、及び「前記計測領域に投光すること」の構成を省いたものである。 そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2」で検討したとおり、引用発明及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 4 むすび 以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-05-27 |
結審通知日 | 2015-06-02 |
審決日 | 2015-06-16 |
出願番号 | 特願2009-123819(P2009-123819) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(G01N)
P 1 8・ 121- Z (G01N) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 樋口 宗彦、南 宏輔 |
特許庁審判長 |
森林 克郎 |
特許庁審判官 |
▲高▼場 正光 ▲高▼見 重雄 |
発明の名称 | 気化制御装置 |
代理人 | 西山 春之 |
代理人 | 小川 護晃 |
代理人 | 奥山 尚一 |