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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04W
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04W
管理番号 1303792
審判番号 不服2014-13234  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-07-08 
確定日 2015-07-30 
事件の表示 特願2011-217118「無線通信装置及びプログラム、並びに、無線通信システム」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 4月25日出願公開、特開2013- 78009〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成23年9月30日の出願であって、平成25年7月22日付けで拒絶理由通知がなされ、平成25年9月30日付けで手続補正(以下、「第1補正」と呼ぶ。)がなされ、平成26年4月2日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年7月8日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正(以下、「第2補正」と呼ぶ。)がなされたものである。

第2 第2補正(平成26年7月8日付けの手続補正)についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

第2補正(平成26年7月8日付けの手続補正)を却下する。

[理由]

1.補正内容

第2補正(平成26年7月8日付けの手続補正)は、第2補正前(第1補正)の特許請求の範囲の請求項2を、第2補正後の特許請求の範囲の請求項1のとおりに補正する補正事項を含むものである。

<第2補正前の特許請求の範囲の請求項1>

「【請求項1】
制御信号が受信可能な制御信号受信可能状態となり、制御信号を受信後にデータが受信可能なデータ受信可能状態となる1又は複数の第2の無線通信装置に対してデータを同報送信可能な第1の無線通信装置において、
直接無線通信可能な上記第2の無線通信装置のそれぞれについて、制御信号受信可能状態となるタイミングを保持するタイミング保持手段と、
上記タイミング保持手段が保持した、それぞれの上記第2の無線通信装置の制御信号受信可能状態となるタイミングに基づいて、制御信号について特定の上記第2の無線通信装置を指定せずに送信する同報送信を繰り返す制御信号送信期間を決定する制御信号送出期間決定手段と、
上記制御信号送出期間決定手段が決定した制御信号送出期間の間、制御信号の同報送信を繰り返す制御信号送信手段と、
上記制御信号送出期間決定手段が決定した制御信号送出期間の経過後に、データの同報送信を行うデータ送信手段と
を有することを特徴とする無線通信装置。
【請求項2】
当該第1の無線通信装置がデータを同報送信するタイミングを決定するデータ送信タイミング決定手段をさらに備え、
上記制御信号送信手段は、上記制御信号送出期間決定手段が決定した制御信号送出期間の間、上記データ送信タイミング決定手段が決定した同報送信タイミングの情報を含む制御信号の同報送信を繰り返し、
上記データ送信手段は、上記データ送信タイミング決定手段が決定した同報送信タイミングで、データの同報送信を行う
ことを特徴とする請求項1に記載の無線通信装置。」

<第2補正後の特許請求の範囲の請求項1>

「【請求項1】
制御信号が受信可能な制御信号受信可能状態となり、制御信号を受信後にデータが受信可能なデータ受信可能状態となる1又は複数の第2の無線通信装置に対してデータを同報送信可能な第1の無線通信装置において、
直接無線通信可能な上記第2の無線通信装置のそれぞれについて、制御信号受信可能状態となるタイミングを保持するタイミング保持手段と、
上記タイミング保持手段が保持した、それぞれの上記第2の無線通信装置の制御信号受信可能状態となるタイミングに基づいて、制御信号について特定の上記第2の無線通信装置を指定せずに送信する同報送信を繰り返す制御信号送信期間を決定する制御信号送出期間決定手段と、
上記制御信号送出期間決定手段が決定した制御信号送出期間の間、制御信号の同報送信を繰り返す制御信号送信手段と、
上記制御信号送出期間決定手段が決定した制御信号送出期間の経過後に、データの同報送信を行うデータ送信手段と、
当該第1の無線通信装置がデータを同報送信するタイミングを、上記制御信号送出期間が経過し、上記制御信号送信手段による制御信号の同報送信停止後のタイミングに決定するデータ送信タイミング決定手段とを備え、
上記制御信号送信手段は、上記制御信号送出期間決定手段が決定した制御信号送出期間の間、上記データ送信タイミング決定手段が決定した同報送信タイミングの情報を含む制御信号の同報送信を繰り返し、
上記データ送信手段は、上記データ送信タイミング決定手段が決定した同報送信タイミングで、データの同報送信を行う
ことを特徴とする無線通信装置。」

2.第2補正に対する判断

第2補正の上記補正事項は、第2補正前の請求項2に記載した発明を特定するために必要な事項である「第1の無線通信装置がデータを同報送信するタイミングを決定するデータ送信タイミング決定手段」を、「第1の無線通信装置がデータを同報送信するタイミングを、上記制御信号送出期間が経過し、上記制御信号送信手段による制御信号の同報送信停止後のタイミングに決定するデータ送信タイミング決定手段」に限定するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、第2補正後の上記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」と呼ぶ。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか)否かについて、以下検討する。

2-1.引用例

原査定の拒絶の理由に引用された「特開2006-148906号公報」(以下、「引用例」という。)には、以下の事項が記載されている。

あ.「【0020】
図1は、複数のノードA?Fを含む無線通信ネットワーク1を示しており、各ノードA?Fは、伝送範囲内の他の如何なるノードA?Fとも通信を行うことができる。ネットワーク1のノードA?Fは、例えば、煙探知器、火災報知機等のセンサであってもよく、例えば、アクチュエータ、携帯情報端末(PDA)、携帯電話機等、他の種類の機器であってもよい。」
い.「【0021】
本発明では、周期的にビーコンを送信することに代えて、MACプロトコルを実装するネットワーク1内のノードA?Fは、それぞれの受信機(図示せず)を起動し、受信機がオフにされる周期と比べて非常に短い周期で、物理的媒体(エアーインタフェース)を監視する。監視周期T_(PL)及び受信スロットと呼ばれる監視期間T_(L)は、ネットワーク1の全てのノードA?Fに共通であり、ここで、T_(L)<<T_(PL)である。ノードがウェークアップ信号を検出すると、送信機ノード及び受信機ノードは、データを交換するための同期フェーズを開始する。
【0022】
図2は、ノードBが、通信チャンネルを介して、宛先ノードAにデータを送ろうとする場合、ノードBがウェークアップ信号WUを送信して宛先ノードAを遠隔から起動するウェークアップメカニズムの具体例を示すタイミングチャートを示している。図2に示すように、ノードAの受信スロットRXは、上述した監視期間T_(L)、すなわち受信スロットの継続時間(duration)T_(L)及び周期(period)T_(PL)を有する。ノードBは、継続時間T_(WU)を有するウェークアップ信号WUを送信し、宛先ノードAに対し、ウェークアップ信号WUに後続するデータ伝送のために、その受信機を起動したまま維持するよう指示する。ソースノードBの伝送範囲内に宛先ノードAがあり、且つ、ウェークアップ信号の継続時間T_(WU)が十分長い、すなわち、T_(WU)=T_(PL)である場合、宛先ノードの受信スロットRXの1つがウェークアップ信号WUを受け取る。
【0023】
図3に示すように、ウェークアップ信号WUは、好ましくは、プリアンブルWP及び小さいデータパケットWDから構成される信号ブロックSBの繰返しを含む。プリアンブルWP及びデータパケットWDは、それぞれ、「ウェークアップホイッスル」及び「ウェークアップデータ」と呼ばれる。少なくとも1つの完全な信号ブロックSBを確実に受信するために、全ての受信スロットRXの期間中において、信号ブロックSBの継続時間T_(SB)(ホイッスル+データ)は、受信スロット継続時間T_(L)の半分以下である必要がある。
【0024】
ウェークアップ信号WUを送信するノードBは、例えば、受信側で所定の通信チャンネルを選択するためのコマンド、ノードBがネットワーク1に参加することを要求することを示す「ネットワーク参加」メッセージ、又はノードBがネットワーク1内で有効である又は存在していることを主張し、受信機ノードAに確認応答を要求し又は要求しない「アライブ(I'm alive)」メッセージ、及び/又はノードBが送信すべきユーザデータを有すること及びウェークアップ信号の略々直後に送信が開始されることを示す「MACデータ」メッセージ等の異なるメッセージをデータパケットWDに埋め込むことができる。この処理は、図3では、データ伝送開始点を示す時間ポインタをデータパケットWDに挿入することによって示している。時間ポインタは、ノードAにより、その受信機をノードBの送信機と同期させるために使用される。
【0025】
更に、また、ウェークアップデータパケットWDには、宛先ノードアドレスを挿入してもよい。物理アドレスがネットワーク1で利用可能である場合、又はMACアドレスがそれほど長くない場合、宛先アドレスは、ウェークアップデータパケットWDの一部であってもよい。これにより、時間ポインタによって示されている時刻において、宛先ノードAだけが受信機を起動するという利点がある。ウェークアップ信号WUを受信する他の如何なるノードA?Fも、ユーザデータを復号するためにその受信機を起動せず、これにより、このメッセージを受け取る必要がないノードA?Fの電力消費を抑制することができる。また、複数の受信ノードA?Fに効率的に情報を送信するために、ブロードキャスト又はマルチキャストアドレスを用いることができる。
【0026】
時間ポインタに関して2つの重要な側面がある。第1の側面として、宛先ノードに同じ絶対時間を提供することは困難であるため、時間ポインタは、絶対時間値を表現又は指示せず、相対的時間値のみを表す。すなわち、時間ポインタは、これから計時される値として、データ伝送をいつ開始するかを示す。これは、ウェークアップ信号WU内の複数のウェークアップデータパケットWDの各ウェークアップデータパケットWDの時間ポインタが、ウェークアップ信号WUを送信するノードBによって算出される異なる値を有している必要があることを意味する。すなわちウェークアップ信号WUの連続する信号ブロックSBにおいては、時間ポインタの長さは連続的に減少する。
【0027】
時間ポインタが、毎回、実際のインスタントを指示する理由は、ウェークアップ信号WUがいつ開始されるかが、受信機ノードAにとって既知ではなく、したがって、ウェークアップ信号の開始時を用いることができないためである。一方、ウェークアップ信号WUの最後は、時間ポインタのための基準点として用いることができるが、この手法では、電力が無駄に消費される。
【0028】
時間ポインタは、ウェークアップ信号の最後を参照しないので、受信ノードAは、ウェークアップ信号WUの残りの期間中、受信機を起動した状態に保つ必要はない。すなわち、ノードAは、ウェークアップデータを単に受信及び復号し、埋め込まれた時間ポインタ情報を用いて適切な時刻に受信機をオンに切り換えればよい。これにより、宛先ノードAの受信機が起動される時間が明らかに短くなり、したがって、より多くの電力を節約することができる。
【0029】
マルチキャスト又はブロードキャストの場合、時間ポインタによる利益は更に大きくなる。このようなシナリオでは、1つのウェークアップ信号WUのみを送信すればよい。ウェークアップ信号WUの継続時間T_(WU)は、ブロードキャスト伝送の場合、最大値になり、マルチキャストケースにおけるノードA?Fのグループに対応するよう算出した場合、より小さい値になる。いずれの場合も、図4に示すように、関係する全てのノードA、C、Dは、データ伝送が開始された場合のみ、それぞれの受信機をオンに切り換える。このように、ノードA、C、Dは、ウェークアップ信号WUの終わりを時間基準点として用いるためにウェークアップ信号WUの終わりを検出するために、それぞれの受信機を起動された状態に保つ必要はない。
【0030】
また、時間ポインタと共に後続するデータ伝送の継続時間に関する情報を送信することもできる。他のノードA?Fは、ウェークアップ信号WUの送信を開始する前に、媒体がいつ空いているかを検出するネットワーク割当ベクトル(Network Allocation Vector:NAV)としてこの情報を用いることができる。
【0031】
上述した実施形態では、ウェークアップ信号WUの継続時間T_(WU)に関する明らかな短所がある。ウェークアップ信号WUが長いと、送信側で電力が消費されるだけではなく、相当な時間周期の間、無線チャンネルが占有され、これにより他のノードA?Fが他のウェークアップ信号WUを送信することが妨害され、又は他の進行中の伝送において衝突が生じる虞がある(隠れノードシナリオ)。
【0032】
本発明の更なる実施形態では、宛先ノードAが受信スロットRXの受信を確実に行うことを保証しながら、ウェークアップ信号WUの継続時間T_(WU)を短縮するために、ネットワーク1のノードA?Fは、他のノードA?Fとの最後の通信が行われたローカル時刻に関する情報を保存するテーブルを維持する。2つのノードA?F間の通信の間、各ノードA?Fは、そのデータ又は確認応答の一部として、これから先、次の受信RXスロットが出現するまでの時間情報Tをピギーバックする。更に、時間情報Tを受け取る各ノードは、同じテーブル内に最後のパケットの最後のビットを受け取ったローカル時刻tも保存する。
【0033】
表1は、複数のピアノード#1、#3?#nを有するノード#2の内部メモリに保存されているタイミングテーブルの具体例を示している。
【0034】
【表1】
【0035】
図5は、ウェークアップメカニズム及び、ノード#1及びノード#2に関するデータ及び監視タイミング情報の交換の具体例を示すタイミングチャートである。図5に示すように、ノード#2は、データと共に時間情報T_(2)を送信し、ノード#1は、時刻t_(2)を検出し、ノード#2のT_(2)に対応するタイミング情報t_(2)を記録する。一方、ノード#1は、データ又は確認応答と共に時間情報T_(1)を送信し、ノード#2は、時間t_(1)を検出し、ノード#1のT_(1)に対応するタイミング情報t_(1)を記録する。
【0036】
ノード#2がノード#1との通信を確立することを望む場合、ノード#2は、テーブルからノード#1のT_(1)に対応するタイミング情報t_(1)を読み出し、タイミング情報t_(1)、T_(1)に基づいて、ノード#1の次の受信スロットRXの時刻t_(NXT)を計算する。ノード#1の次の受信スロットRXの時刻t_(NXT)は、以下のように算出される。
【0037】
【数1】
【0038】
ここで、Nは、t_(1)以降の監視周期T_(PL)(受信スロット)の数であり、T_(PL)は、全てのノード#1?#nに共通の監視周期である。監視周期T_(PL)の数Nは、以下のように算出される。
【0039】
【数2】
【0040】
ここで、Eは、全体の約数演算子(entire part operator)である。
【0041】
図6に示すように、ノード#1及びノード#2のシステムクロック間のクロックドリフトのため、式(1)によって算出される開始時刻t_(NXT)は、ノード#1の次の受信スロットRXの実際の開始時刻とは異なる。したがって、ノード#2のウェークアップ信号WUをノード#1の受信スロットRXに正確に一致させるためには、開始時刻t_(NXT)及びウェークアップ信号の継続時間T_(WU)を算出する際に、クロックドリフトを考慮する必要がある。
【0042】
ネットワーク1のノード#1?#nのシステムクロック間のクロックドリフトは、通常、100万分の1の単位(parts per million:ppm)で特定される。例えば、5ppmのドリフトを有するクロックは、毎秒あたり、正確な値から最大+5μ秒又は-5μ秒偏ることがある。したがって、ノード#1及びノード#2の両方の絶対クロックドリフトは、時間t_(1)によって示される、それらのノードが最後に通信してからの経過時間に比例する。
【0043】
最後の通信から、各ノード#1及びノード#2において生じる最大のクロックドリフト時間T_(ADD)は、以下のように算出される。
【0044】
【数3】
【0045】
ここで、θは、クロックドリフトを表している。なお、ノード#2は、最大のクロックドリフト時間T_(ADD)の2倍に相当する時間、算出されたt_(NXT)より前に、ウェークアップ信号WUの送信を開始する必要がある。この理由は、ノード#1及びノード#2の一方のクロックが進み、他方のクロックが同じ時間だけ遅れる最悪の場合に対応するためである。したがって、ノード#2のウェークアップ信号の開始点t_(WUP_ST)は、以下のように算出される。
【0046】
【数4】
【0047】
また、クロックドリフト時間T_(ADD)は、ウェークアップ信号継続時間T_(WU)を算出する際にも考慮に入れられなければならない。ノード#2のクロックがT_(ADD)だけ進み、ノード#1のクロックが同じ時間だけ遅れ、ノード#2がT_(ADD)の2倍に相当する時間、t_(NXT)より前にウェークアップ信号WUの送信を開始する始めると、ウェークアップ信号WUは、4T_(ADD)に相当する時間、ノード#1において受信スロットRXが実際に開始されるより前に開始されることになる。この点を考慮して、ウェークアップ信号WUの継続時間T_(WUP)は、以下のように算出する必要がある。
【0048】
【数5】
【0049】
信号の最大の継続時間は、監視周期T_(PL)であるので式(5)は、以下のように変形される。
【0050】
【数6】
【0051】
このようにしてt_(WUP_ST)及びT_(WUP)を算出することにより、ウェークアップ信号の継続時間を短縮でき、したがって、電力消費量を低減できる。例えば、監視時間T_(PL)が1秒であり、クロックドリフトが50ppmであり、受信スロット時間T_(SL)が10m秒であり、2つのノードの間での最後の通信が1分前に行われている場合、式(6)に基づいて算出されるウェークアップ信号の長さは、1秒ではなく、22m秒だけになる。」


【図4】

う.上記あ.の段落[0020]によれば、各ノードは伝送範囲内の他の如何なるノードとも通信を行うことができると記載されているから、送信ノードと受信ノードは直接通信を行うものである。

え.上記い.の段落[0022]、[0028]及び[0029]並びに図4によれば、ノードBがノードAにデータを送ろうとする場合、ノードBがウェークアップ信号WUを送信して宛先ノードAを遠隔から起動すること、受信ノードAはウェークアップデータに埋め込まれた時間ポインタ情報を用いて適切な時刻に受信機をオンに切り換えること、関係する全てのノードA,C,Dはデータ伝送が開始された場合のみ、それぞれの受信機をオンに切り換えることが記載されているから、受信機をオンにする時間ポインタ情報はデータが送信される時間を表す情報であると言える。そして、図4を参照すると、時間ポインタはウェークアップ信号WUの継続時間の後を指し示すものとなっているから、データのブロードキャスト送信は、送信ノードによって、ウェークアップ信号WUの継続時間経過後、時間ポインタが指し示す時間に行われるものである。

お.上記い.の段落[0026]には、「各ウェークアップデータパケットWDの時間ポインタが、ウェークアップ信号WUを送信するノードBによって算出される」と記載されているから、ブロードキャストが行われる時間ポインタは送信ノードによって算出されるものである。

したがって、引用例には実質的に次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「宛先ノードの受信スロットRXの一つがデータ伝送開始点を示す相対的時間値を表す時間ポインタが埋め込まれたウェークアップ信号WUを受け取り、受信ノードは、ウェークアップデータWUを単に受信及び復号し、埋め込まれた時間ポインタを用いて適切な時刻に受信機(受信ノード)をオンにし、複数の受信ノードにブロードキャストを用いてデータを送信する送信ノードにおいて、
送信ノードには、直接通信が行われた他の受信ノードの次の受信スロットRXのタイミング情報をタイミングテーブルとして内部メモリに有し、
該内部メモリが保持している該タイミングテーブルの各受信ノードのタイミング情報に基づいて他の受信ノードに対してブロードキャストを繰り返すウェークアップ信号WUの継続時間を算出し、
ウェークアップ信号WUの継続時間の間、ウェークアップ信号WUのブロードキャストを繰り返し、
ウェークアップ信号WUの継続時間の経過後、他のノードに対してブロードキャストによってデータの送信が行われ、
当該送信ノードがデータをブロードキャストする時刻を、上記ウェークアップ信号WUの継続時間の経過後の時刻(時間ポインタ)として算出し、
送信ノードは、ウェークアップ信号WUの継続時間の間、時刻(時間ポインタ)が埋め込まれたウェークアップ信号WUのブロードキャストを繰り返し、
送信ノードは、データを該算出されたブロードキャストする時刻でブロードキャストする
ことを特徴とする送信ノード。」

2-2.本願補正発明と引用発明との対比

本願補正発明と引用発明とを対比すると、以下のことがいえる。

(1)引用発明の「ウェークアップ信号WU」は、受信ノードによって受信され、該「ウェークアップ信号WU」が含む「データ伝送開始点を示す時間ポインタ」を用いて受信ノードがオンにされ、受信ノードによって情報が受信可能となるものであるから、引用発明の該「ウェークアップ信号WU」は、本願補正発明の「制御信号」に相当する。

(2)引用発明の「受信スロットRX」は、該「制御信号」である該「ウェークアップ信号WU」を送信ノードから受け取るものであり、該受信ノードにおいて継続時間T_(L)の長さを持ち、周期T_(PL)で発生するものである(段落[0022])から、引用発明の該「受信スロットRX」が該「ウェークアップ信号WU」を受け取るということは、本願補正発明の「制御信号が受信可能な制御信号受信可能状態」となったことを表すことに相当する。また、引用発明の「宛先ノード」は、該「ウェークアップ信号WU」、「情報」等のデータを受信するノードであるから、「受信ノード」である。

(3)引用発明の「受信ノード」は、該「制御信号」に相当する該「ウェークアップデータ」を受信及び復号し、埋め込まれた「時間ポインタ」情報を用いて適切な時刻にオン(起動)され、ブロードキャストされた情報を「送信ノード」から受信するものであり、上記「2-1」、「あ.」にも摘記した様に、各ノードは、無線通信ネットワークの携帯情報端末であってよいと記載されている(段落[0020])から、引用発明の「受信ノード」は、本願補正発明の「制御信号を受信後にデータが受信可能なデータ受信可能状態となる第2の無線通信装置」に相当する。

(4)引用発明の「送信ノード」は、該「第2の無線通信装置」である該「受信ノード」に対して、該「制御信号」、「データ」をブロードキャストを用いて送信するものであり、上記(3)と同様に上記「2-1」、「あ.」には、各ノードは、無線通信ネットワークの携帯情報端末であってよいと記載されているから、引用発明の「送信ノード」は、本願補正発明の「第1の無線通信装置」に相当する。また、引用発明の「ブロードキャストは、本願補正発明の「同報送信」に相当するから、「同報送信可能」であることは明らかである。

(5)引用発明の「タイミングテーブル」は、該「第1の無線通信装置」である該「送信ノード」が、他の該「受信ノード」である該「第2の無線通信装置」との通信によって取得した情報であり、該「第2の無線通信装置」の次の「受信スロットRX」の出現時間を算出するために用いる情報であり、該「受信スロットRX」は該「制御信号」を受信するものであるから、該「受信スロット」の出現時間は、「制御信号受信可能状態」となる時間であるといえる。よって引用発明の該「タイミングテーブル」は、本願補正発明の「直接無線通信可能な第2の無線通信装置のそれぞれについて、制御信号受信可能状態となるタイミングを保持する」ものであると言え、引用発明の「内部メモリ」に「タイミングテーブル」が保存されているものであるから、引用発明の「内部メモリ」は、本願補正発明の「タイミング保持手段」に相当する。

(6)引用発明の「タイミング情報」は、上記(5)に記載のとおり、「第2の無線通信装置のそれぞれについて、制御信号受信可能状態となるタイミング」を表すものであるら、本願補正発明の「タイミング」に相当する。

(7)引用発明の「他の受信ノード」に対しておこなわれる「ブロードキャスト」は、ブロードキャスト自体が装置を指定せず、不特定多数に送信することを表すものであるから、本願補正発明の「第2の無線通信装置を指定せずに送信する同報送信」に相当する。

(8)引用発明の「ウェークアップ信号WUの継続時間」は、上記(1)に記載したとおり、引用発明の「ウェークアップ信号WU」が、本願補正発明の「制御信号」に相当し、「継続時間」は、「ウェークアップ信号WU」を送信する「期間」に相当するから、引用発明の「ウェークアップ信号WUの継続時間」は、本願補正発明の「制御信号送信期間」に相当する。また、該「制御信号送信期間」である、該「ウェークアップ信号WUの継続時間」は、該タイミングテーブルの各受信ノードのタイミング情報に基づいて算出され決定されるものであるから、引用発明の「ウェークアップ信号WUの継続時間を算出」することは、本願補正発明の「制御信号送信期間の決定」に相当する。

(9)引用発明の「データをブロードキャストする時刻を、ウェークアップ信号WUの継続時間の経過後の時刻(時間ポインタ)として算出」することは、「ウェークアップ信号の継続時間」は「制御信号送出期間」に相当し、「ウェークアップ信号WUの継続時間の経過後」が該「制御信号」の「送信停止後」に相当するものであり、「算出」することは、送信ノードが適切な時刻を算出し、算出した「時刻」をもって、データ送信を行う「タイミング」に「決定」することに相当する。従って、引用発明の「データをブロードキャストする時刻を、ウェークアップ信号WUの継続時間の経過後の時刻(時間ポインタ)として算出」することは、本願補正発明の「データを同報送信するタイミングを、制御信号送出期間が経過し、制御信号の同報送信停止後のタイミングに決定」することに相当する。

(10)また引用発明は、無線通信ネットワークの携帯情報端末上で動作するものであり、上記のように、本願補正発明の「制御信号送信期間」の算出、「制御信号の同報送信」、「データの同報送信」、「制御信号の同報送信停止後のタイミングの(に)決定」を処理又は実施する手段を有していることは明らかである。よって、引用発明においても「制御信号送出期間決定手段」、「制御信号送信手段」、「データ送信手段」、「データ送信タイミング決定手段」を有していると言える。

したがって、本願補正発明と引用発明の間には、以下の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「制御信号が受信可能な制御信号受信可能状態となり、制御信号を受信後にデータが受信可能なデータ受信可能状態となる複数の第2の無線通信装置に対してデータを同報送信可能な第1の無線通信装置において、
直接無線通信可能な上記第2の無線通信装置のそれぞれについて、制御信号受信可能状態となるタイミングを保持するタイミング保持手段と、
上記タイミング保持手段が保持した、それぞれの上記第2の無線通信装置の制御信号受信可能状態となるタイミングに基づいて、制御信号について特定の上記第2の無線通信装置を指定せずに送信する同報送信を繰り返す制御信号送信期間を決定する制御信号送出期間決定手段と、
上記制御信号送出期間決定手段が決定した制御信号送出期間の間、制御信号の同報送信を繰り返す制御信号送信手段と、
上記制御信号送出期間決定手段が決定した制御信号送出期間の経過後に、データの同報送信を行うデータ送信手段と、
当該第1の無線通信装置がデータを同報送信するタイミングを、上記制御信号送出期間が経過し、上記制御信号送信手段による制御信号の同報送信停止後のタイミングに決定するデータ送信タイミング決定手段とを備え、
上記制御信号送信手段は、上記制御信号送出期間決定手段が決定した制御信号送出期間の間、上記データ送信タイミング決定手段が決定した同報送信タイミングの情報を含む制御信号の同報送信し、
上記データ送信手段は、上記データ送信タイミング決定手段が決定した同報送信タイミングで、データの同報送信を行う
ことを特徴とする無線通信装置。
」である点。

(相違点)
本願補正発明の「同報送信タイミングの情報」は発明の詳細な説明を参酌すると、送信開始時刻(時間)そのものを表すものであると解され、同じ送信開始時刻の同報送信が繰り返されるのに対し、引用発明の「同報送信タイミングの情報」は、「データ伝送開始点を示す相対的時間値」であり、同じ送信開始時刻の同報送信が繰り返されるものではない点。

2-3.判断

2-3-1.上記相違点について

以下の事情を勘案すると、引用発明の「無線通信装置」において、「同報送信タイミングの情報(データ伝送開始点を示す相対的時間値)」を「同報送信タイミングの情報(送信開始時刻)」とし、繰り返し送信するように構成することが、当業者が容易に推考し得たことというべきである。
(ア)上記「2.」の「2-1.」の「引用例」にも摘記したとおり、引用発明の無線通信装置は、ウェークアップ信号WUの継続時間の間、各ウェークアップ信号WUにおいて、データ伝送開始が同じ時刻となるようにデータ伝送開始点を示す相対的時間値を計算し、ウェークアップ信号WUに埋め込み、送信するものである。
(イ)上記(ア)のように、情報(データ)の伝送開始点を時刻を用いて表す場合、相対的な時刻(ある時点からの経過値を用いた値)として表すこと、絶対的な時刻(その時点を直接表す値)として表すことは、どちらも情報処理分野において慣用される手法であり、例えば、特開2006-5653号公報(特に、段落[0015])や、特開2010-35068号公報(特に、段落[0030])に示されるように周知である。
(ウ)そして、上記「同報送信タイミング」の設定において、絶対的な時刻を用いて該「同報送信タイミング」を設定することが有用な場合もあり、また絶対的な時刻を用いた設定を該「同報送信タイミング」として採用できない理由もない。
(エ)以上のことは、引用発明の「無線通信装置」において、「同報送信タイミングの情報(データ伝送開始点を示す相対的時間値)」を「同報送信タイミングの情報(送信開始時刻)」とし繰り返し送信するように構成することが、当業者にとって容易であったことを意味している。

2-3-2.本願補正発明の効果について

本願補正発明の構成によってもたらされる効果は、引用発明の記載事項及び周知の事項から当業者ならば容易に予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。

2-3-3.まとめ

以上によれば、本願補正発明は、引用発明の記載事項及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび

したがって、第2補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

1.本願発明

第2補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」と呼ぶ。)は、平成25年9月30日付けの手続補正書の請求項1に記載されたとおりのものであり、上記「第2」の「1.」の<第2補正前の特許請求の範囲の請求項1>に転記したとおりのものである。

2.引用例

原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及びその記載事項は、上記「第2」の「2.」の「2-1.」の項に記載したとおりである。

3.対比・判断

本願発明は、上記「第2」で検討した本願補正発明から、限定事項を省いたものである。

そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに特定の限定を施したものに相当する本願補正発明が、上記「第2」の「2-3.」の項に記載したとおり、引用発明の記載事項及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明の記載事項及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび

以上のとおり、本願発明は、引用発明の記載事項及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-05-26 
結審通知日 2015-06-02 
審決日 2015-06-18 
出願番号 特願2011-217118(P2011-217118)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04W)
P 1 8・ 575- Z (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 倉本 敦史  
特許庁審判長 水野 恵雄
特許庁審判官 本郷 彰
佐藤 聡史
発明の名称 無線通信装置及びプログラム、並びに、無線通信システム  
代理人 吉田 倫太郎  
代理人 工藤 宣幸  
代理人 若林 裕介  

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