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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01F
管理番号 1303794
審判番号 不服2014-14413  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-07-24 
確定日 2015-07-30 
事件の表示 特願2010- 79066「焼結磁石、モーター、自動車、及び焼結磁石の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年10月20日出願公開、特開2011-211071〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成22年3月30日の出願であって、平成25年8月13日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年10月17日付けで意見書のみ提出され、同年12月20日付け拒絶理由通知に対する応答時、平成26年3月7日付けで手続補正がなされたが、同年4月22日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年7月24日付けで拒絶査定不服審判の請求及び手続補正がなされたものである。

2.平成26年7月24日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成26年7月24日付けの手続補正を却下する。
[理 由]
(1)補正後の本願発明
平成26年7月24日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲は、
本件補正前には、
「【請求項1】
コアと、前記コアを被覆するシェルと、を有するR-T-B系希土類磁石の結晶粒子群を備え、
前記シェルにおける重希土類元素の質量の比率が、前記コアにおける重希土類元素の質量の比率よりも高く、
前記コアと前記シェルとの間に格子欠陥が形成されている、
焼結磁石。
【請求項2】
前記重希土類元素が前記焼結磁石内の粒界に拡散している、
請求項1に記載の焼結磁石。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の焼結磁石を備える、
モーター。
【請求項4】
請求項3に記載のモーターを備える、
自動車。
【請求項5】
R-T-B系希土類磁石用の原料合金を焼結して焼結体を形成する第1工程と、
前記焼結体に、重希土類元素を含む重希土類化合物を付着させる第2工程と、
前記重希土類化合物が付着した前記焼結体を熱処理して、前記重希土類元素を前記焼結体内の粒界へ拡散させる第3工程と、
前記第3工程において熱処理した前記焼結体を20℃/分以上の冷却速度で冷却する第4工程と、
を備える、
焼結磁石の製造方法。
【請求項6】
前記第2工程では、前記重希土類元素を溶媒に分散させた拡散剤を前記焼結体に塗布する、
請求項5に記載の焼結磁石の製造方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の焼結磁石の製造方法によって得られた焼結磁石。
【請求項8】
請求項7に記載の焼結磁石を備える、
モーター。
【請求項9】
請求項8に記載のモーターを備える、
自動車。」

とあったものが、

「【請求項1】
コアと、前記コアを被覆するシェルと、を有するR-T-B系希土類磁石の結晶粒子群を備え、
前記シェルにおける重希土類元素の質量の比率が、前記コアにおける重希土類元素の質量の比率よりも高く、
前記コアと前記シェルとの間に格子欠陥が形成されており、
前記重希土類元素が焼結磁石内の粒界に拡散している、
焼結磁石。
【請求項2】
請求項1に記載の焼結磁石を備える、
モーター。
【請求項3】
請求項2に記載のモーターを備える、
自動車。
【請求項4】
R-T-B系希土類磁石用の原料合金を焼結して焼結体を形成する第1工程と、
前記焼結体に、重希土類元素を含む水素化物を付着させる第2工程と、
前記水素化物が付着した前記焼結体を熱処理して、前記重希土類元素を前記焼結体内の粒界へ拡散させる第3工程と、
前記第3工程において熱処理した前記焼結体を20℃/分以上の冷却速度で冷却する第4工程と、
を備える、
焼結磁石の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の焼結磁石の製造方法によって得られた焼結磁石。
【請求項6】
請求項5に記載の焼結磁石を備える、
モーター。
【請求項7】
請求項6に記載のモーターを備える、
自動車。」
と補正された。

上記補正は、
ア.本件補正前の請求項2を独立形式として本件補正後の請求項1とするとともに、本件補正前の請求項1を削除し、
イ.本件補正前の請求項6を削除し、
ウ.本件補正後の請求項4について、本件補正前の請求項5に記載された発明を特定するために必要な事項である「第2工程」における、焼結体に付着させる重希土類元素を含む「重希土類化合物」について、「水素化合物」である旨の限定を付加するものである。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除、及び第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の上記請求項4に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか)否かについて以下に検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開2007-329250号公報(以下、「引用例」という。)には、「永久磁石の製造方法」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「【請求項1】
所定形状を有する鉄-ホウ素-希土類系の焼結磁石の表面に、Dy、Tbの少なくとも一方を成膜する成膜工程と、高温領域で熱処理を施して焼結磁石表面にDy、Tbの少なくとも一方を含む所定膜厚の拡散層を形成すると共に、この焼結磁石の結晶粒界相にDy、Tbの少なくとも一方を拡散させる高温熱処理工程と、低温領域で熱処理を施して焼結磁石の歪を除去する低温熱処理工程とを含むことを特徴とする永久磁石の製造方法。」

イ.「【0001】
本発明は、永久磁石及び永久磁石の製造方法に関し、特に、鉄-ホウ素-希土類系の焼結磁石の表面に、Dy、Tbの少なくとも一方をからなる金属膜を形成し、所定温度下で熱処理を施してDy、Tbの少なくとも一方を焼結磁石の結晶粒界相に拡散させてなる永久磁石及び永久磁石の製造方法に関する。」

ウ.「【0009】
請求項1記載の発明によれば、高温領域で熱処理を施すことで、焼結磁石表面に成膜したDy、Tbの少なくとも一方を、焼結磁石表面だけでなく、結晶粒界の略全域に拡散させることができ、その後に低温領域で歪を除去することで、上記従来技術の永久磁石と比較して高い保磁力を有し、高磁気特性の永久磁石が得られる。この場合、Ndと比較して極めて高い耐食性、耐候性を有するDyやTbが少なくとも焼結磁石Sの表面に存在することで、Dyが保護膜としての役割も果たし、付加的な保護膜なしに強い耐食性の有する永久磁石となるため、付加的な表面処理工程を省けることで、生産性がさらに向上し、低コスト化が可能になる。」

エ.「【実施例1】
【0061】
鉄-ホウ素-希土類系の焼結磁石として、組成が28Nd-2V-0.9B-bal.Feのものを用い、10×20×40mmの直方体形状に加工した。この場合、Fe、B、Nd、Vを上記組成比で配合して、公知のストリップキャスト法により0.05mm?0.5mmの合金を作製し、公知の水素粉砕工程により一旦粉砕し、引き続き、ジェットミル微粉砕工程により微粉砕する。次いで、磁界配向して金型で所定形状に成形した後、所定の条件過下で焼結させて焼結磁石Sを得た。焼成磁石Sの表面を20μm以下の表面荒さを有するように仕上加工した後、アセトンを用いて洗浄した。
【0062】
次に、上記成膜装置1を用いて焼成磁石S表面にDyを成膜した。純度99.9%のDyを用い、Dyをるつぼ13aに配置すると共に、基板ホルダ14に、70個の焼結磁石Sを、表面積が最も大きい一面がるつぼ13aに対向するように配置した。
【0063】
次いで、真空チャンバ12内の圧力を一旦10×10-6Paまで真空排気した後、蒸発源13を構成する電子銃を作動させてDyを加熱し、5分間EB蒸着法により成膜処理し、焼結磁石表面に平均5μmの膜厚のDy膜を得た。次いで、一旦、真空チャンバ12を大気開放して焼結磁石を取出し、再度、表面積が最も大きい他面がるつぼ13aに対向するように配置し、上記と同条件で成膜し、焼結磁石の全表面積の少なくとも87%にDyの薄膜を形成した。
【0064】
次いで、表面積が最も大きい二面にDyが成膜された焼結磁石Sを熱処理装置に配置し、拡散工程を実施した。拡散工程の条件として、真空チャンバ内の圧力を10×10-3Paに設定し、所定の時間、高温熱処理工程(最大96時間)と低温熱処理工程(30分間)とを順次実施した。
【0065】
図5は、上記条件下で、高温熱処理工程の温度を700?1080℃の範囲、低温熱処理工程の温度を400?650℃の範囲、徐冷処理工程を0?50℃/minの範囲で変化させると共に、急冷処理工程を実施するかまたは実施せずに得た永久磁石の磁気特性の平均値及び永久磁石Mの表面からの高濃度拡散層の深さ(mm)を示す表である。」

・上記引用例に記載の「永久磁石の製造方法」は、上記「ア.」、「イ.」の記載事項によれば、所定形状を有する鉄-ホウ素-希土類系の焼結磁石の表面に、Dy、Tbの少なくとも一方からなる金属膜を成膜する成膜工程と、高温領域で熱処理を施してDy、Tbの少なくとも一方を焼結磁石の結晶粒界相に拡散させる高温熱処理工程と、低温領域で熱処理を施して焼結磁石の歪を除去する低温熱処理工程とを含む永久磁石の製造方法に関するものである。
・上記「ウ.」の記載事項によれば、高温領域で熱処理を施すことで、焼結磁石表面に成膜したDy、Tbの少なくとも一方を焼結磁石表面だけでなく結晶粒界の略全域に拡散させることができる。
・上記「エ」の記載事項、図5によれば、まず、Fe、B、Nd、Vを所定の組成比で配合して作製した合金を微粉砕し、これを磁界配向して金型で所定形状に成形した後、所定の条件過下で焼結させることにより焼結磁石を作製し、次に、作製した焼結磁石の表面にDy膜を成膜し、次に、Dyが成膜された焼結磁石に対して、700?1080℃の温度範囲での高温熱処理工程、0?50℃/minの冷却速度の範囲での徐冷処理工程、400?650℃の温度範囲での低温熱処理工程とを順次実施してなるものである。
特に図5には実施例1に関連して、比較例としてではあるが、高温熱処理工程(高温熱処理温度950℃)後の冷却速度が20℃/minあるいは50℃/minのものが示されている。なお、これらの低温熱処理温度は500℃である。

したがって、特に実施例1で作製されたもののうち、図5で比較例として示され、高温熱処理工程後の冷却速度が20℃/minあるいは50℃/minのものに着目し、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「Fe、B、Nd、Vを所定の組成比で配合して作製した合金を微粉砕し、これを磁界配向して金型で所定形状に成形した後、所定の条件過下で焼結させることにより鉄-ホウ素-希土類系の焼結磁石を作製する工程と、
作製した前記焼結磁石の表面にDy膜を成膜する成膜工程と、
前記Dy膜が成膜された焼結磁石に対して、950℃の高温熱処理温度で熱処理を施して前記Dyを当該焼結磁石表面だけでなく結晶粒界の略全域に拡散させる高温熱処理工程と、
前記高温熱処理工程を実施した後、20℃/minあるいは50℃/minの冷却速度で徐冷する徐冷処理工程と、
徐冷処理工程を実施した後、500℃の低温熱処理温度で熱処理を施して焼結磁石の歪を除去する低温熱処理工程と、
を含む永久磁石の製造方法。」

(3)対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比すると、
ア.引用発明における「鉄-ホウ素-希土類系の焼結磁石」は、本願補正発明でいう「焼結体」に相当し、
引用発明における「Fe、B、Nd、Vを所定の組成比で配合して作製した合金を微粉砕し、これを磁界配向して金型で所定形状に成形した後、所定の条件過下で焼結させることにより鉄-ホウ素-希土類系の焼結磁石を作製する工程と」によれば、
引用発明の「Fe、B、Nd、Vを所定の組成比で配合して作製した合金」は、鉄-ホウ素-希土類系の焼結磁石を形成するための原料合金に他ならず、本願補正発明でいう「R-T-B系希土類磁石用の原料合金」に相当し、
したがって、引用発明の「鉄-ホウ素-希土類系の焼結磁石を作製する工程」は、本願補正発明における「第1工程」に相当するものであり、本願補正発明と引用発明とは、「R-T-B系希土類磁石用の原料合金を焼結して焼結体を形成する第1工程と」を備えるものである点で一致する。

イ.引用発明における「Dy」は、本願補正発明でいう「重希土類元素」に相当し、
引用発明における「作製した前記焼結磁石の表面にDy膜を成膜する成膜工程と」によれば、
引用発明の「成膜工程」は、焼結磁石の表面に重希土類元素であるDyを付着させる工程であるといえるから、本願補正発明における「第2工程」に対応するものであり、
本願補正発明と引用発明とは、後述の相違点はあるものの「前記焼結体に、重希土類元素を付着させる第2工程と」を備えるものである点で共通するということができる。

ウ.引用発明における「前記Dy膜が成膜された焼結磁石に対して、950℃の高温熱処理温度で熱処理を施して前記Dyを当該焼結磁石表面だけでなく結晶粒界の略全域に拡散させる高温熱処理工程と」によれば、
引用発明の「高温熱処理工程」は、重希土類元素であるDyが付着した焼結磁石を熱処理することにより、重希土類元素であるDyを焼結磁石内の結晶粒界に拡散させる工程であるといえるから、本願補正発明における「第3工程」に対応するものであり、
本願補正発明と引用発明とは、後述の相違点はあるものの「前記[重希土類元素]が付着した前記焼結体を熱処理して、前記重希土類元素を前記焼結体内の粒界へ拡散させる第3工程と」を備えるものである点で共通するといえる。

エ.引用発明における「前記高温熱処理工程を実施した後、20℃/minあるいは50℃/minの冷却速度で徐冷する徐冷処理工程と」によれば、
引用発明の「徐冷処理工程」は、高温熱処理した焼結磁石を20℃/分以上の冷却速度で冷却する工程であるから、本願補正発明における「第4工程」に相当し、
本願補正発明と引用発明とは、「前記第3工程において熱処理した前記焼結体を20℃/分以上の冷却速度で冷却する第4工程と」を備えるものである点で一致する。

オ.そして、引用発明における「Fe、B、Nd、Vを所定の組成比で配合して作製した合金を微粉砕し、これを磁界配向して金型で所定形状に成形した後、所定の条件過下で焼結させることにより鉄-ホウ素-希土類系の焼結磁石を作製する工程と、・・・・を含む永久磁石の製造方法」によれば、
引用発明の「永久磁石の製造方法」は、鉄-ホウ素-希土類系の焼結磁石からなる永久磁石の製造方法であるといえるから、引用発明の「焼結磁石の製造方法」に相当するものである。

カ.なお、引用発明における「徐冷処理工程を実施した後、500℃の低温熱処理温度で熱処理を施して焼結磁石の歪を除去する低温熱処理工程」は、焼結磁石の歪を除去するための低温熱処理を施すものであり、本願明細書の段落【0062】、【0078】に記載のように、本願補正発明であっても適宜追加して実施される工程(いわゆる時効処理工程)である。

よって、本願補正発明と引用発明とは、
「R-T-B系希土類磁石用の原料合金を焼結して焼結体を形成する第1工程と、
前記焼結体に、重希土類元素を付着させる第2工程と、
前記[重希土類元素]が付着した前記焼結体を熱処理して、前記重希土類元素を前記焼結体内の粒界へ拡散させる第3工程と、
前記第3工程において熱処理した前記焼結体を20℃/分以上の冷却速度で冷却する第4工程と、
を備える、
焼結磁石の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点]
第2工程において、焼結体に重希土類元素を付着させるために、本願補正発明では、「重希土類元素を含む水素化合物」を用いこれを付着させる旨特定するのに対し、引用発明では、そのような特定を有していない点。

(4)判断
上記相違点について検討する。
例えば原査定において提示した特開2009-254092号公報(【請求項6】、段落【0022】?【0023】を参照)、さらには特開2005-175138号公報(【請求項5】、段落【0028】?【0029】を参照)、特開2005-11973号公報(段落【0038】?【0040】を参照)に記載されているように、希土類焼結磁石の表面に付着させた重希土類元素(Dy、Tb)を熱処理によって焼結磁石内の粒界に拡散させる方法において、焼結磁石の表面に付着させる付着物として重希土類元素を含む合金や各種化合物を用いることは周知といえる技術事項であるところ、特に上記特開2005-175138号公報や特開2005-11973号公報には、重希土類元素を含む水素化物(水素化合物)を用いることも例示されており、引用発明においても、焼結磁石の表面に重希土類元素を付着させるために、付着物として重希土類元素の金属そのものに代えて重希土類元素を含む化合物、中でも水素化合物を用いて相違点に係る構成とすることは当業者であれば容易になし得ることである。

(5)その他
そして、
そもそも、本願補正発明において、熱処理工程である「第3工程」について、「前記水素化合物が付着した前記焼結体を熱処理して、前記重希土類元素を前記焼結体内の粒界へ拡散させる」と記載されているだけであり、かかる処理工程の結果、重希土類元素が焼結体内の粒界へ拡散していることは理解できるものの、焼結磁石中の結晶粒子群が、重希土類元素の質量比率が高いシェルと、当該シェルにより被覆され当該シェルよりも重希土類元素の質量比率が低いコアとから構成されている(つまり、粒界だけでなく結晶粒子内にも重希土類元素が拡散している)とまでは必ずしも特定されないこと、
したがって、本願補正発明の「前記第3工程において熱処理した前記焼結体を20℃/分以上の冷却速度で冷却する第4工程」によって、「コアとシェルとの間に」格子欠陥が形成されていることについても必ずしも特定されないこと、
を考慮すると、本願補正発明が奏する効果は、引用発明及び周知の技術事項から当業者が予測できた程度のものであって、格別顕著なものがあるとはいえない。

(6)むすび
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成26年7月24日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項5に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成26年3月7日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項5に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項5】
R-T-B系希土類磁石用の原料合金を焼結して焼結体を形成する第1工程と、
前記焼結体に、重希土類元素を含む重希土類化合物を付着させる第2工程と、
前記重希土類化合物が付着した前記焼結体を熱処理して、前記重希土類元素を前記焼結体内の粒界へ拡散させる第3工程と、
前記第3工程において熱処理した前記焼結体を20℃/分以上の冷却速度で冷却する第4工程と、
を備える、
焼結磁石の製造方法。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由で引用された引用例及びその記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比
本願発明は、前記「2.」で検討した本願補正発明の発明特定事項である「第2工程」における、焼結体に付着させる重希土類元素を含む「重希土類化合物」について、「水素化合物」である旨の限定を省いたものに相当することを踏まえると、本願発明と引用発明とは、
「R-T-B系希土類磁石用の原料合金を焼結して焼結体を形成する第1工程と、
前記焼結体に、重希土類元素を付着させる第2工程と、
前記[重希土類元素]が付着した前記焼結体を熱処理して、前記重希土類元素を前記焼結体内の粒界へ拡散させる第3工程と、
前記第3工程において熱処理した前記焼結体を20℃/分以上の冷却速度で冷却する第4工程と、
を備える、
焼結磁石の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点]
第2工程において、焼結体に重希土類元素を付着させるために、本願発明では、「重希土類元素を含む重希土類化合物」を用いこれを付着させる旨特定するのに対し、引用発明では、そのような特定を有していない点。

(3)判断
上記相違点について検討すると、
上記「2.(4)」にも記載したとおり、例えば原査定において提示した特開2009-254092号公報(【請求項6】、段落【0022】?【0023】を参照)、さらには特開2005-175138号公報(【請求項5】、段落【0028】?【0029】を参照)、特開2005-11973号公報(段落【0038】?【0040】を参照)に記載されているように、希土類焼結磁石の表面に付着させた重希土類元素(Dy、Tb)を熱処理によって焼結磁石内の粒界に拡散させる方法において、焼結磁石の表面に付着させる付着物として重希土類元素を含む合金や各種化合物を用いることは周知といえる技術事項であり、引用発明においても、焼結磁石の表面に重希土類元素を付着させるために、付着物として重希土類元素の金属そのものに代えて重希土類元素を含む重希土類化合物を用いるようにすることは当業者であれば適宜なし得ることである。

したがって、本願発明は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願の請求項5に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-05-28 
結審通知日 2015-06-02 
審決日 2015-06-15 
出願番号 特願2010-79066(P2010-79066)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01F)
P 1 8・ 121- Z (H01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 塩▲崎▼ 義晃小池 秀介  
特許庁審判長 水野 恵雄
特許庁審判官 酒井 朋広
井上 信一
発明の名称 焼結磁石、モーター、自動車、及び焼結磁石の製造方法  
代理人 三上 敬史  
代理人 石坂 泰紀  
代理人 黒木 義樹  
代理人 長谷川 芳樹  

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