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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61F 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61F |
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管理番号 | 1303873 |
審判番号 | 不服2014-1724 |
総通号数 | 189 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-09-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-01-30 |
確定日 | 2015-08-06 |
事件の表示 | 特願2009-142781号「ストーマの消臭カバー」拒絶査定不服審判事件〔平成22年12月24日出願公開、特開2010-284441号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
I.手続の経緯 本願は、平成21年6月15日の出願であって、平成25年10月15日付けで拒絶査定がされ、その後、平成26年1月30日付けで拒絶査定不服審判の請求がされると同時に特許請求の範囲についての手続補正がされたものである。 II.平成26年1月30日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成26年1月30日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 補正後の本願発明 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された(下線は、補正箇所を明示するために付したものである。)。 「【請求項1】 人体に装着されたストーマを内側に収納でき、一端が開いた袋体であって、人体に対向する側の前側シートと、この前側シートと同形で、ストーマに関して人体とは反対側に位置する後側シートとを、開口端を除いて外辺を相互に接合してなり、一方、上記前側シートは、和服の前面における左右の前身頃に相当する第1及び第2シートを有し、夫々が上記開口端から離間した他端部の内側側縁に半円形を形成すると共に、この半円形を突き合せて、ストーマの人体との装着部に係合するほぼ円形の開口を形成する態様で、第1及び第2シートの他端部を相互に重合し、これらのシートの自由側端縁を前側及び/又は後側シートの側辺に接合し、他方、上記前側及び後側シートを、木綿繊維、麻繊維又はレーヨン繊維にメタクリル酸をグラフト共重合反応させたものであって、繊維に対するメタクリル酸のグラフト化率が7?15重量パーセントである改質セルロース繊維よりなる消臭シートで構成し、以て、多数回の洗濯後でも消臭機能を保持できるようにしたことを特徴とするストーマの消臭カバー。」 2 補正の目的及び新規事項の追加の有無等 本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された、発明を特定するために必要な事項である「前側及び後側シート」について、「消臭シートで構成した」を「消臭シートで構成し、以て、多数回の洗濯後でも消臭機能を保持できるようにした」と、機能面で限定するものであり、かつ、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、本件補正は、特許法第17条の2第3項及び第4項の規定に違反するところはない。 3 独立特許要件 そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反しないか)について、以下に検討する。 3-1 刊行物の記載事項 (1)刊行物1 原査定の拒絶の理由に引用され、この出願前に頒布された刊行物である特開平10-192317号公報(以下「刊行物1」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。 1a:「【請求項1】 人工膀胱、人工肛門等の装着設置手術をうけた患者が身体表面部のストーマを介して外部に装着するパウチのためのカバーであって、 該カバーは、吸水性の布によりパウチ全体を概略覆う形状に形成され、 カバーの表布(体表面側の布)には、パウチの孔部が位置する部分に、ストーマに概略該当する大きさの開口部とともに、前記開口部下端から延長されるカバーの表布を相互に止め合わせることなく交叉させることによりパウチのカバー内への挿入を自在とするパウチ挿入部を形成し、 前記開口部の周囲の表布は更に布で二重に保護し、 カバーの下部末端に末端開口部を設けた、ことを特徴とするパウチカバー。」 1b:「【0003】 【発明が解決しようとする課題】このようなパウチは、例えば泌尿器ストーマ用パウチにあっては、図1に示すような形状を有し、塩化ビニール等の高分子製の袋状のものである。この種のパウチは、直接肌に接するため装着時には肌ざわりが悪く不快なものであり、また汗によりパウチ装着部分の下着が濡れたり、時としてパウチから内容物の漏れも生じ、その処理に苦慮しているのが現状である。そのため、パウチ装着者は個々に独自のパウチカバーを工夫して作成し、その対応を行っているものであったが、多くの場合は単に吸水性の布でパウチを覆う等の手段しか無く、したがってカバーの着脱もしにくく、更にパウチの排出口も狭いものであるため、カバーを付けたままでのパウチ内容物の排出ができにくい問題点があった。・・・」 1c:「【0005】 【発明の実施の態様】上記の構成に基づく本発明のパウチカバーにあっては、吸水性の布によりカバーを作成するとともに、カバーの体表面側(肌に直接触れる側)を布で二重になるようにし、汗や洩水を吸収しやすくしたものであり、このような吸水性の布としては、カバーが直接肌に触れるために、肌ざわりの良い吸水性の布であれば良く、例えば、綿、絹等の織布あるいは不織布等を挙げることができる。さらに本発明のパウチカバーにあっては、カバーのストーマ開口部の下端から延長されるカバーの表布(体表面側の布)を相互に止め合わせることなく交叉させることによりパウチのカバー内への挿入を自在とされるパウチ挿入部を形成させ、カバーの脱着を容易にした点に特徴を有する。すなわち、ストーマ開口部の下端から延長されるカバーの表布は、いわゆる和服を着用する場合の襟のように相互に止め合わせることなく交叉されることより、パウチのカバー内への挿入が容易となるうえ、交叉されることによりかかる部分に該当する表布は二重となっているのである。 【0006】また、カバー下部末端には、末端開口部を設け、パウチの排出口が容易にカバーの外部に出るようにし、パウチ内に溜った排便・排尿等の排泄をカバーを装着したまま可能としたばかりでなく、就眠時においても、パウチの排出口より導管による排泄タンクへの接続もカバーをつけたままできるようにした点に特徴がある。 【0007】請求項2の発明におけるパウチカバーは、請求項1の発明において、パウチカバーの裏布(体表面反対側の布)のカバー内側の下部末端部分に、パウチ排出口を保持するポケット部分を設けたパウチカバーである。・・・」 1d:「【0010】図2は本発明の実施例に基づくパウチカバー4を体表面部側(直接肌に触れる側)からみた、表布並びに裏布を一部欠損した図である。本発明のパウチカバー4は、吸水性の布によってパウチ1(図中略)を概略覆う形状(いわゆる袋状)に形成されており、体表面部側にはパウチの孔部が位置する部分に、ストーマの大きさに概略相当する大きさの開口部5とともに、開口部の下端6から延長されるカバーの表布7a、7bが相互に止め合わせることなく交叉され、それによりパウチのカバー内への挿入を自在とするパウチ挿入部8が形成されている。本発明のパウチカバーにあっては、表布7aおよび7bが相互に重ね合ってクロス(交叉)していることより、該クロス部分9は、必然的に布が二重とされているが、それ以外の開口部5の周囲に相当する体表面部分10は、当て布により二重に保護されている。更に、本発明のパウチカバーは、カバーの下部末端において末端開口部11が設けられ、カバー内に挿入したパウチの排出口がカバー外部に露呈し、カバーを付けたままパウチ内に溜った排便・排尿等を排泄可能、あるいは導管により外部にあるタンクとの接続可能とされている。さらに、裏布(体表面裏側の布)12のカバー内側には、パウチの排出口を保持するポケット部分13が設けられている。」 1e:「【0012】本発明のパウチカバーはより具体的には次のようにして構成され、作ることができる。すなわち図2および図3をもって説明すれば、まずパウチカバーの体表面反対側に相当する裏布12がパウチ全体を概略覆うほぼ左右対称の形状に裁断される。・・・ 【0013】一方、カバーの表布(体表面部側の布)は、裏布12の形状と概略一致するとともに、パウチの孔部の位置に相当する部分にストーマ開口部5を設けるべくほぼ左右対称形状の2枚の表布7aおよび7bに裁断され、この表布7aおよび布7bの両者は、開口部5の上部に該当する部分で縫い合わされ(図1中14は、両布の継ぎ目を示す)、一体化される。このように一体化されることにより、表布7aと7bは開口部下端から延長される部分が必然的に相互に交叉されることとなり、その結果、開口部5、パウチ挿入部8ならびに布が二重になったクロス部9を形成することとなる。なお、本説明においては表布は、ほぼ左右対称の2枚の表布7aおよび7bにより継ぎ目14で一体化されているが、要は開口部5、パウチ挿入部8ならびにクロス部9を形成させる形状のものであれば良く、何も左右対称形のものに限定される必要はない。すなわち、継ぎ目14をどこにするかでそれぞれの表布7aおよび7bの形状が定まるが、一般的には、左右対称形とした方が好ましいものといえる。・・・ 【0014】以上のようにして得られた体表面部側に相当する布(布7aと7bにより一体化された布)及び体表面裏側の布12は重ね合わされ、カバーの周囲に該当する部分を縫合することにより本発明のパウチカバーが製造される。なお、開口部5、パウチ挿入部8ならびに末端開口部11に該当する部分の布の端は、布のほつれを回避するためカバー内側方向で縁取りされるのが良い。」 1f:「【0019】 【発明の効果】本発明のパウチカバーは、(1)目的に応じた種々のパウチが入る形状とされていること、(2)ストーマとカバー内のパウチを接続し得る開口部があること、(3)開口部の回りの表布は二重に保護されていること、(4)開口部の回りの二重の布で保護された以外の下の部分は、布が相互に重ね合わされるように交叉され、その結果二重の布でカバーされることとなると共に、交叉された部分は止め合わされていないことよりパウチのカバー内への挿入が自在となっていること、(5)カバーの下部末端にパウチの排出口が開口されていること、(6)裏布の内側下部末端部にパウチ排出口を保持するポケット部分を設けたこと、(7)カバー全体が肌ざわりの良い吸水性の布で作られていること、等により、パウチが直接肌に触れる不快感がなく、汗や洩れを吸い取りやすくしてあり、汚れれば洗濯することができ衛生的なものである。また、パウチ挿入部も広くカバーの着脱が容易であり、カバーを付けたままパウチ内に溜った排便・排尿等を排泄でき、さらには就眠時においてもカバーを付けたまま導管によりタンクと接続することができる利点を有する。なお、カバーを肌着と同じような肌色の布で作れば、見た感じも良いものとなる。」 以上の記載及び図面の図示内容を総合すると、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 「人工膀胱、人工肛門等の装着設置手術をうけた患者が身体表面部のストーマを介して外部に装着するパウチのためのカバーであって、 該カバーは、吸水性の布によりパウチ全体を概略覆う形状に形成され、 カバーの表布(体表面側の布)には、パウチの孔部が位置する部分に、ストーマに概略該当する大きさの開口部とともに、前記開口部下端から延長されるカバーの表布を、和服を着用する場合の襟のように相互に止め合わせることなく交叉させることによりパウチのカバー内への挿入を自在とするパウチ挿入部を形成し、 カバーの下部末端に末端開口部を設け、 開口部は、ストーマとカバー内のパウチを接続し得る開口部であり、 カバーの表布は、裏布12の形状と概略一致するとともに、パウチの孔部の位置に相当する部分にストーマ開口部を設けるべくほぼ左右対称形状の2枚の布7aおよび7bに裁断され、この布7aおよび布7bの両者は、開口部の上部に該当する継ぎ目14で縫い合わされ、一体化され、 布7aと7bにより一体化された表布及び体表面裏側の裏布12は重ね合わされ、カバーの周囲に該当する部分を縫合することにより製造される、パウチカバー。」 (2)刊行物2 原査定において周知例として引用され、この出願前に頒布された刊行物である実願昭62-29836号(実開昭63-135620号)のマイクロフィルム(以下「刊行物2」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。 2a:「〔産業上の利用分野〕 この考案は、人工肛門袋の消臭カバーに関するものである。 〔従来の技術〕 ・・・ この人工肛門袋は常時着用しておくものであるため、袋からにおいが発散することが問題となっていた。 〔考案が解決しようとする問題点〕 そこで、この考案の目的とするところは、においの発生を有効に防止することである。 〔問題点を解決するための手段〕 この考案は、消臭カバーに消臭剤を含浸させた基材から作り、この基材を人工肛門袋を被覆する形態にすると共に、人体と人工肛門袋の接続部を開口し、人工肛門袋に着脱自在としたものとしている。 〔作用〕 この考案は、消臭剤を含浸させた基材から作った消臭カバーによって人工肛門袋を被覆してしまうので、悪臭を漏らすことなく消すことができる。」(第1頁第11行?第2頁第15行) 2b:「基材の材料は、通気性のあるものが望ましく、例えば不織布、布、紙のようなものであり、合成樹脂シートのようなものでもよい。」(第3頁第18?20行) (3)刊行物3 原査定において周知例として引用され、この出願前に頒布された刊行物である特許第3239146号公報(以下「刊行物3」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。 3a:「【請求項1】 木綿繊維、麻繊維又はレーヨン繊維に、メタクリル酸をグラフト共重合反応させたものであって、該繊維に対するメタクリル酸のグラフト化率が7?15重量%であることを特徴とする改質セルロース繊維。」 3b:「【0009】 【発明の効果】本発明による改質セルロース繊維の製造方法においては、前記のように、触媒として用いる鉄塩の量が極めて少ないことから、改質繊維には着色もなく、改質繊維から鉄塩を水洗除去するような脱鉄処理は特に必要とされない。また、反応温度の制御も容易であるため、繊維に対するメタクリル酸のグラフト共重合を均一に行うことができる。本発明の改質セルロース繊維は、その分子中にカルボキシル基を導入したことから、親水性の向上したものであると同時に、アンモニアやアミン、屎尿臭等の塩基性悪臭物質に対する吸着性にすぐれたもので、脱臭性繊維としての作用を示すものである。また、種々の金属イオンを捕捉する効果も示す。」 (4)刊行物4 当審において新たに引用する、この出願前に頒布された刊行物である登録実用新案第3110272号公報(以下「刊行物4」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。 4a:「【0009】 以下、本考案における消臭パンツの実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。 図示する消臭パンツ1は、パンツ本体2の股間部3内側に、尿や汗及び生理臭等の不快な臭いを消すことができる消臭パット10を備えたもので、特に、前記消臭パット10をパンツ本体2の股間部3より小形に形成してある。」 4b:「【0012】 消臭パット10は、図4に示すように、起毛部12を有する吸水シート層11と、消臭性を有する不織布層14と、補強用シート層15と、透湿および防水性を有する透湿防水シート層16とを順次積層することで構成されている。」 4c:「【0014】 不織布層14は、消臭性組成物を含有、または付着した繊維を利用して形成する他、既存の不織布に消臭性組成物を付着することにより形成される不織布からなる。 また特に、不織布には、木綿繊維、麻繊維又はレーヨン繊維に、メタクリル酸をグラフト共重合反応させたものであって、該繊維に対するメタクリル酸のグラフト化率が7?15重量%である改質セルロース繊維を使用することが好ましい。なお、この改質セルロース繊維は、特許第3239146号公報に開示される改質セルロース繊維及びその製造方法に記載された公知の技術である。不織布層14を消臭繊維にて形成することで、洗濯においても消臭効果が低減することがなく、消臭機能が回復し、繰り返しの使用が可能で経済的である。」 (5)刊行物5 当審において新たに引用する、この出願前に頒布された刊行物である登録実用新案第3106520号公報(以下「刊行物5」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。 5a:「【請求項1】 表地、裏地および該表地と裏地間に連結された連結糸からなり、前記表地、裏地または連結糸の少なくとも一つに消臭繊維を使用した立体メッシュを成形したシートを用いたことを特徴とする消臭性寝具。」 5b:「【考案の効果】 【0006】 消臭繊維を使用した立体メッシュにより成形したシートを寝具の一部に用いることにより、立体メッシュ特有の通気性、クッション性および形状保持性を発揮すると共に、就寝中に人体からの発汗等による臭気を効率よく消臭でき、衛生的で快適な睡眠が得られる。・・・さらにまた、前記消臭繊維を木綿繊維、麻繊維またはレーヨン繊維に対しメタクリル酸をグラフト共重合反応して形成することで、洗濯しても消臭効果が低減することがなく、繰り返しの使用が可能となり経済的である。・・・」 5c:「【0009】 本考案においては、立体メッシュ10の表地11、裏地12または連結糸13の少なくとも一つに消臭繊維が使用されている。消臭繊維としては、消臭性組成物を含有または付着した繊維を好適に利用することができる。特に、消臭繊維には、木綿繊維、麻繊維またはレーヨン繊維に、メタクリル酸をグラフト共重合反応させたものであって、該繊維に対するメタクリル酸のグラフト化率が7?15重量%である改質セルロース繊維を使用することが好ましい。なお、この改質セルロース繊維自体は、特許第3239146号公報に開示される改質セルロース繊維として公知の技術である。」 3-2 対比 本願補正発明と引用発明とを対比する。 (ア)引用発明の「パウチ」は、文言の意味、形状又は機能等からみて、本願補正発明の「ストーマ」に相当し、以下同様に、「カバー」は「袋体」に、「末端開口部」は「開口端」に相当する。 引用発明の「パウチ」は、「人工膀胱、人工肛門等の装着設置手術をうけた患者が身体表面部のストーマを介して外部に装着する」のであるから、“人体に装着されたパウチ”といえるし、引用発明の「カバー」は、「パウチのカバー内への挿入を自在とするパウチ挿入部を形成し、カバーの下部末端に末端開口部を設け」ているのであるから、“パウチを内側に収納でき、一端が開いたカバー”といえる。 引用発明の「表布」は「体表面側の布」であるから、本願補正発明の「人体に対向する側の前側シート」に相当する。 引用発明では、「裏布12」は「体表面裏側」の布であって、しかも、引用発明の「表布(体表面部側の布)」は、「裏布12の形状と概略一致する」のであるから、引用発明の「裏布12」は、本願補正発明の「前側シートと同形で、ストーマに関して人体とは反対側に位置する後側シート」に相当する。 また、引用発明の「表布及び体表面裏側の裏布12」は、「重ね合わされ、カバーの周囲に該当する部分を縫合」されるところ、「カバーの下部末端に末端開口部を設け」ているのであるから、引用発明では、“表布と裏布12とを、末端開口部を除いて外辺を相互に接続して”いるものといえる。 よって、引用発明は、「人体に装着されたストーマを内側に収納でき、一端が開いた袋体であって、人体に対向する側の前側シートと、この前側シートと同形で、ストーマに関して人体とは反対側に位置する後側シートとを、開口端を除いて外辺を相互に接合してなり、」という事項を具備する点で本願補正発明と一致する。 (イ)引用発明では、「布7aと7bにより一体化された表布」を「和服を着用する場合の襟のように相互に止め合わせることなく交叉させることによりパウチのカバー内への挿入を自在とするパウチ挿入部を形成し」ているのであるから、引用発明の「布7aと7b」は、本願補正発明の「和服の前面における左右の前身頃に相当する第1及び第2シート」に相当する。 引用発明の「ストーマとカバー内のパウチを接続し得る開口部」は、「ストーマに概略該当する大きさ」であるところ、排泄口たるストーマが通常略円形であることを考慮すると、本願補正発明の「ストーマの人体との装着部に係合するほぼ円形の開口」に相当する。 そうすると、引用発明では、「開口部」はほぼ円形であって、「開口部を設けるべくほぼ左右対称形状の2枚の布7aおよび7bに裁断され、この布7aおよび布7bの両者は、開口部の上部に該当する継ぎ目14で縫い合わされ、一体化され」るというのであるから、「布7aおよび7b」のそれぞれは、“末端開口部から離間した部分の内側側縁に半円形を形成する布”といえるし、また、このような「布7aおよび7b」の形状を踏まえれば、引用発明の「布7aおよび布7bの両者は、開口部の上部に該当する継ぎ目14で縫い合わされ、一体化され」は、本願補正発明のこの「半円形を突き合せて、ストーマの人体との装着部に係合するほぼ円形の開口を形成する態様で、第1及び第2シートの他端部を相互に重合し」に相当するものといえる。 さらに、引用発明の「布7aと7bにより一体化された表布及び体表面裏側の裏布12は重ね合わされ、カバーの周囲に該当する部分を縫合する」は、本願補正発明の「これらのシートの自由側端縁を前側及び/又は後側シートの側辺に接合し」に相当する。 よって、引用発明は、「上記前側シートは、和服の前面における左右の前身頃に相当する第1及び第2シートを有し、夫々が上記開口端から離間した他端部の内側側縁に半円形を形成すると共に、この半円形を突き合せて、ストーマの人体との装着部に係合するほぼ円形の開口を形成する態様で、第1及び第2シートの他端部を相互に重合し、これらのシートの自由側端縁を前側及び/又は後側シートの側辺に接合し」という事項を具備する点で本願補正発明と一致する。 (ウ)引用発明の「カバー」は、「吸水性の布によりパウチ全体を概略覆う形状に形成され」ているところ、上記摘記事項1cの「吸水性の布としては、カバーが直接肌に触れるために、肌ざわりの良い吸水性の布であれば良く、例えば、綿、絹等の織布あるいは不織布等を挙げることができる。」の記載を参酌すれば、引用発明と本願補正発明とは、“前側及び後側シートを、セルロース繊維よりなるシートで構成した”点で共通する。 また、引用発明の「パウチカバー」と本願発明の「ストーマの消臭カバー」は、“ストーマのカバー”である点で共通する。 以上の(ア)?(ウ)によれば、本願補正発明と引用発明との一致点、相違点は次のとおりである。 (一致点) 人体に装着されたストーマを内側に収納でき、一端が開いた袋体であって、人体に対向する側の前側シートと、この前側シートと同形で、ストーマに関して人体とは反対側に位置する後側シートとを、開口端を除いて外辺を相互に接合してなり、一方、上記前側シートは、和服の前面における左右の前身頃に相当する第1及び第2シートを有し、夫々が上記開口端から離間した他端部の内側側縁に半円形を形成すると共に、この半円形を突き合せて、ストーマの人体との装着部に係合するほぼ円形の開口を形成する態様で、第1及び第2シートの他端部を相互に重合し、これらのシートの自由側端縁を前側及び/又は後側シートの側辺に接合し、他方、上記前側及び後側シートを、セルロース繊維よりなるシートで構成したストーマのカバー。 (相違点) 本願補正発明では、ストーマのカバーが、「前側及び後側シートを、木綿繊維、麻繊維又はレーヨン繊維にメタクリル酸をグラフト共重合反応させたものであって、繊維に対するメタクリル酸のグラフト化率が7?15重量パーセントである改質セルロース繊維よりなる消臭シートで構成し、以て、多数回の洗濯後でも消臭機能を保持できるようにした」「ストーマの消臭カバー」であるのに対し、引用発明では、前側及び後側シートを、改質セルロース繊維よりなる消臭シートで構成したものではなく、そのため、ストーマのカバーが、「多数回の洗濯後でも消臭機能を保持できるようにした」「ストーマの消臭カバー」でもない点。 3-3 相違点の判断 上記相違点について検討する。 刊行物1には、「時としてパウチから内容物の漏れも生じ、その処理に苦慮しているのが現状である。」(摘記事項1b)と記載があるところ、内容物の漏れに伴い悪臭が発生することは明らかであるから、刊行物1には、内容物の漏れに伴う悪臭に対する処理も技術課題として示唆されているものといえる。 また、例えば、刊行物2に「従来の技術」として記載されるように(摘記事項2a参照)、ストーマ装着者にとって悪臭の発散が問題となっており、斯かる問題の解決は、本技術分野における従来周知の技術課題であったといえることから、引用発明においても、パウチからの悪臭の発散防止は、少なくとも内在する技術課題といえる。 ところで、例えば、刊行物2?刊行物5に示されるように、消臭繊維を利用して悪臭の発散防止を図ることは、従来より周知の技術事項であって、しかも、「木綿繊維、麻繊維又はレーヨン繊維にメタクリル酸をグラフト共重合反応させたものであって、繊維に対するメタクリル酸のグラフト化率が7?15重量パーセントである改質セルロース繊維」なる繊維は、消臭繊維として従来周知の繊維にすぎない(刊行物3の摘記事項3a、刊行物4の摘記事項4c、刊行物5の摘記事項5c参照)。 ここで、刊行物4における「不織布層14を消臭繊維にて形成することで、洗濯においても消臭効果が低減することがなく、消臭機能が回復し、繰り返しの使用が可能で経済的である。」(摘記事項4c)、刊行物5における「消臭繊維を木綿繊維、麻繊維またはレーヨン繊維に対しメタクリル酸をグラフト共重合反応して形成することで、洗濯しても消臭効果が低減することがなく、繰り返しの使用が可能となり経済的である。」(摘記事項5b)等の記載によれば、上記周知の繊維である「木綿繊維、麻繊維又はレーヨン繊維にメタクリル酸をグラフト共重合反応させたものであって、繊維に対するメタクリル酸のグラフト化率が7?15重量パーセントである改質セルロース繊維」は、多数回の洗濯後でも消臭機能を保持できるという特性をも備えた繊維といえる。 そうすると、引用発明において、悪臭の発散防止を図るために、前側及び後側シートに用いる繊維として上記周知の繊維を採用することにより、相違点に係る本願補正発明の特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。 そして、本願補正発明の効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測し得た程度のものであって格別のものとはいえない。 したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 3-4 むすび 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 III.本願発明 本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 人体に装着されたストーマを内側に収納でき、一端が開いた袋体であって、人体に対向する側の前側シートと、この前側シートと同形で、ストーマに関して人体とは反対側に位置する後側シートとを、開口端を除いて外辺を相互に接合してなり、一方、上記前側シートは、和服の前面における左右の前身頃に相当する第1及び第2シートを有し、夫々が上記開口端から離間した他端部の内側側縁に半円形を形成すると共に、この半円形を突き合せて、ストーマの人体との装着部に係合するほぼ円形の開口を形成する態様で、第1及び第2シートの他端部を相互に重合し、これらのシートの自由側端縁を前側及び/又は後側シートの側辺に接合し、他方、上記前側及び後側シートを、木綿繊維、麻繊維又はレーヨン繊維にメタクリル酸をグラフト共重合反応させたものであって、繊維に対するメタクリル酸のグラフト化率が7?15重量パーセントである改質セルロース繊維よりなる消臭シートで構成したことを特徴とするストーマの消臭カバー。」 IV.刊行物の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物及びその記載事項は、前記II.3-1に記載したとおりである。 V.対比・判断 本願発明は、前記II.1の本願補正発明から、発明を特定するために必要な事項である「、以て、多数回の洗濯後でも消臭機能を保持できるようにし」との限定を省いたものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記II.3-2、3-3に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様に、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 VI.むすび したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-04-03 |
結審通知日 | 2015-05-12 |
審決日 | 2015-05-26 |
出願番号 | 特願2009-142781(P2009-142781) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(A61F)
P 1 8・ 121- Z (A61F) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 佐々木 一浩、金丸 治之 |
特許庁審判長 |
山口 直 |
特許庁審判官 |
松下 聡 関谷 一夫 |
発明の名称 | ストーマの消臭カバー |
代理人 | 飯田 岳雄 |