• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1303879
審判番号 不服2014-5411  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-03-24 
確定日 2015-08-06 
事件の表示 特願2008-160607「交換結合膜およびこれを用いた磁気抵抗効果素子、並びに磁気抵抗効果素子の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 1月 8日出願公開、特開2009- 4784〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成20年6月19日(パリ条約による優先権主張2007年6月19日、アメリカ合衆国)の出願であって、平成24年12月5日付けで拒絶理由の通知がなされ、平成25年5月13日付けで手続補正書の提出がなされ、同年11月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成26年3月24日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正書の提出がなされ、同年6月3日付けで前置報告がなされたものである。



第2 補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成26年3月24日付けの手続補正書による補正を却下する。

[理由]

1 補正の内容
平成26年3月24日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1乃至37(平成25年5月13日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1乃至37)を補正して、補正後の特許請求の範囲の請求項1乃至37とするものである。
そして、本件補正では、本件補正前の請求項16及び26は、それぞれ本件補正後の請求項16及び26に対応しており、また、補正前後の請求項16及び26の記載は、各々次のとおりである。

(補正前)
「【請求項16】
再生ヘッドにおけるGMRセンサまたはTMRセンサを構成し、
(a)シード層と、
(b)反強磁性(AFM)層と、
(c)CoFe_((100-X) )A1_(X )(A1はアモルファス性の元素を表し、Xは40原子%未満である)、またはCoFe_((100-X-Y) )A1_(X) M1_(Y )(A1およびM1はアモルファス性の元素を表し、XおよびYの合計が40原子%未満である)で表される組成を有すると共に、A1,M1としてHf,Nb,TiおよびPからなる群から選択された少なくとも1種の前記アモルファス性の元素を含むアモルファス磁性層、あるいは、CoFeNi_((100-X)) A2_(X )(A2はアモルファス性の元素を表し、Xは40原子%未満である)またはCoFeNi_((100-X-Y) )A2_(X )M2_(Y )(A2およびM2はアモルファス性の元素を表し、XおよびYの合計が40原子%未満である)で表される組成を有すると共に、A2,M2としてB,Zr,Hf,Nb,Ta,Ti,SiおよびPからなる群から選択された少なくとも1種を含むアモルファス磁性層を備えた少なくとも1つの交換結合膜と、
(d)前記AFM層側から順にAP2層/結合層/AP1層を積層してなるSyAP構造を有するピンド層と、
(e)前記AP1層に接するスペーサ層またはトンネルバリア層と、
(f)フリー層と、
(g)キャップ層と
を備え、
前記交換結合膜が前記AFM層と前記AP2層との間に設けられている
ことを特徴とする磁気抵抗効果素子。」

「【請求項19】
再生ヘッドにおけるGMRセンサまたはTMRセンサを構成し、
(a)シード層と、
(b)反強磁性(AFM)層と、
(c)CoFe_((100-X) )A1_(X )(A1はアモルファス性の元素を表し、Xは40原子%未満である)、またはCoFe_((100-X-Y) )A1_(X )M1_(Y )(A1およびM1はアモルファス性の元素を表し、XおよびYの合計が40原子%未満である)で表される組成を有すると共に、A1,M1としてHf,Nb,TiおよびPからなる群から選択された少なくとも1種を含むアモルファス磁性層、あるいは、CoFeNi_((100-X)) A2_(X )(A2はアモルファス性の元素を表し、Xは40原子%未満である)またはCoFeNi_((100-X-Y) )A2_(X )M2_(Y )(A2およびM2はアモルファス性の元素を表し、XおよびYの合計が40原子%未満である)で表される組成を有すると共に、A2,M2としてB,Zr,Hf,Nb,Ta,Ti,SiおよびPからなる群から選択された少なくとも1種を含むアモルファス磁性層を備えた少なくとも1つの交換結合膜と、
(d)前記AFM層側から順にAP2層/結合層/AP1層を積層してなるSyAP構造を有するピンド層と、
(e)前記AP1層に接するスペーサ層またはトンネルバリア層と、
(f)フリー層と、
(g)キャップ層と
を備え、
前記交換結合膜は、前記AP2層内に形成されている
ことを特徴とする磁気抵抗効果素子。」

「【請求項26】
再生ヘッドにおけるGMRセンサまたはTMRセンサを構成する磁気抵抗効果素子の製造方法であって、
(a)基板上にシード層を形成する工程と、
(b)前記シード層上にAFM層を形成する工程と、
(c)前記AFM層上に、CoFe_((100-X) )A1_(X )(A1はアモルファス性の元素を表し、Xは40原子%未満である)、またはCoFe_((100-X-Y) )A1_(X) M1_(Y )(A1およびM1はアモルファス性の元素を表し、XおよびYの合計が40原子%未満である)で表される組成を有すると共に、A1,M1としてHf,Nb,TiおよびPからなる群から選択された少なくとも1種を含むアモルファス磁性層、あるいは、CoFeNi_((100-X)) A2_(X )(A2はアモルファス性の元素を表し、Xは40原子%未満である)またはCoFeNi_((100-X-Y)) A2_(X) M2_(Y )(A2およびM2はアモルファス性の元素を表し、XおよびYの合計が40原子%未満である)で表される組成を有すると共に、A2,M2としてB,Zr,Hf,Nb,Ta,Ti,SiおよびPからなる群から選択された少なくとも1種を含むアモルファス磁性層を備えた交換結合膜を形成する工程と、
(d)前記交換結合膜上に、前記AFM層側から順にAP2層/結合層/AP1層を積層してなるSyAP構造を有するピンド層を前記AP2層が前記交換結合膜に接するように形成する工程と
を含むことを特徴とする磁気抵抗効果素子の製造方法。」

(補正後)
「【請求項16】
再生ヘッドにおけるGMRセンサまたはTMRセンサを構成し、
(a)シード層と、
(b)Mn合金からなる反強磁性(AFM)層と、
(c)CoFe_((100-X) )A1_(X )(A1はアモルファス性の元素を表し、Xは40原子%未満である)、またはCoFe_((100-X-Y) )A1_(X )M1_(Y )(A1およびM1はアモルファス性の元素を表し、XおよびYの合計が40原子%未満である)で表される組成を有すると共に、A1,M1としてHf,Ti,SiおよびPからなる群から選択された少なくとも1種の前記アモルファス性の元素を含むアモルファス磁性層、あるいは、CoFeNi_((100-X)) A2_(X )(A2はアモルファス性の元素を表し、Xは40原子%未満である)またはCoFeNi_((100-X-Y)) A2_(X) M2_(Y )(A2およびM2はアモルファス性の元素を表し、XおよびYの合計が40原子%未満である)で表される組成を有すると共に、A2,M2としてB,Zr,Hf,Nb,Ta,Ti,SiおよびPからなる群から選択された少なくとも1種の前記アモルファス性の元素を含むアモルファス磁性層を備えた少なくとも1つの交換結合膜と、
(d)AP2層/結合層/AP1層からなるSyAP構造を有するピンド層と、
(e)前記AP1層に接するスペーサ層またはトンネルバリア層と、
(f)フリー層と、
(g)キャップ層と
を備え、
前記交換結合膜が前記AFM層と前記AP2層との間に設けられている
ことを特徴とする磁気抵抗効果素子。」

「【請求項19】
再生ヘッドにおけるGMRセンサまたはTMRセンサを構成し、
(a)シード層と、
(b)Mn合金からなる反強磁性(AFM)層と、
(c)CoFe_((100-X) )A1_(X )(A1はアモルファス性の元素を表し、Xは40原子%未満である)、またはCoFe_((100-X-Y) )A1_(X )M1_(Y )(A1およびM1はアモルファス性の元素を表し、XおよびYの合計が40原子%未満である)で表される組成を有すると共に、A1,M1としてHf,Ti,SiおよびPからなる群から選択された少なくとも1種を含むアモルファス磁性層、あるいは、CoFeNi_((100-X)) A2_(X )(A2はアモルファス性の元素を表し、Xは40原子%未満である)またはCoFeNi_((100-X-Y)) A2_(X) M2_(Y )(A2およびM2はアモルファス性の元素を表し、XおよびYの合計が40原子%未満である)で表される組成を有すると共に、A2,M2としてHf,Ti,SiおよびPからなる群から選択された少なくとも1種を含むアモルファス磁性層を備えた、1つの第1の交換結合膜と、
(d)AP2層/結合層/AP1層からなるSyAP構造を有するピンド層と、
(e)前記AP1層に接するスペーサ層またはトンネルバリア層と、
(f)フリー層と、
(g)キャップ層と
を備え、
前記第1の交換結合膜は、前記AP2層内に形成されている
ことを特徴とする磁気抵抗効果素子。」

「【請求項26】
再生ヘッドにおけるGMRセンサまたはTMRセンサを構成する磁気抵抗効果素子の製造方法であって、
(a)基板上にシード層を形成する工程と、
(b)前記シード層上に、Mn合金からなるAFM層を形成する工程と、
(c)前記AFM層上に、CoFe_((100-X) )A1_(X )(A1はアモルファス性の元素を表し、Xは40原子%未満である)、またはCoFe_((100-X-Y)) A1_(X )M1_(Y )(A1およびM1はアモルファス性の元素を表し、XおよびYの合計が40原子%未満である)で表される組成を有すると共に、A1,M1としてHf,Ti,SiおよびPからなる群から選択された少なくとも1種の前記アモルファス性の元素を含むアモルファス磁性層、あるいは、CoFeNi_((100-X) )A2_(X )(A2はアモルファス性の元素を表し、Xは40原子%未満である)またはCoFeNi_((100-X-Y)) A2_(X) M2_(Y )(A2およびM2はアモルファス性の元素を表し、XおよびYの合計が40原子%未満である)で表される組成を有すると共に、A2,M2としてB,Zr,Hf,Nb,Ta,Ti,SiおよびPからなる群から選択された少なくとも1種の前記アモルファス性の元素を含むアモルファス磁性層を備えた交換結合膜を形成する工程と、
(d)前記交換結合膜上に、AP2層/結合層/AP1層からなるSyAP構造を有するピンド層を前記AP2層が前記交換結合膜に接するように形成する工程と
を含むことを特徴とする磁気抵抗効果素子の製造方法。」

ここで、本件補正前の請求項16、19、26と本件補正後の請求項16、19、26を比較すると、本件補正後の請求項16、19、26に係る本件補正には、以下の補正事項が含まれる。

[補正事項1]
補正前の請求項16の「(b)反強磁性(AFM)層」を「(b)Mn合金からなる反強磁性(AFM)層」とする補正。

[補正事項2]
補正前の請求項16及び19の「CoFe_((100-X) )A1_(X )(A1はアモルファス性の元素を表し、Xは40原子%未満である)、またはCoFe_((100-X-Y)) A1_(X )M1_(Y )(A1およびM1はアモルファス性の元素を表し、XおよびYの合計が40原子%未満である)で表される組成を有すると共に、A1,M1としてHf,Nb,TiおよびPからなる群から選択された少なくとも1種の前記アモルファス性の元素を含むアモルファス磁性層」を「CoFe_((100-X) )A1_(X )(A1はアモルファス性の元素を表し、Xは40原子%未満である)、またはCoFe_((100-X-Y)) A1_(X) M1_(Y )(A1およびM1はアモルファス性の元素を表し、XおよびYの合計が40原子%未満である)で表される組成を有すると共に、A1,M1としてHf,Ti,SiおよびPからなる群から選択された少なくとも1種の前記アモルファス性の元素を含むアモルファス磁性層」とする補正。

[補正事項3]
補正前の請求項19の「A2,M2としてB,Zr,Hf,Nb,Ta,Ti,SiおよびPからなる群から選択された少なくとも1種を含むアモルファス磁性層を備えた少なくとも1つの交換結合膜」を「A2,M2としてHf,Ti,SiおよびPからなる群から選択された少なくとも1種を含むアモルファス磁性層を備えた、1つの第1の交換結合膜」とする補正。

[補正事項4]
補正前の請求項19の「(d)前記AFM層側から順にAP2層/結合層/AP1層を積層してなるSyAP構造を有するピンド層」を「(d)AP2層/結合層/AP1層からなるSyAP構造を有するピンド層」とする補正。

[補正事項5]
補正前の請求項26の「(b)前記シード層上にAFM層を形成する工程」を「(b)前記シード層上に、Mn合金からなるAFM層を形成する工程」とする補正。

[補正事項6]
補正前の請求項26の「(c)前記AFM層上に、CoFe_((100-X) )A1_(X) (A1はアモルファス性の元素を表し、Xは40原子%未満である)、またはCoFe_((100-X-Y)) A1_(X )M1_(Y )(A1およびM1はアモルファス性の元素を表し、XおよびYの合計が40原子%未満である)で表される組成を有すると共に、A1,M1としてHf,Nb,TiおよびPからなる群から選択された少なくとも1種を含むアモルファス磁性層」を「(c)前記AFM層上に、CoFe_((100-X)) A1_(X )(A1はアモルファス性の元素を表し、Xは40原子%未満である)、またはCoFe_((100-X-Y) )A1_(X) M1_(Y )(A1およびM1はアモルファス性の元素を表し、XおよびYの合計が40原子%未満である)で表される組成を有すると共に、A1,M1としてHf,Ti,SiおよびPからなる群から選択された少なくとも1種の前記アモルファス性の元素を含むアモルファス磁性層」とする補正。


2.補正の適否
(1)補正事項1、5について
補正事項1及び5により補正された部分は、本願の願書に最初に添付した明細書の段落【0028】に記載されているものと認められるから、補正事項1及び5は当初明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではない。したがって、補正事項1及び5は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであるから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たし、また、補正事項1及び5が、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たすことは明らかである。
さらに、補正事項1及び5は、補正前の請求項16における「反強磁性(AFM)層」を「Mn合金からなる反強磁性(AFM)層」に限定するものであり、補正前の請求項26における「AFM層」を「Mn合金からなるAFM層」に限定するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。したがって、補正事項1及び5は、特許法第17条の2第5項に規定する要件を満たす。

(2)補正事項2、6について
補正事項2及び6により補正された部分は、本願の願書に最初に添付した明細書の段落【0029】に記載されているものと認められるから、補正事項2及び6は当初明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではない。したがって、補正事項2及び6は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであるから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たし、また、補正事項2及び6が、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たすことは明らかである。
しかしながら、補正事項2及び6では、アモルファス性の元素である「A1,M1」について、「Hf,Nb,TiおよびPからなる群から選択された少なくとも1種の前記アモルファス性の元素を含む」としていたものが、「Hf,Ti,SiおよびPからなる群から選択された少なくとも1種の前記アモルファス性の元素を含む」としたものに変更されたことで、補正前ではアモルファス性元素の選択肢として記載されていなかったSiが補正後では含まれることとなるため、当該補正事項2及び6は限定的減縮を目的としたものとは認められない。
また、補正事項2及び6は、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれにも該当しない。

(3)補正事項3について
補正事項3により補正された部分は、本願の願書に最初に添付した明細書の段落【0029】に記載されているものと認められるから、補正事項3は当初明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではない。したがって、補正事項3は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであるから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たし、また、補正事項3が、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たすことは明らかである。
さらに、補正事項3は、補正前の請求項19における「A2,M2としてB,Zr,Hf,Nb,Ta,Ti,SiおよびPからなる群」を「A2,M2としてHf,Ti,SiおよびPからなる群」に限定し、「少なくとも1つの交換結合膜」を「1つの第1の交換結合膜」に限定するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。したがって、補正事項3は、特許法第17条の2第5項に規定する要件を満たす。

(4)補正事項4について
補正事項4により補正された部分は、本願の願書に最初に添付した明細書の段落【0017】に記載されているものと認められるから、補正事項4は当初明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではない。したがって、補正事項4は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであるから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たし、また、補正事項4が、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たすことは明らかである。
しかしながら、補正事項4では、ピンド層の積層順序について、「AFM層側から順にAP2層/結合層/AP1層を積層してなる」としていたものが、「AP2層/結合層/AP1層からなる」とされたため、限定されていた積層順序の限定が解除されたものとなるため、当該補正事項4は限定的減縮を目的としたものとは認められない。
また、補正事項4は、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれにも該当しない。


3 むすび
したがって、補正事項2、4、6についての本件補正は、特許法第17条の2第5項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当せず、同法第17条の2第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。



第3 補正却下の決定を踏まえた検討

1 本願発明
平成26年3月24日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願に係る発明は、平成25年5月13日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1乃至37に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの請求項19に係る発明(以下「本願発明」という。)は、下記に記載したとおりのものである。

「再生ヘッドにおけるGMRセンサまたはTMRセンサを構成し、
(a)シード層と、
(b)反強磁性(AFM)層と、
(c)CoFe_((100-X) )A1_(X )(A1はアモルファス性の元素を表し、Xは40原子%未満である)、またはCoFe_((100-X-Y)) A1_(X) M1_(Y )(A1およびM1はアモルファス性の元素を表し、XおよびYの合計が40原子%未満である)で表される組成を有すると共に、A1,M1としてHf,Nb,TiおよびPからなる群から選択された少なくとも1種を含むアモルファス磁性層、あるいは、CoFeNi_((100-X) )A2_(X )(A2はアモルファス性の元素を表し、Xは40原子%未満である)またはCoFeNi_((100-X-Y) )A2_(X )M2_(Y )(A2およびM2はアモルファス性の元素を表し、XおよびYの合計が40原子%未満である)で表される組成を有すると共に、A2,M2としてB,Zr,Hf,Nb,Ta,Ti,SiおよびPからなる群から選択された少なくとも1種を含むアモルファス磁性層を備えた少なくとも1つの交換結合膜と、
(d)前記AFM層側から順にAP2層/結合層/AP1層を積層してなるSyAP構造を有するピンド層と、
(e)前記AP1層に接するスペーサ層またはトンネルバリア層と、
(f)フリー層と、
(g)キャップ層と
を備え、
前記交換結合膜は、前記AP2層内に形成されている
ことを特徴とする磁気抵抗効果素子。」


2 引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された特開2003-283000号公報(以下、「引用文献」という。)には、下記の事項が記載されている。

A 「【0041】TMR素子は、トンネルバリア層が複数層有している図2(a)に示す強磁性多重トンネル接合(図面上では二重接合)と、トンネルバリア層が一層しか有していない図2(b)に示す強磁性一重トンネル接合と、がある。すなわち、強磁性一重トンネル接合は、下地金属層2上に、反強磁性層4、磁化固着層6(ピン層とも云う)、トンネルバリア層8、磁化自由層10(記憶層ともいう)、カバー/ハードマスク層18を順次設けた構成となっている。また、強磁性二重トンネル接合は、下地金属層2上に、反強磁性層4、磁化固着層6、トンネルバリア層8、記憶層10、トンネルバリア層12、磁化固着層14、反強磁性層16、カバー/ハードマスク層18を順次設けた構成となっている。」

B 「【0056】また、本実施形態においては、磁化固着層として、Co-Fe二元合金強磁性層を用いたが、磁化固着層にCo-Fe二元合金強磁性層を用いた場合、Co-Fe-Ni、Ni-Fe、Co-Niを用いた場合よりも大きなMR比を得ることが可能となる。
【0057】また、本実施形態によるTMR素子において,磁化固着層は、図7(a)に示すように、強磁性層/非磁性層/強磁性層の三層構造であってトンネルバリア層に近い強磁性層の膜厚が厚いものを用いることが好ましい。この構造にすると磁化固着層からの浮遊磁場(stray field)をキャンセルできるため、熱安定性を保ったたまま、MRカーブのヒステリシス曲線をゼロ磁場に対して対称に調整することができる。
【0058】浮遊磁場H_(stray)はTMR素子の長辺の長さLに逆比例する(H_(stray)=C/L)。ここで、Cは定数である。したがって、TMR素子の長辺の長さに応じて、トンネルバリア層に近い強磁性層の厚さをどの程度厚くすれば良いか一義的に決定できる。
【0059】また、本実施形態によるTMR素子において、磁化固着層の、少なくともトンネルバリアに隣接した強磁性層が強磁性層/アモルファス磁性層/強磁性層3層構造を有する構造、例えば図7(b)に示すように、磁化固着層が強磁性層/アモルファス磁性層/強磁性層/非磁性層/強磁性層の積層構造、もしくは図7(c)に示すように、強磁性層/アモルファス磁性層/強磁性層/非磁性層/アモルファス磁性層/強磁性層の積層構造を用いることが好ましい。なお、アモルファス磁性層はアモルファス強磁性層が好ましい。上記構造を用いると、反強磁性層に、Pt-Mn、Ir-Mn、Ni-Mnなどを用いた場合にもMnの拡散が押さえられ長期安定性を維持することができ、信頼性あるTMR素子を提供することができる。
【0060】なお、アモルファス磁性層はCo、Fe、Niまたはそれら合金に、Zr、Nb、Bi、Ta、Wなどを数%から数10%混ぜることによって用意に作製することができる。
【0061】三層または多層構造の記憶層または磁化固着層に用いられる非磁性層としては、Ru(ルテニウム)、Ir(イリジウム)、Os(オスニウム)またはそれら合金を用いることが好ましい。
【0062】また、本実施形態のTMR果素子において、磁化固着層に接するように設けられた反強磁性層は、Pt_(x)Mn_(1-x)、Ni_(y)Mn_(1-y)、Ir_(z)Mn_(1-z)のいずれかから構成され、ここで、49.5at%≦x,y≦50.5 at%、22at%≦z≦27at%であり、反強磁性層の膜厚を10nm以下、より好ましくは9nm以下にすることが好ましい。これにより、磁化固着層とトンネルバリア層の界面またはトンネルバリア層と記憶層との界面のラフネスをTEMで観測したときピークトウピーク値、すなわち最大表面粗さが0.4nm以下、好ましくは0.3nm以下にすることが可能となる。
【0063】また、ラフネスを抑える方法として、反強磁性層の下に設けられる下地金属層の電極材料としてはTaまたはW、バッファ層としてはRu、Ir、Ptを用いれば、磁化固着層に接する面のラフネス(最大表面粗さ)を0.2nm?0.4nm以下とすることができる。」

C 図7(c)には、磁化固着層として、強磁性層の上に、アモルファス磁性層、強磁性層、非磁性層、強磁性層、アモルファス磁性層、強磁性層を順次設けた積層構造が記載されている。

ここで、上記引用文献1の記載事項について検討する。

D TMR素子の積層構成について
上記Aには、TMR素子の積層構造として、「下地金属層2上に、反強磁性層4、磁化固着層6(ピン層とも云う)、トンネルバリア層8、磁化自由層10(記憶層ともいう)、カバー/ハードマスク層18を順次設けた構成となっている。」ことが記載されている。
よって、引用文献には、「下地金属層上に、反強磁性層、磁化固着層、トンネルバリア層、磁化自由層、カバー層を順次設けたTMR素子」が記載されている。

E 磁化固着層の積層構造について
上記Cには、TMR素子内の磁化固着層が、「強磁性層の上に、アモルファス磁性層、強磁性層、非磁性層、強磁性層、アモルファス磁性層、強磁性層を順次設けた積層構造」であることが記載され、また、上記Bには、磁化固着層内のアモルファス磁性層については、「アモルファス磁性層はCo、Fe、Niまたはそれら合金に、Zr、Nb、Bi、Ta、Wなどを数%から数10%混ぜることによって用意(審決注:「用意」は「容易」の誤記であると認められる)に作製することができる」ことが記載されている。
よって、引用文献には、「TMR素子内の磁化固着層を、強磁性層の上に、アモルファス磁性層、強磁性層、非磁性層、強磁性層、アモルファス磁性層、強磁性層を順次設けた積層構造とし、前記アモルファス磁性層は、Co、Fe、Niまたはそれら合金に、Zr、Nb、Bi、Ta、Wなどを数%から数10%混ぜたもの」とすることが記載されている。

よって、上記A乃至E及び関連図面の記載から、引用文献には、実質的に下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「下地金属層上に、反強磁性層、磁化固着層、トンネルバリア層、磁化自由層、カバー層を順次設けたTMR素子において、
前記磁化固着層を、強磁性層の上に、アモルファス磁性層、強磁性層、非磁性層、強磁性層、アモルファス磁性層、強磁性層を順次設けた積層構造とし、前記アモルファス磁性層は、Co、Fe、Niまたはそれら合金に、Zr、Nb、Bi、Ta、Wなどを数%から数10%混ぜたものとするTMR素子。」


3 対比
(1)本願発明と引用発明との対応関係について
ア 引用発明の「下地金属層」、「反強磁性層」、「磁化固着層」、「磁化自由層」、「カバー層」、「TMR素子」は、本願発明の「シード層」、「反強磁性(AFM)層」、「ピンド層」、「フリー層」、「キャップ層」、「磁気抵抗効果素子」に相当する。

イ 本願発明の「アモルファス磁性層」は、「CoFeNi_((100-X) )A2_(X )(A2はアモルファス性の元素を表し、Xは40原子%未満である)」「で表される組成を有すると共に、A2」「としてB,Zr,Hf,Nb,Ta,Ti,SiおよびPからなる群から選択された少なくとも1種を含む」ものである。

ウ 引用発明の「アモルファス磁性層」は、「Co、Fe、Niまたはそれら合金に、Zr、Nb、Bi、Ta、Wなどを数%から数10%混ぜたもの」であり、引用文献では上記Bの段落【0062】に記載されているように組成の比率を「at%」で表記していることから、引用発明の「数%から数10%」とは「数at%から数10at%」を意味するものと認められる。
よって、引用発明の「アモルファス磁性層」には、「Co、Fe、Niからなる合金に、Nbを数at%から数10at%混ぜたもの」の態様が含まれる。

エ 本願発明の「交換結合膜」は「アモルファス磁性層」により構成されているところ、上記イ及びウから、例えば、アモルファス性の元素として「Nb」を選択した場合、本願発明の「アモルファス磁性層」は、「CoFeNi_((100-X) )Nb_(X )(Xは40原子%未満である)」で表される組成を有するものを態様として含むものであるところ、引用発明の「アモルファス磁性層」は、「Co、Fe、Niからなる合金に、Nbを数at%から数10at%混ぜたもの」であるから、本願発明と引用発明とは、「CoFeNiA2(A2はアモルファス性の元素)で表される組成を有すると共に、A2としてNbを含むアモルファス磁性層を備えた少なくとも1つの交換結合膜」を備えた点で共通していると認められる。

オ 引用文献の上記Bには、TMR素子の磁化固着層の基本構成が、「強磁性層/非磁性層/強磁性層の三層構造」であること、及び、強磁性層自体を「強磁性層/アモルファス磁性層/強磁性層の3層構造を有する構造」とすることが記載されているので、引用発明の「磁化固着層」の積層構造である「強磁性層の上に、アモルファス磁性層、強磁性層、非磁性層、強磁性層、アモルファス磁性層、強磁性層を順次設けた積層構造」も、「『強磁性層の上に、アモルファス磁性層、強磁性層』からなる一方の強磁性層」/「非磁性層」/「『強磁性層、アモルファス磁性層、強磁性層』からなる他方の強磁性層」の三層構造から構成されているとみることができる。
さらに、引用文献の上記Bには、「磁化固着層に用いられる非磁性層としては、Ru(ルテニウム)、Ir(イリジウム)、Os(オスニウム)またはそれら合金を用いる」ことが記載されている。
してみると、引用発明の磁化固着層は、「強磁性層の上に、アモルファス磁性層、強磁性層」からなる「一方の強磁性層」と、「強磁性層、アモルファス磁性層、強磁性層」からなる「他方の強磁性層」との間に、Ru(ルテニウム)等により形成される「非磁性層」を配置した積層構造であるから、引用発明の「磁化固着層」もシンセティック反平行な構成であると認められる。
よって、引用発明の「『強磁性層の上に、アモルファス磁性層、強磁性層』からなる一方の強磁性層」、「非磁性層」、「『強磁性層、アモルファス磁性層、強磁性層』からなる他方の強磁性層」は、本願発明の「AP2層」、「結合層」、「AP1層」に相当し、引用発明の「磁化固着層」は、本願発明の「AFM層側から順にAP2層/結合層/AP1層を積層してなるSyAP構造を有するピンド層」に相当していると認められる。

カ 引用発明の「強磁性層の上に」積層された「アモルファス磁性層」は、上記オに記載したように、「強磁性層の上に、アモルファス磁性層、強磁性層」からなる「一方の強磁性層」内に形成されたものとみることができ、上記エの事項を踏まえると、引用発明も「前記交換結合膜は、前記AP2層内に形成」された構成になっていると認められる。

キ 引用発明における「トンネルバリア層」は、本願発明における「スペーサ層またはトンネルバリア層」という択一的記載のうちの「トンネルバリア層」に相当する。

(2)本件補正発明と引用発明の一致点について
上記の対応関係から、本件補正発明と引用発明は、下記の点で一致する。

(一致点)
「(a)シード層と、
(b)反強磁性(AFM)層と、
(c)CoFeNiA2(A2はアモルファス性の元素)で表される組成を有すると共に、A2としてNbを含むアモルファス磁性層を備えた少なくとも1つの交換結合膜と、
(d)前記AFM層側から順にAP2層/結合層/AP1層を積層してなるSyAP構造を有するピンド層と、
(e)前記AP1層に接するトンネルバリア層と、
(f)フリー層と、
(g)キャップ層と
を備え、
前記交換結合膜は、前記AP2層内に形成されている
ことを特徴とする磁気抵抗効果素子。」

(3)本件補正発明と引用発明の相違点について
本件補正発明と引用発明は、下記の点で相違する。

(相違点1)
本願発明は、「再生ヘッドにおけるGMRセンサまたはTMRセンサを構成」するものであるのに対し、引用発明はそのようなものを構成するものではない点。

(相違点2)
交換結合膜について、本願発明は、「CoFeNi_((100-X) )A2_(X )(A2はアモルファス性の元素を表し、Xは40原子%未満である)で表される組成を有すると共に、A2」として「B,Zr,Hf,Nb,Ta,Ti,SiおよびPからなる群から選択された少なくとも1種を含むアモルファス磁性層を備えた少なくとも1つの交換結合膜」であるのに対し、引用発明は、「Co、Fe、Niまたはそれら合金に、Zr、Nb、Bi、Ta、Wなどを数%から数10%混ぜたもの」である点。


4 当審の判断
(1)相違点1について
磁気抵抗効果素子は、引用文献の段落【0002】に記載されているように、従来から、磁気ヘッド、磁気センサー、及び固体磁気メモリに用いられている。また、トンネル型磁気抵抗効果素子は、MR比が大きいことから、磁気メモリだけでなく磁気ヘッド及び磁気センサーにおいても有用であることは、例えば、特開2005-123412号公報(段落【0006】には、MRAMに用いられるTMR膜は、GMR膜よりMR比が大きいため、次世代の磁気ヘッド用として期待が高まっていることが記載されている。)、特開2005-72436号公報(段落【0006】には、TMR素子は磁気センサーとしての応用だけでなく、磁気メモリとしての応用展開も可能であることが記載されている。)、特開2005-203774号公報(段落【0001】には、磁気抵抗効果素子が、磁気記録再生ヘッド・磁気センサー・磁気抵抗効果型メモリー装置に適していることが記載され、段落段落【0006】には、磁気ヘッドやMRAMデバイスの高密度化に伴い磁気抵抗効果素子にはさらに大きなMR比が求められていることが記載されている。)に記載されているように周知である。
してみると、トンネル型磁気抵抗効果素子を用いた磁気ヘッドでは、大きなMR比を有するトンネル型磁気抵抗効果素子が求められているので、大きなMR比が得られる引用発明のTMR素子を再生ヘッドのTMRセンサに採用することが有用であることは、当業者にとって明らかである。
よって、引用発明の磁気抵抗効果素子を磁気ヘッドに採用し上記相違点1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

(2)相違点2について
引用発明の「アモルファス磁性層」には、上記3の「ウ」に記載したように、「Co、Fe、Niからなる合金に、Nbを数at%から数10at%混ぜたもの」の態様が含まれることから、引用発明には、「CoFeNi_((100-X) )A2_(X )(A2はアモルファス性の元素を表し、Xは数原子%から10原子%である)で表される組成を有すると共に、A2」として「Nbを含むアモルファス磁性層を備えた1つの交換結合膜」を態様として含むもの、即ち、引用発明には、アモルファス性の元素であるNbの合金に対する含有範囲を40原子%未満の範囲とする態様が含まれている。
よって、引用発明において、「アモルファス磁性層」を「CoFeNi_((100-X) )A2_(X )(A2はアモルファス性の元素を表し、Xは数原子%から10原子%である)で表される組成を有すると共に、A2」として「Nbを含むアモルファス磁性層を備えた1つの交換結合膜」とすることで、上記相違点2の構成とすることは、当業者が格別に困難無く成し得たものである。

そして、本願発明の作用効果も、引用発明、引用文献の記載事項、及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。


5 むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が引用発明、引用文献の記載事項、及び周知技術に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-03-11 
結審通知日 2015-03-17 
審決日 2015-03-27 
出願番号 特願2008-160607(P2008-160607)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 572- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長谷川 直也  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 飯田 清司
松本 貢
発明の名称 交換結合膜およびこれを用いた磁気抵抗効果素子、並びに磁気抵抗効果素子の製造方法  
代理人 三反崎 泰司  
復代理人 特許業務法人つばさ国際特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ