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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02D
管理番号 1303893
審判番号 不服2014-19026  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-09-24 
確定日 2015-08-06 
事件の表示 特願2010-166013「パワーユニットの制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 2月 9日出願公開、特開2012- 26363〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成22年7月23日の出願であって、平成26年1月24日付けで拒絶理由が通知され、平成26年3月12日に意見書が提出されたが、平成26年6月16日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成26年9月24日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2 本願発明
本願の請求項1ないし6に係る発明は、出願当初の明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものと認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
駆動源と無段変速機とを備えるパワーユニットの制御装置であって、
前記無段変速機の変速比を変更する際に、前記無段変速機の入力側回転体に作用するイナーシャトルクを打ち消す向きに前記駆動源のトルクを増減制御するトルク制御手段と、
前記駆動源の運転状態に基づいて、前記増減制御により増減可能な前記駆動源のトルクの最大トルク増減量を算出する最大トルク増減量算出手段と、
前記最大トルク増減量を用いて前記駆動源のトルクを増減させる際に打ち消されるイナーシャトルクを算出するイナーシャトルク算出手段と、
前記イナーシャトルクに基づいて、前記イナーシャトルクが発生する前記無段変速機の変速速度を上限変速速度として設定する変速速度設定手段と、
前記上限変速速度を超えないように前記無段変速機を変速制御する変速制御手段とを有することを特徴とするパワーユニットの制御装置。」

3 刊行物
ア 刊行物1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2007-327574号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア) 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンおよび自動変速機を具え、
前記自動変速機の変速時入力回転変化に伴うイナーシャトルクを相殺する方向に前記エンジンをトルク補正することで変速ショックを緩和するようにしたパワートレーンにおいて、
前記自動変速機の変速速度を前記エンジンの負荷状態に応じて補正する変速速度補正手段を設けたことを特徴とするパワートレーンの変速ショック軽減制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の変速ショック軽減装置において、
前記変速速度補正手段は、自動変速機の変速方向がアップシフト方向である場合、前記エンジン負荷状態が大きいほど前記変速速度を速くなるよう補正し、自動変速機の変速方向がダウンシフト方向である場合、前記エンジン負荷状態が大きいほど前記変速速度が遅くなるよう補正するものであることを特徴とするパワートレーンの変速ショック軽減制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の変速ショック軽減装置において、
前記変速速度補正手段は、前記イナーシャトルクが、現在のエンジン負荷状態から求めた実エンジントルクとエンジントルク最大値および最小値との間におけるエンジントルクマージンにより相殺可能なトルク値以下となるよう、前記変速速度の補正を行うものであることを特徴とするパワートレーンの変速ショック軽減制御装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の変速ショック軽減装置において、
前記変速速度補正手段は、前記変速速度の補正程度を自動変速機の変速方向に応じて異ならせるものであることを特徴とするパワートレーンの変速ショック軽減制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の変速ショック軽減装置において、
前記変速速度補正手段は、自動変速機の変速方向がアップシフト方向である場合、前記イナーシャトルクが、現在のエンジン負荷状態から求めた実エンジントルクとエンジントルク最小値との間におけるエンジントルク低下マージンにより相殺可能なトルク値以下となるよう、前記変速速度の補正を行い、
自動変速機の変速方向がダウンシフト方向である場合、前記イナーシャトルクが、前記実エンジントルクとエンジントルク最大値との間におけるエンジントルク増大マージンにより相殺可能なトルク値を超えた、変速ショック上許容される範囲内のトルク値となるよう、前記変速速度の補正を行うものであることを特徴とするパワートレーンの変速ショック軽減制御装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項5】)
(イ) 「【0001】
本発明は、エンジンおよび自動変速機を具えたパワートレーンにおいて、自動変速機の変速ショックを軽減するための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動変速機はその変速時に、変速比変化に伴う入力回転数の変化を生じさせ、この入力回転変化に伴って発生するイナーシャトルクが変速ショックの原因となる。
自動変速機がロー側変速比からハイ側変速比へとアップシフトする場合は、変速機入力回転数が変速比変化分だけ低下され、この回転低下がイナーシャ分のトルクを放出させて、変速ショック(トルク突き出しショック)を生じさせる。
逆に自動変速機がハイ側変速比からロー側変速比へとダウンシフトする場合は、変速機入力回転数が変速比変化分だけ上昇され、この回転上昇がイナーシャ分のトルクを吸収して、変速ショック(トルク引き込みショック)を生じさせる。
【0003】
かかる論理で発生するパワートレーンの変速ショックを軽減する技術としては従来、例えば特許文献1に記載のごときものが知られている。
この変速ショック軽減装置は、エンジンおよび無段変速機を具えたパワートレーンを前提とし、無段変速機の変速時入力回転変化に伴う上記のイナーシャトルクを相殺するようエンジントルクを補正して変速ショックを軽減するものである。
【0004】
ちなみに、自動変速機のアップシフト時は、上記の通りイナーシャトルクの放出により変速ショック(トルク突き出しショック)を生ずることから、これを相殺するようエンジントルクを低下補正(トルクダウン)して変速ショックを軽減し、
逆に自動変速機のダウンシフト時は、上記の通りイナーシャトルクの吸収により変速ショック(トルク引き込みショック)を生ずることから、これを相殺するようエンジントルクを増大補正(トルクアップ)して変速ショックを軽減するというものである。
【特許文献1】特開平11-020512号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、エンジン出力トルクTeは図7に例示するように、スロットル開度TVOや、アクセルペダル踏み込み量(アクセル開度)APOや、ブースト圧などで代表されるエンジン要求負荷(エンジン負荷とも言う)ごとに異なるものの、エンジン回転数Neに応じて概ね図示のごとくに変化し、アクセルペダルの踏み込みでエンジン負荷が大きくなるほどエンジン出力トルクTeも大きくなる。
【0006】
従って、エンジン高負荷運転時は、このエンジン負荷状態とエンジン回転数Neとで決まる現在の実エンジントルクと、最大負荷にした時のエンジントルク最大値との間におけるエンジントルク増大マージンA1が小さくなる傾向にあり、実エンジントルクと、最小負荷にした時のエンジントルク最小値との間におけるエンジントルク低下マージンA2が大きくなる傾向にある。
逆に、エンジン低負荷荷運転時は、このエンジン負荷状態とエンジン回転数Neとで決まる現在の実エンジントルクと、最大負荷にした時のエンジントルク最大値との間におけるエンジントルク増大マージンB1が大きくなる傾向にあり、実エンジントルクと、最小負荷にした時のエンジントルク最小値との間におけるエンジントルク低下マージンB2が小さくなる傾向にある。
【0007】
これがため、前記した特許文献1に記載の従来の変速ショックを軽減技術では、以下のような問題を生ずる。
つまり、自動変速機のアップシフト時は、イナーシャトルクの放出により変速ショック(トルク突き出しショック)を生ずることから、これを相殺するようエンジントルクを低下補正(トルクダウン)して変速ショックを軽減することを趣旨とするが、
エンジン低負荷状態でアップシフトが発生した場合は、この低負荷運転時に上記の通りエンジントルク低下マージンB2(図7参照)が小さくなる傾向にあることから、変速ショック軽減用に要求されるトルクダウン量だけエンジントルクを低下させることができない事態が発生することがあり、変速ショックを狙い通りに軽減し得ないことがある。」(段落【0001】ないし段落【0007】)
(ウ) 「【0017】
自動変速機2を本実施例では、Vベルト式無段変速機やトロイダル型無段変速機などの無段変速機とするが、有段式の自動変速機でもよいことは言うまでもない。
しかし、いずれにしても自動変速機2は図示せざるディファレンシャルギヤ装置を内蔵したオートマチックトランスアクスルとし、当該ディファレンシャルギヤ装置を介して自動変速機2の出力軸に左右駆動車輪(前輪)4L,4Rを結合する。」(段落【0017】)」
(エ) 「【0024】
図2のステップS1においては、アップシフトスイッチ10からアップシフト信号Sup(マニュアルアップシフト指令)が出力されたか否かを、また、ステップS2においては、ダウンシフトスイッチ11からダウンシフト信号Sdn(マニュアルダウンシフト指令)が出力された否かをチェックする。
ステップS1およびステップS2の何れにおいてもマニュアル変速指令がないと判定するときは、本発明が狙いとする変速ショック軽減用の変速速度制御およびエンジントルク補正が不要であるから制御をそのまま終了して本ルーチンを閉じる。
【0025】
ステップS1でアップシフト信号Sup(マニュアルアップシフト指令)が有ると判定した場合は、変速速度補正手段に相当するステップS3において、図3(a)に例示する予定のマップを基にスロットル開度TVO(エンジン負荷)から、アップシフト変速速度を決定するための変速時定数Tgtmに対する補正係数Kmを検索し、これらの乗算によりアップシフト用補正済変速時定数Tgtm'=Tgtm×Kmを求める。
ステップS2でダウンシフト信号Sdn(マニュアルダウンシフト指令)が有ると判定した場合は、変速速度補正手段に相当するステップS4において、図3(b)に例示する予定のマップを基にスロットル開度TVO(エンジン負荷)から、ダウンシフト変速速度を決定するための変速時定数Tgtmに対する補正係数Kmを検索し、これらの乗算によりダウンシフト用補正済変速時定数Tgtm'=Tgtm×Kmを求める。
【0026】
ここで、補正前における通常の変速時定数Tgtmは周知のごとく、基本時定数Tgtm(0)と、選択レンジや変速比に応じた係数Koと、車速VSPに応じた車速係数Kvと、低温時やスピンリカバー等に応じた特殊条件時係数Ksとを乗算する次式により求めることができる。
Tgtm=Tgtm(0)×Ko×Kv×Ks
【0027】
また、通常の変速時定数Tgtmに対しスロットル開度TVO(エンジン負荷)応じた補正を施して上記のごとく補正済変速時定数Tgtm'= Tgtm×Kmを求めるための、図3(a)に例示したアップシフト用の時定数補正係数Km、および図3(b)に例示したダウンシフト用の時定数補正係数Kmはそれぞれ、
補正済変速時定数Tgtm'で決まる変速速度が、図8(アップシフト時)および図9(ダウンシフト時)につき前述した問題を生ずることのない、つまり、前記エンジントルクマージンによっても相殺し切れないほど大きなイナーシャトルクを発生することのないぎりぎりの変速速度となる補正係数とし、予め実験などにより求めて図3に示すごとくマップ化しておく。
【0028】
ところで、図7につき前述したごとく、アップシフト変速ショック対策のために行うべきエンジントルクダウンに際して問題となるエンジントルク低下マージン不足が、図7にB2により示すように低負荷ほど(スロットル開度TVOが小さいほど)顕著になることから、アップシフト用の時定数補正係数Kmは図3(a)に示すごとくスロットル開度TVOが小さいほど大きくし、これにより、スロットル開度TVOが小さいほどアップシフト用補正済変速時定数Tgtm'を大きくして変速速度を遅くなるよう補正する。
【0029】
一方で、同じく図7につき前述したごとく、ダウンシフト変速ショック対策のために行うべきエンジントルクアップに際して問題となるエンジントルク増大マージン不足が、図7にA1により示すように大負荷ほど(スロットル開度TVOが大きいほど)顕著になることから、ダウンシフト用の時定数補正係数Kmは図3(b)に示すごとくスロットル開度TVOが大きいほど大きくし、これにより、スロットル開度TVOが大きいほどダウンシフト用補正済変速時定数Tgtm'を大きくして変速速度を遅くなるよう補正する。
【0030】
なお上記では、図3(a),(b)における時定数補正係数Kmにつき、補正済変速時定数Tgtm'で決まる変速速度が、エンジントルクマージンによっても相殺し切れないほど大きなイナーシャトルクを発生することのないぎりぎりの変速速度となる補正係数であると述べたが、
かようにエンジントルクマージンによって丁度相殺されるようなイナーシャトルクを発生する変速速度となる補正係数である必要はなく、変速ショックが若干あっても変速応答を希望する味付けが要求される場合は、エンジントルクマージンによって全部を相殺し切れないようなイナーシャトルクを発生する変速速度となる補正係数であってもよいことは言うまでもない。
【0031】
図2のステップS3(アップシフト時)またはステップS4(ダウンシフト時)で、アップシフト用補正済変速時定数Tgtm'またはダウンシフト用補正済変速時定数Tgtm'を決定した後は、
ステップS5において、変速比を変速前マニュアル変速段変速比から変速後マニュアル変速段変速比へ、補正済変速時定数Tgtm'により決まる変速速度で向かわせるための時々刻々の目標変速比を求めて無段変速機2の変速アクチュエータ(図示せず)に指令し、無段変速機2の実変速比が補正済変速時定数Tgtm'により決まる変速速度で変速後マニュアル変速段変速比に至るよう変速制御する。
【0032】
次のステップS6においては、上記のようにして変速される無段変速機2の変速時イナーシャトルクを、変速期間中における変速機入力回転数Niの時間変化割合と、慣性モーメントとの乗算により求め、これを相殺するためのエンジントルク補正量(アップシフト時はトルクダウン量ΔTedn、ダウンシフト時はトルクアップ量ΔTeup)を演算してエンジンコントローラ5に向け出力する。
エンジンコントローラ5は、変速時イナーシャトルクを相殺して変速ショックを軽減するためのエンジントルク補正量(アップシフト時はトルクダウン量ΔTedn、ダウンシフト時はトルクアップ量ΔTeup)を受けて、これを反映させたエンジン1のスロットル開度制御により、当該エンジントルク補正を達成して変速ショックを軽減させる。」(段落【0024】ないし【0032】)

イ 刊行物1発明
上記アの記載及び図面並びに技術常識を総合すると、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されている。
<刊行物1発明>
「エンジン1とVベルト式無段変速機2とを備えるパワートレーンの変速ショック軽減制御装置であって、
前記Vベルト式無段変速機2の変速比を変更する際に、前記Vベルト式無段変速機2のイナーシャトルクを相殺する向きに前記エンジン1のトルクを補正する手段と、
前記イナーシャトルクが、現在のエンジン負荷状態から求めた実エンジントルクとエンジントルク最大値および最小値との間におけるエンジントルクマージンにより相殺可能なトルク値以下となるよう、前記変速速度の補正を行う変速速度補正手段と、
前記補正された変速速度で変速制御する変速制御手段とを有するパワートレーンの変速ショック軽減制御装置。」

4 対比・判断
本願発明と刊行物1発明とを対比すると、刊行物1発明における「エンジン1」は本願発明における「駆動源」に相当し、以下同様に、「Vベルト式無段変速機2」は「無段変速機」に、「パワートレーン」は「パワーユニット」に、「変速ショック軽減制御装置」は「制御装置」に、「Vベルト式無段変速機2のイナーシャトルク」は「無段変速機の入力側回転体に作用するイナーシャトルク」に、「相殺する」は「打ち消す」に、「トルクを補正する手段」は「トルクを増減制御するトルク制御手段」に、それぞれ相当する。
刊行物1発明における「前記イナーシャトルクが、現在のエンジン負荷状態から求めた実エンジントルクとエンジントルク最大値および最小値との間におけるエンジントルクマージンにより相殺可能なトルク値以下となるよう、前記変速速度の補正を行う変速速度補正手段と、前記補正された変速速度で変速制御する変速制御手段」と、本願発明における「前記駆動源の運転状態に基づいて、前記増減制御により増減可能な前記駆動源のトルクの最大トルク増減量を算出する最大トルク増減量算出手段と、前記最大トルク増減量を用いて前記駆動源のトルクを増減させる際に打ち消されるイナーシャトルクを算出するイナーシャトルク算出手段と、前記イナーシャトルクに基づいて、前記イナーシャトルクが発生する前記無段変速機の変速速度を上限変速速度として設定する変速速度設定手段と、前記上限変速速度を超えないように前記無段変速機を変速制御する変速制御手段」は、「変速速度制御手段」という限りにおいて一致する。
したがって、本願発明の用語に倣って整理すると、本願発明と刊行物1発明とは、
「駆動源と無段変速機とを備えるパワーユニットの制御装置であって、
前記無段変速機の変速比を変更する際に、前記無段変速機の入力側回転体に作用するイナーシャトルクを打ち消す向きに前記駆動源のトルクを増減制御するトルク制御手段と、
変速速度制御手段とを有するパワーユニットの制御装置。」である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点>
変速速度制御手段に関して、
本願発明は、
「前記駆動源の運転状態に基づいて、前記増減制御により増減可能な前記駆動源のトルクの最大トルク増減量を算出する最大トルク増減量算出手段と、
前記最大トルク増減量を用いて前記駆動源のトルクを増減させる際に打ち消されるイナーシャトルクを算出するイナーシャトルク算出手段と、
前記イナーシャトルクに基づいて、前記イナーシャトルクが発生する前記無段変速機の変速速度を上限変速速度として設定する変速速度設定手段と、
前記上限変速速度を超えないように前記無段変速機を変速制御する変速制御手段」を有するのに対し、
刊行物1発明は、
「前記イナーシャトルクが、現在のエンジン負荷状態から求めた実エンジントルクとエンジントルク最大値および最小値との間におけるエンジントルクマージンにより相殺可能なトルク値以下となるよう、前記変速速度の補正を行う変速速度補正手段と、
前記補正された変速速度で変速制御する変速制御手段」を有する点(以下、「相違点」という。)。

上記相違点について検討する。
<相違点>について
刊行物1発明における変速速度補正手段は、関連する種々の物理量の導出、操作、変換等の一連の手順を1つの文で表現して、該手段の奏する機能を開示している。これを、その手順にしたがって該手段を構成する単位的手段に区分ないし分説すると、
(a)現在のエンジン負荷状態を求める手段、
(b)現在のエンジン負荷状態から実エンジントルクとエンジントルク最大値および最小値との間におけるエンジントルクマージンを求める手段、
(c)該エンジントルクマージンにより相殺可能なイナーシャトルクのトルク値を求める手段、
(d)イナーシャトルクが該トルク値以下となるよう、変速速度の補正を行う手段、
に分けることができる。そして、この区分ないし分説は、変速速度補正手段の事項ないし表現に技術的及び文理的に適合するものであって、当業者にとって平易ないし自明である。
上記の(a)、(b)、(c)及び(d)の手段における各物理量ないし各値を求めるための具体的手段について、刊行物1の記載をみると、スロットル開度(エンジン負荷)と変速時定数の補正係数とのマップ(刊行物1の特に図3)を用い、
補正済変速時定数Tgtm'= Tgtm(通常の変速時定数)×Km(補正係数)
の式により補正済変速時定数すなわち変速速度補正手段により補正される変速速度を求める例が開示されている。ここで、補正済変速時定数Tgtm'は、エンジントルクマージンによっても相殺し切れないほど大きなイナーシャトルクを発生することのないぎりぎりの変速速度である。
しかし、この例は刊行物1に開示された「発明」の「実施の形態」ないし「一実施例」であって、これのみに限られるものでないことはいうまでもない。例えば、各種物理量をセンサ値の読込み・変換、あるいはマップないし演算等により求めることは普通ないし技術常識であって、どれを採用するかは、物理量の性質、その求め方の難易、演算装置の性能、マップ作成の難易、所要の制御精度、応答性等を考慮して適宜設計する事項である。
このような視点から、(a)、(b)、(c)及び(d)の手段に関して、刊行物1の記載を詳しくみると、
(a)の手段については、例えば、アクセル開度APOを検出するアクセル開度センサ7からの信号により求めている(刊行物1の、特に、段落【0005】、【0022】及び【0046】)。なお、(a)の手段における「現在のエンジン負荷状態」は本願発明における「駆動源の運転状態」に相当する。
(b)の手段については、エンジントルクマージンを、エンジン負荷状態とエンジン回転数Neとで決まる現在の実エンジントルクと、最大負荷ないし最小負荷にした時のエンジントルク最大値ないし最小値との差として求めている(刊行物1の、特に、段落【0005】及び【0006】)。そして、この求め方として、演算によることもマップによることも可能であることは当業者にとって自明である。してみると、演算により求める手法を選択して、「前記駆動源の運転状態に基づいて、前記増減制御により増減可能な前記駆動源のトルクの最大トルク増減量を算出する」という本願発明の特定事項に想到することは適宜なし得ることである。
(c)の手段については、イナーシャトルクのトルク値はエンジントルクマージンによっても相殺し切れないほど大きくはない値である。すなわち、一応、
イナーシャトルクのトルク値≦エンジントルクマージン
となるが、変速ショックの軽減の点から合理的に考えるならば、イナーシャトルクのトルク値を、エンジントルクマージンないしそれと略同等の値とするのが好適であることは明らかである。したがって、上記トルク値は簡単に算出でき、特にマップは不要である。このようにして、「前記最大トルク増減量を用いて前記駆動源のトルクを増減させる際に打ち消されるイナーシャトルクを算出する」という本願発明の発明特定事項に想到することに何ら困難性はない。
(d)の手段については、イナーシャトルクが(c)で求められたトルク値以下となることは、変速速度が、イナーシャトルクが該トルク値となる変速速度以下となることにほかならない。したがって、(d)の手段は、本願発明における「前記イナーシャトルクに基づいて、前記イナーシャトルクが発生する前記無段変速機の変速速度を上限変速速度として設定」し、変速速度が「前記上限変速速度を超えないように」することに相当する。
そして、刊行物1発明の変速制御手段において「前記補正された変速速度で変速制御する」ことは、本願発明の「前記上限変速速度を超えないよう」な変速速度で「前記無段変速機を変速制御する」ことに相当する。

ここで、(d)の手段に関して補足すると、本願発明においては、「前記イナーシャトルクに基づいて、前記イナーシャトルクが発生する前記無段変速機の変速速度を上限変速速度として設定する変速速度設定手段」とされており、所定のイナーシャトルクに基づいて、該イナーシャトルクが発生する無段変速機の変速速度を求める具体的手段・手法については特に記載がなく、不特定ないし任意的である。
したがって、審判請求書(特に、「3-3.」)における上記の変速速度をマップを用いずに算出することが本願発明の特定事項である旨の主張には到底首肯できないが、それはひとまず措くとして、仮に、上記の変速速度をマップを用いずに算出することが本願発明の特定事項であるとして、以下、念のため、検討を進める。
刊行物1(特に、段落【0032】)には、変速時において、イナーシャトルクが変速機入力回転数Niの時間変化割合と慣性モーメントとの乗算により求められることが記載されている(この求め方はマップではなく、この記載のとおり計算によると理解される。)。したがって、(c)の手段等により、イナーシャトルクのトルク値がエンジントルクマージンにより相殺可能なトルク値として求められれば、上記の関係から、変速機入力回転数Niの時間変化割合が算出でき、該時間的割合に基づいて、該時間的割合が達成できるように変速速度を算出できることは明らかである。このようにして上記の変速速度をマップを用いずに演算により求めることに格別の困難性はない。
なお、本願明細書においても、例えば、段落【0054】には、「この(3)式より算出した目標プライマリ回転変化量と、変速段切換前後の変速比と、実セカンダリ回転数Nseに基づいて変速速度v1が算出される。」と記載されているにすぎず、算出の式が具体的ないし明確に開示されているわけではない。
さらに付言すると、確かに、刊行物1の図3にはマップが記載されているが、刊行物1に記載されているイナーシャトルク、変速機入力回転数Niの時間変化割合及び慣性モーメントに関する関係式等を考慮すると、該マップは、上記の一連の手順にしたがって演算により作成されていると理解されるとともに、そのように演算により作成することは適宜なし得ることである。そうすると、事前に演算してマップ化しておくか、あるいは変速時の各時点で演算するかの適宜の選択というべき差異があるにすぎず、求め方についての技術上格別の実質的差異はないということもできる。
また、請求人は、審判請求書(特に「3-3.」)において、「これに対して、引用文献1においては、引用文献1の図3に示されておりますように、補正係数はスロットル開度に基づいて設定されております。そのため、変速機の状態は何ら考慮されていないため、例えば段落番号[0037]で記載されているように、変速速度を調整することが必要とされるものであります。」と主張する。その趣旨は必ずしも明らかではないが、本願発明が、刊行物1発明が具備しないどのような「変速機の状態」を考慮しているのか、不特定ないし不明確であるとともに、刊行物1(引用文献1)の段落【0034】ないし【0037】の記載は、求められた補正済変速時定数はエンジントルクマージンによって相殺し得るぎりぎりのイナーシャトルクを発生する変速速度という趣旨であって、本願発明の趣旨と特に異なるものではない。

以上を総合して考えると、刊行物1発明において、相違点に係る本願発明の特定事項に想到することは、当業者が容易に想到し得ることである。
そして、本願発明は、全体としてみても、刊行物1発明から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

5 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-04-28 
結審通知日 2015-05-07 
審決日 2015-06-23 
出願番号 特願2010-166013(P2010-166013)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山村 和人  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 金澤 俊郎
伊藤 元人
発明の名称 パワーユニットの制御装置  
代理人 筒井 大和  

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