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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61F
管理番号 1303919
審判番号 不服2014-23202  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-11-14 
確定日 2015-08-31 
事件の表示 特願2010-146039「吸収性物品」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 1月12日出願公開、特開2012- 5744、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
この出願(以下、「本願」という。)は、平成22年6月28日の出願であって、平成26年1月21日付けで拒絶理由が通知され、平成26年3月24日付けで手続補正がされ、平成26年8月18日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成26年11月14日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に明細書及び特許請求の範囲の補正がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1、2に係る発明は、平成26年11月14日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。
「【請求項1】
透液性の表面シートと不透液性の裏面シートとの間に吸収体が介在されるとともに、前記表面シートと吸収体との間にセカンドシートを備えた吸収性物品において、
前記表面シートは不織布シートとされ、かつ前記セカンドシートはプラスチックフィルムとされ、
前記セカンドシートには、前記表面シート側から裏面シート側に突出する側壁を備えた多数の開孔部が形成され、前記開孔部及び該開孔部間の平坦部に親水処理が施され、前記開孔部の親水度が前記開孔部間の平坦部の親水度より大きく設定されているとともに、前記平坦部の親水度が前記表面シートの親水度より大きく設定されていることにより、前記セカンドシートと前記表面シートとの親水度の関係は、前記表面シートの親水度<前記セカンドシートの平坦部の親水度<前記セカンドシートの開孔部の親水度の関係に設定されており、かつ前記表面シートは、前記セカンドシートの開孔部に対応する部位の繊維密度を前記セカンドシートの平坦部に対応する部位の繊維密度より密にしてあることを特徴とする吸収性物品。」

第3 原査定の理由
1.平成26年1月21日付け拒絶理由通知書に記載した理由2の概要
本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物1:特開2009-268559号公報
2:特開平10-234776号公報
3:米国特許第4781962号明細書

2.拒絶査定の備考
引用文献2(審決注:刊行物2)の段落【0016】、【0020】には、トップシート1のフロック加工層8において、導液孔6の内側面の繊維13aに親水性付与剤を適用した旨が記載されており、同層8の導液孔6が形成されていない部分に対し、導液孔6内側面の親水性を高めることで、導液孔6ないし吸収性コア3へ体液を迅速に誘導する技術が開示されている。
引用文献1(審決注:刊行物1)に記載されたもののセカンドシート6の開口6aも、体液を吸収体4へ移行させる点で、引用文献2に記載のものの導液孔6と機能が共通し、又セカンドシート6において体液を吸収体4へ速やかに移行させる課題を有している点(段落【0053】を参照。)にかんがみれば、引用文献2に記載されたもののトップシート1における導液孔6内側面の親水性を高める技術を、引用文献1に記載されたもののセカンドシート6の開口6aに適用し、本願請求項1に係る発明の如く構成することは、当業者にとって格別困難とはいえない。

第4 当審の判断
1.刊行物の記載事項
(1)刊行物1には、「吸収性物品」の発明に関して以下の事項が図面とともに記載されている。
ア.特許請求の範囲
「【請求項1】
透液性の表面シートと、裏面シートとの間に吸収体が介在された吸収性物品において、
前記表面シートは、所定パターンでエンボスが付与されることにより凹部及び凸部が交互に隣接形成され、前記凹部は親水性を有するとともに、前記凸部は疎水性を有し、かつ前記凹部は相対的に繊維密度の高い高密度領域とされるとともに、前記凸部は相対的に繊維密度の低い低密度領域とされていることを特徴とする吸収性物品。
【請求項2】
前記表面シートを構成する素材繊維として疎水性を有する不織布を使用し、エンボス付与と同時に、前記凹部となる領域に親水化剤を塗布してある請求項1記載の吸収性物品。
【請求項3】
前記表面シートの下面側には、多数の開孔が形成された多孔プラスチックフィルム又は前記表面シートよりも親水度が高い不織布シートからなるセカンドシートが配設されている請求項1、2いずれかに記載の吸収性物品。」
イ.段落[0028]
「〔吸収性物品1の構造〕
生理用ナプキン1は、主にはパンティライナー、生理用ナプキン、おりものシート、失禁パッドなどの用途に供されるもので、例えば図1に示されるように、不透液性裏面シート2と、透液性表面シート3(以下、単に表面シートという。)との間に、吸収体4または同図に示されるように、好ましくはクレープ紙5によって囲繞された吸収体4が介在されるとともに、前記表面シート3と吸収体4との間であって、表面シート3の下面側に多数の開孔が形成された多孔プラスチックフィルム又は不織布シートからなるセカンドシート6を配置した構造となっている。なお、前記吸収体4の周囲においては、前記不透液性裏面シート2と表面シート3とがホットメルト接着剤等の接着手段によって接合されている。」
ウ.段落[0034]
「前記透液性表面シート3と吸収体4との間に配置されるセカンドシート6は、前記表面シート3よりも親水度が高く、かつ多数の開孔6a、6a…が形成されたフィルムシートである。フィルムの素材は、たとえばポリエチレンまたはポリプロピレン等のオレフィン系の熱可塑性樹脂フィルムが好適に使用されるが、ポリエステル、ナイロンなどのポリアミド系樹脂、EVAなども使用することができる。」
エ.段落[0051]
「前記表面シート3の下面側に積層されるセカンドシート6は、多数の開孔が形成された多孔プラスチックフィルム又は不織布シートによって構成されている。かかるセカンドシート6は、前記表面シート3よりも親水度が高くなるように親水化剤による処理などが施されている。かかる親水性の付与は、前記セカンドシート6の表裏面に対して親水化剤(界面活性剤)を塗布することにより成される。」
オ.段落[0053]
「また、前記セカンドシート6においては、図5に示されるように、吸収体4側の面の親水度を表面シート3側の面よりも高く設定し、表面側から裏面側にかけて親水度勾配を持たせるようにしてもよい。親水度勾配を持たせることにより、セカンドシート6の上面に存在する体液を効果的に吸収体4側に引込みできるようになる。」

上記の事項から刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「透液性の表面シートと不透液性裏面シートとの間に吸収体が介在されるとともに、前記表面シートと吸収体との間にセカンドシートを備えた吸収性物品において、
前記表面シートは不織布シートとされ、かつ前記セカンドシートはプラスチックフィルムとされ、
前記セカンドシートには、多数の開孔が形成され、表面側から裏面側にかけて親水度勾配を持たせるように親水処理が施され、吸収体側(裏面側)の親水度が表面シート側(表面側)の親水度より高く設定されているとともに、セカンドシ-トの親水度が表面シートの親水度より高く設定されており、かつ前記表面シートは、相対的に繊維密度の高い凹部と繊維密度の低い凸部が交互に隣接形成されている吸収性物品」

(2)刊行物2には、「体液吸収性物品」の発明に関して、以下の事項が図面とともに記載されている。
ア.特許請求の範囲
「【請求項1】 肌当接面と、これに対向する肌非当接面と、それらの面の間に貫通しそれらの面に沿う方向へ離間して配列する多数の導液孔とを有するトップシートを含む体液吸収性物品において、
前記トップシートが、シート基材と、該シート基材の表面に一体的に位置して前記肌当接面を形成するフロック加工層とから構成されている
ことを特徴とする前記吸収性物品。
【請求項2】 前記シート基材が、熱可塑性合成樹脂フィルムである請求項1に記載の吸収性物品。
【請求項4】 前記熱可塑性合成樹脂フィルムが、親水性を有する請求項2に記載の吸収性物品。
【請求項6】 前記フロック加工層が、疎水性短繊維を含む請求項1に記載の吸収性物品。
【請求項8】 前記導液孔が、前記肌非当接面から延出する毛細管を形成している請求項1に記載の吸収性物品。
【請求項9】 前記フロック加工層が、前記毛細管の内側面にも形成されている請求項1に記載の吸収性物品。
【請求項10】 前記毛細管の内側面におけるフロック加工層を形成する短繊維が、親水性を有する請求項9に記載の吸収性物品。」
イ.段落[0010]
「 図2は、トップシートの拡大模式断面図である。トップシート1は、肌当接面4と、これに対向する肌非当接面5と、多数の導液孔6とを有する。さらに具体的には、トップシート1は、シート基材7と、フロック加工層8とから構成されており、シート基材7は、その表裏面9, 10の間を貫通しそれらの面に沿う方向へ所与距離で離間して配列する多数の導液孔6を有し、フロック加工層8は、シート基材7の表面9に塗工された接着剤層11を介し一体的に位置して肌当接面4を形成している。
ウ.段落[0011]
「シート基材7は、熱溶融性合成樹脂フィルムから構成されている。」
エ.段落[0012]
「シート基材7は、前記合成樹脂フィルムに替えて、熱可塑性合成繊維から構成される不織繊維シートも用いられる。」
オ.段落[0013]
「前記合成樹脂フィルム及び不織繊維シートは、体液を迅速に伝導させるうえでは、親水性を有することが好ましい。このために、前記合成樹脂フィルム及び不織繊維シートの素材である合成樹脂が公知の親水性付与剤を含有するか、該フィルム又は該シート若しくは該繊維の表面に該親水性付与剤が塗布されていることが好ましい。」
カ.段落[0015]
「フロック加工層8は、フロック(パイル)である多数の疎水性短繊維13から構成されている。」
キ.段落[0016]
図3は、トップシートの一部における別の実施形態を示す拡大模式断面図である。この実施形態においては、フロック加工層8は、シート基材7の表面9、すなわち、導液孔6の上面開口14を画成するリブの表面に加えて、導液孔6、すなわち、毛細管12の内側面15にも形成されている。ただし、内側面15における短繊維(フロック、パイル)13aは、親水性を有し、毛細管12の先端16側へ倒れて傾斜している。短繊維13aの親水性は、前記親水性付与剤としての活性剤と同様なものによって付与されている。」
ク.段落[0021]
「【発明の効果】この発明に係る吸収性物品によれば、……導液孔が親水性である場合には、これにおける体液はもとより、肌当接面における体液が、導液孔へ迅速かつ強力に誘導され、物品内へ吸収される。」

(3)刊行物3には、吸収性物品のカバーシート材10が、開孔部14を有するプラスチックフィルム層12と不織ウエブ層16から構成され、プラスチックフィルム層の開孔部に対応する不織ウエブ層の部位18が緻密化されており、それによって液体が速やかに開孔部へ流れることが図面とともに示されている(第3欄第25?31行、同欄第38?44行、第6欄第20?24行、FIG1およびFIG5等参照)。

2.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、その一致点および相違点は以下のとおりである。
《一致点》
透液性の表面シートと不透液性の裏面シートとの間に吸収体が介在されるとともに、前記表面シートと吸収体との間にセカンドシートを備えた吸収性物品において、
前記表面シートは不織布シートとされ、かつ前記セカンドシートはプラスチックフィルムとされ、
前記セカンドシートには、多数の開孔部が形成され、前記セカンドシ-トの親水度が前記表面シートの親水度より大きく設定されていると共に前記表面シートに相対的に繊維密度の高い部分を有する吸収性物品。
《相違点1》
セカンドシートに形成された「開孔部」について、本願発明の「開孔部」は、表面シート側から裏面シート側に突出する側壁を備えたものであるのに対し、引用発明の「開孔部」は、表面シート側から裏面シート側に突出する側壁を備えていない点。
《相違点2》
セカンドシートの「親水度」について、本願発明では、開孔部及び該開孔部間の平坦部に親水処理が施され、前記開孔部の親水度が前記開孔部間の平坦部の親水度より大きく設定されているとともに、前記平坦部の親水度が前記表面シートの親水度より大きく設定されていることにより、前記セカンドシートと前記表面シートとの親水度の関係は、前記表面シートの親水度<前記セカンドシートの平坦部の親水度<前記セカンドシートの開孔部の親水度の関係に設定されていると特定されているのに対し、引用発明では、吸収体側(裏面側)の親水度が表面シート側(表面側)の親水度より大きく設定されているとともに、セカンドシ-トの親水度が表面シートの親水度より大きく設定されているとされているものの、開孔部の親水度に関しては特定されていない点。
《相違点3》
表面シートの「繊維密度」について、本願発明の表面シートは、セカンドシートの開孔部に対応する部位の繊維密度をセカンドシートの平坦部に対応する部位の繊維密度より密にしてあるのに対し、引用発明の表面シートは、相対的に繊維密度の高い凹部と繊維密度の低い凸部が交互に隣接形成されている点。

3.判断
《相違点1》について
刊行物2に記載されたトップシートを構成する「フロック加工層8」「シート基材7」および「導液孔6」は、それぞれ本願発明および引用発明の「表面シート」、「セカンドシート」および「開孔部」に相当する。
そして、刊行物2の「シート基材7の表面9、すなわち、導液孔6の上面開口14を画成するリブの表面」との記載(上記第4.1.(2)キ.を参照)および図2、図3の記載等を踏まえると、刊行物2から「導液孔を、表面シート側から裏面シート側に突出する側壁を備えたものとする技術」が把握される。
してみると、上記の把握される技術に接した当業者であれば、引用発明におけるセカンドシートに形成された「開孔部」を、表面シート側から裏面シート側に突出する側壁を備えたものとすることは、容易に想到し得たことというべきである。
《相違点2》について
刊行物2に記載されたトップシートの「フロック加工層8」は疎水性短繊維から構成され、「シート基材7」は親水性を有することが好ましいとされている(上記第4.1.(2)ア.、オ.、カ.を参照)ので、シート基材(セカンドシート)の親水度がフロック加工層(表面シート)の親水度より大きく設定されていることは明らかである。
しかし、シート基材の表面(平坦部)の親水度に対して、導液孔(の内側)の親水度を大きく設定することは刊行物2に記載されているとはいえない。
すなわち、刊行物2の図3に示された実施例においては導液孔の内側面にもフロック加工層を形成し、この場合にフロックに親水性を付与することが記載され、さらに、「前記親水性付与剤としての活性剤と同様なものによって付与」とされている(上記第4.1.(2)キ.を参照)ことから、刊行物2には、導液孔のフロック加工層の親水度がシート基材(表面)の親水度と同等であることは示されているということができるが、導液孔の親水度が基材表面の親水度より大きく設定されていることについては記載も示唆もされていない。
刊行物3には、プラスチックフィルムの開孔部が表面シート側から裏面シート側に突出する側壁を備えたものであることも該開孔部への親水性の付与に係る事項も記載されていない。
ゆえに、刊行物2、3のいずれにも本願発明の上記相違点2に係る事項は、記載も示唆もなく,引用発明のセカンドシートの親水度を本願発明のようにすることを動機付けるものも見いだせない。

したがって、本願発明は、《相違点3》について検討するまでもなく、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

4.請求項2に係る発明について
本願の請求項2に係る発明は、本願発明をさらに限定したものであるので、本願発明と同様の理由により、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

第5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1、2に係る発明は、引用発明および刊行物2、3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2015-08-19 
出願番号 特願2010-146039(P2010-146039)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A61F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 笹木 俊男  
特許庁審判長 千葉 成就
特許庁審判官 渡邊 豊英
三宅 達
発明の名称 吸収性物品  
代理人 和泉 久志  

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