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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1303980
審判番号 不服2013-16895  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-09-03 
確定日 2015-08-05 
事件の表示 特願2009-548596「水溶性活性成分を投与するための経皮治療システム」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 8月14日国際公開、WO2008/095597、平成22年 5月27日国内公表、特表2010-518033〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2008年1月19日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2007年2月8日、ドイツ)を国際出願日とする特許出願であって、平成24年12月10日付けで拒絶理由通知が通知され、平成25年3月8日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成25年4月19日付けで拒絶査定され、これに対し、同年9月3日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?11に係る発明は、平成25年3月8日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下、本願発明という。)は、以下のとおりのものである。

「閉塞性裏打ち層、皮膚に面しており、活性医薬物質を送達するための中央のデバイス、送達デバイスを同心状に囲む粘着性層、及び再び取り外し可能な剥離ライナーを含む、水相から水溶性活性医薬物質を制御送達するための経皮治療システムであって、前記デバイスが、固定固相及び水溶液中に活性物質を含む液相から構成され、固相がフリース又はスポンジ状構造を有するセルロース、ビスコース、ポリエステル繊維、ポリウレタン繊維およびシリコーン繊維からなる群より選択される固形の不織布によって形成され、活性医薬物質がペプチドまたはポリペプチドである、前記経皮治療システム。」

第3 引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である、特開平7-277961号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。

(1a)
「【請求項1】 薬物貯留部と、貼着部とを有する経皮吸収製剤であって、
前記薬物貯留部の周囲に前記貼着部が配置されており、
前記薬物貯留部が、少なくとも1種の薬物を溶質とし、難揮発性溶媒を溶媒とした10重量%以上、飽和溶解度以下の溶液を液体保持部材に含浸させてなり、
前記貼着部が、水不溶性粘着剤により構成されていることを特徴とする経皮吸収製剤。」

(1b)「【0015】以下、本発明の経皮吸収製剤につき説明する。本発明では、経皮吸収製剤が、薬物貯留部及び貼着部を有する。そして、薬物貯留部の周囲に貼着部が配置されており、従って、薬物貯留部は、経皮吸収製剤の外周縁には至らないように構成されている。よって、薬物貯留部に含浸されている薬物溶液が周辺に漏出するおそれがない。
【0016】貼着部は、薬物貯留部の周囲に配置されており、薬物貯留部を包囲しているため、上記のように薬物貯留部に含浸された薬物溶液の漏出を防止する機能を果たしている。
【0017】上記薬物貯留部及び貼着部の相互の関係は、上述の通りであり、個々の具体的な厚みや平面形状については、上記の関係を満たす限り任意に定め得る。すなわち、薬物貯留部の平面形状は、円形、矩形等の適宜の形状とすることができ、かつ貼着部の形状についても、上記薬物貯留部を囲み得る限り、適宜の平面形状を有するように構成し得る。また、上記薬物貯留部の周囲に配置される貼着部は、少なくとも一面において、薬物貯留部を露出させるように配置することが望ましい。すなわち、生体に適用される際に、薬物貯留部が生体に直接接触するように、該薬物貯留が露出されることが好ましい。
【0018】また、上記薬物貯留部及び貼付部を支持する合成樹脂フィルムや布もしくは紙等からなる基材を別途備えていてもよい。すなわち、これらの基材の一面に、上記薬物貯留部及び貼付部が支持されているテープ状もしくはシート状の経皮吸収貼付剤として構成されていてもよい。」

(1c)「【0023】また、上記難揮発性溶媒とは、揮発し難く、従って薬物濃度を安定に保ち得る液体をいい、具体的には35℃での飽和蒸気圧が0.8気圧未満のものをいう。揮発性がこれよりも高い液体を用いた場合には、保存に際し液状成分が揮発し、性能が低下するおそれがある。上記難揮発性溶媒としては、種々の液体を用い得るが、好ましくは水が用いられる。貼付部が水不溶性粘着剤で構成されているため、難揮発性溶媒として水を用いることにより、薬物貼付部における薬物濃度の変化を効果的に抑制することができる。」

(1d)「【0024】‥‥上記薬物溶液を含浸させる液体保持部材としては、薬物溶液を含浸させ得る適宜の材料を用いることができ、例えば、織布、不織布または発泡体を用いることができる。
【0025】上記織布とは、水に不溶性の繊維により通常の方法で製造されたものであり、かつ上記薬物溶液を保持するのに十分な細孔を有するものであれば、種類の如何を問わず使用することができる。このような織布を構成する材料の例としては、綿、絹、麻、羊毛、ポリエステル、レーヨン、アセテート、ビニロン、キュプラ、ポリオレフィン、ナイロン、アクリル等があり、商品として日本薬局方ガーゼ等がある。
【0026】また、上記不織布は、水に不溶性の繊維により通常の方法により製造されたものであり、かつ上記薬物溶液を保持するのに十な細孔を有するものであれば、種類の如何を問わず使用することができる。このような不織布の材料としては、例えば、綿、絹、麻、羊毛、ポリエステル、レーヨン、アセテート、ビニロン、キュプラ、ポリオレフィン、ナイロン、アクリル等がある。
【0027】上記発泡体は、水に不溶性の発泡材料により通常の方法により得られるものであり、かつ上記薬物溶液を保持するのに十分な細孔を有するものであれば、種類の如何を問わず用いることができる。このような発泡体としては、例えば、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリエチレン等の発泡体からなるものが挙げられる。上記貼着部は、経皮吸収製剤を生体に貼り付ける機能を果たす部分であり、通常、粘着剤により構成される。用いる粘着剤としては、通常の経皮吸収貼付剤に用いられる材料であり、かつ水に不溶性であれば、任意のものを用い得る。このような粘着剤の例としては、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコン系粘着剤及びウレタン系粘着剤などを挙げることができる。」

(1e)「【0028】上記薬物貯留部及び貼着部は、前述した基材により支持されていてもよい。すなわち、経皮吸収製剤を実際に構成するにあたって、薬物貯留部及び貼着部を支持するための支持体(基材)としては、薬物溶液が不透過性である貼付剤に通常用いられる支持体であれば、種類の如何を問わず使用することができる。このような支持体を構成する材料の例としては、酢酸セルロース、エチルセルロース、ポリエチレンテレフタレート(PET)、可塑化酢酸ビニル-塩化ビニル共重合体、ナイロン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、可塑化ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリ塩化ビニリデン、アルミニウムなどがある。これらは、例えば単層のシート(フィルム)や、2枚以上の積層(ラミネート)体として用いられる。上記支持体表面に、薬物と、場合によっては経皮吸収剤及び/または安定剤を含有する薬物貯留部と、粘着剤からなる貼着部が形成されることにより、テープ状もしくはシート状の経皮吸収製剤が得られる。このような貼着部を形成するにあたっては、溶剤塗工法、ホットメルト塗工法、電子線硬化エマルジョン塗工法などの種々の塗工法を用いることができる。
【0029】上記塗工法の中でも、好ましくは、溶剤塗工法が用いられる。溶剤塗工法では、粘着基剤層を形成するには、例えば粘着剤を適当な溶剤で希釈し、得られた溶液を支持体表面に塗布・乾燥する。溶液を直接支持体表面に塗布せずにシリコン樹脂などをコーティングした離型紙上に塗布し、乾燥後に支持体を密着させてもよい。このような離型紙は、使用時まで貼付剤の粘着剤層表面を保護するために用いられる。‥‥」

(1f)「【0033】
【発明の効果】本発明によれば、薬物貯留部と貼着部とに上述のように機能が分担されているため、薬物貯留部に上記特定の濃度で含有されている薬物が生体に効率良く移行する。従って、即効性に優れた経皮吸収製剤を提供することが可能となる。
‥‥
【0035】‥‥しかも、上記のように経皮吸収製剤でありながら即効性に優れているため、より確実かつ大きな治療効果を期待することができる。」

(1g)「【0037】実施例1
日本薬局方ガーゼ(‥‥)を4枚重ね、面積が10cm^(2) の円形としたものを用意する。塩酸リドカイン2gを8mlの蒸留水に溶解したものをパスツールペット(審決注:「パスツールピペット」の誤記)で全量採取し、これを前記ガーゼ上に滴下する。
【0038】別に、ポリエチレンテレフタレートフィルムとエチレン-酢酸ビニル共重合体フィルムを積層したフィルム(厚さ50μm)上に下記の粘着剤を60μmの厚みになるように塗布し、20cm^(2) の円形としたテープ上に貼付する。
【0039】粘着剤の調製……2-エチルヘキシルアクリレート65重量部、N-ビニルピロリドン35重量部、及び酢酸エチル400重量部を攪拌装置、及び冷却装置付きセパラブルフラスコに供給し、攪拌及び窒素置換しながら60℃に昇温した。過酸化ラウロイル2.0重量部を‥‥添加し、重合を開始した。‥‥反応終了後に冷却し、‥‥上記粘着剤を得た。」

第4 引用発明
刊行物1の請求項1((1a))には、薬物貯留部と貼着部とを有する経皮吸収製剤であって、薬物貯留部の周囲に貼着部が配置されており、薬物貯留部は、薬物を溶質とし難揮発性溶媒を溶媒とした溶液を液体保持部材に含浸させてなり、貼着部は、水不溶性粘着剤により構成されている経皮吸収製剤が記載され、実施例1((1g))として、「日本薬局方ガーゼを4枚重ね、面積が10cm^(2) の円形としたものに、塩酸リドカイン2gを8mlの蒸留水に溶解したものを‥‥ガーゼ上に滴下する」こと、「別に、ポリエチレンテレフタレートフィルムとエチレン-酢酸ビニル共重合体フィルムを積層したフィルム(厚さ50μm)上に下記の粘着剤を60μmの厚みになるように塗布し、20cm^(2) の円形としたテープ上に貼付する」こと、「2-エチルヘキシルアクリレート65重量部、N-ビニルピロリドン35重量部、及び酢酸エチル400重量部を‥‥攪拌及び窒素置換しながら‥‥昇温し‥‥過酸化ラウロイル2.0重量部を‥‥添加し、重合を開始し‥‥反応終了後に冷却し、‥‥上記粘着剤を」調製したことが記載されている。かかる実施例1で調製される粘着剤は2-エチルヘキシルアクリレート65重量部とN-ビニルピロリドン35重量部とを重合させたものであることは明らかである。 そして、刊行物1の【0018】((1b))、【0028】((1e))の記載によれば、実施例1で用いられる「ポリエチレンテレフタレートフィルムとエチレン-酢酸ビニル共重合体フィルムを積層したフィルム」は「薬物貯留部及び貼着部を支持するための支持体(基材)」であることが明らかである。

そうすると、刊行物1には、
「薬物貯留部と貼着部とを有する経皮吸収製剤であって、薬物貯留部の周囲に貼着部が配置されており、薬物貯留部は、薬物を溶質とし難揮発性溶媒を溶媒とした溶液を液体保持部材に含浸させてなり、貼着部は、水不溶性粘着剤により構成されている経皮吸収製剤であって、ポリエチレンテレフタレートフィルムとエチレン-酢酸ビニル共重合体フィルムを積層したフィルムからなる基材上に、2-エチルヘキシルアクリレートとN-ビニルピロリドンとを重合させた水不溶性粘着剤を塗布し、20cm^(2) の円形としたテープ上に、円形の日本薬局方ガーゼ10cm^(2) に塩酸リドカイン水溶液を含浸させたものを貼付してなる、経皮吸収製剤」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

第5 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
1 引用発明の「薬物」である「塩酸リドカイン」が水溶性であることは明らかであるから、引用発明の「塩酸リドカイン」は、本願発明の「水溶性活性医薬物質」に該当する。

2 引用発明の「薬物を溶質とし難揮発性溶媒を溶媒とした溶液を液体保持部材に含浸させて」なる「薬物貯留部」である「円形の日本薬局方ガーゼ10cm^(2) に塩酸リドカイン水溶液を含浸させたもの」において、「液体保持部材」である「円形の日本薬局方ガーゼ」は固相といえ、「薬物を溶質とし難揮発性溶媒を溶媒とした溶液」である「塩酸リドカイン水溶液」は水溶液中に活性物質を含む液相といえ、「円形の日本薬局方ガーゼ10cm^(2) に塩酸リドカイン水溶液を含浸させたもの」を基材上に貼付するので、固相である「円形の日本薬局方ガーゼ」は固定されているといえる。
したがって、引用発明の「円形の日本薬局方ガーゼ10cm^(2) に塩酸リドカイン水溶液を含浸させたもの」は、「固定固相及び水溶液中に活性物質を含む液相から構成され」ているものであるということができる。

3 また、刊行物1の【0017】((1b))「生体に適用される際に、薬物貯留部が生体に直接接触するように、該薬物貯留が露出されることが好ましい。」なる記載によれば、引用発明の「薬物貯留部」は、皮膚に面しているといえ、薬物を送達する目的で設けられていることは明らかである。

4 上記2、3より、引用発明の「薬物貯留部」は、本願発明の「皮膚に面しており、活性医薬物質を送達するためのデバイス」に相当し、「前記デバイスが、固定固相及び水溶液中に活性物質を含む液相から構成され」ているといえる。

5 引用発明の「貼着部」は、「水不溶性粘着剤により構成されている」から、粘着性層といえる。そして、引用発明は「薬物貯留部の周囲に貼着部が配置されて」いるものであり、刊行物1の【0016】((1b))には「貼着部は、薬物貯留部の周囲に配置されており、薬物貯留部を包囲しているため、上記のように薬物貯留部に含浸された薬物溶液の漏出を防止する機能を果たしている。」と記載されている。
一方、本願発明の「粘着性層」は「送達デバイスを同心状に囲む」ものであるが、「同心状に囲む粘着性層」に関して、本願明細書には【0009】「連続的に同心状に配置された水不溶性粘着性層の縁」、【0011】「二相送達デバイスは、慣用の粘着性ポリマーからなる粘着性層の縁によって同心状に囲まれている。」及び【0012】「円形送達デバイスの場合、粘着性層の縁は、環状形態を有する。」なる記載と【図1】、【図2】が記載されるのみである。かかる記載によれば、本願発明における「同心状に囲む」とは【図1】のように角を丸くした略四角形や【0012】の記載のように円形送達デバイスを環状に囲む状態を包含していると解される。
そうすると、引用発明の「貼着部」が円形の「薬物貯留部」の周囲に配置される形態は、本願発明でいう「送達デバイスを同心状に囲む」形態に相当するといえる。

6 また、引用発明において、水不溶性粘着剤が塗布された20cm^(2) の円形のテープ上に、円形の日本薬局方ガーゼ10cm^(2) に塩酸リドカイン水溶液を含浸させたものを貼付することにより、「貼着部」が円形の「薬物貯留部」の周囲を包囲するように成した形態は、「薬物貯留部」が20cm^(2) の円形のテープの中央に位置しているといえるから、上記4と総合して、引用発明の「薬物貯留部」は、本願発明の「活性医薬物質を送達するための中央のデバイス」に相当するといえる。

7 引用発明の「ポリエチレンテレフタレートフィルムとエチレン-酢酸ビニル共重合体フィルムを積層したフィルムからなる基材」は、刊行物1の【0018】((1b))、【0028】((1e))の記載によれば、薬物貯留部及び貼着部を支持するための支持体であるから、裏打ち層といえ、本願発明の「閉塞性裏打ち層」と裏打ち層である点で共通する。

8 本願発明の「水相から水溶性活性医薬物質を制御送達する」における「制御」に関して、本願明細書には、従来技術の問題点として、【0004】「全身的な経皮投与に必要な活性物質を確実に制御放出する手段が示されていない」、【0005】「液体活性物質製剤は、皮膚上で非制御的に広がり、作用領域を増大させ、」なる記載があり、本願発明に関して【0009】「本発明の経皮治療システムは、送達デバイスから活性物質の制御放出が可能であり、そして皮膚を通しての透過を高めることができることが見出された。」、【0011】「本発明の一つの好ましい実施態様において、この縁は、非粘着性ポリマー層によって厚さが補強されており、‥‥この層の厚さは200?5000μm‥‥の範囲であり、これを通して中央の送達デバイスの空間を制御することができる。」との記載があるだけである。かかる記載からみて、本願発明における「制御送達する」ことの意味するところとして、必要な活性医薬物質を確実に送達すること及び送達デバイスの空間を所望の範囲に制限することを包含するものと解される。
一方、刊行物1の【0033】、【0035】((1f))に「薬物が生体に効率良く移行する。」、「経皮吸収製剤でありながら即効性に優れているため、より確実かつ大きな治療効果を期待することができる。」と記載されるように、引用発明の経皮吸収製剤において薬物の生体への移行は、即効性、効率性や確実性が高められているといえる。また、刊行物1の【0015】((1b))には「薬物貯留部の周囲に貼着部が配置されており、従って、薬物貯留部は、経皮吸収製剤の外周縁には至らないように構成されている。よって、薬物貯留部に含浸されている薬物溶液が周辺に漏出するおそれがない。」と記載されており、引用発明の「薬物貯留部」は所望の空間範囲に制限され外周縁に広がらないように制御されているといえる。
そうすると、引用発明も、本願発明で意味するところの「制御送達」を目指すものであるといえる。
そして、引用発明の「経皮吸収製剤」は、塩酸リドカイン等の水溶性活性医薬物質を送達して治療効果を期待する経皮治療システムであるということができる。
したがって、引用発明の「経皮吸収製剤」は、本願発明の「水相から水溶性活性医薬物質を制御送達するための経皮治療システム」に相当するといえる。

9 上記1?8によれば、本願発明と引用発明とは、
「裏打ち層、皮膚に面しており、活性医薬物質を送達するための中央のデバイス、送達デバイスを同心状に囲む粘着性層を含む、水相から水溶性活性医薬物質を制御送達するための経皮治療システムであって、前記デバイスが、固定固相及び水溶液中に活性物質を含む液相から構成される、前記経皮治療システム。」の発明である点で一致し、
次の点で相違する。

<相違点1>
裏打ち層について、本願発明は「閉塞性」と特定されているのに対して、引用発明はそのような特定がない点。

<相違点2>
固相について、本願発明は「フリース又はスポンジ状構造を有するセルロース、ビスコース、ポリエステル繊維、ポリウレタン繊維およびシリコーン繊維からなる群より選択される固形の不織布によって形成され」るのに対して、引用発明では、「日本薬局方ガーゼ」である点。

<相違点3>
本願発明は、「再び取り外し可能な剥離ライナー」を含むのに対して、引用発明は剥離ライナーを設けることについて特定されていない点。

<相違点4>
活性医薬物質について、本願発明は「ペプチドまたはポリペプチドである」のに対して、引用発明は、「塩酸リドカイン」である点。

第6 判断
上記相違点について検討する。
1 <相違点1>について
ア 本願明細書【0003】「通気性のある(すなわち、非閉塞性の(nonocclusive))裏打ち層」なる記載に基づき、請求人が審判請求書で「したがってその反対の、閉塞性は、通気性がないこと、を意味します。」と述べるとおり、本願発明において「閉塞性」は通気性がないことであると理解される。
そうであるところ、引用発明で基材として用いられるポリエチレンテレフタレートフィルムとエチレン-酢酸ビニル共重合体フィルムを積層したフィルム(以下、「引用発明の積層フィルム」という。)の通気性について、刊行物1には明記されていない。
そこで、検討すると、一般に、フィルム材料のポリマーのうちでも、ポリエチレンテレフタレートフィルムがガスバリア性に優れることは広く知られている(必要であれば、下記周知文献A((A1)、(A2))の表1,表2の厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートの酸素透過度や水蒸気透過度の項目、周知文献B(B1)【0002】を参照のこと。)。更に、同文献B(B2)【0078】、【0082】に記載されるとおり、ポリエチレンテレフタレートにエチレン-酢酸ビニル共重合体を積層したフィルムが優れたガスバリア性を有することは、本願優先日前公知である。
そして、刊行物1においては、基材として使用するポリエチレンテレフタレートフィルムとエチレン-酢酸ビニル共重合体フィルムを積層したフィルムに関し、例えば、ガス透過性のものを使用するとか、或いは、ガス透過性とするための処理を行う旨の記載がなされていないことから、引用発明の積層フィルムは、通常のポリエチレンテレフタレートフィルムとエチレン-酢酸ビニル共重合体フィルムをそのまま使用していると解されるので、ガスバリア性が高いものと合理的に解釈されるものである。

イ 仮に、引用発明の積層フィルムが非通気性であるとは断定できないとしても、刊行物1の【0023】((1c))に「上記難揮発性溶媒とは、揮発し難く、従って薬物濃度を安定に保ち得る液体をいい、具体的には35℃での飽和蒸気圧が0.8気圧未満のものをいう。揮発性がこれよりも高い液体を用いた場合には、保存に際し液状成分が揮発し、性能が低下するおそれがある。」と記載されるように、刊行物1は、保存時の溶媒の蒸発が好ましくないことを開示するから、このような要求の下で、あえて溶媒の蒸発を助長するような通気性のフィルムを基材として用いることは考えにくい。
また、水性の薬学的処方物を送達するための経皮吸収デバイス(パッチ)において、バッキング層を閉鎖性のもの(occlusivity)とすることは、下記周知文献C((C1)、(C2))、D((D2))に記載のとおり、本願優先日前周知である。
そうすると、引用発明において、基材(すなわち裏打ち層)を、保存時に液体成分が揮発しない程度に非通気性(閉塞性)のフィルムとすることは、当業者の容易になし得ることである。
一方、本願明細書の記載を見ると、【0020】に「閉塞性裏打ち層については、オレフィンホイル、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン又はポリウレタンのものが企図されるが、好ましくはポリエチレンテレフタレートホイルである。」なる記載があるに留まり、閉塞性とはどの程度の非通気性であればよいか等の説明は一切ない。実施例に到っては、活性医薬物質の皮膚を通しての透過が高まったことを示す具体的実験データがないことはおろか、閉塞性裏打ち層として具体的に何を用いたかさえ明記されていない。

ウ したがって、<相違点1>は実質的な相違点ではないか、仮に相違するとしても、引用発明において非通気性の基材を用いることは、刊行物1の開示及び周知技術に基づき当業者が容易になし得ることであり、本願発明において閉塞性(非通気性)裏打ち層を用いたことによる効果も、刊行物1の記載及び周知技術から予測し得ない格別顕著なものとは認められない。

周知文献A:安田武夫、「プラスチック材料の各動特性の試験法と評価結果 <5>」、プラスチックス、2000年6月1日、第51巻、第6号、119-127頁
(A1)「


」(122頁左欄、表1)
(A2)「


」(123頁右欄、表3)
(A3)「表1に各種ポリマーの酸素・炭酸ガス透過性の比較を示す^(6))。‥‥
つぎに,表3,表4に各種ポリマーの25℃,90%RHおよび40℃,90%RHの条件での水蒸気透過度の比較を示す^(6))。」(124頁左欄下から6行?右欄下から6行)

周知文献B:特開2006-9024号公報
(B1)「【0002】
二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに代表される二軸延伸ポリエステルフィルムは、透明性に優れ、高グロスで機械的性質に優れ、酸素ガス等のガスバリア性に優れるため、近年、食品、飲料、ペットフード、洗剤などの包装材としての使用が増加している。‥‥」
(B2)「【0078】
本発明のポリエステルフィルムは、公知の方法により、他のポリマーを直接に押出積層することにより積層体とすることが出来る。すなわち、走行中のポリエステルフィルムウエブの片面または両面に形成した塗布層D上に、溶融ポリマーを片面または両面に連続的に押出積層することにより、積層体が得られる。直接に押出積層されるポリマーとしては、‥‥エチレン-酢酸ビニル共重合体、‥‥等が例示される。‥‥」
‥‥
【0082】
本発明の透明二軸延伸ポリエステルフィルムは、上述の様に、優れた機械的特性、優れた光学的特性(特に高グロス)、優れたガスバリア性(特に酸素ガスバリア性)を有する。したがって、本発明のポリエステルフィルムは包装材として好適に使用できる。特に、食品や他の商品用の包装材として好適である。また、本発明のポリエステルフィルムに、真空蒸着によるメタル層、セラミック層などを好適に形成することが出来る。本発明のポリエステルフィルムは、酸素ガス、炭酸ガス等のガスバリア性に優れている。」

周知文献C:特表2004-500360号公報(下線は当審で付した。)
(C1)「【請求項1】
体表面を通る薬物の流動を増強するための方法であって、ヒト患者の体表面の局所領域に水性薬学的処方物中の該薬物を送達する工程を包含し、該水性薬学的処方物は、以下:
(a)以下:
アミノ酸、鎮痛薬、麻酔薬、抗挫瘡薬、抗関節炎薬、抗不整脈薬、抗ぜん息薬、抗生物質、抗癌薬、抗コリン作動薬、抗痙攣薬、抗うつ薬、抗糖尿病薬、下痢止め薬、抗真菌薬、抗緑内障薬、駆虫薬、抗ヒスタミン薬、抗高脂質血症薬、抗高血圧症薬、抗片頭痛調製物、制吐薬、抗腫瘍薬、抗振せん麻痺薬、止痒薬、抗乾癬薬、抗精神病薬、解熱薬、鎮痙薬、抗結節薬、抗潰瘍薬、抗ウイルス薬、抗不安薬、食欲抑制薬、注意欠陥障害(ADD)薬および注意欠陥過活動性障害(ADHD)薬、βブロッカー、カルシウムチャネルブロッカー、中枢神経系刺激薬、うっ血除去薬、利尿薬、脂肪酸、遺伝物質、草本治療薬、ホルモン分解薬、催眠薬、低血糖症薬、免疫抑制薬、ロイコトリエンインヒビター、有糸分裂インヒビター、筋弛緩薬、麻薬アンタゴニスト、ニコチン、副交感神経遮断薬、ペプチド薬物、精神刺激薬、鎮静薬、ステロイド、交感神経刺激薬、トランキライザー、血管拡張薬、ビタミン、およびこれらの組合わせからなる群より選択される薬物であって、ここで、該薬物は、
(i)遊離塩基形態の塩基性薬物、
(ii)遊離酸形態の酸性薬物、
(iii)塩基付加塩形態の酸性薬物、または
(iv)非イオン化化合物
である、薬物;
(b)該体表面への損傷を引き起こすことなく該体表面を通る該薬物の流動を増大するのに有効な量の無機水酸化物であって、ここで、該無機水酸化物は、一価金属水酸化物、二価金属水酸化物、および水酸化アンモニウムからなる群より選択される、無機水酸化物;ならびに
(c)局所薬物投与または経皮薬物投与に適切な、薬学的に受容可能な水性キャリア、
を含み、
ここでさらに、
(d)該処方物は、約8.5?13の範囲のpHを有するか、もしくは
(e)該体表面への適用後、該体表面と該処方物との間の界面に、約8.5?13の範囲のpHを提供するか、または
(f)(d)および(e)の両方である、
方法。
‥‥
【請求項12】
請求項1に記載の方法であって、ここで、前記薬物および無機水酸化物が、薬物送達デバイスを前記患者の体表面の局所領域に適用し、これによって体表面-送達デバイス界面を形成させることによって投与され、該デバイスは、該薬物および該無機水酸化物を含み、使用の間に該デバイスの外部表面として機能する外部バッキング層を有する、方法。」
(C2)「【0113】
バッキング層は、経皮系の主要な構造エレメントとして機能し、可撓性および好ましくは閉鎖性を有するデバイスを提供する。バッキング層のために使用される材料は、不活性であり、薬物、水酸化物放出因子またはデバイス内に含まれる処方物の成分を吸収し得ない。好ましくは、このバッキングは、パッチの上部表面を通る伝達を介した薬物および/またはビヒクルの喪失を防止するための保護カバーとして有用である可撓性エラストマー材料から構成され、好ましくは、系に対してある程度の閉鎖性を与え、その結果、パッチによってカバーされた体表面の領域は、使用の間に水分補給される。バッキング層について使用される材料は、デバイスが皮膚の輪郭に従うのを可能とすべきであり、そして、曲げの関節または他の部分におけるような皮膚の領域上に快適に着用され、皮膚およびデバイスの可撓性または弾力における差異に起因して皮膚からデバイスがはがれる可能性がほとんどないかまたは全くない、機械的圧力に通常供される。バッキング層として使用される材料は、閉鎖性バッキングが好ましい 」

周知文献D:米国特許出願公開第2005/074487号明細書(原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2)(抄訳は当審による。)
(D1)「[0064] III. The Active Agent
[0065] The active agent administered may be any compound that is suitable for topical, transdermal or transmucosal delivery and induces a desired local or systemic effect.
‥‥
[0108] E. Peptidyl Drugs
[0109] Peptidyl drugs that may be administered using the methods, compositions and systems of the invention include any pharmacologically active peptides, polypeptides or proteins. 」
(訳:III.活性薬剤
投与される活性薬剤は、局所送達、経皮送達または経粘膜送達に適切であり、そして所望の局所的効果または全身的効果を増加させる、任意の化合物であり得る。
‥‥
E.ペプチド薬物
本発明の方法、組成物、システムを用いて投与され得るペプチド薬物としては、任意の薬理学的に活性なペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質を含む。)
(D2)「[0254]V. Drug Delivery Systems
‥‥
[0258] The backing layer functions as the primary structural element of the transdermal system and provides the device with flexibility and, preferably, occlusivity.」
(訳:V.薬物送達システム
‥‥
バッキング層は、経皮系の主要な構造エレメントとして機能し、可撓性および好ましくは閉鎖性を有するデバイスを提供する。)

2 <相違点2>について
刊行物1の【0024】、【0026】((1d))には「上記薬物溶液を含浸させる液体保持部材としては、薬物溶液を含浸させ得る適宜の材料を用いることができ、例えば、‥‥不織布または発泡体を用いることができる。」、「上記不織布は、‥‥上記薬物溶液を保持するのに十な細孔を有するものであれば、種類の如何を問わず使用することができる。このような不織布の材料としては、例えば、綿、‥‥ポリエステル、レーヨン、‥‥等がある。」と記載されており、液体保持部材として適宜の材料を用いることができるとされ、不織布の材質として、セルロースを主成分とする綿や、ポリエステルも例示されている。
してみると、かかる刊行物1の開示から、引用発明の日本薬局方ガーゼに代えて、液体保持部材として本願発明の相違点2に係る材質のものを採用することに当業者が格別創意を要したものとは認められない。

3 <相違点3>について
刊行物1の【0029】((1e))「粘着基剤層を形成するには、例えば粘着剤を適当な溶剤で希釈し、得られた溶液を‥‥直接支持体表面に塗布せずにシリコン樹脂などをコーティングした離型紙上に塗布し、乾燥後に支持体を密着させてもよい。このような離型紙は、使用時まで貼付剤の粘着剤層表面を保護するために用いられる。」と記載されており、刊行物1には「離型紙」を用いて貼着部の粘着剤層を形成する方法も記載されている。かかる「離型紙」は使用時には取り外されるものであり、経皮吸収貼付剤に汎用される剥離紙と呼ばれるものである。
そうすると、引用発明において、使用時まで貼着部の粘着剤層を保護する目的で剥離紙(取り外し可能な剥離ライナー)を用いることは、当業者が必要に応じて適宜なし得ることである。

4 <相違点4>について
一般に、ペプチド・タンパク性の医薬品は臨床上、筋肉内投与や皮下投与などの注射剤として用いられているが、注射は患者に痛みを伴い、患者のQOL の向上から注射に代わる投与形態が模索されており、経口投与の場合はその吸収性が消化管での分解等に起因して注射に比べると極めて低いことが知られているため、経皮または経粘膜投与形態の開発が期待されている。このような一般的な課題の下、ペプチド、ポリペプチドなどのペプチド薬物の投与形態として経皮吸収デバイス(パッチ)を用いる試みは、上記周知文献C((C1))、D((D1))に記載のとおり、本願優先日前周知である。
そして、刊行物1には、薬物貯留部の溶質とする薬物としてペプチドを用いることの妨げとなるような特段の事情が記載されているものでもないから、ペプチドまたはポリペプチドの投与形態として引用発明の経皮吸収製剤の形態を採用すること、すなわち、引用発明の経皮吸収製剤の薬物をペプチドまたはポリペプチドとすることは、当業者の容易になし得ることである。

5 本願発明の効果について
上記1イで述べたとおり、本願明細書には、上記相違点に係る構成をとることにより奏される本願発明の効果を客観的に確認するに足る具体的なデータを伴った実施例等は記載されていない。
したがって、本願明細書に記載される本願発明の効果が、引用発明、刊行物1の開示及び周知技術から当業者が予測し得ない格別顕著な効果であると認めることはできない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものであり、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-03-05 
結審通知日 2015-03-10 
審決日 2015-03-24 
出願番号 特願2009-548596(P2009-548596)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 原田 隆興  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 新居田 知生
小川 慶子
発明の名称 水溶性活性成分を投与するための経皮治療システム  
代理人 結田 純次  
代理人 竹林 則幸  

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