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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B24D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B24D
管理番号 1303989
審判番号 不服2013-25122  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-12-20 
確定日 2015-08-05 
事件の表示 特願2011-513736「自己融着型発泡研磨材物品およびこのような物品を用いた機械加工」拒絶査定不服審判事件〔平成21年12月17日国際公開、WO2009/152471、平成23年 9月 1日国内公表、特表2011-524260〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2009年(平成21年)6月12日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2008年6月13日、米国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成24年 6月29日付け :拒絶理由の通知
平成24年10月11日 :意見書の提出
平成25年 2月20日付け :拒絶理由の通知
平成25年 5月24日 :意見書の提出
平成25年 8月16日付け :拒絶査定
平成25年12月20日 :審判請求書及び手続補正書の提出

第2 平成25年12月20日付け手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成25年12月20日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1. 本件補正の内容
本件補正は、願書に添付された特許請求の範囲を補正するもので、特許請求の範囲の請求項1に関する補正を含むところ、本件補正前後の請求項1の記載は、補正箇所に下線を付して示すと、以下のとおりである。

(1) 補正前
「【請求項1】
- 加工表面を有する工作物を提供するステップと;
- 前記加工表面に対して研磨材を移動させることによって前記加工表面から材料を除去するステップと;
を含む機械加工方法において、前記研磨材が、砥粒と少なくとも約66体積%の多孔とを含む自己融着型発泡研磨材本体を含む、機械加工方法。」

(2) 補正後
「【請求項1】
- 加工表面を有する工作物を提供するステップと;
- 前記加工表面に対して研磨材を移動させることによって前記加工表面から材料を除去するステップと;
を含む機械加工方法において、前記研磨材が、砥粒と少なくとも約66体積%の多孔とを含み、融着材料を使用しない自己融着型発泡研磨材本体を含む、機械加工方法。」

2. 補正の適否
本件補正のうち、請求項1に関するものは、本件補正前の「自己融着型発泡研磨材本体」を、本件補正により「融着材料を使用しない」ものに限定するもので、特許法第17条の2第5項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)否かについて以下に検討する。

(1) 引用刊行物記載事項及び記載発明
原査定の拒絶の理由に記載された本願優先日前に頒布された刊行物である特開2001-232568号公報(以下、「刊行物」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

ア. 刊行物に記載された事項

(ア)
「研削装置用多孔質砥石を製造する際、従来のように微粒子シリカを結合剤によって結合するのではなく、本発明では、一般に用いられている多孔質材料、たとえば多孔質シリカを用いている。このため、原材料である多孔質シリカは、すでに多孔質材によって形成されているので、その分多孔質砥石の製造工程を削減することができる。しかも、本発明において、多孔質シリカはそれ自体が結合剤としても機能している。したがって、砥石を製造する際に結合剤を用いていないので、被加工物を研削しているときに、結合剤で被加工物をこすってしまうという事態が生じることはなくなる。さらには、高価な結合剤を使用しないので、コストダウンに寄与する。」(段落【0007】)

(イ)
「本発明に係る研削装置用多孔質砥石(以下「多孔質砥石」という)の製造工程を説明する前に、多孔質砥石の外形について、多孔質砥石をカップ型砥石とした例について簡単に説明する。図1に示すように、カップ型砥石Cは、本発明に係る多孔質砥石1を有している。この多孔質砥石1はホルダ2に固定されており、ホルダ2はたとえばボルト3,3・・・などによって研削装置における研削ヘッド4に固定されている。この研削ヘッド4は、図示しないモータなどによって自転可能とされている。そして、研削ヘッド4を自転させて、多孔質砥石1を回転させることによって、被加工物Wの表面を研削する。」(段落【0010】)

(ウ)
「このような外形を有するカップ型砥石Cにおける多孔質砥石1の組織構造の摸式図を図3に示す。図3に示すように、本実施形態に係る多孔質砥石1は、多孔質シリカを原材料として形成され、シリカ骨格11と細孔12によって構成されている。シリカ骨格11は、図4にイメージで示す化学構造を有しており、多孔質砥石1における砥粒として機能し、細孔12は、そのまま多孔質砥石の孔部として機能する。
本実施形態における多孔質砥石1は、このような多孔質シリカを成形することによって製造されている。また、シリカ骨格11は、従来の多孔質砥石に用いられていた結合剤としても機能しているので、別途フェノール系などの結合剤を必要しない。このため、結合剤が孔部に目詰まりを起こしたり、接触抵抗の増大を防止することができる。さらには、高価な結合剤を使用しないので、コストダウンに寄与する。
それでは、本実施形態に係る多孔質砥石1の製造工程について説明する。本実施形態では、ゾル-ゲル法によって多孔質砥石1を製造するものであるが、ゾル-ゲル法によって最初に生成するゲルは多孔質であるので、乾燥ゲルの状態かあるいは乾燥ゲルを加熱してゲル骨格を強化した加熱ゲルの状態で多孔質砥石1として利用することができる。
ゾル-ゲル法によって多孔質砥石1を製造するにあたり、最初に出発溶液を調整する。出発溶液には、原料化合物、加水分解に必要な水、溶媒としてのアルコール類触媒としての酸または塩基などが添加されている。さらには、必要に応じてその他の化合物あるいは溶媒を混合して均質溶液としている。
この出発溶液を数10℃に保って加水分解と重縮合反応を起こさせて酸化物微粒子または高分子が分散している液体のゾルを生成する。この温度下でさらに反応を進めると、粒子が繋がってゲルが生成される。ゲル化した時点でゲルが水や溶液を含んでいる場合には、水分を蒸発させて乾燥ゲルとする。かくして生成された乾燥ゲルは多孔質であり、本実施形態に係る多孔質砥石1は、この乾燥ゲルを成形することによって製造することができる。」(段落【0012】ないし【0016】)

(エ)
「平均細孔径が5?10μmの多孔質シリカは、図3に示すように、直径約5μmの比較的大きい球形粒子が繋がってできた骨格からなっており、粒子間のつながり部分がネック状になっている。この骨格と骨格の間が細孔となると考えられる。ここで、平均細孔径や平均細孔体積を適宜調整することによって、多孔質砥石1の硬度を調整することもできる。」(段落【0020】)

(オ)
上記摘記事項(イ)の「・・・被加工物Wの表面を研削する。」との記載から、研削加工が、被加工物の表面から被加工物を構成する材料を除去する加工であることは、技術常識であるから、刊行物に記載されたものが、「被加工物W」の表面から材料が除去されるステップを含むことは、明らかである。

イ. 刊行物に記載された発明
刊行物に記載された上記ア.の摘記事項(ア)ないし(エ)及び認定事項(オ)を、技術常識を考慮しながら補正発明に照らして整理すると、刊行物には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「研削される表面を有する被加工物を提供するステップと;
前記研削される表面に対して多孔質砥石を回転させることによって前記研削される表面から材料を除去するステップと;
を含む研削方法において、前記多孔質砥石が、シリカ骨格と細孔とを含み、結合材を使用しない多孔質砥石を含む、研削方法。」

(2) 対比
補正発明を引用発明と対比する。
引用発明の「研削される表面」、「被加工物」及び「多孔質砥石」が補正発明の「加工表面」、「工作物」及び「研磨材」にそれぞれ相当することは明らかである。
引用発明の「多孔質砥石を回転させる」は、「多孔質砥石」が「回転する」と、「多孔質砥石」が「被加工物」の表面に対して移動するから、上記対比を踏まえ、補正発明の「研磨材を移動させる」ということができる。
上記(1)のア.の摘記事項(ウ)の「シリカ骨格11は、・・・多孔質砥石1における砥粒として機能し、」(段落【0012】)との記載から、引用発明の「シリカ骨格」は、補正発明の「砥粒」に相当するといえる。また、引用発明の「細孔」が、補正発明の「多孔」に相当することも明らかである。
本願明細書には、融着材料について、以下のとおり記載されている。
「一実施形態によると、従来の融着型研磨材中で一般的に使用されている融着材料(例えばガラス質融着材料)を使用せずに互いに融着された砥粒を含む自己融着型発泡研磨材を最終的な研磨材物品とするように、特殊なプロセスを通して、発泡研磨材物品が形成される。」(段落【0011】)
そうすると、補正発明の「融着材料」は、「研磨材」の中で「砥粒」相互を結合し、全体として「研磨性物品」を形作るものであるといえる。ここで、引用発明の「結合材を使用しない多孔質砥石」も、上記(1)のア.の摘記事項(ウ)の「・・・また、シリカ骨格11は、従来の多孔質砥石に用いられていた結合剤としても機能しているので、別途フェノール系などの結合剤を必要しない。・・・」(段落【0013】)との記載から、補正発明の「砥粒」に相当する「シリカ骨格」自体が、他の物質が介在することなく直接結合して、「多孔質砥石」を形作るものであるから、引用発明も、「融着材料を使用しない」ということができる。
研削は、機械加工の一種であることは自明であるから、引用発明の「研削方法」は、補正発明の「機械加工方法」の下位概念である。
したがって、補正発明と引用発明とは以下の点で一致し、かつ、相違する。

<一致点>
「- 加工表面を有する工作物を提供するステップと;
- 前記加工表面に対して研磨材を移動させることによって前記加工表面から材料を除去するステップと;
を含む機械加工方法において、前記研磨材が、砥粒と多孔とを含み、融着材料を使用しない研磨材本体を含む、機械加工方法。」

<相違点1>
補正発明の研磨材は、「多孔」が「少なくとも約66体積%」で、「融着材料を使用しない自己融着型発泡研磨材本体」を含むものであるのに対し、引用発明の「多孔質砥石」は、「細孔」を含んではいるものの、その体積比率が不明であり、かつ、融着材を使用しないものではあるが、「研磨材本体」が「自己融着型発泡研磨材」であるかが不明である点。

(3) 相違点に対する判断
上記(1)のア.の摘記事項(エ)の「平均細孔径や平均細孔体積を適宜調整することによって、多孔質砥石1の硬度を調整することもできる。」(段落【0020】)との記載と、一般的に砥石の硬度を調整するのに砥石の気孔率を調整することが技術常識(例えば、特開2006-205330号公報(特に段落【0018】。)及び特開2004-337986号公報(特に段落【0013】。)を参照。)であることを考え合わせると、引用発明には、硬度を調整するために、細孔の体積比率を変化させることの動機付けがあるといえる。そして、砥石の気孔を生成するために発泡させることは、従来慣用されていた手段である。
ここで、引用発明の「細孔」は「多孔質砥石」内部の空間のうち、砥粒である「シリカ骨格」以外の空間であるから、「細孔」自体は、砥粒の材質が「シリカ」であるか他の物質であるかに応じて変化するものではない。そして、上記(1)のア.の摘記事項(エ)の「平均細孔径が5?10μmの多孔質シリカは、図3に示すように、直径約5μmの比較的大きい球形粒子が繋がってできた骨格からなっており、粒子間のつながり部分がネック状になっている。この骨格と骨格の間が細孔となると考えられる。」との記載から、引用発明は、「融着材料」を使用しないものではあるものの、「シリカ骨格」の少なくとも一部が「融着材料」として機能していることは明らかである。
ここで、砥粒間をなんらかの材料により融着して多孔質に形成した研磨材の気孔率を「約66%」以上としたものは、例えば、特開2007-118153号公報(特に、段落【0064】には、「使用砥石」として、「気孔体積率=71.8%」と「気孔体積率=69.7%」ものが記載されている。)、上記特開2004-337986号公報(特に段落【0069】の「室温に戻った後にキュアー容器から成形体を取り出して気孔率70(%)の多孔質砥石44を得た。」との記載を参照。)、特開平3-205475号公報(特に5ページ左下欄1ないし8行の、「研磨材結合体」が「・・・気孔が約0?73%の範囲にわたることができる」との記載を参照。)及び特開平6-226641号公報(特に段落【0019】の「この固形砥石は、気孔率が約80体積%であった。」との記載を参照。)に記載されているとおり、従来周知の技術事項である。また、引用発明において、細孔の体積比率(気孔率)に特に上限値が設けられているわけでもない。そうすると、引用発明の「細孔」の体積比率を「約66%以上」とした点は、研磨砥石の硬度を調整しようとして、砥粒間をなんらかの材料により融着して多孔質に形成する研磨材という点で共通する上記従来周知の数値を採用したにすぎず、設計上の事項ともいうべきものである。
したがって、引用発明において上記相違点に係る構成としたことは、上記従来周知の技術事項に基づいて当業者が容易になし得た事項である。

また、補正発明により得られる作用効果も、引用発明及び従来周知の技術事項から当業者が予測し得る範囲内のものに過ぎず、格別顕著なものとはいえない。

したがって、補正発明は、引用発明及び従来周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4) むすび
上記(3)で検討したとおり、補正発明は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり、決定する。

第3 本願発明

1. 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし15に係る発明は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし15にそれぞれ記載された事項により特定されるとおりのものと認めるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2の1.の(1)の「補正前」の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。

2. 引用刊行物
上記刊行物には、上記第2の2.(1)のイ.の引用発明が記載されている。

3. 当審の判断
上記第2の2.に示したように、本件補正は、本件補正前の「自己融着型発泡研磨材本体」を、本件補正により「融着材料を使用しない」ものに限定するものである。そうすると、本願発明は、補正発明の特定事項である「自己融着型発泡研磨材本体」について、「融着材料を使用しない」との限定を除いたものである。
そして、本願発明の構成を全て備えた補正発明が、上記第2の2.の(3)に示したとおり、引用発明及び従来周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び従来周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 まとめ
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-03-06 
結審通知日 2015-03-10 
審決日 2015-03-23 
出願番号 特願2011-513736(P2011-513736)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B24D)
P 1 8・ 575- Z (B24D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中野 裕之  
特許庁審判長 栗田 雅弘
特許庁審判官 久保 克彦
三澤 哲也
発明の名称 自己融着型発泡研磨材物品およびこのような物品を用いた機械加工  
代理人 渡邉 一平  
代理人 渡邉 一平  

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