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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1303991
審判番号 不服2014-2269  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-02-06 
確定日 2015-08-05 
事件の表示 特願2011-500992「蛍光消光及び/又は蛍光退色を用いて個々の細胞又は粒状物質を分析するための方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 9月24日国際公開、WO2009/117683、平成23年 5月26日国内公表、特表2011-516833〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2009年(平成21年)3月20日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2008年3月21日,米国)を国際出願日とする出願であって,平成24年8月17日付けで拒絶理由が通知され,これに対して同年12月11日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが,平成25年9月30日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成26年2月6日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。


第2 本願発明
本願の請求項24に係る発明は,平成24年12月11日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項24に記載された次のとおりのものと認める。(以下「本願発明」という。なお,上記手続補正書の請求項24に「前記着色剤」と記載されているのは,「着色剤」の明らかな誤記であるから,「前記」の文言を除いて認定した。)
「血液試料を分析するための装置であって,
前記試料を静止状態に保つように構成されたチャンバと,
1つ又は複数の蛍光励起波長と1つ又は複数の吸収波長とに従い前記試料を照明するように機能する照明器と,
前記試料を撮像し,前記試料内に含まれる第1の構成成分及び第2の構成成分からの蛍光発光,及びその光学濃度を示す画像信号を生成するように機能する解像装置であって,前記第1の構成成分が前記第2の構成成分とは異なる,解像装置と,
前記画像信号を用いて,前記第1の構成成分及び前記第2の構成成分の各々についての1つ又は複数の蛍光発光値を決定し,且つ前記画像信号を用いて,前記第1の構成成分及び前記第2の構成成分の各々についての1つ又は複数の光学濃度値であって,前記構成成分により吸収された着色剤に従い変わる光学濃度を決定し,前記決定された蛍光発光値及び光学濃度値を用いて前記第1の構成成分及び前記第2の構成成分を同定するように構成された分析機器と,
を含む,装置。」


第3 引用例の記載
1 「引用例1」
原査定の拒絶の理由で引用され,本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である,特表2002-516982号公報(以下「引用例1」という。)には,次の事項が記載されている。なお,後に引用例に記載された発明の認定に直接的に利用する箇所に当審が下線を付した。

(1)「【請求項1】 血液サンプルの中の様々な形態成分を示差的にハイライト化するのに及び血液サンプルの中の血漿を着色するのにも作用可能である一つ又はそれ以上の着色剤と混合されている実質的に希釈されてない抗凝固全血静止サンプルで全血の構成要素の計数を行うための方法であって、前記血液サンプル及び着色剤は変動厚さ領域を有する観察用チャンバー(14)の中に収容されており、
a)血液サンプルを、既知面積の視野(1、3、5、7′、7、9、11)を有する光学機器(54)によって走査する工程;
b)前記静止血液サンプルの中の、個々の赤血球(32)、赤血球の単層(31)又は赤血球の凝集体(33)のどれかを含有しておりそして血液サンプル中のその他の形態成分(30、34)を含有してもよい区域(1、3、5)を突き止める工程; 及び
c)静止血液サンプルの中の前記区域を、様々な形態の血液サンプル要素を示差的にハイライト化するように選択された波長の光によって照射する工程であって、この照射はハイライト化された血液サンプル要素に関する情報の前記光学機器による誘導を可能にする仕方で、行う工程;
を特徴とする前記方法。」

(2)「【請求項11】 前記走査工程が、白血球も含有しているチャンバーの領域で行われ; 更に、選択視野の中の個々の白血球を計数し、そして前記選択視野の容積を求めて血液サンプルについての容量白血球数を誘導する、諸工程が含まれている、請求項1の方法。」

(3)「【請求項13】 前記着色剤が、様々なタイプの白血球から発する異なる信号強度によって白血球のタイプを互いに区別するのに作用可能であり、それによって特異白血球数が前記血液サンプルから誘導されることができる、請求項11の方法。」

(4)「【0009】
(発明の開示)
本発明はチャンバーの中に収容した実質的に希釈されてない抗凝固全血静止サンプルを検査しそこから情報を得るのに使用するための方法及び装置に関する」

(5)「【0012】
検定されるべきサンプルは例えば蛍光染料であることができる着色剤と混合され、そして得られた混合物はチャンバーの中に拡がってチャンバー壁の収斂による変動厚さを有する静止サンプルになる。着色剤はサンプルをチャンバーの中に入れる前にサンプルに添加することができる、又は着色剤はサンプルがチャンバーの境界内にある間に例えばチャンバーの壁の上に着色剤を乾燥塗布することによってサンプルに添加することができる。抗凝固剤もまた血液サンプルをチャンバーの中に引き入れる前に血液サンプルに添加することができる、又はそれらは血液サンプルがチャンバーの中に入る前に例えばチャンバーの壁の上に抗凝固剤を乾燥塗布することによって血液サンプルと混合することができる。チャンバーの中の関心ある領域はサンプルの中の着色剤を発光させる選択された波長(単数又は複数)を有する光源によって個々に照らされる、又は別の仕方で定量化される。血液サンプルの中の様々なサイズの形態成分を含有しているチャンバー中の領域は従って、好ましくは、光学機器によって走査され、そして走査の結果はデジタル化されてもよく、そして分析される。」

(6)「【0030】
図9はチャンバー14を組み込んである装置2であってチャンバーが血液サンプルで満たされたときにチャンバー14の中には被検血液サンプル中に存在する如何なる異なるサイズの形態成分も静止的に分布するであろう仕方を表す概略平面図である。数字10はチャンバー14のより小さな厚さの領域を示し、そして数字12はチャンバー14のより大きな厚さの領域を示す。図9に示された装置2の描写においては、描かれたチャンバー14の部分には3つの異なる厚さの領域A、B及びCが存在する。領域Aはチャンバーの中のより小さな厚さの領域であり、領域Bはチャンバー14の中の中位の厚さの領域であり、そして領域Cはチャンバー14の中の最も大きな厚さの領域である。」

(7)「【0031】
領域Bの下方部には、赤血球が赤血球無しの血漿によって包囲されている連銭状赤血球又はその他凝集体33を形成するのに十分な場所が存在する。視野3では、血小板30が数え上げられるかも知れない。領域Bの上方部では、視野5には、白血球34の計数及び分類を可能にするのに十分なチャンバー容積が存在する。従って、白血球34は表面受容体サイトのためのこの領域で検定することができ; 類型に分類することができ; 容積測定することができ; 形態学的に研究することができる; そして白血球34についての付加的な小さな情報は領域Bの上方部における血液サンプルから誘導することができる。」

(8)「【0035】
アクリジンオレンジのような着色剤によって超生体染色されたサンプル中に存在する白血球は460nm範囲の光によって励起されたときの540nmの蛍光性発光における細胞特有核蛍光(cells' characteristic nuclear fluorescence)及び620nmの蛍光性発光における細胞質蛍光(cytoplasmic fluorescence)によって同定されてもよい。有核赤血球もこの手順に従って同定できる。これら2つの波長の比は顆粒白血球(granulocyte) のようないくつかの炎症細胞(inflammatory cells)を同定するのにも使用できる。アストロゾンオレンジのような他の染料が類似分析を遂行するのに類似波長と共に使用されてもよい。
【0036】
米国では、重力分離した全血サンプルの中のパックした赤血球カラム(packed red cell column)の百分率として典型的に定義されているが、欧州では、全血サンプルの中のパックした赤血球カラムのデシマル(decimal) 又は分画として定義されてもよい、血液サンプルのヘマトクリットは次の仕方で走査機器によって測定される。センシブルマーカー(sensible marker) 、好ましくは、その発光波長が赤である蛍光染料、例えば、スルホルローダミンS101、を血液サンプルと緊密に混合する。小腔(lacunae) 及び赤血球連銭形の場合には、染料はサンプルに発光を起こさせ、そしてサンプルの小腔及び連銭状赤血球区域のデジタル画像が走査機器によって捕らえられる。この画像はコンピューター分析にかけられ、ここでの第一の目的は小腔をつくっている血漿の平均単位蛍光を測定することである。これは小腔を赤血球連銭形からデジタル分離しそして画像の中の小腔からの信号強度又は輝度を平均化することによって行われてもよい。もう一つの方法は強度の読みのヒストグラムを作ることであり、そこでは、最も高い読みは血漿からのものを表している。小腔は本質的に血漿だけを含有しているので、それらの平均信号強度は像形成された視野全体についての平均血漿信号強度に等しい。次いで、走査機器は血漿のピクセル当たりの平均信号強度に視野のピクセル数を掛けることによって全信号強度(total signal intensity)Btを計算する。この工程の積は視野に連銭状赤血球が存在しない場合の全視野信号強度であるものである。次の工程は走査された視野からの実際の信号強度Baを決定することである。この決定は視野の中に含有されている全ピクセルの実際の信号強度を合算することに行われる。上記画像分析は多数の市販のソフトパッケージ、たとえば、バージニア州ビエナ(Vienna) のシグナル・アナリティクス・コーポレーション(Signal Analytics Corporation)によって販売されているもの、又はその他のかかる画像処理システム、によって遂行されてもよい。」

(9)「【0038】
蛍光マーカーが好ましいけれども、透過光を吸収する染料を使用することもできる。かかる染料を使用するときは、蛍光信号強度ではなく光学信号強度の値を測定し、そしてBtは血漿のピクセル当たりの平均積算光学強度に、画像形成された視野の面積を掛けたものであり、そしてBaは画像形成された視野の面積の上の積算光学強度である。」

(10)「【0045】
図13は数字54によって一般的に表示されている自動化された比色顕微鏡機器アセンブリーの概略図であり、そしてそれは装置2の中に収容されている血液サンプルを走査するのに使用することができ、そして有意な人間の介在無しに血液サンプルの様々な成分からの発色波長を比色分析することができ、それによって様々な成分を同定する。それはまた、サンプルの中の様々な形態成分の単位血液サンプル当たりの容積計数を遂行することができ; 走査される血液サンプルの中の形態成分の様々なタイプの間を比色的及び/又は形態学的に差別化し; そして血液サンプルのヘモグロビン量及びヘマトクリットを比色的に測定することができる。機器アセンブリー54は走査された血液サンプルの中の形態成分の画像を生じ保存又は伝送するように設計されている。機器アセンブリー54には、サンプルホルダー2に携わるクリップ58を包含しそしてサンプルホルダー2の内容物が走査されるときサンプルホルダー2をXとYの方向に水平に動かすことを可能にするステージ56が包含されている。
【0046】
可逆的電気モーター59はサンプルホルダー2をXとYの方向に水平に動かせるように駆動スクリュー60を反対方向に選択的に回転させるのに使用できる。この仕方で、サンプルホルダー2の内容物全体が走査できる。機器アセンブリー54の自動の態様は、サンプルホルダーアセンブリー2の中のサンプル含有部に焦点を合わせるようにZ方向に選択的に動かせる、CCDカメラ62、ビームスプリッター64、及びレンズ66のセットを包含している。CCDカメラ62は選択回転可能なフィルターホイール74の上に搭載されていてもよい複数の異なる発光波長フィルター68、70及び72を通してサンプルの画像を観察し記録する。機器アセンブリー54はビームスプリッター64及び焦点を結ぶレンズセット66を通してサンプルホルダー2に励起光ビームを向ける励起光源75も包含している。一連の励起光波長フィルター76、78および80は選択回転可能なフィルターホイール82の上に搭載されてもよい。励起光ビームは焦点を結ぶレンズ66に向かってビームスプリッター64によって偏向され、そしてレンズ66によってサンプルホルダー2の上に焦点を結ばされる。従って、2つのフィルターホイール74と82は励起光源ばかりでなく発光光源の波長を選択的に制御し変動させることができる。予めプログラミングされたプロセッサーコントローラー84はサンプルホルダー2の運動; フィルターホイール74と82の回転; およびCCDカメラ62の操作を、選択的に制御するように操作可能である。従って、コントローラー84は有意な人間の介在の必要無しに機器アセンブリー12の完全自動操作を可能にする。」

(11)技術常識を勘案して以上を総合すれば,引用例1には,次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

「チャンバーの中に収容した実質的に希釈されてない抗凝固全血静止サンプルを検査しそこから情報を得るための装置において,
検定されるべきサンプルは蛍光染料である着色剤と混合され,そして得られた混合物はチャンバーの中に拡がってチャンバー壁の収斂による変動厚さを有する静止サンプルになり,
着色剤はサンプルをチャンバーの中に入れる前にサンプルに添加することができ,
チャンバーの中の関心ある領域はサンプルの中の着色剤を発光させる選択された単数又は複数の波長を有する光源によって個々に照らされ,
デジタル画像が走査機器によって捕らえられ,この画像はコンピューター分析にかけられ,
アクリジンオレンジのような着色剤によって超生体染色されたサンプル中に存在する白血球は460nm範囲の光によって励起されたときの540nmの蛍光性発光における細胞特有核蛍光及び620nmの蛍光性発光における細胞質蛍光によって同定され,
着色剤は,様々なタイプの白血球から発する異なる信号強度によって白血球のタイプを互いに区別するのに作用可能であり,
透過光を吸収する染料を使用することもでき,かかる染料を使用するときは,蛍光信号強度ではなく光学信号強度の値を測定する装置。」

2 「引用例2」
原査定の拒絶の理由で引用され,本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である,特開昭58-166261号公報(以下「引用例2」という。)には,次の事項が記載されている。なお,後に引用例に記載された発明の認定に直接的に利用する箇所に当審が下線を付した。

(1)3頁右下欄18行?4頁左上欄10行
「前記特許出願の発明の実施以来、超生体染色分野での鏡検(顕微鏡分析)が利用されており、これによつて観察者は白色光(約4000?7700Åの波長を有する輻射線の電磁波エネルギーの形)を用いて当初記載の如く人血の一般的な超生体分析法を実施し得るが、今回の本発明では、螢光発光をも用いて実施するものである。前記の2つの特許出願においては、超生体染色試料の視野を通過する白色光スペクトルを吸収する。本発明で用いる螢光は発生に基づき、或る形の励起エネルギーを発光体中に流入させることにより生起し得る。螢光の発光スペクトルは吸収されるエネルギー流及び特有の周波数で発光される光線から生ずる。」

(2)7頁左上欄11行?同頁右上欄2行
「螢光発光させるエネルギー源には例えば水銀蒸気光線、タングステン-ハロゲン源、レーザー光線、ジユーテリウム源、ゼノン等がある。入手し得る文献が示す所によれば自動鑑別計数装置は色の有無による差異、細胞核に確立された物理的パターン及び細胞質中の顆粒の相対的な個数、大きさ、配置又はパターン及び色合い、明暗及び色度(色)及び顆粒の個数による色濃度に基づいて開発される。白血球細胞を白色光と螢光との2つの様式の光に暴露させて得られる色が二元的であることは細胞構造の特異形態を観察し見出すのに2重の点検を与える。」

(3)7頁右下欄6行?8頁左上欄19行
「ツアイスの螢光顕微鏡を用いて前記の特許出願で先ず観察した所によると、メチン-ポリメチン系の染料であるカルボシアニンK-5は、白色光の吸収と発光した螢光との両方の作用下で異染性であることを示した。レツド及びバイオレツト(以下に挙げた)及び塩基性オレンジNo.21染料を含めて前記の発色団分類内に入る広範囲の群の染料をその後に検査すると、全て単球を超生体分析的に染色する場合にツアイスの螢光顕微鏡下でこの2重の意味での異染性を示するという応答、即ち白色光と螢光との2つの様式の光に対して両方とも応答を示すことが見出された。
塩基性オレンジNo.21が白色光スペクトル下に異染性を示すのみならず、励起した螢光発光条件下でもまた異染性を示したという知見に基づいて研究を進め、塩基性オレンジNo.21は螢光の光源下で有効に仂いて前記の特許出願に記載されるのと同じ細胞中で同じ細胞幾何学的模様(形状)及び配置を実質的に画き出し得ることが確認される。しかしながら、螢光発光による色は、白色光の光源の場合に出た色と同じ色の応答を有するものではないが、幾何学的模様(形状)は完全に確証される。正常な白血球と、種々の段階の病状を示す患者の白血球との両方の多数の試料について作成した血液試料スライドを作り、そして同一のスライドを普通の白色光波長下と螢光発光下とで平行的に検査すると、白色光の波長下と螢光波長下との両方で行う白血球の同定及び確認の反復的試験の一つの顕著な事例になり、そしてその際には、白色光と螢光との2様式の光を夫々用いる相異なる観察手段を採つた際に認められる色について、色合い、明暗及び色度を観察し、且つ可視光線の強度を変化させた時の色についても同様に観察して識別するのである。」

(4)8頁左下欄3?14行
「塩基性オレンジNo.21を詳細に研究すると、これは前記した染料のうちでも特異的であることが認められる。塩基性オレンジNo.21は、以下に挙げる全て種類の血液細胞の同定に際して、白色光と螢光との2つの様式の光を用いて検査する両方の場合とも有効に利用できる唯一の公知染料である。すなわち、この特異な染料、オレンジNo.21は、発育段階の好中球細胞、顆粒球細胞を含めて下記の種類の白血球の各個の種類の細胞を、白色光と螢光発光を作用させる何れの場合にも、異染性的に染色してこれらを識別して同定するのに有効である。」

(5)技術常識を勘案して以上を総合すれば,引用例2には,次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。なお,引用例2で用いられている旧字の「螢」は「蛍」に改めた。

「超生体染色分野での鏡検において,
白色光スペクトルの吸収,及び励起エネルギーを発光体中に流入させることにより生起する蛍光発光をも用い,
白色光波長下と螢光発光下とで平行的に検査し,
白血球の各個の種類の細胞を識別して同定する方法。」


第4 対比
1 本願発明と引用発明1とを対比する。
(1)装置全体について
引用発明1の「抗凝固全血静止サンプル」は,本願発明の「血液試料」に相当する。
そして,引用発明1の「検査しそこから情報を得る」ことは,本願発明の「分析する」ことに相当する。
してみれば,引用発明1の「抗凝固全血静止サンプルを検査しそこから情報を得るための装置」は,本願発明の「血液試料を分析するための装置」に相当する。

(2)チャンバについて
引用発明1の「チャンバー」は,本願発明の「チャンバ」に相当する。
そして,引用発明1の「サンプル」が「チャンバーの中に拡がってチャンバー壁の収斂による変動厚さを有する静止サンプルにな」るのであるから,引用発明1の「チャンバー」が「サンプル」を静止状態に保つように構成されているのは明らかである。
よって,引用発明1の「サンプル」が「チャンバーの中に拡がってチャンバー壁の収斂による変動厚さを有する静止サンプルにな」るように構成された「チャンバー」は,本願発明の「前記試料を静止状態に保つように構成されたチャンバ」に相当する。

(3)照明器について
引用発明1の「蛍光染料である着色剤」「を発光させる選択された単数又は複数の波長」は,その性質からみて,本願発明の「1つ又は複数の蛍光励起波長」に相当する。
そして,引用発明1の「装置」は,「透過光を吸収する染料を使用することもでき,かかる染料を使用するときは,蛍光信号強度ではなく光学信号強度の値を測定する」から,上記の「蛍光染料である着色剤」「を発光させる選択された単数又は複数の波長」の他に,「染料」が「吸収する」波長でも「光源」から「照ら」すことが可能であるのは明らかである。
したがって,引用発明1の「蛍光染料である着色剤」「を発光させる選択された単数又は複数の波長を有」し「染料」が「吸収する」波長でも「光源」から「照ら」すことが可能な「光源」は,本願発明の「1つ又は複数の蛍光励起波長と1つ又は複数の吸収波長とに従い前記試料を照明するように機能する照明器」に相当する。

(4)解像装置について
ア 引用発明1の「着色剤は,様々なタイプの白血球から発する異なる信号強度によって白血球のタイプを互いに区別するのに作用可能であ」り,引用発明1では,それを「蛍光性発光」によって「同定」する。
したがって,引用発明1の「サンプル」に2種類以上の「白血球」が含まれるのは明らかであり,そのうちの2種類の「白血球」は,本願発明の「第1の構成成分及び第2の構成成分」であって「前記第1の構成成分が前記第2の構成成分とは異なる」ものに相当する。
そして,引用発明1の「蛍光性発光」は本願発明の「蛍光発光」に相当する。
また,引用発明1において「着色剤を発光させる」ということは,「着色剤によって超生体染色されたサンプル中に存在する」2種類以上の「白血球」に「蛍光性発光」を生じさせるということであり,「走査機器によって捕らえられ」る「デジタル画像」がその「蛍光性発光」を捕らえたものであることは明らかである。

イ 引用発明1の「装置」は,「透過光を吸収する染料を使用することもでき,かかる染料を使用するときは,蛍光信号強度ではなく光学信号強度の値を測定する」。
よって,引用発明1における「走査機器によって捕らえられ」る「デジタル画像」は,上記アの「蛍光性発光」の他に,「光学信号強度の値」を捕らえる機能も有することは明らかである。
そして,引用発明1の「透過光を吸収する染料」「を使用するとき」の「光学信号強度」は,その性質からみて,本願発明の「光学濃度値」に相当する。

ウ したがって,引用発明1の,「着色剤によって超生体染色されたサンプル中に存在する」2種類以上の「白血球」の「蛍光性発光」,及び「透過光を吸収する染料を」「使用するとき」「光学信号強度の値」を示す「デジタル画像」を「捕らえ」る「走査機器」は,本願発明の「前記試料を撮像し,前記試料内に含まれる第1の構成成分及び第2の構成成分からの蛍光発光,及びその光学濃度を示す画像信号を生成するように機能する解像装置であって,前記第1の構成成分が前記第2の構成成分とは異なる,解像装置」に相当する。

(5)分析機器について
ア 引用発明1においては,「デジタル画像が走査機器によって捕らえられ,この画像はコンピューター分析にかけられ」るから,その「分析」を行う「コンピューター」を引用発明1の「装置」が備えるのは自明である。

イ 引用発明1においては,「アクリジンオレンジのような着色剤によって超生体染色されたサンプル中に存在する白血球は460nm範囲の光によって励起されたときの540nmの蛍光性発光における細胞特有核蛍光及び620nmの蛍光性発光における細胞質蛍光によって同定され,着色剤は,様々なタイプの白血球から発する異なる信号強度によって白血球のタイプを互いに区別するのに作用可能であり,透過光を吸収する染料を使用することもでき,かかる染料を使用するときは,蛍光信号強度ではなく光学信号強度の値を測定する」。
したがって,引用発明1の「コンピューター分析」において,「デジタル画像」を用いて「サンプル」が有する2種類以上の「白血球」が生成する「蛍光信号強度」を決定し,その決定された「蛍光信号強度」を用いて2種類以上の「白血球」を「同定」することは明らかである。
その引用発明1の「蛍光信号強度」は,本願発明の「蛍光発光値」に相当する。

ウ 引用発明1の「装置」は,「透過光を吸収する染料を使用することもでき,かかる染料を使用するときは,蛍光信号強度ではなく光学信号強度の値を測定する」。
その「蛍光信号強度」を用いるのは,「着色剤は,様々なタイプの白血球から発する異なる信号強度によって白血球のタイプを互いに区別するのに作用可能」とするためであるから,「光学信号強度」についても「白血球」により吸収された「透過光を吸収する染料」に従い変わるものであるのは自明である。
したがって,「透過光を吸収する染料を使用」したとき,引用発明1の「コンピュータ分析」において,「デジタル画像」を用いて,「サンプル」が有する2種類以上の「白血球」の「光学信号強度」であって,「白血球」により吸収された「透過光を吸収する染料」に従い変わる「光学信号強度」を決定し,その決定された「光学信号強度」を用いて2種類以上の「白血球」を「同定」することは明らかである。
そして,上記(4)イのとおり,引用発明1の「透過光を吸収する染料」「を使用するとき」の「光学信号強度」は,本願発明の「光学濃度値」に相当する。

エ 上記ア?ウより,引用発明1の「装置」は,「デジタル画像」を用いて,「サンプル」が有する2種類以上の「白血球」が生成する「蛍光信号強度」を決定し,又は,「デジタル画像」を用いて,「サンプル」が有する2種類以上の「白血球」の「光学信号強度」を決定し,その決定された「蛍光信号強度」又は「光学信号強度」を用いて2種類以上の「白血球」を「同定」する「分析」を行う「コンピューター」を備える。

オ してみれば,引用発明1の,「デジタル画像」を用いて,「サンプル」が有する2種類以上の「白血球」が生成する「蛍光信号強度」を決定し,又は,「デジタル画像」を用いて,「サンプル」が有する2種類以上の「白血球」の「光学信号強度」を決定し,その決定された「蛍光信号強度」又は「光学信号強度」を用いて2種類以上の「白血球」を「同定」する「分析」を行う「コンピューター」と,本願発明の「前記画像信号を用いて,前記第1の構成成分及び前記第2の構成成分の各々についての1つ又は複数の蛍光発光値を決定し,且つ前記画像信号を用いて,前記第1の構成成分及び前記第2の構成成分の各々についての1つ又は複数の光学濃度値であって,前記構成成分により吸収された着色剤に従い変わる光学濃度を決定し,前記決定された蛍光発光値及び光学濃度値を用いて前記第1の構成成分及び前記第2の構成成分を同定するように構成された分析機器」とは,「前記画像信号を用いて,前記第1の構成成分及び前記第2の構成成分の各々についての1つ又は複数の蛍光発光値を決定し,又は,前記画像信号を用いて,前記第1の構成成分及び前記第2の構成成分の各々についての1つ又は複数の光学濃度値であって,前記構成成分により吸収された着色剤に従い変わる光学濃度を決定し,前記決定された蛍光発光値又は光学濃度値を用いて前記第1の構成成分及び前記第2の構成成分を同定するように構成された分析機器」である点で共通する。

2 以上より,本願発明と引用発明1との一致点,相違点は次のとおりである。

(1)一致点
「血液試料を分析するための装置であって,
前記試料を静止状態に保つように構成されたチャンバと,
1つ又は複数の蛍光励起波長と1つ又は複数の吸収波長とに従い前記試料を照明するように機能する照明器と,
前記試料を撮像し,前記試料内に含まれる第1の構成成分及び第2の構成成分からの蛍光発光,及びその光学濃度を示す画像信号を生成するように機能する解像装置であって,前記第1の構成成分が前記第2の構成成分とは異なる,解像装置と,
前記画像信号を用いて,前記第1の構成成分及び前記第2の構成成分の各々についての1つ又は複数の蛍光発光値を決定し,又は,前記画像信号を用いて,前記第1の構成成分及び前記第2の構成成分の各々についての1つ又は複数の光学濃度値であって,前記構成成分により吸収された着色剤に従い変わる光学濃度を決定し,前記決定された蛍光発光値又は光学濃度値を用いて前記第1の構成成分及び前記第2の構成成分を同定するように構成された分析機器と,
を含む,装置。」

(2)相違点
第1の構成成分及び第2の構成成分を,蛍光発光値又は光学濃度を用いて同定するにあたって,本願発明では,両者を併用するのに対し,引用発明1では,いずれか一方のみを用いる点で相違する。


第5 相違点についての検討
上記相違点について検討する。
引用発明1では,2種類以上の白血球を同定するための指標として,「蛍光信号強度」と「光学信号強度」を選択肢としている。
その引用発明1と同様に,白血球を染色して種類を同定することに関する発明である引用発明2では,「超生体染色分野での鏡検において,白色光スペクトルの吸収,及び励起エネルギーを発光体中に流入させることにより生起する蛍光発光をも用い,白色光波長下と螢光発光下とで平行的に検査し,白血球の各個の種類の細胞を識別して同定する」,すなわち,染色した白血球の種類の同定において,白色光スペクトルの吸収と,蛍光発光という2つの指標を併用する。
そして,種類を同定するときに,用いる指標を増やして同定の精度を上げることは自明の課題である。
よって,引用発明1においても同定の精度を上げるため,同定の指標として選択肢に挙げられた「蛍光信号強度」と「光学信号強度」の2つを,引用発明2にならって併用することにより,上記相違点に係る本願発明の構成を付加することは,当業者が容易に想到し得たことである。

そして,本願発明の奏する効果は,引用発明1及び2が奏する効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別なものではない。


第6 むすび
以上より,本願発明は,引用発明1及び2に基づいて,当業者が容易に想到し得たものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-03-05 
結審通知日 2015-03-10 
審決日 2015-03-23 
出願番号 特願2011-500992(P2011-500992)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 波多江 進  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 右▲高▼ 孝幸
渡戸 正義
発明の名称 蛍光消光及び/又は蛍光退色を用いて個々の細胞又は粒状物質を分析するための方法及び装置  
代理人 絹谷 信雄  

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