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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04W
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04W
管理番号 1303997
審判番号 不服2014-5749  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-03-28 
確定日 2015-08-05 
事件の表示 特願2011-177446「通信装置および通信方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 1月12日出願公開、特開2012- 10385〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成13年4月18日(パリ条約に基づく優先権主張 2000年4月18日 欧州特許庁)を出願日とする特願2001-120125号の一部を平成23年8月15日に特願2011-177446号として新たな特許出願としたものであって、平成25年1月31日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成25年5月13日に手続補正がなされ、平成25年12月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成26年3月28日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がなされたものである。


第2.平成26年3月28日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成26年3月28日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正内容
本件補正は、補正前の特許請求の範囲(平成25年5月13日付けで補正)の請求項1:
「【請求項1】
複数サブキャリアからなる直交周波数分割多重信号を他の通信装置に送信するための複数アンテナ素子と、
該複数アンテナ素子を用いて送信される該直交周波数分割多重信号を生成する処理装置を備え、
前記処理装置は、生成する該直交周波数分割多重信号のサブキャリアを、該他の通信装置との通信により得た情報に基づいて調節することによりビーム生成する、通信装置。」を、

「【請求項1】
複数サブキャリアからなる直交周波数分割多重信号を他の通信装置に送信するための複数アンテナ素子と、
該複数アンテナ素子を用いて送信される該直交周波数分割多重信号を生成する処理装置を備え、
前記処理装置は、生成する該直交周波数分割多重信号のサブキャリアシンボルを、該他の通信装置との通信により得た情報に基づいて調節し、調節されたサブキャリアシンボルに対してIFFT処理を施すことによりビーム生成する、通信装置。」

と補正することを含むものである。ただし、下線は当審が付加した。

すなわち、本件補正は、請求項1において、

a.「生成する該直交周波数分割多重信号のサブキャリアを、該他の通信装置との通信により得た情報に基づいて調節する」を「生成する該直交周波数分割多重信号のサブキャリアシンボルを、該他の通信装置との通信により得た情報に基づいて調節し、」と補正し、

b.「調節されたサブキャリアシンボルに対してIFFT処理を施す」を追加するものである。


2.補正の目的
直交周波数分割多重信号の送信機においては、通常、ベースバンドのシンボル列に対してIFFT処理を施す。したがって、上記補正事項a.及びb.は、他の通信装置との通信により得た情報に基づく調節が、アップコンバードされた信号に対して行われるのではなく、ベースバンドのシンボル列に対して行われることに限定するものである。
よって、上記補正事項a.及びb.は、いずれも、特許請求の範囲を限定的に減縮することを目的としたものである。

そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法17条の2第5項において準用する同法126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。


3.引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1(TAKAHASHI Hideyuki , NAKAGAWA Masao,Antenna and Multi-Carrier Combined Diversity System (Special Issue on Personal Communications),IEICE transactions on communications,日本,1996年 9月25日,E79-B(9),1221-1226)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。

(a)1222頁右欄?1223頁右欄
「3. The Proposed System
Figure 3 shows the concept of the proposed system whose BS has multiple antennas for space diversity and MS has a single antenna for simplicity and less energy consumption. Both BS and MS transmit multi-carrier signals alternately in TDD as shown in Fig.3. We will show its structure on the reverse(up) link and forward (down) link.

3.1 On the Reverse Link

On the reverse link, MS transmits the multi-carrier signal and BS receives it with the multi-antennas whose locations are far enough for their statistical independence in fading channel as shown in Fig.4. Different spectrum patters are observed at these antennas. At the antenna-2 the carrier f1 is very strong and the carrier f3 is too small, however, the carrier f1 is small and the carrier f3 is medium at the antenna-1, for example. We should utilize this fact to get high antenna and frequency combined diversity gain. A conventional diversity method like antenna selection diversity which selects one of the antennas compareing their signal amplitudes, does not utilize the spectrum independence shown above. Our proposed system selects the strong carriers at each antenna. For example, f1 and f2 are selected at the antenna-2 and f3, f4 are done at the antenna-1 (Fig.4(ii)). Finally these strong carriers are demodulated. This method selects the best combination between antennas and carriers.

3.2 On the Forward Link

On the forward link, Bs with multi-antenna can find the best combination between the carriers and antennas from signals received on the reverse link to utilize the estimation based on TDD function before the signal transmission. BS transmits the signal with this combination. For example, f1 and f2 are selected at the antenna-2 and f3, f4 are done at the antenna-1 as shown in Fig.5(ii). MS with a single antenna receives the signal with little attenuation from multi-antenna BS because suitable carriers are selected and transmitted. This proposed system is a very effective method to be able to offer immunity against the frequency-selective fading channel since we use the best combination between antennas and carriers. If we use a conventional pre-diversity method like antenna selection pre-diversity, the transmitted signal includes some attenuated carriers. (Fig.5(i)) Moreover, by this method, the size and complexity of MS can be minimized, and be made as simple as a non-combining single path receiver as shown in Fig.6.」
(当審訳:3.提案されたシステム
図3は、基地局が空間ダイバーシチのためのアンテナを持ち、移動局が簡単で低消費電力のための単一のアンテナを持つ提案されたシステムの概念を示す。基地局と移動局の両方は、図3に示されているようにTDDによりマルチキャリヤ信号を交互に送信する。我々は、リバースリンクとフォワードリンクでのその構成を示す。

3.1 リバースリンク
リバースリンクでは、移動局はマルチキャリヤ信号を送信し、基地局は図4に示されるようにフェージングチャネルで統計的に独立するために位置が十分離れている複数のアンテナでそれを受信する。異なるスペクトルが複数のアンテナで観測される。例えば、アンテナ2では、キャリヤf1が非常に強くキャリヤf3は小さすぎるが、アンテナ1では、キャリヤf1は小さくキャリヤf3は中程度である。我々は、高いアンテナと周波数を組み合わせたダイバーシチ利得を得るためにこの事実を利用すべきである。従来のダイバーシチ方式は、それらの信号振幅を比較してアンテナの1つを選択するアンテナ選択ダイバーシチであり、上に示されたスペクトルの独立は利用していない。我々のシステム案は、各アンテナで強いキャリヤを選択する。例えば、f1とf2はアンテナ2に選択され、f3とf4はアンテナ1に選択される(図4(ii))。最終的に、それらの強いキャリヤが復調される。この方法は、アンテナとキャリヤ間の最良の組み合わせを選択する。

3.2 フォワードリンク
フォワードリンクでは、マルチアンテナを備えた基地局は、信号の送信前にTDD機能に基づいた評価を利用するため、リバースリンクで受信された信号からキャリヤとアンテナ間の最良の組み合わせを見つけることができる。基地局は、この組み合わせを用いて信号を送信する。例えば、図5(ii)に示されるように、f1とf2はアンテナ2に選択され、f3とf4はアンテナ1に選択される。適切なキャリヤが選択されて送信されるので、単一アンテナを持つ移動局は、基地局のマルチアンテナから減衰のほとんどない信号を受信する。このシステム案は、アンテナとキャリヤ間の最良の組み合わせを用いることで、周波数選択性フェージングチャネルに対する耐性を提供できる非常に有効な方法である。もし、前のアンテナ選択ダイバーシチのような従来のダイバーシチ方法を用いたら、送信された信号にはいくつかの減衰したキャリヤが含まれる。(図5(i))さらに、この方法によって、移動局のサイズと複雑さは最小化され、図6に示すように結合されていないシングルパス受信機のように簡単になる。)

したがって、刊行物1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「基地局が空間ダイバーシチのためのアンテナを持ち、移動局が簡単で低消費電力のための単一のアンテナを持つシステムであって、
基地局と移動局の両方は、TDDによりマルチキャリヤ信号を交互に送信し、
フォワードリンクでは、マルチアンテナを備えた基地局は、信号の送信前にTDD機能に基づいた評価を利用するため、リバースリンクで受信された信号からキャリヤとアンテナ間の最良の組み合わせを見つけ、基地局は、この組み合わせを用いて信号を送信するのであって、例えば、f1とf2はアンテナ2に選択され、f3とf4はアンテナ1に選択され、適切なキャリヤが選択されて送信されるので、単一アンテナを持つ移動局は、基地局のマルチアンテナから減衰のほとんどない信号を受信することができる、
空間ダイバーシチ・システム。」


4.本願補正発明と引用発明の基地局との一致点・相違点
引用発明の「キャリヤ」が、本願補正発明の「サブキャリア」に相当する。
引用発明の「マルチキャリヤ信号」と本願補正発明の「複数サブキャリアからなる直交周波数分割多重信号」とは、「複数サブキャリアからなる信号」である点で一致している。

引用発明の基地局は、空間ダイバーシチのためのアンテナを持ち、他の通信装置である移動局とTDDによりマルチキャリヤ信号を交互に送信している。空間ダイバーシチのためのアンテナが複数のアンテナ素子で構成されていることは、技術常識であるから、本願補正発明と引用発明の基地局とは、「他の通信装置に送信するための複数アンテナ素子」を備える点で一致している。

引用発明の基地局が、空間ダイバーシチのためのアンテナを用いて送信されるマルチキャリヤ信号を生成する処理装置を備えていることは明らかである。したがって、本願補正発明と引用発明の基地局とは、「該複数アンテナ素子を用いて送信される該複数サブキャリアからなる信号を生成する処理装置」を備える点で一致している。

引用発明では、リバースリンクで受信された信号からキャリヤとアンテナ間の最良の組み合わせを見つけ、フォワードリンクでは、送信局である基地局は、この組み合わせを用いて信号を送信する。この「リバースリンクで受信された信号から見つけられたキャリヤとアンテナ間の最良の組み合わせ」は、本願補正発明の「該他の通信装置との通信により得た情報」に相当する。また、引用発明の基地局は、送信時に、信号を送信するアンテナを選択しているから、該他の通信装置との通信により得た情報に基づいて、選択送信ダイバーシチ処理を行っている。

本願補正発明の処理装置では、該他の通信装置との通信により得た情報に基づいて、各アンテナ素子から送信される信号を調節しているから、該他の通信装置との通信により得た情報に基づいて、合成送信ダイバーシチ処理を行っている。

したがって、本願補正発明と引用発明の基地局とは、「前記処理装置は、生成する該複数サブキャリアからなる信号のサブキャリアを、該他の通信装置との通信により得た情報に基づいて、送信ダイバーシチ処理を行う」点で一致している。

本願補正発明と引用発明の基地局とは、「通信装置」である点で一致している。

よって、本願補正発明と引用発明の基地局との一致点・相違点は、次のとおりである。

[一致点]
「複数サブキャリアからなる信号を他の通信装置に送信するための複数アンテナ素子と、
該複数アンテナ素子を用いて送信される該複数サブキャリアからなる信号を生成する処理装置を備え、
前記処理装置は、生成する該複数サブキャリアからなる信号のサブキャリアを、該他の通信装置との通信により得た情報に基づいて、送信ダイバーシチ処理を行う、通信装置。」である点。

[相違点1]
「複数サブキャリアからなる信号」が、本願補正発明では「複数サブキャリアからなる直交周波数分割多重信号」であるのに対して、引用発明では、「直交周波数分割多重信号」に限定されていない点。

[相違点2]
他の通信装置との通信により得た情報に基づく送信ダイバーシチ処理が、本願補正発明では「生成する該直交周波数分割多重信号のサブキャリアシンボルを調節し、調節されたサブキャリアシンボルに対してIFFT処理を施すことによりビーム生成する」処理であるのに対して、引用発明では、リバースリンクで受信された信号からキャリヤとアンテナ間の最良の組み合わせを見つけ、基地局は、この組み合わせを用いて信号を送信する点。


5.相違点についての検討
[相違点1について]
マルチキャリヤ信号として、直交周波数分割多重信号は周知の信号であるから、引用発明のマルチキャリヤ信号を、「複数サブキャリアからなる直交周波数分割多重信号」とすることは、当業者が容易に想到できたことである。

[相違点2について]
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物2(特開平3-239019号公報)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。

(b)第3頁右上欄第4-16行
「本発明は、送受信兼用の複数のアンテナを有する基地局と、送受信兼用の1本のアンテナを有する移動局との間で、単一周波数の信号を所定の周期で交互に送受信し、基地局で受信ダイバーシチおよび送信ダイバーシチを行う一周波数交互通信方式において、基地局には、複数のアンテナで受信した各受信信号の位相およびレベルを検出し、各受信信号を同位相に合わせ、所定の重み付けをして合成する受信ダイバーシチ手段と、移動局に対する送信時に、前の受信期間の最後で用いた各アンテナ対応の移相角および重み付け量を保持させ、複数のアンテナから信号を同時送信する送信ダイバーシチ制御手段とを備えて構成する。」

(c)第4頁左上欄第13-20行
「ところで、選択ダイバーシチでは、複数の受信信号のうち最大の受信レベルのものを選択して受信する構成であったが、最大の受信レベルをもたなくても瞬時受信電力対雑音電力比(CNR)が大きい信号もあるので、すべての受信信号を合成すれば受信品質が劣化する確率を相対的に減少させることができ、ダイバーシチ効果を有効に引き出すことが可能となる。」

(d)第5頁左上欄第2-9行
「上述したように、本発明は、基地局と移動局との間で単一周波数の信号を用いて交互に通信を行う方式において、基地局で行う送受信ダイバーシチに等利得合成ダイバーシチまたは最大比合成ダイバーシチを用いることにより、フェージングによる通信品質の劣化も一層改善され、交互送受信ともにダイバーシチ効果を有効に引き出すことができる。」

したがって、刊行物2には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「選択ダイバーシチでは、複数の受信信号のうち最大の受信レベルのものを選択して受信する構成であるが、最大の受信レベルをもたなくても瞬時受信電力対雑音電力比(CNR)が大きい信号もあるので、すべての受信信号を合成すれば、受信品質が劣化する確率を相対的に減少させることができ、ダイバーシチ効果を有効に引き出すことが可能となるから、
送受信兼用の複数のアンテナを有する基地局と、送受信兼用の1本のアンテナを有する移動局との間で、単一周波数の信号を所定の周期で交互に送受信し、基地局で受信ダイバーシチおよび送信ダイバーシチを行う一周波数交互通信方式であって、
基地局には、複数のアンテナで受信した各受信信号の位相およびレベルを検出し、各受信信号を同位相に合わせ、所定の重み付けをして合成する受信ダイバーシチ手段と、移動局に対する送信時に、前の受信期間の最後で用いた各アンテナ対応の移相角および重み付け量を保持させ、複数のアンテナから信号を同時送信する送信ダイバーシチ制御手段とを備えて構成し、
基地局で行う送受信ダイバーシチに等利得合成ダイバーシチまたは最大比合成ダイバーシチを用いることにより、フェージングによる通信品質の劣化も一層改善され、交互送受信ともにダイバーシチ効果を有効に引き出すことができる、
基地局で受信ダイバーシチおよび送信ダイバーシチを行う一周波数交互通信方式。」

引用発明2は、送信ダイバーシチを行っており、「前の受信期間の最後で用いた各アンテナ対応の移相角」(本願補正発明の「該他の通信装置との通信により得た情報」に相当している。)に基づいて、送信時に各アンテナから送信する信号の移相を行っている。

引用発明2は、信号を所定の周期で交互に送受信しているから、引用発明と同じくTDDである。なお、ダイバーシチについては、高周波信号、中間周波数信号、ベースバンド信号の各周波数の信号に対して行うことが周知である。
引用発明は選択送信ダイバーシチであるが、引用発明2の第1段落に記載があるように、選択ダイバーシチよりも合成ダイバーシチの方がダイバーシチ効果を有効に引き出すことが可能であるから、引用発明において、キャリヤ毎に、ベースバンド信号に対して合成送信ダイバーシチを行うようにすることは、容易に想到できたことである。

そして、前記[相違点1について]で、マルチキャリヤ信号を「複数サブキャリアからなる直交周波数分割多重信号」とすれば、直交周波数分割多重信号の送信機において、ベースバンド信号にIFFT処理を施してから、アップコンバートして送信することは、必然の構成である。また、引用発明2のように「前の受信期間の最後で用いた各アンテナ対応の移相角」に基づいて、送信時に各アンテナから送信する信号の移相を行えば、移動局に向かうビームが形成されることは明らかである。

よって、引用発明において、他の通信装置との通信により得た情報に基づく送信ダイバーシチ処理を、「生成する該直交周波数分割多重信号のサブキャリアシンボルを調節し、調節されたサブキャリアシンボルに対してIFFT処理を施すことによりビーム生成する」処理とすることにより、相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到できたことである。

なお、審判請求書では、
「(引用文献2との関係)
引用文献2は、位相調整を時間領域でのRF処理により実現することを開示するものです。従って、引用文献2に記載の、位相調整を時間領域でのRF処理により実現する構成を引用文献1に記載の発明に適用した場合、引用文献1に記載の各キャリア(f1、f2、f3、f4)に対して移相器17および位相比較器23が必要となります。すなわち、移相器17および位相比較器23を4組設ける必要が生じるので、回路構成が複雑化し、回路規模が大幅に増大します。
このため、そのような回路構成の実現を当業者が試みようとしたか、すなわち、当業者が引用文献1に記載の発明と引用文献2の位相調整技術を組み合わせる動機付けがあったのか極めて疑問です。」
と説明している。

引用文献1(本審決の「刊行物1」)の「3.2 フォワードリンク」には、「このシステム案は、アンテナとキャリヤ間の最良の組み合わせを用いることで、周波数選択性フェージングチャネルに対する耐性を提供できる非常に有効な方法である。もし、前のアンテナ選択ダイバーシチのような従来のダイバーシチ方法を用いたら、送信された信号にはいくつかの減衰したキャリヤが含まれる。(図5(i))さらに、この方法によって、移動局のサイズと複雑さは最小化され、図6に示すように結合されていないシングルパス受信機のように簡単になる。」と記載されている。
この記載から理解されるように、引用文献1は、従来のダイバーシチ方法における送信された信号にいくつかの減衰したキャリヤが含まれるという欠点を除去し、移動局のサイズと複雑さを最小化することを目的としたものであって、基地局のサイズと複雑さを小さくすることを目的としたものではない。引用文献1は、周波数選択性フェージングチャネルに対する耐性を提供することを目的としたものであるから、引用発明の選択ダイバーシチを合成ダイバーシチに変更することは、引用文献1の目的に合致している。
仮に、引用文献1に記載の発明と引用文献2(本審決の「刊行物2」)の位相調整技術を組み合わせれば、回路構成が複雑化し、回路規模が増大するとしても、およそ発明とは、長所ばかりではなく、何らの欠点も備えており、それ故に改良をしていくものであることを考慮すれば、回路構成が複雑化し、回路規模が増大するから、想到するはずがないとはいえない。

そして、本願補正発明の作用効果も、引用発明及び引用発明2から当業者が予測できる範囲のものである。
したがって、本願補正発明は、引用発明及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


6.むすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3.本願発明について
平成26年3月28日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成25年5月13日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものである。

1.刊行物及び引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物、及び引用発明は、前記「第2.3.」に記載したとおりである。


2.対比・判断
本願発明は、前記「第2.」で検討した本願補正発明から補正事項a.?b.の構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2.5.」に記載したとおり、引用発明及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


3.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-03-05 
結審通知日 2015-03-10 
審決日 2015-03-23 
出願番号 特願2011-177446(P2011-177446)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H04W)
P 1 8・ 121- Z (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 敬介  
特許庁審判長 近藤 聡
特許庁審判官 ▲広▼島 明芳
江口 能弘
発明の名称 通信装置および通信方法  
代理人 亀谷 美明  

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