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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C10L
管理番号 1304270
審判番号 不服2013-13730  
総通号数 190 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-07-17 
確定日 2015-08-14 
事件の表示 特願2009-132569号「ガスハイドレートの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年10月15日出願公開、特開2009-235413号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成15年3月26日(優先日:平成14年3月28日、出願番号:特願2002-93032号)の出願である特願2003-84719号の一部を平成21年4月30日に新たな特許出願とした特願2009-111151号の一部をさらに平成21年6月1日に新たな特許出願としたものであって、平成24年4月24日付けの拒絶理由の通知に対して、同年7月6日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成25年4月11日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年7月17日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに同日付けで手続補正書が提出され、その後、特許法第164条第3項に基づく報告を引用した同年11月8日付けの審尋の通知をしたところ、平成26年1月14日付けで回答書が提出されたものであり、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成25年7月17日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1(平成24年7月6日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項5)に記載の事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
原料水が液体状態で存在する温度であるガスハイドレートの生成条件下の反応容器内において、原料水とガスハイドレート形成物質とを反応させてガスハイドレートを生成する第1工程と、
前記第1工程で生成されたガスハイドレートに対し水分が凍結する温度に下げて氷を含む状態にする第2工程と、
第2工程で得られた氷を含むガスハイドレートを大気圧にまで減圧して前記反応容器外に取り出す第3工程と、を有し、
前記第1工程は、前記原料水に、ガスハイドレートの分解抑制作用を持つ電解質が解離したイオンが存在する状態でガスハイドレートを生成することで前記イオンをガスハイドレートに含有させ、
前記イオンが、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)、炭素(C)、硫黄(S)、窒素(N)、酸素(O)、ホウ素(B)、リン(P)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)およびニッケル(Ni)よりなる群から選ばれる1種または2種以上の元素を構成要素として含む
ものであることを特徴とする、ガスハイドレートの製造方法。」

2.原査定の理由
平成24年4月24日付けの拒絶理由の「理由2」は、「2 刊行物1?13について
刊行物1?11には、請求項1?2に規定されるガスハイドレートの生成条件下で、本願請求項5?6に規定されるイオン又は金属を含有する物質などの本願請求項1?4に規定するガスハイドレートの分解抑制作用を持つ物質に相当する物質の存在下で、原料水とガスハイドレートの形成物質とを反応させてガスハイドレートを製造することが記載されている。
一方で、刊行物1、12及び13には、ガスハイドレートを水分が凍結する温度に冷却しガスハイドレートが氷を含む状態にすることが、刊行物12には、高圧の生成条件下にあるガスハイドレートを大気圧下に置いた場合、氷点以下の温度とすることでガスハイドレートの分解・解離を抑制し得ることが、それぞれ記載されている。
また、電解質、イオン又は金属を好適化することは、当業者が適宜なし得ることである。」というものであり、
平成25年4月11日付けの拒絶査定の「理由」の一つは、「(2) 刊行物1?12について
拒絶理由通知書で引用した刊行物1?11には、反応容器内で、本願請求項2?3に規定されるイオンを含有する原料水とガスハイドレートの形成物質とを反応させてガスハイドレートを製造することが記載されており、そして、このような方法で得られたガスハイドレートには、原料水に由来するイオンが含有されることになると認められる。
一方、刊行物12にもあるとおり、ガスハイドレートの常圧保存が可能であるとする自己保存効果が周知であり、そして、刊行物12には、ガスハイドレートを常圧に晒すと、表面から分解が始まり水が表面を覆い、分解により熱が奪われることで表面の水は氷の膜を作りガスハイドレートを覆い、氷の膜が適当な厚さになると内側のガスハイドレートへの熱流入が遮断され、常圧でも内部のガスハイドレートが安定すること、常圧下の氷点下温度、例えば-15℃でガスハイドレートが氷の中に分散した状態では、ガスハイドレートの分解・解離が抑制できることが記載されている。
そうすると、上記刊行物1?11に記載されている本願請求項2?3に規定されるイオンを含有するガスハイドレートについて、刊行物12の記載に基づいて、氷点以下に冷却し氷を含む状態にした後に常圧(大気圧)まで減圧し反応容器外に取り出すようにすることは、当業者が容易に想到することであり、また、氷点以下の温度範囲を好適化することや、ガスハイドレートに含まれるイオンを好適化することは、当業者が適宜なし得ることである。
そして、本願請求項1、2、5?7に係る発明の効果が、格別顕著であるとはいえない。
したがって、この出願の請求項1、2、5?7に係る発明は、拒絶理由通知書で引用した刊行物1?12に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、依然として先の拒絶理由2が解消していない。
・・(省略)・・」というものであることから、
原査定は、「平成25年7月6日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項5に係る発明(本願発明に相当するもの)は、刊行物2に記載された発明および刊行物12に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない」旨を理由の一つにするものである。

3.引用例に記載の事項
(3-1)原査定の拒絶理由において刊行物2として引用した特表2001-519470号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の記載および図示がある。
(a)「【請求項8】 ガス・ハイドレートを製造する方法であって:
ハイドレート形成ガスを反応器の下側部分に導入すること;
反応器に水を導入すること;
ハイドレート形成ガスと水とを互いに接触させ、ガス・ハイドレート粒子を形成すること;
少なくとも一部のハイドレート形成ガスと少なくとも一部のガス・ハイドレート粒子を含む流動または膨張反応床を形成し、流動または膨張反応床の少なくとも一部が反応器の下側部分の少なくとも一部に形成されるようにすること;ならびに
ガスハイドレート粒子の少なくとも一部を反応器から取り除くこと
を含む方法。」

(b)「【0014】
ガス・ハイドレートが反応容器から取り除かれた後、それらは所望の場所、例えば貯蔵所、トラック、船、鉄道車両、またはその他の輸送手段、あるいは直ちに脱気して使用する場所に移動させることができる。ガス・ハイドレートの粒子を反応容器から移動させる輸送手段は、いずれの適当な固体移動装置、例えばスクリュー・コンベアー、ベルト・コンベアー、輸送手段等であり得る。」

(c)「【0021】
本発明はハイドレート形成ガス及び水からガス・ハイドレートを製造する方法及び装置に関する。本発明の方法及び装置においては、適当なハイドレート形成ガスをいずれも使用することができ、例えば天然ガス、付随天然ガス、メタン、エタン、プロパン、ブタン、二酸化炭素、窒素及び硫化水素、ならびにそれらのガスの組み合わせを使用できるが、天然ガスは本発明で使用するのに特に適している。更に、本発明のプロセスにおいては、適当な水供給源をいずれも使用することができ、該供給源には真水、塩水、海水、プロセス用水等が含まれる。」

(d)「【0026】
本発明の1つの態様は、図2に模式的に示すガス連続装置10(gas continuous apparatus)である。流動または膨張床反応容器12には上側部分14および下側部分16が設けられている。流動または膨張床反応容器12は十分に断熱されて周囲環境からの熱伝達を減らし、反応容器12内の温度をコントロールするのに役立つ。テーパーの付いた(または先細になっている)部分18は上側部分14を下側部分16に連結している。上側部分14は下側部分16よりも大きな断面積を有し、図2に示すように、上側部分14の直径D_(1)は下側部分16の直径D_(2)よりも大きい。反応器12はいずれの適切な形状であってもよく、一般には、反応器12が一方が他方の上に重ねられた2つの円筒に見えるように、反応器の部分14および16は円形の断面を有していることが好ましい。当然のことながら、断面は、卵形、楕円形、正方形、矩形、不規則な形状、または本発明から逸脱しない他のいずれの断面形状でもあり得る。」

(e)「【0030】
水はウォーター・ライン20を介して反応器12に導入される。この水は、適当な水供給源S(例えば、湖、海、工業プロセス、または他の真水もしくは塩水源)から取り出し得る。必要な場合には、反応器12に存する高圧下でガス・ハイドレートを形成するのに適した温度にて水が反応器12に注入されるよう、水を冷却すべきである。図2に示す本発明の態様において、水は一般に反応器12の長手方向の軸に沿って、反応器12の上側部分14の上部に導入される。本発明から逸脱しない限りにおいて、水を導入する他の適当な配置を使用できる。例えば、水は、実質的にいずれの場所においても反応器12の側面を介して導入することができる。更に、水は複数の導入口(または導入ポート)を介して反応器12に導入することができる。
【0031】
ガス・ハイドレートを効率的に製造するために、水が反応器12に入る前または後に、あるいは水が反応器12に入るときに、水を細かく分割すべきである。これは、例えば、水をアトマイザーまたは他の種類のスプレー・ノズルを用いて反応器12に導入することによって実施され得る。また、所望の場合には、水が反応器12に入った後で、例えばスパージャー(sparger;もしくは噴霧器)または他の散水機(もしくは液分配板)を用いて水を分割することもできる。細かく分割された水の粒子は図2において小さな円で示されている(符号22を参照のこと)。好ましくは水滴の直径は5000μmよりも小さく、より好ましくは1000μmよりも小さい。
【0032】
注入された水は反応器12の長手方向に沿って下向きに移動する。それが反応器12を下向きに移動すると、それはハイドレート形成ガスと接触する。新しい補給ガスを適当な供給源Gから圧力下で反応器12の下側部分16にガス・ライン24を介して注入する。当業者は、本発明から逸脱しない限りにおいて、新しいガスを反応器に注入するために複数のガス導入口を取り付け得ることを当然に理解するであろう。例えば、本発明から逸脱しない限りにおいて、同じ又は異なる高さに位置する複数のガス注入口を使用することができる。更に、ガス注入口は、ガスを鉛直方向で上向きに注入するために、反応容器12の底部を貫通するように設けることができる。
【0033】
ガスが反応容器12内を上向きに流れて下向きの水の流れと接するように、ガスは圧力下で注入される。ガスおよび水が適当な温度および圧力条件下で接触すると、ガス・ハイドレート粒子26が形成される(図2において小さな菱形で図示する)。ガス・ハイドレートを製造するのに適した温度および圧力条件は十分に詳細に記されており、当業者において公知である。例えば、反応器12は700?2000psigの範囲の圧力および30°?56°Fの範囲の温度に維持することができる。図2に示す本発明の態様において、水およびガスは向流の配置構成にあるが、ガス/水の流れが並流である態様またはガス/水の流れの他の態様もまた本発明から逸脱しない限りにおいて可能である。」

(f)「【0040】
反応器12で製造されるガス・ハイドレート粒子は、適当な生成物取出し装置40を用いてそこから取り出される。この生成物取出し装置40は反応器12とは別個のものであり得、或いは反応器12と一体であり得、それはまた過剰の水、過剰のガス、ならびに/またはハイドレートの一部が再びガスとなることによって得られる水及びガスからハイドレート生成物を分離するように作用し得る。生成物取出しデバイス40は連続的又は周期的に作動し得る。生成物取出し装置40から、ハイドレート生成物はライン42を経由して出ていき、存在するガスはいずれもリサイクルまたはパージのためにライン44を経由して出ていき、過剰の水または塩水(もしくはブライン)はライン46を経由して出ていく。所望の場合には、水または塩水もまたリサイクルし得る。」

(g)「



(3-2)原査定の拒絶理由において刊行物12として引用した「日本造船学会誌、第842号(平成11年8月)P.38-46」(以下、「引用例2」という。)には、以下の記載がある。
(h)「2.2 ガスハイドレートの圧力-温度の相図
まず実用上最も重要で、良く研究されているメタンハイドレートについて説明する。1930年代からその後50年間以上にも渡り2元系の相平衡研究を行ってきた米国のKobayashiとKatzらは、今日でも利用されている著名なメタンハイドレートの相図を1959年に発表した(図3)。メタンハイドレートの結晶生成に関する圧力-温度条件は水/氷と比較すると、圧力変化に敏感である。水/氷の相境界は圧力によらず、ほとんど一定温度と言える。メタンハイドレート



は圧力依存性があるので、深海底ではかなり高い温度でも固体として安定しており、水深1万mでは1千気圧となり30℃以上耐えられる。
大量のメタンハイドレート輸送上の問題は、メタンハイドレートの保存温度と圧力である。北海道工業技術研究所の海老沼らによるとメタンハイドレートの生成圧力が大気圧となるのは、温度が約-80℃である。
・・中略・・
なお、固体メタンハイドレートと気体メタン/水の境界は、添加物によって相転移点の温度/圧力位置がシフトすることが知られている。図3に書き込まれた矢印(→)はシフトの方向を示している。二酸化炭素、エタン、プロパン、硫化水素を加えると同じ圧力下で相転移温度はより高温側にシフトする。逆に塩化ナトリウム、窒素ではより低温側に相転移温度をシフトする。」(39頁右欄14行?40頁左欄18行)

(i)「2.3 自己保存効果
加圧しながら輸送するのでは圧力容器が必要となり、それほど大量の輸送はできない。しかし常圧ならかなり極端な温度でも大量の物質輸送が可能である。LNGがその典型である。
ガスハイドレートの常圧保存が可能であるとする自己保存(Self-Preservation)は1991年9月に札幌で開催されたIPC-91シンポジウムにおいてロシアのYakushevとIstominにより英文で発表された(出版は1992)。
・・中略・・
自己保存効果の原理は次のとおりである。低温高圧で生成したメタンハイドレートを常圧に晒すと、表面から分解が始まりメタンは気体として去り、水が表面を覆う。分解により熱が奪われ表面の水は氷の膜を作り、メタンハイドレートを覆う。氷の膜が適当な厚さになると内側のメタンハイドレートへの熱流入が遮断され、常圧でも内部のメタンハイドレートは安定する(図4)。」(40頁左欄下から18行?同右欄3行)

(j)「


」(40頁右欄)

4.引用例に記載の発明
(4-1)引用例1に記載の発明
(ア)上記(c)の「本発明の方法および装置においては、適当なハイドレート形成ガスをいずれも使用することができ、例えば天然ガス、付随天然ガス、メタン、エタン、プロパン、ブタン、二酸化炭素、窒素および硫化水素、ならびにそれらのガスの組み合わせを使用できるが、天然ガスは本発明で使用するのに特に適している。」(【0021】)、同(e)の「水はウォーター・ライン20を介して反応器12に導入される。この水は、適当な水供給源S(例えば、湖、海、工業プロセス、または他の真水もしくは塩水源)から取り出し得る。」(【0030】)、同「ガスが反応容器12内を上向きに流れて下向きの水の流れと接するように、ガスは圧力下で注入される。ガスおよび水が適当な温度および圧力条件下で接触すると、ガス・ハイドレート粒子26が形成される(図2において小さな菱形で図示する)。ガス・ハイドレートを製造するのに適した温度および圧力条件は十分に詳細に記されており、当業者において公知である。例えば、反応器12は700?2000psigの範囲の圧力および30°?56°Fの範囲の温度に維持することができる。」(【0033】)および同(f)の「反応器12で製造されるガス・ハイドレート粒子は、適当な生成物取出し装置40を用いてそこから取り出される。この生成物取出し装置40は反応器12とは別個のものであり得、或いは反応器12と一体であり得、それはまた過剰の水、過剰のガス、ならびに/またはハイドレートの一部が再びガスとなることによって得られる水およびガスからハイドレート生成物を分離するように作用し得る。」(【0040】)との記載からして、引用例1には、「700?2000psigの範囲の圧力および30°?56°Fの範囲の温度である生成条件下の反応器内において、液体状態で供給される海水(ナトリウムイオンと塩素イオンが存在する塩化ナトリウム含有水)とハイドレート形成ガス(例えば、天然ガス、メタン)とを反応させてガス・ハイドレートを生成するA工程」、「ガスと海水を分離したガス・ハイドレートを生成物取出し装置外に取り出すB工程」および「海水に、電解質が解離したイオン(ナトリウムイオン、塩素イオン等)が存在する状態でガス・ハイドレートを生成することで、ガス・ハイドレートにイオンを含有させる」ことが記載されているということができる。

上記(a)ないし(j)の記載事項・図示内容および上記(ア)の検討事項より、引用例1には、
「700?2000psigの範囲の圧力および30°?56°Fの範囲の温度である生成条件下の反応器内において、液体状態で供給される海水(ナトリウムイオンと塩素イオンが存在する塩化ナトリウム含有水)とハイドレート形成ガス(例えば、天然ガス、メタン)とを反応させてガス・ハイドレートを生成するA工程と、ガスと海水を分離したガス・ハイドレートを生成物取出し装置外に取り出すB工程と、を有し、A工程は、海水に、電解質が解離したイオンが存在する状態でガス・ハイドレートを生成することでイオンをガス・ハイドレートに含有させ、イオンが、ナトリウムイオン、塩素イオン等である、ガス・ハイドレートの製造方法。」(以下、「引用例1記載の発明」という。)が記載されているものと認める。

(4-2)引用例2に記載の発明
(イ)上記(h)からして、引用例2には、「メタンハイドレートの生成における水/氷の相境界は圧力によらずほとんど0℃で一定である」ことが記載されているということができる。

(ウ)上記(i)(j)からして、引用例2には、「メタンハイドレートを常圧に晒したとき、表面を覆った水が氷の膜となってメタンハイドレートを覆うことで、内側のメタンハイドレートへの熱流入が遮断されて内部のメタンハイドレートを安定化させる」ことが記載されているということができる。

(エ)上記(h)の「固体メタンハイドレートと気体メタン/水の境界は、添加物によって相転移点の温度/圧力位置がシフトすることが知られている。図3に書き込まれた矢印(→)はシフトの方向を示している。・・・(中略)・・・逆に塩化ナトリウム、窒素ではより低温側に相転移温度をシフトする。」との記載および図3からして、引用例2には、「ナトリウムイオンと塩素イオンが存在する塩化ナトリウム含有水を用いる」ことが記載されているということができる。

上記(h)ないし(j)の記載事項・図示内容および(イ)ないし(エ)の検討事項より、引用例2には、
「メタンハイドレートの生成における水/氷の相境界は圧力によらずほとんど0℃で一定であり、メタンハイドレートを常圧に晒したとき、表面を覆った水(ナトリウムイオンと塩素イオンが存在する塩化ナトリウム含有水)が氷の膜となってメタンハイドレートを覆うことで、内側のメタンハイドレートへの熱流入が遮断されて内部のメタンハイドレートが安定化する、メタンハイドレートの製造方法。」(以下、「引用例2記載の発明」という。)が記載されているものと認める。

5.対比・判断
本願発明と引用例1記載の発明とを対比する。
○引用例1記載の発明の「反応容器」、「海水(ナトリウムイオンと塩素イオンが存在する塩化ナトリウム含有水)」、「ハイドレート形成ガス(例えば、天然ガス、メタン)」、「ガス・ハイドレート」は、本願発明の「反応容器」、「原料水」、「ガスハイドレート形成物質」、「ガスハイドレート」それぞれに相当する。

○引用例1記載の発明の「700?2000psigの範囲の圧力および30°?56°Fの範囲の温度である生成条件下の反応器内において、液体状態で供給される海水(ナトリウムイオンと塩素イオンが存在する塩化ナトリウム含有水)とハイドレート形成ガス(例えば、天然ガス、メタン)とを反応させてガス・ハイドレートを生成するA工程」は、本願発明の「原料水が液体状態で存在する温度であるガスハイドレートの生成条件下の反応容器内において、原料水とガスハイドレート形成物質とを反応させてガスハイドレートを生成する第1工程」に相当する。

○引用例1記載の発明の「A工程は、海水に、電解質が解離したイオンが存在する状態でガス・ハイドレートを生成することでイオンをガス・ハイドレートに含有させ、イオンが、ナトリウムイオン、塩素イオン等である」と、本願発明1の「第1工程は、原料水に、ガスハイドレートの分解抑制作用を持つ電解質が解離したイオンが存在する状態でガスハイドレートを生成することでイオンをガスハイドレートに含有させ、
イオンが、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)、炭素(C)、硫黄(S)、窒素(N)、酸素(O)、ホウ素(B)、リン(P)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)およびニッケル(Ni)よりなる群から選ばれる1種または2種以上の元素を構成要素として含む」とは、「第1工程は、原料水に、電解質が解離したイオンが存在する状態でガスハイドレートを生成することでイオンをガスハイドレートに含有させ、イオンが、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)、炭素(C)、硫黄(S)、窒素(N)、酸素(O)、ホウ素(B)、リン(P)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)およびニッケル(Ni)よりなる群から選ばれる1種または2種以上の元素を構成要素として含む」という点で一致する。

○引用例1記載の発明の「ガスと海水を分離したガス・ハイドレートを生成物取出し装置外に取り出すB工程」と、本願発明の「第1工程で生成されたガスハイドレートに対し水分が凍結する温度に下げて氷を含む状態にする第2工程と、第2工程で得られた氷を含むガスハイドレートを大気圧にまで減圧して反応容器外に取り出す第3工程」とは、「ガスハイドレートを反応容器外に取り出す工程」という点で一致する。

上記より、本願発明と引用例1記載の発明とは、
「原料水が液体状態で存在する温度であるガスハイドレートの生成条件下の反応容器内において、原料水とガスハイドレート形成物質とを反応させてガスハイドレートを生成する第1工程と、ガスハイドレートを前記反応容器外に取り出す工程と、を有し、前記第1工程は、前記原料水に、電解質が解離したイオンが存在する状態でガスハイドレートを生成することで前記イオンをガスハイドレートに含有させ、前記イオンが、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)、炭素(C)、硫黄(S)、窒素(N)、酸素(O)、ホウ素(B)、リン(P)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)およびニッケル(Ni)よりなる群から選ばれる1種または2種以上の元素を構成要素として含むものである、ガスハイドレートの製造方法。」という点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点1>
本願発明は、「第1工程で生成されたガスハイドレートに対し水分が凍結する温度に下げて氷を含む状態にする第2工程と、第2工程で得られた氷を含むガスハイドレートを大気圧にまで減圧して反応容器外に取り出す第3工程」を有するのに対して、引用例1記載の発明は、「ガスと海水を分離したガス・ハイドレートを減圧して生成物取出し装置外に取り出すB工程」を有する点。

<相違点2>
本願発明では、原料水に、「ガスハイドレートの分解抑制作用を持つ」電解質が解離したイオンが存在する状態でガスハイドレートを生成するのに対して、引用例1記載の発明では、海水に、電解質が解離したイオンが存在する状態でガス・ハイドレートを生成するものの、「ガス・ハイドレートの分解抑制作用を持つ」イオンであるか明らかでない点。

以下、上記両相違点について検討する。
<相違点1>について
引用例2記載の発明は、「4.(4-2)」で示したように、「メタンハイドレートの生成における水/氷の相境界は圧力によらずほとんど0℃で一定であり、メタンハイドレートを常圧に晒したとき、表面を覆った水(ナトリウムイオンと塩素イオンが存在する塩化ナトリウム含有水)が氷の膜となってメタンハイドレートを覆うことで、内側のメタンハイドレートへの熱流入が遮断されて内部のメタンハイドレートが安定化する、メタンハイドレートの製造方法。」であり、これは、
(α)ガスハイドレートが常圧(大気圧)に晒されたとき、ガスハイドレートの表面が水(ナトリウムイオンと塩素イオンが存在する塩化ナトリウム含有水)の氷で覆われることで安定化すること、更にいうと、ガスハイドレートの表面を覆う氷が維持されれば安定化も維持されること、
(β)ガスハイドレートの生成における水/氷の相境界は圧力によらずほとんど0℃で一定であること、を示すものである。
そして、
引用例1記載の発明は、「4.(4-1)」で示したように、「700?2000psigの範囲の圧力および30°?56°Fの範囲の温度である生成条件下の反応器内において、液体状態で供給される海水(ナトリウムイオンと塩素イオンが存在する塩化ナトリウム含有水)とハイドレート形成ガス(例えば、天然ガス、メタン)とを反応させてガス・ハイドレートを生成するA工程と、ガスと海水を分離したガス・ハイドレートを生成物取出し装置外に取り出すB工程」を構成にするものであり、これは、
(γ)液体状態で供給される海水(ナトリウムイオンと塩素イオンが存在する塩化ナトリウム含有水)とハイドレート形成ガス(例えば、天然ガス、メタン)とを反応させて生成した、生成圧力が「700?2000psig(47.6?136.1気圧)の範囲の圧力」であるガス・ハイドレートを生成物取出し装置外に取り出すこと、
(δ)同海水と同ガスとを反応させて生成した、生成温度が「30°?56°F(-1.1?13.3℃)の範囲の温度」であるガス・ハイドレートを生成物取出し装置外に取り出すこと、を示すものである。
また、
(ε)引用例1記載の発明と引用例2記載の発明とは、ナトリウムイオンと塩素イオンが存在する塩化ナトリウム含有水とハイドレート形成ガスとを反応させてガスハイドレートを生成するという点で一致する。
ここで、
(ζ)引用例1記載の発明の上記(γ)について、上記(ε)の点で引用例1記載の発明と一致する引用例2記載の発明の上記(α)からして、ガス・ハイドレートを700?2000psig(47.6?136.1気圧)の範囲の圧力から大気圧にまで減圧して生成物取出し装置外に取り出すとしたとき、大気圧に晒されることで、その表面が氷で覆われて安定化すること、更にいうと、ガス・ハイドレートの表面を覆う氷が維持されれば安定化も維持されること、および
(η)同(δ)について、同(β)からして、生成物取出し装置外に取り出されるガス・ハイドレートの温度を「-1.1?13.3℃の範囲」の内の0℃よりも低い温度の範囲にしたとき、圧力に関係なく氷が生成され、この氷を含むガス・ハイドレートになることは、当業者であれば十分に想起し得ることである。
そうすると、引用例1記載の発明の「ガスと海水を分離したガス・ハイドレートを生成物取出し装置外に取り出すB工程」について、上記(ζ)(η)からして、ガス・ハイドレートを安定化させるために、ガス・ハイドレートを700?2000psig(47.6?136.1気圧)の範囲の圧力から大気圧にまで減圧して生成物取出し装置外に取り出すことにより、その表面が氷で覆われたガス・ハイドレートとし、また、取り出されるガス・ハイドレートの温度を「-1.1?13.3℃の範囲」の内の0℃よりも低い温度の範囲にすることにより、圧力に関係なく生成された氷を含むガス・ハイドレートとする(この氷でもってガス・ハイドレートの表面を覆う氷を維持せしめようとする)こと、つまり、「第1工程で生成されたガスハイドレートに対し水分が凍結する温度に下げて氷を含む状態にする第2工程と、第2工程で得られた氷を含むガスハイドレートを大気圧にまで減圧して反応容器外に取り出す第3工程」とすることに格別の困難性があるとはいえない。
したがって、上記相違点1に係る本願発明の技術事項を構成することは、引用例1、2記載の発明に基いて当業者であれば容易になし得ることである。

<相違点2>について
引用例1記載の発明は、「4.(4-1)」で示したように、「A工程は、海水(ナトリウムイオンと塩素イオンが存在する塩化ナトリウム含有水)に、電解質が解離したイオン(ナトリウムイオン、塩素イオン等)が存在する状態でガス・ハイドレートを生成する」ことを構成にするものであり、引用例2記載の発明は、「4.(4-2)」で示したように、「メタンハイドレートを常圧に晒したとき、表面を覆った水(ナトリウムイオンと塩素イオンが存在する塩化ナトリウム含有水)が氷の膜となってメタンハイドレートを覆うことで、内側のメタンハイドレートへの熱流入が遮断されて内部のメタンハイドレートが安定化する」ことを構成にするものであり、一方、本願発明は、「原料水に、ガスハイドレートの分解抑制作用を持つ電解質が解離したイオン(ナトリウムイオン、塩素イオン等)が存在する状態でガスハイドレートを生成する」ことを発明特定事項にするものであり、これらは、「原料水に、電解質が解離したイオン(ナトリウムイオン、塩素イオン)が存在する状態でガスハイドレートを生成する」という点で一致していることからして、引用例1(2)記載の発明のイオン(ナトリウムイオン、塩素イオン)は、本願発明のイオン(ナトリウム(Na)イオン、塩素(Cl)イオン)と同じく「ガスハイドレートの分解抑制作用を持つ」イオンであるとみるのが妥当である。
したがって、相違点2は、実質的な相違点ではない。

そして、本願発明の「ガスハイドレートの保存性を高め、移送時、貯蔵時等におけるガスハイドレートの分解を抑制する(【0007】)」等の作用効果は、引用例1、2記載の発明より当業者であれば容易に予測し得るものである。

次に、審判請求人は、審判請求書において、
「刊行物12には、同じ圧力下で塩化ナトリウムを加えると相転移温度は低温側にシフトするとの記載があり、これは、ガスハイドレートが分解しやすくなることを示すものであり、ガスハイドレートを『大気圧、-20℃から0℃』のガスハイドレート分解条件下で貯蔵、移送する際の分解抑制という観点からすると、好ましくないものであり、本発明の特徴構成と逆行するものである。」旨の主張をしているので、これについて検討する。
上記「5.対比・判断」は、大気圧にまで減圧して取り出された「生成温度が-1.1?13.3℃の範囲である」ガス・ハイドレートの安定化について検討することを眼目にし、生成物取出し装置外に取り出されるガス・ハイドレートの温度を「-1.1?13.3℃の範囲」の内の0℃よりも低い温度の範囲にすることを結論にするものであるところ、請求人がいう「塩化ナトリウムを加えると相転移温度は低温側にシフトする」ことについて、上記(h)の図3をみたとき、大気圧下における相転移温度は、上記「-1.1?13.3℃」から大きく離れた低温度であり、また、この温度での取り扱い(移送等)は実際的ではないといえることから、上記請求人の主張は、実質的に、上記「5.対比・判断」の検討に何ら影響を与えるものではないので、当該主張を採用することはできない。

よって、本願発明は、引用例1、2記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
したがって、本願発明は、引用例1、2記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
それゆえ、本願は、特許請求の範囲の請求項2ないし7に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-06-15 
結審通知日 2015-06-17 
審決日 2015-06-30 
出願番号 特願2009-132569(P2009-132569)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C10L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安藤 達也  
特許庁審判長 山田 靖
特許庁審判官 豊永 茂弘
日比野 隆治
発明の名称 ガスハイドレートの製造方法  
代理人 石井 博樹  

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