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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08F
管理番号 1304296
審判番号 不服2013-18728  
総通号数 190 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-09-27 
確定日 2015-08-12 
事件の表示 特願2009-138514「低当量重量アイオノマー」拒絶査定不服審判事件〔平成21年10月 8日出願公開、特開2009-228009〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,国際出願日である平成14年11月19日に出願されたものとみなされる特願2003-551174号(パリ条約による優先権主張 2001年12月6日 アメリカ合衆国)の一部を新たな特許出願としたものであって,平成24年8月24日付けで拒絶理由が通知され,平成25年2月28日に意見書及び手続補正書が提出されたが,同年5月20日付けで拒絶査定がなされ,それに対して,同年9月27日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され,前置審査において同年11月5日付けで拒絶理由が通知され,平成26年5月12日に意見書が提出され,同年6月19日付けで前置報告がなされ,当審において同年8月5日付けで拒絶理由が通知され,平成27年2月12日に意見書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?9に係る発明は,平成25年9月27日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲並びに明細書及び図面(以下,「本願明細書等」という。)の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明1」という。)は,以下のとおりのものである。

「付加されたペンダント基を有するフッ素化された主鎖を含んでなるフッ素化アイオノマーであって,該ペンダント基が下式によって表わされ,
【化1】

(ここでXはF,ClまたはBrもしくはそれらの混合物であり,nは1または2に等しい整数であり,R_(f)およびR_(f’)は独立にF,Cl,パーフルオロアルキル基,およびクロロパーフルオロアルキル基からなる群から選ばれ,Yは酸基または容易に酸基に変換される酸誘導体であり,aは0または0より大きい整数であり,そしてbは0より大きい整数である。)
該アイオノマーが810と860との間の当量重量および32%と42%との間の室温での水和度を有するフッ素化アイオノマー。」

第3 当審における拒絶理由の概要
平成26年8月5日付けで通知した拒絶理由の概要は,「本願発明1?9は、引用文献1(国際公開第2000/52060号)に記載された発明,もしくは引用文献1及び引用文献2(特表平11-501964号公報)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。」である。

第4 当審の判断
1.刊行物
国際公開第2000/52060号(当審における拒絶理由通知書における引用文献1に同じ。以下、当審決でも「引用文献1」という。)

2.引用文献1の記載事項
引用文献1には,以下の記載がある。
なお,以下の引用文献1の記載の翻訳文は,その対応する公表公報である特表2002-538235号公報の記載に基づくものであり,当該公表公報の記載箇所を併記し,また,下線は当審で付した。
ア 「本発明の技術的背景
官能化ポリマーは所望のポリマーの特性を発生させるために様々な技術分野において有用である。いくつかの用途においては生成物の最大の性能を発揮させるためにコモノマーの均一な分散が求められる(・・・)。他の用途は以下の議論に示されるとおり単一の物質からでは得ることが困難な特性の組み合わせが最も適するものと考えられている。例えばイオン伝導性(ionically conductive)固体ポリマー電解質膜は好適な溶媒との良好な親和性及び高い伝導性を示すと同時に良好な機械的一体性(integrity)を示さなければならない。本発明の方法により製造されたポリマーは電気化学装置,例えば電池,燃料電池,及び電気化学膜反応器,例えば膜クロ-アルカリ法(chlor-alkali process)として使用されることが企図されている。これらの応用において,溶媒により膨潤したイオン交換膜分離器は電極を分離し,そして減圧下での幅広い操作温度にわたっての短絡,破壊(puncturing),又は過剰なクリープを防止するために十分な機械的結着性を有する自立(free standing)フィルムとして機能することができることが望ましい。好適な電気化学的特性を有するポリマーはしばしば機械的特性に欠けることがある。
電気化学的に好適なポリマーの機械的特性を改善するために,不活性充填剤との混合物又時としては架橋されているような構造用ポリマー,そして固定された多孔性の支持膜等が使用される。このようなアプローチはしばしば新たな問題を発生させ,そして十分に満足できるものは見いだされていない。一方十分な機械的靭性及び強度を有する多くのポリマーには必要な電気化学的特性が欠落する。」(1頁15?39行,公表公報段落【0002】?【0003】)

イ 「当該技術分野において水の吸収量及びイオン伝導性は共にデユポン社から市販されているTFE及びPSEPVEの加水分解コポリマーであるナフィオン(Nafion^(TM))過弗化イオノマー(perfluorinated ionomer)の当量を減少させることにより増加することが知られている。」(2頁13?15行,公表公報段落【0005】)

ウ 「実際にイオン伝導性は,減少する当量の関数として最大を示す。なぜなら過剰量の溶媒の吸収はイオン伝導性を妨げるからである。溶媒の吸収が少ない低EWのポリマーは電気化学的応用のための所望の特性の組み合わせを達成するためのアプローチとして非常に望ましい。」(2頁16?20行,公表公報段落【0006】)

エ 「膨潤と伝導性の測定は以下の通り行った。1.0×1.5cmの大きさの様々なEWの膜の試料をまず120℃の温度で48時間真空下に乾燥した。これらを次に脱イオン水の入ったガラス瓶に入れ、浸漬し、2時間膨潤させた。膨潤した膜の最終の重量と厚さを測定した。次に膜試料を4点プローブ伝導性セルに組み入れそしてイオン伝導性を測定した。イオン伝導性を酸-形成膜のEWの関数として下記表1に示す。この表には様々な膜の水の吸収量(重量%)も示している。これらのTFE/PSEPVEコポリマー膜はEWが980グラム/当量で最大の伝導性を示す。最大の伝導性は下記の近似関係
密度(g/cm^(3))=2.0-(水の吸収重量%)/100
から、密度が水膨潤膜に対して計算される膜密度を当量で割ることにより見いだされた、膜中の有効イオン濃度の最大とも一致する。

」(12頁1?17行,公表公報段落【0050】?【0051】)

3.引用文献1に記載された発明
摘示イの記載からみて,引用文献1には,
「TFE及びPSEPVEの加水分解コポリマーであるナフィオン(Nafion^(TM))過弗化イオノマー(perfluorinated ionomer)」に係る発明(以下,「引用発明」という。)が記載されている。

4.対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
引用発明のナフィオン(Nafion^(TM))過弗化イオノマー(perfluorinated ionomer)(以下,単に「ナフィオン」という。)は,TFEとPSEPVEの加水分解コポリマーであるから,PSEPVE(即ち,CF_(2)=CF-O-CF_(2)-CF(CF_(3))-O-CF_(2)-CF_(2)-SO_(2)F)に起因するペンダント基を有し,その構造は,本願発明1の【化1】で表される構造式において,XがF,nが1,R_(f)がF,YがSO_(2)F(酸基または容易に酸基に変換される酸誘導体),aが0,bが1のものに相当し,そして,ナフィオンがフッ素化アイオノマーであることは明らかであるから,本願発明1と引用発明とは,
「付加されたペンダント基を有するフッ素化された主鎖を含んでなるフッ素化アイオノマーであって,該ペンダント基が下式によって表わされるフッ素化アイオノマー。
【化1】

(ここでXはF,ClまたはBrもしくはそれらの混合物であり,nは1または2に等しい整数であり,R_(f)およびR_(f’)は独立にF,Cl,パーフルオロアルキル基,およびクロロパーフルオロアルキル基からなる群から選ばれ,Yは酸基または容易に酸基に変換される酸誘導体であり,aは0または0より大きい整数であり,そしてbは0より大きい整数である。)」
の点で一致し,以下の相違点1において相違している。

<相違点1>
本願発明1では,フッ素化アイオノマーの「当量重量」を「810と860の間」と,また,「室温での水和度」を「32%と42%との間」とそれぞれ特定しているのに対し,引用発明ではそのような特定はなされていない点。

5.相違点1に対する判断
引用文献1の摘示アには,官能化ポリマーである燃料電池等に使用されるイオン伝導性固体ポリマー電解質膜は,好適な溶媒との良好な親和性及び高い伝導性を示すと同時に良好な機械的一体性を示さなければならないが,好適な電気化学的特性を有するポリマーはしばしば機械的特性に欠けることがあり,一方十分な機械的靭性及び強度を有する多くのポリマーには必要な電気化学的特性が欠落する旨記載されている。すなわち、官能化ポリマーにおいて,好適な電気化学的特性と機械的特性を両立するという課題が存在していたといえる。
また,官能化ポリマーであるナフィオンについて,摘示イには,その当量(当量重量)を減少させることにより,水の吸収量(水和度に相当)及びイオン伝導性が増加することは当該技術分野において知られている旨の記載があり,さらに,摘示ウには,イオン伝導性は当量が減少すれば大きくなるが,過剰量の溶媒の吸収はイオン伝導性を妨げることから,溶媒の吸収が少ない低EW(当量重量)のポリマーは電気化学的応用のための所望の特性の組み合わせを達成するためのアプローチとして非常に望ましい旨の記載がある。
これらの記載からすると,ナフィオンはアイオノマーであるから,アイオノマーのイオン伝導性等を利用する電気化学的応用に際し,機械的特性も考慮し,水等の溶媒の吸収が少ない低当量重量のアイオノマーを得るという課題及びアプローチは,当業界において認識されていたものといえる。
してみると,かかる課題及びアプローチに基づき,水等の溶媒の吸収が少ない低い当量重量のアイオノマーを,希望する電気化学的特性及び機械的特性に応じて,当量重量と室温での水和度で表現することは,当業者であれば,容易になし得ることといえる。
ここで,本願発明1の効果について検討すると,本願発明1の実施例における室温伝導度の平均値は0.167(S/cm)である(本願明細書等,表2の実施例5)が,本願の優先日当時において,かかる値よりも高い値のプロトン伝導度は達成されている(例えば,国際公開第2000/24796号(25頁12?16行、40頁6行?41頁11行)参照)のであるから,本願発明1の室温伝導度が格別に優れたものとはいえない。そして,上述のとおり,過剰量の水の吸収はイオン伝導性を妨げ,水の吸収が少ない低当量重量のポリマーは電気化学的応用のための所望の特性の組み合わせを達成するためのアプローチとして非常に望ましいのであるから,例えば引用文献1の摘示エに記載の膜である834の当量(グラム/当量)のものは,水の吸収(重量%)が53.1,イオン伝導性(S/cm)(23℃,膨潤時)が0.1152であるところ,この膜において,水の吸収(重量%)を53.1よりも低減させればイオン伝導度が向上することであろうことは予期できるといえる。してみると,相違点1にかかる数値の特定によって,格別予期し難い優れた効果があるとすることはできない。
したがって,本願発明1は,引用発明1に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.まとめ
本願発明1は,引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおりであるから,本願の請求項1に係る発明についての平成26年8月5日付け拒絶理由通知書に記載した理由は妥当なものである。
したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-03-16 
結審通知日 2015-03-17 
審決日 2015-03-31 
出願番号 特願2009-138514(P2009-138514)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C08F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 阪野 誠司車谷 治樹  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 須藤 康洋
田口 昌浩
発明の名称 低当量重量アイオノマー  
代理人 胡田 尚則  
代理人 石田 敬  
代理人 出野 知  
代理人 古賀 哲次  
代理人 青木 篤  
代理人 高橋 正俊  
代理人 蛯谷 厚志  

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