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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E03F
管理番号 1304318
審判番号 不服2014-24638  
総通号数 190 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-02 
確定日 2015-08-12 
事件の表示 特願2011-233005「下水管洗浄装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 5月16日出願公開、特開2013- 91920〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成23年10月24日の出願であって、平成26年8月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月2日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに、これと同時に手続補正がなされ、この補正は、特許請求の範囲の一部の請求項を削除するとともに明細書の一部を補正するものであって、特許請求の範囲の請求項1を補正するものではない。

2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、平成26年12月2日に補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明は次のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。
「下水管の内壁を洗浄する下水管洗浄装置であって、
回転可能のボデーと、上記ボデーの周面に螺旋状に立設される複数の曲管と、上記ボデーを支持するための脚部とからなり、
上記曲管は先端部が45°に傾斜されてなり、
上記ボデーは中空の筒状に形成され一端部に圧水が注入されるホースが接続され、
上記圧水が上記曲管のノズルから噴出され、この噴出の力により上記ボデーが圧水の噴出方向とは反対方向に回転することを特徴とする下水管洗浄装置。」

3 刊行物の記載
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2009-209671号公報(以下「刊行物1」という。)には、以下の記載がある(下線は、当審にて付した。以下同じ。)。

ア 「【請求項1】
下水管の内壁を洗浄する下水管洗浄装置であって、
回転可能のボデーと、前記ボデーの周面に設けられる複数のノズルと、前記ボデーを支持するための脚部とからなり、
前記ボデーは中空の筒状に形成され一端部にホースが接続され、
前記ノズルは前記ボデーの周面に螺旋状に設けられることを特徴とする下水管洗浄装置。」

イ 「【背景技術】
【0002】
下水管は、使用期間の経過に伴い土砂等の堆積やラード等の付着が起こるため、適宜に保守作業をする必要があり、これを怠ると下水が流れにくくなり悪臭等の原因となる。この保守作業としてはまず内壁の洗浄があり、内壁に損傷がある場合にはライニングを施す必要がある。また、ライニングを施す場合には事前に内壁を洗浄する必要がある。
【0003】
従来の下水管の洗浄方法は、人手によるものや、高圧洗浄車、吸引車等によるものが主流であるが、なかには洗浄装置を下水管内に挿通するものもあった。
【0004】
この洗浄装置は、ノズルの回転軸を洗浄対象となる管の長軸に一致させ、噴射の方向を洗浄対象となる管の長さ方向に略一致させるものであり、ノズル回転の動力としてモータを利用するものであった。
【0005】
しかし、噴射の方向を洗浄対象となる管の長さ方向に略一致させるため、水流が内壁に対して略並行にぶつかるので、水流が内壁に対して直角にぶつかるのに比しムダが多くなり、効率的であるとはいえなかった。また、ノズル回転の動力としてモータを利用するためエネルギー的にも効率的であるとはいえなかった。
……
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明は前記従来の欠点を解消し、下水管の内壁を効率的に洗浄する装置を供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的達成のため、本願発明による下水管洗浄装置は、下水管の内壁を洗浄する下水管洗浄装置であって、回転可能のボデーと、前記ボデーの周面に設けられる複数のノズルと、前記ボデーを支持するための脚部とからなり、前記ボデーは中空の筒状に形成され一端部にホースが接続され、前記ノズルは前記ボデーの周面に螺旋状に設けられることを特徴とする。……」

ウ 「【発明の効果】
【0008】
このように、本願発明にかかる下水管洗浄装置によれば、各ノズルが螺旋状に設置されているため、ノズルからの洗浄水噴射に位相差が生じ、これによりボデーが回転する。よって洗浄水が下水管23の内壁全面に常に略直角に噴射され、洗浄が効率的に行われる。」

エ 「【0010】
本願発明による下水管洗浄装置1は、中空の正八角柱体に形成されたアルミニウム製のボデー3を有し、該ボデー3の8個の各周面にはパイプ6の先端に口の窄まったソケットを取付けたノズル5a乃至5h(総称するとき「ノズル5」という)がそれぞれ1本ずつ設けられる。前記ボデー3は、両端部にねじ蓋9a,9bが着脱自在に螺着され、該ねじ蓋9aの中央部には前記ボデー3内に設けられた散水分配機4に連通する孔11が設けられており、該孔11に回転可能にホース13が接続される。該散水分配機4は上記ノズル5に連通する。
【0011】
前記ねじ蓋9a,9bと前記ボデー3の連結部には溝10,10が設けられ、該溝10,10がステンレス製のブラケット15及びブラケット17によって軸支される。これにより、前記ボデー3はこれらのブラケット15、17間において回転可能となる。
【0012】
前記ボデー3に設けられる8個のノズル5a乃至5hは、ボデー3の回転方向に等間隔(本実施例ではノズルが8個なので角度45°刻み)で設けられ、それぞれ横方向(八角柱としてみたときの高さ方向)には等間隔であるため、螺旋状になっている。前記各ノズル5は前記ボデー3に連通され、前記ボデー3内に流入された洗浄水が各ノズル5より噴出するようになっている。
……
【0014】
次に、正円形の下水管23を例に、本願発明による下水管洗浄装置1の設置及び洗浄方法について説明する。まず、ボデー3の回転軸と下水管23の中心軸とが一致するように、つまりボデー3の回転軸からそり21,21までの距離が下水管23の半径と等しくなるように、脚部7,7及び脚部8,8の長さをターンバックル19,19によって調節する。
【0015】
次に、ホース13をボデー3の一端部に装着し他端部を塞いだ下水管洗浄装置1を図示しないマンホールより下水管23内に挿入し、脚部7,7及び脚部8,8を内壁面23aに当接させ、さらにそり21を内壁面23aの傾斜に合わせて角度調節する。
【0016】
次に、ホース13からボデー3内に洗浄水を注入すると、水圧により洗浄水は各ノズル5より噴出する。この際、各ノズル5が螺旋状に設置されているため、ノズル5からの水圧のかかった洗浄水の噴射に位相差が生じ、これによりボデー3が回転する。これによって、洗浄水が下水管23の内壁全面に直角に噴射されるため、洗浄が効率的に行われる。……」

オ 上記アないしウ(特にア及びウ)によれば、刊行物1には、次の発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「下水管の内壁を洗浄する下水管洗浄装置であって、
回転可能のボデーと、前記ボデーの周面に設けられる複数のノズルと、前記ボデーを支持するための脚部とからなり、
前記ボデーは中空の筒状に形成され一端部にホースが接続され、
前記ノズルは前記ボデーの周面に螺旋状に設けられ、
ホースからボデー内に洗浄水を注入すると、水圧により洗浄水は各ノズルより噴出し、この際、各ノズルが螺旋状に設置されているため、ノズルからの水圧のかかった洗浄水の噴射に位相差が生じ、これによりボデーが回転する下水管洗浄装置。」

(2)原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開昭49-124864号公報(以下「刊行物2」という。)には、以下の記載がある。

ア 「複数の噴射ノズルを配設したノズルヘツダパイプを回転自在に枢支し、前記ノズルヘツダパイプに高圧洗浄水を案内導入し、前記噴射ノズルからの高圧洗浄水の噴射反力により前記ノズルヘツダパイプを自力回転させるよう構成することを特徴とする高圧水噴射洗浄装置。」(特許請求の範囲)

イ 「この発明は、高圧水をノズルより噴射してタンク等の内面を洗浄する洗浄装置に関するものである。」(1頁左下欄12?14行)

ウ 「このように構成配置したノズルヘツダパイプ12には、噴射口がパイプ12の中心軸から適当距離l離間するよう位置し、しかも噴射方向がパイプ12の中心軸と直角となるように噴射ノズル20を配設する(第2図および第3図参照)。
このように構成される噴射ノズル20をパイプ12の軸方向に適当間隔離間させて複数個配置すると共に隣接する噴射ノズル20’の噴射方向が相互に逆方向となるように設定し、高圧洗浄水の噴射による反力によりノズルヘツダパイプ12を回転させてタンク10の内壁面の洗浄を達成することができる。」(1頁左上欄18行?同頁右上欄10行)

エ 「なお、噴射ノズル20は全て第2図に示す型式を使用する場合、高圧洗浄水の噴射による反力の回転トルクが過大となり、回転速度は増大するが……」(2頁左下欄9?11行)

オ 上記ウ、エの記載を踏まえて、第2図をみると、曲管からなる噴射ノズル20がノズルヘツダパイプ12に配設される点がみてとれる。

カ 上記アないしオによれば、刊行物2には、次の事項が記載されているものと認められる。
「高圧水をノズルより噴射してタンク等の内面を洗浄する洗浄装置において、複数の曲管からなる噴射ノズルを配設したノズルヘツダパイプを回転自在に枢支し、前記ノズルヘツダパイプに高圧洗浄水を案内導入し、前記噴射ノズルからの高圧洗浄水の噴射反力により前記ノズルヘツダパイプを自力回転させること。」

4 対比
本願発明と刊行物1発明とを対比する。

(1)刊行物1発明の「下水管洗浄装置」、「ボデー」及び「脚部」は、本願発明の「下水管洗浄装置」、「ボデー」及び「脚部」に、それぞれ相当する。

(2)刊行物1発明の「ホース」は、「ホースからボデー内に洗浄水を注入すると、水圧により洗浄水」が「各ノズルより噴出」するから、本願発明の「圧水が注入される」「ホース」に相当する。

(3)刊行物1発明の「前記ボデーの周面に螺旋状に設けられ」る「複数のノズル」と本願発明の「上記ボデーの周面に螺旋状に立設される複数の曲管」とは、「ボデーの周面に螺旋状に立設される複数の管部材」の点で共通する。

(4)以上によれば、両者は以下の点で一致する。
<一致点>
「下水管の内壁を洗浄する下水管洗浄装置であって、
回転可能のボデーと、上記ボデーの周面に螺旋状に立設される複数の管部材と、上記ボデーを支持するための脚部とからなり、
上記ボデーは中空の筒状に形成され一端部に圧水が注入されるホースが接続される下水管洗浄装置。」

(5)他方、両者は以下の点で相違する。
<相違点>
管部材の構造及びボデーに回転力を付与する手段に関し、本願発明では、管部材は先端部が45°に傾斜されてなる曲管であって、圧水が曲管のノズルから噴出され、この噴出の力によりボデーが圧水の噴出方向とは反対方向に回転するのに対し、刊行物1発明では、管部材であるノズルは曲管ではなく、螺旋状に設置されたノズルからの洗浄水の噴射に位相差が生じることによりボデーが回転する点。

6 判断
(1)相違点について
ア 曲管の先端部の傾斜角度に関し、本願の出願当初の明細書には、「上記曲管ノズル5は、「エルボ管」と称され、先端部が例えば45°に傾斜されてなる。」(段落【0012】)と記載されるにとどまり、本願発明において、曲管の先端部の傾斜角度を特定したことに設計上好ましい値に限定した以上の意義は認められない。
イ 他方、上記3(2)で認定したとおり、刊行物2には、
「高圧水をノズルより噴射してタンク等の内面を洗浄する洗浄装置において、複数の曲管からなる噴射ノズルを配設したノズルヘツダパイプを回転自在に枢支し、前記ノズルヘツダパイプに高圧洗浄水を案内導入し、前記噴射ノズルからの高圧洗浄水の噴射反力により前記ノズルヘツダパイプを自力回転させること。」(以下「刊行物2記載事項」という。)が記載されており、
刊行物2記載事項の「ノズルヘツダパイプ」及び「曲管からなる噴射ノズル」は、本願発明の「ボデー」及び「曲管」に、それぞれ相当し、
刊行物2記載事項の「噴射ノズルからの高圧洗浄水の噴射反力により前記ノズルヘツダパイプを自力回転させる」は、本願発明の「上記圧水が上記曲管のノズルから噴出され、この噴出の力により上記ボデーが圧水の噴出方向とは反対方向に回転する」に相当する。
そして、刊行物2記載事項の洗浄装置において、曲管からなる噴射ノズルの先端部の傾斜角度に応じてノズルヘツダパイプの回転トルクが増減することは当業者にとって自明な事項であるから、刊行物2記載事項において、必要な噴射反力を考慮して曲管からなる噴射ノズルの先端部の傾斜を設定することは、当業者が適宜決なし得る設計的事項にすぎない。
ウ してみると、刊行物1発明と刊行物2記載事項は、共に高圧水による洗浄装置の技術分野に属するものであり、ボデーへの回転力の付与にノズルからの圧水の噴出を利用する点でも共通するから、刊行物1発明において、ノズルの構造及びボデーに回転力を付与する手段として、刊行物2記載事項を適用して、ノズルの構造として曲管を採用し、ノズルからの高圧洗浄水の噴射反力によりボデーを自力回転させること、及びノズルの構造として曲管を採用するにあたって、その先端部の傾斜を45°に設定すること、すなわち相違点に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易になし得たことである。

(2)本願発明の効果について
本願発明によってもたらされる効果を全体としてみても、刊行物1発明及び刊行物2記載事項から当業者が当然に予測できる程度のものであって、格別顕著なものとはいえない。

(3)審判請求書の主張について
ア 請求人は、審判請求書(4頁15?16行、5頁20?24行)において、
(ア)刊行物1にも刊行物2にも洗浄水を噴出せしめる管の「先端部の角度」が「45°」の場合については記載がなく、その示唆もない旨、
(イ)洗浄水を噴出せしめる管の「先端部の角度」を「45°」に傾斜することにより、洗浄水がスケールに切り込み、ボデーの回転と協働し、スケールをえぐり取るという効果は、刊行物1にも刊行物2にも記載がなく、かつその示唆もないので、刊行物1及び刊行物2からは予測し得ない効果である旨、
を主張する。
イ しかし、上記(1)における検討に加え、
(ア)本願の出願当初の明細書には、「そして連続的に噴出される圧水は、ボデーの回転中、洗浄水として下水管の内壁全面に常に略直角に噴射されるから、洗浄が効率的に行われる。」(段落【0009】)と記載され、洗浄を効率的に行うための下水管の内壁面と噴射される圧水との角度に関し、略直角が望ましいことが開示されるにとどまること、
(イ)下水管の内壁面とノズルから噴出される圧水との角度は、曲管の先端部の傾斜角度のみでは定まらず、ボデーの回転中心からノズルまでの距離及び曲管の先端部の傾斜角度の双方の値により定まるものであるから、本願発明の「上記曲管は先端部が45°に傾斜されてなり」との事項は、下水管の内壁面とノズルから噴出される圧水との角度を特定するものではないこと、
を踏まえると、請求人の主張は、いずれも採用できない。

7 むすび
以上の検討によれば、本願発明(本願の請求項1に係る発明)は、当業者が刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された事項に基いて、容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、請求項2及び3に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-06-02 
結審通知日 2015-06-09 
審決日 2015-06-22 
出願番号 特願2011-233005(P2011-233005)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E03F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼橋 祐介  
特許庁審判長 赤木 啓二
特許庁審判官 小野 忠悦
中田 誠
発明の名称 下水管洗浄装置  
代理人 浅野 勝美  

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