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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B65D
管理番号 1304347
審判番号 不服2014-6099  
総通号数 190 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-04-03 
確定日 2015-08-13 
事件の表示 特願2012-135380「プラスチックボトル」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 9月 6日出願公開、特開2012-166858〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本件出願は、平成19年9月27日に出願した特願2007-250333号の一部を平成24年6月15日に新たな特許出願としたものであって、平成25年12月26日付けで拒絶をすべき旨の査定がされた。
これに対し、平成26年4月3日に本件審判の請求がなされ、当審において同年8月29日付けで拒絶理由が通知され、同年10月22日に手続補正され、同年11月27日付けで拒絶理由が通知され、平成27年1月23日に手続補正されたものである。

第2.本願発明について
1.本願発明
本件出願の請求項1、2に係る発明は、平成27年1月23日に補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「口栓部、サポートリング、肩部、胴部及び底部を備え、更に、上記の胴部は、4つの平坦壁部と平坦壁部をつなぐコーナー部からなり、且つ平坦壁部及びコーナー部を横切る環状の周溝を備え、そして、上記の周溝によって平坦壁部が、上平坦壁部と下平坦壁部に分割されているプラスチックボトルにおいて、
上記のプラスチックボトルの樹脂重量は、0.036g/ml?0.048g/mlであること
更に、縦方向溝が、上記のコーナー部のうち周溝に近い領域のみに刻設されて、緩衝ばねの働きをし、垂直方向の荷重に対し耐荷重性を有すること
そして、上記の縦方向溝の溝の深さと周溝の溝の深さとの比が、1?1.5であること
を特徴とするプラスチックボトル。」

2.引用刊行物とその記載事項
当審による平成26年11月27日付け拒絶理由にて引用され、本件出願の遡及出願日前に頒布された刊行物である登録実用新案第3050587号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。
「【0025】
図1には、容器の正面図が示されており、この容器10は、たとえばポリエチレンテレフタレート(PET)を用いて、二軸延伸ブロー成形により、上端側の開口部を含むネック部12と、このネック部12から下方に連なるショルダー部14と、下端側の底部16と、この底部16から上方に連なるヒール部18と、このヒール部18とショルダー部14との間に形成された胴部20とが一体に成形された小容量(例えば350ml)のものとなっている。」
(イ)
「【0026】
胴部20は、同じ幅の4つの壁部22を有する横断面略正方形状に形成されている。この胴部20には、壁部22同士の交差部4箇所にそれぞれ壁部22よりも幅狭の面取り部24が高さ方向にわたって形成され、交差部の補強をなすようになっている。」
(ウ)
「【0027】
また、胴部20の高さ方向(縦方向)略中央位置に、内方に窪む補強周溝26が形成されるようになっている。この補強周溝26は、壁部22および面取り部24にわたり周方向に連続して設けられるようになっており、この補強周溝26を境に、胴部20が上下に区分けされるようになっている。このように、補強周溝26が、胴部20上下方向における途中位置に形成されることにより、胴部20の上下方向途中位置で胴部20の側圧に対する補強を行うと共に、胴部20を上下方向において小単位に区分けすることにより、胴部20の座屈変形を防止するようになっている。・・・」
(エ)
「【0033】
また、この補強縦溝34は、図2及び図3に示すように、深さd_(1)が補強周溝26の深さd_(2)よりも深く形成されており、補強周溝26位置においても深さd_(3)(d_(1)-d_(2))をもって連続して形成された状態となっており、補強周溝26位置においても連続して補強を行っている。」
(オ)
「【0034】
したがって、この補強縦溝34によって面取り部24の略全長にわたり連続して補強されることとなり、元々幅が狭く補強された状態の面取り部24がさらに補強縦溝34によって補強されることで、相対的にその面取り部24に挟まれる壁部22が面取り部24に比し撓みやすい状態となり、面取り部24に影響を与えることなく、壁部22に設けられた減圧変形部30、32のみを確実に減圧変形させることが可能となる。」
(カ)
図1?4より、容器10が、ネック部12、ショルダー部14、胴部20及び底部16を備え、胴部20は、4つの壁部22と壁部22をつなぐ面取り部24からなり、且つ壁部22及び面取り部24を横切る補強周溝26を備え、そして、補強周溝26によって壁部22が、上壁部22と下壁部22に分割されている、ボトルであること、補強縦溝34が、上記の面取り部24のうち下端より上の位置から上端より下の位置まで補強周溝26を跨ぐ領域に刻設されていることが、看てとれる。

以上によれば、刊行物1には、
「ネック部12、ショルダー部14、胴部20及び底部16を備え、胴部20は、4つの壁部22と壁部22をつなぐ面取り部24からなり、且つ壁部22及び面取り部24を横切る補強周溝26を備え、そして、補強周溝26によって壁部22が、上壁部22と下壁部22に分割されている、PETボトルであって、
容量が350mlであり、補強縦溝34が、上記の面取り部24のうち下端より上の位置から上端より下の位置まで補強周溝26を跨ぐ領域に刻設され、補強縦溝34が面取り部24の略全長にわたり連続して補強を行うとともに、面取り部24に挟まれる壁部22が面取り部24に比し撓みやすい状態となっており、補強縦溝34の深さd_(1)が補強周溝26の深さd_(2)よりも深く形成されている、PETボトル。」
の発明が記載されている。(以下、この発明を「刊行物発明」という。)

3.対比
本願発明と刊行物発明とを対比すると、
刊行物発明の「ネック部12」は刊行物1の図1から明らかなように、口栓が係合する部分と輪状に突出する部分とからなり、「口栓が係合する部分」は本願発明の「口栓部」に相当し、「輪状に突出する部分」は本願発明の「サポートリング」に相当する。
刊行物発明の「ショルダー部14」は本願発明の「肩部」に、刊行物発明の「胴部20」は本願発明の「胴部」に、刊行物発明の「底部16」は本願発明の「底部」に、それぞれ相当する。
刊行物発明の「胴部20は、4つの壁部22と壁部22をつなぐ面取り部24からなり」は、本願発明の「更に、上記の胴部は、4つの平坦壁部と平坦壁部をつなぐコーナー部からなり」に相当する。
刊行物発明の「壁部22及び面取り部24を横切る補強周溝26を備え、そして、補強周溝26によって壁部22が、上壁部22と下壁部22に分割されている」は、本願発明の「平坦壁部及びコーナー部を横切る環状の周溝を備え、そして、上記の周溝によって平坦壁部が、上平坦壁部と下平坦壁部に分割されている」に相当する。
刊行物発明の「PETボトル」は、本願発明の「プラスチックボトル」に相当する。
次に、刊行物発明における「補強縦溝34」の配置と本願発明における「縦方向溝」の配置とを比較する。本願発明に記載されている「周溝に近い領域」とは、本件出願の図1の記載からみて、少なくとも「周溝内の領域」を含み、最大でも「面取り部上下端まで」を意味すると解されるところ、本願発明の「縦方向溝」は、周溝内の領域に刻設されるだけではなく、むしろ面取り部上下端に近い領域まで連続的に形成されるものである。
図1は「本発明のプラスチックボトルの側面図」(段落0037)であるところ、本願の請求項1における「周溝に近い領域のみ」は、上下端まで届いていない、という程度の意味に解釈されるから、本願発明における縦方向溝の配置を、刊行物発明の図1?4に示されている補強縦溝34の配置と区別しうるところはない。
また、刊行物発明においては、「補強縦溝34の深さd_(1)が補強周溝26の深さd_(2)よりも深く形成されている」から、d_(1)/d_(2)>1が成立する。
したがって、刊行物発明の「補強縦溝34が、上記の面取り部24のうち下端より上の位置から上端より下の位置まで補強周溝26を跨ぐ領域に刻設され、補強縦溝34が面取り部24の略全長にわたり連続して補強を行うとともに、面取り部24に挟まれる壁部22が面取り部24に比し撓みやすい状態となっており、補強縦溝34の深さd_(1)が補強周溝26の深さd_(2)よりも深く形成されている」は、本願発明の「縦方向溝が、上記のコーナー部のうち周溝に近い領域のみに刻設されて、緩衝ばねの働きをし、垂直方向の荷重に対し耐荷重性を有すること そして、上記の縦方向溝の溝の深さと周溝の溝の深さとの比が、1?1.5であること」と、「縦方向溝が、上記のコーナー部のうち周溝に近い領域のみに刻設されて、垂直方向の荷重に対し耐荷重性を有すること そして、上記の縦方向溝の溝の深さと周溝の溝の深さとの比が1以上であること」の限りにおいて、一致する。
以上によると、両者は、
「口栓部、サポートリング、肩部、胴部及び底部を備え、更に、上記の胴部は、4つの平坦壁部と平坦壁部をつなぐコーナー部からなり、且つ平坦壁部及びコーナー部を横切る環状の周溝を備え、そして、上記の周溝によって平坦壁部が、上平坦壁部と下平坦壁部に分割されているプラスチックボトルにおいて、
縦方向溝が、上記のコーナー部のうち周溝に近い領域のみに刻設されて、垂直方向の荷重に対し耐荷重性を有すること そして、上記の縦方向溝の溝の深さと周溝の溝の深さとの比が1以上である、プラスチックボトル。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]樹脂重量が、本願発明では、「0.036g/ml?0.048g/mlである」のに対し、刊行物発明では、容量が350mlであるものの、樹脂重量については規定されていない点。
[相違点2]縦方向溝が、本願発明では、「緩衝ばねの働きをし」、「縦方向溝の溝の深さと周溝の溝の深さとの比が、1?1.5である」のに対して、刊行物発明では、補強縦溝が緩衝ばねの働きをするか否か明らかでなく、また、補強縦溝と補強周溝の深さの比が1以上であるものの、1.5以下であるか否か明らかでない点。

4.相違点の検討
[相違点1]について
例えば、国際公開第2006/124200号には、樹脂重量が25/400?25/650=0.038?0.063g/mlであるものが示されている。
また、特開2005-67683号公報には、樹脂重量が45/2000=0.0225g/mlであるものが示されるとともに、次のように記載されている。
「上記実施形態では、容量が2000mlのボトル容器を示したが、本発明の適用にあたってボトル容器の容量は特に限定されるものではない。」(段落0057)
このように、本願発明の相違点1に係る「0.036g/ml?0.048g/ml」という数値範囲は、この種のプラスチックボトルの樹脂重量として一般的な重量であって、上記記載からみても、新規なものとはいえない。
しかも、本件出願の明細書の記載からみて、本願発明が樹脂重量を上記数値範囲に特定したことにより、特段の効果を生じるものとも認められない。
したがって、樹脂重量を上記数値範囲に特定することは、当業者であれば適宜決定し得た事項にすぎない。
[相違点2について]
3.対比で述べたとおり、本願発明における縦方向溝の配置を刊行物発明の補強縦溝34の配置と区別しうるところはなく、また、刊行物1の図2及び図3を参照すると、補強縦溝34の深さd_(1)と補強周溝26の深さd_(2)に大差ないものが示されており、本願発明と同様に、縦方向溝の溝の深さと周溝の溝の深さとの比が1.5以下という要件を満足しているか、それに近似するものが看て取れる。
したがって、本願発明の縦方向溝と刊行物発明の補強縦溝との間に構成の違いがあるとは認められず、両者の機能に違いを生じる理由もない。
しかも、本願明細書(段落0031?0035、以下参照)に記載の実施例、比較例を参酌しても、縦方向溝と周溝の深さの比が1.5以下の実験例しか開示がなく、1.5という上限値の技術的意義について実証的な説明がなされている訳でもない以上、上記上限値を規定したことにより格別の作用効果を奏するものとも認められない。
「【実施例1】
【0031】
ポリエチレンテレフタレートの射出成形により、図8に示す形状で、下記の寸法を有するプリフォームを製造した。
全長 85mm
胴径 22.2mm
サポートリング下肉薄部 7.5mm
サポートリング下肉薄部の厚さ 2.1mm
サポートリング下から抜きテーパ
開始位置までの長さ 14.4mm
胴部の厚さ 3.2mm
ゲート部肉厚 2.5mm
プリフォーム重量 20.5g
【0032】
上記のプリフォームを予備加熱し、公知の二軸延伸ブロー成形機により、ブロー成形し、図1に示す形状を有し、縦方向溝の溝の深さ/周溝の溝の深さの比が1.2のプラスチックボトルに成形した。
得られたプラスチックボトルについて垂直座屈強度の測定を行った。
・・・
【0035】
「比較例1」
実施例1と同様にして、但し縦方向溝の溝の深さ/周溝の溝の深さの比が0.8のプラスチックボトルを成形し、実施例1と同様に垂直座屈強度の測定を行った。」

したがって、相違点2は実質的な相違点ではなく、仮に相違するものとしても、刊行物発明に接した当業者であれば、容易に想到し得た事項と認められる。

審判請求人は、平成27年1月23日付け意見書において、
「引用文献1に記載された発明では、『補強縦溝』は、『面取り部の縦方向略全長にわたって連続的に形成されること』であることから、本願の請求項1-2に係る発明で言うような『緩衝ばねの働き』を奏し得ることは極めて困難であると推察される」(9頁16行-18行)
と主張している。
しかしながら、本願発明においても、図1からみて、縦方向溝は、周溝近傍のみに刻設されるものではなく、周溝よりもむしろ面取り部の上下端に近い領域にまで連続的に形成されているものを含む。
本願の請求項1における「周溝に近い領域のみ」は、上下端まで届いていない、という程度の意味に解釈することができるから、本願発明の縦方向溝の配置を、刊行物発明の図1?4に示されている補強縦溝34の配置と区別しうる根拠はなく、意見書を参照しても、どのような点で相違するのか不明である。したがって、刊行物発明の補強縦溝34が、本願発明の縦方向溝と同程度の『緩衝ばねの働き』を奏しない、と解する理由はない。
よって、審判請求人による上記の主張は、採用することができない。

5.小括
よって、本願発明は、刊行物1に記載された発明、及び、上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第3.むすび
以上のとおり、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-06-15 
結審通知日 2015-06-16 
審決日 2015-06-29 
出願番号 特願2012-135380(P2012-135380)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B65D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 会田 博行  
特許庁審判長 千葉 成就
特許庁審判官 熊倉 強
渡邊 真
発明の名称 プラスチックボトル  
代理人 藤枡 裕実  

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