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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1304352
審判番号 不服2014-11597  
総通号数 190 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-06-18 
確定日 2015-08-13 
事件の表示 特願2010- 46130「発光装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 9月15日出願公開、特開2011-181793〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成22年3月3日を出願日とする出願であって、平成25年6月27日付けの拒絶理由の通知に対し、同年8月23日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、平成26年3月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年6月18日に審判請求がなされると同時に手続補正がなされ、当審における平成27年3月18日付けの拒絶理由の通知に対し、同年5月19日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。

2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、平成27年5月19日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものであると認められる。

「380?420nmの波長域にピーク波長を有する紫外線又は短波長可視光を発する発光素子と、
前記紫外線又は短波長可視光により励起され、560nm?600nmの波長域にピーク波長を有する可視光を発光する第1の蛍光体と、
前記紫外線又は短波長可視光により励起され、前記第1の蛍光体が発光する可視光と補色の関係にある可視光を発光する第2の蛍光体と、
基板に搭載された前記発光素子の全体を覆うバインダー部材を有する光透過層であって、前記第1の蛍光体及び前記第2の蛍光体が分散されている光透過部材と、
を備え、各蛍光体からの光を混合して白色を得るように構成された発光装置であって、
前記光透過部材に含まれている蛍光体全体の体積濃度は、0.05vol%以上10vol%以下であり、
前記光透過部材は、発光装置の一方の側方から見た場合の前記光透過層の断面が横長であり、かつ、発光装置の上方から見た場合の前記光透過層が横長である直方体形状または半円筒形状であって、前記発光素子の光が入射して上面および側面を含む発光面から外部へ出射するまでの光路長が0.4mm以上20mm以下となるような形状で構成されており、
前記第1の蛍光体の励起スペクトルの最大強度をImax、前記第2の蛍光体の発光スペクトルのピーク波長における前記第1の蛍光体の励起スペクトルの強度をIaとすると、Ia<0.5×Imaxを満たす、
ことを特徴とする発光装置。」

なお、請求項1には「光路長が0.4mm以上20mm以下となるような形状で構成されおり」と記載されているが、「光路長が0.4mm以上20mm以下となるような形状で構成されており」の明らかな誤記であると認められるので、本願発明を上記のとおり認定した。

3 引用例
(1)引用例1
ア 当審における拒絶理由通知で引用した、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2003-110150号公報(以下「引用例1」という。)には、図とともに次の記載がある(下線は当審で付した。以下同じ。)。

(ア)「【特許請求の範囲】」、
「350nmを超え410nm以下の波長領域に発光ピークを有する発光を放つ近紫外発光ダイオードと、前記近紫外発光ダイオードが放つ近紫外光を吸収して、380nm以上780nm以下の可視波長領域に発光ピークを有する蛍光を放つ複数の蛍光体を含む蛍光体層とを組み合わせ、CIE色度図における発光色度点(x,y)が、0.21≦x≦0.48、0.19≦y≦0.45の範囲にある白色系光を放つ半導体発光素子であって、前記蛍光体層が、波長380nmおよびその付近の波長領域の近紫外光照射の下で、550nm以上600nm未満の波長領域に発光ピークを有する黄色系の蛍光を放つ黄色系蛍光体と400nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有する青色系の蛍光を放つ青色系蛍光体の二種類の蛍光体を含むことを特徴とする半導体発光素子。」(【請求項1】)

(イ)「【発明が解決しようとする課題】」(段落【0020】)、
「本発明は、これらの問題を解決するためになされたものであり、近紫外LEDと蛍光体層とを組み合わせてなる、高光束の白色系光を放つ半導体発光素子および半導体発光装置を提供することを目的とする。」(段落【0021】)

(ウ)「【発明の実施の形態】」(段落【0042】)、
「(実施の形態1)以下、本発明の半導体発光素子の実施の形態を、図面を用いて説明する。図1?図3はそれぞれ形式の異なる半導体発光素子の縦断面図である。」(段落【0042】)、
「半導体発光素子の代表的な例として、図1に、サブマウント素子5の上にフリップチップ型の近紫外LED1を導通搭載するとともに、青色系蛍光体粒子3と珪酸塩蛍光体の粒子を含む黄色系蛍光体粒子4を内在し蛍光体層2を兼ねる樹脂のパッケージによって、近紫外LED1を封止した構造の半導体発光素子を示し、図2に、リードフレーム6のマウント・リードに設けたカップ7に近紫外LED1を導通搭載するとともに、カップ7内に青色系蛍光体粒子3と珪酸塩蛍光体の粒子を含む黄色系蛍光体粒子4を内在した蛍光体層2を設け、全体を封止樹脂8で封止した構造の半導体発光素子を示し、図3に、筐体9内に近紫外LED1を配置するとともに、筐体9内に青色系蛍光体粒子3と珪酸塩蛍光体の粒子を含む黄色系蛍光体粒子4を内在する樹脂で形成した蛍光体層2を設けた構造のチップタイプの半導体発光素子を示している。」(段落【0043】)

(エ)図1は次のとおりである。


イ 上記アの各記載によれば、引用例1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「350nmを超え410nm以下の波長領域に発光ピークを有する発光を放つ近紫外発光ダイオードと、前記近紫外発光ダイオードが放つ近紫外光を吸収して、380nm以上780nm以下の可視波長領域に発光ピークを有する蛍光を放つ複数の蛍光体を含む蛍光体層とを組み合わせ、CIE色度図における発光色度点(x,y)が、0.21≦x≦0.48、0.19≦y≦0.45の範囲にある白色系光を放つ半導体発光素子であって、
前記蛍光体層が、波長380nmおよびその付近の波長領域の近紫外光照射の下で、550nm以上600nm未満の波長領域に発光ピークを有する黄色系の蛍光を放つ黄色系蛍光体と400nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有する青色系の蛍光を放つ青色系蛍光体の二種類の蛍光体を含み、
サブマウント素子の上にフリップチップ型の前記近紫外発光ダイオードを導通搭載するとともに、前記青色系蛍光体粒子と前記黄色系蛍光体粒子を内在し前記蛍光体層を兼ねる樹脂のパッケージによって、前記近紫外発光ダイオードを封止した構造の半導体発光素子。」

(2)引用例2
ア 当審における拒絶理由通知で引用した、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2009-38348号公報(以下「引用例2」という。)には、図とともに次の記載がある。

(ア)「図3は、本発明の発光装置の第三実施形態を示す概略断面図である。
尚、図1に示した第一実施形態の構成要素と同様の部分については、同一の符号を付し説明を省略する。」(段落【0046】)、
「図3に示す発光装置1は、カップ形状をした器体13の底部に電極端子10a(陽極)が、器体の側面に電極端子10b(陰極)がそれぞれ設置されている。
半導体発光素子4は器体13の底部においてマウント部材5を介して電極端子10aの上面に搭載されている。半導体発光素子4の下面電極と電極端子10aはマウント部材により電気的に接続され、半導体発光素子4の上面電極と電極端子10bとはワイヤー6により電気的に接続されている。
器体13の内側空間には半導体発光素子4を覆うように充填部材14が充填されており、器体13の上面は透明板12により封着されている。透明板12の器体内側面には蛍光層7が形成されている。」(段落【0047】、当審注:「透明板12の器体側面」は、段落【0050】及び図3に照らし、「透明板12の器体内側面」の誤記と認められるので、誤記を正して摘記した。)、
「蛍光層7は第一実施形態と同様の形成方法により透明板の器体内側面に形成されている。」(段落【0050】)、
「以上のように構成された発光装置において、電極3a、3b又は電極端子10a、10bに対し駆動電流を印加すると、半導体発光素子4が通電され、半導体発光素子4は蛍光層7へ向けて紫外線又は短波長可視光を含む固有の波長域の光を照射する。この光により蛍光層7内の蛍光体が励起され、蛍光体は固有の波長域の光を照射する。このような仕組みを利用し、半導体発光素子4及び/又は蛍光体を種々選択することで所望する光を照射する発光装置とすることができる。」(段落【0051】)

(イ)「<蛍光体1?4の評価結果>」(段落【0097】)、
「図13に、蛍光体1の励起スペクトルを示す。
図13から、蛍光体1は、励起スペクトルのピークが350?430nmの波長域にあることが分かる。このことから、蛍光体1は400nm付近の波長域で効率よく励起されることが分かる。
また、図13から、蛍光体1は、450?480nmの波長域の光をほとんど吸収しないことが分かる。このことから、蛍光体1と450?480nmの波長域の光を出す他の蛍光体とを組み合わせて用いた場合、例えば蛍光体1と青色発光蛍光体とを組み合わせて白色発光装置を構成した場合、青色蛍光体が発光した光を吸収することがないので、発光効率が高く色ずれの少ない発光装置を構成することができる。」(段落【0101】)

(ウ)「<発光装置の構成(タイプ2)>」(段落【0115】)、
「実施例の発光装置3a?3gは、上記第三実施形態において下記の具体的な構成を用いたものである。
尚、下記発光装置の構成は、用いた蛍光体の種類を除き、実施例3a?3h、及び比較例2a?2hについて共通の構成である。
まず、器体13として、ポリフタルアミド樹脂を用いたインサート成形により銅製の電極端子10a、10bが一体化されたカップ状成形品を作製した。
次に、半導体発光素子4として、405nmに発光ピークを持つ1mm四方のLED(SemiLEDs社製:MvpLEDTMSL-V-U40AC)を用い、前記カップ状成形品の底部に配置された前記電極端子10a(陽極)上に銀ペースト(エイブルスティック社製:84-1LMISR4)を滴下し、この銀ペースト上にLEDの下面を接着させ、当該銀ペーストを175℃環境下で1時間硬化させた。
また、ワイヤー6としてΦ45μmの金ワイヤーを用い、この金ワイヤーを超音波熱圧着にてLEDの上面側電極及び電極10b(陰極)に接合した。
次に、充填部材として、シリコーン樹脂(東レダウコーニングシリコーン社製:JCR6140)を前記LEDを覆い、器体13の上面と面一となる位置までポッティングした後、80℃環境下で40分、その後に150℃環境下で60分のステップ硬化にて固定化した。
次に、バインダー部材としてシリコーン樹脂(東レダウコーニングシリコーン社製:JCR6140)を用い、これに各種の蛍光体又は複数種類の蛍光体の混合物を30vol%となるように混入した蛍光体ペーストを作製した。
この蛍光体ペーストを透明板13としてのガラス基板にスピンコートを用いて任意の膜厚で塗布した後、150℃環境下で60分間硬化させ蛍光層7を形成した。
最後に、前記ガラス基板を前記カップ状成形品の上面に固着した。」(段落【0115】)、
「以上の蛍光体及び発光装置(タイプ2)の構成に基づいて下記実施例3a?3h、及び比較例2a?2hを作製した。
<実施例3a?3h>
本実施例3a?3hは、前記第一の蛍光体として前記蛍光体2を用い、前記第二の蛍光体として前記蛍光体5を用いた実施例であり、蛍光体2(黄)と蛍光体5(青)とを配合比(重量比)37(黄):63(青)で混合した混合物を用いて前記蛍光体ペーストを作製し、これらの蛍光体ペーストをスピンコートを用いて表6に示す個別の回転数及び膜厚で塗布した蛍光層7を形成し、実施例3a?3hの発光装置を作製した。
<比較例2a?2h>
蛍光体(Sr,Ba,Ca)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)(黄)(以下、比較用蛍光体2)と蛍光体5(青)とを配合比(重量比)27(黄):73(青)で混合した混合物を用いて前記蛍光体ペーストを作製し、これらの蛍光体ペーストをスピンコートを用いて表6に示す個別の回転数及び膜厚で塗布した蛍光層7を形成し、比較例2a?2hの発光装置を作製した。」(段落【0116】)、
「<実施例3a?3hの評価>
各発光装置を積分球内で10mAの電流を投入し発光させ、透明板12の上方に設置した瞬間マルチ測光システム(大塚電子社製:MCPD-1000)で測定した。その測定結果を以下詳述する。」(段落【0117】)、
「表6に、各発光装置の蛍光層7を形成した際のスピンコートの回転数(rpm)、蛍光層の膜厚(μm)、及び各発光装置に10mAの駆動電流を印加したときの色度座標(cx,cy)を示す。
【表6】

」(段落【0118】、当審注:「各発行装置」は「各発光装置」の明らかな誤記であると認められるので、誤記を正して摘記した。)、
「また、図22は、各発光装置に10mAの駆動電流を印加したときに発光した光の色度座標(cx,cy)を色度図上に表したものである。」(段落【0119】)、
「表6及び図22より、実施例及び比較例共に、蛍光層7の膜厚が厚くなるに従って色度が黄色方向にシフトしている。これは蛍光層7に混入されたストークスシフトの大きな黄色系蛍光体(蛍光体2、比較用蛍光体2)が青色系蛍光体(蛍光体5)の蛍光を吸収して黄色光に変換しており、この変換量が蛍光層7が厚いほど多くなるために生じる現象である。」(段落【0120】)、
「膜厚の変化による色度シフト量について実施例と比較例を比較すると、実施例3aと3hの膜厚差(205μm)と、比較例2aと2hの膜厚差(202μm)はほぼ同じであるのに対し、これに伴う色度のシフト量は、実施例が0.07、比較例が0.19となり、両者には約2.6倍の差がある。これは実施例の蛍光層7に含まれる黄色系蛍光体(蛍光体2)が、比較例の蛍光層7に含まれる黄色系蛍光体(比較用蛍光体2)よりも青色領域での励起特性が低いことに起因する。」(段落【0121】)、
「そのため、図22にαとして示した前記車両用灯具の白色規定の領域に関し、比較例は2bと2dの間の限られた膜厚の範囲内(約30μm)でしか実現できないのに対し、実施例は3aと3gの間の広い膜厚の範囲内(約190μm)で実現することができる。その結果、本実施例に用いた蛍光体で白色発光装置を構成すれば、蛍光体の塗布量を精密に制御しなくても安定した色度の発光装置が構成でき、工程管理及び歩留まり上安価な発光装置が作製可能になる。」(段落【0121】)

(エ)図3は次のとおりである。


(オ)図13は次のとおりである。


(カ)図22は次のとおりである。


イ 上記アの各記載によれば、引用例2には次の技術的事項が記載されていると認められる。

(ア)「励起スペクトルのピークが350?430nmの波長域にあり、450?480nmの波長域の光をほとんど吸収しない蛍光体と青色発光蛍光体とを組み合わせて白色発光装置を構成した場合、当該蛍光体が青色蛍光体が発光した光を吸収することがないので、発光効率が高く色ずれの少ない発光装置を構成することができる。」との技術的事項。

(イ)「蛍光層が厚いほど、蛍光層に混入されたストークスシフトの大きな黄色系蛍光体が青色系蛍光体の蛍光を吸収して黄色光に変換する量が多くなるため、蛍光層の膜厚が厚くなるに従って色度が黄色方向にシフトする。」との技術的事項。

(ウ)「黄色系蛍光体と青色系蛍光体とが蛍光層に含まれる場合において、黄色系蛍光体の青色領域での励起特性が低いものにすると、広い膜厚の範囲内で、白色規定の領域を実現できる。」との技術的事項。

4 対比
(1)本願発明と引用発明1とを以下に対比する。
ア 引用発明1の「350nmを超え410nm以下の波長領域に発光ピークを有する発光を放つ近紫外発光ダイオード」と本願発明の「380?420nmの波長域にピーク波長を有する紫外線又は短波長可視光を発する発光素子」とは、380?410nmの「波長域にピーク波長を有する」「紫外線又は短波長可視光を発する発光素子」である点で一致する。

イ 引用発明1の「波長380nmおよびその付近の波長領域の近紫外光照射の下で、550nm以上600nm未満の波長領域に発光ピークを有する黄色系の蛍光を放つ黄色系蛍光体」と本願発明の「前記紫外線又は短波長可視光により励起され、560nm?600nmの波長域にピーク波長を有する可視光を発光する第1の蛍光体」とは、「前記紫外線又は短波長可視光により励起され、560nm?600nmの波長域にピーク波長を有する可視光を発光する第1の蛍光体」である点で実質的に一致する。

ウ 引用発明1の「半導体発光素子」は「CIE色度図における発光色度点(x,y)が、0.21≦x≦0.48、0.19≦y≦0.45の範囲にある白色系光を放つ」ものであるから、引用発明1の「波長380nmおよびその付近の波長領域の近紫外光照射の下で、」「400nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有する青色系の蛍光を放つ青色系蛍光体」は、本願発明の「前記紫外線又は短波長可視光により励起され、前記第1の蛍光体が発光する可視光と補色の関係にある可視光を発光する第2の蛍光体」に相当する。

エ 引用発明1の「サブマウント素子」は、本願発明の「基板」に相当する。

オ 引用発明1の「前記青色系蛍光体粒子と前記黄色系蛍光体粒子を内在し前記蛍光体層を兼ねる樹脂のパッケージ」は、本願発明の「バインダー部材を有」し、「前記第1の蛍光体及び前記第2の蛍光体が分散されている光透過部材」に相当する。

カ 引用発明1は、「樹脂のパッケージによって、前記近紫外発光ダイオードを封止した構造」であり、「サブマウント素子の上にフリップチップ型の前記近紫外発光ダイオードを導通搭載する」ものであるから、引用発明1の「樹脂のパッケージ」は、本願発明の「基板に搭載された前記発光素子の全体を覆う」との特定事項を満足するといえる。

キ 引用発明1の「半導体発光素子」は、本願発明の「発光装置」に相当する。

ク 引用発明1の「半導体発光素子」は、「350nmを超え410nm以下の波長領域に発光ピークを有する発光を放つ近紫外発光ダイオードと、前記近紫外発光ダイオードが放つ近紫外光を吸収して、380nm以上780nm以下の可視波長領域に発光ピークを有する蛍光を放つ複数の蛍光体を含む蛍光体層とを組み合わせ、CIE色度図における発光色度点(x,y)が、0.21≦x≦0.48、0.19≦y≦0.45の範囲にある白色系光を放つ」ものであるから、本願発明の「各蛍光体からの光を混合して白色を得るように構成された発光装置」との特定事項を備えている。

(2)上記(1)によれば、本願発明と引用発明1とは、
「380?410nmの波長域にピーク波長を有する紫外線又は短波長可視光を発する発光素子と、
前記紫外線又は短波長可視光により励起され、560nm?600nmの波長域にピーク波長を有する可視光を発光する第1の蛍光体と、
前記紫外線又は短波長可視光により励起され、前記第1の蛍光体が発光する可視光と補色の関係にある可視光を発光する第2の蛍光体と、
基板に搭載された前記発光素子の全体を覆うバインダー部材を有する光透過層であって、前記第1の蛍光体及び前記第2の蛍光体が分散されている光透過部材と、
を備え、各蛍光体からの光を混合して白色を得るように構成された発光装置。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
本願発明は、「光透過部材に含まれている蛍光体全体の体積濃度は、0.05vol%以上10vol%以下であり、前記光透過部材は、発光装置の一方の側方から見た場合の前記光透過層の断面が横長であり、かつ、発光装置の上方から見た場合の前記光透過層が横長である直方体形状または半円筒形状であって、前記発光素子の光が入射して上面および側面を含む発光面から外部へ出射するまでの光路長が0.4mm以上20mm以下となるような形状で構成されて」いるのに対し、引用発明1にはそのような特定がない点。

[相違点2]
本願発明は、「第1の蛍光体の励起スペクトルの最大強度をImax、」「第2の蛍光体の発光スペクトルのピーク波長における前記第1の蛍光体の励起スペクトルの強度をIaとすると、Ia<0.5×Imaxを満たす」のに対し、引用発明1にはそのような特定がない点。

5 相違点の判断
(1)上記各相違点について検討する。
ア [相違点2]について
引用発明1は、「蛍光体を含む」「白色系光を放つ半導体発光素子」であるから、発光効率が高く色ずれを少なくすることは例示するまでもなく周知の課題である。
他方、引用例2には、励起スペクトルのピークが350?430nmの波長域にあり、450?480nmの波長域の光をほとんど吸収しない蛍光体と青色発光蛍光体とを組み合わせて白色発光装置を構成した場合、当該蛍光体が青色蛍光体が発光した光を吸収することがないので、発光効率が高く色ずれの少ない発光装置を構成することができるとの技術的事項が記載されている(上記3(2)イ(ア)参照。)。
そして、引用発明1は、「350nmを超え410nm以下の波長領域に発光ピークを有する発光を放つ近紫外発光ダイオード」と「波長380nmおよびその付近の波長領域の近紫外光照射の下で、550nm以上600nm未満の波長領域に発光ピークを有する黄色系の蛍光を放つ黄色系蛍光体と400nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有する青色系の蛍光を放つ青色系蛍光体の二種類の蛍光体」を備えるものであるところ、引用発明1の「黄色系蛍光体」及び「青色系蛍光体」は、それぞれ、蛍光波長という観点でみると、引用例2の上記技術的事項における「蛍光体」及び「青色発光蛍光体」に対応することが明らかである。
そうすると、引用発明1において上記課題を解決するために、引用例2記載の上記技術的事項を採用して、[相違点2]に係る構成となすことは、当業者が容易に想到し得たことである。

イ [相違点1]について
(ア)発光装置の光出射面の形状は、その用途に応じて適宜設計されるものと認められる(必要があれば、例えば、特開2002-217459号公報の段落【0017】・図1・2、特開2008-130723号公報の段落【0048】?【0050】・図5・6を参照。)。

(イ)そして、発光装置の光出射面の形状として、発光装置の一方の側方から見た場合の前記光透過層の断面が横長であり、かつ、発光装置の上方から見た場合の前記光透過層が横長である直方体形状のものは周知である(例えば、特開2006-173271号公報の段落【0029】・【0034】・図4・図5、特開2009-260194号公報の段落【0060】、図1を参照。)。

(ウ)他方、引用発明1は、「白色系光を放つ半導体発光素子」であるから、上記(ア)の設計変更は、白色系光が得られる範囲で行うべきであるところ、引用例2には、蛍光層が厚いほど、蛍光層に混入されたストークスシフトの大きな黄色系蛍光体が青色系蛍光体の蛍光を吸収して黄色光に変換する量が多くなるため、蛍光層の膜厚が厚くなるに従って色度が黄色方向にシフトするとの技術的事項(上記3(2)イ(イ)参照。)が記載されている。
そうすると、引用発明1の光出射面の形状を設計変更することに伴い、「前記青色系蛍光体粒子と前記黄色系蛍光体粒子を内在し前記蛍光体層を兼ねる樹脂のパッケージ」(本願発明の「バインダー部材を有」し、「前記第1の蛍光体及び前記第2の蛍光体が分散されている光透過部材」に相当。)の形状を変更するとしても、その膜厚には、色度が黄色方向にシフトするとの観点からの上限(その程度は選択された蛍光体の特性にも依存することが明らかである。)が存在することを当業者は認識できたものと認められる。
また、引用発明1は、「近紫外発光ダイオードが放つ近紫外光を吸収」する「複数の蛍光体」からの蛍光光により「白色系光」を得るものであるから、当該膜厚には、近紫外発光ダイオードからの近紫外光の蛍光光への変換性の観点からの下限が存在することも明らかである。

(エ)したがって、引用発明1において、選択された蛍光体の特性をも考慮しつつ、「光透過部材は、発光装置の一方の側方から見た場合の前記光透過層の断面が横長であり、かつ、発光装置の上方から見た場合の前記光透過層が横長である直方体形状」であって「前記発光素子の光が入射して上面および側面を含む発光面から外部へ出射するまでの光路長が0.4mm以上20mm以下となるような形状」を満たす構成となすことは、当業者が適宜設計し得たことといえる。

(オ)そして、その際、光透過部材に含まれている蛍光体全体の密度は、当業者が実施に当たり設計すべき事項であるところ、引用発明1は、高光束の白色光を放つ半導体発光素子を提供することを目的としており(上記3(1)ア(イ)の段落【0021】を参照。)、当該密度の値が光束の程度に影響することは明らかである。
そうすると、引用発明1において、「光透過部材に含まれている蛍光体全体の体積濃度は、0.05vol%以上10vol%以下であ」る構成となすことも、当業者が適宜設計し得たことである。

(カ)以上によれば、引用発明1において、上記[相違点1]に係る構成となすことは、当業者が適宜設計し得たことである。

ウ 本願発明の作用効果について
本願発明の「発光面内の色度のばらつきを抑えた発光装置を提供することができる。」との作用効果(本願明細書の段落【0016】)は、引用発明1,引用例1に記載された事項及び引用例2に記載された技術的事項(上記3(2)イ(ア)?(ウ)参照。)に基づいて、当業者が予測し得たものである。

(2)上記(1)によれば、本願発明は、引用発明1、引用例1に記載された事項、引用例2に記載された技術的事項及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-06-12 
結審通知日 2015-06-16 
審決日 2015-06-29 
出願番号 特願2010-46130(P2010-46130)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小林 謙仁小濱 健太岡田 吉美  
特許庁審判長 吉野 公夫
特許庁審判官 山村 浩
星野 浩一
発明の名称 発光装置  
代理人 森下 賢樹  
代理人 村田 雄祐  
代理人 三木 友由  

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