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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B61D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B61D
管理番号 1304355
審判番号 不服2014-12665  
総通号数 190 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-07-01 
確定日 2015-08-13 
事件の表示 特願2010-155705号「鉄道車両用樹脂ガラス」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 1月26日出願公開、特開2012-17023号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年7月8日の出願であって、平成25年8月13日付けで拒絶の理由が通知され、これに対して、同年10月18日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成26年3月27日付けで拒絶査定がなされ、同査定の謄本は同年4月2日に請求人に送達された。これに対して、同年7月1日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成26年7月1日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成26年7月1日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正の内容
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所を示す。)
「鉄道車両に取り付けられる樹脂ガラスであって、前記樹脂ガラスは、ポリカーボネート樹脂からなる第1の樹脂層と、前記第1の樹脂層に積層される第1の樹脂層より高い耐候性を有する樹脂からなる第2の樹脂層と、前記第1の樹脂層に対して前記第2の樹脂層の反対側にも高い耐候性を有する樹脂から成る第3の樹脂層とを有し、多層押し出し製法によって製造されることを特徴とする、鉄道車両用樹脂ガラス。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、平成25年10月18日の手続補正による特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「鉄道車両に取り付けられる樹脂ガラスであって、前記樹脂ガラスは、ポリカーボネート樹脂からなる第1の樹脂層と、前記第1の樹脂層に積層される第1の樹脂層より高い耐候性を有する樹脂からなる第2の樹脂層と、前記第1の樹脂層に対して前記第2の樹脂層の反対側にも高い耐候性を有する樹脂から成る第3の樹脂層とを有する、鉄道車両用樹脂ガラス。」

(3)上記補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「樹脂ガラス」について、「多層押し出し製法によって製造されること」を付加し、限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

2.補正の適否
そこで、補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条7項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)刊行物の記載事項
ア.原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願の日前に頒布された刊行物である、特開平8-207762号公報(以下「刊行物1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
(ア)「【請求項1】車体側面に形成された窓開口部に透明板を設置して構成される鉄道車両の窓構造において、前記窓開口部の全周縁部分には縁材が設置されており、前記縁材は、車体外表面側の位置に突出片を備えており、前記透明板は、樹脂製透明部材によって構成されており、該透明板の車体長手方向および車体長手方向に直角な方向の寸法は前記突出片に透明板の外周縁部が重なり合う長さに形成されており、該透明板の外周縁部の車外表面側には前記突出片によって該透明板を支える支持部分の厚さに相当する凹み部が形成されており、前記透明板の車内側に、前記透明板を前記縁材に固定する固定手段を設置していること、を特徴とする鉄道車両の窓構造。
【請求項2】請求項1に記載の鉄道車両の窓構造において、前記透明板をポリカーボネートによって構成したことを特徴とする鉄道車両の窓構造。」
(イ)「【0015】図3の第2の実施例は、窓ガラス30としてポリカーボネート製の透明板50を用いたものであり」

イ. 以上より、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
<引用発明1>
「鉄道車両の窓開口部に設置される透明板であって、前記透明板は、ポリカーボネートによって構成した鉄道車両の窓開口部に設置される透明板。」

(3)引用発明1との対比
ア.本願補正発明と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「ポリカーボネート」は樹脂であり、「窓開口部に設置される透明板」は窓ガラスとして用いられるものであるから、引用発明1の「鉄道車両の窓開口部に設置される透明板であって、前記透明板は、ポリカーボネートによって構成した鉄道車両の窓開口部に設置される透明板。」と本件補正発明とは、「鉄道車両に取り付けられる樹脂ガラスであって、前記樹脂ガラスは、ポリカーボネート樹脂からなる樹脂層を有する鉄道車両用樹脂ガラス。」の限度で共通するといえる。

イ.以上より、本願補正発明と引用発明1との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
「鉄道車両に取り付けられる樹脂ガラスであって、前記樹脂ガラスは、ポリカーボネート樹脂からなる樹脂層を有する鉄道車両用樹脂ガラス。」
【相違点】
本願補正発明は、樹脂ガラスが「ポリカーボネート樹脂からなる第1の樹脂層と、前記第1の樹脂層に積層される第1の樹脂層より高い耐候性を有する樹脂からなる第2の樹脂層と、前記第1の樹脂層に対して前記第2の樹脂層の反対側にも高い耐候性を有する樹脂から成る第3の樹脂層とを有し、多層押し出し製法によって製造される」ものであるのに対して、引用発明1では、透明板がポリカーボネート樹脂によって構成されている点。

(4)判断
以下、相違点について検討する。
ア.相違点1について
ポリカーボネート樹脂を窓ガラスに用いた場合に、外部環境に曝されることなどにより耐候性等の問題(例えば黄変劣化)が生じることは本願出願日前に周知の課題(例えば、実願平3-110051号(実開平5-49426号)のCD-ROM(以下「周知例1」という場合がある。)の【0004】の記載、実願昭63-11777号(実開平1-115540号)のマイクロフィルム(以下「周知例2」という。)の[考案が解決しようとする課題]の記載参照)と認められ、その課題を解決するために、ポリカーボネート樹脂に当該樹脂よりも高い耐候性を有する樹脂からなる層を設けることも周知技術(周知例1の【請求項1】【図4】の記載等、周知例2の「実用新案登録請求の範囲」、[産業上の利用分野]の記載等、特開2006-255928号公報の【0108】【0109】の記載等参照)であると認められる。加えて、このような高い耐候性を有する樹脂層を多層押し出し製法により、ポリカーボネートの両面に積層することも周知技術(例えば、特開2005-225018号公報の【請求項4】【0002】【0003】等、特開2009-196125号公報の【請求項1】【請求項4】【0019】等参照)であると認められる。
引用発明1における窓ガラスとして用いられる透明板は、ポリカーボネート樹脂によって構成されており、上記周知の課題を内在していることは明らかであるから、引用発明1において、上記周知技術を適用することを試みる動機付けは十分あるといえる。
そうすると、引用発明1において、上記周知技術を適用して、相違点に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得る事項といえる。

イ.そして、本願補正発明の奏する作用効果は、引用発明1及び周知技術から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

ウ.したがって、本願補正発明は、引用発明1及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反してなされたものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成26年7月1日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成25年10月18日の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、明細書及び図面の記載からみて、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2.刊行物の記載事項
(1)原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願の日前に頒布された刊行物である、実願平3-110051号(実開平5-49426号)のCD-ROM(以下「刊行物2」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
ア.「【請求項1】ポリカーボネート樹脂にて成形した窓板材の表面に、耐候性、耐擦傷性、耐薬品性等に優れた透明合成樹脂製フイルムを積層・接着してなることを特徴とする合成樹脂製自動車用窓。

イ.「【0004】【考案が解決しようとする課題】ガラスに代わる透明性を有する合成樹脂材としては、メタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリロニトリル・スチレン樹脂、ポリスチレン樹脂等がある。しかしながら、前記メタクリル樹脂、アクリロニトリル・スチレン樹脂、ポリスチレン樹脂等の場合には、自動車用窓として使用するには耐熱性、耐寒性、耐衝撃性等に問題があり、また、これらの合成樹脂材の場合には、割れた場合に鋭利な破片が飛散する恐れがあって、危険である。そこで、これらの樹脂の中ではポリカーボネート樹脂が最適である。しかし、このポリカーボネートの場合にも、耐候性、耐擦傷性、耐薬品性等に問題が残る。
【0005】本考案は上記の点に鑑み、自動車用窓として要求される耐候性、耐熱性、耐寒性、耐衝撃性、耐擦傷性、耐薬品性に優れるとともに、万一割れても鋭利な破片が飛散するような危険もなく、ガラス窓に代わって自動車窓として採用することにより、自動車の軽量化、更にはコストダウン等を可能とする合成樹脂製自動車用窓を提供せんとするものである。」

ウ.以上を総合すると、刊行物2には以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
<引用発明2>
「合成樹脂製自動車用窓であって、前記窓は、ポリカーボネート樹脂にて成形した窓板材と、前記窓板材の表面に積層・接着された耐候性に優れた透明合成樹脂製フィルムとを有する、合成樹脂製自動車用窓。」

(2)原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願の日前に頒布された刊行物である、特開平8-207762号公報(上記第2[理由]2(2)の刊行物1)には、上記第2[理由]2(2)アに記載したとおりの事項が記載されている。

3 対比・判断
(1)引用発明2との対比
ア.本願発明と引用発明2とを対比する。
(ア)引用発明2の「合成樹脂製自動車用窓」は、ガラス窓に代わって自動車窓として採用されるものであること、樹脂製であることから、本願発明の「樹脂ガラス」に相当するといえる。また、引用発明2の「合成樹脂製自動車用窓」は、自動車に取り付けられるものであること、及び自動車は車両に分類されることは明らかであるから、引用発明2の「合成樹脂製自動車用窓」と本願発明の「鉄道車両に取り付けられる樹脂ガラス」とは、「車両に取り付けられる」「樹脂ガラス」又は「車両用樹脂ガラス」である限りにおいて共通するといえる。
(イ)引用発明2の「窓板材」は、ポリカーボネート樹脂にて成形されているから、本願発明の「ポリカーボネート樹脂からなる」「第1の樹脂層」に相当するといえる。
(ウ)引用発明2の「透明合成樹脂製フィルム」は、その機能からみて、ポリカーボネートよりも高い耐候性を有することは明らかであり、窓板材に積層・接着されるものであるから、本願発明の「第1の樹脂層に積層される第1の樹脂層より高い耐候性を有する樹脂からなる」「第2の樹脂層」に相当するといえる。

イ.以上より、本願発明と引用発明2との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
「車両に取り付けられる樹脂ガラスであって、前記樹脂ガラスは、ポリカーボネート樹脂からなる第1の樹脂層と、前記第1の樹脂層に積層される第1の樹脂層より高い耐候性を有する樹脂からなる第2の樹脂層とを有する、車両用樹脂ガラス。」

【相違点1】
本願発明では、樹脂ガラスが「鉄道車両用」とされているのに対して、引用発明2では「自動車用」とされている点。

【相違点2】
本願発明では、樹脂ガラスが、「第1の樹脂層に対して第2の樹脂層の反対側にも高い耐候性を有する樹脂から成る第3の樹脂層」を有しているのに対して、引用発明2では、そのように構成されていない点。

(2)判断
以下、相違点1及び2について検討する。
ア.相違点1について
刊行物1には、鉄道車両の窓ガラスとしてポリカーボネート樹脂を使用することが記載されている。
自動車の窓も鉄道車両の窓も、安定した視界性、走行に耐えられる耐衝撃性、及び軽量化が求められる点、並びに長期の使用が想定される点で共通するといえるから、引用発明2の自動車用窓を鉄道車両に転用することに格別な困難性は見出せない。
したがって、相違点1に係る本願発明の構成は、引用発明2及び刊行物1に記載されている事項に基づいて当業者が容易に想到し得る事項といえる。

イ.相違点2について
上記第2[理由]2(4)アにおいて示したとおり、ポリカーボネートが外部環境に曝されることなどにより耐候性等の問題(例えば、黄変劣化)が生じることは周知の課題であり、その課題解決のために高い耐候性を有する樹脂層をポリカーボネートの両面に積層することは周知技術といえる。
引用発明2の窓板材において、透明合成樹脂製フィルムが積層されていない表面は、ポリカーボネートが外部環境に曝された状態にあるため、耐候性等の問題(例えば、黄変劣化)が生じる恐れがあることは当業者が容易に予測可能な事項といえるから、高い耐候性を有する樹脂層を当該表面にも適用し、相違点2に係る本願発明の構成とすることは、引用発明2及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得る事項といえる。

ウ.そして、上記相違点を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、引用発明2、刊行物1に記載されている事項及び周知技術から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明2、刊行物1に記載されている事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-05-29 
結審通知日 2015-06-02 
審決日 2015-06-26 
出願番号 特願2010-155705(P2010-155705)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B61D)
P 1 8・ 575- Z (B61D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 敏史  
特許庁審判長 氏原 康宏
特許庁審判官 出口 昌哉
和田 雄二
発明の名称 鉄道車両用樹脂ガラス  
代理人 石川 泰男  
代理人 石橋 良規  
代理人 特許業務法人 インテクト国際特許事務所  
代理人 石川 泰男  
代理人 特許業務法人 インテクト国際特許事務所  
代理人 石橋 良規  

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