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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01M
管理番号 1304810
審判番号 不服2013-1779  
総通号数 190 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-01-30 
確定日 2015-08-27 
事件の表示 特願2011-505950「非水電解質電池用負極活物質、その製造方法、非水電解質電池及び電池パック」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 9月30日国際公開、WO2010/110035〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2010年 3月 8日(優先権主張2009年 3月25日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成24年 3月 6日付けで拒絶理由が通知され、同年 5月28日付けで意見書と手続補正書が提出され、同年 6月20日付けで拒絶理由が通知され、同年 8月22日付けで意見書と手続補正書が提出され、同年10月16日付けで拒絶査定がなされ、平成25年1月30日付けで拒絶査定不服審判が請求されたものである。
その後、平成25年 9月24日付けで当審からの拒絶理由が通知され、同年12月 2日付けで意見書と手続補正書が提出され、同年12月13日付けの上申書と平成26年 3月18日付けの上申書とが提出され、同年 4月22日付けで当審からの審尋がなされ、同年 7月 4日付けで回答書が提出され、同年 9月12日付けで当審からの通知書が通知され、同年10月14日付けの上申書と同年11月17日付けの上申書とが提出され、同年12月 8日付けで当審からの拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成27年 2月 9日付けで意見書と手続補正書が提出されている。


第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1ないし5に係る発明は、平成27年2月 9日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
単斜晶系二酸化チタンの結晶構造よりなり、Cu-Kα線源を用いた粉末X線回折法による(001)面の面間隔が6.223Å以上である酸化チタン化合物であって、前記酸化チタン化合物は粒子の形状を有し、かつ、下記(I)式を満足する、非水電解質電池用負極活物質;
I(200)/I(001)≦0.5 (I)
但し、I(001)は前記(001)面のピーク強度であり、I(200)は前記粉末X線回折法による(200)面のピーク強度である。」


第3 当審拒絶理由
当審拒絶理由は、理由[2]として、「本願発明は、その優先権主張の基礎とされた先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。」という理由と、
理由[3]として、「本願発明は、その優先権主張の基礎とされた先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」という理由とを含んでいる。


引用例1:国際公開2009/028530号


第4 引用例1の記載事項
引用例1の記載事項は、以下のとおり。
(1)「 X線回折パターンが(200)面のピークを除いてブロンズ型の二酸化チタンに相当し、(001)面及び(200)面のピーク強度比(I_((200))/I_((001)))が0.2以下であるチタン酸化合物。」(特許請求の範囲の請求項1)

(2)「本発明者らは、…(審決注;「…」は、記載の省略を示す。以下、同様。)鋭意研究を重ねた結果、特定の結晶構造を有する新規なチタン酸化合物を見出し、更に、このチタン酸化合物を電極活物質として用いた電池は、高い電池容量と優れたサイクル特性が得られることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は、X線回折パターンが(200)面のピークを除いてブロンズ型二酸化チタンに相当し、(001)面及び(200)面のピーク強度比(I_((200))/I_((001)))が0.2以下であるチタン酸化合物である。」(明細書[0006]?[0007])

(3)「本発明は、チタン酸化合物であって、X線回折パターンが(200)面のピークを除いてブロンズ型二酸化チタンに相当し、(001)面及び(200)面のピーク強度比(I_((200))/I_((001)))が0.2以下であることを特徴とする。ブロンズ型二酸化チタンに相当するX線回折パターンとは、JCPDSカード35-0088、46-1237、46-1238で示されるものである。線源としてCu-Kα線を用いたX線回折パターンにおいてブロンズ型二酸化チタンでは、回折角(2θ)が15°の近傍で、(001)面と(200)面の2つピークが観測されているが、発明のチタン酸化合物では、(001)面のピークは認められるものの、(200)面のピークが実質的に認めらない。即ち、(001)面及び(200)面のピーク強度をそれぞれI_((001))、I_((200))とすると、その強度比I_((200))/I_((001))が0.2以下となる。…」(明細書[0009])

(4)「…本発明における二次粒子とは、一次粒子同士が強固に結合した状態にあり、…ほとんどが二次粒子として残るものである。…粒子形状も、一次粒子と同様に制限は受けず、様々な形状のものを用いることができる。…」(明細書[0010])

(5)「…本発明は電極活物質であって、前記のX線回折パターンが(200)面のピークを除いてブロンズ型に酸化チタンに相当し、(001)面及び(200)面のピーク強度比(I_((200))/I_((001)))が大きくとも0.2であるチタン酸化合物を含むことを特徴とする。本発明の電極活物質を用いると、サイクル特性が優れたリチウム電池が得られ、また、この電池は電池容量も大きい。…」(明細書[0026])

(6)「…本発明は、蓄電デバイスであって、前記電極活物質を用いることを特徴とする。蓄電デバイスとしては、具体的には、リチウム電池、キャパシタ等が挙げられ、これらは電極、対極及びセパレーターと電解液とからなり、電極は、前記電極活物質にカーボンブラックなどの導電材とフッ素樹脂などのバインダを加え、適宜成形または塗布して得られる。リチウム電池の場合、前記電極活物質を正極に用い、対極として金属リチウム、リチウム合金など、または黒鉛などの炭素系材料などを用いることができる。あるいは、前記電極活物質を負極として用い、正極にマンガン酸リチウム、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、バナジン酸リチウム等のリチウム・遷移金属複合酸化物、リン酸鉄リチウム等のオリビン型化合物等を用いることができる。…セパレーターには、いずれにも、多孔性ポリエチレンフィルムなどが用いられ、電解液には、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、1,2-ジメトキシエタンなどの溶媒にLiPF_(6)、LiClO_(4)、LiCF_(3)SO_(3)、LiN(CF_(3)SO_(2))_(2)、LiBF_(4)などのリチウム塩を溶解させたものなど常用の材料を用いることができる。」(明細書[0029])

(7)「実施例10
TiO_(2)換算で250.0gに相当するオルトチタン酸、水酸化カリウム100.1g及び結着剤としてポリエチレングリコール25.0gとを含む水性スラリー5000gを、噴霧乾燥機(MDL-050C型:藤崎電気製)を用いて、入口温度200℃、出口温度70?90℃の条件で噴霧乾燥することで、乾燥造粒物を得た。この乾燥造粒物を電気炉を用いて大気中、750℃の温度で5時間加熱焼成した。加熱焼成後、冷却し、よく混合してから再度、同じ条件で加熱焼成し、K_(2)Ti_(4)O_(9)の造粒物を得た。得られたK_(2)Ti_(4)O_(9)の造粒物を、1モルの濃度の塩酸水溶液に10g/リットルの濃度になるように添加し、攪拌しながら、室温で4日間反応させてH_(2)Ti_(4)O_(9)の造粒物を得た。尚、この4日間は、1日毎に固形分を沈降させ、塩酸水溶液を取り替えた。得られたH_(2)Ti_(4)O_(9)の造粒物を、濾過、洗浄し、60℃の温度で12時間大気中乾燥した後、電気炉を用い大気中で300℃の温度で5時間加熱脱水し、本発明の二次粒子からなるチタン酸化合物を得た(試料J)。
このものの300?600℃の温度範囲における加熱減量を、示差熱天秤を用いて測定したところ、1.9重量%であった。また、炭素含有量を分析したところ、TiO_(2)換算のチタン酸化合物に対し、C換算で0.0%で、炭素は含まれていなかった。」(明細書[0038])

(8)「評価1:組成及びX線回折の測定
実施例1?14及び比較例1?3で得られたチタン酸化合物(試料A?R)の粉末X線回折(X線:Cu-Kα)を測定した。このX線回折チャートから、(001)面及び(200)面のピーク強度を測定した。その結果を表1に示す。また、試料A、Q、R(当審注:下記(9)?(11)の記載により、「試料A、P、Q」の明らかな誤記であると認める。)のX線回折チャートを図1?3に示す。本発明のチタン酸化合物は、X線回折パターンがブロンズ型二酸化チタンに相当するが、(001)面及び(200)面のピーク強度比(I_((200))/I_((001)))が0.2以下であることが判る。尚、表2に示した組成式H_(x)Ti_(y)O_(z)のx、y、zは、加熱減量が全て結晶水(H_(2)O)であると仮定して算出した。
評価2:比表面積の測定
実施例1?14及び比較例1?3で得られたチタン酸化合物(試料A?N、P?R)の比表面積を、比表面積測定装置(モノソーブ:ユアサアイオニクス製)を用いて、BET法により測定した。その結果を表1に示す。
[表1]

」(明細書[0047]?[0049])

(9)「実施例1
市販のルチル型高純度二酸化チタン(PT-301:石原産業製)20.0gと炭酸ナトリウム8.85gとを均一に混合した。この混合物を電気炉を用い、大気中で800℃の温度で20時間加熱焼成した。加熱焼成後、冷却し、よく混合してから再度、同じ条件で加熱焼成し、Na_(2)Ti_(3)O_(7)を得た。得られたNa_(2)Ti_(3)O_(7)を、1モルの濃度の塩酸水溶液に10g/リットルの濃度になるように添加し、攪拌しながら、室温で4日間反応させてH_(2)Ti_(3)O_(7)を得た。尚、この4日間は、1日毎に固形分を沈降させ、塩酸水溶液を取り替えた。得られたH_(2)Ti_(3)O_(7)を、濾過、洗浄し、60℃の温度で12時間大気中で乾燥した後、電気炉を用い大気中で260℃の温度で20時間加熱脱水し、本発明のチタン酸化合物を得た(試料A)。
このものの300?600℃の温度範囲における加熱減量を、示差熱天秤を用いて測定したところ、1.0重量%であった。」(明細書[0031])

(10)「比較例1
実施例1において、H_(2)Ti_(3)O_(7)の加熱脱水を、350℃の温度で20時間とした以外は実施例1と同様にして比較対象のチタン酸化合物(試料P)を得た。
このものの300?600℃の温度範囲における加熱減量を、示差熱天秤を用いて測定したところ、0.5重量%あった。
比較例2
実施例1において固液分離、乾燥後のH_(2)Ti_(3)O_(7)を、比較対象のチタン酸化合物(試料Q)とした。このものの300?600℃の温度範囲における加熱減量を、示差熱天秤を用いて測定したところ、6.5重量%あった。」(明細書[0044]?[0045])

(11)「図面の簡単な説明
[図1]試料A(実施例1)のX線回折チャートである。
[図2]試料P(比較例1)のX線回折チャートである。
[図3]試料Q(比較例2)のX線回折チャートである。
…」(明細書[0063])

(12)「

」 上記(3)、(8)、(11)の記載を踏まえると、[図1]の2θが10?15°の間に表れた最大のピークは、実施例1のチタン酸化合物(試料A)における、ブロンズ型二酸化チタンの(001)面のピークであるところ、そのピークは、[図1]に基づく実測によって、2θ=14.2°に表れたことが読み取れる。

(13)「

」 上記(3)、(8)、(11)の記載を踏まえると、[図2]の2θが10?15°の間に表れた最大のピークは、比較例1のチタン酸化合物(試料P)における、ブロンズ型二酸化チタンの(001)面のピークであるところ、そのピークは、[図2]に基づく実測によって、2θ=14.2°に表れたことが読み取れる。

(14)「

」 上記(3)、(8)、(11)の記載を踏まえると、[図3]の2θが10?15°の間に表れた最大のピークは、比較例2のチタン酸化合物(試料Q)における、ブロンズ型二酸化チタンのピークとはいえないピークであるところ、そのピークは、[図3]に基づく実測によって、2θ=11.4°に表れたことが読み取れる。


第5 当審の判断
5-1 引用例1に記載された発明
ア. 上記第4の(7)によれば、引用例1には、実施例10について「K_(2)Ti_(4)O_(9)の造粒物を、1モルの濃度の塩酸水溶液に10g/リットルの濃度になるように添加し、攪拌しながら、室温で4日間、1日毎に固形分を沈降させ、塩酸水溶液を取り替えて、H_(2)Ti_(4)O_(9)の造粒物を得、得られたH_(2)Ti_(4)O_(9)の造粒物を、濾過、洗浄し、60℃の温度で12時間大気中乾燥した後、電気炉を用い大気中で300℃の温度で5時間加熱脱水して得た、二次粒子からなるチタン酸化合物」が記載されているということができる。

イ. 上記ア.の「チタン酸化合物」は、上記第4の(1)、(2)、(5)によれば、「特定の結晶構造を有するところ、X線回折パターンが(200)面のピークを除いてブロンズ型の二酸化チタンに相当し、(001)面及び(200)面のピーク強度比(I_((200))/I_((001)))が0.2以下であるチタン酸化合物」であって、「電極活物質に用いると、サイクル特性が優れ、電池容量も大きいリチウム電池が得られる」ものであるといえる。

ウ. そして、上記第4の(8)によれば、上記ア.の「チタン酸化合物」である、実施例10で得られたチタン酸化合物(試料J)については、「粉末X線回折(X線:Cu-Kα)で測定すると、X線回折パターンがブロンズ型二酸化チタンに相当するが、(001)面及び(200)面のピーク強度比(I_((200))/I_((001)))は0.00」とされている。

エ. また、上記アの「チタン酸化合物」は、上記第4の(2)、(5)、(6)によれば、「正極にマンガン酸リチウム、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、バナジン酸リチウム等のリチウム・遷移金属複合酸化物、リン酸鉄リチウム等のオリビン型化合物を用い」た「リチウム電池の場合、」負極の電極活物質となるものである。

オ. そうすると、引用例1には、
「K_(2)Ti_(4)O_(9)の造粒物を、1モルの濃度の塩酸水溶液に10g/リットルの濃度になるように添加し、攪拌しながら、室温で4日間、1日毎に固形分を沈降させ、塩酸水溶液を取り替えて、H_(2)Ti_(4)O_(9)の造粒物を得、得られたH_(2)Ti_(4)O_(9)の造粒物を、濾過、洗浄し、60℃の温度で12時間大気中乾燥した後、電気炉を用い大気中で300℃の温度で5時間加熱脱水して得た、二次粒子からなるチタン酸化合物であって、そのチタン酸化合物を粉末X線回折(X線:Cu-Kα)で測定すると、X線回折パターンが(200)面のピークを除いてブロンズ型の二酸化チタンに相当する特定の結晶構造であり、(001)面及び(200)面のピーク強度比(I_((200))/I_((001)))が0.00であり、正極にマンガン酸リチウム、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、バナジン酸リチウム等のリチウム・遷移金属複合酸化物、リン酸鉄リチウム等のオリビン型化合物を用いたリチウム電池の場合、負極の電極活物質となる、二次粒子からなるチタン酸化合物。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。


5-2 本願発明と引用発明との対比
ア. 本願発明と引用発明とを対比するに、まず、本願明細書の段落番号0008?0011に、「…近年、単斜晶系の二酸化チタン(非特許文献1を参照)が注目されている。…単斜晶系の二酸化チタンは、チタンイオン1つあたりの脱挿入可能なリチウムイオンの数が最大で1.0である。よって、理論容量は約330 mAh/gであり、高容量の負極活物質として使用できることが期待されている。
例えば、特許文献1には、青銅型構造の酸化チタンTiO_(2)を負極活物質として用いたリチウムイオン蓄電池が開示されている。しかしながら、特許文献1には、該酸化チタンTiO_(2)を活物質に用い、対極にリチウム金属を用いたリチウムイオン蓄電池の実質的な容量は約200 mAh/gであることが開示されている(例えば、0029段落及び図4)。
また、特許文献2には、チタン酸ブロンズ型の結晶構造を有する二酸化チタンを活物質として用いたリチウム二次電池が開示されている。しかしながら、特許文献2には、該二酸化チタンを活物質に用い、対極にリチウム金属を用いた時のリチウム二次電池(コイン型セル)は、活物質質量当たりの初期挿入及び脱離容量が160?170 mAh/gであることが開示されている(例えば、0053及び0057段落)。
このように、単斜晶系二酸化チタンを活物質に用いた場合の理論容量は約330 mAh/gであるにも関わらず、特許文献1及び2に開示された実質的な容量は理論量より著しく低い。…」と記載されているように、本願明細書では「単斜晶系二酸化チタン」は、「青銅型構造の二酸化チタン」あるいは「ブロンズ型の二酸化チタン」として扱うこともできるといえ、引用発明の「ブロンズ型の二酸化チタン」は本願発明の「単斜晶系二酸化チタンの結晶構造」に相当するといえる。

イ. また、引用発明の「粉末X線回折(X線:Cu-Kα)で測定」した「(001)面」、「粉末X線回折(X線:Cu-Kα)で測定」した「(001)面及び(200)面のピーク強度比(I_((200))/I_((001)))」は、それぞれ、本願発明の「Cu-Kα線源を用いた粉末X線回折法による(001)面」、「I(200)/I(001) 但し、I(001)はCu-Kα線源を用いた粉末X線回折法による(001)面のピーク強度であり、I(200)は前記粉末X線回折法による(200)面のピーク強度である。」に相当するし、引用発明の「二次粒子からなるチタン酸化合物」は、引用例1から摘示した上記第4の(4)によれば、粒子形状のチタン酸化合物といえるから、本願発明の「粒子の形状」の「酸化チタン化合物」に相当するといえる。また、引用発明の「正極にマンガン酸リチウム、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、バナジン酸リチウム等のリチウム・遷移金属複合酸化物、リン酸鉄リチウム等のオリビン型化合物を用いたリチウム電池の場合、負極の電極活物質となる、二次粒子からなるチタン酸化合物」は、技術常識に照らし、本願発明の「非水電解質電池用負極活物質」に相当するといえる。

ウ. また、本願明細書の段落番号0036?0039に、「…Cu-Kα線を用いて、2θ=14°付近に現われる(001)面のピークの位置を測定する。…またさらに、強度比 I(200)/I(001)を算出するために、2θ=15°付近に現れる(200)面のピークの強度を測定する。これら2つの回折線が分離している場合は、それぞれの回折線強度から、その比を算出する。
(001)のピークと(200)のピークが容易に分離できない場合は、専用のソフトウェアを用いた電算機で処理することにより、各ピーク強度を求めることができる。そのような手法によってもこれら二つのピークが分離できない場合は、本実施形態においては強度比I(200)/I(001)が0であるとみなす。」と記載され、さらに、本願明細書の段落番号0119?0151には、本願発明の実施例4および実施例6として、強度比I(200)/I(001)が0の場合があることが記載されていることからして、引用発明の「ピーク強度比(I_((200))/I_((001)))が0.00である」ことは、本願発明の「下記(I)式を満足する、
I(200)/I(001)≦0.5 (I)」に相当する。

エ. そうすると、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
単斜晶系二酸化チタンの結晶構造を有し、Cu-Kα線源を用いた粉末X線回折法による(001)面を有する酸化チタン化合物であって、前記酸化チタン化合物は粒子の形状を有し、かつ、下記(I)式を満足する、非水電解質電池用負極活物質;
I(200)/I(001)≦0.5 (I)
但し、I(001)は前記(001)面のピーク強度であり、I(200)は前記粉末X線回折法による(200)面のピーク強度である。

<相違点>
相違点1:結晶構造が、本件発明は、「単斜晶系二酸化チタンの結晶構造よりな」るのに対し、引用発明は、「X線回折パターンが(200)面のピークを除いて単斜晶系二酸化チタンに相当する特定の結晶構造」であり、単斜晶系二酸化チタンの結晶構造よりなるのか否か明らかでない点。

相違点2:(001)面の面間隔が、本件発明では、6.223Å以上であるのに対して、引用発明1では、6.223Å以上であるのか否か明らかでない点。


5-3 相違点についての検討
ア. まず、上記相違点1につき検討するに、二酸化チタンの結晶構造は、X線回折パターンを解析することによって決定されるところ、その結晶構造が、単斜晶系二酸化チタンよりなるとは、出願時の技術水準(例えば、国際公開2009/028553号の[0008]、国際公開2011/010371号の[0008]、特開2013-249223号公報の【0022】)を考慮すると、X線回折パターンが、JCPDSカード35-0088、46-1237、46-1238で示されるものに合致することを意味し、例えば、JCPDSカード46-1237によれば強度比I(200)/I(001)は1.62と、JCPDSカード46-1238によれば強度比I(200)/I(001)は0.933と算出される。

イ. ここで、引用発明は、X線回折パターンが(200)面のピークを除いて単斜晶系二酸化チタンに相当する特定の結晶構造であるとされているが、引用例1から摘示した上記第4の(3)によれば、引用発明においても、単斜晶系二酸化チタンに相当するX線回折パターンとは、JCPDSカード35-0088、46-1237、46-1238で示されるものとされているから、引用発明についてのX線回折パターンは、(200)面のピーク強度が0.00であることを除くと、換言すると、強度比I(200)/I(001)が0.00であることを除くと、JCPDSカード35-0088、46-1237、46-1238で示される、単斜晶系二酸化チタンよりなっているといえる。

ウ. これに対して、上記5-2のウ.で検討したとおり、本願発明の単斜晶系二酸化チタンの結晶構造は強度比I(200)/I(001)が0.5以下であって0の場合を含んでいることから、上記ア.に示した、JCPDSカード35-0088、46-1237、46-1238に基づき算出される強度比I(200)/I(001)を満足しない、すなわち、当該結晶構造における(200)面のピークは、JCPDSカード35-0088、46-1237、46-1238に示されるX線回折パターンとは合致しないこととなるため、本願発明の単斜晶系二酸化チタンの結晶構造よりなるというのは、X線回折パターンが(200)面のピークを除いて単斜晶系二酸化チタンよりなることを意味していると解さざるを得ない。

エ. してみると、引用発明と本願発明とは、それらのX線回折パターンにおいて区別がつくとはいえないから、上記相違点1は実質的な相違点とはいえない。

オ. 次に、上記相違点2につき検討するに、引用発明は、上記一致点を備え、上記エ.に示したとおり、本願発明とは、X線回折パターンにおいて区別がつくとはいえないものであるところ、上記5-1のオ.に示したとおりの、K_(2)Ti_(4)O_(9)を1モルの濃度の塩酸水溶液中で撹拌して、H_(2)Ti_(4)O_(9)を得、そのH_(2)Ti_(4)O_(9)を大気中乾燥した後、大気中で300℃の温度で5時間加熱脱水するとの製造工程により得られるものである。このような引用発明の当該製造工程を、本願明細書の段落番号0120?0123に記載される、実施例4の酸化チタン化合物の製造工程と比べると、300℃の温度での加熱脱水時間が、実施例4の酸化チタン化合物の製造工程では3時間であるのに対し、引用発明での製造工程では5時間である点でのみで相違し、その余の点で一致しているといえる。

カ. ここで、本願明細書の段落番号0053の「加熱条件は、…(001)面の面間隔dが6.22Å以上となるように、適切に選択する。…」との記載を考慮し、加熱条件と(001)面の面間隔との対応関係につきに検討するに、本願明細書の段落番号0125、0133、0137の記載によれば、上記オ.に示した実施例4の酸化チタン化合物の(001)面の面間隔は、6.223Åを0.011Å上回る、6.234Åであったとされ、また、本願明細書の段落番号0160?0162の記載によれば、空気中320℃で20時間加熱して得た、比較例2の単斜晶系二酸化チタンでは、その(001)面の面間隔は、6.223Åを0.006Å下回る、6.217Åであったとされている。

キ. してみると、上記オ.に示した実施例4において、酸化チタン化合物の加熱脱水時間を3時間から5時間に延ばして、引用発明での製造工程と同じにしても5時間という加熱脱水時間は、さらに温度の高い320℃での20時間の加熱脱水時間よりは短時間であるから、その酸化チタン化合物の(001)面の面間隔は、6.234Å近傍であって、6.223Åを下回ることはないことから、6.223Å以上の値を示すことになる。

ク. 上記オ.?キ.での検討から得られた、引用発明の単斜晶系二酸化チタンの(001)面の面間隔は6.223Å以上の値を示すことになるとのことは、上記イ.で示した、引用発明についてのX線回折パターンは、(200)面のピーク強度が0.00であることを除くと、JCPDSカード35-0088、46-1237、46-1238で示される、単斜晶系二酸化チタンよりなっているとのこととも整合する。すなわち、例えば、JCPDSカード46-1237によれば(001)面の面間隔は6.235Åであり、JCPDSカード46-1238によれば(001)面の面間隔は6.2373Åであり、いずれにしても、引用発明についてのX線回折パターによって示される(001)面の面間隔は、6.223Å以上の値を示すことになるためである。

ケ. 念のため、引用例1に記載される事項から導出される、引用発明についての(001)面の面間隔につき検討するに、引用例1から摘示した上記第4の(7)によれば、引用発明である、実施例10のチタン酸化合物(試料J)は、加熱減量が1.9重量%であったのに対し、引用例1から摘示した上記第4の(9)によれば、実施例1のチタン酸化合物(試料A)は、加熱減量が1.0重量%であり、また、引用例1から摘示した上記第4の(10)によれば、比較例1のチタン酸化合物(試料P)は、加熱減量が0.5重量%であり、比較例2のチタン酸化合物(試料Q)は、加熱減量が6.5重量%であったとされている。

コ. ところで、引用例1から摘示した上記第4の(12)からは、実施例1のチタン酸化合物(試料A)においては、2θが10?15°の間での最大のピークは、2θ=14.2°に表れた、ブロンズ型二酸化チタンの(001)面のピークであり、引用例1から摘示した上記第4の(13)からは、比較例1のチタン酸化合物(試料P)においては、2θが10?15°の間での最大のピークは、2θ=14.2°に表れた、ブロンズ型二酸化チタンの(001)面のピークであり、引用例1から摘示した上記第4の(14)からは、比較例2のチタン酸化合物(試料Q)においては、2θが10?15°の間での最大のピークは、2θ=11.4°に表れた、ブロンズ型二酸化チタンのピークとはいえないピークであるといえる。すなわち、2θが10?15°の間での最大のピークとしては、実施例1のチタン酸化合物(試料A、以下、単に、「実施例1」という。)では、2θ=14.2°に表れた、ブロンズ型二酸化チタンの(001)面のピーク(以下、単に、「(001)面のピーク」という。)であり、比較例1のチタン酸化合物(試料P、以下、単に「比較例1」という。)では、2θ=14.2°に表れた、(001)面のピークであり、比較例2のチタン酸化合物(試料Q、以下、単に「比較例2」という。)では、2θ=11.4°に表れた、ブロンズ型二酸化チタンのピークとはいえないピークであるといえる。

サ. ここで、次に示すブラッグの式によれば、ピーク位置から面間隔を算出できるとの法則を考慮して、上記コ.に示したピーク位置から面間隔を算出すると、
「 2dsinθ=nλ
dは面間隔、λは使用したX線の波長(Cu-Kαの場合、1.5418Å)、nは整数((001)面の場合、1)、θはピーク位置の角度。」

実施例1で2θ=14.2°に表れた(001)面のピークからは、その面間隔が6.237Åと算出され、比較例1で2θ=14.2°に表れた(001)面のピークからも、その面間隔が6.237Åと算出され、比較例2で2θ=11.4°に表れたブロンズ型二酸化チタンのピークとはいえないピークからは、その面間隔が7.762Åと算出される。

シ. そうすると、上記ケ.に示したとおり、加熱減量が、比較例2の6.5重量%、引用発明の1.9重量%、実施例1の1.0重量%、比較例1のの0.5重量%の順に低減するのに対応して、上記コ.?サ.に示したとおり、2θが10?15°の間での最大のピークから算出される、面間隔が、比較例2の7.762Å、実施例1の6.237Å、比較例1の6.237Åの順にならぶこととなるから、加熱減量の低減に応じて、2θが10?15°の間での最大のピークから算出される、面間隔は狭まる関係にあるといえる。また、その面間隔は、ブロンズ型二酸化チタン、すなわち、単斜晶系二酸化チタンの結晶構造が形成されている、実施例1、比較例1においては、(001)面の面間隔である。

ス. そして、上記シ.に示したように、加熱減量の低減に応じて、2θが10?15°の間での最大のピークから算出される、面間隔は狭まる関係にあることから、加熱減量が、実施例1の1.0重量%よりも多い、1.9重量%である、引用発明においては、2θが10?15°の間での最大のピークから算出される、面間隔は、実施例1の6.237Åと同等であるか、それよりも広いこととなるし、その面間隔は、引用発明においても、実施例1、比較例1と同様に、単斜晶系二酸化チタンの結晶構造が形成されているから、(001)面の面間隔である。

セ. 上記ケ.?ス.での検討からしても、上記オ.?キ.での検討や上記ク.での検討と同様に、引用発明についての(001)面の面間隔は、6.223Å以上の値を示すことになるといえる。

ソ. したがって、上記相違点2も実質的な相違点ではない。

タ. 以上のとおり、本願発明と引用発明との間に実質的な相違はなく、本願発明は、引用例1に記載された発明である。また、仮に他に実質的な相違点があったとしても、微差であって、当業者が適宜になし得る設計事項にすぎない。


5-4 小括
したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。また、仮に実質的な相違点があったとしても、本件発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易になし得たものであるから、特許法第29条第2項の規定より特許を受けることができない。


5-5 補足
(1)請求人の主張
請求人は、本件発明と引用発明との間の相違につき、平成27年 2月 9日付けの意見書で、「
a) 引用例1に記載のチタン酸化合物は、その請求項1に記載されているように、X線回折パターンが(200)面のピークを除いてブロンズ型の二酸化チタンに相当し、(001)面及び(200)面のピーク強度比(I_((200))/I_((001)))が0.2以下であるチタン酸化物であり、ブロンズ型の二酸化チタン(単斜晶系二酸化チタン)の結晶構造よりなるものではなく、実際、そのチタン酸化合物の組成式は、例えば、実施例10ではH_(2)Ti_(11)O_(23)と記載されているように、プロトンを含んでおり、ブロンズ型の二酸化チタンの結晶構造にプロトンが混入した結晶構造を有するものであるし、引用例1の図1では、2θ=13°付近と2θ=33°付近にピークがあり、これらのピークは、結晶中にプロトンが存在することを間接的に表しているのに対し、本願発明の酸化チタン化合物は、単斜晶系二酸化チタンの結晶構造よりなるものであるため、引用例1に記載のチタン酸化合物は、本願発明の酸化チタン化合物とは相違する。
b) 引用例1の実施例10では、原料の一次粒子に結着剤を添加し、二次粒子として用いるとの製造方法によって製造されており、この結着剤は、その後の焼成工程を経ても粒子同士の界面に残存して、二次粒子の状態になっているために、表面積が小さく、水(プロトン)が抜け難く、結晶中にプロトンが残存していると考えられ、このような引用例1の実施例10の製造方法によって、結晶中にプロトンが残存していない、本願発明の酸化チタン化合物を製造することはできない。」旨主張している。


(2)当審の見解
しかし、請求人の上記主張は、以下の理由により、採用できない。
ア. まず、請求人の上記(1)のa)に示した主張につき検討するに、引用例1から摘示した上記第4の(7)?(8)によれば、引用発明である、実施例10のチタン酸化合物(試料J)は、300?600℃の範囲での加熱減量が1.9重量%であり、その加熱減量に基づいて算出される当該チタン酸化合物の組成式はH_(2)Ti_(11)O_(23)であったとの記載がある。そして、その加熱減量についての、引用例1の「本発明は、X線回折パターンが(200)面のピークを除いてブロンズ型二酸化チタンに相当し、(001)面及び(200)面のピーク強度比(I(200)/I(001))が0.2以下であるチタン酸化合物の製造方法であって、H_(2)Ti_(3)O_(7)を200?330℃の範囲の温度で加熱脱水するか、H_(2)Ti_(4)O_(9)を250?650℃の範囲の温度で加熱脱水する…ことを特徴とする。H_(2)Ti_(3)O_(7)、H_(2)Ti_(4)O_(9)…のいずれにおいても、それぞれの加熱温度が前記範囲より低いと、前記の(001)面及び(200)面のX線回折パターンを示さなくなり、高いと脱水が進みすぎてブロンズ型二酸化チタンが生成し易くなる。目的とするチタン酸化合物の組成は、加熱条件を調整して脱水量を制御することで…所望のチタン酸化合物を得ることができる。脱水状態の指標としては、示差熱天秤により測定した300?600℃の温度範囲における加熱減量を用いるのが好ましく、この加熱減量が0.3?3.0重量%の範囲となるように加熱すれば、本発明のチタン酸化合物が得られ易くなる。」(明細書[0012])との記載によれば、加熱減量は脱水量の制御状態の指標として用いられており、所望のチタン酸化合物は加熱脱水する加熱条件を調整して、脱水が進みすぎないように、脱水量を制御することにより得ることができると認められる。

イ. 上記ア.に示した、引用例1の記載事項によれば、引用発明である、実施例10のチタン酸化合物(試料J)は、組成式はH_(2)Ti_(11)O_(23)であったとされているが、その組成式は、水分を含んだ結晶構造となっていることを表しているといえる。

ウ. ここで、上記5-3のア.?エ.での検討のとおり、引用例1の記載事項と本願明細書の記載事項に基づくと、本願発明の単斜晶系二酸化チタンの結晶構造よりなるというのは、引用発明と同様、X線回折パターンが(200)面のピークを除いて単斜晶系二酸化チタンよりなることを意味していると解さざるを得ないところ、さらに、本願明細書の記載事項につき検討する。

エ. 本願明細書には、本願発明における酸化チタン化合物について、「ここで、単斜晶系二酸化チタンの結晶構造をTiO_(2)(B)と称することとする。」(段落番号0024)、「…酸化チタン化合物は、下記(I)で規定されるピーク強度比を有することが望ましい。
I(200)/I(001)≦0.5 (I)
但し、I(001)は(001)面のピーク強度であり、I(200)は、Cu-Kα線源を用いた粉末X線回折法において2θ=15°付近に現れる(200)面のピークの強度である。… ピーク強度比 I(200)/I(001)が0.5以下であることが好ましい。ピーク強度比I(200)/I(001)が0.5以下であると、結晶構造中に水が適度に維持され、リチウムイオンのホストサイトの容積が十分に確保される。…」(段落番号0031?0033)、「…正確な加熱処理を行うために、予め電気炉を加熱しておく。試料は電気炉が設定温度に達した後に入れる。試料に特異的に決定された加熱条件で加熱した後、試料を直ちに炉から取り出し、大気中で急冷する。これにより、加熱条件を厳密にすることができ、生成したTiO_(2)(B)結晶が過剰に脱水されることを抑制することができる。」(段落番号0054)、および、「従来のTiO_(2)(B)構造の二酸化チタンの合成方法では、TiO_(2)(B)の結晶性が十分に高まるように、プロトン交換体の加熱条件を決定していると考えられる。しかしながら、TiO_(2)(B)の結晶性が高くなりすぎると、結晶格子の脱水反応が過剰に生じ、格子面間隔が狭くなる。特に、(001)面に相当する回折線から計算された面間隔dは、6.22Å未満となる(非特許文献1を参照)。」(段落番号0058)との記載がある。そして、これらの記載によれば、本願発明の酸化チタン化合物も、単斜晶系二酸化チタンの結晶構造が過剰に脱水されることを抑制して、その結晶構造中に水を適度に維持することによって得られることから、水分を含んだ結晶構造となっていると認められる。

オ. 上記ア.?エ.に示した、引用例1の記載事項と本願明細書の記載事項とに基づく検討によれば、引用発明は、X線回折パターンが(200)面のピークを除いてブロンズ型の二酸化チタン、すなわち、単斜晶系二酸化チタンよりなり、水分を含んだ結晶構造となっているところ、本願発明における酸化チタン化合物も、上記引用発明と同様に、X線回折パターンが(200)面のピークを除いて単斜晶系二酸化チタンよりなり、水分を含んだ結晶構造となっていると認められる。

カ. したがって、請求人の、上記(1)のa)に示した主張は、引用例1の記載事項と本願明細書の記載事項に照らし、当を得た主張とはいえない。

キ. 次に、請求人の上記(1)のb)に示した主張につき検討するに、引用例1から摘示した上記第4の(7)によれば、引用発明である、実施例10のチタン酸化合物に対して、炭素含有量を分析した結果、炭素は含まれていなかったとされているため、上記(1)のb)に示した主張のうちの、引用例1の実施例10では結着剤は焼成工程を経ても粒子同士の界面に残存しているとの主張には根拠がない。また、引用例1から摘示した上記第4の(8)によれば、前記実施例10において得られたチタン酸化合物に対してBET法により比表面積を測定した結果、25.3m^(2)/gであったとの記載があるところ、BET法により測定した比表面積について、本願明細書には、「酸化チタン化合物のBET比表面積は特に制限されないが、6?200 m^(2)/gが好ましい。」(段落番号0042)等の記載があり、比表面積の点でも差異があるとはいえないため、上記(1)のb)に示した主張のうちの、引用例1の実施例10では比表面積が小さいとの主張にも根拠がない。また、上記ア.?エ.に示した、引用例1の記載事項と本願明細書の記載事項とに基づく検討によれば、本願発明の酸化チタン化合物も、引用発明と同様、水分を含んだ結晶構造となっていると認められるため、上記(1)のb)に示した主張のうちの、引用例1の実施例10の製造方法によって、結晶中に水(プロトン)が残存していない、本願発明の酸化チタン化合物を製造することはできないとの主張にも根拠がない。
したがって、請求人の、上記(1)のb)に示した主張も、引用例1の記載事項と本件明細書の記載事項に照らし、当を得た主張とはいえない。

ク. よって、請求人の上記主張は採用できない。


第6 むすび

以上のとおりであるから、当審拒絶理由は妥当である。

したがって、本願は、この拒絶理由によって拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-06-19 
結審通知日 2015-06-23 
審決日 2015-07-10 
出願番号 特願2011-505950(P2011-505950)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01M)
P 1 8・ 113- WZ (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山下 裕久  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 小川 進
池渕 立
発明の名称 非水電解質電池用負極活物質、その製造方法、非水電解質電池及び電池パック  
代理人 竹内 将訓  
代理人 堀内 美保子  
代理人 幸長 保次郎  
代理人 白根 俊郎  
代理人 野河 信久  
代理人 赤穂 隆雄  
代理人 佐藤 立志  
代理人 福原 淑弘  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 中村 誠  
代理人 砂川 克  
代理人 岡田 貴志  
代理人 峰 隆司  
代理人 河野 直樹  
代理人 井関 守三  

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