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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1304820
審判番号 不服2014-11405  
総通号数 190 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-06-17 
確定日 2015-08-27 
事件の表示 特願2010-161243「品質測定装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 2月 2日出願公開、特開2012- 21922〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成22年7月16日の出願であって、平成25年12月3日付けで拒絶理由が通知され、この通知に対して平成26年1月20日付けで意見書が提出されるとともに同日付けで手続補正がなされ、同年3月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月17日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成26年6月17日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成26年6月17日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]

1 本件補正について

本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載を、以下のとおり、補正後の請求項1の記載に補正する事項を含むものである。

(補正前)

「測定対象物を支持する支持手段、前記測定対象物に光を照射する投光手段、前記測定対象物からの透過光を受光する受光手段及び前記透過光を分光分析する分光分析手段を備えた、前記測定対象物の内部品質を測定する品質測定装置であって、
前記受光手段を前記投光手段に対向する位置から前記照射光の光軸と直交する方向へオフセット距離だけ平行移動させた位置に配置し、このように配置された前記受光手段が前記測定対象物内を拡散透過した光を受光可能なように前記支持手段にスリット又は開口を形成してなり、
前記オフセット距離を、前記測定対象物の基準サンプルの幅よりも小さい範囲で、前記基準サンプルの吸収信号のS/N比が大きくなるように設定してなることを特徴とする品質測定装置。」(以下、「本願発明」という。)

(補正後)

「測定対象物を支持する支持手段、前記測定対象物に光を照射する投光手段、前記測定対象物からの透過光を受光する受光手段及び前記透過光を分光分析する分光分析手段を備えた、前記測定対象物の内部品質を測定する品質測定装置であって、
前記受光手段を前記投光手段に対向する位置から前記照射光の光軸と直交する方向へオフセット距離だけ平行移動させた位置に配置し、このように配置された前記受光手段が前記測定対象物内を拡散透過した光を受光可能なように前記支持手段にスリット又は開口を形成してなり、
前記オフセット距離を変化させながら、前記測定対象物の基準サンプルに対して前記投光手段から光を照射して前記受光手段により前記基準サンプルからの透過光を受光し、前記基準サンプルの幅よりも小さい範囲で、前記基準サンプルの吸収信号のレベルが大きく、かつ、センサノイズが少ない位置に前記オフセット距離を設定し、このように設定した前記オフセット距離で前記測定対象物の内部品質を測定することを特徴とする品質測定装置。」(以下、「本願補正発明」という。)

本件補正は、本願発明を特定するために必要な事項である「オフセット距離」について、上記のとおりの限定を付加するものであって、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
そこで、次に、本願補正発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定に違反しないか)について検討する。

2 本願補正発明

(1)特許法第36条第4項第1号についての検討

ア 本願補正発明の特徴

本願補正発明は、「前記オフセット距離を変化させながら、前記測定対象物の基準サンプルに対して前記投光手段から光を照射して前記受光手段により前記基準サンプルからの透過光を受光し、前記基準サンプルの幅よりも小さい範囲で、前記基準サンプルの吸収信号のレベルが大きく、かつ、センサノイズが少ない位置に前記オフセット距離を設定し、このように設定した前記オフセット距離で前記測定対象物の内部品質を測定する」点に特徴を有するものである。
したがって、本願補正発明を実施するにあたっては、「基準サンプルの吸収信号のレベルが大きく、かつ、センサノイズが少ない位置」が具体的にどのように規定されるかが示される必要があると認められる。

イ 発明の詳細な説明の記載事項

明細書の発明の詳細な説明の記載を参照すると、以下の記載がある。なお、下線は当審において付加したものである。

「【0023】
ここで、オフセット距離Dの設定方法について説明する。
図1に示すようにオフセット距離Dは測定対象物Wの幅よりも小さい距離にする必要があるとともに、図2に示すようにオフセット距離Dを大きくすると吸収信号のレベル(吸収信号強度)は大きくなるが、オフセット距離Dを大きくし過ぎるとセンサノイズが増大する。
したがって、測定対象物Wの基準サンプルに対して、前記基準サンプルの幅よりも小さい範囲で、位置変更手段によりオフセット距離Dを変化させながら前記基準サンプルからの拡散透過光L2を受光手段4により受光し、前記基準サンプルの吸収信号のレベルが大きく、かつ、センサノイズが少ない位置、すなわち吸収信号のS/N比が大きくなる位置をオフセット距離Dとして設定すればよい。」
「【0024】
以上のような品質測定装置1の構成によれば、受光手段4を投光手段3に対向する位置から照射光L1の光軸と直交する方向へオフセット距離Dだけ平行移動させた位置に配置して光学的に光路長を伸ばしており、吸収信号のレベル(吸収信号強度)はランベルト・ベールの法則により光路長に対して指数関数的に増加するため、包装、外乱光及び電気的ノイズ等が測定精度に及ぼす影響を小さくすることができる。
よって、測定対象物Wが透明度の高いもの(光の吸収が弱いもの)や厚みの薄いもの(光路長の短いもの)であっても高速にS/N比のよい分光データを取得することができるため、測定対象物Wの内部品質の測定を高精度に行うことができ、例えば、0.5mmから20mm程度の厚みの比較的薄い測定対象物Wの内部品質を透過光測定により精度よく測定することが可能となるとともに、測定対象物Wの供給コンベアに直接接続して品質測定を行うオンライン測定にも対応することができる。
その上、オフセット距離Dだけ平行移動させた位置に配置された受光手段4が測定対象物W内を拡散透過した光L2を受光するため、測定対象物Wの一部の品質ではなく、光路が含まれる部分全体の内部品質を測定することができる。」
そして、図2には、オフセット距離Dを異ならせた場合についての信号吸収のレベルと波長との関係が記載されている。

ウ 当審の判断

発明の詳細な説明に記載された事項全体を参照しても、「基準サンプルの吸収信号のレベル」についての記載は、段落【0023】において、「図2に示すようにオフセット距離Dを大きくすると吸収信号のレベル(吸収信号強度)は大きくなる」との記載しか存在せず、また、「センサノイズ」についての記載は、同じく段落【0023】において、「オフセット距離Dを大きくし過ぎるとセンサノイズが増大する。」との記載しか存在しない。
また、発明の詳細な説明に記載された事項全体を参照しても、センサノイズの定義が不明であり、「センサノイズ」という場合に、センサデバイスから出力される信号のノイズ成分を意味するのか、処理回路も含めたノイズを意味するのか不明である。
さらに、発明の詳細な説明に記載された事項全体を参照しても、具体的な設定方法は何ら開示も示唆もされていないことから、どのような手法で設定を行えば、「基準サンプルの吸収信号のレベルが大きく、かつ、センサノイズが少ない位置」を見いだすことができ、本願補正発明を実施することができるかは不明である。

以上のことから、当業者が本願補正発明を実施し、本願の明細書の段落【0014】に記載された「測定対象物が透明度の高いもの(光の吸収が弱いもの)や厚みの薄いもの(光路長の短いもの)であっても高速にS/N比のよい分光データを取得することができるため、前記測定対象物の内部品質の測定を高精度に行うことができるとともにオンライン測定にも対応することができるという顕著な効果」を得るためには、追加の実験や検討が必要であることは明らかであり、当業者に過度の試行錯誤を強いるものである。

エ まとめ

上記のとおりであるから、本願の明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないことから、本願は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(2)特許法第29条第2項についての検討

ア 引用文献

原査定の拒絶の理由に引用された特開平3-199941号公報(以下、「引用文献」という。)には、次の事項が記載されている(下線は当審において付加したものである。)。

(ア) 第1頁左下欄第4行-第12行
「2.特許請求の範囲
投光部からの光をシート状物体を介して受光する受光素子を有し,前記受光素子からの信号に基づいて前記シート状物体の物理的特性を測定するシート状物体の特性測定装置において、前記シート状物体を透過した光を受光する第1の受光手段と,前記投光部からの光が前記シート状物体中を横方向に伝搬した光を受光する第2の受光手段を備えたことを特徴とするシート状物体の特性測定装置。」

(イ) 第1頁左下欄第15行-第17行
「<産業上の利用分野>
本発明は,シート状物体に含まれる水分量或は厚さ等の物理的特性を測定する装置に関する。」

(ウ) 第2頁右上欄第9行-左下欄第12行
「11’はフィルタ9,10を透過した光を収束するレンズ,20はレンズ11’からの光を一端に入射し,他端から紙3に向けて光を出射する第1の導光手段であり,例えば光ファイバ束で構成されている。21は第1の導光手段からの出射光が紙で反射した光が入射しない程度の位置に一端が配置された第2の導光手段であり同じく光ファイバ束で構成されている。12’は第2の導光手段からの出射光を受光する受光素子であり,13’は演算器である。
上記構成において,投光部1からの光が第1の導光手段20から出射して紙3を照射する。その光の一部は紙を透過し従来と同様の演算が行われる。また,他の一部は紙の表面付近を矢印イで示すように紙のセルロースによる散乱を受けながら横方向に伝搬する。この伝搬光は第1の導光手段の側面に一定の距離を保って配置された第2の導光手段21に入射し受光素子12’に向かって出射し,演算器13’によりR/Mが演算される。なお,ここでいう一定の距離とは光の出射口から紙までの距離との関係により異なるが,水分検出に関与しない紙からの直接反射光が第2の導光手段21の受光部(端面)に直接入射しない程度の距離とする。」

上記(ア)ないし(ウ)を含む引用文献全体の記載を総合すると、引用文献には、

「投光部1からの光が第1の導光手段20から出射して紙3を照射し、その光の一部は紙のセルロースによる散乱を受けながら横方向に伝搬し、この伝搬光は第1の導光手段からの出射光が紙で反射した光が入射しない程度の位置に一端が配置された第2の導光手段に入射し受光素子12’に向かって出射し、演算器13’によりR/Mが演算され、前記受光素子からの信号に基づいて前記シート状物体の物理的特性を測定するシート状物体の特性測定装置。」

の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

イ 対比

本願補正発明と引用発明とを対比する。

(ア)
a
引用発明の「シート状物体」又は「紙」は、本願補正発明の「測定対象物」に相当する。
b
引用発明の「特性測定装置」は、本願補正発明の「品質測定装置」に相当する。

(イ)
a
引用発明の「第1の導光手段」は、「光」を「出射」するものであるから、本願補正発明の「投光手段」に相当する。
b
よって、引用発明の「紙3」に「光」を「出射」する「第1の導光手段20」は、本願補正発明の「前記測定対象物に光を照射する投光手段」に相当する。

(ウ)
a
引用発明の「伝搬光」は、本願補正発明の「透過光」に相当する。
b
引用発明の「第2の導光手段」は、「光」が「入射」するものであるから、本願補正発明の「受光手段」に相当する。
c
引用発明の「紙のセルロースによる散乱を受けながら横方向に伝搬」した「伝搬光」は、本願補正発明の「測定対象物からの透過光」に相当する。
d
よって、引用発明の「紙のセルロースによる散乱を受けながら横方向に伝搬」する「伝搬光」が「入射」する「第2の導光手段21」は、本願補正発明の「測定対象物からの透過光を受光する受光手段」に相当する。

(エ)
a
引用発明の「演算器13’」は、「伝搬光」より「R/M」を「演算」し、「シート状物体の物理的特性を測定」するものであることから、「伝搬光」を分析する分析手段とみなすことができる。
b
よって、引用発明の「伝搬光」より「R/M」を「演算」し、「シート状物体の物理的特性を測定」する「演算器13’」は、本願補正発明の「透過光を」「分析する」「分析手段」に相当する。

(オ)
a
引用発明の「物理的特性」は、本願補正発明の「内部品質」に相当する。
b
よって、引用発明の「シート状物体の物理的特性を測定するシート状物体の特性測定装置」は、本願補正発明の「測定対象物の内部品質を測定する品質測定装置」に相当する。

(カ)
a
引用発明の「第1の導光手段からの出射光が紙で反射した光が入射しない程度の位置」は、「第1の導光手段」の位置より所定の距離だけ離れた位置であるから、その距離は「オフセット距離」とみなすことができる。
b
よって、引用発明の「第2の導光手段」を「第1の導光手段からの出射光が紙で反射した光が入射しない程度の位置」に「配置」する点は、本願補正発明の「前記受光手段を前記投光手段」から「前記照射光の光軸と直交する方向へオフセット距離だけ平行移動させた位置に配置」する点に相当する。

(キ)

よって、両者は、

「測定対象物に光を照射する投光手段、前記測定対象物からの透過光を受光する受光手段及び前記透過光を分析する分析手段を備えた、前記測定対象物の内部品質を測定する品質測定装置であって、
前記受光手段を前記投光手段から前記照射光の光軸と直交する方向へオフセット距離だけ平行移動させた位置に配置し、前記測定対象物の内部品質を測定する品質測定装置。」

である点で一致し、

以下の点で両者は相違する。

<相違点1>
測定対象物を支持する支持手段と、受光手段の位置について、本願補正発明は、測定対象物を支持する支持手段を備え、受光手段を投光手段に対向する側に設けるとともに、このように配置された受光手段が測定対象物内を拡散透過した光を受光可能なように支持手段にスリット又は開口を形成したものであるのに対して、引用発明は、支持手段の存在が特定されておらず、受光手段が投光手段と対向する側には設けられておらず、支持手段の存在が特定されていないことから、スリット又は開口を形成した点についての特定が無い点。

<相違点2>
透過光の分析手段が、本願補正発明は、分光分析であるのに対して、引用発明は、その旨の特定がなされていない点。

<相違点3>
測定対象物の内部品質を測定するにあたって、本願補正発明は、オフセット距離を変化させながら、基準サンプルの吸収信号のレベルが大きく、かつ、センサノイズが少ない位置に前記オフセット距離を設定するのに対して、引用発明は、その旨の特定がなされていない点。

<相違点4>
オフセット距離の範囲について、本願補正発明は、測定対象物の基準サンプルに対して投光手段から光を照射して受光手段により基準サンプルからの透過光を受光し、前記基準サンプルの幅よりも小さい範囲で設定するのに対して、引用発明は、その旨の特定がなされていない点。

ウ 当審の判断

各相違点について以下に検討する。

(ア)相違点1について

測定対象物を支持するために、何らかの支持手段を設けること自体は、当業者が適宜なし得る程度の事項である。
また、測定対象物に対して、投光手段と対向する側に受光手段を設ける構成、及び、測定対象物の下方に設けられた部材に受光のための開口を設ける構成は、いずれも従来周知の事項(必要あれば、実願昭56-42563号公報(実開昭57-155471号)のマイクロフィルム(第1図参照)、特開昭56-72330号公報(第3図参照)、特開昭56-138240号公報(第2図参照))であることから、相違点1に係る本願補正発明の構成は、引用発明に、従来周知の事項を適用することによって、当業者が容易に想到し得る程度のものである。

(イ)相違点2について

光を用いて測定対象物の内部品質を測定するにあたって、試料からの透過光を「分光分析」することによって内部品質を測定することは、従来周知の事項(必要であれば、特開平10-30984号公報(段落【0002】-【0005】)、特開平6-241991号公報(特許請求の範囲)等参照)である。
よって、相違点2に係る本願補正発明の構成は、引用発明に基づいて、当業者が容易に想到し得る程度のものである。

(ウ)相違点3について

ノイズが含まれる信号を用いて測定を行う場合において、ノイズを極力低減し、信号のレベルを極力高められるようにして測定を行うことは、従来周知の技術課題であり、測定精度を向上させるために当業者であれば当然になし得ることである。
また、光を用いて測定対象物の内部品質を測定するにあたって、基準サンプルを用いることは、従来周知の事項(必要であれば、特開平10-30984号公報(段落【0002】-【0005】)、特開平6-241991号公報(特許請求の範囲)等参照)である。
そして、基準サンプルの吸収信号のレベルの大小と、センサノイズの多少が、オフセット距離に依存するものであるならば、上記の技術課題を鑑みてオフセット距離を変化させながら、最適な測定位置を求めること、及び、そのようにして求められた最適な測定位置において測定対象物の内部品質を測定することもまた、当業者であれば当然になし得ることである。
よって、相違点3に係る本願補正発明の構成は、引用発明に基づいて、当業者が容易に想到し得る程度のものである。

(エ)相違点4について

測定対象物の透過光を受光し、分析するのであれば、投光手段と受光手段の照射光の光軸と直交する方向の距離である「オフセット距離」が、測定対象物の寸法よりも大きい場合には、投光手段、又は、受光手段の少なくともいずれかは、測定対象物と対向できなくなり、測定が不能となることは、当業者であれば当然に予測し得ることであるから、オフセット距離の上限を測定対象物の寸法に合わせて規定し、オフセット距離の範囲を、基準サンプルの幅よりも小さい範囲と規定することは、当業者が技術常識に基づいて容易に想到し得ることである。
よって、相違点4に係る本願補正発明の構成は、引用発明に基づいて、当業者が容易に想到し得る程度のものである。

エ 本願補正発明の奏する作用効果

本願補正発明によってもたらされる効果は、引用発明、及び、従来周知の事項から当業者が予測し得る程度のものである。

オ まとめ

よって、本願補正発明は、引用発明、及び、従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(3)むすび

上記「(1)特許法第36条第4項第1号についての検討」「エ まとめ」において指摘したように、本願の明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、上記「(2)特許法第29条第2項についての検討」「オ まとめ」において指摘したように、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について

1 本願発明

平成26年6月17日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本件の審理対象は、「第2 平成26年6月17日付けの手続補正についての補正却下の決定」「1 本件補正について」において「本願発明」として記載した、補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明である。

2 引用文献

原査定の拒絶の理由に引用された引用文献、および、その記載事項は、前記「第2 平成26年6月17日付けの手続補正についての補正却下の決定」「3 本件補正が適法なものと仮定した場合の検討」「(2)特許法第29条第2項についての検討」「ア 引用文献」に記載したとおりである。

3 対比

本願発明と引用発明とを対比すると、両者は、

「測定対象物に光を照射する投光手段、前記測定対象物からの透過光を受光する受光手段及び前記透過光を分析する分析手段を備えた、前記測定対象物の内部品質を測定する品質測定装置であって、
前記受光手段を前記投光手段から前記照射光の光軸と直交する方向へオフセット距離だけ平行移動させた位置に配置し、前記測定対象物の内部品質を測定する品質測定装置。」

である点で一致し、

以下の点で両者は相違する。

<相違点5>
測定対象物を支持する支持手段と、受光手段の位置について、本願発明は、測定対象物を支持する支持手段を備え、受光手段を投光手段に対向する側に設けるとともに、このように配置された受光手段が測定対象物内を拡散透過した光を受光可能なように支持手段にスリット又は開口を形成したものであるのに対して、引用発明は、支持手段の存在が特定されておらず、受光手段が投光手段と対向する側には設けられておらず、支持手段の存在が特定されていないことから、スリット又は開口を形成した点についての特定が無い点。

<相違点6>
透過光の分析手段が、本願発明は、分光分析であるのに対して、引用発明は、その旨の特定がなされていない点。

<相違点7>
オフセット距離の範囲について、本願発明は、測定対象物の基準サンプルの幅よりも小さい範囲で、前記基準サンプルの吸収信号のS/N比が大きくなるように設定してなるのに対して、引用発明は、そのような特定がされていない点。

4 当審の判断

各相違点について以下に検討する。

(1)相違点5について

相違点5は、本願補正発明と引用発明との対比における相違点1と同一であり、該相違点1については、「第2 平成26年6月17日付けの手続補正についての補正却下の決定」「3 本件補正が適法なものと仮定した場合の検討」「(2)特許法第29条第2項についての検討」「ウ 当審の判断」「(ア)相違点1について」において検討したとおりである。
よって、相違点5に係る本願発明の構成は、引用発明に、従来周知の事項を適用することによって、当業者が容易に想到し得る程度のものである。

(2)相違点6について

相違点6は、本願補正発明と引用発明との対比における相違点2と同一であり、該相違点2については、「第2 平成26年6月17日付けの手続補正についての補正却下の決定」「3 本件補正が適法なものと仮定した場合の検討」「(2)特許法第29条第2項についての検討」「ウ 当審の判断」「(イ)相違点2について」において検討したとおりである。
よって、相違点6に係る本願発明の構成は、引用発明に、従来周知の事項を適用することによって、当業者が容易に想到し得る程度のものである。

(3)相違点7について

光を用いて測定対象物の内部品質を測定するにあたって、基準サンプルを用いることは、従来周知の事項(必要であれば、特開平10-30984号公報(段落【0002】-【0005】)、特開平6-241991号公報(特許請求の範囲)等参照)である。
また、ノイズが含まれる信号を用いて測定を行う場合において、S/N比が極力高められるようにして測定を行うことは、従来周知の技術課題であり、測定精度を向上させるために当業者であれば当然になし得ることであるから、引用発明においても、測定対象物の吸収信号のS/N比が大きくなるようにオフセット距離を設定していると認められる。
そして、測定対象物の透過光を受光し、分析するのであれば、投光手段と受光手段の照射光の光軸と直交する方向の距離である「オフセット距離」が、測定対象物の寸法よりも大きい場合には、投光手段、又は、受光手段の少なくともいずれかは、測定対象物と対向できなくなり、測定が不能となることは、当業者であれば当然に予測し得ることであるから、オフセット距離の上限を測定対象物の寸法に合わせて規定し、オフセット距離の範囲を、基準サンプルの幅よりも小さい範囲と規定することは、当業者が技術常識に基づいて容易に想到し得ることである。
よって、相違点7に係る本願発明の構成は、引用発明に基づいて、当業者が容易に想到し得る程度のものである。

(4)本願発明の奏する作用効果

本願発明によってもたらされる効果は、引用発明、及び、従来周知の事項から当業者が予測し得る程度のものである。

5.むすび

以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明、及び、従来周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-06-25 
結審通知日 2015-06-30 
審決日 2015-07-13 
出願番号 特願2010-161243(P2010-161243)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G01N)
P 1 8・ 536- Z (G01N)
P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 樋口 宗彦南 宏輔  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 ▲高▼橋 祐介
平田 佳規
発明の名称 品質測定装置  
代理人 柳野 隆生  
代理人 森岡 則夫  
代理人 関口 久由  

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