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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B43L |
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管理番号 | 1304830 |
審判番号 | 不服2014-18257 |
総通号数 | 190 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-10-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-09-12 |
確定日 | 2015-08-27 |
事件の表示 | 特願2010- 2122「微細凹凸構造を有する筆記シート」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 7月21日出願公開、特開2011-140166〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成22年1月7日の出願であって、平成25年10月16日付けで手続補正がなされ、平成26年6月23日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月12日付けで拒絶査定に対する不服審判請求がなされたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1に係る発明は、上記の平成25年10月16日付け手続補正によって補正された特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める(該請求項1に係る発明を、以下「本願発明」という。)。 「樹脂製基材シートの表面が熱硬化性組成物からなるコーティング剤でコーティング処理され、かつ微細凹凸構造を有する乾式又は湿式筆記具用の筆記シートであって、 コーティング剤が主鎖末端および/または側鎖に水酸基を有する(メタ)アクリル系重合体(A)と、ポリイソシアナート化合物(B)を含有することを特徴とする筆記シート。」 第3 引用刊行物 1 刊行物1 原査定の拒絶理由で引用された、本願の出願前である平成13年3月27日に頒布された刊行物である特開2001-80290号公報(以下「刊行物1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。(下線は審決で付した。以下同じ。) (1)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 水に対する接触角が90度以上で、かつエタノールに対する接触角が10度以下である筆記ボード表面被膜。 【請求項2】 フィルムにより形成されてなる請求項1に記載の筆記ボード表面被膜。 【請求項3】 4級アンモニウム塩基、アクリロイル基又はメタクリロイル基(以下、まとめて「(メタ)アクリロイル基」と記す)の少なくとも一方、及び窒素原子を介して主鎖に結合するオルガノポリシロキサン単位を有する重合体(以下「成分A」と記す)と分子内に(メタ)アクリロイル基を3個以上有する多官能(メタ)アクリレート(以下「成分B」と記す)とを含有し、かつ成分Aと成分Bとの合計量を100重量部としたときに、成分Aの含有量が1?40重量部、成分Bの含有量が60?99重量部である請求項1又は2に記載の筆記ボード表面被膜用硬化性組成物。 … 【請求項11】 請求項3?9のいずれか1項に記載の筆記ボード表面被膜用硬化性組成物をフィルム基材上に塗布し、次いで活性エネルギー線を照射することにより該組成物を硬化させることを特徴とする筆記ボード表面被膜用フィルムの製造方法。」 (2)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、マーカーペンによる書き込みが可能で、筆記性と消去性に優れたホワイトボード等の筆記ボード表面被膜、これを形成するのに好適な活性エネルギー線により硬化可能な筆記ボード表面被膜用硬化性組成物、及びその硬化被膜の形成方法に関するものである。」 (3)「【0005】 【発明が解決しようとする課題】本発明は上述の従来技術の問題点を解決し、高い耐摩耗性・耐久性(高硬度)、透明性(優れた外観)を維持しつつ、専用マーカーペン以外のマーカーペンで誤って書き込んだ場合の筆記不良(はじき)と、良好な乾拭き性を実現し、更に専用マーカーペンの筆記性と消去性にも優れた筆記ボード用の表面被膜の提供及びこのような被膜を形成しうる硬化性組成物の提供を課題としている。」 (4)「【0011】(2)筆記ボード表面被覆用組成物 本発明の特定の接触角を有する筆記ボード表面被膜を硬化により形成することができる組成物は、4級アンモニウム塩基、(メタ)アクリロイル基、及び窒素原子を介して主鎖に結合するオルガノポリシロキサン単位を有する重合体(成分A)及び分子内に(メタ)アクリロイル基を3個以上有する多官能(メタ)アクリレート(成分B)を必須成分とし、必要に応じて、成分Aの一部を4級アンモニウム塩基および(メタ)アクリロイル基を有する重合体に置き換えたり、他の重合性単量体や、アクリル系重合体又はメタクリル系重合体、更に光重合開始剤等を含有するものである。 【0012】以下、これらの各成分について説明する。4級アンモニウム塩基、(メタ)アクリロイル基、及び窒素原子を介して主鎖に結合するオルガノポリシロキサン単位を有する重合体(成分A)本発明の筆記ボード表面被膜用組成物を構成する重合体(成分A)は、形成される被膜に、主として耐汚染性及び必要に応じて帯電防止性を付与するもので、4級アンモニウム塩基、(メタ)アクリロイル基、及び窒素原子を介して主鎖に結合するオルガノポリシロキサン単位を有している。この成分Aの重合体は、上記の各官能基及び構成単位を有していれば、その構造、官能基及び構成単位の数および結合位置、分子量、粘度などは制限されない。 【0013】なお、本明細書において「窒素原子を介して主鎖に結合する」とは、オルガノポリシロキサン単位と重合体主鎖を結ぶ分子鎖の中に少なくとも1個の窒素原子が存在することを意味する。また、本明細書においては、アクリロイルとメタクリロイルとをまとめて「(メタ)アクリロイル」と記す他、アクリレートとメタクリレートとをまとめて「(メタ)アクリレート」と、及びアクリル酸とメタクリル酸とをまとめて「(メタ)アクリル酸」と、それぞれ略記する。この成分Aの重合体は主鎖に結合するオルガノポリシロキサン単位を有していてもよく、またアミノ基を有するオルガノポリシロキサン化合物が(メタ)アクリロイル基に付加した構造を有していてもよい。本発明に用いる成分Aの重合体の製造方法は特に限定されるものではないが、下記の(工程1)?(工程3)に従って製造するのが好ましい。 【0014】(工程1)1分子中に1個のラジカル重合性基と水酸基とを有する化合物(a1)と、1分子中に1個のラジカル重合性基を有する3級アミン化合物(a2)と、必要に応じてこれと共重合可能な他の(メタ)アクリル酸エステル単量体(a3)とを重合して水酸基を有する重合体を合成する。 (工程2)工程1で生成した重合体に、(メタ)アクリロイル基とイソシアネート基を有する化合物(a4)を付加して、3級アミンと(メタ)アクリロイル基を有する重合体(a5)を合成する。 【0015】(工程3)工程2で得た重合体に、4級化剤を反応させて4級アンモニウム塩を形成した後、重合体中の(メタ)アクリロイル基にアミノ基を有するオルガノポリシロキサン化合物(a6)を付加させる。なお、本工程において4級化はオルガノポリシロキサン化合物(a6)を付加させた後に行ってもよい。また、窒素原子を介さずに主鎖に結合するオルガノポリシロキサン単位を導入する場合は、(工程1)において、1分子中に1個のラジカル重合性基または1分子中に2個のメルカプト基を有するオルガノポリシロキサン化合物を共重合させ、その後(工程2)と(工程3)を行えばよい。 … 【0023】次に(工程2)では、(工程1)で合成した重合体に、(メタ)アクリロイル基とイソシアネート基を有する化合物(a4)を付加して、(メタ)アクリロイル基を有する重合体(a5)を合成する。 (工程2)で使用する化合物(a4)は(メタ)アクリロイル基とイソシアネート基を有するものであればその構造は特に制限されない。例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2-ヒドロキシエチルフタル酸、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等の水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルと、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等のイソシアネート化合物との等モル反応による付加体を挙げることができる。なお、化合物(a4)としてはアクリロイル基を有するものの方が、反応性が高く、硬化が速いので好ましい。 【0024】(工程1)で合成した重合体と化合物(a4)とは、OH基/NCO基≧1の割合、好ましくは1?10の割合で使用する。反応は60?110℃で1?20時間攪拌することにより行うのが好ましい。(工程2)の反応では、(メタ)アクリロイル基の重合を防止するため、例えばハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、カテコール、p-tert-ブチルカテコール、フェノチアジンなどの重合禁止剤を使用するのが好ましい。重合禁止剤の使用量は反応混合物に対して0.01?1重量%、好ましくは0.05?0.5重量%である。また、反応を促進するために、例えば、ジブチル錫ジラウレートや、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンのような触媒を用いてもよい。 … 【0041】(4)本発明の被膜の形成と応用 本発明の被膜は、上述の各成分を含む硬化性組成物を、例えば、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、塩化ビニル樹脂、スチレン系樹脂、ABS樹脂等のプラスチック基材又はこれらからなるフィルムに塗布し、活性エネルギー線を照射することにより硬化させて形成できる。このような被膜を表面に持つ基材をそのまま筆記ボードとしてもよく、またこの被膜がフィルム表面に形成されている場合は、このフィルムを任意の基材の表面に貼りつけて筆記ボードとすることもできる。基材表面に被膜を直接形成する場合は、上記のプラスチック基材の他に、メラミン樹脂塗装板、鋼板、ホーロー板なども用いることができる。この組成物を基材に塗布する方法としては、デイッピング法、フローコート法、スプレーコート法、バーコート法、あるいはグラビアコーター、ロールコーター、ナイフコーター及びエアーナイフコーター等の塗工機器による方法が例示できる。塗工厚さは、溶剤の乾燥除去及び活性エネルギー線照射後の塗膜の厚さが1?50μm、好ましくは1?20μmとなるようにするのがよい。塗布した組成物を架橋硬化させるためには、キセノンランプ、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、カーボンアーク灯、タングステンランプ等の光源から発せられる紫外線や、通常20?2000kVの粒子加速器から取り出される電子線、α線、β線、γ線等の活性エネルギー線を照射する方法が一般的である。」 (5)上記(1)【請求項2】より、「筆記ボード表面被膜」の形態が「フィルム」であると認められるから、「筆記ボード表面被膜」と「筆記ボード表面被覆用フィルム」とは同じものを指すと認められる。 上記(1)乃至(5)の記載事項から、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。 「水に対する接触角が90度以上で、かつエタノールに対する接触角が10度以下であり、マーカーペンによる書き込みが可能で、筆記性と消去性に優れたホワイトボード等の筆記ボード表面被膜であって、 前記被膜は、下記各成分を含む硬化性組成物を、例えば、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、塩化ビニル樹脂、スチレン系樹脂、ABS樹脂等のプラスチック基材又はこれらからなるフィルムに塗布し、活性エネルギー線を照射することにより硬化させて形成できるものであり、 4級アンモニウム塩基、アクリロイル基又はメタクリロイル基(以下、まとめて「(メタ)アクリロイル基」と記す)の少なくとも一方、及び窒素原子を介して主鎖に結合するオルガノポリシロキサン単位を有する重合体(以下「成分A」と記す)と分子内に(メタ)アクリロイル基を3個以上有する多官能(メタ)アクリレート(以下「成分B」と記す)とを含有し、かつ成分Aと成分Bとの合計量を100重量部としたときに、成分Aの含有量が1?40重量部、成分Bの含有量が60?99重量部である筆記ボード表面被膜用硬化性組成物をフィルム基材上に塗布し、次いで活性エネルギー線を照射することにより該組成物を硬化させたものである筆記ボード表面被膜であって、 成分Aの重合体の製造方法は、下記の(工程1)?(工程3)に従って製造するもので、 (工程1)1分子中に1個のラジカル重合性基と水酸基とを有する化合物(a1)と、1分子中に1個のラジカル重合性基を有する3級アミン化合物(a2)と、必要に応じてこれと共重合可能な他の(メタ)アクリル酸エステル単量体(a3)とを重合して水酸基を有する重合体を合成する。 (工程2)工程1で生成した重合体に、(メタ)アクリロイル基とイソシアネート基を有する化合物(a4)を付加して、3級アミンと(メタ)アクリロイル基を有する重合体(a5)を合成する。 (工程3)工程2で得た重合体に、4級化剤を反応させて4級アンモニウム塩を形成した後、重合体中の(メタ)アクリロイル基にアミノ基を有するオルガノポリシロキサン化合物(a6)を付加させる。 そして、(工程2)で使用する化合物(a4)は(メタ)アクリロイル基とイソシアネート基を有するもので、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートと、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等のイソシアネート化合物である、筆記ボード表面被膜。」 2 刊行物2 原査定の拒絶理由で引用された、本願の出願前である平成10年9月22日に頒布された刊行物である特開平10-250286号公報(以下「刊行物2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。 (1)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 表表面に白墨や水性インクによって書き消し自在に文字や図 形、その他を描くことができるようにした筆記用ボードや筆記用シートである黒板の前記表表面を構成する表面構成体であって、 本体シートである透明の薄いプラスチックシートの表表面を、サンドブラスト等による粗面化手段によって荒らすことで、艶消し状の粗表面とし、且つこの粗表面をハードコート用樹脂でコーティングしてあることを特徴とする黒板の表面構成体。」 (2)「【0004】そこで本発明は上記従来の黒板における欠点を解消し、白墨と水性インキの何れにおいても、書き消し自在に筆記することができる黒板の表面構成体の提供を課題とする。」 (3)「【0007】図1?4は本発明の表面構成体を黒板の本体となる剛性ボードに張り付けてなる剛性黒板1の例を示し、剛性ボード10の表面に表面構成体20が張り合わされて剛性黒板1が構成されている。 【0008】前記剛性ボード10は木製、プラスチック製、金属製或いはそれらに鉄板を張り付けたもの等を用いることができる。 【0009】前記表面構成体20は、本体シート21と下地シート22とからなる。そして本体シート21は透明の薄いプラスチックシートからなり、その表表面をサンドブラストにより艶消し状の粗表面21aに荒らし、さらにその粗表面をハードコート用樹脂でコーティング21bして構成している。前記本体シート21が未だ粗表面になされる前においては、水性インキによって本体シート21の表表面に文字や線を描くことができ、また拭き取ることができる。が、未だ表面が荒されていないので、白墨による文字や線を描くことはできない。次に、本体シート21の表面をサンドブラストにより粗表面とすることで、白墨が粗表面によって適当に擦り取られ、文字や線を描くことが可能となる。しかしながら、本体シート21をサンドブラスト等により単に粗表面としただけでは、前記水性インキで文字等を描いた場合に、そのインキが粗表面上に残留しやすくなり、インキがなかなか完全には消し取れない状態となる。即ち、描いた水性インキによる文字や線の消し取り作業がうまくできない。次に、前記本体シート21のサンドブラストによる粗表面をハードコート用樹脂でコーティングすることで、前記粗表面の深い凹凸部分が適当に埋まると共に表面が硬くて磨耗や傷の付き難い緻密な層ができ、水性インキの染み込み等もなくなり、容易に確実に拭いて消し取ることが可能となる。勿論、本体シート21の表面には適当な凹凸が残留しているので、白墨による文字や線も容易に描くことができる。」 (4)「【0014】前記、本体シート21は、例えば塩化ビニルやポリエステルからなる合成樹脂の透明の薄いシートとするが、引っかき等で簡単に破れたりしないもので、透明性のあるプラスチックシートであれば可能である。また前記下地シート22は、簡単に破れたりしない紙、合成紙、塩化ビニルやポリエステル等の薄いプラスチックシートを用いることができる。また、前記ハードコート用樹脂は、例えば紫外線硬化形ウレタンアクリレート樹脂を用いるが、この樹脂は硬度が非常に大で、耐摩傷性が良く、またプラスチックへの塗料としての付着性がよい。勿論、ハードコート用樹脂は他の材料でプラスチックへの付着性が良く、硬度及び耐磨傷のよい樹脂を用いることが可能である。また前記粗表面21aの程度及びコーティング21bの程度に関しては、どの様な程度にするかは既に述べたが、具体的な数値として、粗表面21aのあらさは、サンドブラストにより10?30ミクロン程度とし、コーティングの程度を3?9ミクロンとすることができる。」 上記(1)乃至(4)の記載事項から、刊行物2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。 「表表面に白墨や水性インクによって書き消し自在に文字や図形、その他を描くことができるようにした筆記用ボードや筆記用シートである黒板の前記表表面を構成する表面構成体であって、 透明の薄い塩化ビニルやポリエステルからなる合成樹脂の本体シートの表表面を、サンドブラスト等による粗面化手段によって荒らすことで、あらさは、10?30ミクロン程度の粗表面とし、且つこの粗表面をハードコート用樹脂でコーティングしてある黒板の表面構成体。」 第4 対比 そこで、本願発明と引用発明1とを対比すると、 1 後者の「ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、塩化ビニル樹脂、スチレン系樹脂、ABS樹脂等のプラスチック基材又はこれらからなるフィルム」は、前者の「樹脂製基材シート」に相当する。 2 マーカーペンは液体インキを用いるものであって湿式筆記具であることは技術常識であり、また、後者の「筆記ボード表面被膜」は、硬化性組成物を、プラスチック基材又はこれらからなるフィルムに塗布し、活性エネルギー線を照射することにより硬化させて形成されるものであるから、「表面が熱硬化性組成物からなるコーティング剤でコーティング処理され」た「(乾式又は)湿式筆記具用の筆記シート」といえる。 3 後者の「(メタ)アクリロイル基、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート」及び「イソシアネート基を有するもの、例えば、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等のイソシアネート化合物」は、それぞれ、前者の「主鎖末端および/または側鎖に水酸基を有する(メタ)アクリル系重合体(A)」及び「ポリイソシアナート化合物(B)」に相当する。そして、後者の「(工程2)」では、工程1で生成した重合体に、反応性が高く、硬化が速い(メタ)アクリロイル基とイソシアネート基を有する化合物(a4)を付加して、3級アミンと(メタ)アクリロイル基を有する重合体(a5)を合成するものであるが、イソシアネート基は重合体となって、含有するといえるから、「コーティング剤が主鎖末端および/または側鎖に水酸基を有する(メタ)アクリル系重合体(A)と、ポリイソシアナート化合物(B)を含有する」といえる。 したがって、両者は、 「樹脂製基材シートの表面が熱硬化性組成物からなるコーティング剤でコーティング処理される乾式又は湿式筆記具用の筆記シートであって、 コーティング剤が主鎖末端および/または側鎖に水酸基を有する(メタ)アクリル系重合体(A)と、ポリイソシアナート化合物(B)を含有する筆記シート。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 [相違点] 本願発明が、「微細凹凸構造」を有するのに対し、引用発明1は、そのような構造を有するのか定かでない点。 第5 判断 上記相違点について以下検討する。 引用発明2の「透明の薄い塩化ビニルやポリエステルからなる合成樹脂の本体シート」、「ハードコート用樹脂」、「表面構成体」は、それぞれ、本願発明の「樹脂製基材シート」、「コーティング剤」、「筆記シート」に相当する。 本願当初明細書の「筆記シートの表面に形成される微細凹凸構造は、その形状により、クレヨンの筆記性、消去性および防眩性のバランスに大きな影響が生じ、好適には、算術平均粗さRaが1.0?10.0μmであり、隣接凸部間の平均山間隔Smが30?300μmであることが好ましい。」(【0069】参照。)には、凹凸構造の微細の程度について、「算術平均粗さRaが1.0?10.0μm」が好適と記載されている。そうすると、引用発明2の粗表面のあらさは、10?30ミクロン程度であるから、微細凹凸構造といえる。そして、引用発明2の「表面構成体」は、「本体シートである透明の薄いプラスチックシートの表表面を、サンドブラスト等による粗面化手段によって荒らすことで、あらさは、10?30ミクロン程度の粗表面とし、且つこの粗表面をハードコート用樹脂でコーティングしてある」ものであるから、「微細凹凸構造を有する」といえる。 そうすると、引用発明2は、相違点に係る本願発明の発明特定事項を有するといえる。 そして、引用発明2は、「黒板の表面構成体」であり、引用発明1は、「マーカーペンによる書き込みが可能な筆記ボード」であるから、「筆記シート」との技術分野が共通する。 また、引用発明2の「書き消し自在に筆記することができる黒板の表面構成体の提供」との課題と、引用発明1の「専用マーカーペン以外のマーカーペンで誤って書き込んだ場合の筆記不良(はじき)と、良好な乾拭き性を実現し、更に専用マーカーペンの筆記性と消去性にも優れた筆記ボード用の表面被膜の提供」との課題は、筆記性と消去性の優れた筆記ボードを提供するという点で課題が共通する。 してみると、引用発明1において、書き消し自在に筆記することができるよう、引用発明2の微細凹凸構造を適用することは、当業者が容易に想到し得るものである。 したがって、引用発明1において、引用発明2を適用することにより、相違点に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。 そして、本願発明の発明特定事項によって奏される効果も、引用発明1及び引用発明2から、当業者が予測しうる範囲内のものである。 第6 むすび 以上のとおりであるから、本願補正発明は、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-06-24 |
結審通知日 | 2015-06-30 |
審決日 | 2015-07-13 |
出願番号 | 特願2010-2122(P2010-2122) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B43L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 有家 秀郎 |
特許庁審判長 |
黒瀬 雅一 |
特許庁審判官 |
藤本 義仁 吉村 尚 |
発明の名称 | 微細凹凸構造を有する筆記シート |
代理人 | 特許業務法人 安富国際特許事務所 |