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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B |
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管理番号 | 1304913 |
審判番号 | 不服2014-6263 |
総通号数 | 190 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-10-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-04-04 |
確定日 | 2015-09-03 |
事件の表示 | 特願2008-320882「ズーム内視鏡」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 7月 1日出願公開、特開2010-142344〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成20年12月17日を出願日とする出願であって,平成25年3月19日付けで拒絶理由が通知され,同年4月23日に手続補正がなされ,同年8月22日付けで最後の拒絶理由が通知され,同年10月2日に手続補正がなされ,同手続補正について同年12月27日付けで補正却下の決定がなされ,同日付けで拒絶査定がなされ,平成26年4月4日に拒絶査定不服審判の請求がなされ,同時に手続補正(以下,「本件補正」という。)がなされたものである。 第2 本件補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 本件補正を却下する。 [理由] 1 補正後の本願発明(下線は補正箇所を示す。) 本件補正により,補正前の特許請求の範囲の請求項1は, 「 【請求項1】 可撓性を有する挿入部の先端に配置された観察窓内にズーム光学系が配置されると共に,上記挿入部内の略全長にわたって配置された可撓性ガイド管内に,上記挿入部の基端に連結された操作部側から回転操作される可撓性の回転伝達線材が軸線周り方向に回転自在に挿通されて,上記挿入部の先端内に配置されたズーム作動機構に上記回転伝達線材の先端が連結され,上記回転伝達線材が上記操作部側から軸線周り方向に回転操作されることにより,上記ズーム作動機構が動作して上記ズーム光学系の焦点距離が変化するように構成されたズーム内視鏡において, 上記可撓性ガイド管が,継ぎ目のない一本の管により形成され, 上記回転伝達線材が,複数の素線を撚り合わせて形成された基端側の硬質トルクワイヤと,上記硬質トルクワイヤの素線より細い複数の素線を撚り合わせて上記硬質トルクワイヤと同じ外径サイズに形成された先端側の軟質トルクワイヤとを接続管を用いずに直列に一体的に直接連結して形成されていることを特徴とするズーム内視鏡。」 と補正された。 本件補正は,補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「可撓性ガイド管」を「上記可撓性ガイド管が,継ぎ目のない一本の管により形成され」と可撓性ガイド管の形成状態を限定し,「基端側の硬質トルクワイヤと,」「先端側の軟質トルクワイヤとを直列に一体的に直接連結して形成されている」を「基端側の硬質トルクワイヤと,」「先端側の軟質トルクワイヤとを接続管を用いずに直列に一体的に直接連結して形成されている」と基端側の硬質トルクワイヤと先端側の軟質トルクワイヤとの連結を,接続管を用いないものに限定した補正を含むものである。 したがって,本件補正は,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものを含む。 そこで,本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。 2 引用刊行物およびその記載事項(下線は当審で付与した。) (1)本願の出願前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2005-287576号公報(以下,「刊行物1」という。)には,「内視鏡の制御ケーブル」について,図面とともに次の事項が記載されている。 (1-ア) 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 内視鏡の本体操作部に連結された挿入部の先端硬質部に可動部材を装着し,この可動部材を駆動するために,前記先端硬質部からアングル部及び軟性部を順次経て本体操作部内にまで延在させ,両端がそれぞれ先端硬質部及び本体操作部に固定して設けた可撓性スリーブ内に伝達コイルを挿通させ,この伝達コイルの先端部を前記可動部材に連結し,その基端部を回転駆動手段に接続した制御ケーブルにおいて, 前記伝達コイルは前記アングル部と前記軟性部との境界部を境にして,前記可動部材への接続部側の第1のコイル部と,前記回転駆動手段への接続部側の第2のコイル部とに分割され,これら第1,第2のコイル部は一体回転するように連結されており, 前記第1のコイル部は,細径のワイヤを密着コイル状に巻回した少なくとも2重の小径コイル部となし, また前記第2のコイル部は,前記第1のコイル部より太い線径の素線で,それより大径のコイル状に巻回した3重の大径コイル部となし,かつこの大径コイル部の内層は密着コイル状に巻回されており,中間層及び外層は相互に反対方向に巻回され,かつ一部に粗巻き部を有する構成とした ことを特徴とする内視鏡の制御ケーブル。 【請求項2】 前記第2のコイル部の少なくとも中間層及び外層は多条コイルから構成され,この多条コイルに概略1条に相当する空隙を形成することによって,前記粗巻き部を形成する構成としたことを特徴とする請求項1記載の内視鏡の制御ケーブル。 【請求項3】 前記可動部材は対物光学系を構成する可動レンズであり,前記伝達コイルはこの可動レンズを通常観察位置と拡大観察位置との間に変位させるものであり,この伝達コイルの伝達力は前記可動レンズを拡大観察位置から通常観察位置に変位させる方がより大きくなるように設定する構成としたことを特徴とする請求項1記載の内視鏡の制御ケーブル。」 (1-イ) 「【技術分野】 【0001】 本発明は,医療用等として用いられる内視鏡において,その挿入部の先端に設けた可動部材,例えば対物光学系を構成する可動レンズを遠隔操作で駆動するための制御ケーブルに関するものである。」 (1-ウ) 「【0010】 本発明は以上の点に鑑みてなされたものであって,その目的とするところは,制御ケーブルを構成する伝達コイルとして,回転力の伝達をより効率的に行なうことができ,しかも必要な曲げ方向の可撓性を低下させないようにすることにある。 【課題を解決するための手段】 【0011】 そこで,本発明においては,前述した目的を達成するために,内視鏡の本体操作部に連結された挿入部の先端硬質部に可動部材を装着し,この可動部材を駆動するために,前記先端硬質部からアングル部及び軟性部を順次経て本体操作部内にまで延在させ,両端がそれぞれ先端硬質部及び本体操作部に固定して設けた可撓性スリーブ内に伝達コイルを挿通させ,この伝達コイルの先端部を前記可動部材に連結し,その基端部を回転駆動手段に接続した制御ケーブルであって,前記伝達コイルは前記アングル部と前記軟性部との境界部を境にして,前記可動部材への接続部側の第1のコイル部と,前記回転駆動手段への接続部側の第2のコイル部とに分割され,これら第1,第2のコイル部は一体回転するように連結されており,前記第1のコイル部は,細径のワイヤを密着コイル状に巻回した少なくとも2重の小径コイル部となし,また前記第2のコイル部は,前記第1のコイル部より太い線径の素線で,それより大径のコイル状に巻回した3重の大径コイル部となし,かつこの大径コイル部の内層は密着コイル状に巻回されており,中間層及び外層は相互に反対方向に巻回され,かつ一部に粗巻き部を有する構成としたことをその特徴とするものである。 【0012】 まず,内視鏡の挿入部において,軟性部とアングル部とでは,それらの全長に極めて大きな差があり,かつ曲がる度合いも著しく異なっている。従って,制御ケーブルを構成する伝達コイルを軟性部とアングル部との間の境界部を境として,可動部材への接続側を第1のコイル部とし,また回転駆動手段への接続側を第2のコイル部として構成している。ここで,軟性部とアングル部とは連結リングを介して連結されており,この連結リングが設けられている部位は所定の長さ分だけ曲げ不能となっている。従って,この曲げ不能な部位において,第1のコイル部と第2のコイル部とを連結する。これら第1,第2のコイル部は,共に金属線を密着コイル状に巻回したもので構成する。 【0013】 アングル部の全長は短く,しかもアングル操作時には小さい曲率半径で180°乃至それ以上の角度曲げることができるようになっている。従って,このアングル部内に位置する第1のコイル部は,曲げ方向における可撓性を大きくするために,コイルを構成する素線の線径を小さいものとなし,かつ2重以上,好ましくは3重のコイルで構成する。一方,軟性部は長尺であり,かつ体腔内等に挿入されたときに,比較的緩やかに曲がるものである。そこで,この軟性部内に位置する第2のコイル部は,そのコイルの素線径を大きくし,かつ3重のコイルから構成する。この3重のコイルのうち,内層のコイルは密巻き状態とする。これに対して,中間層及び外層のコイルは相互に反対方向に巻回され,一部に粗巻き部,つまり部分的に隙間が生じるようにしてコイルを構成する。 【0014】 制御ケーブルを構成する可撓性スリーブは全長にわたって均等な円筒状に形成する。この可撓性スリーブ内に挿通される伝達ケーブルは,第1のコイル部の外径寸法より第2のコイル部の外径寸法を大きくする。これによって,アングル部内では,可撓性スリーブの内径と第1のコイル部の外径との差が大きくなり,その間の隙間が第2のコイル部と比較して大きいものとなる。 【0015】 制御ケーブルによって遠隔操作される可動部材は限定されないが,この可動部材は対物光学系を構成する可動レンズとすることができる。この可動レンズを光軸方向に動かすことによって,焦点深度,結像倍率,視野角等の調整を行なうことができる。例えば,結像倍率を変化させるために可動レンズを変位させる場合,特に通常観察位置と拡大観察位置との間に変位させる場合に,通常観察位置での結像倍率が変化しないようにするために,可動レンズの位置を極めて正確に調整する必要がある。第2のコイル部を3重のコイルで構成している等のことから,伝達コイルを回転駆動したときに,その回転方向により伝達力に差が生じる。そこで,可動レンズを拡大観察位置から通常観察位置に変位させる方向の方をより高い伝達力とするのが望ましい。」 (1-エ) 「【0016】 本発明は,以上のように構成することによって,挿入部の先端硬質部に設けた可動部材への伝達コイルによる回転の伝達を円滑かつ確実に行なうことができ,しかも挿入部における曲げ方向の可撓性を低下させることはない等といった効果を奏する。 【0017】 以下,図面に基づいて本発明の実施の形態について説明する。まず,図1に内視鏡の概略構成を示す。同図において,1は本体操作部,2は体腔内への挿入部,3はユニバーサルコードである。挿入部2は,本体操作部1への連結側から大半の長さは軟性部2aとなっており,この軟性部2aにはアングル部2bが,またアングル部2bには先端硬質部2cが設けられている。 【0018】 図2に挿入部2における先端硬質部2cに装着した内視鏡観察手段の構成を示す。同図から明らかなように,先端硬質部2cには観察窓4が開設されており,この観察窓4には対物光学系10が装着されている。対物光学系10は,観察窓4の先端に臨むように配置され,レンズ機能を有するカバーガラス11と,前群固定レンズ12,前群可動レンズ13,後群可動レンズ14,後群固定レンズ15から構成される。ここで,これら各レンズ12?15は1乃至複数枚のレンズから構成されている。また,後群固定レンズ15の後方位置にはプリズム16が設けられ,このプリズム16により光路が90°曲折される。そして,対物光学系10の結像位置に固体撮像素子17が装着されている。 【0019】 この対物光学系10において,前群可動レンズ13と後群可動レンズ14とを同時に光軸方向に移動させることによって,結像倍率が変化するようになっている。図2に示した位置は拡大撮影時の可動レンズ13,14の位置であり,この位置から相互に近接する方向に移動させることによって,通常撮影状態となる位置に移動する。可動レンズ13,14はカム機構により光軸方向に移動させる構成としている。このために,可動レンズ13,14のレンズ枠13a,14aにはカム軸18に嵌合させたカムフォロア19,20が連設されている。カムフォロア19,20は円筒形状の部材からなり,カム軸18に設けたカム溝18a,18bに係合するカムピン19a,20aを有するものである。 【0020】 従って,可動レンズ13,14を移動させる際には,カム軸18を回転駆動することになり,このカム軸18が本体操作部1から遠隔操作で回転駆動される可動部材である。このために,カム軸18には制御ケーブル21が連結して設けられ,この制御ケーブル21は本体操作部1内にまで延在されて,この本体操作部1内に設けた回転駆動手段に接続されている。そこで,図3に本体操作部1内に設けた回転駆動手段の構成を示す。図中において,22は本体操作部1に設けた支持板であり,この支持板22にはモータ23が固定的に装着されている。モータ23の出力軸23aには回転筒体24が連結して設けられており,この回転筒体24は軸受部材25により回転自在に支持されている。 【0021】 また,前述した回転駆動手段の作動時に,回転力をカム軸18に伝達するための制御ケーブル21の構成が図4に示されている。図中において,26は可撓性スリーブ,27は伝達コイルである。伝達コイル27は可撓性スリーブ26内に挿入されるように組み込まれるものであり,そのカム軸18に連結される前方側は第1のコイル部28,回転筒体24に連結される後方側は第2のコイル部29であり,これら第1,第2のコイル部28,29は連結部材30にハンダ付け等の手段で固定されており,これによって第1,第2のコイル部28,29は一体的に回転するように連結されている。 【0022】 制御ケーブル21における可撓性スリーブ26の両端は固定され,伝達コイル27の両端はそれぞれカム軸18及び回転筒体24に連結されている。可撓性スリーブ26の先端にはリング部材31が連結されており,このリング部材31は,図示は省略するが,カム軸18を回転自在に支持する軸受部材に螺合させる等により連結・固定されるようになっている。また,可撓性スリーブ26の基端部は,支持板22に支持されているホルダ32に嵌合されており,かつ締め付け部材33により脱落しないように固定されている。そして,伝達コイル27の一部を構成し,連結部材30により連結された第1のコイル部28の先端には連結部材34が固定されており,この連結部材34はカム軸18に螺挿されて,ハンダ付け等の手段で固定されている。 【0023】 一方,第2のコイル部29の基端部は,モータ23により回転駆動される回転筒体24に設けたスライド駒35に連結・固定されている。スライド駒35は回転筒体24内に配置されており,この回転筒体24には上下に2箇所スリット24a,24aが形成され,スライド駒35の上下にスライダ35aが延在されて,スライダ35aは回転筒体24のスリット24aに挿通されており,これによって伝達コイル27が可撓性スリーブ26内で曲がったときや,回転時の軸線方向に伸縮したとき等における長さの変化を吸収するようにしている。 【0024】 以上の構成において,対物光学系10を構成する前群及び後群の可動レンズ13,14は,カム軸18を回転駆動することにより光軸方向に移動させて結像倍率を変化させるが,この操作は本体操作部1に設けた回転駆動手段を構成するモータ23により遠隔操作で行なわれる。制御ケーブル21はこの回転を本体操作部1から挿入部2の先端硬質部2cに伝達するためのものである。この制御ケーブル21は,既に説明したように,また図4から明らかなように,可撓性スリーブ26内に伝達コイル27を挿入したものであり,伝達コイル27は可撓性スリーブ26内で軸回りに回転する部材であって,しかも曲げ方向には可撓性を有するものである。そして,この伝達コイル27はカム軸18への連結側を構成する第1のコイル部28と,モータ23への連結側を構成する第2のコイル部29とから構成され,これら第1,第2のコイル部28,29はアングル部2bと軟性部2aとの境界部乃至その近傍位置において,連結部材30を介して連結されている。ここで,アングル部2bと軟性部2aとの連結部は所定の長さ分だけ硬質部分となっているので,連結部材30の位置で第1,第2のコイル部28,29を連結することによって,当該部位が硬質になっても,格別の支障を来たすことはない。 【0025】 ここで,第1,第2のコイル部28,29は共に3重の密着コイルから構成されているが,図4から明らかなように,第1のコイル部28と,第2のコイル部29とではコイル径及びコイルを構成する線径が異なっており,しかもコイル構造も異なる構成となっている。 【0026】 即ち,第1のコイル部28を構成する内層,中間層及び外層からなる3重のコイル28a,28b及び28cは,いずれもコイルを構成する素線の線径は同じであり,密着コイル状に巻回させたもので構成されている。そして,中間層の密着コイル28bの巻回方向に対して内層の密着コイル28a及び外層の密着コイル28cの巻回方向は異なる方向としている。 【0027】 一方,第2のコイル部29を構成する内層,中間層及び外層からなる3重のコイル29a,29b及び29cは,それらの素線が全て同じ線径で構成されるが,この第2のコイル部29を構成する素線径は,第1のコイル部28の素線径より太くなっている。また,コイル径,つまり第1のコイル部28全体の外径寸法と,第2のコイル部29全体の外径寸法とでは,第2のコイル部29の方が大きくなっている。そして,第2のコイル部29を構成する内層のコイル29aと外層のコイル29cとは同一の方向に巻回させたものであり,また中間層のコイル29bはそれらとは反対方向に巻回させるようにしている。さらに,内層のコイル29aは密着コイル状に巻回されているが,中間層及び外層のコイル29b,29cは一部に粗巻き部を構成するピッチ間空隙eを有する構成となっている。ここで,ピッチ間空隙eは螺旋状のものとなる。」 (1-オ)図1には,一方の端部に本体操作部1を,反対側の端部に挿入部2を備えた内視鏡が記載されている。 【図1】 【図2】 【図3】 【図4】 上記(1-ア)?(1-エ)の記載と,図1?4を参照すると,上記刊行物1には,次の発明が記載されていると認められる。 「内視鏡観察手段の曲げ方向の可撓性を低下させることはない挿入部2における先端硬質部2cには観察窓4が開設されており,観察窓4の先端に臨むように対物光学系10が装着され,対物光学系10はレンズ機能を有するカバーガラス11と,前群固定レンズ12,前群可動レンズ13,後群可動レンズ14,後群固定レンズ15から構成され,対物光学系10の結像位置に固体撮像素子17が装着され,可動レンズ13,14のレンズ枠13a,14aにはカム軸18に嵌合させた,円筒形状の部材からなり,カム軸18に設けたカム溝18a,18bに係合するカムピン19a,20aを有するカムフォロア19,20が連設され, 対物光学系10を構成する前群及び後群の可動レンズ13,14は,カム軸18を回転駆動することにより光軸方向に移動させて結像倍率を変化させ, 可撓性スリーブ26の先端にはリング部材31が連結されており,このリング部材31はカム軸18を回転自在に支持する軸受部材に連結・固定され,可撓性スリーブ26の基端部は,本体操作部1に設けた支持板22に支持されているホルダ32に嵌合されて固定され, 伝達コイル27は可撓性スリーブ26内に挿入されるように組み込まれるものであり, カム軸18に連結される前方側の第1のコイル部28と,回転筒体24に連結される後方側の第2のコイル部29とは,それぞれ連結部材30にハンダ付け等の手段で固定されており,これによって第1,第2のコイル部28,29は一体的に回転するように連結されて伝達コイル27となり, 第1のコイル部は,第2のコイル部より曲げ方向における可撓性を大きくし, 第2のコイル部29の基端部は,本体操作部1に設けた回転駆動手段を構成するモータ23により回転駆動される回転筒体24に設けたスライド駒35に連結・固定され, 伝達コイル27の一部を構成し,連結部材30により連結された第1のコイル部28の先端には連結部材34が固定されており,この連結部材34はカム軸18に螺挿されて,ハンダ付け等の手段で固定され, 第1のコイル部28を構成する内層,中間層及び外層からなる3重のコイル28a,28b及び28cは,いずれもコイルを構成する素線の線径は同じであり,第2のコイル部29を構成する内層,中間層及び外層からなる3重のコイル29a,29b及び29cは,それらの素線が全て同じ線径で構成されるが,この第2のコイル部29を構成する素線径は,第1のコイル部28の素線径より太く,また,第1のコイル部28全体の外径寸法より,第2のコイル部29全体の外径寸法が大きい, 一方の端部に本体操作部1を,反対側の端部に挿入部2を備えた, 内視鏡。」(以下,「引用発明」という。) (2)本願の出願前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2001-120491号公報(以下,「刊行物2」という。)には,次の事項が記載されている。 (2-ア) 「【0001】 【発明の属する技術分野】この発明は,挿入部およびその挿入部を操作するための操作部を有する内視鏡に関する。」 (2-イ) 「【0038】[4]第4の実施形態 図8に示すように,ほぼ同じ外径で且つ素線径が互いに異なる2種類のワイヤ17a,17bが接続管24を介して連結され,これによりアングルワイヤ17が構成される。 【0039】ワイヤ17aは,図9に示すように,線径が細い素線19本を撚り合わせて構成される。 【0040】ワイヤ17bは,図10に示すように,線径が太い素線7本を撚り合わせて構成される。 【0041】接続管24は,ワイヤ17a,17bとほぼ同じ外径を有する。 【0042】素線径が細いワイヤ17aは,可撓性が高いという利点を持つが,小さい張力で伸びが大きいという特性を持つことが知られている。 【0043】逆に,素線径の太いワイヤ17bは,可撓性が低く折れやすいが,弾性係数が大きく張力に対しては伸びが小さいという特性を持つことが知られている。 【0044】素線径が細いワイヤ17aの方が湾曲部6内に存し,素線径の太いワイヤ17bの方が可撓管部5内に存するように,アングルワイヤ17の挿通がなされる。他の構成は第1の実施形態と同じである。 【0045】このような構成によれば,アングルワイヤ17は,湾曲部6内においては高い可撓性を持ち,可撓管部5内においては伸び難い特性を持つ。湾曲操作を行った時に湾曲部6内においては他の部位よりも小さい半径の円弧を描いて曲げられるが,高い可撓性を持つために折れや素線切れを起こし難い。 【0046】したがって,長期間の使用に対して湾曲部6内でのアングルワイヤ17の素線切断を未然に防止することができる。仮に,湾曲部6内でのアングルワイヤ17の素線が切断した場合でも,素線径が細いために湾曲ゴム13を突き破り難い。また,長期間の使用に対して湾曲角減少が少なくなるという効果が得られる。」 3 対比・判断 補正発明と引用発明とを対比する。 ア 引用発明の「曲げ方向の可撓性を低下させることはない挿入部2」は,補正発明の「可撓性を有する挿入部」に相当する。 イ 引用発明の「挿入部2における先端硬質部2cに」「開設されて」いる「観察窓4」は,補正発明の「挿入部の先端に配置された観察窓」に相当する。 ウ 引用発明の「対物光学系10」は,「レンズ機能を有するカバーガラス11と,前群固定レンズ12,前群可動レンズ13,後群可動レンズ14,後群固定レンズ15から構成され」ており「対物光学系10を構成する前群及び後群の可動レンズ13,14は,カム軸18を回転駆動することにより光軸方向に移動させて結像倍率を変化させる」のであるから,引用発明の「対物光学系10」は,補正発明の「ズーム光学系」に相当する。 さらに,引用発明の「対物光学系10」は,「観察窓4の先端に臨むように」「装着され」ているのであるから,観察窓から見て内視鏡「内」にある,すなわち「観察窓内」にあるといえるので,引用発明の「観察窓4の先端に臨むように対物光学系10が装着され」ることは,補正発明の「挿入部の先端に配置された観察窓内にズーム光学系が配置される」ことに相当する。 エ 引用発明は「可動レンズ13,14のレンズ枠13a,14aにはカム軸18に嵌合させた円筒形状の部材からなり,カム軸18に設けたカム溝18a,18bに係合するカムピン19a,20aを有するカムフォロア19,20が連設され」ているが,上記ウより「可動レンズ13,14」は,「対物光学系10」を構成するレンズ群であり,「観察窓4の先端に臨むように」「装着され」るものである。 そして,その「可動レンズ13,14のレンズ枠13a,14aには,カム軸18に嵌合させた」「カムフォロア19,20が連設され」ているのであるから,引用発明の「カム軸18」は,「観察窓4の先端に臨むように」「装着され」るものといえる。 さらに,引用発明の「可撓性スリーブ26の先端にはリング部材31が連結されており,このリング部材31はカム軸18を回転自在に支持する軸受部材に連結・固定され」ていることから,引用発明の「軸受部材」は「カム軸18を回転自在に支持する」ものである。 そうすると,引用発明の「軸受部材」は「カム軸18」を介して「観察窓4の先端に臨むように」「装着され」る「対物光学系10」と結びついているので,引用発明の「軸受部材」は,「挿入部2における」「観察窓4の先端に臨むように」位置しているといえる。 オ 引用発明の「可撓性スリーブ26」は,「先端にはリング部材31が連結されており,このリング部材31はカム軸18を回転自在に支持する軸受部材に連結・固定され,可撓性スリーブ26の基端部は,本体操作部1に設けた支持板22に支持されているホルダ32に嵌合されて固定され」ていることから,引用発明の「可撓性スリーブ26」は,先端が「リング部材31」を介して,「軸受部材に連結・固定され」ており,基端部が本体操作部1に設けた支持板22に支持されているホルダ32に嵌合されて固定されている。 上記エより,引用発明の「軸受部材」は「挿入部2における」「観察窓4の先端に臨むように」位置しているといえるので,引用発明の「可撓性スリーブ26」は,先端が,「挿入部2における」「観察窓4の先端に臨むように」位置している「軸受部材に連結・固定され」ており,基端が本体操作部1に設けた支持板22に支持されているホルダ32に嵌合されて固定されている。 そして,引用発明の内視鏡は「一方の端部に本体操作部1を,反対側の端部に挿入部2を備え」ているのであるから,引用発明の「可撓性スリーブ26」は,先端が,「挿入部2における」「観察窓4の先端に臨むように」位置し,挿入部2の全長にわたって配置されているといえる。 さらに,引用発明は「伝達コイル27は可撓性スリーブ26内に挿入されるように組み込まれるものであ」るから,引用発明の「可撓性スリーブ26」は「伝達コイル27」をガイドしているといえる。 したがって,引用発明の「可撓性スリーブ26」と,補正発明の「上記挿入部内の略全長にわたって配置された可撓性ガイド管」であって「可撓性ガイド管が,継ぎ目のない一本の管により形成され」ているものとは,「挿入部内の略全長にわたって配置された可撓性ガイド管」で共通する。 カ 引用発明の「伝達コイル27」は,「カム軸18に連結される前方側の第1のコイル部28と,回転筒体24に連結される後方側の第2のコイル部29とは,それぞれ連結部材30にハンダ付け等の手段で固定されており,これによって第1,第2のコイル部28,29は一体的に回転する」ものであり,上記摘記事項(1-ウ)「【0013】・・・第1のコイル部は,曲げ方向における可撓性を大きくするために,コイルを構成する素線の線径を小さいものとなし」との記載は,コイル部が線材である素線からなり,可撓性を有することを前提にしているので,第1コイル,第2コイルは,共に可撓性を有する線材といえる。 そうすると,引用発明の「伝達コイル27」は,補正発明の「可撓性の回転伝達線材」に相当する。 また,引用発明の「第2のコイル部29の基端部は,本体操作部1に設けた回転駆動手段を構成するモータ23により回転駆動される回転筒体24に設けたスライド駒35に連結・固定され」るのであり,引用発明の「伝達コイル27」では,「第1,第2のコイル部28,29は一体的に回転するように連結され」るのであるから,引用発明では,本体操作部1に設けたモータ23により伝達コイル27が回転駆動されるといえる。 さらに,引用発明は「伝達コイル27は可撓性スリーブ26内に挿入されるように組み込まれるものであ」る。 したがって,引用発明の「伝達コイル27は可撓性スリーブ26内に挿入されるように組み込まれるものであり,」「第1,第2のコイル部28,29は一体的に回転するように連結され,」「第2のコイル部29の基端部は,本体操作部1に設けた回転駆動手段を構成するモータ23により回転駆動される回転筒体24に設けたスライド駒35に連結・固定され」,ることは,補正発明の「可撓性ガイド管内に」「上記挿入部の基端に連結された操作部側から回転操作される可撓性の回転伝達線材が軸線周り方向に回転自在に挿通されて」いることに相当するといえる。 キ 上記ウより,引用発明の「観察窓4の先端に臨むように対物光学系10が装着され」ることは,補正発明の「挿入部の先端に配置された観察窓内にズーム光学系が配置される」ことに相当するものである。 また,上記カより,「伝達コイル27」は,補正発明の「可撓性の回転伝達線材」に相当する。 したがって,引用発明の「観察窓4の先端に臨むように対物光学系10が装着され」,「可動レンズ13,14のレンズ枠13a,14aにはカム軸18に嵌合させた円筒形状の部材からなり,カム軸18に設けたカム溝18a,18bに係合するカムピン19a,20aを有するカムフォロア19,20が連設され」,「カム軸18に連結される前方側の第1のコイル部28と,回転筒体24に連結される後方側の第2のコイル部29とは,それぞれ連結部材30にハンダ付け等の手段で固定されており,これによって第1,第2のコイル部28,29は一体的に回転するように連結されて伝達コイル27となり」,「第2のコイル部29の基端部は,本体操作部1に設けた回転駆動手段を構成するモータ23により回転駆動される回転筒体24に設けたスライド駒35に連結・固定され,」,「対物光学系10を構成する前群及び後群の可動レンズ13,14は,カム軸18を回転駆動することにより光軸方向に移動させて結像倍率を変化させる,内視鏡」は,補正発明の「上記挿入部の先端内に配置されたズーム作動機構に上記回転伝達線材の先端が連結され,上記回転伝達線材が上記操作部側から軸線周り方向に回転操作されることにより,上記ズーム作動機構が動作して上記ズーム光学系の焦点距離が変化するように構成されたズーム内視鏡」に相当する。 ク 引用発明の「伝達コイル27」は,「カム軸18に連結される前方側の第1のコイル部28と,回転筒体24に連結される後方側の第2のコイル部29とは,それぞれ連結部材30にハンダ付け等の手段で固定されており,これによって第1,第2のコイル部28,29は一体的に回転するように連結され」ており,補正発明の「回転伝達線材」は「複数の素線を撚り合わせて形成された基端側の硬質トルクワイヤと,上記硬質トルクワイヤの素線より細い複数の素線を撚り合わせて上記硬質トルクワイヤと同じ外径サイズに形成された先端側の軟質トルクワイヤとを接続管を用いずに直列に一体的に直接連結して形成されて」おり,共に回転力を連結部を介して一方側から他方側に伝達するものであるから,引用発明の「カム軸18に連結される前方側の第1のコイル部28」および「回転筒体24に連結される後方側の第2のコイル部29」は,それぞれ,補正発明の「先端側の」「トルクワイヤ」および「基端側の」「トルクワイヤ」に対応する。 そして,引用発明の「伝達コイル27」は,直列に一体的に連結して形成されているといえる。 また,引用発明の「第1のコイル部28を構成する内層,中間層及び外層からなる3重のコイル28a,28b及び28cは,いずれもコイルを構成する素線の線径は同じであり,第2のコイル部29を構成する内層,中間層及び外層からなる3重のコイル29a,29b及び29cは,それらの素線が全て同じ線径で構成されるが,この第2のコイル部29を構成する素線径は,第1のコイル部28の素線径より太」いことより,引用発明の第1のコイル部28を構成する3本の同径の素線は,第2のコイル部29を構成する3本の同径の素線より細いことが分かり,さらに引用発明の「第1のコイル部は,第2のコイル部より曲げ方向における可撓性を大きくし」たことから,引用発明の「第1のコイル部」と,「第2のコイル部」は,それぞれ軟質の「第1のコイル部」と,硬質の「第2のコイル部」といえる。 さらに,引用発明の「カム軸18に連結される前方側の第1のコイル部28と,回転筒体24に連結される後方側の第2のコイル部29とは,それぞれ連結部材30にハンダ付け等の手段で固定されて」いることから,引用発明の連結部材30は「管」ではないので,引用発明の「連結部材30」は補正発明の「接続管」ではないことは明らかである。 そうすると,引用発明の「カム軸18に連結される前方側の第1のコイル部28と,回転筒体24に連結される後方側の第2のコイル部29とは,それぞれ連結部材30にハンダ付け等の手段で固定されており,これによって第1,第2のコイル部28,29は一体的に回転するように連結され」,「第1のコイル部は,第2のコイル部より曲げ方向における可撓性を大きくし,」た「伝達コイル27」であって,「第1のコイル部28を構成する内層,中間層及び外層からなる3重のコイル28a,28b及び28cは,いずれもコイルを構成する素線の線径は同じであり,第2のコイル部29を構成する内層,中間層及び外層からなる3重のコイル29a,29b及び29cは,それらの素線が全て同じ線径で構成されるが,この第2のコイル部29を構成する素線径は,第1のコイル部28の素線径より太く,また,第1のコイル部28全体の外径寸法より,第2のコイル部29全体の外径寸法が大きい」ことと,補正発明の「上記回転伝達線材が,複数の素線を撚り合わせて形成された基端側の硬質トルクワイヤと,上記硬質トルクワイヤの素線より細い複数の素線を撚り合わせて上記硬質トルクワイヤと同じ外径サイズに形成された先端側の軟質トルクワイヤとを接続管を用いずに直列に一体的に直接連結して形成されている」こととは,「上記回転伝達線材が,複数の素線から形成された基端側の硬質トルクワイヤと,上記硬質トルクワイヤの素線より細い複数の素線から形成された先端側の軟質トルクワイヤとを接続管を用いずに直列に一体的に連結して形成されている」点で共通する。 そうすると,両者は, (一致点) 「可撓性を有する挿入部の先端に配置された観察窓内にズーム光学系が配置されると共に,上記挿入部内の略全長にわたって配置された可撓性ガイド管内に,上記挿入部の基端に連結された操作部側から回転操作される可撓性の回転伝達線材が軸線周り方向に回転自在に挿通されて,上記挿入部の先端内に配置されたズーム作動機構に上記回転伝達線材の先端が連結され,上記回転伝達線材が上記操作部側から軸線周り方向に回転操作されることにより,上記ズーム作動機構が動作して上記ズーム光学系の焦点距離が変化するように構成されたズーム内視鏡において, 上記回転伝達線材が,複数の素線から形成された基端側の硬質トルクワイヤと,上記硬質トルクワイヤの素線より細い複数の素線から形成された先端側の軟質トルクワイヤとを直列に一体的に連結して形成されているズーム内視鏡。」である点で一致し,以下の点で相違するといえる。 (相違点1) 挿入部内の略全長にわたって配置された可撓性ガイド管について,補正発明では,「継ぎ目のない一本の管により形成され」ているのに対して,引用発明では,そのように構成されているか不明である点。 (相違点2) 基端側の硬質トルクワイヤと,先端側の軟質トルクワイヤについて,補正発明では,それぞれ,「複数の素線を撚り合わせて形成された」ものであるのに対して,引用発明では,それぞれ,内層,中間層及び外層からなる,素線からなる3重のコイルである第2のコイル部と第1のコイル部である点。 (相違点3) 基端側の硬質トルクワイヤと先端側の軟質トルクワイヤの連結について,補正発明では,接続管を用いずに直接連結するのに対して,引用発明では,連結部材30を介して接続する点。 (1)相違点1についての検討 一般に内視鏡に用いるスリーブ等の「ガイド管」は,医療事故防止の観点から継ぎ目のない一本の管により形成することは周知技術である。 してみると,引用発明のスリーブを継ぎ目のない一本の管により形成することは,当業者が容易に想到するものといえる。 (2)相違点2についての検討 上記刊行物2には,上記摘記事項(2-イ)に「ほぼ同じ外径で且つ素線径が互いに異なる2種類のワイヤ17a,17b」,「ワイヤ17aは」,「線径が細い素線19本を撚り合わせて構成される。」,「ワイヤ17bは」,「線径が太い素線7本を撚り合わせて構成される。」,「素線径が細いワイヤ17aの方が湾曲部6内に存し,素線径の太いワイヤ17bの方が可撓管部5内に存するように」と,細い素線を撚り合わせたワイヤを用いる技術事項が記載されており,さらに「このような構成によれば,湾曲部6内においては高い可撓性を持ち,可撓管部5内においては伸び難い特性を持つ。湾曲操作を行った時に湾曲部6内においては他の部位よりも小さい半径の円弧を描いて曲げられるが,高い可撓性を持つために折れや素線切れを起こし難い」と引用発明1と同様の作用効果が記載されている。 さらに,一般に,撚り合わせて構成された線材がトルクを伝えるものに使われることは,例を挙げるまでもなく,周知の技術である。 また,内視鏡において,各部材をできるだけ小さく作成し,内視鏡自体を細く作成することは,患者への負担を減らすために常に念頭に置く技術常識である。 そして,ワイヤとしてみた場合にコイルは中空であるので,通常の中空部を有さないワイヤの方が細くできることは明らかである。 そうすると,引用発明のトルクを伝える素線からなる3重のコイルの3本の素線に代えて刊行物2記載の細い素線を撚り合わせたワイヤを用いる技術を適用することには,十分な動機付けが有り,阻害要因はみつからないといえる。 してみると,引用発明に刊行物2記載の上記技術事項を適用して相違点2に記載の補正発明の構成とすることは,上記周知技術に照らして,当業者が容易に想到するものといえる。 (3)相違点3についての検討 2本のワイヤを連結するにあたり,溶接等で直接連結することは周知技術(例えば,上記特開2004-230141号公報(【0058】【0068】【0069】等),特開平8-19883号公報(【0009】等)参照)である。 なお,本願明細書には「【実施例】・・・【0019】 ・・・硬質トルクワイヤ9Hと,その硬質トルクワイヤ9Hより細い複数の素線を撚り合わせて形成された先端側の軟質トルクワイヤ9Sとを,例えば溶接,銀ロー付け又は半田付け等で直列に一体的に連結して形成されている」と記載されていることから,補正発明の「直接連結」には溶接による連結も含まれているといえる。 そして,作成時の部品点数を減らしてコスト削減することは,引用発明においても内在している自明の技術課題である。 してみると,引用発明に,上記の自明の技術課題を解決する手段として,上記周知技術を採用して,相違点3に記載の補正発明の構成とすることは,当業者が容易に想到するものといえる。 (4)そして,補正発明の作用効果は,当業者が予測し得る範囲内のものにすぎない。 (5)したがって,補正発明は,引用発明,刊行物2記載の技術事項,および周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるというべきであり,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 4 まとめ 以上のとおりであるから,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により,却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1?4に係る発明は,平成25年4月23日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されたものであって,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,次のとおりであると認める。 「 【請求項1】 可撓性を有する挿入部の先端に配置された観察窓内にズーム光学系が配置されると共に,上記挿入部内の略全長にわたって配置された可撓性ガイド管内に,上記挿入部の基端に連結された操作部側から回転操作される可撓性の回転伝達線材が軸線周り方向に回転自在に挿通されて,上記挿入部の先端内に配置されたズーム作動機構に上記回転伝達線材の先端が連結され,上記回転伝達線材が上記操作部側から軸線周り方向に回転操作されることにより,上記ズーム作動機構が動作して上記ズーム光学系の焦点距離が変化するように構成されたズーム内視鏡において, 上記回転伝達線材が,複数の素線を撚り合わせて形成された基端側の硬質トルクワイヤと,上記硬質トルクワイヤの素線より細い複数の素線を撚り合わせて上記硬質トルクワイヤと同じ外径サイズに形成された先端側の軟質トルクワイヤとを直列に一体的に直接連結して形成されていることを特徴とするズーム内視鏡。」 2 引用刊行物およびその記載事項 (1)本願出願前に頒布された刊行物1,2およびその記載事項は,上記「第2 2」に記載したとおりである。 (2)本願の出願前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2006-239110号公報(以下,「刊行物3」という。)には,「内視鏡用処置具」について,図面とともに次の事項が記載されている。 (3-ア) 「【0001】 この発明は内視鏡用処置具に関する。」 (3-イ) 「【0022】 操作ワイヤ3としては,最先端部分付近を除く部分では例えば1×7本撚りのステンレス鋼製の撚り線ワイヤ3aが用いられているが,最先端部分付近の数mm?数cm程度の範囲は,例えば1×37本撚り又は1×19本撚り等のような1×7本撚りより柔軟な撚り線ワイヤ3bが接続管3cで接続されて配置されている。」 (3-ウ)図1に,撚り線ワイヤ3aと柔軟な撚り線ワイヤ3bが接続管3cを用いて直接連結した状態が記載されている。 【図1】 3 対比・判断 本願発明と引用発明とを対比する。 上記「第2 3」で記載したア?クの文章中の「補正発明」を「本願発明」と読み替え, さらに,オの文章中の,「したがって」以下を,「したがって,引用発明の「可撓性スリーブ26」は,本願発明の「上記挿入部内の略全長にわたって配置された可撓性ガイド管」に相当する。」と読み替え, さらに,クの文章中の,「本願発明の」以下を,「本願発明の「上記回転伝達線材が,複数の素線を撚り合わせて形成された基端側の硬質トルクワイヤと,上記硬質トルクワイヤの素線より細い複数の素線を撚り合わせて上記硬質トルクワイヤと同じ外径サイズに形成された先端側の軟質トルクワイヤとを接続管を用いずに直列に一体的に直接連結して形成されている」こととは,「上記回転伝達線材が,複数の素線から形成された基端側の硬質トルクワイヤと,上記硬質トルクワイヤの素線より細い複数の素線から形成された先端側の軟質トルクワイヤとを直列に一体的に連結して形成されている」点で共通する。」と読み替えたとおりである。 そうすると,両者は, (一致点) 「可撓性を有する挿入部の先端に配置された観察窓内にズーム光学系が配置されると共に,上記挿入部内の略全長にわたって配置された可撓性ガイド管内に,上記挿入部の基端に連結された操作部側から回転操作される可撓性の回転伝達線材が軸線周り方向に回転自在に挿通されて,上記挿入部の先端内に配置されたズーム作動機構に上記回転伝達線材の先端が連結され,上記回転伝達線材が上記操作部側から軸線周り方向に回転操作されることにより,上記ズーム作動機構が動作して上記ズーム光学系の焦点距離が変化するように構成されたズーム内視鏡において, 上記回転伝達線材が,複数の素線から形成された基端側の硬質トルクワイヤと,上記硬質トルクワイヤの素線より細い複数の素線から形成された先端側の軟質トルクワイヤとを直列に一体的に連結して形成されているズーム内視鏡。」である点で一致し,以下の点で相違するといえる。 (相違点4) 基端側の硬質トルクワイヤと,先端側の軟質トルクワイヤについて,本願発明では,それぞれ,「複数の素線を撚り合わせて形成された」ものであるのに対して,引用発明では,それぞれ,内層,中間層及び外層からなる,素線からなる3重のコイルである第2のコイル部と第1のコイル部である点。 (相違点5) 基端側の硬質トルクワイヤと先端側の軟質トルクワイヤの連結について,本願発明では,直接連結するのに対して,引用発明では,連結部材30を介して接続する点。 (1)相違点4についての検討 上記「第2 3 (1)相違点2についての検討」に記載した文章中の「補正発明」を「本願発明」と読み替えたとおりである。 (2)相違点5についての検討 上記刊行物3には,図1に,撚り線ワイヤ3aと柔軟な撚り線ワイヤ3bが接続管3cを用いて直接連結した状態が記載されている。 そして,作成時の作業を単純化することは,コスト削減のための常套手段である。 してみると,引用発明に刊行物3記載の技術事項を適用して,相違点5に記載の本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到するものといえる。 (3)そして,本願発明の作用効果は,当業者が予測し得る範囲内のものにすぎない。 (4)したがって,本案発明は,引用発明,刊行物2,3記載の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるというべきである。 第4 まとめ 以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,その他の請求項について言及するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-07-06 |
結審通知日 | 2015-07-07 |
審決日 | 2015-07-22 |
出願番号 | 特願2008-320882(P2008-320882) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A61B)
P 1 8・ 575- Z (A61B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 石原 徹弥、大塚 裕一、濱本 禎広 |
特許庁審判長 |
森林 克郎 |
特許庁審判官 |
信田 昌男 ▲高▼場 正光 |
発明の名称 | ズーム内視鏡 |
代理人 | 小倉 洋樹 |
代理人 | 藤 拓也 |
代理人 | 松浦 孝 |