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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1304919
審判番号 不服2014-8185  
総通号数 190 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-05-02 
確定日 2015-09-02 
事件の表示 特願2013-160077「太陽電池用封止膜及びこれを用いた太陽電池」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 6月19日出願公開、特開2014-112643〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年8月1日(優先権主張平成24年10月3日)の出願であって、平成25年8月23日付けで拒絶理由が通知され、同年10月28日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年11月15日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成26年1月17日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年1月31日付けで、平成26年1月17日付けの手続補正書でした補正は、決定をもって却下されるとともに、拒絶査定がなされ、これに対し、平成26年5月2日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされ、平成26年6月19日付けで審判請求書に係る手続補正書が提出されたものである。

第2 平成26年5月2日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成26年5月2日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.本件補正について
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、下記アを、下記イと補正するものである(下線は、補正箇所。)。
ア 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「オレフィン(共)重合体を含む樹脂材料、及び波長変換材料を含む太陽電池用封止膜であって、
波長変換材料が、下記式(I):
【化1】

[式中、Rは全て水素原子であり、nは1である。]
で表わされるユウロピウム錯体であり、
前記波長変換材料の含有量が、前記樹脂材料100質量部に対して0.001?0.1質量部であることを特徴とする太陽電池用封止膜。」

イ 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「オレフィン(共)重合体を含む樹脂材料、及び波長変換材料を含む太陽電池用封止膜であって、
波長変換材料が、下記式(I):
【化1】

[式中、Rは全て水素原子であり、nは1である。]
で表わされるユウロピウム錯体であり、
前記波長変換材料の含有量が、前記樹脂材料100質量部に対して0.01?0.1質量部であり、
前記波長変換材料は直接、当該太陽電池用封止膜に含まれており、
ガラスからなる表面側透明保護部材と、裏面側保護部材との間に配置される太陽電池用封止膜。」

2.新規事項の有無及び補正の目的要件
本件補正は、「波長変換材料の含有量」の範囲の下限について、「0.001」を「0.01」とすることで、その範囲を限定し、また、「波長変換材料」が「直接、当該太陽電池用封止膜に含まれて」いる点を限定し、さらに、「太陽電池封止膜」の配置について、「ガラスからなる表面側透明保護部材と、裏面側保護部材との間に配置される」点を限定するものであって、これらは、願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。)の【表1】?【表3】、【0059】、【0064】及び【0068】等の記載からみて、当初明細書に記載した事項の範囲内においてするものである。
そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であって、上記補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当する。

そこで、本件補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)を、進歩性(特許法第29条第2項)について検討する。

3.本件補正発明の進歩性について
(1)本件補正発明
本件補正発明は、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された、以下のとおりのものと認める。
「オレフィン(共)重合体を含む樹脂材料、及び波長変換材料を含む太陽電池用封止膜であって、
波長変換材料が、下記式(I):
【化1】

[式中、Rは全て水素原子であり、nは1である。]
で表わされるユウロピウム錯体であり、
前記波長変換材料の含有量が、前記樹脂材料100質量部に対して0.01?0.1質量部であり、
前記波長変換材料は直接、当該太陽電池用封止膜に含まれており、
ガラスからなる表面側透明保護部材と、裏面側保護部材との間に配置される太陽電池用封止膜。」

(2)引用刊行物の記載(下線は当審が付与した。以下、同じ。)
ア 引用刊行物1について
原査定の拒絶の理由に引用された本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平7-202243号公報(以下、「引用刊行物1」という。)には、「太陽電池モジュール」(発明の名称)について、次の記載がある。
(引1ア)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、太陽電池モジュールに係り、詳しくは、太陽光を効率よく電気エネルギーに変換することができる太陽電池モジュールに関する。」
(引1イ)「【0025】
【実施例】以下に、図に基づいて本発明を詳細に説明する。
【0026】図1には、第1実施例に係る太陽電池モジュールの概略構造が示されている。太陽電池モジュール10には、太陽光を受ける受光面側に板状のフロントカバー11が配設されている。このフロントカバー11の下側には、保護材としての封止材18aを介在させて光エネルギーを電気エネルギーに変換するセル14が配設されている。このセル14は、太陽電池モジュール10内に複数配置され、電気的にインターコネクタ16で接続されている。またセル14の下側には、封止材18bを介在させ基板としてのバックカバー12が配設されている。これらの積層物は、加熱圧着されて所望の太陽電池モジュール10を形成する。
【0027】本実施例では封止材18aが、250?850nmの範囲に属する波長を有する光を吸収して吸収した波長よりも長い波長の光に変換する波長変換層を構成している。ここで波長変換層とは、このような機能をその層構造の一部又は全部に有する層をいう。
【0028】前記波長変換層は、少なくとも太陽光がセル14に入射する間に存在していればよく、少なくともフロントカバー11の受光表面及びフロントカバー11とセル14との間のいずれかにあればよい。また、該波長変換層は、セル14に入射する光のみを吸収できればよいので、少なくともセル14への太陽光の入射部に変換された光を供給することができる位置に存在していればよく、太陽電池モジュール10の表面積と同じ面積で均一に存在していなくてもよい。
【0029】従って、波長変換層を構成する方法として、フロントカバー11や封止材18の材料に混合する方法、適当な溶媒に後述する変換剤を配合して所望の箇所例えばフロントカバー11の受光面側及びセル14の光入射面側に塗布する方法、並びに他の方法が考えられ、セル14における太陽光の吸収を妨げない又は該変換剤の機能を損なわない形態であれば、いずれの方法であってもよい。
【0030】以下に、本発明の実施例を更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0031】前記波長変換層は、波長変換層を形成するために必須の成分(以下、変換剤と称する)を含むことによって形成させること及び他の方法により太陽電池モジュールに配設することができる。前記変換剤は、一般に知られている発光及び燐光現象を与える物質を全て包含し、この変換剤には、例えば、各種蛍光灯及びブラウン管等に用いられている発光体及び蛍光体が該当する。本実施例に用いられる該変換剤としては、500nm以上の波長の光に変換してセルに供給することができる物質が好ましく、例えば、化学組成がSr_(5)(PO_(4))_(3)Cl:Eu、3(Ba,Mg)O・8Al_(2)O_(3):Eu、ZnO:Zn、Zn_(2)SiO_(4):Mn、Zn_(2)GeO_(4):Mn、YVO_(4):Eu、Y_(2)O_(2)S:Eu、0.5MgF_(2)・3.5MgO・GeO_(2):Mn、ZnS:Cu、Y_(2)O_(3):Eu等である無機化合物、〔Ru(III)(Phen)_(3)〕(ClO_(4))_(3)(Phen:1,10-フェナンソロリン)、〔Ru(III)(bipy)_(3)〕(ClO_(4))_(3)(bipy:2,2′-ビピリジル)、K_(2)〔W(II)_(6)Cl_(14)〕、K_(2)〔Mo(II)_(6)Cl_(14)〕、及びランタノイド金属錯体等の金属錯体、並びに、4-4′-ジアミノスルチベン-2,2′-スルホン酸ナトリウム、アントラセン、ピラジン、ベンゾフェノン、アセトフェノン及び下記化合物(a)及び(b)の含量等の有機化合物が挙げられ、単独で又は2種以上を混合して用いられるが、このうちより好ましいのは、ZnO:Zn、Y_(2)O_(2)S:Eu及びY_(2)O_(3):Euであり、適当な吸収波長範囲が狭いアモルファスシリコン系太陽電池の場合は、〔Ru(III)(Phen)_(3)〕(ClO_(4))_(3)が最も好ましい。
【0032】・・・(略)・・・
【0033】 本実施例に用いられる封止材18には、シリコンのポッティング材、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)等が該当する。このうち特に耐湿性に優れているEVA樹脂が好ましい。」
(引1ウ)「【0047】
本実施例において、フロントカバー11及びバックカバー12に用いることができる材料には、ガラス、ポリカーボネート、アクリル、ポリエステル、フッ化ポリエチレン等が挙げられる。これらは、特にフロントカバー11として用いられる場合は、太陽光の入射を妨げないように透明にすることが好ましく、更に、用いられる材料の物性により板状、シート状、フィルム状等の形態に加工成形される。」
(引1エ)図1


イ 引用刊行物2について
原査定の拒絶理由に引用された、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である特開2006-269373号公報(以下、「引用刊行物2」という。)には、「色素増感太陽電池」(発明の名称)について、次の記載がある。
(引2ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光の有効利用を図ることにより、光電変換率を向上させた色素増感太陽電池に関する。」
(引2イ)「【0013】
すなわち本発明は、太陽光中の短波長領域の光を色素増感半導体層により光電変換可能な500nm?650nmの長波長領域の光に波長変換する蛍光物質(B)が分散している波長変換膜が、太陽光側の最外層として配設されており、前記波長変換膜が、非晶性含フッ素ポリマー(A)をマトリックスポリマーとし、蛍光物質(B)が該マトリックスポリマー中に分散している膜であることを特徴とする色素増感太陽電池に関する。」
(引2ウ)「【0016】
前記波長変換膜中に含まれる蛍光物質(B)としては、Tb錯体またはEu錯体が好ましく、さらに、Tb錯体またはEu錯体が吸収スペクトルの最大吸収ピーク波長を400nm以下の波長領域に有しており、かつその最大吸収ピーク波長の吸光係数が1000以上である錯体であるときに、より光電変換効率の向上が達成できる。」
(引2エ)「【0135】
合成例1(Eu錯体、Eu(CF_(3)COCHCOCF_(3))_(3)・2((C_(6)H_(5))_(3)P=O)の調製)
酢酸ユーロピウム4水和物2.0g(5mmol)およびヘキサフルオロアセチルアセトン3.0g(20mmol)を水50mlに加え、室温で3日間攪拌した。沈殿した固体をろ過、水洗後、水/メタノール混合溶媒で再結晶し、錯体(Eu(CF_(3)COCHCOCF_(3))_(3))を得た(収率60%)。得られた結晶はTG-DTA測定の結果から、2水和物であることが確認された。
【0136】
得られた錯体(Eu(CF_(3)COCHCOCF_(3))_(3))1.0g、トリフェニルフォスフィンオキサイド0.5gをメタノールに溶解させ60℃で5時間撹拌した。沈澱した固体をろ過後、トルエン/シクロヘキサン混合溶媒から再結晶し、錯体(Eu(CF_(3)COCHCOCF_(3))_(3)・2((C_(6)H_(5))_(3)P=O)を得た(収率50%)。」

(3)引用刊行物に記載された事項
ア 引用刊行物1記載の発明
上記「(2)ア」から、引用刊行物1の実施例には、
「太陽光を受ける受光面側に板状のガラス、ポリカーボネート、アクリル、ポリエステル、フッ化ポリエチレン等からなるフロントカバー11が配設され、
このフロントカバー11の下側には、保護材である封止材18aを介在させて、光エネルギーを電気エネルギーに変換するセル14が配設され、
セル14の下側には、封止材18bを介在させ基板としてのバックカバー12が配設され、
これらの積層物は、加熱圧着されて太陽電池モジュール10を形成し、
封止材18(18a、18b)は、波長変換層を構成し、
該波長変換層は、該封止材18の材料であるEVA樹脂に変換剤を混合することによって構成され、
該変換剤は、吸収した光の波長よりも長い500nm以上の波長の光に変換してセルに供給することができる物質である、
波長変換層。」(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

イ 引用刊行物2に記載された事項
引用刊行物2には、太陽光中の短波長領域の光を500nm?650nmの長波長領域の光に波長変換する蛍光物質として、錯体(Eu(CF_(3)COCHCOCF_(3))_(3)・2((C_(6)H_(5))_(3)P=O)が記載されていると認められる。

(4)対比・判断
本件補正発明と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1の「波長変換層」、「光エネルギーを電気エネルギーに変換するセル14」、「太陽電池モジュール10に用いられる封止材18」及び「吸収した光の波長よりも長い500nm以上の波長の光に変換してセルに供給することができる蛍光体である変換剤」は、本件補正発明の「太陽電池用封止膜」、「太陽電池」、「樹脂材料」及び「波長変換材料」にそれぞれ相当する。

イ 引用発明1の「EVA樹脂」は、エチレンと酢酸ビニルを共重合したオレフィン共重合体であるから、引用発明1の「封止材18の材料であるEVA樹脂」は、本願発明の「オレフィン(共)重合体を含む樹脂材料」に相当する。

ウ 引用発明1の「太陽光を受ける受光面側」は、本願補正発明の「表面側」に相当し、引用発明1の「板状のガラス、ポリカーボネート、アクリル、ポリエステル、フッ化ポリエチレン等からなるフロントカバー11」は、透明であることは明らかであって、本件補正発明の「表面側透明保護部材」に相当する。
また、引用発明1の「基板としてのバックカバー12」は、「セル14」を保護するものであることは明らかであるから、本件補正発明の「裏面側保護部材」に相当する。
そして、引用発明1では、「フロントカバー11の下側には、保護材である封止材18aを介在させて、光エネルギーを電気エネルギーに変換するセル14が配設され、セル14の下側には、封止材18bを介在させ基板としてのバックカバー12が配設され」ているから、引用発明1の「封止材18」は、「板状のガラス、ポリカーボネート、アクリル、ポリエステル、フッ化ポリエチレン等からなるフロントカバー11」と「セル14」との間、及び、「セル14」と「基板としてのバックカバー12」との間に配置されている。

エ 引用発明1の「波長変換層」は、「封止材18の材料であるEVA樹脂に変換剤を混合することによって構成され」ているから、変換剤は、直接、「波長変換層」に含まれているということができる。

そうすると、本件補正発明と引用発明1とは、
「オレフィン(共)重合体を含む樹脂材料、及び波長変換材料を含む太陽電池用封止膜であって、
前記波長変換材料は直接、当該太陽電池用封止膜に含まれており、
ガラスからなる表面側透明保護部材と、裏面側保護部材との間に配置される太陽電池用封止膜。」である点で一致し、次の相違点で相違する。

(相違点)
本件補正発明の「変換材料」は、下記式(I):

[式中、Rは全て水素原子であり、nは1である。]で表されるユウロピウム錯体であって、その含有量は、樹脂材料100質量部に対して0.01?0.1質量部であるのに対し、引用発明1の「変換材」は上記式(I)で示されるユウロピウム錯体ではなく、含有量は規定されていない点。

上記相違点について検討する。
引用発明1の「変換材」である「吸収した光の波長よりも長い500nm以上の波長の光に変換してセルに供給することができる蛍光剤である物質」として、公知材料の中からの最適材料を選択し、その際、どの程度の量を含有させるかは、は、当業者の通常の創作能力の発揮というべきであり、しかも、「吸収した光の波長よりも長い500nm以上の波長の光に変換してセルに供給することができる蛍光剤である物質」として、上記(I)式で示されるユウロピウム錯体は、引用刊行物2にも開示されるように公知であって、本件補正発明が、引用発明1及び引用刊行物2に開示された事項に比較して、格別顕著な作用効果を奏するものではないことも考慮すると、引用発明1の「変換材」として、引用刊行物2に記載された上記(I)式で示されるユウロピウム錯体を採用し、本件補正発明の上記相違点に係る発明特定事項を得ることに困難性は認められない。

なお、審判請求人は、平成26年6月19日付けの審判請求書に係る手続補正書において、本件補正発明の太陽電池用封止膜においては、波長変換材料として式(I)のユーロピウム錯体を、樹脂材料100質量部に対して0.01?0.1質量部とした含有量で、直接、ガラスからなる表面側透明保護部材と裏面側保護部材との間に配置される太陽電池用封止膜に含有させることで、透明性を確保すると共に、波長変換材料の紫外線耐久性を向上させ、発電効率の向上効果が長期間維持されることが見出されており、この効果については、実施例1?8が、含有量が少ない比較例1?12よりも耐UV性及び蛍光強度が極めて高く、ヘイズ及び光線透過率は含有量が少ない比較例1?12と同等のレベルであることが実証されていることから、本件補正発明は引用文献1?7に対して顕著な効果を有しており、本願請求項1の進歩性は肯定されるべきである旨主張している。

しかしながら、太陽電池用封止膜の樹脂材料における透明性は、太陽電池用封止膜を構成する樹脂材料の組成や樹脂材料の重合体の重合度等によって変わるものであり、また、波長変換材料の紫外線耐久性は、該封止膜を構成する樹脂材料の組成や、該封止膜に残留する架橋剤、重合開始剤等の樹脂材料以外の含有物の組成によっても、影響を受けることが技術常識である。
そうすると、請求人が示した特定の実施例においては、波長変換材料の含有量が特定の範囲であれば、効果を奏するということができたとしても、本件補正発明は、波長変換材料の含有量以外の、樹脂材料や封止膜に残留する組成等の、封止膜の透明性や波長変換材料の紫外線耐久性を左右する事項については、具体的な特定がないのであるから、請求人の主張は請求項の記載に基くものではないということでき、採用することができない。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正発明は、引用発明1、引用刊行物2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
(1)本願発明
平成26年5月2日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成25年10月28日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものと認める。
「オレフィン(共)重合体を含む樹脂材料、及び波長変換材料を含む太陽電池用封止膜であって、
波長変換材料が、下記式(I):
【化1】

[式中、Rは全て水素原子であり、nは1である。]
で表わされるユウロピウム錯体であり、
前記波長変換材料の含有量が、前記樹脂材料100質量部に対して0.001?0.1質量部であることを特徴とする太陽電池用封止膜。」

(2)引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された引用刊行物及びその記載事項は、前記「第2 3.(2)ア、イ、(3)ア、イ」に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は、前記第2で検討した本件補正発明において、「波長変換材料の含有量」の範囲の下限を「0.01」から「0.001」に拡張し、また、「波長変換材料」が「直接、当該太陽電池用封止膜に含まれて」いる点を削除し、さらに、「太陽電池封止膜」の配置について、「ガラスからなる表面側透明保護部材と、裏面側保護部材との間に配置される」点を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記「第2 3.」に記載したとおり、引用発明1及び引用刊行物2の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明1及び引用刊行物2の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-05-28 
結審通知日 2015-06-09 
審決日 2015-06-24 
出願番号 特願2013-160077(P2013-160077)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 清水 靖記  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 川端 修
井口 猶二
発明の名称 太陽電池用封止膜及びこれを用いた太陽電池  
復代理人 高橋 修平  
代理人 江藤 聡明  

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