ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L |
---|---|
管理番号 | 1304959 |
審判番号 | 不服2013-23936 |
総通号数 | 190 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-10-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-12-05 |
確定日 | 2015-08-26 |
事件の表示 | 特願2008-272106「多重量子井戸構造の活性領域を有する発光ダイオード」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 7月 9日出願公開、特開2009-152552〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は、平成20年10月22日の出願(パリ条約による優先権主張2007年12月18日、韓国、2007年12月18日、韓国)であって、平成24年9月27日付けで拒絶理由が通知され、平成25年4月2日付けで手続補正がなされたところ、同年7月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月5日に拒絶査定不服審判請求がなされると同時に手続補正がなされ、その後、当審において平成26年10月27日付けで拒絶理由が通知され、平成27年3月2日付けで手続補正がなされたものである。 2 本願発明 本願の特許請求の範囲の請求項に記載された発明は、平成27年3月2日付け手続補正による補正後の特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項によって特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明は次のものである。 「窒化ガリウム系のN型化合物半導体層と、 窒化ガリウム系のP型化合物半導体層と、 前記N型及びP型化合物半導体層間に介在され、InGaN井戸層と障壁層が交互に積層された多重量子井戸構造の活性領域とを有し、 前記活性領域内の障壁層の少なくとも一つが、アンドープInGaN層及びSiドープGaN層を有し、 前記SiドープGaN層が、前記アンドープInGaN層よりも、前記P型化合物半導体層側に隣接し、 前記井戸層間に位置する障壁層が、前記井戸層間における最も薄い障壁層の厚さに対して、1.3乃至3倍の範囲内の厚さを有する複数個の相対的に厚い障壁層と、1乃至1.3倍の範囲内の厚さを有する複数個の相対的に薄い障壁層からなり、 前記アンドープInGaN層による障壁層のバンドギャップが前記N型化合物半導体層に近いほど狭くなることを特徴とする発光ダイオード。」(以下「本願発明」という。) 3 引用する刊行物と引用発明 (1)刊行物 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である特開2004-087908号公報(以下「刊行物1」という。)には、図面とともに以下の記載がある(下線は当審が付したものである。以下同じ。)。 ア 「【請求項1】 n型不純物がドープされたn型窒化物半導体層と、複数の井戸層と該井戸層よりもバンドギャップエネルギーの高い複数の障壁層とが積層されてなる多重量子井戸構造である発光層と、p型不純物がドープされたp型窒化物半導体層とからなり、前記n型窒化物半導体層と前記発光層と前記p型窒化物半導体層とが順に積層された窒化物半導体発光素子において、 前記井戸層は、不純物がドープされていないInGaN層であり、 少なくとも前記井戸層に挟まれた障壁層は、前記井戸層のIn組成比と異なるInGaN層と、GaN層とを含み、該InGaN層が一方の前記井戸層に接し、該GaN層がもう一方の前記井戸層に接することを特徴とする窒化物半導体発光素子。 【請求項2】 前記障壁層のInGaN層が接する一方の井戸層は、前記p型窒化物半導体側の井戸層であり、 前記障壁層のGaN層が接するもう一方の井戸層は、前記n型窒化物半導体層側の井戸層であることを特徴とする請求項1記載の窒化物半導体発光素子。 【請求項3】 前記障壁層のInGaN層には不純物がドープされておらず、前記障壁層のGaN層にはn型不純物がドープされていることを特徴とする請求項1又は2記載の窒化物半導体発光素子。 【請求項4】 前記障壁層は、InGaN層とGaN層とが積層された2層構造であることを特徴とする請求項1?3の何れかに記載の窒化物半導体発光素子。 【請求項5】 前記GaN層の厚みは、前記障壁層のInGaN層の厚みと等しいかそれよりも薄いことを特徴とする請求項1?4の何れかに記載の窒化物半導体発光素子。 【請求項6】 前記障壁層の厚みは、5nm以上12nm以下であることを特徴とする請求項1?5の何れかに記載の窒化物半導体発光素子。」 イ 「【0018】 【発明の実施の形態】 〈窒化物半導体発光素子の構成〉 図1は、窒化物半導体発光素子の構成を示す概略断面図である。窒化物半導体発光素子10は、(0001)面n型GaN基板11の表面上に、n型GaN層12、n型AlGaNクラッド層13、n型GaN光ガイド層14、発光層15、p型AlGaNキャリアブロック層16、p型GaN光ガイド層17、p型AlGaNクラッド層18、p型GaNコンタクト層19が順に積層されて構成される。」 ウ 「【0023】 その後、基板温度を800℃に下げて発光層15を形成する。発光層15は、厚さ4nmのアンドープのIn_(0.15)Ga_(0.85)N井戸層と、厚さ4nmのSiがドープされたGaN層(Si不純物濃度1×10^(18)cm^(-3))及び厚さ4nmのアンドープのIn_(0.05)Ga_(0.95)N層からなる障壁層とが交互に3周期積層された多重量子井戸構造を有している。即ち、障壁層/井戸層/障壁層/井戸層/障壁層/井戸層/障壁層の順で積層されている。 【0024】 なお、上記の多重量子井戸構造は障壁層を発光層15の最外層としているが、井戸層/障壁層/井戸層/障壁層/・・・/井戸層のように、発光層15の最外層を井戸層としてもよい。また、井戸層は10層以下であれば後述する閾値電流密度が低く、室温連続発振が可能である。」 エ 「【0030】 上記の窒化物半導体発光素子10は、窒化物半導体レーザ素子、発光ダイオード、スーパールミネッセントダイオード等に適用することができる。」 オ 「【0031】 〈従来の窒化物半導体発光素子との比較〉 従来の窒化物半導体発光素子の性能と比較実験するために、本発明の窒化物半導体発光素子10の実施例として2つの構成の窒化物半導体レーザ素子を作製した。何れの素子も図1の発光層15の構成を変化させたものである。1つ目の窒化物半導体レーザ素子(以下、タイプAと称す)の発光層15の断面図を図2に示す。 【0032】 図2ではn型GaN光ガイド層14の上に、障壁層30a/井戸層31/障壁層30b/井戸層31/障壁層30b/井戸層31/障壁層30cの順に積層されてなる発光層15が形成されている。 【0033】 ここで、井戸層31はアンドープのIn_(0.15)Ga_(0.85)N層である。また、障壁層30a、30b、30cはそれぞれ2層構造である。障壁層30a、30b、30cのn型GaN光ガイド層14側にはn型GaN層32a、32b、32cが形成され、p型AlGaNキャリアブロック層16側にはIn_(0.05)Ga_(0.95)N層33a、33b、33cが形成される。 【0034】 次に、2つ目の窒化物半導体レーザ素子(以下、タイプBと称す)の発光層15の断面図を図3に示す。 【0035】 図3ではn型GaN光ガイド層14の上に、障壁層30a/井戸層31/障壁層30b/井戸層31/障壁層30b/井戸層31/障壁層30cの順に積層されてなる発光層15が形成されている。 【0036】 ここで、井戸層31はアンドープのIn_(0.15)Ga_(0.85)N層である。また、障壁層30a、30b、30cはそれぞれ2層構造である。障壁層30a、30b、30cのn型GaN光ガイド層14側にはIn_(0.05)Ga_(0.95)N層33a、33b、33cが形成され、p型AlGaNキャリアブロック層16側にはn型GaN層32a、32b、32cが形成される。 【0037】 このように、タイプAとタイプBとの違いは、障壁層30a、30b、30cを構成する2層の積層順序が逆になっていることである。」 カ 「【0047】 〈障壁層中のInGaN層とGaN層の不純物のドーピング〉 本発明において、障壁層30a、30b、30c中のInGaN層33a、33b、33cとGaN層32a、32b、32cには、不純物がドープされていてもよいし、されていなくても構わない。しかしながら、実験結果によれば、障壁層30a、30b、30cに全く不純物をドープしない場合、EL発光強度は非常に弱かった。これは、十分なキャリアが井戸層31に注入されていないためではないかと考えられる。 【0048】 従って、少なくとも障壁層30a、30b、30c中のInGaN層33a、33b、33cとGaN層32a、32b、32cのうち何れかの層に不純物をドープすることが好ましい。更に好ましい障壁層30a、30b、30cの構成は、不純物を含まないInGaN層33a、33b、33cとn型の不純物であるSiがドープされたGaN層32a、32b、32cである。なぜなら、障壁層30a、30b、30c全体には不純物がドープされないことによって、障壁層30a、30b、30c内での自由キャリアによる散乱を低減し、内部損失が増大するのを防いで閾値電流密度を低くすることができるからである。 【0049】 また、障壁層30a、30b、30c中のGaN層32a、32b、32cは、井戸層31や障壁層に含まれたInGaN層と近い成長温度帯域(井戸層の成長温度に対して+150℃以内)で成長するため、結晶性が悪化しやすい。ところが、Si等の不純物をGaN層32a、32b、32cにドープすると、井戸層31へのキャリアの注入のみならず、GaN層自体の結晶性の改善を行えるので好ましい。なお、Siの濃度は1×10^(17)?5×10^(18)cm^(-3)が好ましい。」 キ 「【0053】 具体的に、障壁層の厚みは5nm以上12nm以下であることが好ましい。障壁層の厚みが5nmよりも薄くなると、上述したバンド構造の傾きが弱くなるため好ましくない。一方、障壁層の厚みが12nmよりも厚くなると、バンド構造の傾きが強くなりすぎて、電子とホールの空間的な分離が大きくなるとともに、井戸層と井戸層との距離も離れすぎて移動度の小さいホールが各井戸層に注入されにくくなる可能性がある。」 ク 「【0071】 【発明の効果】 本発明によると、井戸層は、不純物がドープされていないInGaN層であり、少なくとも井戸層に挟まれた障壁層は、井戸層のIn組成比と異なるInGaN層と、GaN層とを含み、InGaN層が一方の井戸層に接し、GaN層がもう一方の井戸層に接することにより、発光効率を向上させるとともに、閾値電流密度の低い窒化物半導体発光素子を提供することができる。」 (2)引用発明 ア 上記(1)アの記載によれば、刊行物1には、「n型不純物がドープされたn型窒化物半導体層と、複数の井戸層と該井戸層よりもバンドギャップエネルギーの高い複数の障壁層とが積層されてなる多重量子井戸構造である発光層と、p型不純物がドープされたp型窒化物半導体層とからなり、前記n型窒化物半導体層と前記発光層と前記p型窒化物半導体層とが順に積層された窒化物半導体発光素子において、 前記井戸層は、不純物がドープされていないInGaN層であり、 少なくとも前記井戸層に挟まれた障壁層は、前記井戸層のIn組成比と異なるInGaN層と、GaN層とを含み、該InGaN層が一方の前記井戸層に接し、該GaN層がもう一方の前記井戸層に接し、 前記障壁層のInGaN層には不純物がドープされておらず、前記障壁層のGaN層にはn型不純物がドープされており、 前記障壁層は、InGaN層とGaN層とが積層された2層構造である、 窒化物半導体発光素子。」が記載されている。 イ 上記(1)イの記載によれば、発光層とともに順に積層されるn型窒化物半導体層及びp型窒化物半導体層は、それぞれ、窒化ガリウム系のn型窒化物半導体層及び窒化ガリウム系のp型窒化物半導体層である。 ウ 上記(1)エの記載によれば、「窒化物半導体発光素子」は「発光ダイオード」に適用できる。 エ 上記(1)オの記載によれば、(タイプBの)障壁層を構成する2層の積層順序は、障壁層30a、30b、30cのn型GaN光ガイド層14側にはIn_(0.05)Ga_(0.95)N層33a、33b、33cが形成され、p型AlGaNキャリアブロック層16側にはn型GaN層32a、32b、32cが形成される構成、すなわち、障壁層のInGaN層がn型窒化物半導体層(n型GaN光ガイド層14)側に形成され、障壁層のGaN層がp型窒化物半導体層(p型AlGaNキャリアブロック層16)側に形成される構成とされている。 オ 上記(1)カの記載によれば、好ましい障壁層の構成は、不純物を含まないInGaN層とn型の不純物であるSiがドープされたGaN層である。 カ 上記ア?オによれば、刊行物1には、以下の発明が記載されている。 「n型不純物がドープされた窒化ガリウム系のn型窒化物半導体層と、複数の井戸層と該井戸層よりもバンドギャップエネルギーの高い複数の障壁層とが積層されてなる多重量子井戸構造である発光層と、p型不純物がドープされた窒化ガリウム系のp型窒化物半導体層とからなり、前記n型窒化物半導体層と前記発光層と前記p型窒化物半導体層とが順に積層された発光ダイオードにおいて、 前記井戸層は、不純物がドープされていないInGaN層であり、 少なくとも前記井戸層に挟まれた障壁層は、前記井戸層のIn組成比と異なるInGaN層と、GaN層とを含み、該InGaN層が一方の前記井戸層に接し、該GaN層がもう一方の前記井戸層に接し、 前記障壁層のInGaN層には不純物がドープされておらず、前記障壁層のGaN層にはn型不純物であるSiがドープされており、 前記障壁層は、InGaN層とGaN層とが積層された2層構造であり、 障壁層のInGaN層がn型窒化物半導体層側に形成され、障壁層のGaN層がp型窒化物半導体層側に形成される、 発光ダイオード。」(以下「引用発明」という。) 4 対比 本願発明と引用発明を対比する。 (1)引用発明の「n型不純物がドープされた窒化ガリウム系のn型窒化物半導体層」は本願発明の「窒化ガリウム系のN型化合物半導体層」に相当し、以下同様に、「p型不純物がドープされた窒化ガリウム系のp型窒化物半導体層」は「窒化ガリウム系のP型化合物半導体層」に、「(不純物がドープされていないInGaN層である)井戸層」は「InGaN井戸層」に、「障壁層」は「障壁層」に、「多重量子井戸構造である発光層」は「多重量子井戸構造の活性領域」に、「発光ダイオード」は「発光ダイオード」に、それぞれ、相当する。 (2) 本願発明の「前記N型及びP型化合物半導体層間に介在され、InGaN井戸層と障壁層が交互に積層された多重量子井戸構造の活性領域とを有」することと、引用発明の「n型不純物がドープされた窒化ガリウム系のn型窒化物半導体層と、複数の井戸層と該井戸層よりもバンドギャップエネルギーの高い複数の障壁層とが積層されてなる多重量子井戸構造である発光層と、p型不純物がドープされた窒化ガリウム系のp型窒化物半導体層とからなり、前記n型窒化物半導体層と前記発光層と前記p型窒化物半導体層とが順に積層された発光ダイオードにおいて、前記井戸層は、不純物がドープされていないInGaN層であ」ることを対比する。 ア 引用発明の「多重量子井戸構造である発光層」は、「複数の井戸層と該井戸層よりもバンドギャップエネルギーの高い複数の障壁層とが積層されてなる」ものであり、「前記井戸層は、不純物がドープされていないInGaN層であ」るから、本願発明の「InGaN井戸層と障壁層が交互に積層された多重量子井戸構造の活性領域」に相当する。 イ 引用発明の「前記n型窒化物半導体層と前記発光層と前記p型窒化物半導体層とが順に積層され」ていることは、本願発明の「多重量子井戸構造である発光層」が「N型及びP型化合物半導体層間に介在され」ていることに相当する。 ウ 上記ア及びイによれば、両者は相当関係にある。 (3) 本願発明の「前記活性領域内の障壁層の少なくとも一つが、アンドープInGaN層及びSiドープGaN層を有し、前記SiドープGaN層が、前記アンドープInGaN層よりも、前記P型化合物半導体層側に隣接」することと、引用発明の「前記障壁層のInGaN層には不純物がドープされておらず、前記障壁層のGaN層にはn型不純物であるSiがドープされており、前記障壁層は、InGaN層とGaN層とが積層された2層構造であり、障壁層のInGaN層がn型窒化物半導体層側に形成され、障壁層のGaN層がp型窒化物半導体層側に形成される」ことを対比する。 ア 引用発明の「障壁層」が「InGaN層とGaN層とが積層された2層構造であり」、「前記障壁層のInGaN層には不純物がドープされておらず、前記障壁層のGaN層にはn型不純物であるSiがドープされて」いることは、本願発明の「前記活性領域内の障壁層の少なくとも一つが、アンドープInGaN層及びSiドープGaN層を有」することに相当する。 イ 上記(1)に記載したとおり、引用発明の「p型窒化物半導体層」は本願発明の「P型化合物半導体層」に相当するから、引用発明の「障壁層の(不純物がドープされていない)InGaN層がn型窒化物半導体層側に形成され、障壁層の(n型不純物であるSiがドープされている)GaN層がp型窒化物半導体層側に形成される」ことは、本願発明の「前記SiドープGaN層が、前記アンドープInGaN層よりも、前記P型化合物半導体層側に隣接」することに相当する。 ウ 上記ア及びイによれば、両者は相当関係にある。 (4)以上のことから、本願発明と引用発明は、 「窒化ガリウム系のN型化合物半導体層と、 窒化ガリウム系のP型化合物半導体層と、 前記N型及びP型化合物半導体層間に介在され、InGaN井戸層と障壁層が交互に積層された多重量子井戸構造の活性領域とを有し、 前記活性領域内の障壁層の少なくとも一つが、アンドープInGaN層及びSiドープGaN層を有し、 前記SiドープGaN層が、前記アンドープInGaN層よりも、前記P型化合物半導体層側に隣接する、 発光ダイオード。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 相違点1 本願発明は、「前記井戸層間に位置する障壁層が、前記井戸層間における最も薄い障壁層の厚さに対して、1.3乃至3倍の範囲内の厚さを有する複数個の相対的に厚い障壁層と、1乃至1.3倍の範囲内の厚さを有する複数個の相対的に薄い障壁層からな」るのに対し、引用発明は、そのような構成を有するものなのか否か明らかでない点。 相違点2 本願発明は、「前記アンドープInGaN層による障壁層のバンドギャップが前記N型化合物半導体層に近いほど狭くなる」のに対し、引用発明は、そのような構成を有するものなのか否か明らかでない点。 5 判断 以下、上記相違点について検討する。 (1)相違点1について 多重量子井戸構造の活性領域において、キャリア分布を均一として、発光効率を高めるために、障壁層の厚さを異ならせる(徐々に厚くする)ことは、 例えば、原査定の拒絶の理由に引用された特開2003-031902号公報(以下「周知文献1」という。「【0006】・・・n型クラッド層側の障壁層の厚さを薄くし、徐々に厚くしていくことによって電子がp型クラッド層側へ注入され易くしている。この結果、電子のキャリア密度分布の均一性がさらに向上し、その結果より効果的にしきい値電流を低くし、高効率のレーザを得ることができる。」、「【0027】・・・大電流駆動時においても多重量子井戸活性層内に注入されたキャリアがオーバーフローすることなく大出力の半導体レーザを得ることができる。」、「【0067】図12に、本実施形態における大出力半導体レーザの活性層付近のエネルギーバンド図を示す。本実施形態では、第1実施形態と第4実施形態を組み合わせた構成としている。すなわち、MQW活性層5において、障壁層80であるAl_(x)Ga_(1-x)Asの厚さt31,t32,t33,t34がn-Al_(0.4)Ga_(0.6)Asクラッド層3から離れるにしたがって順にt31=3nm、t32=4nm、t33=5nm、t34=6nmと1nmずつ厚く形成している。同時に、Al組成比xがn-AlGaAsクラッド層3から離れるにしたがって順にx=0.04、0.08、0.12、0.16と0.04ずつ大きくなるように形成しており、障壁層80のエネルギーバンドギャップEg31,Eg32,Eg33,Eg34がn型クラッド層3から離れるにしたがって順に大きくなっている(Eg31<Eg32<Eg33<Eg34)。このように障壁層80の厚さとAl組成比を同時に変えることで図12のごとく障壁層80の厚さt31?t34とエネルギーバンドギャップEg31?Eg34が順に変化するような構成としている。」、「【0069】したがって、本実施形態ではn型クラッド層3に近い側の障壁層80の膜厚を薄くしかつエネルギーバンドギャップを小さくしているため、電子をよりp型クラッド層7側へ注入し易くしている。・・・この結果、・・・活性層内のキャリア密度分布の均一性をさらに向上させることができる。これによって、図14に示すように図4に比べ電子-正孔間の再結合速度分布の均一性がさらに向上し、しきい値電流がさらに低く、より高効率のレーザを得ることができるようになる。」との記載、図12を参照。)、 あるいは、原査定の拒絶の理由に引用された特開平07-235732号公報(以下「周知文献2」という。「【0005】【発明が解決しようとする課題】上述の図12の構造では、活性層3として用いている多重量子井戸構造のバリヤの組成が全てのバリヤ層で同じであるため、井戸の層数が多い場合にはレーザへの電流注入の際、n側クラッド層に近い井戸層ほどホールが分布しにくく、ホールの非均一注入がおこり、各井戸へのホールの分布が均一とならない。このため活性層での発光効率が低下し、レーザ発振閾値電流が均一に分布した場合に較べ高くなり、外部微分量子効率が低くなるという問題がある。」、「【0011】・・・該多重量子井戸活性層のバリア層幅がp側からn側若しくは、n側からp側に向かって小さくなっていることを特徴とする。【0012】【作用】本発明では、多重量子井戸構造からなる活性層のバリヤの組成、量子井戸の組成、歪量、量子井戸幅、またはバリア幅が同じでないことを特徴とする。・・・【0013】・・・ホールの密度が高い量子井戸層周辺のバリア層を意図的に薄く設定し、トンネリング効果を積極的に利用してホール分布の均一化を図ることも可能である。これらの構造を採用して、ホールをMQW活性層内に均一に分布させることで、レーザ発振閾値電流値を下げ、外部微分量子効率を高めることができる。」との記載、図9を参照。) に記載されるように周知の技術事項である。 そうすると、引用発明において、多重量子井戸構造の障壁層の厚さを異ならせる(徐々に厚くする)ことに困難性はない。 またその際、引用発明は、刊行物1の上記3(1)ウ及びキの記載によれば、障壁層を10層前後まで設けられるものであり、障壁層の厚みは5nm以上12nm以下であることが好ましいものであるところ、障壁層の数を10層前後とし、障壁層の厚みを5nmから12nmの範囲で徐々に厚くすることによって、最も薄い障壁層の厚さに対して「1.3乃至3倍の範囲内の厚さ」の複数個の障壁層と「1乃至1.3倍の範囲内の厚さ」の複数個の障壁層とを備えるものとし、もって、上記相違点1に係る構成と為すことは、当業者が適宜なし得たことである。 (2)相違点2について 多重量子井戸構造の活性領域において、キャリア分布を均一として、発光効率を高めるために、障壁層のバンドギャップをN型化合物半導体層に近いほど狭くすることは、 例えば、上記周知文献1、 あるいは、原査定の拒絶の理由に引用された特開平05-102604号公報(以下「周知文献3」という。「【0009】【作用】本発明の多重量子井戸構造の価電子帯におけるエネルギーバンドを図1に示す。p側から注入された正孔は量子井戸層5と障壁層6を経て、n側に進むにつれて、n側に近い側で障壁層6のエネルギー障壁の高さが減少する(Eg1’>Eg2’)ため、トンネリングしやすくなり、正孔の分布は均一となる。したがって、各量子井戸層5から同じように利得を得ることができるようになり、レーザ発振に寄与しない無効電流を無くすことができる。なお、導波層4と量子井戸層5の禁制帯間隔をそれぞれEg”、Egとする。【0010】また、一般に電子は拡散しやすく、n側から注入された電子はp側の導波層4にまで達し無効電流となるが、多重量子井戸活性層中の障壁層6の高さがp側で高いため、電子のp側への拡散を抑制することができる。」、「【0020】【発明の効果】本発明によって多重量子井戸の正孔の分布を均一にすることにより、レーザ発振に寄与しない無効電流を減少させ、量子井戸層の数を増加させた時のしきい値が増大しなくなる。」との記載、図1を参照。) に記載されるように周知の技術事項である。 そうすると、引用発明において、多重量子井戸構造の障壁層のバンドギャップをN型化合物半導体層に近いほど狭くすることに困難性はない。 そして、その際、引用発明の障壁層は、InGaN層とGaN層とが積層された2層構造であるところ、(InGaN層はInとGaの組成比を変えることによりバンドギャップを変えられるが、GaN層は二元系の化合物半導体でバンドギャップを変えられないから、)障壁層を構成する2層のうち、InGaN層のバンドギャップをN型化合物半導体層に近いほど狭くし、上記相違点2に係る構成と為すことは、当業者が適宜なし得たことである。 (3)作用効果について 本願発明が奏するとされる、キャリアオーバーフロー及び量子閉じ込めシュタルク効果を減少させ、発光効率を向上させ、駆動電圧を減少させる、及び、変わる動作条件下で効率的な発光特性を示すといった作用効果は、刊行物1(【0071】、【0047】?【0049】を参照。)の発光効率を向上させる旨や障壁層にSiをドープすることによって十分なキャリアの注入を行う旨の記載、周知文献1?3のキャリア分布を均一として発光効率を高める旨の記載から、また、周知文献1(【0006】、【0027】を参照。)の、しきい値電流を低くでき、さらに大電流時においても多重量子井戸活性層内に注入されたキャリアがオーバーフローしないようにできる旨の記載からみて、当業者が予測しうる程度のものであって、格別のものとは認められない。 また、本願発明の、「 1.3乃至3倍の範囲内の厚さ」の「複数個」の相対的に薄い障壁層と、「1乃至1.3倍の範囲内の厚さ」の「複数個」の相対的に厚い障壁層との特定によって、さらなる格別の作用効果を奏するとも認められない。 (4)小括 したがって、本願発明は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 6 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-03-26 |
結審通知日 | 2015-03-31 |
審決日 | 2015-04-13 |
出願番号 | 特願2008-272106(P2008-272106) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H01L)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 松崎 義邦 |
特許庁審判長 |
小松 徹三 |
特許庁審判官 |
松川 直樹 鈴木 肇 |
発明の名称 | 多重量子井戸構造の活性領域を有する発光ダイオード |
代理人 | 特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ |