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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1305005
審判番号 不服2013-8201  
総通号数 190 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-05-07 
確定日 2015-08-25 
事件の表示 特願2008-532619「微生物を含む医薬投与製剤の安定化方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 4月 5日国際公開、WO2007/036278、平成21年 3月12日国内公表、特表2009-509983〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2006年8月30日(パリ条約による優先権主張 2005年9月29日(EP)欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって,平成24年4月26日付けの拒絶理由通知に対して,同年8月1日に意見書,手続補正書が提出され,同年12月26日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成25年5月7日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。
その後,当審において平成26年11月14日付けで拒絶理由が通知され,その指定期間内である平成27年2月17日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?12に係る発明は,平成27年2月17日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ,その請求項1に記載された発明(以下,「本願発明」という。)は,次のとおりである。

「【請求項1】
少なくとも1種の微生物培養物を含む固体医薬投与製剤の安定化方法であって,少なくとも1種のチャンネル形成剤が少なくとも1種の吸湿剤と共に内壁の少なくとも一部の領域にわたって埋設されている包装に前記固体医薬投与製剤を含ませることを特徴とする方法であって,
前記チャンネル形成剤が,ポリグリコール,エチルビニルアルコール,グリセロール,ポリビニルアルコール,ポリビニルピロリドン,ビニルピロリドン,N-メチルピロリドン,多糖類,糖類及び糖アルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種であり,
前記吸湿剤が,モレキュラーシーブ又はシリカゲルである前記方法。」

第3 当審の拒絶理由
当審において,平成26年11月14日付けで通知した拒絶理由は,以下の理由を含むものである。

理由1.本願の請求項1?12に係る発明は,その出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物1及び7?9に記載された発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

理由2.本願の特許請求の範囲の記載に不備があるので,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず,特許を受けることができない。

第4 判断
1.理由1について
(1)引用刊行物とその記載事項
当審の拒絶の理由に引用された,本願の優先日前に頒布された刊行物1,及び刊行物A?Cには,以下の事項が記載されている。
なお,刊行物1,及び刊行物A?Cは,順に,当審の拒絶の理由に引用された刊行物1,刊行物8,刊行物9,及び刊行物7である。
なお,下線は当審で付したものである。(以下,同様である。)

ア 刊行物1:特開昭60-23321号公報の記載事項

(刊1-1)
「1.発明の名称
長期保存に耐えるビフィズス菌製剤の製造法
2.特許請求の範囲
(1)ビフィズス菌に,アスコルビン酸,エリソルビン酸,あるいはそれらのナトリウム塩などの還元性物質およびマルチトール,ソルビトールなどの吸水性糖類を混合し,該混合物の水分含量が6重量%以下の状態で,外気および光線を遮断するフィルムで密閉,包装することを特徴とする長期保存に耐えるビフィズス菌製剤の製造法。」(1頁左欄2?11行)

(刊1-2)
「3.発明の詳細な説明
本発明はビフィズス菌を多量に含有する製剤の製造法に関するものであり,その目的とするところは,ビフィズス菌を長期間安定に保存し得る製剤を提供することにある。
ビフィズス菌(ビフィドバクテリウム属)は腸内の腐敗を抑制し,有害物質の生成を防ぎ,また腸内に発生した有害物質の吸収を防ぐなどの整腸効果を奏する健康に深く係りある有用菌である。
しかるに,ビフィズス菌は母乳栄養児においては腸内細菌の大部分を占めているが,成長と共に減少し,老人になると全く存在しない人もいるといわれている。
従って,この菌は成人においては外部から適宜補充することが望ましい。
しかしながら,ビフィズス菌は非常に不安定な細菌であり,酸素,水分,光,熱,酸などによって容易に失活し,その効果を失うという重大な欠点を有している。
そのため水分が多く酸度の高いヨーグルトやその他乳酸飲料などでは製造後の寿命が極めて短かい。
本発明者はこのようなビフィズス菌の欠点を改善し,長期保存に耐えるビフィズス菌製剤の製造法について種々研究の結果,極めて容易に,かつ安価にこの目的を達成し得る方法を見出し,本発明を完成した。
すなわち,本発明は,ビフィズス菌に安定剤としてアスコルビン酸,エリソルビン酸,あるいはそれらのナトリウム塩などの還元性物質ならびにマルチトール,ソルビトールなどの吸水性糖類を混合し,該混合物の水分含量が3重量%以下の状態で,外気および光線を遮断するフィルムで密閉,包装することを特徴とする長期保存に耐えるビフィズス菌製剤の製造法である。
本発明において使用するビフィズス菌は,通常,培養したビフィドバクテリウに属する菌を培地から分離,採取した後,低温で乾燥して得られるものである。
ビフィズス菌の安定剤として使用する還元性物質としては,食品用として好ましい還元剤,例えば,アスコルビン酸,アスコルビン酸ナトリウム,エリソルビン酸,エリソルビン酸ナトリウム,システイン(含硫アミノ酸),などが適当である。
これらの還元性物質はビフィズス菌乾燥物1重量部に対し1?10重量部程度混合することにより密閉包装物中に残存する空気中の酸素と反応して酸素を消費し,ビフィズス菌を無酸素状態雰囲気下に保って安定化する効果を有する。
また,これら還元性物質と併用する吸水性糖類としては,食品用として好ましい糖類,例えば,マルチトール,ソルビトール,低分子のデキストリンなどが適当である。
これらの糖類はビフィズス菌乾燥物1重量部に対し1?10重量部程度混合することにより密閉包装物中に残存する空気中の水分を吸収して乾燥剤的作用を果たし,ビフィズス菌を乾燥状態雰囲気下に保って安定化する効果を有する。
この際,ビフィズス菌に対する還元性物質ならびに吸水性糖類の混合量がこれ以下であれば,ビフィズス菌の安定化効果が十分得られず,一方これ以上混合してもビフィズス菌の安定化効果の向上が期待できないのみならず,製品中のビフィズス菌含量が低下してしまうため好ましくない。
ビフィズス菌と還元性物質および吸水性糖類との混合物は,水分含量が3重量%以下の状態で,例えば,アルミラミネート合成樹脂製フィルムなどのごとき外気および光線を遮断するフィルムを用いて密閉状態に包装することが必要であり,これによって外部よりの酸素,水分,光を遮断してビフィズス菌を活性状態に保つことができる。
混合物の水分含量がこれ以上であるとビフィズス菌が失活する恐れが生ずるため好ましくない。
この際,混合物の水分含量を3重量%以下に調整する方法としては必要に応じて予め乾燥した原材料を混合する方法でも,また混合物を必要に応じてビフィズス菌が失活しない程度の低温で乾燥(例えば,真空乾燥,凍結乾燥など)する方法でもよい。
本発明方法によれば,還元性物質,吸水性糖類,および外気,光線を遮断する包装フィルムの相互作用によってビフィズス菌を長期間安定に保存し得るので,活性状態のビフィズス菌を常時摂取することが可能となり,広く国民の健康に貢献することができる。
次に実施例をあげて本発明の効果を説明する。」(1頁左欄12行?2頁右上欄16行)

(刊1-3)
「実施例1.
市販の乾燥ビフィズス菌(ビオフェルミン製薬製,ビフィズス菌末,生菌数5×10^(8)/g,水分2.0重量%)10gにアスコルビン酸(水分0.4重量%)50gおよびマルチトール(水分0.6重量%)40gを混合し,この混合物を1gづつアルミラミネートポリエチレンフイルムで密閉,包装して本発明のビフィズス菌製剤を得た。
対照として,実施例1と同じ乾燥ビフィズス菌10gに,【1】予め乾燥したコーンスターチ(水分2.5重量%)90g,【2】アスコルビン酸(水分0.4重量%)90g,【3】マルチトール(水分0.6重量%)90gを別個に混合し,これらの混合物を実施例1と同じフィルムで1gづつ密閉,包装し,ビフィズス菌製剤を得た。
これらそれぞれの方法により製造したビフィズス菌製剤を温度約25℃の恒温室内に12カ月間保存して,その生菌数を測定する保存試験を行った。
その結果を次表に示す。

この結果から本発明方法によって製造したビフィズス菌製剤はビフィズス菌の保存性が極めて優れていることがわかる。」(2頁右上欄17行?右下欄3行)
(当審注:摘示文中の【1】は○で囲まれた数字1を示す。【2】,及び【3】についても同様である。)

イ 刊行物A:特表2003-520739号公報の記載事項

(刊A-1)
「【請求項1】 基礎部分に結合されて,製品を含有することができる密閉された単位のパッケージを形成する覆い部分を含むバリヤー包装であって,
(a)前記覆い部分は少なくとも一つの空洞を含み,前記覆い部分は前記空洞の内部に適用された吸収剤材料を含み,前記吸収剤材料は,一体式組成物を形成するように,少なくとも下記の成分:吸収剤,水不溶性ポリマー及び親水性剤を組み合わせることにより形成され,前記組成物は少なくとも3相を含み,そして相互連絡チャネル中に又は相互連絡チャネルに隣接して吸収剤を有する前記相互連絡チャネルを有し,そして
(b)前記基礎部分は,前記空洞が前記基礎部分から外側に向かって延在しているような覆い部分との関係にある,
バリヤー包装。
・・・
【請求項4】 前記吸収剤がシリカゲルおよびモレキュラーシーブからなる群から選択される乾燥剤である請求項1に記載のバリヤー包装。」

(刊A-2)
「【0002】
発明の分野
本発明は,一般に,バリヤー包装の内部に適用された吸収剤の使用に関する。一つの実施形態において,本発明は乾燥剤を含有する吸収剤を有するバリヤー包装に関する。
【0003】
発明の背景
錠剤,ピル,またはカプセルなどの固形形態を取る薬物は,時々,薬物の単一投与を保持するように設計された個別に密閉された間仕切りまたはブリスターを有するデイスペンサーにおいて患者に投薬される。こうした包装品は一回につき薬剤の単一投与分のみを扱うことを可能とし,患者の遵守を保証し,錠剤,ピルまたはカプセルの汚染のリスクを最小にする。」

(刊A-3)
「【0010】
一つの実施形態において,本発明の吸収剤含有層は乾燥剤を含有する。別の実施形態において,吸収剤含有層は,活性炭,カーボンブラック,ケチャムブラックおよびダイアモンド粉末からなる群から選択される材料を含有する。さらなる実施形態において,吸収剤含有層は,吸収性微小球,BaTiO_(3),SrTiO_(3),SiO_(2),Al_(2)O_(3),ZnO,TiO_(2),MnO,CuO,Sb_(2)O_(3),シリカ,酸化カルシウムおよびイオン交換樹脂からなる群から選択される材料を含有する。なお別の実施形態において,吸収剤含有層は2以上のタイプの吸収剤を含む。本発明に適する吸収剤は,望ましい末端用途に望まれる蒸気またはガスの吸収(例えば,湿分,酸素,二酸化炭素,窒素または他の望ましくないガスまたは蒸気の吸収)を達成するために選択される。」

(刊A-4)
「【0020】
加えて,別の実施形態において,吸収剤材料は相互連結チャネルを有する一体式の組成物であることが可能である。親水性剤(例えば,チャネリング剤)は,造形品の形成において用いられる水不溶性ポリマーと組合せることが可能である。実際,一つの実施形態において,親水性剤がブレンドされた水不溶性ポリマーベースには,例えば,ポリエチレンおよびポリプロピレンが挙げられる。」

(刊A-5)
「【0025】
一つの実施形態において,本発明の適する親水性剤には,ポリ(エチレングリコール)およびポリ(プロピレングルコール)およびそれらの混合物などのポリグリコールが挙げられる。他の適する材料には,それらが親水性化合物であるので本発明の目的のために適するEVOH,グリセリン,ペンタエリスリトール,PVOH,ポリビニルピロリドン,ビニルピロリドンまたはポリ(N-メチルピロリドン),および,サッカリドをベースとする化合物,例えば,グルコース,果糖およびそれらのアルコール,マンニトール,デキストリンおよび加水分解されたデンプンが挙げられる。」

(刊A-6)
「【0029】
なお別の実施形態において,乾燥剤は乾燥剤と親水性剤の間の親和性を生じさせる極性を有するように選択される。こうした極性乾燥剤の例には,一般に水不溶性ポリマーとよりも親水性剤と高い混和性を有するシリカがある。このために,分離過程の間に,相互連絡チャネルがポリマーを通して形成されるときに,乾燥剤がより大きい親和性を有する親水性剤領域に向けて凝集してくると考えられる。このやり方において,親水性剤は,ポリマー構造の外側に位置する湿分とポリマー内部に位置する乾燥剤の間の橋かけとして作用することが可能になると理論化される。これは,特に,親水性剤を充填した通路内に結合されている乾燥剤に関して当てはまる。さらなる実施形態において,グリセリンなどの極性可塑剤はさらに混合物に添加され,親水性剤中への乾燥剤の分散または混合を強化することが可能である。親水性剤内で主として濃縮された乾燥剤は伝達親水性剤から湿分を取り上げ,それをその中に保持する。この点で,湿分は相互連絡チャネルを通して素早く吸引され,ポリマー全体にわたって分散されている乾燥性粒子または乾燥剤に供することが可能になる。」

(刊A-7)
「【0042】
第3のタイプの乾燥剤は物理的吸収を通してそれらの湿分吸収能力を獲得する。吸収過程は湿分を吸引する乾燥剤粒子の微細毛細管形態の故に達成される。毛細管の孔サイズおよび毛細管の密度が乾燥剤の吸収特性を決定する。これらの物理的吸収乾燥剤の例には,モレキュラーシーブ,シリカゲル,クレーおよびデンプンが挙げられる。これらのタイプの物理的吸収乾燥剤は不活性でかつ水不溶性であるから,それらは多くの用途に好ましい。他の理由の中でも,これらの無害性の特徴は,乾燥剤同伴ポリマーから形成される容器内に密閉されるか,または少なくともそこにさらされうる食品製品および医薬製品に,特に適合する。適する乾燥剤には,シリカゲル,モレキュラーシーブおよびモンモリリマイトクレーをも含むであろう天然生成クレー化合物が挙げられる。」

ウ 刊行物B:特表2003-523431号公報の記載事項

(刊B-1)
「【0002】
発明の分野
本発明は,一般に3成分??2ポリマー(すなわち,成分AおよびB)および粒子(すなわち,成分C)を含んで成り,チャネルが主として成分Bから成り,成分Cの大部分がチャネル内に残る共連続相互連絡チャネル形態を有する組成物に関する。成分AおよびBは,一般に相互に混和しない。加えて,成分Cおよび成分AおよびBを選択するための一つの基準として,成分Aに対するよりも成分Bに対する成分Cの強い優先親和力に基づくことが可能である。成分Cを選択するための別の基準として,成分Cの所期の物質を吸収および/または放出する能力に基づくことが可能である。例えば,成分Cは乾燥剤などの吸収性材料でありえる。一つの実施形態において,本発明の組成物は制御された環境を必要とする品目用のコンテナおよび包装材などの造形品の製造に有用である。
【0003】
発明の背景
好ましくは,制御されおよび/または規制されねばならない環境の中で貯蔵,出荷および/または利用される多くの品目がある。例えば,湿度制御域の中で,そこに閉じこまれている過剰の水分を吸収する能力を有するコンテナおよび/または包装材は,望ましいものとして認識されてきた。水分吸収性コンテナが望まれる一つの用途は,その効力が水分により弱められる薬物の出荷および貯蔵用である。通常,シールされた水分なしのコンテナ中への当初の薬剤の装填は制御可能である。さらに,薬剤用のコンテナは低い水分透過性を有するように選択される。従って,通常,薬物はそれが末端使用者に届くまでは水分から防御される。しかし,薬剤が一度顧客に渡ると,薬物を取り出すためにコンテナは繰り返し開かれまた閉じられなければならない。コンテナが開かれシールを外す毎に,必ずや水分含有空気がコンテナ中に入り,閉じるとその中に閉じ込められるに違いない。この水分が空気またはコンテナ上部空間から除かれない限り,それは薬物により吸収され有害となりえる。この理由により,コンテナ中の薬物と一緒に乾燥単位を包含することはよく知られた決まったやり方である。
【0004】
他の品目,電子部品は最適性能のために低い水分条件を必要としうる。これらの部品はコンテナ中にシールされうるが,しかし,最初にそこに封じこまれた過剰の水分は除去されねばならない。さらに,ケーシングは完全な水分断絶ではありえなく,コンテナ中に水分が入りこんでくることは可能なことである。この水分も作動部品から離して保持しなければならない。これらの理由により,過剰の水分を吸収し保持するためにケーシング内に乾燥剤を包含することは重要である。水分から防御すべき多くの部品の繊細さの故に,用いられる乾燥剤は,部品の機能を汚したり危うくするかもしれない「塵状」性質のものでないことが重要である。従って,乾燥剤をこうしたコンテナの内部空間に曝し,一方で同時に作動部品をそこから生じうる乾燥剤塵埃を含む乾燥剤材料との実接触から防止することが有利であるとして認識されてきた。
【0005】
他の例において,水分は,出荷および/または貯蔵用にコンテナ中に置かれるかまたは包装材料中にシールされた品目から放出されうる。こうした品目の主要例には,出荷および貯蔵の間に水分を放出する食品材料がある。シールされ実質的に水分非透過性であるコンテナの例において,放出された水分はコンテナ中に留まる。除去されない場合,この放出水分は,水分を放出した品目そのものに悪影響を及ぼしうる。実質的な水分量は,製造および梱包後最初の48時間内に対象食材から放出されることが見出されてきた。この放出水分は除去されるまで留まる。水分がその放出から直ぐに除去されない場合には,食品は非売品状態に劣化してしまうことになりうる。これらの場合に,乾燥剤は含有品目と一緒に包含され,品物が開封されるまで連続的に放出水分を吸収することが可能である。このようにして,比較的ドライな環境が貯蔵品目について維持される。」

(刊B-2)
「【0025】
別の実施形態において,例えば,本発明の組成物には,モレキュラーシーブなどの乾燥剤(すなわち,成分C),ポリプロピレン(すなわち,成分A)およびポリグリコール(すなわち,成分B)が挙げられうる。」

(刊B-3)
「【0038】
なおさらなる実施形態において,本発明の組成物が一般に成分BおよびCなしの成分Aよりもさらに脆いことがありえるので,包装容器の内部部分が本発明の組成物であり,一方で外部部分が純粋ポリマーまたはより低い装填レベルの成分Bおよび/またはCを持つ本発明の組成物から形成されるように,包装容器を成形することが可能である。例えば,本発明の組成物から成る内部部分,および一般に純粋ポリマーから成る外部部分を有する包装容器は,より耐性がありより脆さが少なくなるだけでなく,それは包装容器の外側から内側への蒸気の移送に抵抗するガス遮断壁としても機能する。この要領で,成分Cの吸収および/または放出能力は,蒸気がそこから引抜かれ保持されることが望まれる包装容器の内部にのみ専らそれを曝すことにより強力となる。」

(刊B-4)
「【0042】
本明細書に記載される本発明のそれぞれの実施形態において,先行技術の方法および構造に対する利点および強化点は,本発明の組成物を通して共連続相互連絡チャネル形態を創造する能力の発見から生じ,その結果,造形品を本発明の組成物から構築することが可能である。さらに,一つの実施形態において,ポリマー本体の外部と内部にある成分Cとの間の伝達率橋かけとしても機能する親水性作用物質を用いることの発見は,速やかに組成物の外にある所期の特性物を除去するか,または速やかに所期の特性物を外部へ放出する構造物の能力を顕著に強化する。」

(刊B-5)
「【0078】
実施例4
以下の実施例の目的は本発明の組成物の水吸収特性を実証することである。膜#1と同様の加工条件による膜試料は,約50%(w/w)モレキュラーシーブ[4オングストローム],約12%(w/w)ポリ(エチレングリコール)および約38%(w/w)ポリプロピレンを有しており,以下の試験方法を用いて膜試料の吸着水分の全重量を評価した:(a)一つの環境室をあらかじめ72°Fおよび10%相対湿度(「Rh」)に,別の環境室をあらかじめ72°Fおよび20%Rhに設定し;(b)皿を計量し,重量を記録し;(c)その後,バランスから皿の重量を除去してスケールから風袋を差し引き;(d)その後,膜を計量済み皿に添加して;(e)その後,材料を計量して重量を記録し;(f)試料を伴う計量済み皿を環境室中に置き;(g)試料を所期の時間にわたり室に放置し;(h)所期の時間到達後,試料を伴う皿を取り除き,再計量し,重量を記録し;および(i)モレキュラーシーブグラム当たりの獲得水分%を,(試料の全獲得重量)/(試料中のモレキュラーシーブ重量)×100により計算した。結果を図23a[10%Rh]および23b[20%Rh]に示した。4オングストロームモレキュラーシーブの重量当たりの最大理論獲得水分%は約24?25%である。図23aおよび23bは本発明の高伝達率(例えば,水分吸収率)を実証する。」

エ 刊行物C:特開平9-12064号公報の記載事項

(刊C-1)
「【請求項1】 乾燥能力を有する容器であって,前記容器は,容器本体に対して内部空間および外部空間を作るように,少なくとも部分的な囲いを形成している容器本体;前記容器本体を閉止するための前記容器本体上に設置可能なキャップ;前記容器本体に対して固定されている,乾燥剤含有熱可塑性プラスティックから作られた挿入物;を含み,ここで,前記容器本体の前記内部空間から湿分を吸収するために,前記挿入物の少なくとも一部分が前記容器本体の内部空間にさらされている容器。
・・・
【請求項11】 前記挿入物を作る前記乾燥剤含有熱可塑性プラスティックが,前記乾燥剤の吸収能力を向上させる極性有機化合物を更に含む請求項1記載の乾燥能力を有する容器。」

(刊C-2)
「【0002】
【従来の技術および発明が解決しようとする課題】できるだけ湿分のない環境で貯蔵されおよび/または輸送されることが好ましい多くの製品が存在する。それ故,過剰の湿分を吸収する能力を有する容器は望ましいと認識されてきた。湿分吸収性容器が望まれる1 つの用途は,有効性が湿分で低下する医薬品の輸送および貯蔵の用途である。密閉した湿分を含まない容器内に医薬品を最初に入れるのは,通常,うまくできる。更に,医薬品用容器は湿分透過性が低いように選択される。それ故,医薬は,通常,最終使用者に届くまでは湿分から保護されているであろう。しかし,一旦,医薬が消費者に受け取られると,容器は医薬を取り出すために繰り返して開閉されなければならない。容器を開放しそして開封するたびに,湿分を含む空気が容器内に導入され,そして密封されそうである。この湿分を雰囲気または容器の上部空間から除去しないかぎり,医薬が湿分を吸収し,よくない。この理由から,容器内の医薬とともに乾燥ユニットを入れることがよく行われている。
【0003】他の例において,輸送および/または貯蔵のために容器内に入っている製品から湿分が開放されることもある。このような製品の主要な例は,輸送および貯蔵の間に湿分を開放する食品である。密閉されているか,または実質的に湿分に対して非透過性である容器の場合には,開放された湿分は容器内の製品の周囲に残存するであろう。もし除去しなければ,この開放された湿分は,湿分を開放した,まさにその製品に対して悪影響を及ぼすであろう。製造および包装後の最初の48時間以内に,特定の食品から多量の湿分が開放されることが判っている。この開放された湿分は除去されるまで製品の周囲に残存するであろう。もし,湿分がその開放後の短時間に除去されなければ,それは食品を販売できない状態にまで劣化させるであろう。これらの場合に,製品が開けられるまで,開放された湿分を連続的に吸収するために,含まれる製品とともに乾燥剤を入れることができる。このように,貯蔵された製品の周囲で比較的に乾燥した環境が維持される。
【0004】密閉した容器内から湿分を除去する必要性は以前から認識されてきた。これらの目的を達成するための初期の試みは,輸送または貯蔵される物品とともに,そしてそれと混ぜて,容器内に配置された布帛または同様のバッグ内に乾燥剤材料を入れることであった。しかしながら,乾燥剤が緩み,そして消費する製品と混ざるときに,消費者に関する課題が存在する。もし,開放時に,注意深く且つ徹底的に処理しないと,乾燥剤は消費する製品から分離できなくなり,そしてもし知らずに吸収すれば,人に有害であることがある。
【0005】乾燥剤が容器内に提供されることができる別の公知の形態は,容器の内面を乾燥剤含有材料で被覆することを含む。更に別に,乾燥剤がそれを閉じ込める湿分透過性材料の間に「サンドイッチ」された層状構造により容器内での乾燥能力を提供することが知られている。これらの層状構造は,しばしば,低い湿分環境を要求する物品を入れるバッグタイプに容器に加工されることができる可撓性のシートの形態を取ることができる。
【0006】乾燥剤含有容器を作る幾つかの既知の手段は多段階工程を必要とし,そして望まれる以上に複雑で且つ層状の構造となる。更に,含まれる製品に乾燥剤カプセルを与えることは必ずしも満足できない。上記で説明した通り,乾燥剤と食品および医薬品との混合は,乾燥剤を不慮に吸収しうるので,消費者の観点から望ましくない。更に,容器が乾燥剤と一体で作られていないならば,または少なくともそれに取り付けられていないならば,容器内から連続的に湿分を除去する必要があるにも係わらず,すぐに除去されてしまうであろう。それ故,容器本体と一体の構造部品として乾燥剤を含む容器の必要性が認識されてきた。容器内に含まれた乾燥剤に関して,速度および量の両方の湿分吸収能力が改善されることが望ましい。更に,全ての製造工程におけるように,乾燥容器を作り,そして得られる構造を単純化するために必要な工程を減らすことも望まれている。」

(刊C-3)
「【0024】挿入物200への吸収速度は容器01の内部201にさらされている挿入物200の表面積の量により制御されうることが期待される。もし,より高い吸収速度が望まれるならば,挿入物200のより大きな表面積がさらされるであろう。もし,より長時間の吸収過程が達成されることが望まれるならば,挿入物のより小さい表面積がさらされるであろう。挿入物200による吸収速度が挿入物200の封入により制御されることも考えられる。より遅い吸収速度が望まれるならば,挿入物200は容器01の本体12を形成する熱可塑性プラスティックにより,より高度に封入されることができ,そしてそれは湿分透過性が低くなる。吸収速度は異なる湿分透過速度を有する異なるタイプの熱可塑性プラスティックを用いることによっても制御されうる。更に,挿入物200による湿分吸収速度は熱可塑性プラスティックに加えられる他の混合物によっても影響を受けることができる。特に,乾燥剤を含む熱可塑性プラスティックに,極性有機化合物,例えば,デンプンを加えることは吸収速度を大きく上げることが判っている。ポリビニルアルコール(PVOH)の添加は乾燥剤を含む熱可塑性プラスティックの吸収速度を同様に上げる効果を有する。1つの特定の例において,10重量%の乾燥剤を含むポリプロピレンに対して5重量%のデンプンを加えると,20重量%の乾燥剤を含み且つデンプンを含まないポリプロピレンの速度の2倍で湿分を吸収する。
【0025】挿入物200により吸収できる湿分の量は幾つかの方法で制御されうる。挿入物200により吸収できる湿分の量は許容できる範囲で乾燥剤の濃度を変化させることにより行われうると考えられ,濃度が高いほど捕獲できる湿分の量は大きくなる。」

(2) 刊行物1記載の発明
刊行物1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる(摘示(刊1-1))。
「ビフィズス菌に,アスコルビン酸,エリソルビン酸,あるいはそれらのナトリウム塩などの還元性物質およびマルチトール,ソルビトールなどの吸水性糖類を混合し,該混合物の水分含量が6重量%以下の状態で,外気および光線を遮断するフィルムで密閉,包装した長期保存に耐えるビフィズス菌製剤の製造法。」

(3) 対比
引用発明の「ビフィズス菌」は,刊行物1に記載されるとおり,「本発明において使用するビフィズス菌は,通常,培養したビフィドバクテリウム属に属する菌を培地から分離,採取した後,低温で乾燥して得られるもの」(摘示(刊1-2))である。そして,引用発明の「ビフィズス菌製剤」は,「ビフィズス菌に,アスコルビン酸,エリソルビン酸,あるいはそれらのナトリウム塩などの還元性物質およびマルチト-ル,ソルビトールなどの吸水性糖類を混合し,該混合物の水分含量が6重量%以下の状態」であるから,引用発明の「ビフィズス菌製剤」は,微生物培養物を含む固体製剤である。
さらに,引用発明において使用されるビフィズス菌は,「健康に深く係りある有用菌」であって,「成人においては外部から適宜補充することが望まし」く,その製剤である引用発明の「ビフィズス菌製剤」は,「常時摂取する」ためのものであることから(摘示(刊1-2)),医薬として投与されるものといえる。
したがって,引用発明の「ビフィズス菌製剤」は,本願発明の「少なくとも1種の微生物培養物を含む固体医薬投与製剤」に相当する。

そして,本願発明の「包装に前記固体医薬投与製剤を含ませる」は,本願発明の「固体医薬投与製剤」の製造工程に含まれると認められるから,引用発明の「包装したビフィズス菌製剤」は,本願発明の「包装に前記固体医薬投与製剤を含ませる」に対応する。

そうすると,本願発明と引用発明の一致点,相違点は,以下のとおりである。

<一致点>
「少なくとも1種の微生物培養物を含む固体医薬投与製剤に係る方法であって,包装に前記固体医薬投与製剤を含ませることを特徴とする方法。」

<相違点1>
「製剤に係る方法」について,
本願発明は,「製剤の安定化方法」であるのに対し,
引用発明は,「長期保存に耐える製剤の製造法」である点。

<相違点2>
「包装」について,
本願発明は,「少なくとも1種のチャンネル形成剤が少なくとも1種の吸湿剤と共に内壁の少なくとも一部の領域にわたって埋設されている包装であって,
前記チャンネル形成剤が,ポリグリコール,エチルビニルアルコール,グリセロール,ポリビニルアルコール,ポリビニルピロリドン,ビニルピロリドン,N-メチルピロリドン,多糖類,糖類及び糖アルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種であり,
前記吸湿剤が,モレキュラーシーブ又はシリカゲルである」のに対し,
引用発明では,「外気および光線を遮断するフィルム」である点。

(4) 判断
ア 相違点1について
引用発明の「長期保存に耐えるビフィズス菌製剤の製造法」は,「本発明はビフィズス菌を多量に含有する製剤の製造法に関するものであり,その目的とするところは,ビフィズス菌を長期間安定に保存し得る製剤を提供することにある」(摘示(刊1-2))から,製剤「保存」時の「安定」性を意図していることが明らかである。更に,吸水性糖類を混合することにより,「密閉包装物中に残存する空気中の水分を吸収して乾燥剤的作用を果たし,ビフィズス菌を乾燥状態雰囲気下に保って安定化する効果を有する」(摘示(刊1-2))「製剤の製造法」であって,「本発明方法によって製造したビフィズス菌製剤はビフィズス菌の保存性が極めて優れている」(摘示(刊1-3))「製剤の製造法」である。したがって,引用発明の,「長期保存に耐える」「製剤の製造法」は,「安定化した」「製剤」を「提供する方法」と言い換えることができる。
一方,本願発明の「製剤の安定化方法」について,本願明細書には特段の定義はされていないが,明細書の記載を参酌すると,「本発明の方法によると,少なくとも1種の微生物培養物を含む安定した固体の医薬投与製剤を安価に提供することが可能になる。」(段落【0007】),「本発明の方法によれば,従来,貯蔵安定性が不十分であるために先行技術では商品化には不向きであった,少なくとも1種の微生物培養物を含む固体の医薬投与製剤の商品を提供することも可能である。投与製剤を包装材に移し入れた後は,包装材の内壁にある吸湿剤により,常に,かつ,長期にわたって投与製剤から水分が取り除かれる。水分の除去は広い範囲にわたり,穏やかな条件下で起きるので,貯蔵期間中の医薬投与製剤は安定している。」(段落【0008】)とあるから,本願発明の「製剤の安定化方法」は,「安定化した」「製剤」を「提供する方法」を含む。また,「安定」とは,保存時に変化しないことを包含していると認められる。
よって,本願発明の「製剤の安定化方法」と,引用発明の「長期保存に耐える製剤の製造法」は,いずれも,「安定化した製剤を提供する方法」である点で一致しているといえるから,相違点1は実質的な相違点とはいえない。

イ 相違点2について
刊行物1には,「ビフィズス菌は非常に不安定な細菌であり,酸素,水分,光,熱,酸などによって容易に失活し,その効果を失うという重大な欠点を有して」いることから,「水分含量がこれ以上であるとビフィズス菌が失活する恐れが生ずるため好ましくない」ため,「水分含量が3重量%以下の状態で,例えば,アルミラミネート合成樹脂製フィルムなどのごとき外気および光線を遮断するフィルムを用いて密閉状態に包装する」こと,「ビフィズス菌を乾燥状態雰囲気下に保って安定化する」ことが,必要であることが記載されている(摘示(刊1-2))。
一方,医薬品や食品の乾燥状態を維持するための方法として,吸湿剤と共にポリグリコール,糖類,ポリビニルアルコール等のチャンネル形成剤を内壁の少なくとも一部の領域にわたって埋設した包装が広く用いられている(摘示(刊A-1)?(刊A-5),(刊B-1)?(刊B-3),(刊C-1),(刊C-2))。さらに,吸湿剤としては,シリカゲルやモレキュラーシーブ等の物理的吸収乾燥剤が,無害であって,「乾燥剤同伴ポリマーから形成される容器内に密閉されるか,または少なくともそこにさらされうる食品製品および医薬製品に,特に適合する」ものとされており(摘示(刊A-7)),例えば刊行物Bにおいては,具体的にモレキュラーシーブを乾燥剤として用いた包装材の水吸収特性が実証されている(摘示(刊B-5))。そして,チャンネル形成剤,あるいはこれに相当する化合物であるポリビニルアルコール(PVOH)やデンプン(当審注:多糖類である)を使用することにより,吸湿剤の吸湿能力が向上することも知られている(摘示(刊A-6),(刊B-4),(刊C-3))。
そうしてみると,微生物製剤を乾燥状態雰囲気下に保つことを求める引用発明の「包装」について,吸湿が好ましくない薬剤について防湿を施すという共通の課題を解決する刊行物Aに記載された包装材料を用いることを着想し,引用発明の「外気および光線を遮断するフィルム」を,「少なくとも1種のチャンネル形成剤が少なくとも1種の吸湿剤と共に内壁の少なくとも一部の領域にわたって埋設されている包装であって,前記チャンネル形成剤が,ポリグリコール,エチルビニルアルコール,グリセロール,ポリビニルアルコール,ポリビニルピロリドン,ビニルピロリドン,N-メチルピロリドン,多糖類,糖類及び糖アルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種であり,前記吸湿剤が,モレキュラーシーブ又はシリカゲルである」包装材料とすることにより,製剤の安定化を図ることは当業者が容易に想到し得たことである。

ウ 効果について
本願発明の効果について,刊行物Aに記載された吸湿能力を有する包装を用いたことにより,乾燥剤を,製剤,包装内部,包装材のいずれにも配合しない場合に比して,包装の吸湿,防湿効果によりビフィズス菌製剤の貯蔵安定性が向上すること(実施例1及び5)は,当業者が十分に予測し得たものである。
一方,「内壁にチャンネル形成剤が吸湿剤と一緒に埋設された包装(包装A)」と,「ネジ式の蓋と乾燥剤カプセルを有するポリプロピレン製キャニスター」(包装B)との比較(実施例2)については,乾燥能力(例えば,乾燥剤の種類や使用量),遮光等(生菌製剤は酸素,光等でも失活する(摘示(刊1-2))の貯蔵条件が,両者を比較可能な程度に記載されておらず,従来技術からそれらの条件が明らかであるともいえないから,本願発明の効果を顕著なものとはいえない。

なお,審判請求人は平成27年2月17日付け意見書において,25℃,相対湿度60%におけるバクテリア製剤を含む錠剤の,4種の包装内での9ヶ月間貯蔵安定性評価を表として示し,「吸湿剤を含まない包装(-◆-)の場合,9ヶ月間の貯蔵により,生菌数が著しく減少した。カプセルの形態のモレキュラーシーブを内壁に含む包装(つまり,包装の内壁にはモレキュラーシーブを含まない)(-●-)の場合は中程度の,カプセルの形態のシリカゲルを内壁に含む包装(つまり,包装の内壁にはシリカゲルを含まない)(-▲-)の場合は少し安定性が向上した。しかし,チャンネル形成剤と共に吸湿剤を内壁に含む包装(-■-)の場合,9ヶ月保存後の生菌数は,前三者と比較すると,文字通り桁違いに多かった。この結果は,従来技術から当業者が予想できる範囲を超える顕著な効果であると思料する。」と主張している。
しかしながら,水分が除去されることにより保存後の生菌数が増加することは刊行物1に記載されているから(摘示(刊1-2),(刊1-3)),「吸湿剤を含まない包装(-◆-)」と「チャンネル形成剤と共に吸湿剤を内壁に含む包装(-■-)」との比較において後者が優れていることは,当業者が予測し得る範囲の効果である。
そして,「カプセルの形態のモレキュラーシーブを内壁に含む包装(つまり,包装の内壁にはモレキュラーシーブを含まない)(-●-)の場合」について,それぞれカッコ内外で矛盾した規定がなされているため,実験条件が不明であり,比較対象として採用することができないが,念のため以下に場合分けして検討する。シリカゲルの「(-▲-)の場合」についても,同様である。
(a)「カプセルの形態のモレキュラーシーブを内壁に含む包装(つまり,包装の内壁には「チャネル形成剤」を含まない)」場合(すなわち,カッコ内の「モレキュラーシーブ」が誤記)。
(b)「カプセルの形態のモレキュラーシーブを「容器の内部」に含む包装(つまり,包装の内壁にはモレキュラーシーブを含まない)」場合(すなわち,カッコの前の「内壁」が誤記)。
(c)「カプセルの形態のモレキュラーシーブを内壁に含む包装(つまり,包装の内壁には「カプセルのない形態での」モレキュラーシーブを含まない)」場合。
しかしながら,上記(a)と解した場合,吸湿剤は,チャンネル形成剤と共に包装内壁に存在することにより吸湿性を増すことが刊行物A?Cに記載されていることは上記(摘示(刊A-6),(刊B-4),(刊C-3))のとおりであり,水分が除去されることにより保存後の生菌数が増加することは刊行物1に記載されているから(摘示(刊1-2),(刊1-3)),請求人が主張する「チャンネル形成剤と共に吸湿剤を内壁に含む包装(-■-)の場合」の9ヶ月保存後の生菌数が,予想外の効果であるとはいえない。
また,上記(b)と解した場合,乾燥能力(例えば,シリカゲル,モレキュラーシーブの使用量や,カプセルの物性),遮光等(生菌製剤は酸素,光等でも失活する(摘示(刊1-2))の貯蔵条件が,両者を比較可能な程度に記載されておらず,従来技術からそれらの条件が明らかであるともいえないから,本願発明の効果を顕著なものとはいえない。
そして,上記(c)と解した場合にも,カプセルの物性は不明であるが,内壁内でのカプセルの存在は,内壁内のシリカゲル及びモレキュラーシーブの乾燥能力について障壁となり得るから,「カプセルの形態((-●-)または(-▲-))」に比較して,そうでないもの(-■-)の生菌数が多いことが,予想外の効果であるとはいえない。

(5) 理由1のむすび
以上のとおりであるから,本願発明は,刊行物1,及び刊行物A?Cに記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定に該当し,特許を受けることができない。

2.理由2について

(1) 本願明細書の記載
本願明細書には,本願発明の「安定化方法」に関連して,以下の記載がある。なお,下線は当審で付したものである。

ア 「【0002】
先行技術から公知の貯蔵安定性を向上するための方法は,下記の中の少なくとも1つの理由により満足のいくものではない。
1.該方法が技術的に非常に複雑である。
2.助剤の水分活性値の条件が高すぎる。
3.投与剤形の貯蔵安定性が低すぎる。
4.該方法が商品化の観点から費用がかかりすぎる。
5.該方法により,微生物培養物及び/又は助剤及び活性化合物が熱的損傷をうける。
本発明の目的は,先行技術に記載の欠点がない方法を提供することであった。とりわけ,その方法が簡便で安価に実行でき,いかなる水分活性値の助剤でも使用可能であり,結果的に微生物及び微生物を含む投与剤形に熱的負荷をかけることなく,その医薬品の全貯蔵期間を通して微生物の活性が実質的に保持されること,即ち,患者が摂取するまで保持されるという効果がある方法がよい。
驚くべきことに,先行技術にしたがって調製した固体の微生物含有投与製剤を,吸湿剤と少なくとも1種のチャンネル形成剤(channel former)とが内壁の少なくとも一部にわたって埋設されている包装に導入することによって,前記目的が達成された。そこで,本発明は,少なくとも1種の微生物培養物を含む固体の医薬投与製剤の安定化方法であって,吸湿剤と少なくとも1種のチャンネル形成剤とが内壁の少なくとも一部にわたって埋設されている包装に,前記固体の医薬投与製剤を導入することを特徴とする方法に関する。」

イ 「【0010】
・・・良好な安定性を得るためには,微生物含有層の水分は極めて低いことが好ましいが,これは,微生物培養物と担体物質とを細心の注意を払って乾燥させてから混合することによって可能となる。しかしながら,微生物と担体物質の乾燥が必須であること,また,多層錠剤に製剤化することは装置の点から複雑であり時間もかかり,全体の結果として製造コストの上昇を招く。
驚くべきことに,少なくとも1種の微生物培養物と栄養関連添加物とを含む固体の医薬投与製剤は,少なくとも1種のチャンネル形成剤が少なくとも1種の吸湿剤と共に内壁に局所的に埋設されている包装に導入して,微生物を含む固体の医薬投与製剤と包装とを含むパックにすることにより,微生物と担体物質をあらかじめ乾燥すること,及び/又は,微生物と栄養関連添加物とをいずれの場合も分離する層にして含有させることもなく,貯蔵安定性のある状態で提供することができることがわかった。そこで,本発明は,少なくとも1種のチャンネル形成剤が少なくとも1種の吸湿剤と共に内壁の少なくとも一部に埋設されている包装と,少なくとも1種の微生物培養物及び少なくとも1種の栄養関連添加物を含む固体の医薬投与製剤とを含むパックに関する。パックの中の医薬投与製剤中に,栄養関連添加物と微生物とが混合物として存在することが有利であり,このようにしても不安定な製品にはならない。先行技術で記載した層構造を有する製剤の制限,とりわけ多層錠剤に対する制限はあてはまらない。」

ウ 実施例1,2,5(段落【0014】?【0019】)
「内壁にチャンネル形成剤が吸湿剤と一緒に埋設された包装(包装A)」とそれぞれの包装B
「ネジ式蓋が付いたポリプロピレン製キャニスター」(実施例1)
「ネジ式の蓋と乾燥剤カプセルを有するポリプロピレン製キャニスター」(実施例2)
「有機ポリマー/アルミ製ブリスターパック」(実施例5)
に貯蔵した場合の,微生物の菌数が示されており,実施例1,2,5のいずれも,包装Aに貯蔵した製剤が,包装Bに貯蔵した製剤に比較して,有意に安定であることが記載されている。

(2) 当審の判断
本願発明は,明細書段落【0002】に記載されているとおり,
「先行技術から公知の貯蔵安定性を向上するための方法は,下記の中の少なくとも1つの理由により満足のいくものではない。
1.該方法が技術的に非常に複雑である。
2.助剤の水分活性値の条件が高すぎる。
3.投与剤形の貯蔵安定性が低すぎる。
4.該方法が商品化の観点から費用がかかりすぎる。
5.該方法により,微生物培養物及び/又は助剤及び活性化合物が熱的損傷をうける。
本発明の目的は,先行技術に記載の欠点がない方法を提供することであった。」,「いかなる水分活性値の助剤でも使用可能であり,結果的に微生物及び微生物を含む投与剤形に熱的負荷をかけることなく,その医薬品の全貯蔵期間を通して微生物の活性が実質的に保持される方法を提供すること」等を,その課題の一つとしている(上記摘示ア)。
そうすると,本願において上記発明の課題が解決できることを当業者が理解できるためには,前記,本願発明に係る安定化方法により,「いかなる水分活性値の助剤でも使用可能である」ことが理解できる必要がある。
しかしながら,上記(1)の各摘示事項をみても,上記固体医薬投与製剤の安定化方法が「助剤の水分活性値の条件が高すぎる」場合にも,行われることは実証されていない。また,摘示事項ウに,包装Aと包装Bとの比較試験に関する記載はあるものの,従来「水分活性値の条件が高すぎる」と考えられた助剤を使用できることの,客観的な根拠を伴った記載ではない。
したがって,発明の詳細な説明の記載によって,本願発明の,所期の包装に前記固体医薬投与製剤を含ませることを特徴とする方法によって,如何なる助剤を用いた場合にも,「少なくとも1種の微生物培養物を含む固体医薬投与製剤」を「安定化」することが記載されたものとはいえないから,本願発明は,発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。

(3) 理由2のむすび
よって,本願発明に係る出願は,特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

3.むすび
以上のとおり,本願は,特許請求の範囲の請求項1に係る発明が,本願の優先日前に頒布された刊行物1,及び刊行物A?Cに記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定に該当し,特許を受けることができない。また,特許請求の範囲の請求項1の記載が,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから,特許を受けることができない。

それゆえ,他の請求項について論及するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-03-30 
結審通知日 2015-04-01 
審決日 2015-04-14 
出願番号 特願2008-532619(P2008-532619)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (A61K)
P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田村 直寛  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 前田 佳与子
安藤 倫世
発明の名称 微生物を含む医薬投与製剤の安定化方法  
代理人 箱田 篤  
代理人 辻居 幸一  
代理人 松田 七重  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 山崎 一夫  
代理人 浅井 賢治  
代理人 市川 さつき  

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