• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1305303
審判番号 不服2012-23783  
総通号数 191 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-11-30 
確定日 2015-09-09 
事件の表示 特願2008-508939「乾癬を治療するためのクロベタゾールスプレー製剤の使用」拒絶査定不服審判事件〔平成18年11月 2日国際公開、WO2006/115987、平成20年11月13日国内公表、特表2008-539236〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本件は、2006年4月20日(パリ条約による優先権主張 2005年4月25日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成24年2月2日付けの拒絶理由通知書に対し、同年5月7日を受付日とする意見書及び手続補正書が提出されたが、同年7月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月30日に拒絶査定不服審判請求がされ、それと同時に、手続補正がされたものである。 その後、平成25年12月13日付け、平成26年9月10日付けの審尋に対し、それぞれ平成26年4月16日、平成27年1月16日を受付日とする回答書が提出された。

2 本願発明
本件の請求項1?22に係る発明は、平成24年11月30日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?22に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】身体表面積の少なくとも2%に罹患している乾癬を治療する方法において使用するための、有効量のプロピオン酸クロベタゾールを有する組成物であって、前記組成物はスプレー組成物であり、前記方法は、乾癬に罹患した皮膚に前記組成物をスプレーする工程を有するものであり、前記組成物は、少なくとも4週間、前記罹患した皮膚に毎日スプレーされるものである
ことを特徴とする組成物。」

3 引用例
(1) 原査定の理由に引用された引用例である、CRUTCHFIELD III, C.E.,The World Wide Web Journal of Biology [online] (June 16, 1998),1998年,Vol.3,[retrieved on 2012-1-31] Retrieved from the Internet (以下、引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。(原文は英語であるので、訳文で示す。)

ア「要約
乾癬は、世界の人口の約3%が罹患する慢性炎症性皮膚疾患である。局所的な治療アプローチは、タール、サリチル酸製剤、ビタミンD誘導体、紫外線およびコルチコステロイドが含まれている。ここではプロピオン酸クロベタゾール(0.05%w/v)、エモリエント、界面活性剤、アルコール、および亜鉛ピリチオンを含有する新規局所液体スプレー製剤で治療乾癬病変における臨床的に観察されたヒトの皮膚の正常化の皮膚組織病理学的相関を報告する。この局所液剤は、同じ強さのコルチコステロイドを含むクリームまたは軟膏の製剤よりも効果的であろう。」(ABSTRACTの項)

イ「材料および方法
ここで紹介する患者は、(ミリスチン酸イソプロピル、アルコールや界面活性剤をビヒクル中に含む)有効成分のプロピオン酸クロベタゾール0.05%含有するスプレーで、1日2回、彼の腹部の乾癬プラークが処置された。各処置アプリケーションの容積は約0.5 ccであった。治療期間は42日間(8月?9月、1996年)であった。 臨床クリアは21日目で発生する。組織は、標準的な組織学的方法によって処理され、以下の皮膚組織病理学的評価のためにヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。」(MATERIAL AND METHODSの項)

ウ「 42日目
前のセクションで特定された異常が消滅した。このセクションでは、基本的に、正常なヒトの皮膚、つまり、正常なバスケット織り角質層、正常な顆粒層、正常な表皮と真皮、を示している。」(RESULTSの項の最終段落)

エ「洗浄剤、アルコール、ジンクピリチオン、およびエモリエントを含む新規液体ビヒクル中の局所に適用される強力なコルチコステロイドは、乾癬のために非常に効果的な治療法であると思われる。この調製物は、クリームまたは軟膏のビヒクルをベースとする等しい強度のコルチコステロイドよりも効果的であると思われる。乾癬病変に対するこの調製物の作用の細胞メカニズム(単数または複数)を解明すると共に、長期の安全性の問題は、付加的な研究努力で評価される必要がある。」(DISCUSSION AND CONCLUSIONSの項の最終段落)

上記ア?ウの記載をまとめると、引用例1には、腹部に乾癬プラークを有する患者に対して、有効成分のプロピオン酸クロベタゾール0.05%と、ミリスチン酸イソプロピル、アルコール及び界面活性剤をビヒクル中に含む局所液体スプレー製剤を、腹部の乾癬プラークに、1日2回、容積が約0.5ccの処置アプリケーションを用いて、治療期間42日間適用し、皮膚組織病理学的評価を行ったところ、感染病変における皮膚の正常化がみられたことが記載されている。
そうすると、引用例1には、「腹部の乾癬プラークの乾癬病変における皮膚を正常化する方法において使用される、有効成分のプロピオン酸クロベタゾール0.05%と、ミリスチン酸イソプロピル、アルコール及び界面活性剤をビヒクル中に含む局所液体スプレー製剤であって、前記方法は、腹部の乾癬プラークに前記製剤を、42日間、1日2回スプレーで処置するものである」発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

4 対比・判断
(1)本願発明と引用発明を対比する。
引用発明における「腹部の乾癬プラークの乾癬病変における皮膚を正常化する方法」とは、乾癬を治療する方法に他ならず、また、引用発明の製剤に含有されるプロピオン酸クロベタゾールの0.05%という量が、有効量であることは自明である。また、「42日間」は、本願発明の「少なくとも4週間」の条件を満たすことから、両者は、
「乾癬を治療する方法において使用するための、有効量のプロピオン酸クロベタゾールを有する組成物であって、前記組成物はスプレー組成物であり、前記方法は、乾癬に罹患した皮膚に前記組成物をスプレーする工程を有するものであり、前記組成物は、前記罹患した皮膚に、少なくとも4週間、毎日スプレーされるものである、組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点:本願発明では、「身体表面積の少なくとも2%に罹患している乾癬を治療する」ための組成物であるとの特定がされているのに対し、引用発明では、罹患部位の大きさは不明である点。

(2)上記相違点について検討する。
ある疾患のある症例に対して有効性が示された製剤を、同じ疾患において、重症度や部位等が異なる様々な症例についても投与を行い、有効性や安全性の確認や、用法・用量の検討を行うことは、医療分野において通常行われている事項であると認められる。
そうすると、引用例1の記載に接した当業者が、重症度等が異なる乾癬症例に対して治療を試みることは、当然行うことであると認められる。
そして、プロピオン酸クロベタゾールが、副腎皮質ステロイド剤の中で最も強力なグループに属するものであることを考慮しても、以下の(3)及び(4)において述べるとおり、引用発明の製剤を「身体表面積の少なくとも2%」の皮膚に対し、「少なくとも4週間」投与する試みを妨げる技術常識があったものとは認められないから、引用発明を、「身体表面積の少なくとも2%に罹患している乾癬を治療する」ためのものとすることは、当業者が容易になし得たものである。

(3)請求人が、平成24年5月7日受付の意見書において言及する参考資料1,2は、それぞれ、プロピオン酸クロベタゾールを0.05%含む、皮膚への局所投与用の、「泡状製剤」について2000年に作成された処方情報、及び、「ゲル状製剤」について2002年に作成された処方情報であるが、これらには、プロピオン酸クロベタゾールを0.05%含む製剤の1週間あたりの総投与量が50gを超えてはならない旨の記載があり、これらの記載からみて、プロピオン酸クロベタゾール0.05%を含む製剤を皮膚への局所投与する場合には、1週間あたりの総投与量を50g以内とするという目安があったことは窺える。なお、上記参考資料1,2には、2週間を超えての処置は推奨されないとの記載はあるが、2週間を超えた使用を禁止するとの記載はない。
一方、本願発明における、「身体表面積の少なくとも2%に罹患している乾癬」に対して、プロピオン酸クロベタゾールを含有する組成物を「少なくとも4週間、前記罹患した皮膚に毎日スプレー」した場合の、1週間あたりのプロピオン酸クロベタゾールの総投与量について、平成26年9月10日付け審尋書において尋ねたところ、平成27年1月16日受付の回答書において、「大人の手のひら一つ分の面積は体表面の0.8%に該当すると開示されていることから、身体表面積の2%に必要な投与量は、0.25×(2/0.8)の式より、0.625gと算出することができます。本願発明に係る組成物は、1日あたり2回スプレーされるものであるため、1日あたり1.25gとなり、よって、一週間あたりの投与量は8.75gとなります。」との回答が得られた。
そうすると、請求人の回答に基づくと、本願発明において「身体表面積の少なくとも2%に罹患している乾癬」に対して想定される一週間あたりの投与量は「8.75g以上」ということになるが、この投与量は、上記参考資料1,2で「超えてはならない」とされている50gをはるかに下回る投与量の場合を包含することとなる。したがって、参考文献1,2の記載内容から、引用発明の製剤を「身体表面積の少なくとも2%」の皮膚に対し、「少なくとも4週間」投与する試みを妨げる技術常識があったということはできない。

(4)請求人は、平成27年1月16日受付の回答書において、審判請求書と併せて提出した参考文献5には、一週間あたりの投与量が、7.5gでもHPA系抑制が生じることが開示されており、一週間あたり8.75gの投与量は、従来のプロピオン酸クロベタゾール製剤では、十分にHPA系抑制を生じ得る投与量であるとの主張を行っている。
しかし、参考文献5は、Allenbyらが行った、39名の患者に対する、HPA系に対するプロピオン酸クロベタゾールの影響を調べた実験において、プロピオン酸クロベタゾールの皮膚への投与量が一週間に50gを超えた場合に、HPA系抑制が予期されるとの報告に対し、50gを下回る投与量である、7.5g,25g,30gであっても、HPA系抑制が生じた症例(各1例)を紹介したにとどまり、一週間あたり7.5g以上の投与を否定する文献ではない。むしろ、参考文献5で紹介されている4つの症例のうち、ケース1は、30年の乾癬歴を有する66歳の女性で、最近2年間は一週間あたり25gのプロピオン酸クロベタゾール0.5%クリームを適用しており、ケース4は、55歳の女性で、乾癬の治療のために、プロピオン酸クロベタゾール0.05%クリームを一週間あたり30g、5年間適用していたことが記載されており、本願発明で想定される程度の投与量でプロピオン酸クロベタゾールを適用することが、参考文献5が発行された1987年より前から、医療現場において行われていたことの証左ともいえる。

(5)そして、引用発明を、「身体表面積の少なくとも2%に罹患している乾癬を治療する」ためのものとしたことによって、本願発明が予想外の効果を奏したものとも認められない。

(6)よって、本願発明は、引用例1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5 むすび
以上のとおり、本件の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本件は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-04-08 
結審通知日 2015-04-14 
審決日 2015-04-28 
出願番号 特願2008-508939(P2008-508939)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高橋 樹理  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 穴吹 智子
辰己 雅夫
発明の名称 乾癬を治療するためのクロベタゾールスプレー製剤の使用  
代理人 矢口 太郎  
代理人 矢口 太郎  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ