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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N
管理番号 1305306
審判番号 不服2013-8238  
総通号数 191 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-05-07 
確定日 2015-09-09 
事件の表示 特願2006-536883「ウイルス感染に対する抵抗性に関連する遺伝子である、OAS1における変異の検出」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 5月 6日国際公開、WO2005/040428、平成19年10月25日国内公表、特表2007-529199〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成16年10月22日(パリ条約による優先権主張2003年10月23日 米国、2004年2月6日 米国、2004年3月19日 米国、2004年4月8日 米国、2004年6月9日 米国、2004年6月28日 米国、2004年8月26日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成25年5月7日に拒絶査定不服審判請求がなされ、平成26年11月14日付けで当審拒絶理由通知がなされ、平成27年3月17日に意見書および手続補正書が提出されたものである。本願の請求項1?13に係る発明は、平成27年3月17日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、請求項1に記載される以下のとおりのものである。

「配列番号48のアミノ酸配列からなる単離されたポリペプチド。」

第2 当審拒絶理由の概要
当審の拒絶理由通知において、本願の優先権について、以下のとおり述べた。
「本願の優先権主張の基礎となる7件の米国特許出願のうち、米国特許出願60/578323号より前の出願の当初明細書等には、「配列番号48のアミノ酸配列」について全く記載されていない。また、「配列番号48のアミノ酸配列」のポリペプチドがオリゴアデニレートシンターゼ1活性を有すること(図8)が示されたのは、国際出願の明細書等である。
したがって、これらの事項が特定された請求項1?14に係る発明の新規性進歩性の判断基準日は、「配列番号48のアミノ酸配列」については、米国特許出願60/578323号の出願日である2004年6月9日、「配列番号48のアミノ酸配列」のポリペプチドがオリゴアデニレートシンターゼ1活性を有することについては、本願の現実の出願日である2004年10月22日となる。」

そして、当審の通知した拒絶理由の1つは、本願発明は、引用例1?5,7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、というものである。

(引用例)
1.CMLS, Cell. Mol. Life Sci.,2000年,Vol.57,p.1593-1612
2.Molecular Cell, 2003年,Vol.19, p.1173-1185
3.国際公開2004/000998号
4.国際公開第02/090552号
5.THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY ,1991年,
Vol.266,No.23, p.15293-15299
7.国際公開03/092618号

第3 優先権、および引用文献の記載事項
上記のとおり、本願発明の新規性進歩性の判断基準日は、「配列番号48のアミノ酸配列」については、2004年6月9日、「配列番号48のアミノ酸配列」のポリペプチドがオリゴアデニレートシンターゼ1活性を有することについては、2004年10月22日となる。そして該基準日前に頒布された刊行物である引用文献1?5,7には、それぞれ以下の事項が記載されている。なお、下線は当審が付した。

1.引用例1(CMLS, Cell. Mol. Life Sci.,2000年,Vol.57,p.1593-1612 )
(1-1)「

図4.ヒトOAS1、OAS2、OAS3およびOASL遺伝子のエクソンA-Eの7つのグループによってコードされるアミノ酸配列のアライメント。アミノ酸配列はすべて、OAS遺伝子のPACクローンRP1-71H24のDNA配列の翻訳により誘導される。OAS3の長いエクソンA2のN末端の58アミノ酸は、Aグループのエクソンの下に示される。配列の上の数は、表2ので突然変異に関する。黒塗りのボックスは、一致する残基の位置を示し、灰色のボックスは、類似する残基の位置を示す。」(第1598頁)

(1-2)「

図10.ヒトOAS1とヒト以外のOAS1のアミノ酸配列のアライメント。ブタ(Sus)、鶏(Gallus)と海洋性海綿動物(Geodia)のタンパク質のアミノ酸配列がヒトOAS1遺伝子のエキソンA-Eにしたがって配列された。黒塗りのボックスは、一致する残基の位置を示し、灰色のボックスは、類似する残基の位置を示す。」(第1608頁)

(1-3)
「免疫ブロット法により、ヒトの細胞にはインターフェロン誘導OASとして3種のもの、小さい型(p42/p46 OAS)、中くらいの型(p69/p71 OAS)、そして大きい型(p100 OAS)、が認識される(図2、表1)[11,12]。」(第1593頁右欄3?6行)

(1-4)


表1.OASタンパク質ファミリーの名称」(第1596頁)
表1のOAS1の行には、小さい型として、p42(別名としてp40、E16)、p46(別名としてE18)などの名称が記載されている。

(1-5)


・・・・
図3.ヒトOAS1およびOAS2の2つの遺伝子のエクソン/イントロン構造。エクソンは色のついたバーで標識され、そして、末端エキソンの非翻訳領域は陰影線で標識される。OAS1遺伝子において、エクソン6の翻訳領域はp42スプライスバリアントのそれに一致し、エクソン7のそれはp46に、そしてエキソン8の翻訳領域はESTクローンのそれと一致する。・・・・」(第1597頁)

(1-6)


図5.ヒトOASファミリーのメンバーのC末端エキソンの翻訳アミノ酸配列」
図5のOAS1の項には、p40、p46などが記載されている。

2.引用例2(Molecular Cell, 2003年,Vol.19, p.1173-1185 )
(2-1)「


図2.構造に導かれる配列アライメント
ブタOAS1、ヒトOAS1、ヒトOAS2とOAS3のC-末端の触媒的繰り返しは、ウシと酵母のPAPの対応する部分に合わせる。βストランド(矢印)とαヘリックス(長方形)は、ブタOAS1に示される。重要な残基は、以下のとおりに標識される:*,触媒的なアスパラギン酸;赤い四角,活性部位における突然変異のターゲットとされた残基;青の逆三角形,RNA活性化部位における突然変異のターゲットとされた残基;黒い三角形,制御突然変異R245E/K246E.」(第1177頁)

3.引用例3(国際公開2004/000998号;2003年12月31日発行)
(3-1)「OAS1のN末端の346のアミノ酸は1つの機能単位を意味し、一方、OAS2とOAS3はそれぞれ2つと3つの機能単位を含む。」(第17頁9?10行)

4.引用例4(国際公開第02/090552号 )
(4-1)「ヒトの細胞には2'-5'-オリゴアデニレート合成酵素の様々な型が存在し、小さい型、中くらいの型、そして大きい型のタンパク質と呼ばれ、スプライシングの結果、異なる変異体に存在する順番で、前の2つのタンパク質となることが可能である(Reboulliat and Hovanessian,1999,Journal of Interferon and Cytokine Reseach,19;295-600)。小さいタンパク質、すなわちp40(SEQ ID No.3)とp46は、一つの触媒単位を含み、OAS1と称される。(第4頁16?21行)

(4-2)配列番号3として、364アミノ酸残基の配列が記載されている。(ただし、配列は摘記せず。)

5.引用例5(THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY ,1991年,Vol.266,No.23, p.15293-15299 )
(5-1)「2’-5’-オリゴアデニレート合成酵素は、二重鎖RNAを必須のコファクターとして必要とする、インターフェロン-誘導性の酵素のマルチメンバーファミリーを構成する。我々は2つの新しいネズミの合成酵素のcDNA クローンを分離した。これらの2つのクローン、9-2と3-9は、414と363のアミノ酸残基のタンパク質をコードし、アミノ末端の346の残余がほとんど同一であった。それらはまた、ヒトの合成酵素のE16とE18の対応する領域に非常に類似していた。・・・」(第15293頁要約)

(5-2)「


図5.9-2の変異体タンパク質のdsRNAへの結合。A,カルボキシル末端を削除したセットが示される。大部分は、示されたサイト(カッコ内の数はヌクレオチド数を示す。)におけるcDNA クローンの制限消化によって生産された。“実験手順”の下で解説されるように、特にそれらの合成のために造られたcDNAクローンから、N-320、N-304とN-344(Lys-333 + Arg-333)が作り出された。・・・」(第15297頁左欄)

(5-3)


図6.変異体9-2タンパク質の酵素活性。A-Dは、4つの異なる実験の結果である。A、N-344、N-278およびコントロールサンプルの酵素活性、B、クローンN-344、N-320およびN-304のインビトロの翻訳物の電気泳動的分析。C、N-344、N-320およびN-304の等しい量のインビトロ翻訳物の酵素活性分析。D、N-344とN-344(Lys-333 + Arg-333)タンパク質の酵素活性。」(第15297頁右欄)

6.引用例7(国際公開03/092618号)
(6-1)「活性化がdsRNAに依存する、2-5 ASのp40およびp46の変異体は、第5と追加的な第6のエクソンの間の差別的なスプライシングによって同じ遺伝子から誘導され、C末端端部を除いて、最初の346残基が同じである。」(第38頁7?10行)

第4 当審の判断
1.引用発明
引用例1の(1-3)?(1-6)の記載より、ヒトOASには大、中、小の型のOASがあり、そのうち小さい型のOASがOAS1であること、ヒトOAS1には、エキソンA-E部分の配列は共通するものの、C末端部分の長さや配列が異なる変異体が存在することが理解される。
そして、引用例1には、ヒトOAS1の変異体であるp42、p46が記載され、図4(1-1)のOAS1の行には、エキソンA-E部分の共通配列に相当する配列が記載されていると認められ、変異体p42、p46の全長ポリペプチドは、図4に示されるエキソンA-Eに基づく346アミノ酸残基の配列を有し、さらにC末端側に、図5(1-6)のp40(別名p42)、p46の行に示されるさらなる配列が存在するものであると認められる。なお、引用例7には、OSA1の2つの変異体p40(別名p42)とp46は、最初の346アミノ酸残基が同じであることが記載されており(6-1)、上記認定に沿うものである。


以上から、引用例1には、「図4に示されるOAS1のエキソンA-Eに基づく346アミノ酸残基の配列を含むポリペプチド。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

2.対比
本願発明と引用発明を対比する。本願発明の「配列番号48のアミノ酸配列」と引用発明の「図4に示されるOAS1のエキソンA-Eに基づく346アミノ酸残基の配列」とは同じ配列である。
したがって、両者は、「配列番号48のアミノ酸配列」を有するポリペプチドである点で一致し、本願発明では、「配列番号48のアミノ酸配列からなる、単離された」ものと特定されているのに対して、引用発明は、「配列番号48のアミノ酸配列」を含むが、さらなる配列も含む点で相違する。

3.相違点についての判断
上記1.で述べたとおり、図4に示されるOAS1のエキソンA-Eに基づく346アミノ酸残基の配列は、OAS1の変異体の間で共通する配列であるから、その活性に大きく関係する部分であると考えられるところ、引用例1の図4(1-1)のアライメントの記載から、この領域は、ヒトOASの他のファミリーとの間でも配列がよく保存されていることが理解される。また、引用例1の図10(1-2)のヒトOAS1の配列も本願発明の配列番号48と一致するものであるが、図10の記載から、この領域は、ヒト以外の動物のOAS1との間でも配列がよく保存されていることが理解される。
さらに、引用例2の(2-1)のヒトOAS1の配列も、本願発明の配列番号48と一致するものであり、アライメント中の標識された部分が触媒活性に重要な残基であることが記載されている。
引用例3には、OAS1のN末端の346アミノ酸残基が一つの機能的ユニットであることが記載されている(3-1)。
引用例4には、p40が一つの触媒単位を含むヒトOAS1タンパク質として記載されており(4-1)、(4-2)、引用例4に示される配列番号3の配列(摘記せず)から、p40はOAS1のエキソンA-Eに基づく346アミノ酸残基に加え、さらに18アミノ酸残基を有する変異体であることが理解される。つまり、引用例4には、OAS1のエキソンA-E領域のポリペプチドよりわずか18アミノ酸残基長いp40が、OASとしての活性を有する変異体として記載されていると認められる。なお、引用例1にも、p40(別名p42)はOAS1として記載されており、引用例1の図5(1-6)の記載から、OAS1のエキソンA-Eに基づく346アミノ酸残基に続けて、さらにエキソン6に基づく18アミノ酸残基を有する変異体であることが分かる。
引用例5には、ネズミOASの全長414のクローン9-2と、全長363のクローン3-9とは、346アミノ酸残基が共通すること、クローン9-2のカルボキシル末端を削除して344アミノ酸残基に短縮したN-344、すなわち、OASの共通する346の配列よりもさらに短いポリペプチドが、OAS活性を示したことが記載されている(5-1)?(5-3)。そして、引用例5には、2つのクローン9-2と3-9は、「ヒトの合成酵素のE16とE18の対応する領域に非常に類似していた。」こと、すなわち、ネズミの2つのOASクローンは、ヒトOASのp42、p46と類似することが記載されており((1-4)から、E16、E18の別名は、p42、p46である。)、さらに(1-2)の記載から、OASの配列は、異なる動物種間でよく保存されていることも理解されるから、引用例5の短縮ポリペプチドに活性があったことは、ヒトOAS1のp42、p46を短縮した場合においても同様であることが予測される。
したがって、引用例1?5、7の記載に接した当業者であれば、引用発明における「図4に示されるOAS1のエキソンA-Eに基づく346アミノ酸残基の配列」は、OAS活性に関与する部分であることを理解し、この部分のみに短縮したポリペプチドもOAS活性を有することを予測するといえる。
そして、活性を有するポリペプチドを単離しようとすることは、当業者の自明の課題であるから、引用例1?5、7に記載された発明に基づいて、引用発明のポリペプチドを「図4に示されるOAS1のエキソンA-Eに基づく346アミノ酸残基の配列」の部分、すなわち配列番号48に相当する部分のみに短縮し、これを単離することは、当業者が容易になし得ることである。そして、本願発明において、単離されたポリペプチドにOAS活性があったことは、引用例1?5、7の記載から、当業者が予測し得ることである。

4.請求人の主張について
請求人は、平成27年3月17日付け意見書において、「配列番号48のポリペプチドを発現する個体群は、C型肝炎ウイルスの感染に対して抵抗性を有するという特徴を有するポリペプチドである」、「全長OAS1が有さないHCV感染に対する抵抗性を、短縮型の配列番号48のポリペプチドが有するという点で、当業者にとっても、極めて予想することができないどころか、驚くべきことであると言えます。」などと、HCV感染に対する抵抗性を本願発明の顕著な効果として主張し、その根拠として本願明細書の段落【0066】、【0069】、【0094】、【0199】の記載を挙げている。
そこで、本願明細書の記載をみると、請求人が挙げた段落【0066】、【0069】、【0094】、【0199】を始め、本願明細書のいずれにも、配列番号48のポリペプチドとHCV感染に対する抵抗性との関係などについて記載されていない。
なお、本願明細書の段落【0095】には、
「ゲノムの変異は、オリゴアデニレートシンセターゼ遺伝子(OAS1)において、単独かまたは組み合わせで同定され、HCV感染に対する抵抗性に有意(p<0.05)に関連した。これらの変異を構成する塩基置換および塩基欠失は、図1に示される。OAS1遺伝子の改変体形態(「OAS1R」)は、1つ以上の本発明の変異の存在によって形成される(配列番号1?配列番号7および配列番号57?配列番号64として同定される)。OAS1遺伝子のこれらの改変体OAS1R形態は、ウイルス感染に対する抵抗性を与えると考えられる。」と記載されているが、配列番号48については記載されていない。また、本願明細書の記載から、「配列番号1?配列番号7および配列番号57?配列番号64」と配列番号48との間に何らかの関係があることが理解できるとも認められない。
したがって、請求人の主張する本願発明の効果は、本願明細書に記載されておらず、参酌することができない。

また、請求人が参考資料として提出した宣誓書の項目8.には、「HCVに耐性のある個人は、変異p42型をコードする、1又は2コピーのOAS1遺伝子を有することを確認した。」と記載され、請求人はこのことに基づいて、配列番号48はHCV抵抗性を示す機能を有することを主張していると認められるが、本願明細書には、変異p42型がHCV耐性の個人から同定されたことなどについて記載されていない。
したがって、請求人の宣誓書に基づく主張も、本願明細書に記載された事項に基づかず、参酌することができない。

5.まとめ
よって、本願発明は、引用例1?5、7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 結論
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、他の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-04-10 
結審通知日 2015-04-14 
審決日 2015-04-27 
出願番号 特願2006-536883(P2006-536883)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 北村 悠美子  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 高堀 栄二
植原 克典
発明の名称 ウイルス感染に対する抵抗性に関連する遺伝子である、OAS1における変異の検出  
代理人 特許業務法人川口國際特許事務所  

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