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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B24C
管理番号 1305343
審判番号 不服2014-17432  
総通号数 191 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-09-02 
確定日 2015-09-09 
事件の表示 特願2010-280807「亜鉛基合金ショット」拒絶査定不服審判事件〔平成24年7月5日出願公開、特開2012-125900〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本件出願は、平成22年12月16日の出願であって、平成26年1月31日付けで拒絶理由が通知され、同年4月11日に手続補正書及び意見書が提出されたが、同年6月3日付けで拒絶をすべき旨の査定がされた。
これに対し、平成26年9月2日に本件審判の請求がされ、同時に手続補正書が提出されたものである。(以下「本件補正」という。)


第2.本件補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1.本件補正の内容
本件補正は、明細書、特許請求の範囲及び図面について補正をするものであって、そのうち特許請求の範囲の請求項1についてしたものは、補正前後の記載を補正箇所に下線を付して示すと、以下のとおりである。
(1)補正前
「亜鉛基合金ショットにおいて、ビッカース硬さの増大等を目的とする主添加元素Cuとともに、ビッカース硬さ増大および腐蝕抑制を目的とする副添加元素Feを含有し、化学成分組成が、Cu:0.1?3質量%、Fe:0.0025?0.25質量%、Zn:残部、1≦Cu/Fe(質量比)≦1000の要件を満たして、ビッカース硬さ40?150HVを示すものであることを特徴とする亜鉛基合金ショット。」

(2)補正後
「亜鉛基合金ショットにおいて、ビッカース硬さの増大等を目的とする主添加元素Cuとともに、ビッカース硬さ増大および腐食抑制を目的とする副添加元素Feを含有し、化学成分組成が、Cu:0.1?2.5質量%、Fe:0.0025?0.05質量%、Zn:残部、2≦Cu/Fe(質量比)≦1000の要件を満たして、ビッカース硬さ40?150HVを示すものであることを特徴とする亜鉛基合金ショット。」

2.補正の適否
補正後の請求項1は、補正前の請求項1の発明特定事項の全てを含み、さらに、亜鉛基合金ショットの化学成分組成及び質量比を限定したものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
したがって、本件補正の特許請求の範囲の請求項1についての補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という。)が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か(すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について検討する。
(1)補正発明
補正発明は、本件補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、上記1.(2)に記載された本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものと認める。

(2)刊行物に記載された発明
これに対し、原査定の拒絶理由で引用され、本件出願日前に頒布された刊行物である特開平9-70758号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。
(ア)
「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、主として軽合金製品のバリ、カエリ等の除去や表面処理などに使用する投射材としてのショットに関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、例えば自動車部品等に使用されるアルミニウム合金、マグネシウム合金や亜鉛合金等の軽合金製品に生ずるバリ、カエリ等の除去やスケール落とし等の表面処理に対しては、ショットを高速で被処理品へ投射するショットブラスト方法が広く採用されている。この場合、ショットの材料としては種々のものがあるが、鋳鉄製や鋼鉄製のショット、カットワイヤショットなどでは硬さが高すぎて被処理面を粗くするため、アルミニウムショットや亜鉛ショットのような軟質金属ショットや、硬質ゴム、プラスチックス等の有機物系の非金属ショットが使用されている。
【0003】しかしながら、アルミニウムショットは使用中の粉砕により発生する粉塵により爆発を起こす危険性があり、例えば、粉塵の爆発特性の評価の一方法として用いられている爆発感度の値は7.5と高い価を示しており、また、有機物の非金属ショットでは表面処理が十分でないとともに破壊等による消耗が大きい等の不都合がある。このため、表面処理効果が高く、かつ、爆発感度が0.6と小さくて粉塵爆発の危険性が極めて低い亜鉛ショットが使用されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところが、亜鉛ショットによるショットブラストでは、被処理品の素材の色が損なわれて全体的に灰色状に黒ずんだ状態となり、洗浄等の手段では除去できず、商品価値が低下し、また、硬さがビッカース硬さ表示でHv40?50であるため、軟らかくて表面処理効果が不十分で時間がかかる等の課題があり、被処理品の表面に黒ずみを生じさせることなく効果的に表面処理可能で、しかも、寿命の長い軽合金製品処理用のショットの開発が要望されてきた。
【0005】
【課題を解決するための手段】前記の課題を解決するためになされた本発明のショットは、亜鉛中に銅を0.05?2.00重量%含有させた亜鉛基合金より形成され、硬さがHv50?60で平均粒径が0.4?2.0mmとしたものである。」

(イ)
「【0013】
【実施例】次に、本発明の実施例を表1にNo.1、No.4、No.5、No.8、No.9として示し、また、比較例を表1にNo.2、No.3、No.6、No.7、No.10として示す。・・・」

(ウ)
「【表1】
No 亜鉛 銅 鉄 他 硬さ 粒径 黒ズミ 割れ 効率 粗さ 総合
1 99.0 0.50 0.02 0,48 56.8 0.8 良好 僅少 良好 良好 ◎
2 99.0 0.50 0.02 0.48 56.8 0.3 良好 僅少 不良 良好 △
3 99.0 0.50 0.02 0.48 56.8 2.1 良好 僅少 良好 不良 △
4 98.5 1.00 0.02 0.48 59.8 1.1 良好 僅少 良好 良好 ◎
5 98.5 1.00 0.02 0.48 59.8 2.0 良好 少 良好 稍良 ○
6 99.4 0.04 0.02 0.54 49.6 0.5 不良 僅少 不良 良好 △
7 97.5 2.10 0.02 0.38 61.2 1.8 良好 多い 良好 不良 △
8 97.6 1.95 0.02 0.43 59.8 1.2 良好 少 良好 稍良 ○
9 99.4 0.06 0.02 0.52 50.0 1.0 稍良 少 良好 良好 ○
10 99.0 0.01 0.07 0.92 45.5 0.8 不良 多い 良好 良好 ×

これらの記載事項(ア)ないし(ウ)から、刊行物1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。
「硬さがビッカース硬さ表示でHv40?50の亜鉛ショットブラストでは、軟らかくて表面処理効果が不十分で時間がかかる等の課題を解決するために開発された、軽合金製品処理用の亜鉛系ショットであって、主要成分が、亜鉛99重量%、銅0.50重量%、鉄0.02重量%であり、硬さHv56.8である亜鉛系ショット。」

(3)対比
補正発明と引用発明とを対比する。
上記(2)の摘記事項(ア)の【0004】の記載から、引用発明の「亜鉛系ショット」は、主要成分が、亜鉛99重量%、銅0.50重量%、鉄0.02重量%であり、これにより、硬さがビッカース硬さ表示でHv40?50の亜鉛ショットブラストでは、軟らかくて表面処理効果が不十分で時間がかかる等の課題を解決し、効果的に表面処理可能で、しかも、寿命の長い軽合金製品処理用の亜鉛系ショットを実現したものと解される。
したがって、引用発明の「硬さがビッカース硬さ表示でHv40?50の亜鉛ショットブラストでは、軟らかくて表面処理効果が不十分で時間がかかる等の課題を解決するために開発された、軽合金製品処理用の亜鉛系ショット」と、補正発明の「亜鉛基合金ショットにおいて、ビッカース硬さの増大等を目的とする主添加元素Cuとともに、ビッカース硬さ増大および腐食抑制を目的とする副添加元素Feを含有し」は、「亜鉛基合金ショットにおいて、ビッカース硬さの増大等を目的とするものであって、主添加元素Cu、副添加元素Feを含有」する限りにおいて一致する。
また、引用発明の「主要成分が、亜鉛99重量%、銅0.50重量%、鉄0.02重量%であり、硬さHv56.8である」は、補正発明の「化学成分組成が、Cu:0.1?2.5質量%、Fe:0.0025?0.05質量%、Zn:残部、2≦Cu/Fe(質量比)≦1000の要件を満たして、ビッカース硬さ40?150HVを示すものである」という数値による限定範囲に属するものである。

したがって、補正発明と引用発明とは、次の点で一致している。
「亜鉛基合金ショットにおいて、ビッカース硬さの増大等を目的とするものであって、主添加元素Cu、副添加元素Feを含有し、化学成分組成が、Cu:0.1?2.5質量%、Fe:0.0025?0.05質量%、Zn:残部、2≦Cu/Fe(質量比)≦1000の要件を満たして、ビッカース硬さ40?150HVを示すものである亜鉛基合金ショット。」

そして、補正発明と引用発明とは、以下の点で相違する。
[相違点]
補正発明では、主添加元素Cuがビッカース硬さの増大等を目的とし、副添加元素Feがビッカース硬さ増大及び腐食抑制を目的として含有せしめるものであるのに対して、引用発明は、ビッカース硬さの増大等を目的とする発明であるものの、副添加元素Feが「ビッカース硬さ増大および腐食抑制」を目的とするかどうか、明らかではない点。


(4)相違点の検討
合金ショットの技術分野において、ビッカース硬さを増大させるために、亜鉛基に添加元素Feを含有せしめる技術は、例えば特開平3-24201号公報、特開平11-320416号公報、特開昭55-107703号公報に示すように、周知技術である。
また、上記特開昭55-107703号公報の2頁左下欄18行?右下欄13行には、亜鉛基に添加元素Feを含有せしめることによって、腐食を抑制できる例が記載されているほか、合金にFeを添加して腐食を抑制する技術は、特開平10-73690号公報(段落0013)、特開平9-310141号公報(段落0003)、特開平9-227973号公報(段落0011)に示すように様々な分野で用いられており、その採否は、合金の使用環境等を勘案しつつ当業者が適宜決定し得ることである。
したがって、引用発明において、副添加元素Feを含有せしめる目的を上記相違点に係る目的とするかどうかは、刊行物1及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に決定し得た事項と認められる。

請求人は、審判請求書(【本願発明が特許されるべき理由】(2):<請求項1に係る発明(第一発明)について> )において、
「引用文献1(主引用発明)と第一発明とを対比すると、・・・『ビッカース硬さを確保し易くショット寿命(靱性)も十分であり、更には、耐食性にも優れている』効果を得るために、前記『主添加元素Cuに副添加元素Feを特定の微量添加する』技術的思想が記載されているとは認め難い。」
として、補正発明を容易には想到し得ない旨を主張している。
しかしながら、合金に鉄を添加して腐食を抑制することは、上述のとおり周知技術であり、引用発明において、副添加元素Feがビッカース硬さ増大および腐食抑制を目的とすることは、当業者が容易に想到し得ることと認められるから、請求人による上記主張は、採用することができない。

しかも、補正発明が奏する効果も、引用発明及び上記周知技術から当業者が予測できたものであり、格別なものとはいえない。
以上のことから、補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび
したがって、本件補正は特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しないので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり、決定する。

第3.本願発明について
1.本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1ないし8に係る発明は、平成26年4月11日に補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2.1.(1)に示すとおりである。

2.刊行物等
これに対して、原査定の拒絶理由に引用された刊行物及びその記載内容は上記第2.2.(2)に示したとおりである。

3.対比・検討
本願発明は、上記第2.2.で検討した補正発明において、化学成分組成に関する「Cu:0.1?2.5質量%、Fe:0.0025?0.05質量%、Zn:残部、2≦Cu/Fe(質量比)≦1000」との限定事項を「Cu:0.1?3質量%、Fe:0.0025?0.25質量%、Zn:残部、1≦Cu/Fe(質量比)≦1000」に拡張したものである。
そうすると、本願発明を構成する事項のすべてを含み、さらに化学成分組成を限定した補正発明が、上記第2.2.(4)で示したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
したがって、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-06-26 
結審通知日 2015-07-07 
審決日 2015-07-21 
出願番号 特願2010-280807(P2010-280807)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B24C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石田 智樹金本 誠夫  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 原 泰造
渡邊 真
発明の名称 亜鉛基合金ショット  
代理人 上田 千織  
代理人 江間 路子  
代理人 飯田 昭夫  

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