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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02F
管理番号 1305395
審判番号 不服2014-2332  
総通号数 191 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-02-07 
確定日 2015-09-10 
事件の表示 特願2008-241707「液晶表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年12月17日出願公開、特開2009-294633〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成20年9月19日(優先権主張平成19年9月26日、平成20年5月9日)の出願であって、平成25年3月6日付けで手続補正がなされ、同年11月11日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成26年2月7日付けで拒絶査定に対する不服審判請求がなされると同時に手続補正がなされ、その後、当審において、同年11月6日付けで拒絶の理由を通知したところ、これに対し、同年12月17日付けで意見書及び手続補正書が提出され、さらに、平成27年1月14日付けで手続補正書が提出され、同年2月18日付けで最後の拒絶の理由を通知したところ、これに対し、同年4月16日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。


第2 平成27年2月18日付け当審拒絶理由の概要
1.この出願は、発明の詳細な説明の記載について下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
請求項1及び12において、新たに「前記反射電極は、反射共通配線を形成せずに直接反射共通信号が供給され」と特定されたが、その具体的構成(信号供給構造)について、発明の詳細な説明を参酌しても、不明である。

2.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
請求項1及び12において、新たに「前記反射電極は、反射共通配線を形成せずに直接反射共通信号が供給され」と特定されたが、反射共通電極に対しては、反射共通信号源から何らかの信号配線を介して信号が供給されるわけであるから、「反射共通配線を形成せずに」との特定は不明確である。

3.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
・請求項 1?12
・引用文献等
(1)特開2007-240752号公報
(2)再表97-6463号公報
(3)特開平10-3092号公報
(4)特開2006-171376号公報
(5)特開2007-156019号公報
(6)特開2006-259501号公報
(7)特開2007-65602号公報
(8)特開2007-94098号公報
(9)特開2007-279197号公報


第3 平成27年4月16日付け手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)の内容と補正目的について
1.本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】
単位画素内に少なくとも反射板の形成部に対応した反射領域を有し、
前記反射領域に形成された反射共通電極及び反射画素電極と、透過領域に形成された透過共通電極及び透過画素電極とは互いに平行に対向して形成され、前記反射共通電極及び前記反射画素電極と、前記透過共通電極及び前記透過画素電極との間の電界によって前記反射領域及び前記透過領域の液晶が横方向電界モードとして駆動され、
前記反射共通電極は、反射共通配線を形成せずに直接反射共通信号が供給され、
前記反射領域の液晶層に電界を形成する前記反射共通電極及び前記反射画素電極が、前記反射板上に絶縁膜を介して設けられ、
前記反射共通電極及び前記反射画素電極が不透過の導電体で形成され、
前記反射共通電極及び前記反射画素電極の上面に反射防止層を備え、
前記反射防止層がCr、Ni、Znの中から選ばれた一つの酸化物又はその一つを含む合金の酸化物、又はITOからなることを特徴とする液晶表示装置。
【請求項2】
前記不透過の導電体がCr、Ni、Mo及びTiの中から選ばれた一つ又はその一つを含む合金からなる請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項3】
前記駆動電極の直下の絶縁膜が平坦である請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項4】
前記透過領域の液晶層に電界を形成する駆動電極が、前記反射領域の駆動電極と同材料、かつ、同層構成である請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項5】
前記不透過の導電体が、波長550nmにおいて、屈折率n=1.0?4.0、消光係数k=0.25?5.5の範囲である請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項6】
前記不透過の導電体が、波長550nmにおいて、屈折率n=1.3?2.5、消光係数k=1.6?3.3の範囲である請求項5に記載の液晶表示装置。
【請求項7】
前記反射防止層が、波長550nmにおいて、屈折率n=1.5?3.0、消光係数k=0?3.5の範囲である請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項8】
前記反射防止層が、波長550nmにおいて、屈折率n=2.0?3.0、消光係数k=0.01?2.0の範囲である請求項7に記載の液晶表示装置。
【請求項9】
前記反射領域に対応して、対向基板に備えられた偏光板からの透過光に2分の1波長の位相差を与える位相差層を備え、前記偏光板から前記位相差層に入射する光の偏光方向と前記位相差層の光学軸との間の角度θ1が、0°<θ1<22.5°の範囲にある請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項10】
前記対向基板と下部基板にそれぞれ備えられた偏光板と液晶層の間に、偏光板からの透過光に2分の1波長の位相差を与える位相差層を備え、前記透過領域における黒表示時の液晶層の光学軸方向と、前記液晶層に入射する光の偏光方向との角度θ2が、0°≦θ2<45°の範囲にある請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項11】
前記反射板が前記走査線又は前記データ線と同層に形成され、前記駆動電極の上面に反射防止層を有する請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項12】
液晶表示装置を表示部に備えた端末装置であって、
前記液晶表示装置の液晶パネルを形成する単位画素内に少なくとも反射板の形成部に対応した反射領域を有し、
前記反射領域に形成された反射共通電極及び反射画素電極と、透過領域に形成された透過共通電極及び透過画素電極とは互いに平行に対向して形成され、前記反射共通電極及び前記反射画素電極と、前記透過共通電極及び前記透過画素電極との間の電界によって前記反射領域及び前記透過領域の液晶が横方向電界モードとして駆動され、
前記反射共通電極は、反射共通配線を形成せずに直接反射共通信号が供給され、
前記反射領域の液晶層に電界を形成する前記反射共通電極及び前記反射画素電極が、前記反射板上に絶縁膜を介して設けられ、
前記反射共通電極及び前記反射画素電極が不透過の導電体で形成され、
前記反射共通電極及び前記反射画素電極の上面に反射防止層を備え、
前記反射防止層がCr、Ni、Znの中から選ばれた一つの酸化物又はその一つを含む合金の酸化物、又はITOからなることを特徴とする端末装置。」

2.本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】
単位画素内に少なくとも反射板の形成部に対応した反射領域を有し、
前記反射領域に形成された反射共通電極及び反射画素電極と、透過領域に形成された透過共通電極及び透過画素電極とは互いに平行に対向して形成され、前記反射共通電極及び前記反射画素電極と、前記透過共通電極及び前記透過画素電極との間の電界によって前記反射領域及び前記透過領域の液晶が横方向電界モードとして駆動され、
前記反射共通電極は、前記透過共通電極に供給される信号を反転した信号が供給され、かつ、前記透過電極と前記反射電極には同一の信号が供給され、
前記反射領域の液晶層に電界を形成する前記反射共通電極及び前記反射画素電極が、前記反射板上に絶縁膜を介して設けられ、
前記反射共通電極及び前記反射画素電極が不透過の導電体で形成され、
前記反射共通電極及び前記反射画素電極の上面に反射防止層を備え、
前記反射防止層がCr、Ni、Znの中から選ばれた一つの酸化物又はその一つを含む合金の酸化物、又はITOからなることを特徴とする液晶表示装置。
【請求項2】
前記不透過の導電体がCr、Ni、Mo及びTiの中から選ばれた一つ又はその一つを含む合金からなる請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項3】
前記駆動電極の直下の絶縁膜が平坦である請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項4】
前記透過領域の液晶層に電界を形成する駆動電極が、前記反射領域の駆動電極と同材料、かつ、同層構成である請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項5】
前記不透過の導電体が、波長550nmにおいて、屈折率n=1.0?4.0、消光係数k=0.25?5.5の範囲である請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項6】
前記不透過の導電体が、波長550nmにおいて、屈折率n=1.3?2.5、消光係数k=1.6?3.3の範囲である請求項5に記載の液晶表示装置。
【請求項7】
前記反射防止層が、波長550nmにおいて、屈折率n=1.5?3.0、消光係数k=0?3.5の範囲である請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項8】
前記反射防止層が、波長550nmにおいて、屈折率n=2.0?3.0、消光係数k=0.01?2.0の範囲である請求項7に記載の液晶表示装置。
【請求項9】
前記反射領域に対応して、対向基板に備えられた偏光板からの透過光に2分の1波長の位相差を与える位相差層を備え、前記偏光板から前記位相差層に入射する光の偏光方向と前記位相差層の光学軸との間の角度θ1が、0°<θ1<22.5°の範囲にある請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項10】
前記対向基板と下部基板にそれぞれ備えられた偏光板と液晶層の間に、偏光板からの透過光に2分の1波長の位相差を与える位相差層を備え、前記透過領域における黒表示時の液晶層の光学軸方向と、前記液晶層に入射する光の偏光方向との角度θ2が、0°≦θ2<45°の範囲にある請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項11】
前記反射板が前記走査線又は前記データ線と同層に形成され、前記駆動電極の上面に反射防止層を有する請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項12】
液晶表示装置を表示部に備えた端末装置であって、
前記液晶表示装置の液晶パネルを形成する単位画素内に少なくとも反射板の形成部に対応した反射領域を有し、
前記反射領域に形成された反射共通電極及び反射画素電極と、透過領域に形成された透過共通電極及び透過画素電極とは互いに平行に対向して形成され、前記反射共通電極及び前記反射画素電極と、前記透過共通電極及び前記透過画素電極との間の電界によって前記反射領域及び前記透過領域の液晶が横方向電界モードとして駆動され、
前記反射共通電極は、前記透過共通電極に供給される信号を反転した信号が供給され、かつ、前記透過電極と前記反射電極には同一の信号が供給され、
前記反射領域の液晶層に電界を形成する前記反射共通電極及び前記反射画素電極が、前記反射板上に絶縁膜を介して設けられ、
前記反射共通電極及び前記反射画素電極が不透過の導電体で形成され、
前記反射共通電極及び前記反射画素電極の上面に反射防止層を備え、
前記反射防止層がCr、Ni、Znの中から選ばれた一つの酸化物又はその一つを含む合金の酸化物、又はITOからなることを特徴とする端末装置。」(以下「本願発明」という。下線は審決で付した。以下同じ。)

3.補正目的について
平成27年4月16日付手続補正書による特許請求の範囲についての補正(下線部)は、平成27年2月18日付け当審拒絶理由の「理由1」及び「理由2」で指摘した事項についてするものであるから、特許法第17条の2第5項第4号の明りようでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、本件補正は、特許法第17条の2第3項及び第4項の規定に適合する。

第4 本願発明について
1.本願発明
本願発明は、平成27年4月16日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、上記「第3 2.本件補正後の特許請求の範囲」の【請求項1】に記載したとおりのものと認める。

2.引用刊行物
(1)刊行物1
本願の上記優先権主張の日(以下「優先日」という。)前である平成19年9月20日に頒布された刊行物である特開2007-240752号公報(以下「刊行物1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
画素内に反射領域と透過領域とを有し、液晶層を挟んで対向する一対の偏光板を備え、横電界駆動される半透過型の液晶表示装置において、
前記一対の偏光板のうちで前記反射領域と透過領域とで共通の偏光板と、前記液晶層との間に1/2波長板を備えることを特徴とする半透過型液晶表示装置。
【請求項2】
各画素が、各画素の反射領域及び透過領域に共通のデータ信号で駆動される画素電極と、複数の画素の反射領域に共通の第1共通信号が印加される第1共通電極と、複数の画素の透過領域に共通の第2共通信号が印加される第2共通電極とを備えることを特徴とする請求項1に記載の半透過型液晶表示装置。

【請求項11】
前記第1及び第2共通信号がそれぞれ画素電極用信号に同期して反転し、かつ、前記第1共通信号が、実質的に前記第2共通信号を反転させた信号であることを特徴とする、請求項1?10の何れか一に記載の半透過型液晶表示装置。」
イ 「【0018】
本発明は、液晶層の長分散に起因する黒表示時の色つきや光漏れを低減できる半透過型液晶表示装置を提供することを目的とする。」
ウ 「【0038】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は、本発明の第1実施形態の液晶表示装置の断面構造を示している。液晶表示装置10は、表示面側から見て、第1偏光板11、第1λ/2板18、対向基板12、液晶層13、TFT基板14、第2λ/2板19、及び、第2偏光板15を順次に有する。この、液晶表示装置10は、画素内に、反射領域21と透過領域22を有する半透過型の液晶表示装置として構成される。TFT基板14上には、反射領域21に対応して、反射板16及び絶縁層17が形成される。反射板16は、第1偏光板11側から入射する光を反射する。反射板16は、一般に、光の散乱効果を高めるため、断面が凹凸を有するように形成される。反射領域21の絶縁層17上には、液晶を駆動するための画素電極35と基準電位を与える共通電極37とが形成される。また、透過領域22のTFT基板14上には、画素電極36と共通電極38が形成される。反射領域21は、反射板16によって反射された光を表示光源とする。液晶表示装置10は、第2偏光板15の下層側に、図示しないバックライト光源を有しており、透過領域22は、そのバックライト光源を表示光源とする。

【0041】
図2は、図1の液晶表示装置10の一画素内のTFT基板14の平面構造を示している。TFT基板14上には、互いに直交するゲート線31及びデータ線32が形成され、ゲート線31及びデータ線32の交点付近には、反射領域21及び透過領域22に対応して、TFT33及び34が形成される。TFT33及び34は、それぞれ、ゲートをゲート線31に接続し、ソース・ドレインの一方をデータ線32に接続する。また、TFT33及び34は、それぞれ、ソース・ドレインの他方を反射領域21に対応する画素電極35及び透過領域22に対応する画素電極36に接続する。
【0042】
第1共通電極37及び第2共通電極38は、それぞれ、各画素の反射領域21及び透過領域22に対応しており、ゲート線31と平行に延びる部分と、表示領域内に突き出した部分とを有する。第1共通電極37は、反射領域21で、画素電極35と基板平面内で対向する位置に形成される。第2共通電極38は、透過領域22で、画素電極36と基板平面内で対向する位置に形成される。第1共通電極37及び第2共通電極38には、それぞれ、液晶表示装置10内の各画素に共通の所定の信号駆動波形の信号が供給される。反射領域21では、画素電極35と第1共通電極37の間の電位差に応じた電界により液晶層13の配向が制御される。また、透過領域22では、画素電極36と第2共通電極38の間の電位差に応じた電界により、液晶層13の配向が制御される。

【0045】
図4(a)は、ある局面における反射領域21の駆動信号波形の様子を示し、同図(b)は、その局面における透過領域22の駆動信号波形の様子を示している。液晶表示装置10は、交流駆動により駆動され、各画素では、同図(a)及び(b)に示すように、フレームごとに、第1共通電極37及び第2共通電極38のそれぞれに印加される電位(信号)が、例えば0Vと5Vの間で反転される。また、第2共通電極38には、第1共通電極37に印加される信号の反転信号が印加される。
【0046】
画素電極35及び36には、例えば0V?5Vの間の任意の画素信号が供給される。TFT33及び34は、同じデータ線32に接続されているため、画素電極35及び36に供給される画素信号は共通である。図4(a)に示すように、iフレーム目に、画素電極35に0Vのデータ信号が供給され、第1共通電極37に5Vの信号が印加されるときには、画素電極35と第1共通電極37の間の電位差は5Vとなり、反射領域21では、この5Vの電位差による電界で液晶層13が駆動される。このとき、第2共通電極38には、0Vの信号が印加されるため、画素電極36と第2共通電極38の間の電位差は0Vとなり、透過領域22では、液晶層13が駆動されない。」
エ 上記記載事項ウ及び【図1】から、反射領域は、第1共通電極及び画素電極が、反射板上に絶縁層を介して設けられていることが看取できる。
オ 上記記載事項ウ及び【図2】から、反射領域の画素電極と第1共通電極とは互いに平行に対向して形成され、透過領域の画素電極と第2共通電極とは互いに平行に対向して形成されていることが看取できる。

上記ア乃至オ並びに図面の記載から、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

「画素内に反射領域と透過領域とを有し、反射領域は、第1共通電極及び画素電極が、反射板上に絶縁層を介して設けられ、液晶層を挟んで対向する一対の偏光板を備え、横電界駆動される半透過型の液晶表示装置において、前記一対の偏光板のうちで前記反射領域と透過領域とで共通の偏光板と、前記液晶層との間に1/2波長板を備え、
各画素が、各画素の反射領域及び透過領域に共通のデータ信号で駆動される画素電極と、複数の画素の反射領域に共通の第1共通信号が印加される第1共通電極と、複数の画素の透過領域に共通の第2共通信号が印加される第2共通電極とを備え、
反射領域の画素電極と第1共通電極とは互いに平行に対向して形成され、透過領域の画素電極と第2共通電極とは互いに平行に対向して形成され、
前記第1及び第2共通信号がそれぞれ画素電極用信号に同期して反転し、かつ、前記第1共通信号が、実質的に前記第2共通信号を反転させた信号である半透過型液晶表示装置。」

(2)刊行物2
本願の優先日前である平成9年2月20日に頒布された刊行物である再公表特許第97/06463号(以下「刊行物2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
ア 「本発明のカラー液晶表示装置によれば、液晶をスイッチングするため
のアクティブマトリクス素子,電極群の全て、カラー表示のためのカラーフィルタ、更には、色純度やコントラスト比を向上するためのブラックマトリクスは一方の基板上に形成される。液晶の駆動方法として、液晶に印加する電界方向を基板面にほぼ平行な方向にする横電界方式を採用する。」(7頁11?15行)
イ 「実施例1
第1図及び第2図に本発明のカラー液晶表示装置の一実施例の概要を示す。図において
TFTが形成される基板(下側基板)1上に、例えばアルミからなる共通電極3を形成する。ヒロック等の不良を抑制するために、アルミの表面は陽極化成処理を施して安定な酸化膜を形成すると良い。なお、図示されていないが、共通電極3を形成する際に、走査配線(トランジスタの機能としてはゲート電極)も形成する。その上に絶縁層4を形成する。絶縁層4としては、例えば窒化シリコンをCVD(Chemical vapor deposition)法により形成する。絶縁層4はゲート電極上ではゲート絶縁膜として機能する。絶縁層4の上には画素電極3及び信号配線21が形成される。形成方法としては例えばクロムからなる金属層をスパッタ法により成膜しパターンニングする。
その後ブラックマトリクス14を形成し、後述する方法によりカラーフィルタ5を画素パターンに対応して形成する。なお、ブラックマトリクス14の絶縁層4上に保護膜を介して形成しても良い。カラーフィルタ5は1画素を囲うように形成された2本の共通電極2の間に一体で形成される。なお、本実施例では画素電極3はカラーフィルタ5で覆われている。カラーフィルタ5上には、配向制御層8が形成される。
第1図では、配向制御層8はカラーフィルタ5及びブラックマトリクス14の形成により発生した凹凸をより平坦化して軽減する機能も兼ね備えている。一方、第2図では平坦化層7と配向制御層8とが積層されている。本実施例においては、カラーフィルタ5,ブラックマトリクス14を電極2,3を形成した下側(電極)基板1に形成することにより、対向基板1′側には、画素ごとの微細なパターンのない表示部全面で均一な配向制御層のみが形成される。本実施例では電極としてはいずれも不透明な金属薄膜からなる。なお、液晶がノーマリクローズ特性を有すれば透明電極を用いても十分なコントラスト比の確保が可能である。」(11頁7?12頁4行))

上記ア及びイ並びに図面の記載から、刊行物2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「不透明な金属薄膜からなる電極(共通電極及び画素電極)を有する横電界方式の液晶表示装置。」

(3)刊行物3
本願の優先日前である平成10年1月6日に頒布された刊行物である特開平10-3092号公報(以下「刊行物3」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
ア 「【請求項8】 基板上に走査信号配線と、映像信号配線と、前記走査信号配線と、映像信号配線との各交差部に形成された薄膜トランジスタと、前記薄膜トランジスタに接続された液晶駆動電極と、少なくとも一部が前記液晶駆動電極と対向して形成された共通電極とを有するアクティブマトリックス基板と、前記アクティブマトリックス基板に対向する対向基板と、前記アクティブマトリックス基板と前記対向基板に挟持された液晶層とからなる液晶表示装置において、前記共通電極と液晶駆動電極の両方、またはすくなくとも一方の電極表面に光の反射防止膜層を形成してあることを特徴とする液晶表示装置。」
イ 「【0006】横電界方式では、開口率が低くく、うまく設計しても高々50%程度である。有効画面の半分ちかくが共通電極と液晶駆動電極とでしめられており、従来の技術では、これらの電極の表面に反射防止の膜を形成していないため、外部からカラーフィルターを通過して液晶層に浸入してきた光は、共通電極と液晶駆動電極で反射され再度カラーフィルターを通過して外部に出ていく。このため黒レベルが灰色側にうきあがるために、画面全体の黒レベルが従来のTN液晶方式よりも悪るいという問題があった。
【0007】本発明は、上記の問題を解決するものであり、その目的は、より製造歩留りが高く、かつ開口率を大きくでき、コントラストの高い大画面高精細アクティブマトリックス型液晶表示装置をコスト安く提供することにある。」
ウ 「【0020】上記手段8により、外部からカラーフィルターを通過して液晶層に侵入してきた光は、図22にあるように、共通電極や液晶駆動電極の上層に形成された反射防止膜によって反射されなくなるので黒レベルが改善されコントラストが高くなる。見やすい高品質の画像が得られる。」
エ 「【0031】〔実施例7〕図22は、第7部類の実施例の断面図である。画素電極(共通電極と液晶駆動電極)の表面に外部からの光が液晶層に侵入してきた時に、この光が画素電極により反射され再度外部に出ていくのを防止する反射防止層が形成されている。代表的例としては、Cr金属の場合にはCr\CrN\CrOやCr\CrOなどの窒化膜と酸化膜の二層構造か、酸化膜だけの一層構造がある。Mo金属の場合にも同様にMo\MoN\MoOやMo\MoOの構造が用いられる。そのほかに画素電極の表面にa-Si層をコートしたり、カーボンをコートしたり、することでかなりの反射防止効果が得られる。Cr\CrSixやMo\MoSix,Ti\TiSix,W\WSix Ta\TaSix,Nb\NbSixなどのメタルシリサイドも光反射防止効果があるので用いることができる。
【0032】さらに図45にあるように画素電極の上の絶縁膜上に反射防止膜層を形成しても同様に効果がある。この場合には絶縁膜の反射防止膜が適している。a-Si層や、カラーフィルターで用いられているブルーの顔料系レジストやブラックの顔料系レジストなどが使用できる。
【0033】対向基板▲11▼の方にブラックマスクがないようなカラーフィルターの場合には、走査信号電極や映像信号電極の表面に図22のように、反射防止膜層を形成することで、コントラストの非常に良い横電界方式の液晶表示装置を作ることができる。」

上記ア乃至エの記載から、刊行物3には、次の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されているものと認められる。
「共通電極と液晶駆動電極の両方、またはすくなくとも一方の電極表面にCr\CrOの酸化膜からなる光の反射防止膜層を形成してある横電界方式の液晶表示装置。」

3.対比
そこで、本願補正発明と引用発明1とを対比すると、
(1)後者の「画素」、「画素内」、「反射板」、「反射領域」、「反射領域に共通の第1共通信号が印加される第1共通電極」、「反射領域(及び透過領域)に(共通の)データ信号で駆動される画素電極」、「透過領域」、「透過領域に共通の第2共通信号が印加される第2共通電極」、「(反射領域及び)透過領域に(共通の)データ信号で駆動される画素電極」、「反射領域の画素電極と第1共通電極とは互いに平行に対向して形成され、透過領域の画素電極と第2共通電極とは互いに平行に対向して形成され」、「横電界駆動」、「前記第1及び第2共通信号がそれぞれ画素電極用信号に同期して反転し、かつ、前記第1共通信号が、実質的に前記第2共通信号を反転させた信号である」、「絶縁層」、「反射領域は、第1共通電極及び画素電極が、反射板上に絶縁層を介して設けられ」は、それぞれ、前者の「単位画素」、「単位画素内」、「反射板」、「反射領域」、「反射共通電極」、「『反射画素電極』及び『反射電極』」、「透過領域」、「透過共通電極」、「『透過画素電極』及び『透過電極』」、「前記反射領域に形成された反射共通電極及び反射画素電極と、透過領域に形成された透過共通電極及び透過画素電極とは互いに平行に対向して形成され」、「横方向電界モードとして駆動」、「前記反射共通電極は、前記透過共通電極に供給される信号を反転した信号が供給され」、「絶縁膜」及び「前記反射領域の液晶層に電界を形成する前記反射共通電極及び前記反射画素電極が、前記反射板上に絶縁膜を介して設けられ」に相当する。
(2)横電界駆動される半透過型の液晶表示装置においては、反射領域及び透過領域それぞれにおいて、画素電極と共通電極との間の電界によって液晶が駆動されるものであることは技術常識であるから、後者の「横電界駆動される半透過型の液晶表示装置」は、「反射共通電極及び反射画素電極と、透過共通電極及び透過画素電極との間の電界によって反射領域及び透過領域の液晶が横方向電界モードとして駆動される」、といえる。
(3)後者の「横電界駆動される半透過型の液晶表示装置」は、各画素の反射領域及び透過領域に共通のデータ信号で駆動されるものであるから、「前記透過電極と前記反射電極には同一の信号が供給される」、といえる。

したがって、両者は、
「単位画素内に少なくとも反射板の形成部に対応した反射領域を有し、
前記反射領域に形成された反射共通電極及び反射画素電極と、透過領域に形成された透過共通電極及び透過画素電極とは互いに平行に対向して形成され、前記反射共通電極及び前記反射画素電極と、前記透過共通電極及び前記透過画素電極との間の電界によって前記反射領域及び前記透過領域の液晶が横方向電界モードとして駆動され、
前記反射共通電極は、前記透過共通電極に供給される信号を反転した信号が供給され、かつ、前記透過電極と前記反射電極には同一の信号が供給され、
前記反射領域の液晶層に電界を形成する前記反射共通電極及び前記反射画素電極が、前記反射板上に絶縁膜を介して設けられる液晶表示装置。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
本願発明が、「反射共通電極及び反射画素電極が不透過の導電体で形成され」ているのに対し、引用発明1は、そのような反射共通電極及び反射画素電極を有していない点。

[相違点2]
本願発明が、「反射共通電極及び反射画素電極の上面に反射防止層を備え、前記反射防止層がCr、Ni、Znの中から選ばれた一つの酸化物又はその一つを含む合金の酸化物、又はITOからなる」のに対し、引用発明1は、そのような反射防止層を備えていない点。

4.判断
上記相違点について以下検討する。
(1)[相違点1]について
引用発明2の「(不透明な金属薄膜からなる)電極(共通電極及び画素電極)」は、横方向電界モードとして駆動される液晶の電極である点で、本願発明の「反射共通電極及び反射画素電極」を包含し、引用発明2の「不透明な金属薄膜からなる電極」は、本願発明の「不透過な導電体」に相当する。
ここで、横方向電界モードとして駆動される液晶表示装置の電極に、光漏れ防止のために、不透過の導体を用いることは、特開2001-330842号公報(段落【0002】参照。)及び特開2002-62544号公報(【0003】参照。)に記載されているように、技術常識である(以下「技術常識」という。)。そして、上記技術常識を踏まえれば、引用発明2は、不透明な金属薄膜からなる電極(共通電極及び個別電極)であるから、光漏れ防止のものと推認される。
また、上記摘記事項「2.(1)イ」より、引用発明1は、光漏れを低減できる半透過型液晶表示装置を提供することを課題としているものであるから、引用発明2と共通の課題を有しているといえる。
そうすると、引用発明1と引用発明2とは、液晶表示装置という共通の技術分野に属し、光漏れをなくしコントラスト比を確保する液晶表示装置を提供するという共通の課題を備えているといえる。
してみると、引用発明1に引用発明2を適用することは、上記技術常識を踏まえれば、当業者が容易に想到し得るものである。
したがって、引用発明1において、引用発明2を適用することにより、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

(2)[相違点2]について
引用発明3の「電極表面にCr\CrOの酸化膜からなる光の反射防止膜層」は、本願発明の電極の上面の「反射防止層」に相当する。
引用発明3の「共通電極」及び「液晶駆動電極」は、横方向電界モードとして駆動される液晶の電極である点で、それぞれ、本願発明の「反射共通電極」及び「反射画素電極」を包含し、上記摘記事項「2.(3)ウ」より、引用発明3の「光の反射防止層」は、外部からカラーフィルターを通過して液晶層に侵入してきた光を反射しないよう設けられるものであるから、引用発明3の「表面にCr\CrOの酸化膜からなる光の反射防止膜層」が形成された「共通電極」及び「液晶駆動電極」は、それぞれ、本願発明の「反射共通電極」及び「反射画素電極」に相当するといえる。
してみると、引用発明3は、相違点2に係る本願発明の発明特定事項を備えている。
そして、引用発明1と引用発明3とは、液晶表示装置という共通の技術分野に属する。
また、上記摘記事項「2.(1)イ」より、引用発明1は、光漏れを低減できる半透過型液晶表示装置を提供することを課題とし、上記摘記事項「2.(3)イ及びウ」より、引用発明3は、コントラストの高い液晶表示装置を提供することを課題とするものである。
そうすると、両者は、光漏れをなくしコントラスト比を確保する液晶表示装置を提供するという共通の課題を備えているといえる。
してみると、引用発明1に引用発明3を適用することは、当業者が容易に想到し得るものである。
したがって、引用発明1において、引用発明3を適用することにより、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

したがって、本願発明は、引用発明1乃至引用発明3並びに上記技術常識から、当業者が容易に発明できたものである。
そして、本願発明の発明特定事項によって奏される効果も、引用発明1乃至引用発明3並びに上記技術常識から、当業者が予測しうる範囲内のものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明1乃至引用発明3並びに上記技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-07-09 
結審通知日 2015-07-14 
審決日 2015-07-29 
出願番号 特願2008-241707(P2008-241707)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 洋允  
特許庁審判長 黒瀬 雅一
特許庁審判官 吉村 尚
藤本 義仁
発明の名称 液晶表示装置  
代理人 高橋 勇  

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