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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1305575
審判番号 不服2012-10866  
総通号数 191 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-06-11 
確定日 2015-06-30 
事件の表示 特願2007-508906「喫煙患者における呼吸器疾患の治療のためのシクレソニドの使用」拒絶査定不服審判事件〔平成17年11月 3日国際公開、WO2005/102354、平成19年11月22日国内公表、特表2007-533706〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2005年4月19日(パリ条約による優先権主張 2004年4月20日 アメリカ合衆国(US))を国際出願日とする特許出願であって、平成23年4月26日付けで拒絶理由が通知され、同年11月11日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成24年2月1日付けで拒絶査定がされた。
これに対し、平成24年6月11日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に誤訳訂正書が提出され、平成25年10月10日付けで前置報告を利用した審尋がされ、平成26年4月15日に回答書が提出され、さらに、同年6月11日付けで当審において拒絶理由が通知され、これに対し、同年12月5日に意見書が提出されたものである。

第2 本願発明

本願発明は、平成23年11月11日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲、および、平成24年6月11日提出の誤訳訂正書により訂正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至21に記載されたとおりのものと認める。
また、その請求項1に記載された発明は、以下のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。

「喫煙患者における呼吸器疾患の治療用の医薬品であって、シクレソニド又はその製剤学的に認容性の塩若しくは溶媒和物を含有する組成物の治療学的に有効でかつ薬理学的に許容可能な用量を含み、
前記呼吸器疾患が喘息である、
医薬品。」

第3 当審で通知した拒絶の理由の概要

当審で通知した平成26年6月11日付けの拒絶理由は、「本件出願の請求項1-21に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。」という理由を含むものであり、刊行物として「D. S. Postma 他5名,Treatment of asthma by the inhaled corticosteroid ciclesonide given either in the morning or evening, Eur Respir J 2001; 17:1083-1088」を引用するものである。

第4 当審の判断

1 刊行物の記載

上記刊行物(以下、「引用例」という。)には、以下の記載がある。なお、訳は、当審による。

a.
「Treatment of asthma by the inhaled corticosteroid ciclesonide given either in the morning or evening」(1083頁、タイトル)
「朝又は夕方のどちらかに与えられる吸入コルチコステロイドのシクレソニドによる喘息の治療」

b.
「ABSTRACT: The study addressed the question whether the novel inhaled prodrug corticosteroid ciclesonide is equally effective when inhaled in the morning compared to the evening.
For this purpose a double-blind, randomized, parallel group study was initiated in which 209 asthmatic patients (forced expiratory volume in one second=50-90% predicted) inhaled either 200 μg ciclesonide in the morning or in the evening, for 8 weeks. ・・
Overall, the study indicates that ciclesonide can be given either in the morning or in the evening to meet the patients' preference and individual medical needs, although evening administration may lead to a more pronounced improvement in morning peak expiratory flow. 」(1083頁、要約)
「夕方と比較して朝に吸入されると、シクレソニドが同様に有効であるかを課題として、209人の喘息患者に対して二重盲検、無作為抽出、並行群間の朝又は夕方のどちらかに200μgのシクレソニドを吸入させる8週間の治験が行われた。・・
夕方の投与は朝の最大呼気量をより改善するが、個々の医療ニーズや患者の好みで朝でも夕方でもシクレソニドを投与しうる。」

c.
「Patients and methods
Patients
Outpatients of either sex, aged 18 - 75 yrs, with a history of bronchial asthma as defined by American Thoracic Society (ATS) criteria [9] were included.・・Patients were also excluded if they suffered from chronic obstructive pulmonary disease (COPD) and/or other relevant lung diseases, or were heavy (ex-) smokers with ≧10 pack-yrs.」(1083頁右欄?1084頁左欄、「Patients」の項)
「患者及び治験方法
患者
この治験に参加した患者は、アメリカ胸部学会(ATS)によって定義される気管支喘息の病歴をもつ外来患者である。・・慢性閉塞性呼吸器疾患及び又は他の肺疾患に罹患又は年間10パック以上のヘビー(脱)喫煙者に該当する患者は除外されている。」

d.



」(1085頁)

表1.-患者の特性
変数 Itt分析 pp分析
朝群 夕方群 朝群 夕方群
患者数n 110 99 88 80
男:女 65:45 49:50 54:34 40:40
年齢 39(19-75) 38(18-68) 39(19-75) 36(18-68)
非喫煙者数:(脱)喫煙者数 61:49 54:45 49:39 43:37

・・


・・・Itt: intention-to-treat; pp: perprotocol;・・


e.
「Results
Out of 270 patients enrolled into the baseline period, 209 were randomized. The protocol was violated by 41 patients and these were excluded from the per-protocol analysis which finally comprised 88 patients in the morning group and 80 patients in the evening group (tables 1 and 2 for baseline characteristics). 」(1085頁、左欄「Results」の項)
「結果
ベースライン期間に登録した270人の患者のうち、209人をランダム化した。プロトコルごとの分析(perprotocol analysis)の場合、プロトコル違反をした41人の患者を対象から除外したので、患者数は、最終的に、朝群では88人、夕方群では80人である。(ベースライン期間における患者の特性に関する表1、表2)」

2 引用発明の認定

引用例には、「喘息の治療」(摘示a.)に関し、「朝又は夕方のどちらかに200μgのシクレソニドを吸入させる8週間の治験」(摘示b.)を行ったことが記載されている。
この治験に参加した患者について、引用例には「年間10パック以上のヘビー(脱)喫煙者に該当する患者は除外されている」(摘示c.)ことが記載されていることに加え、表1(摘示d.)に「nonsmokers:(ex-)smokers」(非喫煙者と(脱)喫煙者の内訳)の欄が記載されており(摘示d.)、該欄の記載によれば、該内訳(非喫煙者:(脱)喫煙者)が具体的には、Itt分析(intention-to-treatment analysis)を行った朝投与の患者については61人:49人であり、Itt分析を行った夕方投与の患者の該内訳は54人:45人であり、pp分析(perprotocol analysis)を行った朝投与の患者の該内訳は49人:39人であり、pp分析を行った夕方投与の患者の該内訳は43人:37人であったこと(摘示d.)が理解できる。
そうすると、引用例には、喘息をもつ年間10パック未満の(脱)喫煙者に、朝又は夕方のどちらかに200μgのシクレソニドを8週間吸入させて喘息を治療したことが記載されているといえるから、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「喘息をもつ年間10パック未満の(脱)喫煙者に、朝又は夕方のどちらかに200μgのシクレソニドを8週間吸入させて喘息を治療するための、シクレソニドを含む医薬品。」

3 対比・判断

引用発明の「喘息を治療するための、シクレソニドを含む医薬品」は、本願発明の「呼吸器疾患の治療用の医薬品であって、シクレソニド又はその製剤学的に認容性の塩若しくは溶媒和物を含有する組成物を含み、前記呼吸器疾患が喘息である、医薬品」に相当する。
本願発明における喫煙者は、「年間タバコ10パック未満又は年間2パイプパック(pipe pack)未満の喫煙歴を有する患者を指す。本発明に関しての喫煙者は、また、喫煙をやめた患者(脱喫煙者)をも指す」(【0012】)のであるから、引用発明の「喘息をもつ年間10パック未満の(脱)喫煙者」は、本願発明の「喫煙患者」に相当する。
本願発明の「治療学的に有効でかつ薬理学的に許容可能な用量」について本願明細書には、「本発明に関しては、シクレソニドを、患者に20?1600μgの日用量範囲で投与することが好ましい。本発明に関しての用量例は、シクレソニド20、40、60、80、100、120、140、160、180、200、320μgを含む。・・20?320μgの範囲のシクレソニドの日用量の投与は、有利には持続的な治療計画の一部、有利には1日より長い治療期間、特に有利には1週間より長い治療期間、例えば2週間の治療期間、1ヶ月の治療期間、1年の治療期間又は一生の治療期間の一部である。」(段落【0011】)、「実施例2:臨床試験 この試験は、二重盲検、無作為化、並行群間試験であり、その間に、喘息を有する患者に、シクレソニド200μg(シクレソニドを有する定量吸入器 100μg/1押し)を一日一回午後にか、又はその患者に、ブデゾニド400μg(ブデゾニドを有するTurbuhaler(登録商標) 200μg/1押し)を一日一回午後に、12週間与えた。」(段落【0037】)などの記載があることを勘案すると、引用発明の「朝又は夕方のどちらかに200μgのシクレソニドを8週間吸入させて」は、本願発明の「治療学的に有効でかつ薬理学的に許容可能な用量」を満足する。

そうすると、引用発明は、本願発明と一致しており、相違点はない。
したがって、本願発明は、引用例に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

なお、請求人は、平成26年12月5日提出の意見書において「引用文献1では・・非喫煙者も(脱)喫煙者も治療対象の患者として同等に扱われているのに対し、本願発明1では、喫煙患者における呼吸器疾患の治療用である点で、引用文献1とは「課題の解決手段」が顕著に相違する。上記から、本願発明1は引用文献1に記載されていないといえるので、本願発明1は理由1に該当しないと思料される。」、「さらに、上記「課題の解決手段」の相違により・・引用文献1とは、得られる「効果」(上記(2.2)参照)も顕著に相違する。・・従って、引用文献1には、朝投与群と夕方投与群の治療効果の違いについては記載されているが、非喫煙者と(脱)喫煙者との間の治療効果の違いについて、一切記載されていないといえる。 上記から、引用文献1から当業者が容易に本願発明1をなし得るとは認められないので、本願発明1は理由2に該当しないと思料される。」(第2頁「(3)拒絶理由に対する意見」の項)、及び、「(b)「ブデゾニドでの治療と比較すると、シクレソニドで治療した場合に、肺機能における上位の改善が、喫煙している喘息患者について観察された」([0008]第2文)」(第2頁「(2.2)本願発明の効果」の項)、と主張している。

上記主張は、要するに、仮に引用発明を「治療対象の患者について非喫煙者と(脱)喫煙者からなる選択肢で表現されている発明」とすれば、本願発明は、引用発明において(脱)喫煙者を発明を特定するための事項として選択した場合の発明に該当し、かつ、「ブデゾニドでの治療と比較」すると当業者に予測できない格別顕著な効果を奏するものであるから、本願発明は、いわゆる選択発明に該当し、引用発明により新規性が否定されず進歩性を有する旨の主張であると解される。
しかしながら、そもそも、引用発明は、治療対象の患者について「喘息をもつ年間10パック未満の(脱)喫煙者」と特定するものであって(「2 引用発明の認定」を参照。)、「非喫煙者と(脱)喫煙者からなる選択肢で表現されている発明」ではない。
また、仮に引用発明として「非喫煙者と(脱)喫煙者からなる選択肢で表現されている発明」(以下、「仮の引用発明」という。)を想定したとしても、「ブデゾニドでの治療」は、シクレソニドで治療していない点で仮の引用発明に対応するものではないから、「ブデゾニドでの治療と比較」すると仮の引用発明と比較して当業者に予測できない格別顕著な効果を奏する旨の請求人の主張には、論理性がない。
したがって、主張は、採用できない。

第5.むすび
以上のとおりであるから,本願の請求項1に係る発明についての当審の拒絶の理由は妥当なものであり、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願はこの理由により拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-01-30 
結審通知日 2015-02-02 
審決日 2015-02-16 
出願番号 特願2007-508906(P2007-508906)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (A61K)
P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 瀬下 浩一早乙女 智美  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 辰己 雅夫
前田 佳与子
発明の名称 喫煙患者における呼吸器疾患の治療のためのシクレソニドの使用  
代理人 久野 琢也  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  

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