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審決分類 審判 全部無効 特17条の2、3項新規事項追加の補正  B27B
審判 全部無効 2項進歩性  B27B
管理番号 1305676
審判番号 無効2013-800050  
総通号数 191 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-11-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-03-28 
確定日 2015-09-14 
事件の表示 上記当事者間の特許第4759276号「卓上切断機」の特許無効審判事件についてされた平成25年11月12日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成25年(行ケ)第10338号平成26年11月13日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第4759276号の請求項1ないし5に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯及び本件特許発明
1.手続の経緯
本件特許第4759276号は、平成17年1月20日に出願され、以下の経緯を経て、平成23年6月10日に設定登録がなされたものである。
平成17年 1月20日 出願(特願2005-12609号)
平成22年 1月28日 拒絶査定(発送日 平成22年2月9日)
平成22年 4月16日 不服2010-8089号拒絶査定不服審判請求
平成23年 2月15日 拒絶理由通知書(発送日 平成23年2月21日)
平成23年 4月22日 手続補正書
平成23年 5月17日 審決(発送日 平成23年5月30日)
平成23年 6月10日 設定登録

そして、本件無効審判請求に係る主な手続の経緯は、以下のとおりである。
平成25年 3月28日 本件審判請求書の提出
平成25年 6月17日 審判事件答弁書の提出
平成25年 8月 1日 審理事項の通知
平成25年 9月 6日 口頭審理陳述要領書の提出(請求人)
平成25年 9月 6日 口頭審理陳述要領書の提出(被請求人)
平成25年 9月20日 上申書の提出(被請求人)
平成25年 9月20日 口頭審理(別件の無効2013-800051号事件と併合、その後その審理を分離。)
平成25年10月 4日 上申書の提出(請求人)
平成25年10月17日 上申書(第2)の提出(被請求人)
平成25年11月12日 請求は成り立たない旨の審決(第1次審決)
平成25年12月19日 審決取消訴訟の提起(請求人)
平成26年11月13日 審決取消の判決言渡し

2.本件特許発明
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載されたとおりのものであるところ、請求項1ないし5に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明5」という。また、これらをまとめて「本件特許発明」ということがある。)を、本件審判請求書5ページ10行ないし7ページ9行の記載に準じて構成要件に分説して記載すると、以下のとおりである。
「【請求項1】
A-1.加工部材を支持可能なベース部と、
A-2.切断刃を支持する切断部と、
A-3.該ベース部上面に対して平行に延びる傾動軸を支点として、前記ベース部上面に対して垂直の位置から傾動可能に支持された支持部材と、
A-4.該支持部材に支持され、前記ベース部上面と離間し、且つ該ベース面上面と平行な方向に延在する一対のパイプであって、該一対のパイプの軸心を含む仮想平面が、前記切断刃の側面と平行となるように配置された第1のパイプ及び第2のパイプと、
A-5.前記第1及び第2のパイプに沿って摺動可能に支持されると共に、前記ベース部の上方で揺動軸を支点として前記切断部を揺動可能に支持する摺動支持部と、
を備えた卓上切断機であって、
B.前記摺動支持部は、前記第1及び第2のパイプの軸方向に形成され、それぞれ第1及び第2のパイプの外径より大きい内径を有する第1及び第2の貫通孔と、前記第1の貫通孔に開口し、第1の貫通孔と直交する方向に形成された第3の貫通孔を有すると共に、
C.該第3の貫通孔に螺合し、前記一対のパイプの軸心を含む仮想平面の方向に前記第1のパイプを押圧するように設けられた係合部材と、
D.前記第1及び前記第2のそれぞれの貫通孔内であって、前記第1の貫通孔の内周面と前記第1のパイプの外周面との間及び前記第2の貫通孔の内周面と前記第2のパイプの外周面との間に前記第1のパイプ及び前記第2のパイプのそれぞれと接触するように配置された複数の摺動部材とを備え、
E.前記第1のパイプと接触する前記摺動部材の長さ方向の全領域を第1の領域、前記第2のパイプと接触する前記摺動部材の長さ方向の全領域を第2の領域としたときに、前記第1の領域は前記第2の領域より短く形成され、
F.前記係合部材及び前記第1の領域は、前記仮想平面の方向において前記第2のパイプと接触する前記摺動部材の前記支持部材側の一端と前記支持部材と反対側の他端との間に位置し、且つ前記係合部材は、前記第1のパイプと接触する前記摺動部材の一方の端部に近接する位置で前記第1のパイプと係合するように設けることにより、
G.前記支持部材の傾動角度にかかわらず前記係合部材による押圧方向が前記仮想平面上であって且つ前記切断刃の側面と平行となるようにした
ことを特徴とする卓上切断機。
【請求項2】
請求項1において、
H.前記支持部材は前記切断刃の軸方向と直交すると共に、前記ベース部上面に対して平行に延びる傾動軸を支点として、前記ベース部上面に対して垂直な位置から両方向に45°傾動可能に支持されている
ことを特徴とする卓上切断機。
【請求項3】
I.該ベース部は、ベースとターンテーブルとを備え、該ターンテーブルは該ベース上に支持され、該ターンテーブルは、該ベースに対して回動可能であり、該ターンテーブルの上面と該ベースの上面とは面一でありそれぞれ該ベース部の上面をなして該加工部材を支持し、
該支持部材は該ターンテーブルに傾動可能に支持されている
ことを特徴とする請求項1又は2記載の卓上切断機。
【請求項4】
J.該係合部材は、ネジと該ネジの一端に設けられたノブとを有し、
該ネジが該第3の貫通孔に螺合し、該ネジの他端が、該仮想平面上において前記切断刃の側面と平行な方向に該第1のパイプを押圧して該第1のパイプの摺動を規制する
ことを特徴とする請求項1又は2記載の卓上切断機。
【請求項5】
K.該係合部材は、該第1のパイプの部分に係合可能であり、該係合により、該摺動支持部材を該第1のパイプにおける任意の部分に固定可能である
ことを特徴とする請求項1又は2記載の卓上切断機。」

第2 当事者の主張
本件無効審判事件における両当事者の主張の概要は以下のとおりである。なお、摘記箇所を行数で示すときは、空白行は含まない(以下、同様)。

1.請求人の主張する請求の趣旨及び理由
(1)要点
請求人は、本件特許発明1ないし5についての特許を無効とする、との審決を求めた。そして、その請求の理由は、本件特許発明は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない平成23年4月22日付け手続補正書による補正をした特許出願に対して特許されたものであるから、その特許は、特許法第123条第1項第1号に該当し、同項の規定により無効とすべきものであるという理由(以下、「無効理由1」という。)、及び、本件特許発明1ないし5は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、その特許は、特許法第123条第1項第2項の規定に該当し、同項の規定により無効とすべきものであるという理由(以下、「無効理由2」という。)である。

(2)無効理由1について
平成23年4月22日付の手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)により、本件特許請求の範囲の請求項1で特定される事項に、以下の構成が包含されることとなった。
「前記第1のパイプと接触する前記摺動部材の長さ方向の全領域を第1の領域、前記第2のパイプと接触する摺動部材の長さ方向の領域を第2の領域としたときに、前記第1の領域は前記第2の領域より短く形成され、
前記係合部材及び前記第1の領域は、前記仮想平面の方向において前記第2のパイプと接触する前記摺動部材の前記支持部材側の一端と前記支持部材と反対側の他端との間に位置し、且つ前記係合部材は、前記第1のパイプと接触する前記摺動部材の一方の端部に近接する位置で前記前記第1のパイプと係合するように設けることにより」
そして、この構成の技術的意義について、被請求人は、本件特許に係る別件不服2010-8089号拒絶査定不服審判の平成22年4月16日付け審判請求書において、「また、第1の領域を第2の領域より短くすると共に、係合部材により第1のパイプを押圧するようにしたため、摺動支持部の摺動方向の寸法を短くすることができ、パイプに対する摺動支持部の摺動量を長くすることができる。」(甲第4号証7ページ下から3行?末行)と主張し、また、同平成23年4月22日付け意見書において、「スライド長は、パイプ(50,51)の長さが一定の場合、全長が長い方の摺動部材(第2の領域S)で決まるものではなく、摺動支持部(33)の摺動方向の長さで決まります。すなわち、刊行物5を示す参考図3のように、各パイプに設けた摺動部材を同じ長さ(領域X)とすると係合部材を設けるために一方の摺動部材をずらすこと(ずれ量Y)が必要となりますので、スライド長は領域Xと係合部材を設けるためのずれ量Yの和、すなわち摺動支持部の長さ(X+Y)で決まることになります。言い換えると、“スライド長”=“パイプの長さ”-“摺動支持部の長さ”の関係になりますので、摺動支持部(33)が長ければ長いほどスライド長は短くなってしまいます。」(甲第5号証7ページ頁下から14行?下から3行)と主張している。

<当審注:甲第5号証7ページ【参考図3】>


しかしながら、願書に最初に添付された特許請求の範囲、明細書又は図面(以下、「本件当初明細書等」という。)には、第1及び第2のパイプと摺動支持部との関係については、【図2】、【図14】及び【図16】を参照して、段落【0056】?【0063】に記載されているのであって、これらの記載によれば、本件特許発明1の第1のパイプ及び第2のパイプと摺動支持部との関係については、摺動支持部(「第2摺動支持部33」が対応。)と第1のパイプ(「パイプ50」が対応。)との間には、以下の図16に示すように、すべり軸受リング35が嵌装されており、摺動支持部と第2のパイプ(「パイプ51」が対応。)との間には、図16に示すように、ボールベアリング36が嵌装されている。


本件特許の明細書に実施例として記載されたものにおいては、パイプ50(第1のパイプ)のベアリング(摺動部材)とパイプ51(第2のパイプ)のベアリング(摺動部材)は、異なる機能のベアリングとされており、第2摺動支持部材33とパイプ51との間に設けられたボールベアリング36が主として支持剛性を担保するものとして記載されており、第2摺動支持部材とパイプ50との間に設けられたすべり軸受けリング35は、ターンテーブル21上面21Aに対する丸鋸刃31の傾動角度を微調整するためのものとして記載されている(甲第1号証11ページ23?41行)。すべり軸受けリングは、機能上あまり長くできないし、ボールベアリング36は、支持剛性を確保しなければならないのである程度の長さが必要になる。パイプ50のベアリングとパイプ51のパイプとの長さの差は、このように、それぞれのベアリングの機能によって生じたものであって、摺動部の長さを短くするという意図のもとに生じたものではない。
すなわち、本件特許の出願当初の明細書等には、摺動部の長さを短くするために一方のベアリングを短くするという技術思想は記載されていない。(審判請求書7ページ25行?9ページ23行)

出願当初明細書に記載されている技術では、パイプ50及びパイプ51に、それぞれ別の機能を果たす摺動部材(すべり軸受けとボールベアリング)を使用した発明が記載されており、実際には、異なる技術的な意味を有する構成部材が使用されて、本件補正により、「摺動部材」として上位概念化され、同じカテゴリーの部材とされ、この差違がかき消されている。(口頭審理陳述要領書(請求人)5ページ下から16行?下から11行)

本件特許発明1は、摺動支持部材の具体的な構成を特定せず、単に摺動支持部材の長さ方向の関係を一方が他方よりも長いとのみ特定したものであり、その結果、摺動部の長さを短くすることができるという作用効果を奏するものをも含むものとなったから、平成23年4月22日付けの手続補正書による補正は、本件当初明細書等に記載された事項の範囲内のものではないことは明らかである。(審判請求書9ページ最終行?10ページ6行)

(3)無効理由2について
本件特許発明1、3ないし5は、甲第6号証記載の発明、甲第7号証記載の事項及び甲第8号証記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件特許発明2は、甲第6号証記載の発明、甲第7号証記載の事項、甲第8号証記載の事項及び甲第9号証記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
以下、詳述する。

ア.本件特許発明1について
(ア)本件特許発明1と甲第6号証記載の発明との相違点
本件特許発明1と甲第6号証記載の発明とを対比すると、以下の点で相違する。
<相違点1>
「本件特許発明が、第1の貫通孔に開口し、第1の貫通孔と直交する方向に形成された第3の貫通孔を有し、該第3の貫通孔に螺合し、一対のパイプの軸心を含む仮想平面の方向に第1のパイプを押圧するように設けられた係合部材を有し、支持部材の傾動角度にかかわらず前記係合部材による押圧方向が前記仮想平面上であって且つ切断刃の側面と平行となるようにしたものである」のに対し、甲第6号証記載の発明は、そのような構成を備えていない点。
<相違点2>
「本件特許発明が、第1のパイプと接触する摺動部材の長さ方向の全領域を第1の領域、第2のパイプと接触する摺動部材の長さ方向の領域を第2の領域としたときに、前記第1の領域は前記第2の領域より短く形成され、係合部材及び前記第1の領域は、仮想平面の方向において前記第2のパイプと接触する摺動部材の支持部材側の一端と前記支持部材と反対側の他端との間に位置し、且つ前記係合部材は、前記第1のパイプと接触する前記摺動部材の一方の端部に近接する位置で前記第1のパイプと係合するように設ける」のに対し、甲第6号証記載の発明は、そのような構成を備えていない点。(審判請求書23ページ下から5行?24ページ11行)

(イ)相違点に対する請求人の主張
<相違点1>について
甲第8号証には以下の事項が記載されている。
「アーム5aに摺動自在なスライドシャフトを備えたものにおいて、2つのスライドシャフトで形成される面内でスライドシャフトに直交する孔に挿入されるノブ15によって被切断材料を支持するベースに対して、のこ刃の位置を固定する」「丸鋸刃を任意の位置で固定する固定手段」。
甲第6号証記載の発明及び甲第8号証記載の事項はいずれも、「摺動複合マイターソー」と呼べるものである点で技術的に共通するから、甲第6号証記載の発明に、甲第8号証記載の「固定手段」を適用することに困難性はない。甲第6号証記載の発明に甲第7号証記載の「摺動部材」及び甲第8号証記載の「固定手段」を採用したものは、必然的にノブ15は、パイプの軸心を含む仮想平面の方向に第1のパイプを押圧するようになるから、「前記支持部材の傾動角度にかかわらず前記係合部材による押圧方向が前記仮想平面上であって且つ前記切断刃の側面と平行と」なる。
また、甲第6号証記載の発明の「摺動複合マイターソー」は小型のものであるが、このような切断機は、床に置いて使用されることも多く、一般的に切断機の上端が胸よりも下に置かれた状態で使用される。そうすると操作性を考慮すると、滑りロック機構は上方にノブを配置することが自然である。甲第6号証記載の発明に甲第7号証記載の「摺動部材」及び「ロック・ボルト35」を適用したものにおいて、上方にノブを配置するように滑りロック機構を配置すれば、必然的にスライドレールの押圧方向は、一対のスライドレール20の軸心を含む仮想平面の方向となる。(審判請求書26ページ10行?27ページ17行)
<相違点2>について
甲第7号証には以下の事項が記載されている。
「支持ハウジングは、第1及び第2のそれぞれの貫通孔内であって、第1の貫通孔の内周面と柔らかいレール15Sの外周面との間及び前記第2の貫通孔の内周面と硬いレール15Hの外周面との間に、柔らかいレール15S及び硬いレール15Hのそれぞれと接触するように配置された複数の摺動部材(31,32,38)とを備え、
前記柔らかいレール15Sと接触する前記摺動部材(31,32)の長さ方向の全領域を第1の領域、前記硬いレール15Hと接触する摺動部材(38)の長さ方向の全領域を第2の領域としたときに、前記第1の領域は前記第2の領域より短く形成され」ている摺動留め継ぎ用鋸。
甲第6号証記載の発明に、上記甲第7号証記載の「摺動留め継ぎ用鋸」を適用して、相違点2とすることは、当業者が容易に想到することができたものである。(審判請求書25ページ2行?26ページ8行)

イ.本件特許発明2ないし5について
マイターソーにおいて、丸鋸刃を両方向に45°まで傾動可能としたものは、甲第9号証に記載されている。甲第6号証記載の発明を両方向に45°まで傾動可能として、本件特許発明2の構成とすることは容易である。
甲第6号証記載の発明の「ロタンダ」は、本件特許発明3の「ターンテーブル」に相当する。したがって、本件特許発明3は、本件特許発明1と同じ理由で当業者が容易に発明をすることができたものである。
相互に摺動可能なスライドレールと部材をスライドレールに直交する貫通孔に設けられた部材で固定する際に、該部材にネジとノブを設け、貫通孔に螺合させることは、甲第7号証に記載されている。甲第7号証記載の「ロック・ボルト35」が「柔らかいレール15S」に傷をつけないように「ロック・ボルト35」と「レール15S」との間に「ベアリング31」を介しているが、柔らかいレールを用いた理由は技術的な問題ではなく、単に柔らかいレールは硬いレールより安いという経済的な理由であるから、傷がつかない硬いレールを用いてロック・ボルト35で直接レールを押圧するようにする程度のことは、単なる設計的事項にすぎないから、本件特許発明4は、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件特許発明5は、本件特許発明1にさらに、「K.該係合部材は、該第1のパイプの部分に係合可能であり、該係合により、該摺動支持部材を該第1のパイプにおける任意の部分に固定可能である」と技術的に限定したものである。そして、上記で述べたとおり、当該限定に係る事項は、甲第7号証に記載されているから、本件特許発明4と同様の理由で、本件特許発明5も、甲第6号証記載の発明、甲第7号証記載の事項及び甲第8号証記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。(審判請求書28ページ16行?30ページ12行)

2.請求人の証拠方法
証拠方法として、審判請求書において、以下の甲第1ないし9号証が提出され、口頭審理陳述要領書において、以下の甲第10号証が提出されている。
甲第1号証 特許第4759276号公報
甲第2号証 本件特許に係る出願(特願2005-12609号)の公開特許公報である特開2006-198868号公報
甲第3号証 本件特許に係る出願(特願2005-12609号)の平成22年4月22日付け手続補正書
甲第4号証 本件特許に係る出願(特願2005-12609号)に対する拒絶査定を不服とする平成22年4月16日付け不服2010-8089号審判請求書
甲第5号証 本件特許に係る出願(特願2005-12609号)の平成23年4月22日付け意見書
甲第6号証 カナダ国特許出願公開第02372451号明細書
甲第7号証 米国特許出願公開第2004/0055436号明細書
甲第8号証 実願昭59-110990号(実開昭61-27623号)のマイクロフィルム
甲第9号証 特開平8-252801号公報
甲第10号証 「IKO直動シリーズ総合カタログ」、日本トムソン株式会社、2012年4月、表紙、II-167ないしII-168ページ、及び裏表紙の写し

3.被請求人の主張する答弁の趣旨
被請求人の主張する答弁の趣旨は、本件特許無効審判の請求は成り立たない、との審決を求めるものであり、無効理由1に対しては、平成23年4月22日付け手続補正書による補正は平成17条の2第3項に規定する要件を満たしたものであり、無効理由2に対しては、本件特許発明1、3ないし5は、甲第6号証記載の発明、甲第7号証記載の事項及び甲第8号証記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない、本件特許発明2は、甲6発明、甲第7号証記載の事項、甲第8号証記載の事項及び甲第9号証記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない、というものである。

(1)無効理由1について
ボールベアリング36及びすべり軸受リング35は共に軸受であり、その基本的機能は摺動支持部33をパイプ50,51に対して摺動可能に支持することである。すなわち、ボールベアリング36及びすべり軸受リング35は、共通の基本機能を備えている。
よって、当初明細書に記載されているボールベアリング36及びすべり軸受リング35をそれぞれ「摺動部材」とすることは何ら不当な上位概念化でなく、これによって当初明細書に記載されていない実施形態が新たに追加されるものでもない。
さらに、すべり軸受リング35のみでなく、ボールベアリング36もパイプ50,51の半径方向への移動を規制する機能を備えている(本件特許公報段落[0061])。したがって、摺動支持部33の、パイプ50,51の半径方向への移動を規制する機能は、すべり軸受リング35とボールベアリング36とを区別する根拠になるものではない。
本件特許の明細書及び図面には、第1のパイプと接触する摺動部材の長さ方向の全領域(第1領域)と第2のパイプと接触する摺動部材の長さ方向の全領域(第2領域)とに差分が設けられ、その差分内に係合部材が配置されている構成が記載されている。そして、上記構成によれば、例えば、第1領域と第2領域とが同じ長さである故にこれら領域内に係合部材を配置することができず、よって、これら領域外に係合部材を配置した場合に比べて摺動支持部の摺動方向の長さが小さくなる。かかる観点においては、それぞれの摺動部材がすべり軸受リングであるか、ボールベアリングであるか、それ以外の第3の摺動部材であるかは本質的事項ではない。
(平成25年9月20日提出の上申書2ページ8行?3ページ4行)

(2)無効理由2について
甲第7号証には、第1のパイプ及び第2のパイプの軸心を含む仮想平面上であって且つ切断刃の側面と平行に第1のパイプを押圧する係合部材は記載も示唆もされていない。すなわち、甲第7号証には、係合部材の第1のパイプに対する押圧方向を規定することによって切断刃の垂直性低下を防止する、との技術的思想は記載も示唆もされていない。
さらに、甲第7号証に接した当業者が、請求人が主張するような事項が甲第7号証に記載されていると理解することを裏付ける合理的根拠は存在しない。
加えて、甲第6号証記載の発明に甲第7号証記載の事項である摺動部の技術を適用すれば、甲第7号証記載の事項である「ロック・ボルト35や取付ネジ33が本件特許発明1における係合部材と同様の位置に配置されることが必然であるとは到底認められない。
(答弁書8ページ12?24行)
乙第1号証及び乙第2号証に示されるように、滑りロック機構のノブが上方ではなく側方に配置された切断機も存在している。しかも、乙第1号証及び乙第2号証に示される米国特許出願の出願人は、甲第7号証に示される米国特許出願の出願人と同一人である。すなわち、滑りロック機構のノブが上方に配置された切断機と、同ノブが側方に配置された切断機の両方が同一人によって出願されている。よって、滑りロック機構のノブを上方に配置することは自然でも必然でもなく、滑りロック機構のノブを上方に配置することが自然であるとする請求人の主張は主観的な主張に過ぎない。
(答弁書9ページ24?32行)
請求人は、本件特許発明2?5は、本件特許発明1に限定を加えたものであるが、それら限定要素は甲第6号証、甲第7号証、甲第8号証又は甲第9号証に記載されている旨の主張をしている。
しかし、上記のとおり、本件特許発明1は各甲号証に記載された発明に基づいて容易に導出されるものでない。よって、本件特許発明1に限定を加えた本件特許発明2?5も各甲号証に記載された発明に基づいて容易に導出されるものではない。
(答弁書9ページ下から4行?10ページ5行)

4.被請求人の証拠方法
証拠方法として、答弁書において、以下の乙第1ないし2号証が提出された。
乙第1号証 米国特許第5,957,021号明細書
乙第2号証 米国特許第6,971,297号明細書

第3 無効理由1についての当審の判断
1.本件当初明細書等の記載
本件特許に係る願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。なお、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面を総称して、「当初明細書等」という。)には、以下のとおり記載されている(甲第2号証)。

「【0030】
図1に示すように、卓上切断機1は具体的には卓上丸鋸であり、図示せぬ四角角柱状の木材である加工部材を支持可能なベース部10と、駆動源である図示せぬモータと切断刃たる丸鋸刃31とを有し図示せぬモータによって回転駆動される丸鋸刃31を回転可能に支持する切断部30と、ベース部10に傾動可能に支持されベース部10の上方で切断部30を揺動可能に支持する支持部材40とを有している。」

「【0042】
より具体的には、支持部材40及び切断部30が右方向に45°傾斜したときストッパ40aがストッパボルト21Cの頭部に当接し、支持部材40及び切断部30が左方向に45°傾斜したときストッパ40bがストッパボルト21Dの頭部に当接するよう設定されている。このように、支持部材40及び切断部30は傾動軸26を中心として、図11、図12に示すように左右に最大45°ずつ傾動可能である。」

「【0047】
支持部材40は、図3に示すように、卓上切断機1の左右方向における中心部から右上方に向かって斜めに延出しており第1保持部をなし、延出端には第1摺動支持部49が設けられている。第1摺動支持部49には、図2、図14、図15等に示すように、前後方向に指向する2つの貫通孔49a、49bが形成されている。貫通孔49a、49bは、図15に示すように、前後方向に垂直な面で切った断面が略円形状をしており、中空のパイプ50、51がそれぞれ合計で2本貫通している。
【0048】
ここで、2本のパイプ50、51の両端は、図14、図18に示すように、一端がそれぞれ後述の第2端部保持部材53によって覆われて保持され他端がそれぞれ第1端部保持部材52によって覆われて保持されることにより略平行に配置されて一対をなし、この一対のパイプ50、51の軸心を含む仮想平面は、図3の左右方向に延出して設けられた後述の切断部30の揺動軸32に対して略直交する位置関係とされている。一対のパイプ50、51の一端側の部分で後述の第2摺動支持部33の貫通孔33a、33bを貫通しており、他端側の部分で第1摺動支持部49の貫通孔49a、49bを貫通している。
【0049】
パイプ50、51の外径はそれぞれ貫通孔49a、49bの内径よりも小さく、一対のパイプ50、51は、それぞれ貫通孔49a、49b内でその軸方向に摺動可能である。貫通孔49a、49bの指向する方向、即ち、パイプ50、51の摺動方向は、後述の揺動軸32に対して略直交する方向に一致している。第1摺動支持部49を貫通しているパイプ50、51の端部側と反対の端部側には、後述のように切断部30が第2摺動支持部33を介してパイプ50、51によって支持されている。一対のパイプ50、51は、スライド部に相当する。
【0050】
換言すれば一対のパイプ50、51は、一端側において切断部30を支持しており、他端側において第1摺動支持部49によって周方向に覆われ摺動可能に支持されて平行に配置されている。貫通孔49a、49bは鉛直上下方向に配置されているため、上述のように、一対のパイプ50、51の軸心を含む仮想平面は後述の切断部30の揺動方向と略平行な位置関係とされている。一対のパイプ50、51が第1摺動支持部49に対して摺動することにより後述の揺動軸32に対して略直交する方向に丸鋸刃31が移動可能である。」

「【0058】
一対のパイプ50、51は、一端側において第2摺動支持部33を介して切断部30を支持している。貫通孔33a、33bは鉛直上下方に配置されているため、一対のパイプ50、51の軸心を含む仮想平面は、丸鋸刃31の揺動方向と略平行な位置関係とされている。一対のパイプ50、51に対して第2摺動支持部33が摺動することにより、揺動軸32に対して略直交する方向に丸鋸刃31が移動可能である。
【0059】
貫通孔33aが形成されている第2摺動支持部33の部分には、図16に示すように、後述の切断部30の揺動軸32に略平行に且つ貫通孔33aの左側からパイプ50の軸心へ向けて貫通孔33cが形成されている。また、第2摺動支持部33の鉛直方向最上部には、鉛直上方から下方へ向けて、即ち、一対のパイプ50、51の軸心を含む仮想平面上において揺動軸32に対して略直交する方向に向けて貫通孔33dが形成されている。
【0060】
貫通孔33c、貫通孔33dにはそれぞれ雌ネジが螺刻されており、貫通孔33dの雌ネジには第2ネジ34が螺合している。第2ネジ34の一端には第2ノブ34Aが設けられており、卓上切断機1の作業者が第2ノブ34Aを回転させることにより、一対のパイプ50、51の軸心を含む仮想平面上において揺動軸32に対して略直交する方向に第2ネジ34を螺進退可能である。第2ノブ34Aが設けられている第2ネジ34の一端に対する他端は、図16に示すように、貫通孔33a内においてパイプ50に当接可能であり、当接した状態でパイプ50を押圧することにより、パイプ50の第2摺動支持部33に対する摺動を規制するようにパイプ50に係合する。貫通孔33dは第2貫通孔に相当する。第2ネジ34は第2係合部材に相当する。
【0061】
貫通孔33a内であって第2摺動支持部33とパイプ50との間には、図16に示すように、すべり軸受リング35が嵌装されている。すべり軸受リング35は、貫通孔33cに螺合するネジ部材35Aによって保持されており、すべり軸受リング35によってパイプ50は貫通孔33a内で貫通孔33aの半径方向に移動不能に構成されている。また、貫通孔33b内の第2摺動支持部33とパイプ51との間には、図16に示すように、ボールベアリング36が嵌装されており、ボールベアリング36はパイプ51の第2摺動支持部33に対する摺動を滑らかにすると共に貫通孔33b内において貫通孔33bの半径方向におけるパイプ50、51の移動を規制する。
【0062】
このように、第2摺動支持部33においては、貫通孔33a、33b内においてパイプ50、51が貫通孔33a、33bの半径方向に移動不能となっており、且つ、第1摺動支持部49においては、貫通孔49b内においてパイプ51が貫通孔49bの半径方向に移動不能となっているのに対して、第1摺動支持部49の貫通孔49a内においてパイプ50が貫通孔49aの半径方向に移動可能となっている。このため、前述のように、第1摺動支持部49のボルト56、56(図15)を回転させて貫通孔49aの半径方向における摺動部材55、55の位置を調整することによって、パイプ50の貫通孔49a内での図15における左右方向の位置を微調整して第2摺動支持部33をパイプ51を支点として傾動させ、ターンテーブル21上面21Aに対する丸鋸刃31の傾動角度を微調整することができるように構成されている。
【0063】
また、第1ネジ54、第2ネジ34によるパイプ50への押圧によって変形するパイプ50の方向を丸鋸刃31の略揺動方向、即ち、揺動軸32に略垂直の方向に一致させることができる。このため、パイプ50が変形することが、ターンテーブル21上面21Aに対する丸鋸刃31の垂直性に影響を与えず、ターンテーブル21上面21Aに対する丸鋸刃31の垂直性の低下を防止することができる。また、第1係合部材、第2係合部材をそれぞれ第1ネジ54、第2ネジ34により構成するようにしたため、第1係合部材、第2係合部材の構成を簡単にすることができる。」

「【0080】
幅の広い加工部材(木材)をターンテーブル21の上面21Aに対して直角に切断する際には、第1端部保持部材52が支持部材40の第1摺動支持部49に当接するまで一対のパイプ50、51を前方へ移動させた後、第1ネジ54の第1ノブ54Aを回転させてパイプ50の第1摺動支持部49に対する摺動を規制する。また、第2ネジ34の第2ノブ34Aを回転させて第2摺動支持部33のパイプ50に対する摺動の規制を解除する。そして、図4に示すように、第2端部保持部材53に当接するまで第2摺動支持部33を一対のパイプ50、51に沿って前方へと移動させる。そして、丸鋸刃31を回転駆動させながら、ハンドル37を押し下げて、切断部30を図示せぬスプリングの付勢力に抗して揺動軸32を中心として図5に示すように下方へと揺動させる。
【0081】
この状態のままハンドル37を握って、切断部30と第2摺動支持部33とをパイプ50、51の軸方向に沿って揺動軸32に垂直に後方へ移動させることにより、幅の狭い加工部材(木材)(当審注:この段落【0081】は、段落【0080】に記載された「幅の広い加工部材(木材)」の加工方法の説明を継している箇所であるため、この「幅の狭い加工部材(木材)」との記載は、「幅の広い加工部材(木材)」の誤記である。)をターンテーブル21の上面21Aに対して直角に切断することができる。そして、加工部材が切断された後にハンドル37を押し下げる力を解除すると、切断部30は、図示せぬスプリングの付勢力によって揺動軸32を中心として上方へと揺動して、ハンドル37を押下げる前の元の位置へと戻る。以後、同様の作業を繰り返すことによって加工部材を次々と連続的に切断することができる。加工部材の角度切り、傾斜切り及び複合切りも同様の要領で行うことができる。」

「【0091】
また、第1摺動支持部49とパイプ51との間、第2摺動支持部33とパイプ51との間には、それぞれボールベアリング57、36が嵌装されていたが、ボールベアリングに限定されない。例えば、ボールベアリングに代えてオイル含浸メタルを用いて、第1摺動支持部に対してパイプを摺動可能としてもよい。」

また、本件願書に最初に添付された図面として、上記「第2 1.(2)」の【図14】、【図16】に加え、以下の【図11】、【図12】がある。


2.当審の判断
本件補正によって、上記「第2 1.(2)」に記載した構成が、本件特許請求の範囲の請求項1で特定される事項として包含されることとなった。
そこで、以下に検討する。

ア.当初明細書等に記載された事項との対比
本件当初明細書においては、「第1の領域」を「第2の領域」より短く形成し、「係合部材」と「第1の領域」が、「仮想平面の方向において第2のパイプと接触する摺動部材の支持部材側の一端と前記支持部材と反対側の他端との間に位置」し、且つ上記「係合部材」は、「第1のパイプと接触する摺動部材の一方の端部に近接する位置で前記前記第1のパイプと係合するように設ける」点について、明記はされていない。
しかし、本件当初明細書の段落【0048】には「一対のパイプ50、51の一端側の部分で後述の第2摺動支持部33の貫通孔33a、33bを貫通しており」と記載され、段落【0061】には「貫通孔33a内であって第2摺動支持部33とパイプ50との間には、図16に示すように、すべり軸受リング35が嵌装されている。(中略)また、貫通孔33b内の第2摺動支持部33とパイプ51との間には、図16に示すように、ボールベアリング36が嵌装されており」と記載されているところ、願書に最初に添付された【図14】には、「第2摺動支持部33」に形成された「貫通孔33a」、「貫通孔33b」をそれぞれ「パイプ50」、「パイプ51」が貫通した断面図が記載されている。そして、「第2摺動支持部33」の「第2端部保持部材53」側端部の「パイプ50」、「パイプ51」とそれぞれと交差する部分には、破線の二重線が記載されており、この二重線のうち、「第2端部保持部材53」側のものは、「第2摺動支持部33」の端部のうち、各「パイプ50」、「パイプ51」の背後に隠れているものを図示していると解することができ、他方の二重線は、「すべり軸受リング35」及び「ボールベアリング36」のそれぞれの端部が、各「パイプ50」、「パイプ51」の背後に隠れているものを図示していると解することができる。そうすると、上記本件当初明細書において明記されていない点については、「第2ネジ34」を係合部材に、「パイプ50」を第1のパイプに、「パイプ51」を第2のパイプに、「すべり軸受けリング35」及び「ボールベアリング36」を摺動部材に置き換えて表現すると、本件特許の願書に最初に添付された【図14】において同様の構成となって示されているということができる。

イ.「摺動部材」について
請求人は、本件補正は、「出願当初明細書に記載されている技術では、パイプ50及びパイプ51に、それぞれ別の機能を果たす摺動部材(すべり軸受けとボールベアリング)を使用した発明が記載されており、実際には、異なる技術的な意味を有する構成部材が使用されているのですが、本件補正により、『摺動部材』として上位概念化され、同じカテゴリーの部材とされ、この差異がかき消されている」(口頭審理陳述要領書、5ページ3?8行)と主張しているから、この点検討する。
願書に最初に添付された【図11】及び【図12】には、「卓上切断機1」が「ベース11」に対して左右に傾動した状態が図示されている。この状態において、二本の「パイプ50、51」の軸心を結ぶ平面も同様に「ベース11」に対して傾斜した状態となり、「切断部30」を「パイプ50、51」に対して支持する「第2摺動支持部33」では、「切断部30」の荷重が「すべり軸受リング35」及び「ボールベアリング36」の双方に対してかかることが、当業者にとって自明である。また、本件当初明細書段落【0061】には、「・・・すべり軸受リング35によってパイプ50は貫通孔33a内で貫通孔33aの半径方向に移動不能に構成されている。・・・ボールベアリング36はパイプ51の第2摺動支持部33に対する摺動を滑らかにすると共に貫通孔33b内において貫通孔33bの半径方向におけるパイプ50、51の移動を規制する。」と記載されているから、「すべり軸受リング35」も「ボールベアリング36」もそれぞれ「パイプ」の半径方向の移動を規制するものである。
そうすると、「すべり軸受リング35」も「ボールベアリング36」も、「第2摺動支持部33」を介して「切断部30」の荷重を支持する機能及び「パイプ」の半径方向の移動を規制する機能の両方を発揮するから、機能の点で両者が相違するとはいえない。さらに、当初明細書には、「また、第1摺動支持部49とパイプ51との間、第2摺動支持部33とパイプ51との間には、それぞれボールベアリング57、36が嵌装されていたが、ボールベアリングに限定されない。・・・」(甲第2号証、段落【0091】)と記載されていて、「ボールベアリング36」を「摺動部材」の一例として挙げていることも記載されている。
したがって、本件当初明細書等の記載からみて、「すべり軸受けリング35」や「ボールベアリング36」を「摺動部材」という上位概念で表現しても、新たな技術的事項を導入することにはならない。

ウ.本件補正の技術的な意義について
請求人は、本件補正の技術的な意義について、被請求人の「第1の領域を第2の領域より短くすると共に、係合部材により第1のパイプを押圧するようにしたため、摺動支持部の摺動方向の寸法を短くすることができ、パイプに対する摺動支持部の摺動量を長くすることができる」(甲第4号証7ページ8?10行)との主張に対し、「パイプ50のベアリングとパイプ51のパイプとの長さの差は、このように、それぞれのベアリングの機能によって生じたものであって、摺動部の長さを短くするという意図のもとに生じたものではありません」(請求書、9ページ19?21行)と主張している。
しかし、上記本件当初明細書段落【0080】、【0081】の記載から、本件特許発明の「卓上切断機」が加工できる木材の幅の広さは、「第2摺動支持部33」が「パイプ50、51」を摺動できる長さによって決まり、その長さは、【図4】のように「第2摺動支持部33」の右端が「第2端部保持部材53」に当接する位置から、【図7】のように「第2摺動支持部33」の左端が「第1摺動支持部49」に当接する位置まで「第2摺動支持部33」が移動できる長さにより制限されること、及び「第2摺動支持部33」の「パイプ50、51」に沿う方向の長さが短いほど、加工できる「幅の広い加工部材(木材)」の幅が広くなり、そのためには、「第2摺動支持部33」が「第1のパイプ(50)」あるいは「第2のパイプ(51)」と接触する部分は、一方が他方に含まれている方が「第2摺動支持部33」の「パイプ50、51」に沿う方向の長さを短くできること、は当業者にとって自明である。
ここで、例えば、甲第6号証の「In both cases of the existing art of sliding compound mitre saws the pivot arm is longer than in the conventional arrangement, to create a deeper “throat depth”, necessary to accommodate the wider lumber for which these saws are intended.」(10ページ7?10行、摺動複合マイターソーの現行技術の両者の場合において、ピボットアームは従来の構成におけるよりも長く、これらののこぎりが意図されるより幅広の木材に対応するために必要な深い「のど深さ」を生じる。)や甲第8号証の「切断幅を増大することを可能とした卓上切断機を提供することを目的とするものである。」(2ページ11?12行)との記載にもあるように、一台の卓上切断機で加工できる木材の幅が大きいほど、当該卓上切断機で対応できる加工寸法が増えるので望ましいことは、技術常識である。

エ.まとめ
上記ア.より、本件補正に係る構成は本件当初明細書等に示されていること、上記イ.より、本件補正に係る「摺動部材」という表現が、「すべり軸受け」や「ボールベアリング」に対して新たな技術的事項を導入するものではないこと、及び上記ウ.より、本件補正に係る構成による技術的意義は、当初明細書等において少なくとも示唆されているということが、それぞれいえる。
よって、平成23年4月22日付け手続補正書による補正は、新たな技術的事項を導入するものではなく、本件当初明細書等に実質的に記載されていたものである。

3.小結
以上のとおり、平成23年4月22日付け手続補正書による補正に係る上記事項は、本件当初明細書等に記載された事項の範囲内であり、本件特許発明は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対して特許されたものということはできず、特許法第123条第1項第1号に該当しない。

第4 無効理由2についての当審の判断
1.各書証の記載事項、各書証記載の発明及び各書証記載の技術的事項
(1)甲第6号証について
ア.甲第6号証の記載
甲第6号証には、「Compact Sliding Compound Mitre Saw」(小型な摺動複合マイターソー)に関し、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、括弧内の日本語は、主に請求人による英和仮訳である(以下、同様)。摘記箇所を示すページ数は、各ページ右上記載の「Page」の数に依った。摘記箇所を示す行数は、空白行及び各ページ最上部にある「Compact Sliding Compound Mitre Saw.」とページ数を記載した行は含まない(空白行を行数に含めない点は、以下同様)。

(ア)「4. A sliding pivot arm mitre saw including fixed slide rail means comprising in combination
a main table defining a base for mounting the saw,
a rotunda defining a round flat top table, mounted to rotate within limits in said base on an axis of rotation square to said flat top, and lockable to said base to prevent rotation,
a pivot arm tower rigidly attached at the bottom end to the back side of said rotunda and having means for the rigid mounting of slide rails at the top end,
two slide rails, rigidly mounted at their backward ends to the top end of said pivot arm tower, arranged in parallel and parallel to said flat top for said rotunda, and oriented towards the front side of said rotunda with their front ends,
a pivot arm carriage slideably disposed on said two slide rails to allow said carriage linear travel only within limits while guided and supported by said slide rails, and having a pivot mount with an axis of rotation parallel to said flat top of the rotunda and square to said slide rails,
a pivot arm, at the back end pivotably engaging said pivot mount on said carriage allowing said pivot arm to rotate within limits in an arc on a plane parallel to said slide rails and square to said flat top of said rotunda, and at the front end having a provision to rotatably mount a circular saw,
a circular saw mounted on said pivot arm to rotate on a plane parallel to said slide rails and parallel to said arc of rotation for said pivot arm, and in line with the axis of rotation for said rotunda,
a drive mounted on said pivot arm to rotate said saw,
a handle rigidly attached to the front end of said pivot arm, to operate the saw,
a fence defining an elongated barrier spanning across the center of said rotunda and rigidly attached at the ends to said main table,
a chop travel limit stop defining a means to limit the arc of said pivot arm rotation,
a slide rail stop to limit said linear travel of said pivot arm carriage,
whereby a sliding pivot arm mitre saw ia provided having elevated rigidly mounted slide rails.」(18ページ27行?20ページ9行)
(4.固定スライドレール手段を含む摺動ピボットアームマイターソーであって、組合せにおいて、のこぎりを取り付けるための基部を画成する主作業台と、丸い平坦上面作業台を画成し、当該平坦上面に直角な回転軸に関して前記基部において限度内で回転するように取り付けられ、回転を防ぐために前記基部に固定可能なロタンダと、
底端で前記ロタンダの後側に剛直に取り付けられ、スライドレールの剛直な取り付けのための手段を頂端に有するピボットアームタワーと、
それぞれの後端で前記ピボットアームタワーの頂端に剛直に取り付けられ、並列かつ前記ロタンダのための前記平坦上面に平行に配置され、それぞれの前端を前記ロタンダの前面側に向けて向けられた2本のスライドレールと、
前記2本のスライドレールに摺動可能に配設され、前記スライドレールによって案内支持される間に当該キャリッジの線形行程を限度内でのみ可能にし、そしてロタンダの前記平坦上面に平行で前記スライドレールに直角な回転軸を備えるピボットマウントを有する、ピボットアームキャリッジと、
後端において前記キャリッジの前記ピボットマウントとピボット式に係合しており前記ピボットアームが前記スライドレールに平行で前記ロタンダの前記平坦上面に直角な平面において円弧状に限度内で回転するのを可能にし、そして丸のこを回転自在に取り付けるための備えを前端に有するピボットアームと、
前記ピボットアームに取り付けられ、前記スライドレールに平行で前記ピボットアームの前記回転の円弧に平行な平面において回転し、そして前記ロタンダの回転軸と同一直線にある丸のこと、
前記ピボットアームに取り付けられ前記のこぎりを回転させる駆動装置と、
前記ピボットアームの前端に剛直に取り付けられのこぎりを操作するためのハンドルと、
前記ロタンダの中心を横切って及ぶ細長いバリアを画成しその両端で前記主作業台に剛直に取り付けられたフェンスと、
前記ピボットアーム回転の円弧を制限する手段を画成する切断行程制限ストップと、
前記ピボットアームキャリッジの前記線形行程を制限するスライドレールストップとを備えており、
それによって、高くされ剛直に取り付けられたスライドレールを有する摺動ピボットアームマイターソーが提供される、摺動ピボットアームマイターソー。)

(イ)「5. A sliding pivot arm mitre saw in accordance with claim 4 wherein said rotunda is provided with a bevel pivot means to rotatably mount said pivot arm tower to the back side of said rotunda and allowing said pivot arm tower to rotate within limits on an axis of rotation which is parallel to said slide rails and in line with the centerplane of said circular saw and in line with said flat top of the rotunda, and including locking means to lock said pivot arm tower rigidly to the rotunda,
whereby a sliding pivot arm compound mitre saw is provided having elevated rigidly mounted slide rails.」(20ページ10?19行)
(5.前記ロタンダは、前記ロタンダの後側に前記ピボットアームタワーを回転自在に取り付け、前記ピボットアームタワーが、前記スライドレールに平行で前記丸のこの中心平面と同一直線にありロタンダの前記平坦上面と同一直線にある回転軸に関して限度内で回転することを可能にするベベルピボット手段を備えており、そして前記ピボットアームタワーをロタンダに剛直に固定するロック手段を含み、
それによって、高くされ剛直に取り付けられたスライドレールを有する摺動ピボットアーム複合マイターソーが提供される、請求項4に記載の摺動ピボットアームマイターソー。)

(ウ)「Less bendingmoment on said bearings avoids stiction, allows smaller shorter bearings, and ensures greater accuracy of the cut, with any play not magnified by an ever longer moment arm as is the case with the existing art in which the saw mechanism is displaced relative to the axial bearings」(7ページ12?16行)
(前記ベアリングでのより少ない曲げモーメントは、スティクションを回避し、より短小なベアリングを可能にし、より高い精度の切断を保証し、あらゆる遊びも、のこぎり機構がアキシャルベアリングに対して変位する現行技術の場合のように、ますます長くなるモーメントアームによって拡大されない。)

(エ)「A "saw" is a circular blade mounted on a rotating shaft, the "arbor", capable of severing, named the "cut", a piece of material in two pieces, the whole piece being the "cut member", The arbor has a gear at one end, which is driven by a pinion gear on the motor; this arrangement is a "direct drive",」(8ページ3?7行)
(「のこぎり」は回転シャフトである「アーバ」に取り付けられ、1片の材料を2つの部片に分断することができ、すなわち指定された「切断」が可能な、円形の刃であり、部片全体は「被切断部材」である。アーバは一端に、モータのピニオンギヤによって駆動される歯車を有し、この構成は「直接駆動」である。)

(オ)「In both cases of the existing art of sliding compound mitre saws the pivot arm is longer than in the conventional arrangement, to create a deeper “throat depth”, necessary to accomodate the wider lumber for which these saws are intended.」(10ページ7?10行)
(摺動複合マイターソーの現行技術の両者の場合において、ピボットアームは従来の構成におけるよりも長く、これらののこぎりが意図されるより幅広の木材に対応するために必要な深い「のど深さ」を生じる。)

(カ)「The main table forms the base of the machine, rotatably-within-limits supporting the rotunda, providing support for the locking means of the rotunda, and having laterally extending “wings” which have upper surfaces flush with the upper surface of the rotunda, providing additional support for the cut member.」(10ページ26行?11ページ2行)
(主作業台は、機械の基部を形成し、ロタンダを限度内で回転自在に支持し、ロタンダの固定手段のための支持を付与し、そしてロタンダの上面と面一の上面を有する側方に拡張する「ウイング」を有し、被切断部材に付加的な支持を付与する。)

(キ)「FIG. 4 is a vertical cross section, taken on the centerplane of the saw, showing the main novel feature of the invention, namely two cantilevered rigidly mounted slide rails attached at their backward ends to a vertical extension of the bevel pivot, the bevel pivot tower, and provided with a pivot arm carriage, slideably mounted on the fixed slide rails, form which the saw unit is suspended via a conventional pivot arm rigidly attached to the gearcase of the direct drive. This embodiment has also many of the advantages of the conventional radial arm saw.」(13ページ1?7行)
(図4は、のこぎりの中心平面で得られる垂直断面図であり、本発明の主要な新規の特徴、すなわち2本の片持ちにされ剛直に取り付けられたスライドレールを図示しており、スライドレールはそれぞれの後端でベベルピボットの垂直拡張部、ベベルピボットタワーに取り付けられ、固定スライドレールに摺動可能に取り付けられたピボットアームキャリッジを備えており、そこからのこぎりユニットが直接駆動の歯車箱に剛直に取り付けられた従来のピボットアームによって垂下されている。この実施形態はまた、従来のラジアルのこ盤の利点の多くを有する。)

(ク)「FIG. 5 is a cross section, of the novel pivot arm carriage having outboard linear axial bearings slideable mounted on fixed cantilvered slide rails, also showing the carriage clearance , in this case 33/4 (当審注:原文は3と4分の3が帯分数で記載されている。)inches, in the 45 degrees bevel position, in phantom outline, all taken on a plane labelled A A in Fig. 4. It is understood that normally dimensional relationships, even if novel, do not affect patentability, but in the case of tools like sliding compound mitre saw, component relationships particularly dimension wise, effect marketability greatly, since compactness is a prime prerequisite for portable tools; portability is the key and any serious protrusions are a detriment. In this invention, the slide rails do not protrude beyond the envelop size required to complete the cut. All figures are drawn to scale and for the identical capacity of 14 inches wide material,」(13ページ8?18行)
(図5は、固定の片持ちにされたスライドレールに摺動可能に取り付けられた機外リニアアキシャルベアリングを有する新規なピボットアームキャリッジの断面図であり、45度のベベル位置においてこの場合3と4分の3インチであるキャリッジクリアランスをファントム輪郭線で示しており、すべて図4においてAAで表記された平面で得られる。通常、寸法関係は、たとえ新規であるとしても、特許性に影響を及ぼさないが、摺動複合マイターソーのような工具の場合、小型さが可搬型工具の主要な必要条件である、すなわち可搬性が鍵であり、あらゆる重大な突出も不利益であるので、特に寸法関係の構成要素の関係は市販可能性に大きく影響を及ぼすことが理解される。この発明において、スライドレールは、切断を完了するために要求される包絡面の大きさを越えて突出しない。全部の図は、縮尺に従って、14インチ幅材料の同一容量について描かれている。)

(ケ)「Turning now to FIG. 4. there is shown a vertical cross section, taken on the centerplane of saw 12, of a preferred embodiment of the invention. Sliding compound mitre saw 10 includes a saw mount 11, a circular saw 12, a rigidly attached (to saw mount 11,) pivot arm 13, a pivot arm pivot 14, a pivot arm carriage 15, slideably mounted on cantilevered forward pointing rigidly attached slide rails 20 via outboard mounted integrally attached linear axial bearings 31, having downward oriented ears to pick up pivot arm pivot 14 in a manner which allows true planar travel within limits for saw 12 only.」(14ページ2?9行)
(ここで図4に注目すれば、本発明の好ましい実施形態ののこぎり12の中心平面で得られる垂直断面図が示されている。摺動複合マイターソー10は、のこぎりマウント11、丸のこ12、(のこぎりマウント11に)剛直に取り付けられたピボットアーム13、ピボットアームピボット14、のこぎり12だけの限度内の真平面行程を可能にする様態でピボットアームピボット14を取り上げる下向きの耳を有する、機外取り付けされた一体取付けリニアアキシャルベアリング31を介して片持ち式の前向きの剛直取付スライドレール20に摺動可能に取り付けられたピボットアームキャリッジ15を含む。)

(コ)「Returning now to Fig. 4 slide rails 20 are press fitted in the top end of pivot arm tower 37, which is approximately symmetrically disposed above bevel pivot ring 38, which may rotate within limits about bevel pivot 16, which has an axis of rotation or long axis which lies on the centerplane of saw 12 as well as lying on the spacial extension of the working surface of the saw.」(14ページ20?25行)
(ここで図4に戻って、スライドレール20はピボットアームタワー37の頂端に圧入されており、ピボットアームタワーは前記ベベルピボットリング38の上方にほぼ対称に配設されており、ベベルピボットリングはベベルピボット16に関して限度内で回転することができ、ベベルピボットはのこぎり12の中心平面ばかりでなくのこぎりの作業面の空間的広がりにも位置する回転軸または長軸を有する。)

(サ)「Pivot arm tower 37 is manually locked rigid to the working surface by tightening screw clamping means 17, which is prevented from being loosened too far by a locknut on pivot 16 as shown. Bevel pivot ring 38 mates with and engages a matching machined planar surface on bevel pivot boss 18, which is rigidly attached to rotunda 21. Said rotunda is a round hat-like structure, with a flat circular top surface, the working surface of the saw for supporting cut member 19, and has an integral clearance channel for saw 12 for all situations, clearance channel 41; circumferential side wall 42 has a machined bottom edge which acts as a planar bearing 23, engaging a matching radial plane surface in main table 24, the base for the machine. Rotunda 21 may rotate within limits about rotunda pivot 22, supported in central pivot boss 45, and is locked to main table 24, after adjustment for mitre, by rotunda lock 25.」(14ページ26行?15ページ2行)
(ピボットアームタワー37はねじクランプ手段17を締めることによって作業面に手動で剛直に固定され、ねじクランプ手段は図示の通りピボット16の止めナットによって過度に遠くまで緩められないようにされている。ベベルピボットリング38は、ロタンダ21に剛直に取り付けられたベベルピボットボス18の対応する機械仕上げプレーナ表面と嵌合し係合する。前記ロタンダは、平坦な円形上面、被切断部材19を支持するためののこぎりの作業面を備える、丸い帽子状構造であり、全部の状況に応じた丸のこ12の一体隙間溝、隙間溝41を有しており、周方向側壁42は、機械の基部である作業台24の対応するラジアルプレーナ表面と係合するプレーナベアリング23として機能する機械仕上げの底端を有する。ロタンダ21は、中心ピボットボス45に支持されたロタンダピボット22に関して限度内で回転することができ、留継ぎのための調整後、ロタンダロック25によって主作業台24に固定される。)

(シ)「Turning now to FIG. 7, there is shown a cross section of the preferred embodiment of the invention, taken on the centerplane of the saw, except for the slide rails and pivot arm carriage, for which a sideview in the same direction as the rest of the drawing is shown. The description and numerals given for Fig. 4 applies, except as follows: slide rails 20 are in a stacked arrangement on the side of circular saw 12 on the opposite side of saw mount 11. This has the advantage over the embodiment of Fig. 4 of allowing saw mount 11 to be raised to any position desired, within limits, and be locked in a raised position by adjusting a screw in chop travel limit stop 35. This makes limited depth cuts simple. Pivot arm 13 is pivotably mounted on an outboard extension of pivot arm carriage 15, which simply comprises a pair of sleeves for mounting linear axial bearings 31, said sleeves connected together by an integral web and having an outboard mount for pivot arm pivot 14, as shown in Fig. 8. In addition to the advantage described above, this embodiment has the advantage of allowing a robust bridge, slide rail end stop 32, to rigidly connect the ends of slide rails 20 together for improved overall rigidity of linear guidance means for carriage 15.」(15ページ36行?16ページ14行)
(ここで図7に注目すれば、のこぎりの中心平面で得られる本発明の好ましい実施形態の断面図がスライドレールおよびピボットアームキャリッジを除いて図示されており、それらについては図面の残りと同じ方向での側面図が図示される。図4に提示された説明および数字が適用されるが、次の点が異なる。すなわち、スライドレール20は、のこぎりマウント11の反対側の丸のこ12の側にスタック構成で存在する。これは、のこぎりマウント11を、限度内でいずれかの所望の位置まで持ち上げ、切断行程制限ストップ35のねじを調整することによって持ち上げ位置に固定することを可能にするという図4の実施形態に優る利点を有する。これは限定された深さの切断を単純にする。ピボットアーム13はピボットアームキャリッジ15の機外拡張部にピボット式に取り付けられており、それは単にリニアアキシャルベアリング31を取り付けるための1対のスリーブよりなり、前記スリーブは一体ウェブによって一緒に連結され、図8に図示の通り、ピボットアームピボット14のための機外マウントを有する。上述の利点に加えて、この実施形態は、頑丈なブリッジ、スライドレール端ストップ32が、キャリッジ15の線形案内手段の向上した全剛性を得るためにスライドレール29の端を一緒に剛直に連結することを可能にするという利点を有する。)

(ス)FIG.5には、ピボットアームキャリッジ15のスライドレール20と直交する方向の断面図が示されており、スライドレール20が中空断面であることが看取できる。また、ピボットアームキャリッジ15にスライドレール20の軸方向に形成された、スライドレール20の外形より大きい内径を有する貫通孔が設けられていて、リニアアキシャルベアリング31を介してスライドレール20が当該貫通孔を貫いている点が看取できる。

(セ)FIG.7?FIG.9には、スライドレール20が直接駆動ユニットの反対側にある実施形態が示されており、2本のスライドレール20の軸心を結ぶ線がのこ刃12の側面に平行であり、かつ、のこ刃12の側面から離れていることが看取できる。また、FIG.9には、ピボットアームタワー37が直接駆動ユニットと反対側に45°傾斜した線がファントム輪郭線で示されている点が看取できる。

イ.甲6発明
上記摘記事項(ア)ないし(シ)、FIG.5、7ないし9の記載並びに認定事項(ス)及び(セ)から、甲第6号証記載の事項を技術常識を考慮して整理すると、甲第6号証には、以下の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されていると認められる。
「被切断部材を支持可能な主作業台24及びロタンダ21と、
丸のこ12を支持するのこぎりマウント11と、
該主作業台24及びロタンダ21上面に対して平行に延びる回転軸を支点として、前記主作業台24及びロタンダ21上面に対して垂直の位置から傾動可能に支持されたピボットアームタワー37と、
該ピボットアームタワー37に支持され、前記主作業台24及びロタンダ21上面と離間し、且つ該主作業台24及びロタンダ21上面と平行な方向に延在する一対のスライドレール20であって、該一対のスライドレール20の軸心を含む仮想平面が、前記該切断刃の側面と平行となるように配置された上側のスライドレール20及び下側のスライドレール20と、
前記上側及び下側のスライドレール20に沿って摺動可能に支持されると共に、前記主作業台24及びロタンダ21の上方でピボットアームピボット14を支点として前記丸のこ12を揺動可能に支持するピボットアームキャリッジ15と、
を備えた小型な摺動複合マイターソーであって、
前記ピボットアームキャリッジ15は、前記上側及び下側のスライドレール20の軸方向に形成され、それぞれ上側及び下側のスライドレール20のパイプの外径より大きい内径を有する上側及び下側の貫通孔と、
前記上側及び前記下側のそれぞれの貫通孔内であって、前記上側の貫通孔の内周面と前記上側のスライドレール20の外周面との間及び前記下側の貫通孔の内周面と前記下側のスライドレール20の外周面との間に前記上側のスライドレール20及び前記下側のスライドレール20のそれぞれと接触するように配置された複数のリニアアキシャルベアリング31とを備え、
た小型な摺動複合マイターソー」

(2)甲第7号証について
ア.甲第7号証の記載
甲第7号証には、「SLIDE MITER SAW」(摺動留め継ぎ用鋸)に関し、図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア)「In accordance with the present invention, an improved miter saw is employed. The miter saw includes a base, a table, a support housing connected to the table, first and second rails slidably connected to the support housing, the first and second rails having different hardness, a trunnion disposed on the first and second rails, a saw assembly pivotally attached to the trunnion and movable between a front position and a rear position, the saw assembly comprising a motor and a blade driven by the motor, a first bearing disposed underneath the first rail, and second and third bearings disposed on the first rail between the support housing and the first rail, one of the first, second and third bearings being biased into contact with the first rail by a first screw, and another of the first, second and third bearings being biased into locking contact with the first rail by a second screw.」(段落[0004])
(本発明に従って、改良型の留め継ぎ用鋸が使用される。留め継ぎ用鋸は、ベース、テーブル、テーブルに連結する支持ハウジング、支持ハウジングに摺動可能に連結する第1および第2のレール(第1および第2のレールは異なる硬度を有する)、第1および第2のレールに配置されるトラニオン、トラニオンに枢支されて、前位置と後位置の間を移動可能な鋸アセンブリ(鋸アセンブリはモーターおよびモーターにより駆動される刃を備える)、第1のレールの下に配置される第1のベアリング、ならびに支持ハウジングと第1のレールの間で第1のレールに配置される第2および第3のベアリングを含み、第1、第2、および第3のベアリングのうちの1つは、第1のネジにより付勢されて第1のレールと接触し、そして第1、第2、および第3のベアリングのうちのもう1つは、第2のネジにより付勢されて第1のレールと係止接触する。)

(イ)「Typically, miter saws have rails 15 having the same hardness. It is however less expensive to use rails having different hardness, as softer rails are less expensive than harder rails. Accordingly, miter saw 10 has a hard rail 15H and a soft rail 15S. Preferably, the hard rail 15H has a hardness between about 58 HRC and about 62 HRC. The soft rail 15S may have a hardness lower than about 58 HRC and preferably below about 50 HRC. In the preferred embodiment, hard rail 15H and soft rail 15S may be made of chrome-plated hardened steel and chrome-plated soft steel, respectively.」(段落[0012])
([0012]通常は、留め継ぎ用鋸は同じ硬度を有するレール15を備えている。しかしながら、より柔らかいレールがより硬いレールより安いので、異なる硬度を有するレールを使用することはより安い。従って、留め継ぎ用鋸10は、堅いレール15Hおよび柔らかいレール15Sを備えている。好ましくは、硬いレール15Hは約58HRC?約62HRCの硬度を有する。柔らかいレール15Sは約58HRCより小さく、好ましくは約50HRC未満の硬度を有することになる。好ましい実施形態において、硬いレール15Hおよび柔らかいレール15Sは、それぞれ、クロム・メッキの硬化鋼およびクロム・メッキの軟鋼でできている。)

(ウ)「Hard rail 15H is slidably connected to support housing 14. A bearing 38 may be disposed between hard rail 15H and support housing 14 to enhance the sliding action of hard rail 15H relative to support housing 14. Preferably, bearing 38 is a recirculating linear ball bearing.
Similarly, soft rail 15S is slidably connected to support housing 14 , and slidably disposed within channel 14 C of support housing 14 . A bearing may be disposed between soft rail 15S and support housing 14 to enhance the sliding action of soft rail 15S relative to support housing 14 . While such bearing may be a recirculating linear ball bearing, it is preferable to use a less expensive alternative.」(段落[0013]?[0014])
(硬いレール15Hは、支持ハウジング14に摺動可能に連結している。ベアリング38は、支持ハウジング14と関連する硬いレール15Hの摺動動作を強化するために、硬いレール15Hと支持ハウジング14の間に配置されることができる。好ましくは、ベアリング38は再循環する線形ボールベアリングである。
同様に、柔らかいレール15Sは支持ハウジング14に摺動可能に連結していて、支持ハウジング14のチャネル14C内に摺動可能に配置される。ベアリングは、支持ハウジング14と関連する柔らかいレール15Sの摺動動作を強化するために、柔らかいレール15Sと支持ハウジング14の間に配置することができる。この種のベアリングは再循環する線形ボールベアリングでもよいが、より安い代替物を使用することが好ましい。)

(エ)「In addition, bearing 34 maybe disposed on soft rail 15S. A lock bolt 35 threadingly engaged to support housing 14 may force bearing 34 against soft rail 15S. Accordingly, if the user wants to lock the rails 15 so that the saw assembly cannot slide relative to table 12, the user need only tighten lock bolt 35. Because lock bolt 35 does not contact soft rail 15S directly, any material can be used for the lock bolt 35 as lock bolt 35 cannot score soft rail 15S. Thus, lock bolt 35 can be made of steel, rather than, e.g., brass. Persons skilled in the art shall recognize that bearing 34 may be disposed underneath soft rail 15S.」(段落[0016])
(加えて、ベアリング34は柔らかいレール15Sに配置されることができる。支持ハウジング14にネジ的に係合するロック・ボルト35は、柔らかいレール15Sに対してベアリング34を押し付けることができる。したがって、鋸アセンブリがテーブル12と関連して摺動することができないように、ユーザがレール15を係止したい場合は、ユーザはロック・ボルト35を締めなければならないだけである。ロック・ボルト35が柔らかいレール15Sと直接接触しないから、ロック・ボルト35が柔らかいレール15Sに切り目をつけることができないので、いかなる材料もロック・ボルト35のために用いることができる。したがって、ロック・ボルト35は、例えば黄銅よりはむしろ鋼でできていることがありえる。当業者は、ベアリング34が柔らかいレール15Sの下に配置されることができると認める。)

(オ)「Similarly, bearing 32 is preferably disposed on soft rail 15S. A set screw 33 threadingly engaged to support housing 14 may force bearing 32 against soft rail 15S (which in turn may force soft rail 15S against bearings 31). Because set screw 33 does not contact soft rail 15S directly, any material can be used for the set screw 33 as set screw 33 cannot score soft rail 15S. Persons skilled in the art shall recognize that bearing 32 may be disposed on a boss instead if at least one bearing 31 is disposed on a set screw.」(段落[0017])
(同様に、ベアリング32は、好ましくは、柔らかいレール15Sに配置される。支持ハウジング14にネジ的に係合する取付ネジ33は、ベアリング32を柔らかいレール15Sに対して押し付けることができる(その結果として柔らかいレール15Sをベアリング31に対して押し付けることができる)。取付ネジ33が柔らかいレール15Sと直接接触しないから、取付ネジ33が柔らかいレール15Sに切り目をつけることができないので、いかなる材料も取付ネジ33のために用いることができる。当業者は、少なくとも1つのベアリング31が取付ネジに配置されている場合は、ベアリング32がその代わりにボスに配置されることができると認める。)

(カ)FIG.2には、支持ハウジング14のレールの軸線と直交する方向の断面図が示されており、硬いレール15Hと支持ハウジング14との間にベアリング38が設けられ、柔らかいレール15Sと支持ハウジング14との間にベアリング32が設けられることが看取できる。

(キ)FIG.3には、支持ハウジング14のレール15Sを含み、15Sの軸線に平行な方向の断面図が示されており、柔らかいレール15Sと支持ハウジング14との間にベアリング32ベアリング34が設けられることが看取できる。

イ.甲7記載事項
上記摘記事項(ア)ないし(オ)並びに認定事項(カ)及び(キ)によれば、甲第7号証には以下の事項(以下、「甲7記載事項」という。)が記載されていると認められる。
「摺動留め次ぎ用鋸において、支持ハウジング14は、第1及び第2のそれぞれの貫通孔内であって、第1の貫通孔の内周面と柔らかいレール15Sの外周面との間及び前記第2の貫通孔の内周面と硬いレール15Hの外周面との間に、柔らかいレール15S及び硬いレール15Hのそれぞれと接触するように配置された複数の摺動部材(31,32,38)とを備え、
鋸アセンブリがテーブル12と関連して摺動することができないように、支持ハウジング14にネジ的に係合するロックボルト35を設け、柔らかいレール15Sに対してベアリング34を押し付けることができるようにした」点。

(3)甲第8号証について
ア.甲第8号証の記載
甲第8号証には、「卓上切断機」に関し、図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア)「2.実用新案登録請求の範囲
1.被切断材料を支持するバイスを設けたベースと、このベースに固定したヒンジと、このヒンジの後端に揺動自在に軸支されたアーム部と、このアーム部に装着され、かつのこ刃を有するモートル部とを備えた卓上切断機において、前記アーム部を、前記ヒンジの後端に揺動自在に軸支したアームと、このアームにスライドシャフトを介して前記アームの長手方向に摺動自在に固定し、かつ前記モートル部を装着したアームホルダとで形成したことを特徴とする卓上切断機。」(1ページ3?14行)

(イ)「このように構成された卓上切断機で本実施例ではアーム部5を、ヒンジ4の後端に揺動自在に軸支したアーム5aと、このアーム5aにスライドシャフト11,12を介してアーム5aの長手方向に摺動自在に固定し、かつモートル部7を装着したアームホルダ5bとで形成した。」(3ページ19行?4ページ4行)

(ウ)「すなわちアームホルダ5bにスライドシャフト11,12を圧着し、アーム5aに摺動可能に嵌合した。すなわちスライドシャフト12の案内溝13にアーム5aに埋設したピン14を係合させた。そしてアーム5aに設けたノブ15でスライドシャフト11を固定した。このようにすることにより卓上切断機は次に述べるように動作することができる。ベース3上面の被切断材料1を、ハンドル10を下げのこ刃6で切断する場合に、ノブ15を緩めハンドル10を手前に引きのこ刃6を手前に連動させる。次いでハンドル10を下降させ被切断材料1に切込みを加え、下限位置に当接したらハンドル10を押込み、のこ刃6を後側へ連動させ乍ら切断を行なうことができる。」(4ページ12行?5ページ5行)

(エ)「なお一般の切断作業時にはハンドル10を押し込んだ状態でノブ15でスライドシャフト11を締結し、切断作業を行なうことができる。」(5ページ12?14行)

(オ)第1図及び第3図には、それぞれ、「本考案の卓上切断機の一実施例の側面図」及び「本考案の卓上切断機の一実施例の切断状態を示す側面図」が示されており、アーム5aに形成された2つの穴内にそれぞれスライドシャフト11,12が上下に摺動自在に挿入されたものが示されており、アーム5aに形成された、上方からアーム5aに形成された孔を介してスライドシャフト11,12に対して上側からノブ15によりスライドシャフト11を固定する点が看取できる。

イ.甲8記載事項
上記摘記事項(ア)ないし(エ)及び認定事項(オ)によれば、甲第8号証には、以下の事項(以下、「甲8記載事項」という。)が記載されていると認められる。
「卓上切断機において、アーム5aに対して摺動自在に上下に配設された二本のスライドシャフト11,12を備えたものにおいて、上方のスライドシャフト11に対して、上方からアーム5aに形成された孔を介してスライドシャフト11、12に対して上側からノブ15によりスライドシャフト11を固定するものにおいて、切断する際には、ノブ15を緩める」点。

(4)甲第9号証について
ア.甲第9号証の記載
甲第9号証には、「左右傾斜式鋸装置」に関し、図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア)「【従来の技術】従来の左右傾斜式鋸装置については、実開平5-49301号公報及び特開平6-71602号公報等に、その構造が開示されている。このうち、特開平6-71602号公報に記載されている左右傾斜式鋸装置を図1乃至図3に示す。これらの図において、支持部材4には、被切削材を支持するための支持面4aが形成されている。また、揺動アーム6は、支持部材4に対して左右方向に、すなわち図3に示す矢印L,R方向に揺動可能に構成されている。さらに、鋸刃12は上下揺動部材10とスライドバー8を介して、揺動アーム6に取り付けられている。この鋸刃12の刃面は、揺動アーム6の揺動に追従して傾斜する。図2と図3に示すモータ14は、鋸刃12を駆動する駆動源である。」(段落【0002】)

(イ)「なお、図1乃至図3において、支持部材4はベース2に対して回動可能なターンテーブルとなっているが、支持部材4が固定されているタイプも存在する。また、図に示す鋸刃12と揺動アーム6の間にはスライドバー8と上下揺動部材10が介装されているが、スライドバー8がなくて揺動アーム6に上下揺動部材10が取り付けられているタイプや、上下揺動部材10がなくてスライドバー8に鋸刃12が取り付けられているタイプも存在する。さらには、揺動アーム6に直接鋸刃12が取り付けられることもある。最後のタイプでは被切削材が支持面上を送られる。
いずれのタイプにせよ、左右傾斜式鋸装置は、図3に示すように、揺動アーム6の揺動に追従して、鋸刃12が図面左側に傾斜させる左傾斜角12L、支持面4aに直交する中立角12C及び図面右側に傾斜させる右傾斜角12Rの間で相互に揺動可能となっている。」(段落【0003】?【0004】)

(ウ)「【課題を解決するための第1の手段】請求項1に記載された発明は、被切削材を支持するための支持面が形成されている支持部材と、その支持部材に対して左右方向に揺動可能な揺動アームと、その揺動アームの揺動に追従して左右方向に傾斜可能な鋸刃と、その鋸刃を駆動する駆動源とを備えた左右傾斜式鋸装置において、前記支持部材には、前記鋸刃の左揺動限界角と右揺動限界角を規制する一対の左右ストッパと、前記鋸刃を前記支持面に直交する角に規制する中立ストッパとの三つのストッパが形成されており、前記揺動アームには、弾性力によって所定の方向に付勢されている一つの操作ピンが備えられており、その操作ピンは前記弾性力によって付勢された状態にあるときには前記三つのストッパに当接し、付勢されている方向に抗して前記操作ピンを移動させる操作を行うときには前記中立ストッパとの当接が回避される構成とする。」(段落【0007】)

(エ)「【実施例】以下、本発明の一実施例を図面に基づいて説明する。まず、第1の実施例について説明する。第1の実施例における全体構成は、図1乃至図3に示した左右傾斜式鋸装置とほぼ同様である。すなわち、支持部材4としてターンテーブルが用いられており、揺動アーム6と鋸刃12の間にスライドバー8と上動揺動部材10が介装されている。ただし、図1乃至図3に示した左右傾斜式鋸装置と異なるのは、次の二点である。すなわち、図4に示すように、ばねによって奥行き方向(図4において、図面右方向)に付勢されている操作ピン52が揺動アーム6に設けられている。さらに、詳細は後述するが、鋸刃12を支持面に対して所定の揺動角(例えば、ターンテーブルの水平面に対して90度,±45度等の角度)に調整する複数のストッパが支持部材4に設けられている。」(段落【0013】)

(オ)「次に、支持部材4と揺動アーム6のリンク構造について、図5を参照しつつ説明する。図5において、支持部材4の後端部4eに、揺動中心となるシャフト34が片持ち状に固定されている。また、支持部材4の後端部4eにはシャフト34を取り巻く円筒状の壁部4cが形成されており、壁部4cの後端面にシャフト34と同心の円周状ガイド面4bが形成されている。この円周状ガイド面4bには円周状の被ガイド面6aが摺接して形成されている。そして、揺動アーム6の基部と支持部材4の壁部4cには、シャフト34に挿入されるボス6c,4dがそれぞれ形成されている。このように形成された部材によって、揺動アーム6はシャフト34を揺動中心として揺動可能となっている。
シャフト34の端部にはネジ26が形成されており、このネジ26にワッシャ28を介してナット24が螺合している。また、ナット24はネジ50でハンドル20の軸部22に回り止めされている。ここで、ハンドル20を一方向に回転させると、ナット24が図面右方向に前進する。このナット24の前進によってワッシャ28が揺動アーム6の後面に圧接され、最終的には被ガイド面6aが円周状ガイド面4bと圧接することになる。このため、支持部材4に対する揺動アーム6の位置を固定させることが可能になっている。一方、ハンドル20を逆方向に回転させると、被ガイド面6aと円周状ガイド面4bの圧接状態が緩和されるので、再び揺動アーム6は揺動可能になる。」(段落【0014】?【0015】)

(カ)図3には、従来の左右傾斜装置の正面図が示されており、揺動部材10に取り付けられた鋸刃12をべベルギヤを介してモータ14で駆動する点が看取できる。

イ.甲9記載事項
上記摘記事項(ア)ないし(オ)及び認定事項(カ)によれば、甲第9号証には、以下の事項(以下、「甲9記載事項」という。)が記載されていると認められる。
「支持部材4としてターンテーブルが用いられており、揺動アーム6と鋸刃12の間にスライドバー8と上部揺動部材10が介装された左右傾斜式鋸装置において、丸鋸刃を両方向に45°まで傾動可能とした」点。

2.本件特許発明1について
(1)対比
甲6発明の「被切断材料」、「主作業台24及びロタンダ21」、「丸のこ12」、「のこぎりマウント11」、「ピボットアームキャリッジ15」、「ピボットアームピボット14」、「ピボットアームタワー37」、「回転軸」、「上側のスライドレール20」、「下側のスライドレール20」、「リニアアキシャルベアリング31」及び「小型な摺動複合マイターソー」は、それぞれ本件特許発明1の「加工部材」、「ベース部」、「切断刃」、「切断部」、「摺動支持部」、「揺動軸」、「支持部材」、「傾動軸」、「第1のパイプ」、「第2のパイプ」、「摺動部材」及び「小型な摺動複合マイターソー」に相当する。
また、刊行物1のピボットアームキャリッジ15は、リニアアキシャルベアリング31を介して、前記2本のスライドレール20に摺動可能に取り付けられているから、ピボットアームキャリッジには、スライドレール20の外形よりも大きい内径の貫通孔が形成されることになる。
したがって、本件特許発明1と甲6発明とは、以下の点で一致し、かつ相違する。

<一致点>
「A-1.加工部材を支持可能なベース部と、
A-2.切断刃を支持する切断部と、
A-3.該ベース部上面に対して平行に延びる傾動軸を支点として、前記ベース部上面に対して垂直の位置から傾動可能に支持された支持部材と、
A-4.該支持部材に支持され、前記ベース部上面と離間し、且つ該ベース面上面と平行な方向に延在する一対のパイプであって、該一対のパイプの軸心を含む仮想平面が、前記該切断刃の側面と平行となるように配置された第1のパイプ及び第2のパイプと、
A-5.前記第1及び第2のパイプに沿って摺動可能に支持されると共に、前記ベース部の上方で揺動軸を支点として前記切断部を揺動可能に支持する摺動支持部と、
を備えた卓上切断機であって、
B´.前記摺動支持部は、前記第1及び第2のパイプの軸方向に形成され、それぞれ第1及び第2のパイプの外径より大きい内径を有する第1及び第2の貫通孔と、有すると共に、
D.前記第1及び前記第2のそれぞれの貫通孔内であって、前記第1の貫通孔の内周面と前記第1のパイプの外周面との間及び前記第2の貫通孔の内周面と前記第2のパイプの外周面との間に前記第1のパイプ及び前記第2のパイプのそれぞれと接触するように配置された複数の摺動部材とを備えた卓上切断機。」である点。

<相違点1>
本件特許発明1が、第1の貫通孔に開口し、第1の貫通孔と直交する方向に形成された第3の貫通孔を有し、該第3の貫通孔に螺合し、一対のパイプの軸心を含む仮想平面の方向に第1のパイプを押圧するように設けられた係合部材を有し、支持部材の傾動角度にかかわらず前記係合部材による押圧方向が前記仮想平面上であって且つ切断刃の側面と平行となるようにしたものであるのに対し、甲6発明はこのような係合部材を備えていない点。

<相違点2>
本件特許発明1が、第1のパイプと接触する摺動部材の長さ方向の全領域を第1の領域、第2のパイプと接触する前記摺動部材の長さ方向の全領域を第2の領域としたときに、前記第1の領域は前記第2の領域より短く形成され、係合部材及び前記第1の領域は、前記仮想平面の方向において前記第2のパイプと接触する前記摺動部材の支持部材側の一端と前記支持部材と反対側の他端との間に位置し、且つ前記係合部材は、前記第1のパイプと接触する前記摺動部材の一方の端部に近接する位置で前記第1のパイプと係合するように設けたものであるのに対し、甲6発明が、そのような構成を備えていない点。

(2)判断
ア.<相違点1>について
甲第6号証の上記摘記事項(ク)には、
「but in the case of tools like sliding compound mitre saw, component relationships particularly dimension wise, effect marketability greatly, since compactness is a prime prerequisite for portable tools; portability is the key and any serious protrusions are a detriment.」(13ページ13?16行)
(摺動複合マイターソーのような工具の場合、小型さが可搬型工具の主要な必要条件である、すなわち可搬性が鍵であり、あらゆる重大な突出も不利益であるので、特に寸法関係の構成要素の関係は市販可能性に大きく影響を及ぼすことが理解される。)
と記載されていて、甲第6号証には可搬性を具備せしめることが示唆されている。そして、搬送中に、甲6発明の「スライドレール20」に対して摺動する「ピボットアームキャリッジ15」や、「ピボットアームピボット14」を中心に回動する「ピボットアーム13」等が意図しない動きをすることが不都合なことは、機械設計技術において当然考慮することであるから、甲6発明に具備させる可搬性の構造に、上記意図しない動きを防止する固定手段を設けることは、甲6発明に内在する課題である。
それに対して、甲6発明の「スライドレール20」のような他部材と摺動する長尺部材を固定するのに、他部材に孔を開けて当該孔を通して長尺部材を押圧するものを用いる手段としては、甲8記載事項の「ノブ15」がある。甲8記載事項の「ノブ15」は、二本上下にかつ平行に配置された「スライドシャフト11」、「スライドシャフト12」のうち、上側の「スライドシャフト11」を「締結」すべく「スライドシャフト11」の上方から押圧するものである。
甲第8号証の第1図及び第3図はいずれも側面図ではあるが、「ノブ15」は、その上面が見えない水平な形で記載されており、「スライドシャフト11,12」に対して垂直方向の上方から押圧する形で図示されている。そして、卓上切断機において、甲6発明に示されたような、2本のパイプの軸心を結ぶ平面が鉛直になるような構造は、例示するまでもなく従来周知の事項である上、「スライドシャフト11」と「スライドシャフト12」が正面から見て左右にずれていることを示唆する記載もない。
そうすると、甲8記載事項について、当業者であれば、「ノブ15」は、「スライドシャフト11」と「スライドシャフト12」の軸心を結ぶ仮想平面上を通っており、上方から「スライドシャフト11」を押圧すると理解すると認められる。
そして、甲6発明も甲8記載事項も、揺動軸を支点として揺動可能な切断部を有し、かつ、上下に平行に配置された2本のパイプを用いることで切断部を摺動可能とする卓上切断機に関するものであって、いずれも切断幅を増大して幅広の木材に対応するものである。また、甲8記載事項で開示されている技術は、摺動する切断部を固定することを可能にするものであるところ、切断部が摺動する構造において切断部を摺動しないように固定することは、切断作業の態様を増やすという利点があること(摺動せずに切断部の上下の揺動のみで切断することができる。)、搬送時などに切断部が意図せず動くことを防止する必要があることなどからすると、甲6発明を含めた切断部が摺動する構造を有する卓上切断機において、切断部を固定することは、共通の内在する課題であると認められる。
したがって、甲6発明に甲8記載事項を適用し、その際、甲8記載事項の「ノブ15」の押圧方向を、甲6発明の二本の「スライドレール20」の軸心を結ぶ平面上とすることで、相違点1に係る構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たものと認められる。

イ.<相違点2>について
甲第6号証の上記摘記事項(ウ)には、以下のとおり記載されている。
「Less bendingmoment on said bearings avoids stiction, allows smaller shorter bearings,」(7ページ12?13行)
(前記ベアリングでのより少ない曲げモーメントは、スティクションを回避し、より短小なベアリングを可能にし、)
また、甲第6号証の上記摘記事項(オ)には、以下のとおり記載されている。
「In both cases of the existing art of sliding compound mitre saws the pivot arm is longer than in the conventional arrangement, to create a deeper “throat depth”, necessary to accommodate the wider lumber for which these saws are intended.」(10ページ7?10行)
(摺動複合マイターソーの現行技術の両者の場合において、ピボットアームは従来の構成におけるよりも長く、これらののこぎりが意図されるより幅広の木材に対応するために必要な深い「のど深さ」を生じる。)
ここで、甲6発明において「ベアリング」すなわち「リニアアキシャルベアリング31」は、「ピボットアームキャリッジ15」に備えられたものであること、そして、「より幅広の木材に対応する」ためには、上記「第3 2.」で検討したとおり、「ピボットアームキャリッジ15」の「スライドレール20」に沿う長さを短くした方が良いこと、を考え合わせると、上記記載から、甲6発明の上側及び下側二本の「スライドレール20」に摺動可能に取り付けられた「ピボットアームキャリッジ15」において、「スライドレール20」に沿う長さを短くすることの動機が甲6発明には存在するといえる。そのためには、上側及び下側の「スライドレール20」のうち、「ピボットアームキャリッジ15」の「貫通孔」を貫いている部分の両端部について、貫いている部分の長さが短い方の両端部を、長い方の両端部の間に位置させることが、上記動機に適う配置であることは当業者にとって自明である。
また、甲6発明の「スライドレール20」のような他部材と摺動する長尺部材を固定するに際して、他部材に孔を開けて当該孔を通して長尺部材を押圧するものを用いることは、甲7記載事項の「ロック・ボルト35」や甲8記載事項の「ノブ15」がある。甲7記載事項の「ロック・ボルト35」は、「ハウジング14にネジ的に係合」すなわち螺合するものである。甲8記載事項の「ノブ15」は、二本鉛直方向に配置された「シャフト11」、「シャフト12」のうち、上側の「シャフト11」を「締結」すべく「シャフト11」の上方から押圧するものである。
そして、甲6発明において、「スライドレール20」を固定するための構成として、鉛直平行に配列された二本の「スライドレール20」のうち、「上側のスライドレール20」を押圧すべく、上方から「上側の貫通孔」に向けて「ピボットアームキャリッジ15」に「第3の貫通孔」を設けて、「上側のスライドレール20」と係合する部材を設けることは、上記ア.の甲6発明に内在する課題を解決しようとして、上記甲7、8記載事項を適用したに過ぎない。
その際に、「上側のスライドレール20」と接触する「リニアアキシャルベアリング31」の長さ方向の全領域を第1の領域、下側の「スライドレール20」と接する「リニアアキシャルベアリング31」の長さ方向の全領域を第2の領域としたときに、第1の領域は第2の領域より短く形成され、前記上側の「スライドレール20」を押圧するもの及び第1の領域は、甲6発明の仮想平面の方向において、前記下側の「スライドレール20」を接触する前記「リニアアキシャルベアリング31」の前記上側の「スライドレール20」を押圧する側の一端と前記上側の「スライドレール20」を押圧するものと反対側の他端との間に位置し、且つ前記上側「スライドレール20」を押圧するものは、前記上側の「スライドレール20」と接触する前記「リニアアキシャルベアリング31」の一方の端部に近接する位置で前記上側の「スライドレール20」と係合するように設けることは、上記甲6発明の「ピボットアームキャリッジ15」の「スライドレール20」に沿う長さを短くすることの動機と上記当該動機に適う配置を意識して、当業者が容易に採用し得たものであるに過ぎない。

ウ.効果について
本件特許発明1によってもたらされる効果も、甲6発明並びに甲7記載事項及び甲8記載事項から、当業者であれば予測できる程度のものであって、格別のものではない。

(3)本件特許発明1についてのまとめ
したがって、本件特許発明1は、甲6発明並びに甲7記載事項及び甲8記載事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

3.本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1にさらに、「H.前記支持部材は前記切断刃の軸方向と直交すると共に、前記ベース部上面に対して平行に延びる傾動軸を支点として、前記ベース部上面に対して垂直な位置から両方向に45°傾動可能に支持されている」という発明特定事項を付加したものである。
しかし、甲9記載事項には、支持部材であるターンテーブル上面に対して、丸鋸刃を垂直な位置から左右両方向に45°まで傾動可能としたものが示されており、当業者であれば、甲6発明に甲9記載事項を適用して上記発明特定事項のように構成することも容易である。
したがって、本件特許発明2は、甲6発明及び甲7記載事項ないし甲9記載事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

4.本件特許発明3について
本件特許発明3は、本件特許発明1又は2にさらに、「I.該ベース部は、ベースとターンテーブルとを備え、該ターンテーブルは該ベース上に支持され、該ターンテーブルは、該ベースに対して回動可能であり、該ターンテーブルの上面と該ベースの上面とは面一でありそれぞれ該ベース部の上面をなして該加工部材を支持し、該支持部材は該ターンテーブルに傾動可能に支持されている」という発明特定事項を付加したものである。
しかし、甲6発明の「ロタンダ21」は、本件特許発明3の「ターンテーブル」に相当するものである。
したがって、本件特許発明3は、甲6発明及び甲7記載事項ないし甲9記載事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

5.本件特許発明4について
本件特許発明4は、本件特許発明1又は2にさらに、「J.該係合部材は、ネジと該ネジの一端に設けられたノブとを有し、該ネジが該第3の貫通孔に螺合し、該ネジの他端が、該仮想平面上において前記切断刃の側面と平行な方向に該第1のパイプを押圧して該第1のパイプの摺動を規制する」という発明特定事項を付加したものである。
しかし、甲7記載事項の「ロックボルト35」は、本件特許発明4の「係合部材」に相当するものである。
したがって、本件特許発明4は、甲6発明及び甲7記載事項ないし甲9記載事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

6.本件特許発明5について
本件特許発明5は、本件特許発明1又は2にさらに、「K.該係合部材は、該第1のパイプの部分に係合可能であり、該係合により、該摺動支持部材を該第1のパイプにおける任意の部分に固定可能である」という発明特定事項を付加したものである。
しかし、上記5.で述べたのと同様、甲7記載事項の「ロックボルト35」は、本件特許発明5の「係合部材」に相当するものである。
したがって、本件特許発明5は、甲6発明及び甲7記載事項ないし甲9記載事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明1ないし5についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-07-21 
結審通知日 2015-07-23 
審決日 2015-08-04 
出願番号 特願2005-12609(P2005-12609)
審決分類 P 1 113・ 561- Z (B27B)
P 1 113・ 121- Z (B27B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 ▲高▼辻 将人  
特許庁審判長 平岩 正一
特許庁審判官 栗田 雅弘
三澤 哲也
登録日 2011-06-10 
登録番号 特許第4759276号(P4759276)
発明の名称 卓上切断機  
代理人 青山 仁  
代理人 小林 武  
代理人 小塚 善高  
代理人 筒井 大和  
代理人 筒井 章子  

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