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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C22B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C22B
管理番号 1305782
審判番号 不服2014-7505  
総通号数 191 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-04-23 
確定日 2015-09-16 
事件の表示 特願2010-538807「銅精鉱の精錬方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 6月25日国際公開、WO2009/077651、平成23年 3月 3日国内公表、特表2011-506777〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、2008年12月15日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2007年12月17日,フィンランド)を国際出願日とする出願であって、平成25年7月25日付けで拒絶理由通知がなされ、同年11月25日付けで意見書および手続補正書が提出され、同年12月19日付けで拒絶査定がなされ、平成26年4月23日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2.平成26年4月23日付けの手続補正についての補正却下の決定。
<結論>
平成26年4月23日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

<理由>
1.補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を下記のとおりに補正するものである。

「【請求項1】
-銅精鉱、フラックスおよび反応ガスを懸濁溶解炉の反応シャフト、例えば自溶炉の反応シャフトに一緒に投入し、
前記懸濁溶解炉に、異なる相、すなわち粗銅およびスラグが形成される銅精鉱の精錬方法において、該方法は、
-該懸濁溶解炉から出たスラグを電気炉に案内し、
-該懸濁溶解炉から出たスラグを該電気炉で還元剤を使用して処理することで、該電気炉に異なる相、すなわち金属かすおよび廃棄スラグが形成され、
-該電気炉の金属かすを前記廃棄スラグから分離して該電気炉から除去し、
-該電気炉の金属かすを粒状化して、微粒電気炉金属かすを得て、
-微粒電気炉金属かすを前記懸濁溶解炉の反応シャフトに供給することを特徴とする銅精鉱の精錬方法。」(下線部が、補正箇所である。)

2.補正の適否
(1)補正の目的
上記補正は、金属かすの該電気炉からの除去が、「前記廃棄スラグから分離して」行われることを限定するものであって、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

(2)独立特許要件
(2-1)引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本出願の優先日前に日本国内において頒布された特開昭61-221338号公報(以下、「引用刊行物」という。)には、以下の事項が記載されている。

(a)「2.特許請求の範囲
1.石灰質フラックスおよび硫化物状銅鉱石精鉱を境界空間に仕込み、そして前記鉱石精鉱をその中で冷却剤の存在下において酸素含有ガスで自溶的に燃焼し、それによって仕込材料の本質上すべての鉄およびシリカを含有する石灰ベーススラグと、硫黄約1.5%までを含有する溶融銅金属と、二酸化硫黄を含有するオフガスとを与えることを特徴とする、セミブリスタ銅と少なくとも同程度に銅に富んだ鉄を含まない金属銅製品の製造法。
・・・
3.前記境界空間が、フラッシュ炉である、特許請求の範囲第1項に記載の方法。」(第1頁左下欄第4行-右下欄第1行)

(b)「本発明に従って処理される銅鉱石精鉱は、黄銅鉱(CuFeS_(2))精鉱、・・・を包含する。」(第3頁左下欄第5-8行)

(c)「本発明は、供給材料の硫黄含量および鉄含量(もしあったら)が炉温を維持しかつ反応を実施するのに必要な熱を与えるための燃料の主要源を構成する如何なる種類のファーネシング(furnacing)にも適用可能である。好適炉の例は、・・・シャフト炉などを包含する。」(第3頁左下欄下第3行-右下欄第4行)

(d)「本発明の方法で特に有用な石灰質フラックスは、石灰、・・・、石灰石である。」(第3頁右下欄8-9行)

(e)「 発明の特定の説明
本発明の最も有利な面は、図面と一緒に更に詳細に説明される。今や図面を参照すると、銅約28%?30%を含有する黄銅鉱精鉱は、2つの部分に分割される。X%精鉱11と示される第一部分は、流動床焙焼炉13において850℃?1000℃で単独に焙焼されて主としてCuFe_(2)O_(4)からなる酸化物状か焼物14(審決注;外字のため、「か」で表記した。以下、同様。)およびSO_(2)含有オフガス17を生成するか、石灰石15の存在下で焙焼されてCuFe_(2)O_(4)、CaSO_(4)およびCaOを含有するか焼物14および二酸化炭素オフガス17を生成する。
(100-X)%精鉱19と示される黄銅鉱精鉱の他の部分は、スラグ精鉱21およびスラッジ23と一緒に流動床乾燥機25に導入される。流動床乾燥機25の生成物27は、か焼物14および石灰または石灰石31と一緒にフラッシュ炉29に燃焼酸素30と一緒に給送される。」(第4頁右下欄第8行-第5頁左上欄第4行)

(f)「フラッシュ炉29は、3種の主生成物、即ち銅金属33、スラグ35およびオフガス37を有する。銅金属33は、有利にはセミブリスタ等級に維持される。・・・その後、銅金属生成物33は、通常の転化または仕上操作39に付されて、電気精錬に好適な陽極銅41を生成する。」(第5頁左上欄下第3行-右上欄第5行)

(g)「冷却時にフラッシュ炉29の生成物としての溶融スラグ35は、スラグ35の第二鉄対第一鉄比が余りに高くないならば、自己還元するであろう(銅に関して)。銅のこの自己還元は、次の反応
Cu_(2)O+3FeO→2Cu+Fe_(3)O_(4)
を使用する。スラグ35の第二鉄対第一鉄モル比が、約3を超えるならば、スラグ35の銅含量は、高く、例えば約12%よりも多いであろうし、そしてこの銅含量のかなりの部分は、冷却時に酸化物状銅であろうし、かつ酸化物状銅として残るであろう。一方、スラグ35の第二鉄対第一鉄モル比が約2であるならば、スラグ35の銅含量が、10%未満であるらしく、そして冷却時に、この銅含量の大部分、例えば90%は、元素状であろう。図面に図示のように、スラグ35は、Fe^(3+)/Fe^(2+)が余りに高いならば、還元操作45に付され得る。この還元操作は、還元剤の部分燃焼を与えるために空気注入とともに有効炭素質ガス状、液状または固体状還元剤を包含するスラグ発煙(fuming)操作であることができる。スラグ発煙の生成物は、粗銅金属47、若干の鉄および本質上銅を含まないスラグである。粗銅金属は、フラッシュ炉29に再循環される。・・・
スラグ35が、冷たくかつ浮選に好適なフラグメント化状態にあるならば、通常のテクノロジーにより浮選ユニット49において浮選されてスラグ精鉱21および尾鉱51を与える。次いで、主として銅金属からなるスラグ精鉱21(硫化銅有無)は、流動床乾燥機25を通してフラッシュ炉29に戻される。
図中、スラグ35と浮選ユニット49との間には操作「フラグメント化」53が示されている。通常のテクノロジーにおけるように、フラグメント化53は、炉選供給材料を与えるために破砕しかつ粉砕する通常の工程を包含できる。」(第5頁右上欄下第2行-右下欄末行)

(h)図面には、精鉱11のか焼物14、石灰石または石灰31、O_(2)30がフラッシュ炉29に給送され、フラッシュ炉29の生成物としてのスラグ35は、還元操作45に付され、その生成物である粗銅金属47は、フラグメント化53されることが示されている。

(2-2)引用刊行物記載の発明
引用刊行物には、上記記載事項(a)、(c)および技術常識によれば、フラッシュ炉すなわち自溶炉による、硫化物状銅鉱石精鉱の精錬方法であって、該自溶炉は、シャフト炉すなわち反応シャフトを有するものであることが記載されている。
また、同(b)、(d)-(g)によれば、銅鉱石精鉱として黄銅鉱精鉱か焼物14、石灰質フラックスとして石灰または石灰石31、および燃焼酸素30を、自溶炉の反応シャフトに一緒に給送し、自溶炉には、銅金属33およびスラグ35が形成され、該自溶炉から出たスラグ35は、通常のスラグ発煙(fuming)操作のような還元剤による還元操作45に付されることにより、粗銅金属47、若干の鉄および本質上銅を含まないスラグが生成され、粗銅金属は還元操作45から除去され、自溶炉の反応シャフトに再循環されることが記載されているといえる。
そして、同(g)、(h)によれば、粗銅金属47はフラグメント化に付され、これによって粉砕された粗銅金属が形成されるものである。

上記検討事項によれば、引用刊行物には、
「銅鉱石精鉱、石灰質フラックスおよび燃焼酸素を自溶炉の反応シャフトに一緒に投入し、
前記自溶炉に、銅金属およびスラグが形成される銅精鉱の精錬方法において、該方法は、
-該自溶炉から出たスラグを還元剤による還元操作に付すことで、粗銅金属、若干の鉄および本質上銅を含まないスラグが生成され、
-該粗銅金属を除去し、
-該粗銅金属をフラグメント化して、
-粉砕された粗銅金属を前記自溶炉の反応シャフトに供給することを特徴とする銅鉱石精鉱の精錬方法。」(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(2-3)対比・判断
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「銅鉱石精鉱」、「燃焼酸素」、「銅金属」、「粗銅金属」、「若干の鉄および本質上銅を含まないスラグ」、「フラグメント化」は、それぞれ、本願補正発明の「銅精鉱」、「反応ガス」、「粗銅」、「金属かす」、「廃棄スラグ」、「粒状化」に相当する。
また、本願補正発明における「金属かす」を粒状化して得られた「微粒金属かす」については、本願明細書の記載を見てもその粒径に関する記載は特にないことから、引用発明における「フラグメント化」によって得られた「粉砕された粗銅金属」に相当する。
そして、本願補正発明における「電気炉で還元剤を使用して処理」とは、引用発明における「還元剤による還元操作」と「還元剤を使用して還元処理する」点で共通する。

よって、両者は、
「銅精鉱、フラックスおよび反応ガスを自溶炉の反応シャフトに一緒に投入し、
前記自溶炉に、粗銅およびスラグが形成される銅精鉱の精錬方法において、該方法は、
-該自溶炉から出たスラグを還元剤を使用して還元処理することで、金属かすおよび廃棄スラグが形成され、
-該金属かすを粒状化して、微粒金属かすを得て、
-微粒金属かすを前記自溶炉の反応シャフトに供給することを特徴とする銅精鉱の精錬方法。」 である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)
本願補正発明では、懸濁溶解炉(自溶炉)から出たスラグを電気炉に案内し、スラグの還元処理が「電気炉」で行われ、微粒金属かすが「微粒電気炉金属かす」であり、金属かすの電気炉からの除去が「前記廃棄スラグから分離して」行われるのに対し、引用発明では、その記載がない点。

上記相違点について検討する。
スラグの還元操作を、電気炉において行なうことは周知の技術である(例えば、下記周知例1-3参照)。

・周知例1:特開2006-307268号
「[フューミング方法]
図1のスラグフューミング装置を用いた。図1に示すように、スラグフューミング装置は、外熱式の電気炉9によって加熱され、・・・」(【0028】)

・周知例2:特表2005-536629号
「フラッシュ製錬においては、・・・、スラグは依然として銅を5?10パーセント含有していて、・・・この銅は、例えば電気炉でスラグを還元条件下で処理することによって回収する。」(【0002】)

・周知例3:特表2003-519288号
「粗銅溶解炉(FSF)で生成したスラグは、溶融状態のまま例えばチャネルを通じて電気炉(EF)に送ることが好ましい。電気炉ではコークスを用いてスラグを還元し、」(【0017】)
「図1の構成では、硫化銅精鉱をフラックスおよび銅マットとともに懸濁溶解炉、ここでは自溶精錬炉(FSF)に装入する。・・・
自溶精錬炉で生成したスラグは電気炉で再処理される。このスラグは、カルシウムフェライトか珪酸鉄のいずれかである。電気炉で生成した粗銅は、取り出して陽極炉へ直接送り、陽極炉で生成した少量のスラグは、取り出して電気炉に戻す。」(【0012】-【0013】)と記載され、【図1】には、EF(電気炉)においてスラグを処理し、粗銅と廃スラグが分離してそれぞれ取り出される処理フローが示されている。

そうすると、引用発明においても、自溶炉から出たスラグを電気炉に案内し、還元処理を「電気炉」で行い、微粒金属かすを「微粒電気炉金属かす」としているものと認められ、仮にそうでないとしても、そうすることは当業者が容易になし得ることである。
また、引用発明においては、還元操作45によって、粗銅金属47、若干の鉄および本質上銅を含まないスラグが生成し、図面においては、還元操作45からフラグメント化に向かっているのは47であること、そして、上記周知例3にも記載されるとおり、EF(電気炉)における生成物である粗銅と廃スラグをEF(電気炉)から取り出す際、粗銅と廃スラグを分離しそれぞれ取り出すことは通常行われることであるから、金属かすの電気炉からの除去が「前記廃棄スラグから分離して」行われるとの点は実質的な相違点とはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用刊行物記載の発明と同一であるか、引用刊行物記載の発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、審判請求人は、審判請求書において「引用例1発明の特定の説明および図面を参照すると、スラグ35はフラッシュ炉29(本件発明における「懸濁溶解炉」に相当)から直接的にフラグメント化工程53に供給されるほか、還元工程45を経てフラグメント化工程53に供給される。しかしながら、いずれにせよフラッシュ炉29から出たスラグ35はすべて最終的にはフラグメント化工程53へと供給される。」(「3.本願発明が特許されるべき理由 d.本件発明と引用例との対比」の欄)と主張する。
しかしながら、上述のとおり、引用刊行物には、上記記載事項(g)、(h)によれば、自溶炉から出たスラグ中の銅分が酸化物状銅として含まれる場合、スラグは還元処理に付され、生成した粗銅は廃スラグと分離されてフラグメント化に供給されることは明らかであるから、上記主張は採用できない。

3.まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、特許法第29条第1項第3号、あるいは
同条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
上記のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成25年11月25日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲に記載された以下のとおりのものである。
「【請求項1】
-銅精鉱、フラックスおよび反応ガスを懸濁溶解炉の反応シャフト、例えば自溶炉の反応シャフトに一緒に投入し、
前記懸濁溶解炉に、異なる相、すなわち粗銅およびスラグが形成される銅精鉱の精錬方法において、該方法は、
-該懸濁溶解炉から出たスラグを電気炉に案内し、
-該懸濁溶解炉から出たスラグを該電気炉で還元剤を使用して処理することで、該電気炉に異なる相、すなわち金属かすおよび廃棄スラグが形成され、
-該電気炉の金属かすを該電気炉から除去し、
-該電気炉の金属かすを粒状化して、微粒電気炉金属かすを得て、
-微粒電気炉金属かすを前記懸濁溶解炉の反応シャフトに供給することを特徴とする銅精鉱の精錬方法。」(以下、「本願発明」という。)

2.引用刊行物記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用刊行物(特開昭61-221338号公報)の記載事項及び引用発明は、上記「第2.2.(2)(2-1)」、「第2.2.(2)(2-2)」に記載のとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、上記「第2.2.」で検討した本願補正発明から、「前記廃棄スラグから分離して」との事項を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明に係る発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2.3」に記載したとおり、引用刊行物に記載した発明と同一であるか、あるいは引用刊行物に記載した発明および周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用刊行物に記載した発明と同一であるか、あるいは引用刊行物に記載した発明および周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第1項第3号、あるいは同条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-04-07 
結審通知日 2015-04-14 
審決日 2015-05-01 
出願番号 特願2010-538807(P2010-538807)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C22B)
P 1 8・ 121- Z (C22B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 越本 秀幸  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 鈴木 正紀
松嶋 秀忠
発明の名称 銅精鉱の精錬方法  
代理人 香取 孝雄  

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