• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B22F
管理番号 1305920
審判番号 不服2014-1645  
総通号数 191 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-01-29 
確定日 2015-09-24 
事件の表示 特願2009- 87882「切削性に優れる焼結部材用の鉄基混合粉末」拒絶査定不服審判事件〔平成22年10月21日出願公開、特開2010-236061〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成21年3月31日の出願であって、平成25年7月17日付けで拒絶理由通知がなされ、同年9月20日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年10月23日付けで拒絶査定がなされ、平成26年1月29日付けで拒絶査定不服審判が請求され、同年10月21日付けで当審による
拒絶理由通知がなされ、同年12月25日付けで意見書が提出され、平成27年1月16日付けで拒絶理由通知がなされ、同年3月19日付けで意見書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1-6に係る発明は、平成25年9月20日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-6に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明は以下のとおりである。
「【請求項1】
焼結部材用の鉄基粉末に、平均粒径が0.5?10μmであるSiO_(2)-CaO-MgO系の酸化物粉末を該鉄基粉末:100質量部に対して、0.01?1.0質量部の割合で配合したことを特徴とする快削性焼結部材用の鉄基混合粉末。」(以下、「本願発明」という。)

第3 引用刊行物の記載事項
当審による平成27年1月16日付け拒絶理由通知において引用された特開平8-260113号公報(以下、「引用刊行物」という。)には、以下の事項が記載されている。

(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】CaO/MgOのモル比が0.05以上2.0以下でありかつSiO_(2)含有量が50重量%以上75重量%以下のCaO-MgO-SiO_(2)系の複合酸化物が、金属マトリックスに分散していることを特徴とする被削性に優れた焼結材料。
【請求項2】CaO/MgOのモル比が0.05以上2.0以下でありかつSiO_(2)含有量が50重量%以上75重量%以下のCaO-MgO-SiO_(2)系の複合酸化物が、1.5重量%以下金属マトリックスに分散していることを特徴とする被削性及び材料強度に優れた焼結材料。
・・・ 」
(なお、アンダーラインは、当審において付した。以下、同様。)

(1b)「【0017】
【実施例】
(実施例1?3)実施例1?3について比較例と共に説明する。
○原料粉末として、粒径100μmの市販の純鉄粉(アトマイズ粉末)と、粒径75μm以下のCo粉末、粒径60μm以下の複合酸化物粉末と、粒径150μm以下の金属間化合物であるFeMo粉末と、粒度25μm以下の天然黒鉛(Gr)の粉末とを用意した。純鉄粉の主眼は、鉄系マトリックスを構成するためである。Co粉末の主眼は高温領域における強度を確保するためである。FeMo粉末の主眼は、耐摩耗性を向上させるべく硬質粒子を構成するためである。FeMoの硬度は一般的にはHv1200程度である。天然黒鉛の主眼はマトリックスの強化と炭化物の生成である。
・・・
【0019】
【表1】


○そして上記した原料粉末を表1に示した組成になる様に配合した。表1ではFe、Co、Gr、FeMo、複合酸化物の合計を100重量%とした。
【0020】表1に示す様なCaO/MgOのモル比とSiO_(2)含有量とをもつ複合酸化物粉末の添加量は、Fe、Co、Gr、FeMo、複合酸化物の合計を100重量%としたとき、すべて0.3重量%である。なお、比較例3に係る複合酸化物粉末は市販のタルク粉末(Mg_(3)(Si_(4)O_(10))(OH)_(2))であり、比較例5に係る複合酸化物粉末は市販のメタ珪酸マグネシウム試薬粉末である。
【0021】そして上記した原料粉末を100重量%としたとき、潤滑剤としてのステアリン酸亜鉛粉末を0.8重量%添加し、混粉装置により混粉し、混合粉末を得た。この混合粉末を用い、650MPaの成形圧力で圧粉体を成形した。成形した圧粉体は、1498Kの還元性雰囲気中(具体的には水素ガス中)で1800秒保持し、これにより焼結を行い、焼結材料で形成した試験片を得た。
【0022】得られた試験片は次に示す様な条件で工具により切削し、200回切削後に工具摩耗量を逃げ面摩耗(V_(B))を測定した。試験結果を表2に示す。なお、工具摩耗量は効果が明確に判明できるように、比較例5を100とした相対表示とした。
切削条件
試験片形状 :外径φ30mm 内径φ16mm 厚さ7mm
試験機 :旋盤
切削工具(チップ):cBN
切削液 :なし
試験条件 :切削速度 95m/min、
送り 0.048mm/rev、切り込み 0.2mm
測定器 :切削動力計 」

第4 引用刊行物記載の発明
上記記載事項(1a)によれば、金属マトリクスにCaO-MgO-SiO_(2)系の複合酸化物が分散された被削性に優れた焼結材料が記載されている。
そして、同(1b)によれば、上記焼結材料は、金属マトリクスとして、純鉄粉(アトマイズ粉)を用い、CaO-MgO-SiO_(2)系の複合酸化物粉末の粒径は60μm以下であり、実施例1-3(【表1】)における原料粉末全体に対するFe(純鉄粉(アトマイズ粉))、CaO-MgO-SiO_(2)系の複合酸化物の含有量は、それぞれ、100-(5.0+1.0+5.0+0.3)=88.7重量%、0.3重量%であるから、純鉄粉(アトマイズ粉)100重量部に対するCaO-MgO-SiO_(2)系の複合酸化物の配合割合は、( 0.3/88.7)×100=0.34重量部である。

上記検討事項をまとめると、引用刊行物には、
「焼結材料用の純鉄粉(アトマイズ粉)に、粒径が60μm以下であるCaO-MgO-SiO_(2)系の複合酸化物粉末を該純鉄粉(アトマイズ粉):100重量部に対して、0.34重量部の割合で配合した被削性に優れた焼結材料用の混合粉末。」(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

第5 対比・判断
本願発明と引用発明を対比すると、引用発明における「焼結材料」、「純鉄粉(アトマイズ粉)」、「CaO-MgO-SiO_(2)系の複合酸化物粉末」、「被削性に優れた」、「混合粉末」は、それぞれ、本願発明の「焼結部材」、「鉄基粉末」、「SiO_(2)-CaO-MgO系の酸化物粉末」、「快削性」、「鉄基混合粉末」に相当する。
また、「重量部」と「質量部」は、同じ値となる。

よって、両者は、
「焼結部材用の鉄基粉末に、SiO_(2)-CaO-MgO系の酸化物粉末を該鉄基粉末:100質量部に対して、0.34質量部の割合で配合した快削性焼結部材用の鉄基混合粉末。」である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)
上記SiO_(2)-CaO-MgO系の酸化物粉末について、本願発明では、「平均粒径が0.5?10μm」であるのに対し、引用発明では、「粒径が60μm以下」であって、平均粒径が不明である点。

上記相違点について検討する。
鉄系焼結部材において、鉄系金属マトリクス粉末に酸化物粉末を混合する場合、酸化物粉の分散性や、焼結部材の強度等の観点から酸化物粉の平均粒径を決定することは周知の事項である(例えば、下記周知例1には、「1?10μm」がより好ましいこと、同2には、「3?8μm」がより好ましいことが記載されている。)。

・周知例1(特開平6-192784号公報)
「【請求項1】 マルテンサイト系ステンレス合金から成るマトリックス金属焼結体中に、Si_(3)N_(4),ZrO_(2),SiCおよびAl_(2)O_(3)から選択される少なくとも1種のセラミックス粒子を2?20重量%分散させたことを特徴とする耐摩耗性焼結摺動部材。」
「【0021】またセラミックス粒子の平均粒径は、原料セラミックス粒子の取扱性、マトリックス金属とセラミックス粒子との接合強度および摺動特性の均一性に大きな影響を及ぼし、本発明では0.5?100μmの範囲に設定される。平均粒径が0.5μm未満の場合には、マトリックス金属中への均一分散が困難となるとともに、製造工程において飛散し易く取扱い性が悪化する一方、平均粒径が100μmを超える場合にはマトリックス金属とセラミックス粒子との接合面積が小さくなり、摺動部材自身の構造強度が低くなるとともに、金属マトリックスに対するセラミックス粒子の分散状態が悪くなり、摺動部材全体として均一な摺動特性を発揮できなくなる。したがって平均粒径は、上記範囲に設定されるが、より好ましくは1?10μmに設定するとよい。」

・周知例2(特開平9-279203号公報)
「【0015】上記鉄粉と混合して用いられるゲーレナイトやアノールサイト粉末は、共晶組成を有する3元系複合酸化物として酸化被膜の形成に利用するものであり、・・・
【0016】これらゲーレナイトやアノールサイト粉末の好ましい粒度構成は、平均粒径で3?12μm、より好ましくは3?8μmである。粒径が小さ過ぎる場合、焼結体の被削性に与える悪影響は殆んど見られないが、圧粉成形時の高圧密化が困難になって焼結体の強度や疲労特性が悪くなる傾向があり、また大き過ぎる場合は、切削加工時に工具にかかる衝撃力が大きくなってピッチングを起こし易くなり、あるいは焼結品の機械的性質や疲労特性も悪化傾向を示す様になる。またそれらの好ましい添加量は、混合粉末中に占める含有率で0.05?0.15重量%、より好ましくは0.08?0.12重量%の範囲であり、0.05重量%未満では保護被膜形成の為の絶対量が不足するため十分な被削性改善効果が得られず、一方これらは焼結体中では不純介在物として作用し、0.15重量%を超えて過度に多くなると焼結体の機械特性や疲労特性に悪影響を及ぼす様になる。」

引用発明では、SiO_(2)-CaO-MgO系の酸化物粉末として「粒径が60μm以下」のものを用いており、その平均粒径が60μm以下となることは自明である。
そして、引用発明に係る「被削性に優れた焼結材料用の混合粉末」においても、酸化物粉の分散性や、得られる焼結部材の強度等は当然に要求されるものと認められるから(上記記載事項(1a)の【請求項2】によれば、引用発明が、材料強度も意図したものであることは明らかである)、それらの事項も考慮して、SiO_(2)-CaO-MgO系の酸化物粉末の平均粒径を「0.5?10μm」と設定することは当業者が適宜なし得ることである。

よって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、審判請求人は、平成27年3月19日付け意見書において、
「本願の請求項1に係る発明(以下、本願発明という)の特徴は、
焼結部材用の鉄基粉末に、
「(要件a)焼結部材用の鉄基粉末に、平均粒径が0.5?10μmであるSiO_(2)-CaO-MgO系の酸化物粉末を」
「(要件b)該鉄基粉末:100質量部に対して、0.01?1.0質量部の割合で配合した」
快削性焼結部材用の鉄基混合粉末であって、
このような要件(要件a及び要件b)を採用したことによって、切削時における工具摩耗が抑制され、切削性に優れた焼結体を得ることができるという顕著な作用効果を奏するものであります(顕著な作用効果については、添付資料(審判請求時に提出した実験成績証明書に同じ)を参照して下さい)。」(第1頁「1.1 本願発明について」)と主張する。
しかしながら、上記したとおり、引用刊行物には、「焼結材料用の純鉄粉(アトマイズ粉)に、粒径が60μm以下であるCaO-MgO-SiO_(2)系の複合酸化物粉末を該純鉄粉(アトマイズ粉):100重量部に対して、0.34重量部の割合で配合した被削性に優れた焼結材料用の混合粉末。」の発明が記載されており、また、上記周知例2には、鉄系焼結部材において含有される酸化物粉末の平均粒径として、「3?8μm」がより好ましく、平均粒径が大き過ぎる場合、切削性に影響する旨記載されていることを考慮すると、本願発明の「平均粒径が0.5?10μm」であることによる効果が格別顕著なものであるとは認められない。
よって、上記主張は採用できない。

第5.むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
したがって、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-07-15 
結審通知日 2015-07-21 
審決日 2015-08-12 
出願番号 特願2009-87882(P2009-87882)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B22F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮澤 尚之  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 鈴木 正紀
小川 進
発明の名称 切削性に優れる焼結部材用の鉄基混合粉末  
代理人 川原 敬祐  
代理人 杉村 憲司  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ