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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G21C
審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 G21C
管理番号 1305928
審判番号 不服2014-5839  
総通号数 191 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-03-31 
確定日 2015-09-24 
事件の表示 特願2008- 95145「制御棒」拒絶査定不服審判事件〔平成20年11月13日出願公開、特開2008-275604〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成20年4月1日(優先権主張2007年4月3日、スウェーデン国)の出願であって、平成25年5月23日付けで手続補正がなされたが、同年11月28日付けで拒絶査定がなされた。
本件は、これを不服として、平成26年3月31日に請求された拒絶査定不服審判であって、請求と同時に手続補正がなされたものである。

2 平成26年3月31日付けの手続補正
平成26年3月31日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)により、本件補正前の請求項1を引用する請求項8を新たに請求項1とするとともに、(a)本件補正前の請求項1及び8の「内面」及び「外面」を「内側表面」及び「外側表面」と表現を変更し、(b)本件補正前の請求項8の「吸収材本体(7)と前記ケーシング(2)の前記内面(2’)の間に隙間が存在し、前記隙間は原子炉水が貫流できる」という記載に合わせて、本件補正前の請求項1の「ケーシング(2)の前記内面(2’)」を、「原子炉水が貫流する前記ケーシング(2)の前記内側表面(2’)」としたものであって、本件補正後の請求項1は、実質的に本件補正前の請求項1を引用する請求項8である。また、本件補正後の請求項2?13についても本件補正前の特許請求の範囲のいずれかの請求項である。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものである。

3 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】
制御棒の長手方向軸(x)に沿って軽水炉の炉心に導入されるのに適合した制御棒であって、
少なくとも一つの内部空間(3)を囲み前記内部空間(3)に向いた内側表面(2’)と外側を向いた反対側の外側表面(2”)を有するケーシング(2)と、
前記内部空間(3)に備えられた少なくとも一つの吸収材本体(7)と、
を有し、
前記吸収材本体(7)と前記ケーシング(2)の前記内側表面(2’)の間の、前記内部空間(3)には隙間が存在し、
前記隙間は原子炉水が貫流することを許容するために適合し、
前記ケーシング(2)はニッケルベース合金または鉄ベース合金の構造材を含み、
前記原子炉水が貫流する前記ケーシング(2)の前記内側表面(2’)は、電気的絶縁表面層(9)を有し、
前記吸収材本体(7)がハフニウムで製造され、
前記電気的絶縁表面層(9)は前記内部空間(3)に隣接する、
ことを特徴とする制御棒。」

4 引用刊行物
(1)引用刊行物1
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前である平成11年4月30日に頒布された特開平11-118972号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は当審で付した。)
a 発明の詳細な説明の記載
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は原子炉用制御棒及びその製造方法に係わり、特に、沸騰水型原子炉に好適な長寿命型の原子炉用制御棒及びその製造方法に関する。」
「【0035】
【発明の実施の形態】
第1実施形態
以下、本発明の第1実施形態による原子炉用制御棒について図1及び図2を参照して説明する。
【0036】図1(A)は、本実施形態による原子炉用制御棒を示した一部切断斜視図であり、図1(B)は本実施形態による原子炉用制御棒のウイングの一部を切り欠いて示した正面図である。
【0037】図1(A)及び図1(B)に示したように本実施形態による原子炉用制御棒20は、深いU字状の横断面を有する長尺のシ-ス7の長手方向先端にハンドル3と一体化された先端構造材4が固着され、末端に末端構造材5が固着されている。ここで、シース7はステンレス鋼(SUS)によって形成されている。
【0038】シース7には複数の通水孔9が形成されている。また、シース7の内部には、長寿命の中性子吸収材、例えばハフニウム(Hf)又はHf合金等からなる複数の中性子吸収要素21がシース長手方向に列状に収納されて複数(4枚)のウイング2が構成されている。
【0039】ウイング2を構成するシース7の開口部は、中央構造材である十字形のステンレス鋼(SUS)製のタイロッド6の各突出部と係合され溶接により固着され、複数のウイング2を組み合わせた横断面十字形の原子炉用制御棒20が構成されている。
【0040】図2(A)及び図2(B)は本実施形態による原子炉用制御棒のウイング2の要部を拡大して示した図であり、図2(A)は図2(B)のA-A線に沿った矢視断面図であり、図2(B)は図2(A)のB-B線に沿った横断面図である。
【0041】図2(A)及び図2(B)に示したように中性子吸収要素21は、ハフニウム(Hf)又はハフニウム合金によって形成された一対の中性子吸収板(Hf板)22を対向させて形成されている。
【0042】中性子吸収板22のシース長手方向の中央部分には、中性子吸収板22をその厚さ方向に貫通するようにして一対の支持棒用貫通孔23が段違い状に形成されている。支持棒用貫通孔23には、中性子吸収板22の荷重をシース7にて支持するための荷重支持棒24が挿入されている。
【0043】図2(B)に示したように荷重支持棒24は、シース7に形成された支持棒取付孔25に挿入されて溶接により固着された一対の先端部26と、支持棒用貫通孔23に挿入され、先端部26よりも大径の本体部27と、を備えている。
【0044】さらに、荷重支持棒24には、先端部26と本体部27との口径差によって段差28が形成されており、この段差28によってシース7の内面29と中性子吸収板22の外面30との間に微小な間隙が形成されている。微小段差のため、シース7と中性子吸収板22は強い圧迫を免れる。
【0045】また、荷重支持棒24はシース7と溶接できる金属によって形成されており、通常はステンレス鋼製である。中性子吸収板22を構成するHf板とステンレス鋼は共に耐蝕性に極めて優れた材料であるが、異種金属であるため、電気化学的に電池作用が起きる可能性は無いとは保証できない。
【0046】そこで、介在する炉水の長期滞留が生じないように、荷重支持棒24の本体部27の表面に、荷重支持棒24の長手方向(軸方向)に略平行に複数の縦溝31が形成されている。一方、シース7の支持棒取付孔25に貫入される先端部26は、縦溝が無くなる程度、またはそれ以上に削って直径が小さくなっており、既述の如く段差28が形成されている。
【0047】この段差28によって、シース7と荷重支持棒24の先端部26とを溶接する際の位置決めが正しく出来ると共に、中性子吸収板(Hf板)22への熱の逃げが抑制される。また、既述の如く中性子吸収板22とシース7との間に間隙を形成することができる。
【0048】また、荷重支持棒24の本体部27には縦溝31が形成されているので、荷重支持棒24と中性子吸収板22との間に水が出入りし、水の滞留がなく、クレビス腐食が抑制される。
【0049】なお、この図2(A)及び図2(B)では、荷重支持棒24付近にはシース7と中性子吸収板(Hf板)22との間隙保持機構は示していないが、シース7に外側から内側に向かってディンプリングしたり、ワッシャー状の介在物を配置したり(Hf板に突出部を設けることを含む)、シース外面から内側に向かって僅かに内面に突出するピン状のものを固着したり、或いはコマ軸構造にするなどいろいろな機構を採用することができる。
【0050】また、Hfとステンレス鋼とは熱膨張係数に大幅な差があるため、複数の荷重支持棒24の相互間の距離を大きくとると、熱膨張差問題を避けるべく、中性子吸収板(Hf板)22に形成する支持棒用貫通孔23の口径を大きくしなければならない。この場合、原子炉用制御棒20の駆動の際にかかる荷重支持棒24への衝撃荷重が増大するので、荷重支持棒24相互間の間隔は長くしないことが望ましく、例えば3-5cm程度にすることが好ましい。
【0051】図2(A)及び図2(B)に示したように、対向する一対の中性子吸収板22の間に、複数の局所スペーサ(Hf用スペーサ)32によって所定の間隙(水ギャップ)が保持されている。
【0052】局所スペーサ32は、一対の中性子吸収板22の間に配置されて両板間の所定の間隙を保持する胴部33と、この胴部33の両端に突設されると共に中性子吸収板22のスペーサ用貫通孔35に挿入された軸部34とを備えている。そして、中性子吸収板22同士の間隙を介して炉水の流通が可能となっている。
【0053】局所スペーサ32も中性子吸収板22と同様にハフニウム又はハフニウム合金で形成されており、局所スペーサ32の軸部34は中性子吸収板(Hf板)22に溶接されている。なお、荷重支持棒24の場合とは異なり局所スペーサ32はシース7には固着されていない。
【0054】局所スペーサ32の軸部34の先端は中性子吸収板22の外側に僅かに(例えば 0.2-0.5mm)突出しており、この突出部によってシース7の内面29と中性子吸収板22の外面30との間に微小な間隙が形成され、炉水の流れを可能にしている。
【0055】このように局所スペーサ32の軸34の突出部によって微小な間隙が形成されているので、シース7の内面29と中性子吸収板22の外面30との全面的接触を防止することができると共に、中性子吸収板22の外面30における過剰な酸化被膜の生成が抑制される。
【0056】局所スペーサ32の軸部34の先端は、シース7の内面29との接触面積が小さくなるような形状とすることが好ましく、例えば軸部34を先細り形状としたり、或いは軸部34の端面に局所的な凸部を設けることが好ましい。
【0057】局所スペーサ(Hf用スペーサ)32の表面には炉水の長期滞留を防止するための溝36が形成されている。但し、炉水の滞留による腐食問題が特に問題とならない場合には必ずしも溝36を設ける必要はない。」
b 図面の記載
「【図1】


「【図2】


c 図面の記載に関する考察
上記bの記載事項の【図2】(B)には、引用例1記載の「制御棒」が、「シース7」の「内面29」の反対側に「シース7」の外面を有することが記載されている。

d 引用例1記載の発明
上記a及びbの記載事項及びcの考察によると、引用例1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「沸騰水型原子炉に好適な原子炉用制御棒であって、
シース7の内部には、複数の中性子吸収要素21がシース長手方向に列状に収納され、
シース7の内面29と中性子吸収板22の外面30との間に微小な間隙が形成され、炉水の流れを可能にしており、
シース7の内面29の反対側にシース7の外面を有し、
シース7はステンレス鋼(SUS)によって形成され、
中性子吸収要素21は、ハフニウム(Hf)又はハフニウム合金によって形成された一対の中性子吸収板(Hf板)22を対向させて形成されている原子炉用制御棒。」

(2)引用刊行物2
また、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前である平成8年2月16日に頒布された特開平8-43587号公報(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は当審で付した。)
a 発明の詳細な説明の記載
「【0001】
【発明の分野】本発明は、高温水に暴露される部品の腐食電位を低下させる技術に関するものである。ここで言う「高温水」とは、約100℃以上の温度を有する水、蒸気、又はそれから生じた復水を意味する。高温水は、水脱気装置、原子炉及び蒸気駆動式発電機のごとき各種の公知装置において見出すことができる。
【0002】
【発明の背景】原子炉は発電用途、研究用途及び推進用途のために使用されている。原子炉圧力容器内には、炉心から熱を除去するための原子炉冷却材(すなわち水)が含まれている。それぞれの配管系統により、加熱された水又は蒸気が蒸気発生器又はターピンに運ばれ、そして再循環水又は給水が圧力容器に戻される。圧力容器の運転圧力及び温度は、沸騰水型原子炉(BWR)の場合において約7MPa及び288℃であり、また加圧水型原子炉(PWR)の場合において約15MPa及び320℃である。BWR及びPWRのいずれにおいて使用される材料も、様々な負荷条件、環境条件及び放射線条件に耐え得るものでなければならない。
【0003】高温水に暴露される材料の実例としては、炭素鋼、合金鋼、ステンレス鋼、ニッケル基合金、コバルト基合金及びジルコニウム基合金が挙げられる。水冷型原子炉において使用されるこれらの材料は綿密に選択されかつ処理されるにもかかわらず、高温水に暴露された材料には腐食が起こる。かかる腐食は、応力腐食割れ、隙間腐食、摩耗腐食、圧力逃がし弁の固着、及びγ線を放出する^(60)Co同位体の蓄積のごとき様々な問題の原因となる。
【0004】応力腐食割れ(SCC)は、高温水に暴露される原子炉部品(例えば、構造部材、配管、留め金具及び溶接部)において起こる公知の現象である。ここで言う「SCC」とは、静的又は動的な引張応力と亀裂の先端における腐食との組合せによって成長する割れを意味する。原子炉部品は、例えば、熱膨張率の差、原子炉冷却水の閉込めのために必要な運転圧力、及びその他の原因(例えば、溶接、冷間加工及びその他の非対称的な金属処理に伴う残留応力)に由来する様々な応力を受け易い。更にまた、水の化学的性質、溶接、隙間の幾何学的形状、熱処理及び放射線がSCCに対する部品金属の感受性を増大させることもある。
【0005】炉水中に酸素が約1?5ppb若しくはそれ以上の濃度で存在する場合にSCCがより早い速度で起こることは良く知られている。また、炉水の放射線分解によって酸素、過酸化水素および短寿命のラジカルのごとき酸化性化学種を生成させる高レベルの放射線束中においてはSCCが更に増加する。かかる酸化性化学種は金属の電気化学的腐食電位(ECP)を上昇させる。電気化学的腐食は、金属表面上のアノード領域からカソード領域に電子が流れることによって引起こされる。ECPは腐食現象の起こり易さを示す熱力学的傾向の尺度であって、例えばSCC、腐食疲労、腐食被膜の肥厚および全体腐食の速度を決定する際の基本パラメータである。」
「【0017】
【発明の概要】本発明は、ECPを低下させることにより、ステンレス鋼及びその他の金属における亀裂の成長を低減もしくは排除するという目的を達成するための代替方法に関する。これは、IGSCC感受性を有する原子炉部品の表面をジルコニアのごとき電気絶縁材で被覆することによって達成される。本発明に従えば、水素の添加を行わずかつ貴金属触媒が存在しない場合においても金属の腐食電位は負の方向に移動するのである。
【0018】
【好適な実施の態様の説明】本発明は、高放射線束の炉内領域〔あるいは、高い濃度及び(又は)高い流体流速/対流レベルに由来する非常に大きい酸化剤供給速度を有し得るその他の領域〕内において低い腐食電位を達成するという課題を解決するための技術に関する。この技術は、水冷型原子炉の金属部品のSCC感受性表面上に電気絶縁性の保護被膜を形成することから成っている。かかる絶縁保護被膜は、(多孔質の絶縁層を通しての酸化剤移動を制限して)供給動力学を制限することにより、表面への酸化剤供給速度と表面上における再結合速度とのバランスを変化させるように設計されている。本発明の技術は下記のごとき基本的な考慮事項に基づいている。
【0019】第1の考慮事項は、腐食電位が金属-水界面のみにおいて生じることである。したがって、金属被膜の場合には、腐食電位は金属被膜と水本体との界面において生じるが、多孔質の絶縁被膜の場合には、腐食電位は基体金属とそれに接触する水(つまり、細孔内の水)との界面において生じるのである。応力腐食割れに対する腐食電位の影響は、亀裂開口部/自由表面における一般に高い腐食電位と亀裂/隙間の先端部における常に低い腐食電位(例えば、-0.5V_(she) )との間の電位差によって生み出される。このような電位差は金属中に電子の流れを生じると共に、溶液中にイオンの流れを生じ、その結果として亀裂内の陰イオン濃度の増加が誘起されることになる。」
「【0023】第2の考慮事項は、絶縁被膜が水に対して不透過性を示すならば、明らかに下方の金属上に腐食電位は存在せず、また応力腐食割れの心配も存在しないことである。絶縁層中に細孔又は微細な亀裂が存在すれば、極めて制限された物質移動が起こり得るようになり、従って表面付近に極めて厚い停滞水の境界層が存在する場合と同等になる。酸化剤は金属表面において常に消費されているから、このような非常に制限された物質移動(低速の酸化剤供給)は絶縁被膜を通って基体に到達する酸化剤の供給速度をそれらの再結合速度よりも低いレベルに低下させる。このように物質移動が制限される状況の下では、高い酸化剤濃度が存在しかつ化学量論的に過剰の水素が(又はいかなる量の水素も)存在しない場合においても、腐食電位は-0.5V_(she) 以下の値にまで急速に低下する。これと矛盾しない数多くの観測結果が得られている。例えば、低い酸素レベル(例えば、1?10ppb)の下ではステンレス鋼表面上において低い腐食電位が認められるが、隙間/亀裂の内部(直ぐ内側)においては非常に高い酸素レベルの下でも低い腐食電位が認められるのである。」

b 引用例2記載の発明
上記aの記載事項によると、引用例2には、以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「高温水に暴露される原子炉部品において起こる、静的又は動的な引張応力と亀裂の先端における腐食との組合せによって成長する割れを低減もしくは排除するために、ステンレス鋼からなる原子炉部品の表面をジルコニアのごとき電気絶縁材で被覆した原子炉部品。」

5 対比
以下、本願発明と引用発明とを対比する。
(a)引用発明の「沸騰水型原子炉」及び「原子炉用制御棒」は、本願発明の「軽水炉」及び「制御棒」にそれぞれ相当する。
また、引用発明の「原子炉用制御棒」は、技術常識に照らして、本願発明の「制御棒の長手方向軸(x)に沿って軽水炉の炉心に導入されるのに適合した」構成に相当する構成を有することは明らかである。
そうすると、引用発明の「沸騰水型原子炉に好適な原子炉用制御棒」は、本願発明の「制御棒の長手方向軸(x)に沿って軽水炉の炉心に導入されるのに適合した制御棒」に相当する。

(b)引用発明の「シース7」、「シース7の内面29」及び「シース7の外面」は、本願発明の「ケーシング(2)」、「ケーシング(2)」の「内側表面(2’)」及び「ケーシング(2)」の「外側表面(2”)」にそれぞれ相当する。
また、引用発明の「シース7」は、その「内部」に「複数の中性子吸収要素21がシース長手方向に列状に収納され」るものであって、「シース7の内面29と中性子吸収板22の外面30との間に微小な間隙が形成され、」「シース7の内面29の反対側にシース7の外面を有」するものであるから、引用発明の「原子炉用制御棒」は、本願発明の「少なくとも一つの内部空間(3)を囲み前記内部空間(3)に向いた内側表面(2’)と外側を向いた反対側の外側表面(2”)を有するケーシング(2)」「を有」する構成に相当する構成を有するものである。

(c)引用発明の「中性子吸収要素21」の「中性子吸収板(Hf板)22」は、本願発明の「吸収材本体(7)」に相当する。
そうすると、引用発明の「シース7の内部には、複数の中性子吸収要素21がシース長手方向に列状に収納され、」「中性子吸収要素21は、ハフニウム(Hf)又はハフニウム合金によって形成された一対の中性子吸収板(Hf板)22を対向させて形成されている」構成は、本願発明の「前記内部空間(3)に備えられた少なくとも一つの吸収材本体(7)」「を有し、」「吸収材本体(7)がハフニウムで製造され」た構成に相当する。

(d)引用発明の「炉水」は、本願発明の「原子炉水」に相当する。
そうすると、引用発明の「シース7の内面29と中性子吸収板22の外面30との間に微小な間隙が形成され、炉水の流れを可能にして」いる構成は、本願発明の「吸収材本体(7)と前記ケーシング(2)の前記内側表面(2’)の間の、前記内部空間(3)には隙間が存在し、前記隙間は原子炉水が貫流することを許容するために適合」する構成に相当する。

(e)引用発明の「シース7はステンレス鋼(SUS)によって形成され」ている構成は、本願発明の「ケーシング(2)はニッケルベース合金または鉄ベース合金の構造材を含」む構成に相当する。

(f)引用発明は、「シース7の内面29と中性子吸収板22の外面30との間に微小な間隙が形成され、炉水の流れを可能にして」いるものであるから、引用発明の「シース7の内面29」は、本願発明の「原子炉水が貫流する前記ケーシング(2)の前記内側表面(2’)」に相当する。

上記(a)ないし(f)から、本願発明と引用発明は、
「制御棒の長手方向軸(x)に沿って軽水炉の炉心に導入されるのに適合した制御棒であって、
少なくとも一つの内部空間(3)を囲み前記内部空間(3)に向いた内側表面(2’)と外側を向いた反対側の外側表面(2”)を有するケーシング(2)と、
前記内部空間(3)に備えられた少なくとも一つの吸収材本体(7)と、
を有し、
前記吸収材本体(7)と前記ケーシング(2)の前記内側表面(2’)の間の、前記内部空間(3)には隙間が存在し、
前記隙間は原子炉水が貫流することを許容するために適合し、
前記ケーシング(2)はニッケルベース合金または鉄ベース合金の構造材を含み、
前記原子炉水が貫流する前記ケーシング(2)の前記内側表面(2’)を有し、
前記吸収材本体(7)がハフニウムで製造された、
制御棒。」
で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)
「原子炉水が貫流する前記ケーシング(2)の前記内側表面(2’)」が、本願発明は、「電気的絶縁表面層(9)を有し、」「前記電気的絶縁表面層(9)は前記内部空間(3)に隣接する」のに対し、引用発明は、そのような構成を有さない点。

6 当審の判断
以下、上記の相違点について検討する。
引用発明2の「電気絶縁材」は、本願発明の「電気的絶縁表面層」に相当する。
そして、引用発明の「シース7」は、引用発明2の「原子炉部品」と同様に「ステンレス鋼(SUS)によって形成され」たものであり、原子炉において高温水にさらされることは技術常識から明らかであることからすれば、引用発明2の「原子炉部品」と同様に「静的又は動的な引張応力と亀裂の先端における腐食との組合せによって成長する割れ」が起こりうることは、当業者であれば容易に想到できたことである。
したがって、引用発明の「シース7」の「内面29」及び「外面」を含む全表面に対し、引用発明2を適用することにより、「電気絶縁材」で「シース7」を被覆し、該「電気絶縁材」が「シース7」の内部空間に隣接させるようにして、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項を構成することは、当業者が容易になし得たことである。

上記相違点については以上のとおりであり、本願発明によってもたらされる効果は、引用発明、引用発明2及び技術常識から当業者が予測できる範囲内のものと認められる。
よって、本願発明は、引用発明、引用発明2及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

7 審判請求人の主張
審判請求人は、審判請求書において、「本願発明1に関して、明細書中に開示された「シャドー腐食」については、本願の段落[0003]に、「構造材のステンレス鋼またはニッケルベース合金が制御棒中のハフニウム材料に近接することによって、ハフニウム部品上にシャドー腐食が引き起こされることがある。」と記載されております。
そして、本願発明1では、前記相違点に係る構成である、原子炉水が貫流するケーシング(2)の内側表面(2’)に、電気的絶縁表面層(9)を設ける点を技術的特徴としており、これにより、例えば、段落[0009]に、「ケーシングの内表面上に電気的絶縁材料をつけることによって、ハフニウム吸収材本体のシャドー腐食の防止またはかなりの軽減ができる。」と明示されるような有利な効果を奏するものです。
これに対して、引用文献1(当審注:本審決での引用例2)に開示された「応力腐食割れ(SCC)」は、高温水に暴露される原子炉部品自体に発生するものです。そして、引用文献1では、粒間応力腐食割れ(IGSCC)を防止するためのステンレス鋼等の原子炉部品の表面への電気絶縁材の被覆は、高温水に暴露されるすべての表面において行われていると解するのが相当です。
・・・(略)・・・
仮に、引用文献1に示される、原子炉部品の粒間応力腐食割れを防止するために、原子炉部品自体の表面に電気絶縁材で被覆するという技術思想を引用文献2?4(当審注:引用文献2は、本審決での引用例1)に記載された発明に適用して論理づけを行う場合には、絶縁膜を、本願発明1の「原子炉水が貫流するケーシング(2)の内側表面(2’)」に、というように、選択的な位置にではなく、原子炉水に接触する全ての表面に設ける必要があります。このことは、粒間応力腐食割れ発生のプロセスを検証すれば自明であると考えます。
以上の検討によれば、本願発明1は、引用文献1?4に記載された発明から容易に想到し得たものである、とはいえないと考えます。」(審判請求書「[3]」「(3-4)」「(3-4-1)」「[相違点の検討]」参照。)と主張している。
確かに、引用発明に引用発明2を適用すると、「電気絶縁材」を「選択的な位置にではなく、原子炉水に接触する全ての表面に設ける必要があ」ることは、審判請求人が主張するとおりである。
しかしながら、本願発明は、「少なくとも一つの内部空間(3)を囲み前記内部空間(3)に向いた内側表面(2’)と外側を向いた反対側の外側表面(2”)を有するケーシング(2)」「を有し、」「原子炉水が貫流する前記ケーシング(2)の前記内側表面(2’)は、電気的絶縁表面層(9)を有し、」「前記電気的絶縁表面層(9)は前記内部空間(3)に隣接する」構成は特定しているものの、「ケーシング(2)」の「外側表面(2”)」が「電気的絶縁表面層(9)」を有するか否かが何ら特定されていないし、本願明細書に「開示した実施形態において、ケーシング2の外面2”も電気的絶縁表面層9を有してよく、電気的絶縁表面層9は制御棒1の外部の原子炉を貫流する原子炉水と直接接触することになる」(【0028】)と記載されていることからしても、本願発明は、「ケーシング(2)」の「外側表面(2”)」が「電気的絶縁表面層(9)」を有するものを排除するものではない。すなわち、請求人の上記主張は本願発明に基づかないものである。
そして、上記「5 当審の判断」で述べたように、引用発明に引用発明2を適用することは、当業者が容易になし得たことであって、それにより、「ケーシング(2)」の「内側表面(2’)」及び「外側表面(2”)」に「電気的絶縁表面層(9)」を有する「制御棒」が得られるから、審判請求人の主張は採用できない。

8 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用発明2及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-04-27 
結審通知日 2015-04-28 
審決日 2015-05-11 
出願番号 特願2008-95145(P2008-95145)
審決分類 P 1 8・ 571- Z (G21C)
P 1 8・ 121- Z (G21C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 青木 洋平  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 土屋 知久
神 悦彦
発明の名称 制御棒  
代理人 林 一好  
代理人 正林 真之  

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