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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C04B 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C04B |
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管理番号 | 1305963 |
審判番号 | 不服2014-19522 |
総通号数 | 191 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-11-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-09-30 |
確定日 | 2015-09-24 |
事件の表示 | 特願2010- 92786「急硬性左官用モルタルを用いたコンクリート構造物内部にある鋼材の防食方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年11月4日出願公開、特開2011-219332〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続きの経緯 本願は、平成22年4月14日の出願であって、平成25年9月9日付けで拒絶理由が通知され、同年11月11日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成26年7月14日付けで拒絶査定されたので、同年9月30日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出されたものである。 第2 平成26年9月30日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成26年9月30日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 補正発明 (1)本件補正は、明細書及び特許請求の範囲についてするものであって、請求項1の補正は、急硬性左官用モルタルの構成成分である水溶性アクリル系高分子及び硫酸アルミニウムのセメント100部に対する添加量を、本件補正前は、「0.2?2部」及び「0.2?1.0部」であったものを、本件補正により、それぞれ、「0.3?1部」及び「0.5?1.0部」と補正し、その数値範囲を減縮するものである。 したがって、本件補正は、請求項1に係る発明の特定事項を限定する補正事項を含むものであり、また、補正前後の請求項1に係る発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。 したがって、本件補正における請求項1の補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。また、当該補正は、特許法第17条の2第3項の規定に反する新規事項を追加するものではない。 そこで、本件補正後における請求項1に記載された事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかを検討する。 補正後の請求項1に記載された発明(以下、「補正発明」という。)は、次のとおりのものである。 「鋼材を設置したコンクリート構造物のコンクリート表面近傍を切削し、急硬性左官用モルタルを充填し、硬化してモルタル硬化体とし、電気防食を行うコンクリート構造物内部にある鋼材の防食方法であって、前記急硬性左官用モルタルが、セメントと、カルシウムアルミネートと石膏を主成分とする急硬材を含有する結合材、細骨材、減水剤、及び水を配合した急硬性モルタル組成物を使用してなり、水結合材比が30?55%、単位水量が250?400kg/m^(3)のモルタル配合を用いて調製した、0打モルタルフロー値が200?320mmの急硬性モルタルに、水溶性アクリル系高分子と硫酸アルミニウムを、セメント100部に対して、水溶性アクリル系高分子0.3?1部、硫酸アルミニウム0.5?1.0部添加して練混ぜて得られる急硬性左官用モルタルであり、前記急硬性左官用モルタルが硬化してなるモルタル硬化体の電気抵抗率が100kΩ・cm以下で、長さ変化率が-800×10^(-6)以下であるコンクリート構造物内部にある鋼材の防食方法。」 2 刊行物に記載された発明 (1)引用例の記載事項 本願出願日前に頒布され、原査定の拒絶の理由で引用された特開2010-76998号公報(以下、「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。 (ア)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 セメントを含有する結合材、細骨材、減水剤、及び水を配合したモルタル組成物を使用してなり、水結合材比が35?55%、単位水量が250?400kg/m^(3)のモルタル配合を用いて調製した、0打モルタルフロー値が200?320mmのモルタルに、水溶性アクリル系高分子と硫酸アルミニウムを添加して練混ぜて得られ、その硬化体の電気抵抗率が100kΩ・cm以下で、収縮量が-800×10^(-6)以下である左官用モルタル。 【請求項2】 セメント100部に対して、水溶性アクリル系高分子を0.2?3部、硫酸アルミニウムを0.1?10部添加して練混ぜて得られる、請求項1に記載の左官用モルタル。 【請求項3】 請求項1又は2に記載の左官用モルタルが硬化してなる左官用モルタル硬化体。 ・・・ 【請求項8】 請求項3に記載の左官用モルタル硬化体を用いた、コンクリート構造物内部にある鋼材の防食方法。」 (イ)「【0017】 本発明では、セメントを含有する結合材を使用する。 結合材とは、セメント、又はセメントと、必要に応じ併用する・・・、急硬材、及び高強度混和材等の各種混和材との配合物をいう。」 (ウ)「【0026】 本発明では、セメント、細骨材、水、及び減水剤を含有するモルタル組成物を用い、水結合材比が35?55%、単位水量が250?400kg/m^(3)で、0打モルタルフロー値が200?320mmという流動性の高いモルタルに、水溶性アクリル系高分子と硫酸アルミニウムを添加して練混ぜることにより、水結合材比が高くてもダレがなく、作業性の良い左官用モルタルを調製する。 【0027】 本発明で使用する水溶性アクリル系高分子は、単に流動性の高いモルタルを増粘させて可塑性を付与するだけのものではない。 水溶性アクリル系高分子を、上記流動性の高いモルタルと混合することによって、粘性が小さく、コテ離れが良く、作業性の良い左官用モルタルが得られ、多量の空気を連行せず、強度発現性を阻害しない。これに対して、例えば、増粘剤として多く用いられているメチルセルロース系の化合物を使用した場合には、モルタルの粘性が大きくなり、コテ離れが悪く、作業性が悪くなる。また、多量の空気を連行し、強度発現性を阻害する。 水溶性アクリル系高分子としては、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド、及びポリアクリルアミド部分加水分解物等がある。 本発明の水溶性アクリル系高分子を用いると、粘性が小さく、コテ離れが良い左官用モルタルが得られるため、狭い間隙への充填性が良い。この理由は明らかではないが、特に、ナフタレン系の減水剤と併用したときに顕著であり、減水剤と何らかの相互作用をおよぼしていることが考えられる。 【0028】 水溶性アクリル系高分子の使用量は、セメント100部に対して、0.2?3部が好ましく、0.3?1部がより好ましい。0.2部未満ではダレが生じるおそれがあり、3部を超えて使用しても、左官用モルタルの作業性を確保する効果が頭打ちになる。 【0029】 本発明で使用する硫酸アルミニウムは、水溶性アクリル系高分子と併用して流動性の高いモルタルを増粘させて可塑性を付与するとともに、モルタルの凝結を促進して左官用モルタルとしての作業性を確保する。特に、水結合材比が高い場合には、水溶性アクリル系高分子を単独で添加してもダレてしまう場合があるが、硫酸アルミニウムを併用することにより、ダレが生じにくくなり、作業性の良い左官用モルタルが得られる。 硫酸アルミニウムは粉末と水溶液の形態がある。水溶液で使用すると、多量の水が添加され、モルタルの流動性が大きくなってダレが生じる場合があるため、粉末で使用するのが好ましい。 【0030】 本発明で使用する硫酸アルミニウムの添加量は、セメント100部に対して、0.1?10部が好ましく、0.5?5部がより好ましい。0.1部未満ではダレが生じ、10部を超えて添加すると、凝結が大幅に促進されてモルタルフロー値が小さくなり、左官用モルタルの作業性が悪くなる場合がある。」 (エ)「【0060】 実験例2 水結合材比を42%、単位水量を300kg/m^(3)、水溶性アクリル系高分子と硫酸アルミニウムを添加する前の0打モルタルフロー値を250mmとし、表2に示す水溶性アクリル系高分子と硫酸アルミニウムを使用し、圧縮強度を測定したこと以外は実験例1と同様に行った。 なお、比較のために、メチルセルロースを添加した場合についても同様に行った。結果を表2に併記する。」 (オ)「【表2】 」 (カ)「【0069】 実験例4 単位セメント量が330kg/m^(3)、水セメント比が60%、s/aが52%、NaClの添加量が12kg/m^(3)のコンクリートで15×15×53cmの供試体を作製した。 このとき、供試体の軸方向の中央にφ13mmのみがき鋼棒を設置した。コンクリートの表面近傍を切削し、陽極のチタンリボンを埋設した後、実験No.1- 4の左官用モルタルを充填した。その後その表面に有機-無機複合型塗膜養生剤を200g/m^(2)となるように塗布した。電流密度0.03A/m^(2)で電気防食を行い、実験開始直後、1ヵ月後、6ヵ月後、及び1年後のモルタル硬化体の電気抵抗率を測定した。」 (2)引用例に記載された発明 記載事項(ア)によれば、引用例には、特定の組成と特性を有する左官用モルタルを用いて、コンクリート構造物内部にある鋼材の防食方法に関する発明が記載されている。 この特定の組成と特性を有する左官用モルタルとは、同(ア)の請求項1及び2に記載されたもので、次のとおりのモルタルである。 「セメントを含有する結合材、細骨材、減水剤、及び水を配合したモルタル組成物を使用してなり、水結合材比が35?55%、単位水量が250?400kg/m^(3)のモルタル配合を用いて調製した、0打モルタルフロー値が200?320mmのモルタルに、水溶性アクリル系高分子と硫酸アルミニウムを、セメント100部に対して、水溶性アクリル系高分子を0.2?3部、硫酸アルミニウムを0.1?10部添加して練混ぜて得られ、その硬化体の電気抵抗率が100kΩ・cm以下で、収縮量が-800×10^(-6)以下である左官用モルタル。」 また、コンクリート構造物内部にある鋼材の防食方法の具体的内容は、同(カ)に実験例4として記載されており、これによれば、鋼材を設置したコンクリートの表面近傍を切削し、陽極を埋設した後に左官用モルタルで充填し硬化した後に、電気防食を行うものである。 これらの記載事項を、本願の補正発明の記載ぶりにそって整理すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「鋼材を設置したコンクリート構造物のコンクリート表面近傍を切削し、左官用モルタルを充填し、硬化してモルタル硬化体とし、電気防食を行うコンクリート構造物内部にある鋼材の防食方法であって、 該左官用モルタルが、セメントを含有する結合材、細骨材、減水剤、及び水を配合したモルタル組成物を使用してなり、水結合材比が35?55%、単位水量が250?400kg/m^(3)のモルタル配合を用いて調製した、0打モルタルフロー値が200?320mmのモルタルに、水溶性アクリル系高分子と硫酸アルミニウムを、セメント100部に対して、水溶性アクリル系高分子を0.2?3部、硫酸アルミニウムを0.1?10部添加して練混ぜて得られる左官用モルタルであり、 該左官用モルタルの硬化体の電気抵抗率が100kΩ・cm以下で、収縮量が-800×10^(-6)以下であるコンクリート構造物内部にある鋼材の防食方法。」 3 対比と判断 (1)対比 補正発明と引用発明とを対比する。 補正発明と引用発明とは、「鋼材を設置したコンクリート構造物のコンクリート表面近傍を切削し、左官用モルタルを充填し、硬化してモルタル硬化体とし、電気防食を行うコンクリート構造物内部にある鋼材の防食方法」である点で一致し、 左官用モルタルに関しても、両者は「セメント」を含有する結合材、細骨材、減水剤及び水を配合したモルタル組成物を使用する点で共通し、単位水量、0打モルタルフロー値、モルタル硬化体の電気伝導率及び収縮率の数値範囲では両者は一致する。 また、補正発明の水結合材比の数値範囲「30?55%」は、引用発明の水結合材比の数値範囲「35?55%」を包含しているが、セメント100部に対する水溶性アクリル系高分子及び硫酸アルミニウムの添加量の数値範囲は、補正発明のモルタルは引用発明のモルタルに比較して狭い数値範囲を特定する。 したがって、補正発明と引用発明とは、 「鋼材を設置したコンクリート構造物のコンクリート表面近傍を切削し、左官用モルタルを充填し、硬化してモルタル硬化体とし、電気防食を行うコンクリート構造物内部にある鋼材の防食方法であって、 前記左官用モルタルが、セメントを含有する結合材、細骨材、減水剤、及び水を配合したモルタル組成物を使用してなり、水結合材比が35?55%、単位水量が250?400kg/m^(3)のモルタル配合を用いて調製した、0打モルタルフロー値が200?320mmのモルタルに、水溶性アクリル系高分子と硫酸アルミニウムを、セメント100部に対して特定量を添加して練混ぜて得られる左官用モルタルであり、 前記左官用モルタルが硬化してなるモルタル硬化体の電気抵抗率が100kΩ・cm以下で、長さ変化率が-800×10^(-6)以下であるコンクリート構造物内部にある鋼材の防食方法。」である点で一致し、次の点で相違する。 a 補正発明の防食方法で使用する左官用モルタルが、セメント100部に対して、水溶性アクリル系高分子0.3?1部、硫酸アルミニウム0.5?1.0部添加してしているのに対し、引用発明で使用する左官用モルタルは、それぞれの数値範囲が、「0.2?3部」、「0.1?10部」であり、補正発明で特定する数値範囲より広い範囲である点(以下、「相違点a」という。)。 b 補正発明の防食方法で使用する左官用モルタルが、結合材として、セメントに加え、カルシウムアルミネートと石膏を主成分とする急硬材を含有する結合材を配合した急硬性モルタル組成物を使用してなる急硬性左官用モルタルであるのに対し、引用発明で使用する左官用モルタルは、モルタル組成物に配合する結合材が急硬材を含有することを明記しない左官用モルタルである点(以下、「相違点b」という。)。 (2)判断 まず、相違点aについて検討する。 引用例の記載事項(ウ)の段落【0026】には、引用発明においては、流動性の高いモルタルに、水溶性アクリル系高分子と硫酸アルミニウムを添加して練混ぜることにより、水結合材比が高くても作業性の良い左官用モルタルが調整できることが記載されている。そして、同(ウ)の段落【0028】【0030】の記載によれば、水溶性アクリル系高分子と硫酸アルミニウムの添加量の数値範囲は、水結合材比が高い左官用モルタルについて、モルタルの流動性や作業性等を考慮して設定されている。 したがって、引用発明における水溶性アクリル系高分子と硫酸アルミニウム添加量を選択することは当業者が適宜なし得るものであり、また、補正発明において引用発明におけるより狭い数値範囲を設定したことにより、格別顕著な効果が奏されていると認めることはできない。 したがって、引用発明において、相違点aの構成に想到することは当業者が適宜なし得るところである。 次に、相違点bについて検討する。 ア 周知技術について (a)周知例1の記載事項 本願出願前に頒布された特開2007-297250号公報(以下、「周知例1」という。)には、次の事項が記載されている。 「【請求項1】 ポルトランドセメントと、CaO/Al_(2)O_(3)モル比が1.25?1.75の非晶質カルシウムアルミネートと、無水セッコウと、アルカリ金属アルミン酸塩と、凝結調整剤と、ガス発泡物質とを含有してなる超速硬セメント組成物。 ・・・ 【請求項4】 非晶質カルシウムアルミネートと無水セッコウからなる急硬成分100部中、非晶質カルシウムアルミネート30?70部である請求項1?3のいずれか1項に記載の超速硬セメント組成物。」 「【実施例1】 【0035】 ポルトランドセメント70部と、表1に示す各種の非晶質カルシウムアルミネート15部と無水セッコウ15部とを配合し、さらに、ポルトランドセメントと、非晶質カルシウムアルミネートと無水セッコウからなる結合材の合計100部に対して、アルカリ金属アルミン酸塩α0.05部と凝結調整剤0.7部とガス発泡物質イ0.05部を配合して超速硬セメント組成物を調製した。この超速硬セメント組成物100部に対して、細骨材150部を配合して超速硬モルタル組成物を調製した。」 「【表1】 」 (b)周知例2の記載事項 同じく特開2007-320834号公報(以下、「周知例2」という。)には、次の事項が記載されている。 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 セメント、カルシウムアルミネート、セッコウ、凝結調整剤、及び引張強度が1,000N/mm^(2)以上の鋼繊維を含有してなる超速硬セメント組成物。」 「【0013】・・・カルシウムアルミネート(以下、CAという)・・・」 「【0021】 CAとセッコウの配合割合は、CAとセッコウからなる急硬成分100部中、CA30?70部で、セッコウは70?30部が好ましく、CA40?60部で、セッコウ60?40部がより好ましい。」 「【0034】 実験例1 セメント70部、表1に示すCA15部、及びセッコウa15部を配合し、さらに、セメント、CA、及びセッコウからなる結合材100部に対して、流動化剤1.2部と凝結調整剤0.7部を配合して超速硬セメント組成物を調製し、この超速硬セメント組成物100部に対して、細骨材150部を配合し、結合材100部に対して、35部の練り水を使用し、練り上げた超速硬モルタル中、2容量%となるように鋼繊維Aを添加して、超速硬モルタルを調製した。 調製した超速硬モルタルの硬化時間、圧縮強度、及び曲げ強度を測定した。結果を表1に併記する。 【0035】 <使用材料> セメント :市販の早強ポルトランドセメント、ブレーン値4,500cm^(2)/g、密度3.15g/cm^(3) CAイ :CaO/Al_(2)O_(3)モル比0.75、強熱減量1.0%、結晶質、主成分CaO・Al_(2)O_(3)とCaO・2Al_(2)O_(3)、ブレーン値5,000cm^(2)/g、密度3.02g/cm^(3) CAロ :CaO/Al_(2)O_(3)モル比1.0、強熱減量1.0%、結晶質、主成分CaO・Al_(2)O_(3)、ブレーン値5,000cm^(2)/g、密度2.97g/cm^(3) CAハ :CaO/Al_(2)O_(3)モル比1.50、強熱減量1.0%、結晶質、主成分CaO・Al_(2)O_(3)と12CaO・7Al_(2)O_(3)、ブレーン値5,000cm^(2)/g、密度2.95g/cm^(3) CAニ :CaO/Al_(2)O_(3)モル比1.70、強熱減量1.0%、結晶質、主成分CaO・Al_(2)O_(3)と12CaO・7Al_(2)O_(3)、ブレーン値5,000cm^(2)/g、密度2.94g/cm^(3) CAホ :CaO/Al_(2)O_(3)モル比2.00、強熱減量1.0%、結晶質、主成分CaO・Al_(2)O_(3)と12CaO・7Al_(2)O_(3)、ブレーン値5,000cm^(2)/g、密度2.98g/cm^(3) CAヘ :CaO/Al_(2)O_(3)モル比3.00、強熱減量1.0%、結晶質、主成分3CaO・Al_(2)O_(3)、ブレーン値5,000cm^(2)/g、密度2.99g/cm^(3) CAト :CaO/Al_(2)O_(3)モル比1.70、強熱減量1.0%、非晶質、CAニに試薬1級のシリカを3%添加して、1,650℃で溶融後、急冷して合成、ブレーン値5,000cm^(2)/g、密度2.94g/cm^(3) CAチ :CAトに湿分を与え、強熱減量を2.0%としたもの、ブレーン値5,000cm^(2)/g、密度2.94g/cm^(3) セッコウa:市販の無水セッコウ、ブレーン値4,000cm^(2)/g、密度2.96g/cm^(3) 鋼繊維A :引張強度2,000N/mm^(2)、平均径0.2mm、繊維長20mm、密度8.5g/cm^(3) 流動化剤 :ポリアルキルアリルスルホン酸塩の縮合物系流動化剤、市販品 凝結調整剤:試薬1級のクエン酸25部と試薬1級の炭酸カリウム75部の混合物 細骨材 :石灰砂、4mm下品、粗粒率2.73、密度2.60g/cm^(3) 水 :上水道水」 「【0037】 【表1】 」 (c)周知例3について 同じく特開昭62-3057号公報(以下、「周知例3」という。)には、次の事項が記載されている。 「2.特許請求の範囲 1) カルシウムアルミネートと石膏とからなる急硬性混和材、骨材、セメント及び高性能減水剤を主原料とし、一成形体当りの原料所要量を混合、混練し、直ちに近接して位置させた型中に全量投入し、締固めし、硬化後脱型することを特徴とするセメント硬化体の製造方法。」 (d)周知技術 上記した周知例1?3の記載事項によれば、急硬材として、カルシウムアルミネートと石膏を主成分とする急硬材は、周知のセメント混和材である。 また、周知例1、2によれば、カルシウムアルミネートのCaO/Al_(2)O_(3)モル比を調整することで、急硬性モルタル硬化体の材齢3時間の圧縮強度を調整することができることは、周知技術であるといえる。そして、周知例1では15.7N/mm^(2)(実験No.1-3)、周知例2では25.8N/mm^(2)(実験No.1-8)の材齢3時間の圧縮強度を得ている。 イ 相違点bについて 引用発明の防食方法で使用するモルタルは、急硬材を使用することを明記しない左官用モルタルであるが、引用例の記載事項(イ)には、結合材には、セメントの他に必要に応じて急硬材等の各種混和材を使用することが記載されている。 そして、急硬材を使用してみようとする当業者であれば、公知あるいは周知の急硬材のうちから適宜選択して引用発明の左官用モルタルに添加することができるのであり、急硬材としてカルシウムアルミネートと石膏を主成分とするものは、上記したように当業者に周知の急硬材である。 したがって、引用発明において、記載事項(イ)の記載に基づいて必要に応じて左官用モルタルに速硬性を付与するにあたり、カルシウムアルミネートと石膏を主成分とする急硬材を採用することは、当業者が容易に想到するところである。 そして、補正発明によって、当業者が予期し得ない格別顕著な効果が奏されるとは認められない。 したがって、引用発明において相違点bの構成を採用することは、当業者が容易になしうることである。 以上のとおりであるので、補正発明は、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 ウ 審判請求人の主張について 請求人は、審判請求書の第6頁以降の「d-3.相違点について」において、カルシウムアルミネートと石膏を主成分とする急硬材と、特定量の水溶性アクリル系高分子と硫酸アルミニウムとを併用することの効果について、特に3時間圧縮強度の観点からの顕著性を主張する。しかし、請求人の主張は、次の第1及び第2の理由から採用することはできない。 第1に、本願の明細書の段落【0028】?【0033】には、補正発明で特定する組成・物性の急硬性モルタルに、水溶性アクリル系高分子と硫酸アルミニウムとを併用することが特徴であることが記載されているが、特定の急硬材を選択した急硬性モルタルと組合せることの技術的意義についての説明はない。急硬材として特定のものを選択することを意図していないことは実施例の記載をみても確認でき、実験例1?4では、急硬材として12CaO・7Al_(2)O_(3)と無水石膏の当量混合物を使用しているのみで、急硬材を添加しない、あるいは、他の急硬材を添加した左官用モルタルを使用した比較例は示されていないことからも明らかである。 したがって、請求人の主張する、カルシウムアルミネートと石膏を主成分とする急硬材と、特定量の水溶性アクリル系高分子と硫酸アルミニウムとを併用することの効果は、明細書に記載された効果ではないので、進歩性の判断において参酌することはできない。 第2に、請求人の主張する3時間圧縮強度についても、上記した周知技術によれば、速硬モルタル組成物において、カルシウムアルミネートのCaO/Al_(2)O_(3)モル比を調整して3時間圧縮強度を調整することは、当業者には周知の技術である。 したがって、引用発明において、結合材としてカルシウムアルミネートと石膏を主成分とする急硬材を採用するにあたり、CaO/Al_(2)O_(3)モル比を調整して必要とする3時間圧縮強度を得ようとすることは、当業者であれば適宜なし得るところである。補正発明で達成したとされる3時間圧縮強度15.5?15.7N/mm^(2)についても、周知例1、2で示される3時間圧縮強度に比較して格別顕著であるとすることもできない。 以上のことからすると、補正発明の効果の顕著性の主張は採用することができない。 4 本件補正についての結び 以上のとおり、補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 平成26年9月30日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?8に係る発明は、平成25年11月11日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載されたとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 「鋼材を設置したコンクリート構造物のコンクリート表面近傍を切削し、急硬性左官用モルタルを充填し、硬化してモルタル硬化体とし、電気防食を行うコンクリート構造物内部にある鋼材の防食方法であって、前記急硬性左官用モルタルが、セメントと、カルシウムアルミネートと石膏を主成分とする急硬材を含有する結合材、細骨材、減水剤、及び水を配合した急硬性モルタル組成物を使用してなり、水結合材比が30?55%、単位水量が250?400kg/m^(3)のモルタル配合を用いて調製した、0打モルタルフロー値が200?320mmの急硬性モルタルに、水溶性アクリル系高分子と硫酸アルミニウムを、セメント100部に対して、水溶性アクリル系高分子0.2?2部、硫酸アルミニウム0.2?1.0部添加して練混ぜて得られる急硬性左官用モルタルであり、前記急硬性左官用モルタルが硬化してなるモルタル硬化体の電気抵抗率が100kΩ・cm以下で、長さ変化率が-800×10^(-6)以下であるコンクリート構造物内部にある鋼材の防食方法。」 2 進歩性の判断 本願発明は、上記第2[理由]で検討した補正発明において、急硬性左官用モルタルの構成成分である水溶性アクリル系高分子及び硫酸アルミニウムのセメント100部に対する添加量の数値範囲を、それぞれ、「0.2?2部」及び「0.2?1.0部」と拡張した発明である。 そうすると、本願発明の特定事項を全て含む補正発明が、前記「第2の[理由]3(2)」に記載したとおり、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する |
審理終結日 | 2015-07-24 |
結審通知日 | 2015-07-27 |
審決日 | 2015-08-11 |
出願番号 | 特願2010-92786(P2010-92786) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(C04B)
P 1 8・ 121- Z (C04B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小川 武、立木 林 |
特許庁審判長 |
河原 英雄 |
特許庁審判官 |
中澤 登 真々田 忠博 |
発明の名称 | 急硬性左官用モルタルを用いたコンクリート構造物内部にある鋼材の防食方法 |
代理人 | 松本 悟 |