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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01S
管理番号 1305996
審判番号 不服2013-24875  
総通号数 191 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-12-18 
確定日 2015-09-29 
事件の表示 特願2009-549143「無極性および半極性(Ga,Al,In,B)Nダイオードレーザのためのレーザ棒配向の最適化」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 8月21日国際公開、WO2008/100505、平成22年 5月27日国内公表、特表2010-518626〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯

本願は、2008年(平成20年)2月12日(パリ条約による優先権主張外国庁受理、2007年(平成19年)2月12日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成24年8月15日付けの拒絶理由の通知に対し、平成25年3月5日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、同年7月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年12月18日に審判請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。

2 本願発明

(1)平成25年12月18日付け手続補正書による補正は、当該補正前の請求項1を削除するとともに、当該補正前の請求項2を請求項1として新たに独立形式で書き下し、さらに、「結晶方位」との文言を、本願明細書で用いられている「結晶学的方位」との文言にそろえるように補正すること(以下「本件補正」という。)を含むものである。そうすると、本件補正は、特許法第17条の2第5項第1号の請求項の削除及び同3号の誤記の訂正又は同4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当するので、適法である。

(2)したがって、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「無極性または半極性III族窒化物ダイオードレーザであって、光の偏光方向に対して光伝搬の軸を配向させることによって光学利得が制御され、該無極性または半極性III族窒化物ダイオードレーザの結晶学的方位によって該光の偏光方向が決定されるとともに、該光学利得を最大にするため、該光伝搬の軸が該光の偏光方向にほぼ垂直に配向されることを特徴とする無極性または半極性III族窒化物ダイオードレーザ。」

3 引用例1に基づく新規性欠如

(1)引用例1の記載事項

ア 原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2001-230497号公報(以下「引用例1」という。)には、図面とともに次の記載がある(下線は当審で付与した。以下同じ。)。

(ア)「(第1の実施形態)以下、第1の実施形態に係る窒化物半導体レーザ装置及びその製造方法について、図1、図2及び図3を参照しながら説明する。」(段落【0047】)、
「図1に示すように、有機金属気相成長装置(以下、MOCVD装置と称する)のチャンバー内で基板温度を1000℃に設定して、主面を{11-20}面に垂直で且つ{0001}面から所定の角度だけ傾斜した(オフした)面とするn型の窒化ガリウム基板10の上に、n型AlGaN層よりなる第1のクラッド層11及びn型GaN層よりなる第1の光ガイド層12をそれぞれ成長させる。」(段落【0048】)、
「次に、基板温度を800℃に下げた状態で、第1の光ガイド層12の上に、アンドープInGaN層よりなり量子井戸構造を有する活性層13を成長させる。」(段落【0049】)、
「次に、基板温度を再び1000℃に設定して、活性層13の上に、p型GaN層よりなる第2の光ガイド層14、p型AlGaN層よりなる第2のクラッド層15及びn型AlGaN層よりなる電流ブロック層16を順次成長する。」(段落【0050】)、
「次に、試料をMOCVD装置からリアクティブイオンエッチング装置(以下、RIE装置と称する)に移送して、電流ブロック層16に対してエッチングを行なって、[11-20]方向に延びる幅2μmのストライプ状の電流狭窄領域(以下、ストライプ領域と称する)を形成する。」(段落【0051】)、
「次に、試料を再びMOCVD装置に搬入して、基板温度を1000℃に設定して、ストライプ領域が形成されている電流ブロック層16の上に、p型AlGaN層よりなる第3のクラッド層17及びp型GaN層よりなるコンタクト層18を順次成長する。これによって、半導体層の成長工程は完了する。この成長工程における各半導体層の主面の方位は、窒化ガリウム基板10の主面の方位と同じである。」(段落【0052】)、
「次に、窒化ガリウム基板10の下面にn型のTi/Au膜よりなる負電極21を形成すると共に、コンタクト層18の上面にp型のNi/Au膜よりなる正電極21を形成すると、ウェハープロセスは完了する。」(段落【0053】)、
「次に、ウェハー状の窒化ガリウム基板10に対して{11-20}面を1次劈開面とする1次劈開を行なって、基板の主面に垂直である{11-20}面よりなる光共振器面を得る。」(段落【0054】)、
「この場合、基板の主面を{11-20}面と垂直な面に設定しているため、スクライブカッターの刃を主面に対して垂直に位置させた状態で、{11-20}面に沿う方向に力を加えることにより、ウエハーの全面に亘って{11-20}面に沿って1次劈開でき、これによって、レーザ装置が並んだバー状の積層体を得ることができる。」(段落【0055】)、
「次に、1次劈開が行なわれたバー状の積層体に対して2次劈開を行なうと、第1の実施形態に係る半導体レーザ装置が得られる。」(段落【0056】)、
「図2及び図3は、第1の実施形態に係る半導体レーザ装置における、{0001}面からの傾斜角(以下、単に傾斜角と称する)θと1次劈開面と2次劈開面との関係を示している。」(段落【0057】)、
「図2から分かるように、傾斜角θが90°以下で且つ45°以上のときには、2次劈開面は{0001}面となる。また、図2に示す場合においては、ストライプ領域の方向は[11-20]方向である。」(段落【0058】)、
「特に、傾斜角θが90°のとき、すなわち主面が{1-100}面のときには、2次劈開面も主面と垂直な{0001}面になるので、2次劈開も非常に容易になると共に直方体状のデバイスを得ることができる。」(段落【0059】)、
「傾斜角θが13°以上で且つ45°未満のときには、2次劈開面は{1-101}面である。」(段落【0060】)、
「特に、傾斜角θが28.1°のときは、2次劈開面も主面と垂直な{1-101}面となるので、2次劈開が非常に容易になると共に直方体状のデバイスを得ることができる。」(段落【0061】)、
「尚、第1の実施形態においては、傾斜角θが90°又は28.1°のときには、2次劈開面が主面と垂直になるため、ストライプ領域の方向を[11-20]方向と異ならせることができる。以下、これらの場合について、図3を参照しながら説明する。」(段落【0062】)、
「傾斜角θが90°のときには、図3の上段に示すように、ストライプ領域の方向を[0001]方向に設定して、1次劈開面を{0001}面とすると共に2次劈開面を{11-20}面とすることができる。」(段落【0063】)

(イ)図3は次のとおりである。

(ウ)上記(ア)の段落【0062】・【0063】の記載を踏まえ図3の上段をみると、傾斜角θが90°のときの主面が{1-100}面であることが把握できる。

イ 上記アの各記載によれば、引用例1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「主面を{1-100}面とするn型の窒化ガリウム基板10の上に、n型AlGaN層よりなる第1のクラッド層11及びn型GaN層よりなる第1の光ガイド層12をそれぞれ成長させ、
第1の光ガイド層12の上に、アンドープInGaN層よりなり量子井戸構造を有する活性層13を成長させ、
活性層13の上に、p型GaN層よりなる第2の光ガイド層14、p型AlGaN層よりなる第2のクラッド層15及びn型AlGaN層よりなる電流ブロック層16を順次成長させた窒化物半導体レーザ装置であって、
ストライプ領域の方向を[0001]方向に設定して、1次劈開面を{0001}面とすると共に2次劈開面を{11-20}面とする
窒化物半導体レーザ装置。」

(2)対比

ア 本願発明と引用発明1とを以下に対比する。

(ア)引用発明1は、「主面を{1-100}面とする」「窒化物半導体レーザ装置」であって、「アンドープInGaN層よりなり量子井戸構造を有する活性層13」を有するものであるから、本願発明の「無極性」「III族窒化物ダイオードレーザ」との特定事項を備えている。

(イ)本願発明の「光の偏光方向に対して光伝搬の軸を配向させることによって光学利得が制御され」るとの特定事項について

a 本願明細書には以下の記載がある。

「市販のc面窒化物LEDは、電界発光特性においてなんら分極異方性を示さない。無極性m面窒化物LEDは、反対に、電界発光特性において[11-20]軸に沿った強い分極異方性を示している(非特許文献12?14)。この分極は、圧縮歪みを持つm面In_(x)Ga_(1-x)N量子井戸における、異方性歪みが誘起する重い正孔バンドと軽い正孔バンドの分離に起因する可能性があり、この分離が[11-20]と[0001]方向に分極する光学遷移の行列要素における大幅な差異をもたらす。同様に、m面窒化物ダイオードレーザからの発光も、同様の分極異方性を示すはずであることが期待される。・・・」(段落【0007】)、
「前記した従来技術における制限を克服するために、また本明細書を読んで理解することによって明らかになる他の制限を克服するために、本発明は、ダイオードレーザの光の偏光方向または結晶学的方位に対して光伝搬の軸を配向することによって光学利得が制御される、無極性または半極性III族窒化物ダイオードレーザを開示する。
具体的には、光伝搬の軸は、ダイオードレーザの鏡のファセットにほぼ垂直であり、光の偏光方向は、ダイオードレーザの結晶学的方位によって決定される。」(段落【0008】)、
「この点に関して、光学利得を最大にするために、光伝搬の軸は光の偏光方向にほぼ垂直に配向される。具体的には、光学利得を最大にするために、光伝搬の軸は、無極性または半極性III族窒化物ダイオードレーザのc軸にほぼ沿って配向される。・・・」(段落【0009】)、
「無極性III族窒化物ダイオードレーザがm面III族窒化物ダイオードレーザであり、光伝搬の軸がm面III族窒化物ダイオードレーザのc軸とa軸との間の角度で配向されている場合、光伝搬の軸をc軸からa軸の方向へ回転させると光学利得は単調に減少し、光伝搬の軸がc軸に沿って配向されると光学利得が最大値に近づく。・・・」(段落【0010】)、
「本発明は、無極性または半極性窒化物ダイオードレーザの最大利得を発生前記の利益を実現するため、無極性または半極性窒化物のレーザ棒を半導体結晶の面に対して適当に配向する必要があることを規定する。面内ダイオードレーザ(in-plane diode lasers)の場合「縦軸」という用語は鏡のファセットに垂直な軸を指す。
m面窒化物ダイオードレーザでは、圧縮歪みを持つm面In_(x)Ga_(1-x)N量子井戸に固有の偏光特性によって、光学利得は、レーザ棒がc軸に沿って配向されたときに最大値をとり、レーザ棒がa軸に沿って配向されたときに最小値をとるはずである。更に、レーザ棒がc軸とa軸との間の角度をもって配向されている場合、レーザ棒の縦軸をc軸からa軸まで回転させると光学利得は単調に減少し、最適なレーザ棒の配向方向はc軸上またはその近傍にあるはずである。」(段落【0017】)、
「この面内配向依存の利得は、現行では無極性または半極性窒化物ダイオードレーザに固有の新現象である。通常のInPベースおよびGaAsベースのダイオードレーザ、ならびにc面GaNベースのダイオードレーザは、レーザ棒の配向方向に関して等方的である利得特性を示す。このように、本発明は、特定用途向けのダイオードレーザの設計における、無極性または半極性窒化物ダイオードレーザに対する新しい制約条件を表すものである。」(段落【0019】)
「最大光学利得を発生させるためには、レーザ光伝搬の軸(即ち、ダイオードレーザ棒の縦軸)を電界発光の光の偏光方向にほぼ垂直に配向することが必要である。このように、m面窒化物ダイオードレーザの場合、圧縮歪みを持つm面In_(x)Ga_(1-x)N量子井戸に固有の偏光特性のため、光学利得は、ダイオードレーザ棒がc軸に沿って配向されたときに最大となり、ダイオードレーザ棒がa軸に沿って配向されたとき最小になるはずである。更に、ダイオードレーザ棒がc軸とa軸との間の角度をもって配向されている場合、レーザ棒の縦軸をc軸からa軸まで回転させると、光学利得は単調に減少し、最適なダイオードレーザ棒の配向方向はc軸上またはその近傍にあるはずである。・・・」(段落【0024】)

b 上記aの各記載によれば、本願明細書には、以下の各事項が記載されているものと認められる。

(a)市販のc面窒化物LEDは、電界発光特性においてなんら分極異方性を示さないが、無極性m面窒化物LEDは、電界発光特性において[11-20]軸に沿った強い分極異方性を示しており、この分極は、圧縮歪みを持つm面In_(x)Ga_(1-x)N量子井戸における、異方性歪みが誘起する重い正孔バンドと軽い正孔バンドの分離に起因する可能性があり、m面窒化物ダイオードレーザからの発光も、同様の分極異方性を示すはずであることが期待されること(段落【0007】)

(b)無極性III族窒化物ダイオードレーザであるm面III族窒化物ダイオードレーザでは、圧縮歪みを持つm面In_(x)Ga_(1-x)N量子井戸に固有の偏光特性によって、光学利得は、光伝搬の軸がc軸に沿って配向されたときに最大値をとり、光伝搬の軸がc軸とa軸との間の角度をもって配向されている場合、光伝搬の軸をc軸からa軸まで回転させると単調に減少し、光伝搬の軸がa軸に沿って配向されたときに最小値をとるはずであること(段落【0010】・【0017】・【0024】)

(c)無極性III族窒化物ダイオードレーザでは、光学利得を最大にするために、光伝搬の軸は光の偏光方向にほぼ垂直に配向されるものであり、具体的には、光伝搬の軸は無極性III族窒化物ダイオードレーザのc軸にほぼ沿って配向されるものであること(段落【0008】・【0009】・【0024】)

c 上記b(a)は、m面窒化物ダイオードレーザの分極異方性(当審注:偏光異方性の意味であると解される。)を予想したものであるが、本願明細書には、その予想を否定する記載は存在せず、むしろ、段落【0019】の記載は、その予想の妥当性を前提としたものと解される。したがって、上記b(a)に基づき、圧縮歪みを持つm面In_(x)Ga_(1-x)N量子井戸を備えたm面III族窒化物ダイオードレーザにおける「光の偏光方向」は、圧縮歪みを持つm面In_(x)Ga_(1-x)N量子井戸を備えたm面III族窒化物ダイオードレーザの属性として定まるものと解することができる。

d 上記b(b)・(c)及びcによれば、圧縮歪みを持つm面In_(x)Ga_(1-x)N量子井戸を備えたm面III族窒化物ダイオードレーザは、光学利得が光伝搬の軸の配向方向に依存するとともに、光伝搬の軸を光の偏光方向にほぼ垂直に配向させると、すなわち、光伝搬の軸を無極性III族窒化物ダイオードレーザのc軸にほぼ沿って配向させると、光学利得が最大になるとの属性を有するものと解される。

e 上記dによれば、圧縮歪みを持つm面In_(x)Ga_(1-x)N量子井戸を備えたm面III族窒化物ダイオードレーザは、「光の偏光方向に対して光伝搬の軸を配向させることによって光学利得が制御され」るとの属性を有するものと解される。

f しかるところ、引用発明1についてみると、上記(ア)のとおり、引用発明1は、m面III族窒化物ダイオードレーザに該当するものであるとともに、「主面を{1-100}面とするn型の窒化ガリウム基板10の上に、n型AlGaN層よりなる第1のクラッド層11及びn型GaN層よりなる第1の光ガイド層12をそれぞれ成長させ、」「第1の光ガイド層12の上に、アンドープInGaN層よりなり量子井戸構造を有する活性層13を成長させ」たものであるから、圧縮歪みを持つm面In_(x)Ga_(1-x)N量子井戸を備えるものと認められる。
したがって、引用発明1は、本願発明の「光の偏光方向に対して光伝搬の軸を配向させることによって光学利得が制御され」るとの特定事項を当然に備えているものと認められる。

(ウ)本願発明の「該無極性または半極性III族窒化物ダイオードレーザの結晶学的方位によって該光の偏光方向が決定される」との特定事項について

上記(イ)cのとおり、圧縮歪みを持つm面In_(x)Ga_(1-x)N量子井戸を備えたm面III族窒化物ダイオードレーザにおける「光の偏光方向」は、圧縮歪みを持つm面In_(x)Ga_(1-x)N量子井戸を備えたm面III族窒化物ダイオードレーザの属性として定まるものと解される。
しかるところ、引用発明1についてみると、上記(イ)fのとおり、引用発明1は、圧縮歪みを持つm面In_(x)Ga_(1-x)N量子井戸を備えたm面III族窒化物ダイオードレーザに該当するものであるから、本願発明の「該無極性」「III族窒化物ダイオードレーザの結晶学的方位によって該光の偏光方向が決定される」との特定事項を当然に備えているものと認められる。

(エ)本願発明の「該光学利得を最大にするため、該光伝搬の軸が該光の偏光方向にほぼ垂直に配向される」との特定事項について

上記(イ)dのとおり、圧縮歪みを持つm面In_(x)Ga_(1-x)N量子井戸を備えたm面III族窒化物ダイオードレーザは、光学利得が光伝搬の軸の配向方向に依存するとともに、光伝搬の軸を光の偏光方向にほぼ垂直に配向させると、すなわち、光伝搬の軸を無極性III族窒化物ダイオードレーザのc軸にほぼ沿って配向させると、光学利得が最大になるとの属性を有するものと解される。
しかるところ、引用発明1についてみると、上記(イ)fのとおり、引用発明1は、圧縮歪みを持つm面In_(x)Ga_(1-x)N量子井戸を備えたm面III族窒化物ダイオードレーザに該当するものである。さらに、引用発明1は、「ストライプ領域の方向を[0001]方向に設定して、1次劈開面を{0001}面とする」ものであるから、光伝搬の軸を無極性III族窒化物ダイオードレーザのc軸にほぼ沿って配向させているものといえる。そうすると、引用発明1は、本願発明の「該光学利得を最大にするため、該光伝搬の軸が該光の偏光方向にほぼ垂直に配向される」との特定事項を当然に備えているものと認められる。

イ 上記アによれば、本願発明と引用発明1とは、
「無極性III族窒化物ダイオードレーザであって、光の偏光方向に対して光伝搬の軸を配向させることによって光学利得が制御され、該無極性III族窒化物ダイオードレーザの結晶学的方位によって該光の偏光方向が決定されるとともに、該光学利得を最大にするため、該光伝搬の軸が該光の偏光方向にほぼ垂直に配向されることを特徴とする無極性III族窒化物ダイオードレーザ。」
である点で一致し、相違点はない。
したがって、本願発明は、引用例1に記載された発明である。

4 引用例2に基づく新規性欠如

(1)引用例2の記載事項

ア 原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平10-335750号公報(以下「引用例2」という。)には、図面とともに次の記載がある

「図1はこの発明の第1の実施形態によるGaN系半導体レーザを示す。図1に示すように、この第1の実施形態によるGaN系半導体レーザにおいては、{01-10}面(M面)を主面とするアンドープのGaN基板1上に、n型GaNコンタクト層2、n型Al_(x) Ga_(1-x )Nクラッド層3、例えば低不純物濃度またはアンドープのn型のGa_(1-y )In_(y) Nからなる活性層4、p型Al_(z) Ga_(1-z)Nクラッド層5およびp型GaNコンタクト層6が順次積層されている。これらの窒化物系III-V族化合物半導体層は{01-10}面方位を有する。ここで、n型Al_(x) Ga_(1-x )Nクラッド層3のAl組成比xは0≦x≦1、p型Al_(z) Ga_(1-z )Nクラッド層5のAl組成比zは0≦z≦1、活性層4を構成するGa_(1-y )In_(y) NのIn組成比yは0≦y≦1である。n型GaNコンタクト層2およびn型Al_(x) Ga_(1-x )Nクラッド層3にはn型不純物として例えばSiがドープされている。また、p型Al_(z) Ga_(1-z )Nクラッド層5およびp型GaNコンタクト層6にはp型不純物として例えばMgがドープされている。各層の厚さの一例を挙げると、n型GaNコンタクト層2は3μm、n型Al_(x) Ga_(1-x) Nクラッド層3は0.5μm、活性層4は0.05μm、p型Al_(z )Ga_(1-z )Nクラッド層5は0.5μm、p型GaNコンタクト層6は1μmである。」(段落【0021】)、
「n型GaNコンタクト層2の上層部、n型Al_(x) Ga_(1-x) Nクラッド層3、活性層4、p型Al_(z) Ga_(1-z) Nクラッド層5およびp型GaNコンタクト層6は〈0001〉方向に延びるストライプ形状を有する。このストライプ部およびこのストライプ部以外の部分の表面を覆うように例えばSiO_(2 )膜のような絶縁膜7が設けられている。この絶縁膜7には、p型GaNコンタクト層6の上の部分およびn型GaNコンタクト層2の上の部分に、〈0001〉方向に延びるストライプ形状の開口7a、7bがそれぞれ設けられている。これらの開口7a、7bの幅は例えば5μmである。開口7aを通じてp型GaNコンタクト層6にp側電極8がコンタクトしているとともに、開口7bを通じてn型GaNコンタクト層2にn側電極9がコンタクトしている。p側電極8としては例えばNi/Au膜が用いられ、n側電極9としては例えばTi/Al/Au膜が用いられる。」(段落【0022】)、
「この第1の実施形態において、一対の共振器端面およびこの共振器端面と同一面内にあるGaN基板1の端面は{0001}面(C面)からなり、共振器の両側面は{11-20}面(A面)からなる。」(段落【0023】)、
「また、上述の第1、第2および第3の実施形態においては、ダブルヘテロ構造のGaN系半導体レーザにこの発明を適用した場合について説明したが、この発明は、活性層とクラッド層との間に光導波層を設けたいわゆるSCH(SeparateConfinement Heterostructure)構造のGaN系半導体レーザに適用することも可能であり、また、活性層として多重量子井戸構造(MQW)や単一量子井戸構造(SQW)のものを用いてもよい。さらに、レーザ構造としては、利得導波や屈折率導波を実現するリッジ導波路型、内部狭窄型、構造基板型、縦モード制御型(分布帰還(DFB)型またはブラッグ反射(DBR)型)などの各種のレーザ構造を用いることが可能である。」(段落【0056】)

イ 上記アの各記載によれば、引用例2には次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「{01-10}面(M面)を主面とするアンドープのGaN基板1上に、n型GaNコンタクト層2、n型Al_(x) Ga_(1-x )Nクラッド層3、例えば低不純物濃度またはアンドープのn型のGa_(1-y )In_(y) Nからなる活性層4、p型Al_(z) Ga_(1-z)Nクラッド層5およびp型GaNコンタクト層6が順次積層されているGaN系半導体レーザであって、
一対の共振器端面およびこの共振器端面と同一面内にあるGaN基板1の端面は{0001}面(C面)からなり、
活性層として多重量子井戸構造(MQW)や単一量子井戸構造(SQW)のものを用いてもよい、
GaN系半導体レーザ。」

(2)対比

ア 本願発明と引用発明2とを以下に対比する。

(ア)引用発明2の「{01-10}面(M面)を主面とするアンドープのGaN基板1上に、n型GaNコンタクト層2、n型Al_(x) Ga_(1-x )Nクラッド層3、例えば低不純物濃度またはアンドープのn型のGa_(1-y )In_(y) Nからなる活性層4、p型Al_(z) Ga_(1-z)Nクラッド層5およびp型GaNコンタクト層6が順次積層されているGaN系半導体レーザ」は、本願発明の「無極性」「III族窒化物ダイオードレーザ」に相当する。

(イ)引用発明2は、「例えば低不純物濃度またはアンドープのn型のGa_(1-y )In_(y) Nからなる活性層4」において、「活性層として多重量子井戸構造(MQW)や単一量子井戸構造(SQW)のものを用いてもよい」ものであるから、当業者であれば、低不純物濃度またはアンドープのn型のGa_(1-y )In_(y) Nよりなる量子井戸構造の活性層を用いる態様を把握することができる。
そして、引用発明2の当該態様は、「{01-10}面(M面)を主面とするアンドープのGaN基板1」上に、当該活性層を成長させたものであるから、m面III族窒化物ダイオードレーザであって、圧縮歪みを持つm面In_(x)Ga_(1-x)N量子井戸を備えるものということができる。
したがって、上記3(2)ア(イ)と同様の理由で、引用発明2は、本願発明の「光の偏光方向に対して光伝搬の軸を配向させることによって光学利得が制御され」るとの特定事項を当然に備えているものと認められる。
また、上記3(2)ア(ウ)と同様の理由で、引用発明2は、本願発明の「該無極性」「III族窒化物ダイオードレーザの結晶学的方位によって該光の偏光方向が決定される」との特定事項を当然に備えているものと認められる。

(ウ)引用発明2は、「一対の共振器端面およびこの共振器端面と同一面内にあるGaN基板1の端面は{0001}面(C面)からな」るものであるから、光伝搬の軸を無極性III族窒化物ダイオードレーザのc軸にほぼ沿って配向させているものといえる。
そうすると、上記3(2)ア(エ)と同様の理由で、引用発明2は、本願発明の「該光学利得を最大にするため、該光伝搬の軸が該光の偏光方向にほぼ垂直に配向される」との特定事項を当然に備えているものと認められる。

イ 上記アによれば、本願発明と引用発明2とは、
「無極性III族窒化物ダイオードレーザであって、光の偏光方向に対して光伝搬の軸を配向させることによって光学利得が制御され、該無極性III族窒化物ダイオードレーザの結晶学的方位によって該光の偏光方向が決定されるとともに、該光学利得を最大にするため、該光伝搬の軸が該光の偏光方向にほぼ垂直に配向されることを特徴とする無極性III族窒化物ダイオードレーザ。」
である点で一致し、相違点はない。
したがって、本願発明は、引用例2に記載された発明である。

5 むすび

以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-03-16 
結審通知日 2015-04-07 
審決日 2015-04-21 
出願番号 特願2009-549143(P2009-549143)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (H01S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 下村 一石  
特許庁審判長 小松 徹三
特許庁審判官 鈴木 肇
山村 浩
発明の名称 無極性および半極性(Ga,Al,In,B)Nダイオードレーザのためのレーザ棒配向の最適化  
代理人 清水 守  
代理人 清水 守  

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