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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1306001
審判番号 不服2014-13893  
総通号数 191 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-07-17 
確定日 2015-09-28 
事件の表示 特願2009-525752「密閉筐体内PCB実装電子部品の熱安定化用機器および方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 2月28日国際公開、WO2008/024821、平成22年 1月21日国内公表、特表2010-502017〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成19年8月22日(パリ条約に基づく優先権主張外国庁受理 平成18年8月22日 米国(US))を国際出願日とする特許出願であって、平成24年7月17日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年10月19日付けで手続補正がなされ、平成25年5月7日付け最後の拒絶理由通知に対する応答時、同年9月6日付けで手続補正がなされたが、当該手続補正について、平成26年3月12日付けで補正の却下の決定がなされるとともに、同日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年7月17日付けで拒絶査定不服審判の請求及び手続補正がなされたものである。

2.補正の適否・本願の特許請求の範囲
平成26年7月17日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲は、
「【請求項1】
筐体内の電子部品にわたる熱勾配を設定するように構成された熱電デバイスのマトリクスと、
該電子部品に関連する熱勾配を測定するように構成された感熱デバイスのマトリクスと、
該感熱デバイスのマトリクスによって測定される該熱勾配に基づいて、該熱電デバイスのマトリクスを制御するように構成された制御器であって、該制御器は、所与の期間にわたって測定された外部の周囲温度に関連する平均熱勾配を識別するように構成され、かつ、該平均熱勾配よりも高い温度設定値を確立することにより、該筐体内の温度を安定させるように構成され、かつ、該筐体内の温度が該平均熱勾配よりも高いままであるように、該筐体内の温度を該温度設定値に維持するように構成される、制御器と
を備える、装置。
【請求項2】
前記電子部品は、プリント回路基板の表面上に実装され、
前記筐体は、該プリント回路基板上に実装され、該筐体は、密閉筐体である、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記電子部品は、プリント回路基板の第1の表面上に実装され、
前記熱電デバイスのマトリクスは、該プリント回路基板の前記第1の表面に対向する第2の表面上に二次元グリッドに配列された複数の熱電デバイスを含む、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記感熱デバイスのマトリクスは、前記電子部品を囲む前記プリント回路基板の前記第1の表面上に二次元グリッドに実装された複数の感熱デバイスを含む、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記制御器は、熱電対係数のマトリクスに基づいて前記熱電デバイスのマトリクスを制御するように構成され、該熱電対係数のマトリクスは、前記感熱デバイスのマトリクスによって検出された1組の熱勾配と、前記熱電デバイスのマトリクスによって生成された1組の電圧値とに対応する、複数の熱電対係数を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
筐体内の電子部品に関連する感熱デバイスのマトリクスによって測定された熱勾配を検出することと、
該検出された熱勾配に基づいて、熱電デバイスのマトリクスに印加される1組の電流値を制御することと、
所与の期間にわたって測定された外部の周囲温度に関連する平均熱勾配を識別することと、
該平均熱勾配よりも高い温度設定値を確立することにより、かつ、該筐体内の温度が該平均熱勾配よりも高いままであるように、該筐体内の温度を該平均熱勾配よりも高い該温度設定値に維持することにより、該筐体内の温度を安定させることと
を含む、方法。
【請求項7】
前記熱電デバイスのマトリクスに印加される1組の電流値を制御することは、基板の第1の表面に対向する第2の表面において二次元グリッドに配列された複数の熱電デバイスに印加される1組の電流値を制御することを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記熱勾配を検出することは、前記電子部品を囲む基板の第1の表面上に二次元グリッドに実装された複数の感熱デバイスを用いて熱勾配を測定することを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記熱勾配を検出することは、周囲感熱デバイスを用いて、前記筐体の外側の周囲温度を測定することを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記熱電デバイスのマトリクスに印加される1組の電流値を制御することは、前記感熱デバイスのマトリクスにより検出された1組の熱勾配と、該熱電デバイスのマトリクスにより生成された1組の電圧値とに対応する複数の熱電対係数を含む熱電対係数のマトリクスを生成することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記熱電対係数のマトリクスを生成することは、前記周囲感熱デバイスにより測定された前記周囲温度に対する寄生熱インピーダンス係数を生成することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
プリント回路基板上に実装され、かつ、密閉筐体内にある電子部品を、該電子部品が上に実装される該プリント回路基板の第2の表面に対向する、該プリント回路基板の第1の表面上に配列された熱電デバイスのマトリクスを用いて、加熱することと、
該基板の該第2の表面上に実装された感熱デバイスのマトリクスを用いて、該電子部品の囲む熱勾配を測定することと、
該密閉筐体の外側にある第1の感熱デバイスを用いて、該密閉筐体の外側の周囲温度の変動を測定することと、
該感熱デバイスのマトリクスおよび該第1の感熱デバイスによって測定された該熱勾配に基づいて、かつ、該第1の感熱デバイスにより測定された該周囲温度の変動に関連する寄生熱インピーダンス係数を含む熱電対係数のマトリクスに基づいて、該熱電デバイスのマトリクスによって加えられる熱を制御することにより、該電子部品の温度を安定させることと
を含む、方法。
【請求項13】
前記電子部品を加熱することは、ある熱分散パターンで該電子部品に熱を分布させるために、1組の電流を前記熱電デバイスのマトリクスに印加することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記熱を制御することは、前記熱電デバイスのマトリクスに印加される前記1組の電流を制御することを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
密閉筐体内の電子部品にわたる熱勾配を設定するように構成された熱電デバイスのマトリクスと、
該電子部品に関連する熱勾配を測定するように構成された感熱デバイスのマトリクスと、
該密閉筐体の外側にある第1の感熱デバイスであって、該密閉筐体の外側の周囲温度の変動を測定する第1の感熱デバイスと、
該感熱デバイスのマトリクスおよび該第1の感熱デバイスによって測定された該熱勾配に基づいて、かつ、該第1の感熱デバイスにより測定された該周囲温度の変動に関連する寄生熱インピーダンス係数を含む熱電対係数のマトリクスに基づいて、該熱電デバイスのマトリクスによって加えられる熱を制御するように構成された制御器と
を備える、装置。
【請求項16】
熱電デバイスのマトリクスが筐体内の温度を制御するように信号を送信するように構成された制御器を備える装置であって、
該制御器は、
該筐体内の電子部品に関連する複数の熱勾配と、
所与の期間にわたって測定された外部の周囲温度に関連する平均熱勾配と、
該平均熱勾配よりも高い温度設定値と
に基づいて、該筐体内の温度が該温度設定値に実質的に維持されるように、該信号を生成するように構成される、装置。
【請求項17】
前記制御器は、
前記電子部品に関連する前記複数の熱勾配からの1組の熱勾配と、前記熱電デバイスのマトリクスに関連する1組の電圧値とに関連する複数の熱電対係数を含む熱電対係数のマトリクスに基づいて、前記信号を生成するように構成される、請求項16に記載の装置。
【請求項18】
前記制御器は、
前記外部の周囲温度の変動に基づいて、かつ、該周囲温度の変動に関連する寄生熱インピーダンス係数を含む熱電対係数のマトリクスに基づいて、前記信号を生成するように構成される、請求項16に記載の装置。
【請求項19】
熱電デバイスのマトリクスが筐体内の温度を制御するように信号を送信するように構成された制御器を備える装置であって、
該制御器は、
該筐体内の電子部品に関連する複数の熱勾配と、
該筐体の外部の周囲温度の変動と、
該周囲温度の変動に関連する寄生熱インピーダンス係数を含む熱電対係数のマトリクスと
に基づいて該信号を生成するように構成される、装置。
【請求項20】
前記制御器は、
前記電子部品に関連する前記複数の熱勾配からの1組の熱勾配と、前記熱電デバイスのマトリクスに関連する1組の電圧値とに関連する複数の熱電対係数を含む熱電対係数のマトリクスに基づいて、前記信号を生成するように構成される、請求項19に記載の装置。」

とあったものが、

「【請求項1】
筐体内の電子部品にわたる熱勾配を設定するように構成された熱電デバイスのマトリクスと、
該電子部品に関連する熱勾配を測定するように構成された感熱デバイスのマトリクスと、
該感熱デバイスのマトリクスによって測定される該熱勾配に基づいて、該熱電デバイスのマトリクスを制御するように構成された制御器であって、該制御器は、該感熱デバイスのマトリクスによって所与の期間にわたって測定された該測定された熱勾配と、感熱デバイスによって所与の期間にわたって測定された外部の周囲温度に関連する該熱勾配とから計算された平均熱勾配を識別するように構成され、かつ、該平均熱勾配よりも高い温度設定値を設定することにより、該筐体内の温度を安定させるように構成され、かつ、該筐体内の温度が該平均熱勾配よりも高いままであるように、該筐体内の温度を該温度設定値に維持するように構成される、制御器と
を備える、装置。
【請求項2】
前記電子部品は、プリント回路基板の表面上に実装され、
前記筐体は、該プリント回路基板上に実装され、該筐体は、密閉筐体である、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記電子部品は、プリント回路基板の第1の表面上に実装され、
前記熱電デバイスのマトリクスは、該プリント回路基板の前記第1の表面に対向する第2の表面上に二次元グリッドに配列された複数の熱電デバイスを含む、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記感熱デバイスのマトリクスは、前記電子部品を囲む前記プリント回路基板の前記第1の表面上に二次元グリッドに実装された複数の感熱デバイスを含む、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記制御器は、熱電対係数のマトリクスに基づいて前記熱電デバイスのマトリクスを制御するように構成され、該熱電対係数のマトリクスは、前記感熱デバイスのマトリクスによって検出された1組の熱勾配と、前記熱電デバイスのマトリクスによって生成された1組の電圧値とに対応する、複数の熱電対係数を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
筐体内の電子部品に関連する感熱デバイスのマトリクスによって測定された熱勾配を検出することと、
該検出された熱勾配に基づいて、熱電デバイスのマトリクスに印加される1組の電流値を制御することと、
該感熱デバイスのマトリクスによって所与の期間にわたって測定された該測定された熱勾配と、感熱デバイスによって所与の期間にわたって測定された外部の周囲温度に関連する該熱勾配とから計算された平均熱勾配を識別することと、
該平均熱勾配よりも高い温度設定値を設定することにより、かつ、該筐体内の温度が該平均熱勾配よりも高いままであるように、該筐体内の温度を該平均熱勾配よりも高い該温度設定値に維持することにより、該筐体内の温度を安定させることと
を含む、方法。
【請求項7】
前記熱電デバイスのマトリクスに印加される1組の電流値を制御することは、基板の第1の表面に対向する第2の表面において二次元グリッドに配列された複数の熱電デバイスに印加される1組の電流値を制御することを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記熱勾配を検出することは、前記電子部品を囲む基板の第1の表面上に二次元グリッドに実装された複数の感熱デバイスを用いて熱勾配を測定することを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記熱勾配を検出することは、周囲感熱デバイスを用いて、前記筐体の外側の周囲温度を測定することを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記熱電デバイスのマトリクスに印加される1組の電流値を制御することは、前記感熱デバイスのマトリクスにより検出された1組の熱勾配と、該熱電デバイスのマトリクスにより生成された1組の電圧値とに対応する複数の熱電対係数を含む熱電対係数のマトリクスを生成することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記熱電対係数のマトリクスを生成することは、前記周囲感熱デバイスにより測定された前記周囲温度に対する寄生熱インピーダンス係数を生成することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
熱電デバイスのマトリクスが筐体内の温度を制御するように信号を送信するように構成された制御器を備える装置であって、
該制御器は、
該筐体内の電子部品に関連する複数の熱勾配と、
所与の期間にわたって測定された熱勾配と、所与の期間にわたって測定された外部の周囲温度に関連する熱勾配とから計算された平均熱勾配と、
該平均熱勾配よりも高い温度設定値と
に基づいて、該筐体内の温度が該温度設定値に実質的に維持されるように、該信号を生成するように構成される、装置。
【請求項13】
前記制御器は、
前記電子部品に関連する前記複数の熱勾配からの1組の熱勾配と、前記熱電デバイスのマトリクスに関連する1組の電圧値とに関連する複数の熱電対係数を含む熱電対係数のマトリクスに基づいて、前記信号を生成するように構成される、請求項12に記載の装置。」
と補正された。

上記補正は、
(1)補正前の請求項12?15、18?20を削除するとともに、
(2)請求項1,6において、「所与の期間にわたって測定された外部の周囲温度に関連する平均熱勾配」とあった記載を、「該感熱デバイスのマトリクスによって所与の期間にわたって測定された該測定された熱勾配と、感熱デバイスによって所与の期間にわたって測定された外部の周囲温度に関連する該熱勾配とから計算された平均熱勾配」と表現を改め、「平均熱勾配」なるものがどのようなものであるのかを明確化し、
(3)また、請求項1,6において、「平均熱勾配よりも高い温度設定値を確立する」とあった記載を、「平均熱勾配よりも高い温度設定値を設定する」と表現を改め、どのようにして筐体内の温度を安定させる制御が行われるものであるのかを明確化し、
(4)請求項12(補正前の請求項16)において、「該筐体内の電子部品に関連する複数の熱勾配と、所与の期間にわたって測定された外部の周囲温度に関連する平均熱勾配と・・」とあった記載を、「該筐体内の電子部品に関連する複数の熱勾配と、所与の期間にわたって測定された熱勾配と、所与の期間にわたって測定された外部の周囲温度に関連する熱勾配とから計算された平均熱勾配と・・」と表現を改め、「平均熱勾配」なるものがどのようなものであるのかを明確化しようとしたものであるといえる。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除、及び第4号に掲げる拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項(後述の「理由1」及び「理由2」)についてする明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。

よって、本願の特許請求の範囲は、平成26年7月17日付けの手続補正書に記載された上記特許請求の範囲のとおりのものである。

3.原査定の拒絶理由について
(1)原査定の拒絶理由
原査定の拒絶の理由のうち「理由1」及び「理由2」は、
「1.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1、2号に規定する要件を満たしていない。
2.この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。」
というものであって、具体的には以下のような記載不備に関する指摘事項を含むものである。

「・請求項1,6,16及びこれを引用する請求項に係る発明
(イ)特許請求の範囲に記載された『平均熱勾配』とは具体的にどのようなものを意味するのか、その定義が正確に把握できない。
『熱勾配』との記載から、例えば時間経過にともなう温度変化の傾き、又は複数箇所の場所における温度変化の傾きと考えられるので、『外部の周囲温度に関連する温度変化の傾きの所定期間の平均値』は、例えば5℃/秒、5℃/mmといった傾きであって温度ではない。
また、『該筐体内の温度が該平均熱勾配よりも高いままであるように、該筐体内の温度を該温度設定値に維持するように構成される』との記載から、温度設定値とは例えば25℃などの所定温度と認められる。
そうすると、外部の周囲温度に関連する温度変化の傾きの所定期間の平均値よりも高い温度設定値とはどのようなものなのか判然としない。
さらに、本願のような制御を行うことにより、どうして『筐体内の温度を安定させる』ことができるのか判然としない。」

(2)当審の判断
(2-1)特許法第36条第6項第2号違反(理由1)
ア.請求項1,6について
請求人は平成26年7月17日付け手続補正により、「平均熱勾配」について上記「2.(2)」及び「2.(3)」のとおりの補正を行い、審判請求書において「この補正により、『平均熱勾配』が、所与の期間にわたって複数の温度センサにより測定された電子部品に関連及び外部の周囲温度に関連する温度から計算される温度範囲の平均であることを明確にしました。また、この補正により、制御器が、当該温度範囲のいずれの温度よりも高い温度値に温度設定値を設定することにより、該筐体内の温度を安定させることを明確にしました。」と述べている。
しかしながら、
(a)そもそも、電子部品に関連する「熱勾配」については、感熱デバイスのマトリクスで測定されるものであることから、場所(物理的位置)に対する温度変化の傾きを意味するものと解されるところ、一方、所与の期間にわたって測定された外部の周囲温度に関連する「熱勾配」については、発明の詳細な説明の段落【0021】に「・・さらに、1つ以上の感熱デバイスが熱安定化筐体115の外側にあって、PCB基板110、および感熱デバイス125nのような外部環境に関連する熱勾配を測定することができる。」と記載され、また段落【0028】に「感熱デバイス125a-nのうちの1つ以上が、熱安定化筐体115の外側の感熱デバイスであるために、PCB基板110、および感熱デバイス125nのような外部環境に関連する熱勾配を測定できることが理解されよう。したがって、熱電対係数のマトリクスは、外部の感熱デバイス125nのような、1つ以上の外部感熱デバイスに関連する寄生インピーダンス係数を含むことができる。」と記載されており、図1からしても、外部環境に関連する熱勾配を測定するための感熱デバイスは1つだけでも良いと理解でき、そうすると、ここでいう外部環境に関連する「熱勾配」とは、場所(物理的位置)に対する温度変化の傾きではなく、時間に対する温度変化の傾きを意味するものであるかのようにも解され、いずれを意味するのか判然としない。
(b)さらに、「感熱デバイスのマトリクスによって所与の期間にわたって測定された(電子部品に関連する)熱勾配」と、「感熱デバイスによって所与の期間にわたって測定された外部の周囲温度に関連する熱勾配」とからどのような計算によって「平均熱勾配」を識別するのか、発明の詳細な説明を参照しても不明であり、そのため、「平均熱勾配」を計算するに際し、「外部の周囲温度に関連する熱勾配」なるものを考慮する(用いる)ことの技術的意味も明らかでない。
以上の(a)(b)の点からして、依然として、「平均熱勾配」なるものがどのようなものを意味するのか明らかでない。
(c)また、上記のとおり「平均熱勾配」なるものがどのようなものを意味するのか明らかでないが、少なくとも平均熱「勾配」というのであるから、温度変化の傾きを意味するものと解されるところ、「温度設定値」について、ある「温度の値」に対してそれよりも高く設定するというのではなく、温度変化の傾きを意味する「平均熱勾配」に対してそれよりも高く設定するというのは技術的意味が不明であり、
以上の(a)?(c)の点からして、依然として、如何にして筐体内の温度を安定させる制御を行っているのかかが技術的にみて明らかでない。

イ.請求項12について
請求人は平成26年7月17日付け手続補正により、「平均熱勾配」について上記「2.(4)」のとおりの補正を行っている。
しかしながら、
(a)そもそも、電子部品に関連する「複数の熱勾配」については、場所(物理的位置)に対する温度変化の傾きを意味するものと解されるところ、一方、所与の期間にわたって測定された「熱勾配」と、所与の期間にわたって測定された外部の周囲温度に関連する「熱勾配」とについては、場所(物理的位置)に対する温度変化の傾きを意味するのか、あるいは時間に対する温度変化の傾きを意味するものであるか判然としない。
(b)さらに、「筐体内の電子部品に関連する複数の熱勾配」と、「所与の期間にわたって測定された熱勾配」との関係が不明確であり、
(c)これら「筐体内の電子部品に関連する複数の熱勾配」と、「所与の期間にわたって測定された熱勾配」と、「所与の期間にわたって測定された外部の周囲温度に関連する熱勾配」とからどのような計算によって「平均熱勾配」を識別するのか、発明の詳細な説明を参照しても不明であり、そのため、「平均熱勾配」を計算するに際し、「外部の周囲温度に関連する熱勾配」なるものを考慮する(用いる)ことの技術的意味も明らかでない。
以上の(a)?(c)の点からして、依然として、「平均熱勾配」なるものがどのようなものを意味するのか明らかでない。
(d)また、上記のとおり「平均熱勾配」なるものがどのようなものを意味するのか明らかでないが、少なくとも平均熱「勾配」というのであるから、温度変化の傾きを意味するものと解されるところ、「温度設定値」について、ある「温度の値」に対してそれよりも高いものとするというのではなく、温度変化の傾きを意味する「平均熱勾配」に対してそれよりも高いものとするというのは技術的意味が不明であり、
以上の(a)?(d)の点からして、依然として、如何にして筐体内の温度が温度設定値に実質的に維持されるように制御を行っているのかかが技術的にみて明らかでない。

したがって依然として、請求項1,6,12に係る各発明は明確なものでない。
よって、本件出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(2-2)特許法第36条第4項第1号違反(理由2)
ア.上記「(2-1)特許法第36条第6項第2号違反(理由1)」における「ア.(a)」及び「イ.(a)」で示した判断に関連して、
発明の詳細な説明には、「外部環境に関連する熱勾配」に関して、段落【0021】に「・・さらに、1つ以上の感熱デバイスが熱安定化筐体115の外側にあって、PCB基板110、および感熱デバイス125nのような外部環境に関連する熱勾配を測定することができる。」と記載され、段落【0028】に「感熱デバイス125a-nのうちの1つ以上が、熱安定化筐体115の外側の感熱デバイスであるために、PCB基板110、および感熱デバイス125nのような外部環境に関連する熱勾配を測定できることが理解されよう。したがって、熱電対係数のマトリクスは、外部の感熱デバイス125nのような、1つ以上の外部感熱デバイスに関連する寄生インピーダンス係数を含むことができる。」と記載されているのみであり、外部環境に関連する熱勾配を測定するための感熱デバイスは1つだけでも良いと理解でき、したがって、外部環境に関連する「熱勾配」というのが、場所(物理的位置)に対する温度変化の傾きを意味するのか、あるいは時間に対する温度変化の傾きを意味するのか明確に把握することができない。

イ.上記「(2-1)特許法第36条第6項第2号違反(理由1)」における「ア.(b)」及び「イ.(c)」で示した判断に関連して、
発明の詳細な説明には、「平均熱勾配」に関して、段落【0028】に「感熱デバイス125a-nのうちの1つ以上が、熱安定化筐体115の外側の感熱デバイスであるために、PCB基板110、および感熱デバイス125nのような外部環境に関連する熱勾配を測定できることが理解されよう。したがって、熱電対係数のマトリクスは、外部の感熱デバイス125nのような、1つ以上の外部感熱デバイスに関連する寄生インピーダンス係数を含むことができる。」と記載され、段落【0030】に「・・所望の温度設定値は、例えば、24時間にわたって測定される複数の感熱デバイス125a-nによって検出された平均熱勾配に基づいて調整することができる。・・」と記載され、段落【0031】に「例示的な一実施形態では、所望の温度設定値を、過去24時間にわたって検出された平均熱勾配を超える値に、例えば、平均を25°F超える値に設定することができる。・・」と記載されているのみであって、段落【0028】に「外部感熱デバイスに関連する寄生インピーダンス係数を含むことができる」旨の記載はあるものの、そもそもこの外部感熱デバイスに関連する「寄生インピーダンス係数」とは如何なるものであるのか技術的にみて不明確であることに加えて、所与の期間(例えば24時間)にわたってそれぞれ測定された、「電子部品に関連する(複数の)熱勾配」や「外部の周囲温度に関連する熱勾配」とから具体的にどのような計算によって「平均熱勾配」を算出するのかが不明であり、そのため、「平均熱勾配」を計算するに際し、「外部の周囲温度に関連する熱勾配」なるものを考慮する(用いる)ことの技術的意味も適切に理解することができない。

ウ.上記「(2-1)特許法第36条第6項第2号違反(理由1)」における「ア.(c)」及び「イ.(d)」で示した判断に関連して、
発明の詳細な説明には、「平均熱勾配」と「温度設定値」に関して、例えば段落【0030】?【0031】に「所望の温度設定値は、複数の感熱デバイス125a-nが電子部品105の周囲に異なる熱勾配を検出したときに、経時的に調整することができる。所望の温度設定値は、例えば、24時間にわたって測定される複数の感熱デバイス125a-nによって検出された平均熱勾配に基づいて調整することができる。それに応じて、熱電対係数を調整することができる。例示的な一実施形態では、所望の温度設定値を、過去24時間にわたって検出された平均熱勾配を超える値に、例えば、平均を25°F超える値に設定することができる。これは、あらゆる所与の期間において温度が極端間を急激に変動した場合に、筐体内の安定温度を確保するのに十分な余裕を提供する。また、所望の設定値が、任意の所与の時間において、平均熱勾配を超えているように確保する。」と記載されているのみであり、「温度設定値」について、ある「温度の値」に対してそれよりも高く設定するというのではなく、温度変化の傾きを意味する「平均熱勾配」に対してそれよりも高く設定するということの技術的意味を理解することができない。

したがって、本件出願の発明の詳細な説明は、本願請求項1,6,12に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
よって、本件出願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

(3)むすび
以上のとおり、本件出願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-05-07 
結審通知日 2015-05-08 
審決日 2015-05-19 
出願番号 特願2009-525752(P2009-525752)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (H01L)
P 1 8・ 537- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 日比野 隆治中野 浩昌粟野 正明  
特許庁審判長 水野 恵雄
特許庁審判官 酒井 朋広
井上 信一
発明の名称 密閉筐体内PCB実装電子部品の熱安定化用機器および方法  
代理人 森下 夏樹  
代理人 山本 秀策  

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