• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B21D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B21D
管理番号 1306059
審判番号 不服2014-11898  
総通号数 191 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-06-23 
確定日 2015-10-01 
事件の表示 特願2010-110248「打抜き積層装置及び打抜き積層方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年11月24日出願公開、特開2011-235331〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本件出願は、平成22年5月12日の出願であって、平成25年11月5日付けで拒絶理由が通知され、平成26年1月10日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年3月31日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされた。
これに対し、平成26年6月23日に本件審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、平成26年11月4日に上申書が提出された。当審において平成27年4月10日付けで拒絶理由が通知され、同年6月12日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2.本願発明について
1.本願発明
本件出願の請求項1?5に係る発明は、平成27年6月12日に手続補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、当該手続補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明は、次のとおりである。
「ダイと、一方向に所定のピッチで間欠搬送されるワークをダイとの協働によって打抜くパンチと、打抜かれた打抜き片に側圧を付与する側圧リングと、打抜き片に対して前記パンチの反対側からパンチの方向に向かって逆圧を付与する逆圧付与機構とから構成されたパンチング手段を備え、前記打抜き片を前記側圧及び逆圧の付与下において積層するようにした打抜き積層装置において、
前記パンチング手段を複数設け、パンチング手段の打抜き稼働状態において休止状態のパンチング手段が存在するように、パンチング手段を打抜き稼働状態又は休止状態となるように選択するための選択手段を設け、
ワークの搬送方向において上流側のパンチング手段と下流側のパンチング手段とをワークの送りピッチの整数倍の間隔で配置し、
前記選択手段によって、上流側のパンチング手段を前記ダイと前記パンチとの協働によってワークを打抜く打抜き稼働状態とするとともに下流側のパンチング手段を前記ダイと前記パンチとの協働によるワークの打抜きを休止する休止状態とする第1切換パターンと、上流側のパンチング手段を前記ダイと前記パンチとの協働によるワークの打抜きを休止する休止状態とするとともに下流側のパンチング手段を前記ダイと前記パンチとの協働によるワークの打抜きを休止する休止状態とする第2切換パターンと、上流側のパンチング手段を前記ダイと前記パンチとの協働によるワークの打抜きを休止する休止状態とするとともに下流側のパンチング手段を前記ダイと前記パンチとの協働によってワークを打抜く打抜き稼働状態とする第3切換パターンと、上流側のパンチング手段を前記ダイと前記パンチとの協働によってワークを打抜く打抜き稼働状態とするとともに下流側のパンチング手段を前記ダイと前記パンチとの協働によってワークを打抜く打抜き稼働状態とする第4切換パターンとに切換選択され、前記各切換パターンが前記ワークの間欠搬送に同期して選択されることを特徴とする打抜き積層装置。」(以下、「本願発明」という。)

2.刊行物に記載された発明
上記平成27年4月10日付け拒絶理由通知書に引用され、本件出願前に頒布された刊行物である特開2001-9531号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。

(ア)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、所定の外形輪郭を有する複数個の構成部材を板材の打抜きによって形成し、これらの構成部材を順次積層して一体化する積層体の製造装置に関するものである。」
(イ)
「【0015】
【発明が解決しようとする課題】上記のような順送り加工装置によれば、長尺状の被加工材4から連続して積層体100を効率的に製造できるのであるが、積層装置5における処理時間が比較的に長いという問題点がある。すなわち、積層装置5においては、被加工材4に係止された構成部材を順次押抜いて積層した後、支持装置53から積層体100を排出し、その後支持装置53の上面を所定のレベルまで上昇復帰させること、その他の付随作業を行なう必要があり、これらの処理に若干の余剰の時間が必要となる。
【0016】この場合、パンチ・ダイセット2における加工タクトが比較的長いときには、全体としての加工タクトに影響はないが、上記タクトが短い場合には、積層装置5における処理作業が完了するまでの間、パンチ・ダイセット2における加工を中断し、被加工材4の送りを止めなければならない。従って、装置全体の加工効率を低下させるという問題点がある。
【0017】本発明は、上記従来技術に存在する問題点を解決し、装置全体の加工効率を向上させ得る積層体の製造装置を提供することを課題とする。」
(ウ)
「【0026】図8および図9は各々本発明の実施の形態における積層装置の例を示す一部断面正面図および一部断面側面図であり、同一部分は前記図4と同一の参照符号で示す。図8および図9において、積層装置5は前記図4に示すように被加工材4の送り方向の最下流側に、パンチ・ダイセット2とnPの間隔に、例えば2台設けられる。なお積層装置5、5間はsP(sは任意の正の整数)の間隔とするが、sは可能な限り小さい数とするのが好ましい。保持プレート56上には、材料ガイド64を上下動可能に設け、被加工材4の長手方向縁辺部と係合するように、かつ被加工材4の長手方向移動を許容し、送り方向と直交する方向の移動を拘束するように形成する。
【0027】次に支持装置53の構成について説明する。まず支持装置53は、全体をベース51に設けられた支持棒70および支持プレート71によってベース51内に介装支持されている。72は載置台であり、ベース51を貫通して設けられたガイドバー73およびガイドプレート74ならびに支持プレート71に立設され上端部におねじ75を備えてなる支持シャフト76を介して支持されている。77はめねじ部材であり、ガイドプレート74に設けられ、前記おねじ75と螺合する。なお前記おねじ75およびめねじ部材77のめねじは、多条ねじとし、リードが大になるように形成することが好ましい。
【0028】78はディスクであり、支持プレート71の下方において支持シャフトに固着され、ベース51から立設されたキャリパ81に設けられたシリンダ(図示せず)によって選択的に挟着されることにより、ディスクブレーキ82を構成し、支持シャフト76の回転を制動解除可能に形成する。80は駆動モータであり、支持プレート71に設けられ、前記支持シャフト76を正逆回転可能に構成する。79は軸受であり、支持シャフト76の下端部を支持する。
【0029】上記の構成により、前記図6に示す複数個のパンチ・ダイセット2を選択的に作動させることにより、前記図1に示す構成部材101?105を打抜成形およびプッシュバックにより押込み係止された被加工材4が、最終ステージである図8および図9に示す一方の積層装置5に搬送されると、材料ガイド64が下降して被加工材4を保持プレート56上に押圧固定する。
【0030】次に油圧シリンダ60の作動により圧着装置54を駆動し、被加工材4から構成部材を押抜いて支持装置53を構成する載置台72上に載置する。圧着パンチ58を上方に退避させた後、被加工材4を1ピッチPだけピッチ送りし、次の構成部材を上記同様にして、先の構成部材上に押抜き積層圧着する。圧着パンチ58の作動により、隣接する構成部材間は前記図2に示すダボ穴106にダボ107が係合して、強固に積層圧着されるのである。
【0031】上記圧着パンチ58による積層圧着時においては、駆動モータ80は不作動状態にしてあるが、ディスクブレーキ82を制動状態にしておくことにより、載置台72をその位置で停止させることができる。そして圧着パンチ58による構成部材の積層圧着時の押圧力により、ディスクブレーキ82の制動力に抗してめねじ部材77を介してこれと螺合するおねじ75が回動され、載置台72が構成部材の1枚の厚さ寸法相当量だけ下降し、その位置で停止する。すなわち、圧着パンチ58の押圧力をディスクブレーキ82の制動力より大になるように構成しておくことにより、上記のような構成部材を載置する載置台72の逐次下降、停止を繰り返すことができ、所定個数を積層一体化してなる積層体100を形成することができるのである。」
(エ)
「【0032】上記のように積層体100を形成した後、油圧シリンダ60の作動により、圧着パンチ58を上昇させ、排出装置85の作動により積層圧着後の積層体100を、排出シュート86を介して排出することができる。積層体100を載置台72から排出後、ディスクブレーキ82を解除した状態で駆動モータ80を作動させ、支持シャフト76の回転により、載置台72を保持プレート56の直下まで上昇させ、駆動モータ80を停止し、ディスクブレーキ82を制動状態とし、載置台72をその位置に確保する。そして次の構成部材の受け入れを可能にし、以下上記動作を繰り返すのである。
【0033】上記の積層体100の排出ないし載置台72の復帰を行なう間においては、被加工材4のピッチ送りおよびパンチ・ダイセット2による加工が実施できないので、この場合には他方の積層装置5を作動させる。これにより被加工材4に対する加工作業が中断されず、連続した加工が遂行できるのである。
【0034】すなわち、被加工材4の送り方向に沿って設けられた2台の積層装置5を交互に作動させることにより(被加工材4の送り方向下流側の積層装置5から上流側の積層装置5に移行する場合には、一時的に両者が同時に作動することがあるが)、装置全体として連続して稼動させることができ、加工効率を大幅に向上させ得るのである。なお積層装置5の設置台数は、パンチ・ダイセット2の加工タクト、積層装置5における処理時間等を勘案して、3台以上の複数台とし、これらを交互に作動させることができる。」
(オ)
「【0050】上記のようにして被加工材4にプッシュバックされた構成部材201?204は、前記図4において最終ステージに設けられた積層装置5に搬送され、構成部材201を挟んで構成部材204→201の順に順次積層一体化される。すなわち、ガイド部材57の下降により、被加工材4のパイロット穴にパイロットピンが係合して位置決め押圧した状態で、作動装置60を作動させ、作動部材63および圧着パンチ58を介して上記構成部材201?204を被加工材4から順次押抜いて、支持装置53上に載置する。
【0051】なお図8および図9における圧着パンチ58は導電材料によって圧着電極として形成され、絶縁材料からなるスペーサを介して作動部材63に固着される。そして圧着パンチ58と載置台72との間には、選択的に作動可能に形成された溶接電源(図示せず)を接続しておくものとする。
【0052】そして上記構成部材201?204を押抜く場合、構成部材201?204は被加工材4に形成された打抜穴35(図7参照)がダイの役割をすると共に、前記構成部材201?204は夫々打抜穴35によってガイドされて積層され、隣接する構成部材間は前記図10に示すようにダボ穴205にダボ209が係合すると共に突起部210の先端に溶接部215が形成されるから、一体化が可能となるのである。なお保持装置52上の保持プレート56に設けられる穴55は、構成部材201?204の最大外形輪郭より大に形成されているため、構成部材201?204の何れをも支障なく通過させることができる。
【0053】また構成部材201?204を支持する支持装置53は、圧着パンチ58による構成部材201?204の積層圧着毎に、それらの厚さ寸法相当量だけ下降し、その位置で停止するように構成することが好ましい。以上のようにして図3に示す積層体200が形成された後、これを支持装置53から排出し、次の積層圧着を繰返すのである。なお、積層装置5を複数台設置することによる装置全体の連続稼動作用は、前記の実施例におけるものと同様である。」
(カ)
図8、9から、支持装置53が、構成部材に対して圧着パンチ58の反対側から圧着パンチ58の方向に向かって支持することが看てとれる。





これらの記載事項及び認定事項から、刊行物1には以下の発明が記載されていると認める。

「被加工材4から構成部材を選択的に打抜成形および押込み係止する複数個のパンチ・ダイセット2を備えるとともに、保持プレート56と、一方向に所定のピッチで間欠搬送される被加工材4を打抜穴35がダイの役割をすることによって押抜く圧着パンチ58と、積層圧着時の圧着パンチ58による押圧力に対して制動力を付与する支持装置53とから構成された積層装置5を備え、前記構成部材を前記制動力の付与下において積層一体化する積層体の製造装置において、
前記積層装置5を複数設け、積層体100の排出ないし載置台72の復帰を行なう間においては、他方の積層装置5を作動させ、
被加工材4の搬送方向において上流側の積層装置5と下流側の積層装置5とを被加工材4の送りピッチの整数倍の間隔で配置し、
前記2台の積層装置5を交互に作動させることにより(被加工材4の送り方向下流側の積層装置5から上流側の積層装置5に移行する場合には、一時的に両者が同時に作動することがあるが)装置全体として連続して稼動させることができる、積層体の製造装置。」(以下、「引用発明」という。)

3.対比
本願発明と引用発明とを比較する。
引用発明の圧着パンチ58は、一方向に所定のピッチで間欠搬送される被加工材4を押抜くパンチであり、引用発明の制動力は、摘記事項(カ)より構成部材に対して前記圧着パンチの反対側から圧着パンチの方向に向かって付与する逆圧であることが明らかであり、引用発明の積層装置5は、圧着パンチ58によって被加工材4をパンチする手段であることから、引用発明の「保持プレート56と、一方向に所定のピッチで間欠搬送される被加工材4を打抜穴35がダイの役割をすることによって押抜く圧着パンチ58と、積層圧着時の圧着パンチ58による押圧力に対して制動力を付与する支持装置53とから構成された積層装置5」と本願発明の「ダイと、一方向に所定のピッチで間欠搬送されるワークをダイとの協働によって打抜くパンチと、打抜かれた打抜き片に側圧を付与する側圧リングと、打抜き片に対して前記パンチの反対側からパンチの方向に向かって逆圧を付与する逆圧付与機構とから構成されたパンチング手段」とは、「一方向に所定のピッチで間欠搬送されるワークを押抜くパンチと、打抜き片に対して前記パンチの反対側からパンチの方向に向かって逆圧を付与する逆圧付与機構とから構成されたパンチング手段」という限りにおいて一致する。

引用発明の「前記構成部材を前記制動力の付与下において積層一体化する積層体の製造装置」と本願発明の「前記打抜き片を前記側圧及び逆圧の付与下において積層するようにした打抜き積層装置」とは、「前記打抜き片を前記逆圧の付与下において積層するようにした打抜き積層装置」という限りにおいて一致する。
引用発明の「前記積層装置5を複数設け、積層体100の排出ないし載置台72の復帰を行なう間においては、他方の積層装置5を作動させ」と、本願発明の「前記パンチング手段を複数設け、パンチング手段の打抜き稼働状態において休止状態のパンチング手段が存在するように、パンチング手段を打抜き稼働状態又は休止状態となるように選択するための選択手段を設け」とは、「前記パンチング手段を複数設け、パンチング手段の押抜き稼働状態において休止状態のパンチング手段が存在するように、パンチング手段を押抜き稼働状態又は休止状態となるように選択するための選択手段を設け」という限りにおいて一致する。
引用発明の「被加工材4の搬送方向において上流側の積層装置5と下流側の積層装置5とを被加工材4の送りピッチの整数倍の間隔で配置し」は、本願発明の「ワークの搬送方向において上流側のパンチング手段と下流側のパンチング手段とをワークの送りピッチの整数倍の間隔で配置し」に相当する。

刊行物1には、長尺の被加工材4から積層体100を製造する際に、積層装置5における積層体の排出等に余剰の時間が必要となり、この間は加工を中断して被加工材の送りを止めなければならず、加工効率が低下するという課題(摘記事項(イ))に基づき、積層装置を被加工材の送り方向に沿って複数台設けるとともに(摘記事項(ウ))、複数の積層装置の作動について、積層体100の排出ないし載置台72の復帰を行なう間においては、被加工材4のピッチ送りおよびパンチ・ダイセット2による加工が実施できないので、この場合には他方の積層装置5を作動させ、これにより被加工材4に対する加工作業が中断されず、連続した加工が遂行できること(摘記事項(エ))が記載されており、このことから、引用発明において、一方の積層装置が排出処理を行う際に他方の積層装置を稼働させることが、積層装置を「交互に作動」させることの意味であると理解できる。
また、被加工材4のピッチ送りを含む、各積層装置の作動制御により、装置全体として連続して稼動させることが実現できたのであるから、複数の積層装置の作動と休止がワークの間欠搬送に同期して選択されることは、明らかである。

したがって、引用発明の「前記2台の積層装置5を交互に作動させることにより(被加工材4の送り方向下流側の積層装置5から上流側の積層装置5に移行する場合には、一時的に両者が同時に作動することがあるが)装置全体として連続して稼動させることができる」と、
本願発明の「前記選択手段によって、上流側のパンチング手段を前記ダイと前記パンチとの協働によってワークを打抜く打抜き稼働状態とするとともに下流側のパンチング手段を前記ダイと前記パンチとの協働によるワークの打抜きを休止する休止状態とする第1切換パターンと、・・・・第4切換パターンとに切換選択され、前記各切換パターンが前記ワークの間欠搬送に同期して選択される」とは、
「前記2台のパンチング手段を交互に作動させることにより(ワークの送り方向下流側のパンチング手段から上流側のパンチング手段に移行する場合には、一時的に両者が同時に作動することがあるが)装置全体として連続して稼動させることができ、各切換パターンが前記ワークの間欠搬送に同期して選択される」という限りにおいて一致する。

したがって、本願発明と引用発明とは、次の点で一致している。
「一方向に所定のピッチで間欠搬送されるワークを押抜くパンチと、打抜き片に対して前記パンチの反対側からパンチの方向に向かって逆圧を付与する逆圧付与機構とから構成されたパンチング手段を備え、前記打抜き片を前記逆圧の付与下において積層するようにした打抜き積層装置において、
前記パンチング手段を複数設け、パンチング手段の押抜き稼働状態において休止状態のパンチング手段が存在するように、パンチング手段を押抜き稼働状態又は休止状態となるように選択するための選択手段を設け、
ワークの搬送方向において上流側のパンチング手段と下流側のパンチング手段とをワークの送りピッチの整数倍の間隔で配置し、
前記2台のパンチング手段を交互に作動させることにより(ワークの送り方向下流側のパンチング手段から上流側のパンチング手段に移行する場合には、一時的に両者が同時に作動することがあるが)装置全体として連続して稼動させることができ、各切換パターンが前記ワークの間欠搬送に同期して選択される打抜き積層装置。」
そして、本願発明と引用発明とは、以下の点で相違する。
[相違点1]本願発明では、パンチング手段が「ダイ」及び「側圧リング」を備え、パンチがワークを「ダイとの協働によって打抜く」とともに、側圧リングが「打抜かれた打抜き片に側圧を付与」し、打抜き片を「側圧」及び逆圧の付与下で積層するのに対して、引用発明では、「ダイ」及び「側圧リング」を備えておらず、逆圧は付与するものの「側圧」は付与しない点。
[相違点2]本願発明では、「前記選択手段によって、上流側のパンチング手段を前記ダイと前記パンチとの協働によってワークを打抜く打抜き稼働状態とするとともに下流側のパンチング手段を前記ダイと前記パンチとの協働によるワークの打抜きを休止する休止状態とする第1切換パターンと、上流側のパンチング手段を前記ダイと前記パンチとの協働によるワークの打抜きを休止する休止状態とするとともに下流側のパンチング手段を前記ダイと前記パンチとの協働によるワークの打抜きを休止する休止状態とする第2切換パターンと、上流側のパンチング手段を前記ダイと前記パンチとの協働によるワークの打抜きを休止する休止状態とするとともに下流側のパンチング手段を前記ダイと前記パンチとの協働によってワークを打抜く打抜き稼働状態とする第3切換パターンと、上流側のパンチング手段を前記ダイと前記パンチとの協働によってワークを打抜く打抜き稼働状態とするとともに下流側のパンチング手段を前記ダイと前記パンチとの協働によってワークを打抜く打抜き稼働状態とする第4切換パターンとに切換選択され」るのに対して、引用発明では、パンチング手段の交互作動により装置全体として連続して稼動させるものの、4つのパターンに切換えることは特定されていない点。

4.相違点の検討
[相違点1について]
引用発明は、被加工材から構成部材を打抜き、押抜いて積層一体化する、積層体の製造装置に関するものである。
引用発明のパンチ・ダイセットは、構成部材の外形輪郭に対応した台数が配設され、しかも、積層装置と併せて被加工材の流れに沿って配設されるものであるから、大きな設置スペースが必要となることは、当業者でなくとも容易に想定され得るところである。
一方、刊行物2(特開2006-35267号公報、請求項1?3、図1参照)には、円柱状のパンチ2と、スキューズリング5と、鉄心片に背圧を与える電動機20と、払出しシリンダ1sとを備えた積層金型装置が記載されており、従来技術としてではあるが、金属薄板Wから鉄心片Tを外形抜きしてダイDに抜き込むとともに、スキューズリングRの側圧によって先行する鉄心片Tを保持する旨(段落0004、図7参照)が記載されている。
そして、引用発明、及び、刊行物2記載の発明は、技術分野が共通しており、引用発明においては、打抜きと積層とが別構成とされているものの、打抜・積層装置を兼用した方が省スペースであることも明らかである。
加えて、積層体を製造するために、パンチング手段にダイ及び側圧リングを設け、パンチとダイとの協働によってワークを打抜くとともに、側圧及び逆圧の付与下で打抜き片を積層するようにすることは、例えば刊行物2、特開2006-26735号公報(段落0025参照)に示すように、斯界において周知の技術であり、その採否は、設置スペースの大きさ等を勘案し、当業者であれば適宜に決定し得ることである。
したがって、引用発明において、より小さなスペースでも配設可能にする等の目的で刊行物2記載の周知技術を適用し、積層装置のそれぞれに打抜きの機能を持たせるようにすることは、当業者であれば容易に思い付くことと認められる。
しかも、本願発明が、上記構成を採用したことにより、引用発明、刊行物2記載の発明及び上記周知技術から予測することのできない、格別の作用効果を生ずるものとも解されない。
したがって、相違点1については、当業者であれば容易になし得たものと認められる。

[相違点2について]
引用発明において、上流側と下流側の2台のパンチング手段の稼働と休止の組合せが4とおりしかないことは、証拠を示すまでもなく明らかであり、しかも、被加工材4の送り方向に沿って設けられた2台の積層装置5を交互に作動させ、かつ、被加工材4の送り方向下流側の積層装置5から上流側の積層装置5に移行する場合には、一時的に両者が同時に作動することにより、装置全体として加工効率を向上させ得るものであるから、引用発明は、稼働と休止のパターンが2つだけのものに限らず、3パターン以上の切換えも含むものである。
してみると、2台の積層装置の稼働と休止を決定するにあたり、4パターンの切換えとするかどうかは設計事項の範疇と認められ、切換選択できるパターンの数を単に4パターンに特定することによって、特段の作用・効果を生じるものとも認められない。

以下、4パターンの切換えとすることが設計事項ではないものと仮定して予備的に検討すると、上流側積層装置の稼働を停止して上流側積層装置の排出処理を始める際には、被加工材のうち上流側積層装置で押抜き処理された部分の最後尾が下流側積層装置を通過するまでの間、下流側積層装置には、被加工材のうち上流側積層装置によって押抜き処理済みの部分のみが給送される。そして、この時下流側積層装置によって処理を行うと上流側積層装置によって既に押抜き処理された部分に対して、更に押抜き処理することになるから、このような場合に、下流側積層装置の不必要な稼働をなくす等の目的で、上流側積層装置に加えて下流側積層装置を休止させる第2切換パターンを選択することも、当業者であれば、容易になし得る事項と認められる。

なお、審判請求人は、上申書の(4)において、
「刊行物1に記載された発明は、あくまでも、下流側の積層装置と上流側の積層装置とを交互に作動させる発明であるから、仮に、両積層装置が同時に構成部材を打ち抜いたのでは、発明の主旨に反することになる。」
旨を主張している。
しかしながら、刊行物1の段落0034には2台の積層装置5を交互に作動させることと並んで、「被加工材4の送り方向下流側の積層装置5から上流側の積層装置5に移行する場合には、一時的に両者が同時に作動することがあること」が明記されており、両者を同時に作動させるパターンが選択されても加工効率が向上するものであるから、発明の主旨に反するところはない。

また、審判請求人は、平成27年6月12日に提出した意見書の(3)において、次のように主張している。
「刊行物1に記載された発明の課題は、
『パンチ・ダイセット2における加工タクトが比較的長いときには、全体としての加工タクトに影響はないが、上記タクトが短い場合には、積層装置5における処理作業が完了するまでの間、パンチ・ダイセット2における加工を中断し、被加工材4の送りを止めなければならない。従って、装置全体の加工効率を低下させるという問題点がある。』(段落[0016]参照)
というとおり、パンチ・ダイセット2の加工にあわせて、積層装置5をどのように動作させるべきかという点にある。」
しかしながら、上記記載から読み取られる課題は、審判請求人が主張するように、単に積層装置の動作をパンチ・ダイセットにあわせることでなく、むしろ、いずれの処理も中断させることなく、装置全体としての加工効率の低下を防ぐことであると解される。

しかも、本願発明が奏する効果も、引用発明、刊行物2記載の発明及び上記周知技術から当業者が予測できたものであり、格別なものとはいえない。
以上のことから、本願発明は、引用発明、刊行物2記載の発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-07-27 
結審通知日 2015-07-28 
審決日 2015-08-17 
出願番号 特願2010-110248(P2010-110248)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B21D)
P 1 8・ 537- WZ (B21D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宇田川 辰郎  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 刈間 宏信
渡邊 真
発明の名称 打抜き積層装置及び打抜き積層方法  
代理人 恩田 博宣  
代理人 恩田 誠  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ