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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 (159条1項、163条1項、174条1項で準用) 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1306065
審判番号 不服2014-17595  
総通号数 191 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-09-04 
確定日 2015-10-01 
事件の表示 特願2011-96386「窒化ケイ素研磨用組成物およびこれを用いた選択比の制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年9月15日出願公開、特開2011-181947〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本件審判請求に係る出願(以下、「本願」という。)は、平成21年10月19日(優先権主張、平成20年10月20日)を国際出願日とする出願(特願2010-532764号)の一部を新たな特許出願としたものであって、
平成23年4月22日付けで願書等が提出され、
平成24年10月12日付けで審査請求がなされ、
平成25年9月27日付けで拒絶理由通知(平成25年10月1日発送)がなされ、
これに対して平成25年11月21日付けで意見書が提出されると共に同日付けで手続補正がなされ、
平成26年2月24日付けで最後の拒絶理由通知(平成26年2月25日発送)がなされ、
これに対して平成26年4月1日付けで意見書が提出されると共に同日付けで手続補正がなされ、
平成26年6月24日付けで、平成26年4月1日付けの手続補正についての補正の却下の決定(平成26年7月1日発送)がなされると共に同日付けで平成26年2月24日付けの拒絶理由通知書に記載した理由1-2(特許法第29条第1項第3号及び第2項)によって拒絶査定(平成26年7月1日謄本発送・送達)がなされたものである。

これに対して、「平成26年6月24日になされた補正の却下の決定ならびに査定を取り消す。本願発明は特許すべきものとする、との審決を求める。」ことを請求の趣旨として平成26年9月4日付けで審判請求がなされ、平成27年6月16日付けで結審通知がなされたものの、これに対して同年同月24日付けで審理再開申立書が提出され、これを受けて同年同月25日付けで審理再開通知がなされ(同年同月30日発送)、同年7月9日に面接がなされたものである。


第2 補正の却下の決定の適否

請求人は、平成26年6月24日付けの補正の却下の決定に不服を申し立てているので、その適否について検討する。

1 補正の却下の決定の対象となった補正の内容
本件補正の却下の決定の対象となった平成26年4月1日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について、補正前に、

<補正前の特許請求の範囲>
「 【請求項1】
窒化ケイ素研磨用組成物であって、
1)コロイダルシリカと、
2)リン酸系化合物および硫酸の少なくとも一方からなる研磨助剤とを含み、
前記リン酸系化合物は、リン酸、ピロリン酸、ポリリン酸およびこれらの塩から選ばれる少なくとも1つからなり、
前記リン酸系化合物のうち、リン酸一アンモニウムおよびリン酸二アンモニウムを除き、
前記コロイダルシリカのうち、表面の一部がアルミニウムで覆われているコロイダルシリカを除き、
窒素原子を含まない有機酸からなるゲル化抑制剤を除く、窒化ケイ素研磨用組成物。
【請求項2】
前記研磨助剤は、前記ピロリン酸および前記硫酸からなる、請求項1に記載の窒化ケイ素研磨用組成物。
【請求項3】
前記コロイダルシリカの平均粒子径は、15nm以上80nm以下である、請求項1または請求項2に記載の窒化ケイ素研磨用組成物。
【請求項4】
酸化剤をさらに含む、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の窒化ケイ素研磨用組成物。
【請求項5】
前記ピロリン酸の含有量は、0.1重量%以上2.0重量以下である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の窒化ケイ素研磨用組成物。
【請求項6】
乳酸またはフタル酸水素カリウムからなる添加剤をさらに含む、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の窒化ケイ素研磨用組成物。」

とあったものを、

<補正後の特許請求の範囲>
「 【請求項1】
窒化ケイ素研磨用組成物であって、
1)コロイダルシリカと、
2)リン酸系化合物および硫酸の少なくとも一方からなる研磨助剤とを含み、
前記リン酸系化合物は、リン酸、ピロリン酸、ポリリン酸およびこれらの塩から選ばれる少なくとも1つからなり、
前記研磨助剤の含有量は、0.1重量%以上2.0重量%以下であり、
前記リン酸系化合物のうち、リン酸一アンモニウムおよびリン酸二アンモニウムを除き、
前記コロイダルシリカのうち、表面の一部がアルミニウムで覆われているコロイダルシリカを除き、
窒素原子を含まない有機酸からなるゲル化抑制剤を除く、窒化ケイ素研磨用組成物。
【請求項2】
前記研磨助剤は、前記ピロリン酸および前記硫酸からなる、請求項1に記載の窒化ケイ素研磨用組成物。
【請求項3】
前記コロイダルシリカの平均粒子径は、15nm以上80nm以下である、請求項1または請求項2に記載の窒化ケイ素研磨用組成物。
【請求項4】
酸化剤をさらに含む、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の窒化ケイ素研磨用組成物。
【請求項5】
乳酸またはフタル酸水素カリウムからなる添加剤をさらに含む、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の窒化ケイ素研磨用組成物。」

と補正しようとするものである。

2 補正の却下の決定の理由
これに対して、上記平成26年6月24日付け補正の却下の決定(以下、「本件補正却下の決定」と記す。)の理由は、次のとおりである。

「 請求項1についての補正は限定的減縮を目的としている。この場合、補正後の請求項1に係る発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。

しかし、当該補正後の請求項1に係る発明は、以下の理由により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

・理由(1)
平成26年2月24日付け拒絶理由通知書で示した引用文献3(特開2008-093819号公報)には、窒化ケイ素研磨用組成物として(段落0042)、コロイダルシリカと(段落0014等)、リン酸系化合物(段落0017:「ピロリン酸」)および硫酸(段落0017)の少なくとも一方とを含有するものが記載されており、また、リン酸系化合物、硫酸等の酸系化合物の含有量として、0.0025?2.5重量%が好ましいことが記載されている(段落0019)。
したがって、当該補正後の請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項第3号又は特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

・理由(2)
平成26年2月24日付け拒絶理由通知書で示した引用文献4(国際公開第2007/146065号)には、窒化ケイ素研磨用組成物として([0001])、コロイダルシリカと([0019])、リン酸系化合物([0022]-[0024]:「phosphoric acid」、「pyrophosphoric acid」等)および硫酸([0022]-[0024]:「sulfuric acid」)の少なくとも一方とを含有するものが記載されており、また、リン酸系化合物、硫酸等の酸性成分の含有量として、0.001?10質量%であることが記載されている([0023])。
したがって、当該補正後の請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項第3号又は特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

・理由(3)
平成26年2月24日付け拒絶理由通知書で示した引用文献1-6(引用文献1:特開2008-227098号公報、引用文献2:特開2008-179763号公報、引用文献3:特開2008-093819号公報、引用文献4:国際公開第2007/146065号、引用文献5:特開2004-214667号公報、引用文献6:特開2006-120728号公報)には、該拒絶理由通知書で示した通り、窒化ケイ素研磨用組成物として、コロイダルシリカと、リン酸系化合物および硫酸の少なくとも一方とを含有するものが記載されている。
そして、窒化ケイ素研磨用組成物において、リン酸系化合物および硫酸等の酸性分の含有量を研磨特性に応じて適宜好適化することは、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。
また、本願発明において、リン酸系化合物および硫酸の少なくとも一方からなる研磨助剤の含有量を、0.1重量%以上2.0重量%以下とすることによる格別な効果は認められない。
したがって、当該補正後の請求項1に係る発明は、引用文献1-6記載の発明により、当業者が容易に想到し得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

よって、この補正は特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第53条第1項の規定により上記結論のとおり決定する。

引用文献等一覧
1.特開2008-227098号公報(上記拒絶理由通知:引用文献1)
2.特開2008-179763号公報(上記拒絶理由通知:引用文献2)
3.特開2008-093819号公報(上記拒絶理由通知:引用文献3)
4.国際公開第2007/146065号(上記拒絶理由通知:引用文献4)
5.特開2004-214667号公報(上記拒絶理由通知:引用文献5)
6.特開2006-120728号公報(上記拒絶理由通知:引用文献6)」

3 本件補正却下の決定についての当審の判断
(1)特許法第17条の2第3項(新規事項)及び第5項(目的要件)に関する検討

本件補正は、請求項1に係る発明の窒化ケイ素研磨用組成物に含むとされる「研磨助剤」に関し、補正により新たに「前記研磨助剤の含有量は、0.1重量%以上2.0重量%以下であり」との事項を付加させつつ、補正前の請求項5を削除するものであり、当該付加事項は当初明細書ないし図面の【0033】、【0057】-【0064】、【図1】、【0073】-【0076】、および【図2】に直接ないし間接的に記載された事項であって、新規事項ではなく、補正前後で産業上の利用分野及び解決しようとする課題に変更がないのは明らかである。
また、当該事項の付加により補正後の請求項1ないし5は研磨助剤の含有量に関する限定が加えられるため、当該補正は特許法第17条の2第5項第2号でいう、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)独立特許要件について
上記(1)に示したとおり、特許法第17条の2第3項及び第5項の規定を満たす本件補正後の請求項1ないし5に記載されている事項により特定される発明(以下、請求項1に係る発明を、「本件補正発明」という。)は、同法同条第6項の定めを満足することとされているため、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2-1)本件補正発明
本件補正発明は、上記「1 補正の却下の決定の対象となった補正の内容」の「<補正後の特許請求の範囲>」において【請求項1】として記載したものである。

(2-2)先行技術

(2-2-1)引用文献1及び引用発明1
本願の原出願の優先日前に頒布され、原審の拒絶査定の理由である上記平成26年2月24日付けの拒絶理由通知において引用された、特開2008-93819号公報(平成20年4月24日公開、以下、「引用文献1」という。)には、関連する図面とともに、以下の技術的事項が記載されている。
(下線は、当審にて附加した。)

A 「【0005】
本発明は、生産性を損なわずに磁気ディスク基板の表面粗さを低減できる磁気ディスク基板用研磨液組成物と、これを用いた磁気ディスク基板の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の磁気ディスク基板用研磨液組成物は、水と、シリカ粒子と、酸、酸の塩及び酸化剤から選ばれる少なくとも1つとを含有する磁気ディスク基板用研磨液組成物であって、
前記シリカ粒子は、透過型電子顕微鏡観察による測定で得られた該シリカ粒子の最大径を直径とする円の面積を該シリカ粒子の投影面積で除して100を乗じた値が100?130の範囲である磁気ディスク基板用研磨液組成物である。
【0007】
本発明の磁気ディスク基板の製造方法は、水と、シリカ粒子と、酸、酸の塩及び酸化剤から選ばれる少なくとも1つとを含有する研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨する工程を含む磁気ディスク基板の製造方法であって、
前記研磨液組成物は、上述した本発明の磁気ディスク基板用研磨液組成物である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、研磨速度の低下を抑制できるため、生産性を損なわずに表面粗さが低減された磁気ディスク基板を提供することができる。」

B 「【0014】
本発明の研磨液組成物に用いられるシリカとしては、例えばコロイダルシリカ、ヒュームドシリカ、表面修飾したシリカ等が挙げられる。中でもコロイダルシリカは、基板表面の平坦性をより向上させることができるため好ましい。コロイダルシリカは、市販のものでもよいし、ケイ酸水溶液から生成させる公知の製造方法等により得られたものでもよい。シリカの使用形態としては、操作性の観点からスラリー状であることが好ましい。なお、本発明に用いられるシリカ粒子としては、SF1が上記範囲内であれば、1種類のシリカ粒子からなるものであっても、2種類以上のシリカ粒子を混合したものであってもよい。」

C 「【0017】
本発明の研磨液組成物に使用できる酸及び/又はその塩としては、研磨速度の向上の観点から、その酸のpK1が2以下の化合物が好ましく、微小スクラッチを低減する観点からは、好ましくはpK1が1.5以下、より好ましくは1以下、さらに好ましくはpK1で表せない程の強い酸性を示す化合物である。その例としては、硝酸、硫酸、亜硫酸、過硫酸、塩酸、過塩素酸、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、アミド硫酸等の無機酸及びその塩、2-アミノエチルホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1,-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸、α-メチルホスホノコハク酸等の有機ホスホン酸及びその塩、グルタミン酸、ピコリン酸、アスパラギン酸等のアミノカルボン酸及びその塩、シュウ酸、ニトロ酢酸、マレイン酸、オキサロ酢酸等のカルボン酸及びその塩等が挙げられる。中でも、微小スクラッチを低減する観点から、無機酸や有機ホスホン酸及びそれらの塩が好ましい。」

D 「【0019】
前記酸及びその塩の研磨液組成物中における含有量は、充分な研磨速度を発揮する観点および表面品質を向上させる観点から、0.0001?5重量%が好ましく、より好ましくは0.0003?4重量%であり、さらに好ましくは0.001?3重量%、さらにより好ましくは0.0025?2.5重量%である。」

E 「【0042】
本発明において好適に使用される被研磨基板の材質としては、例えばシリコン、アルミニウム、ニッケル、タングステン、銅、タンタル、チタン等の金属若しくは半金属、又はこれらの合金や、ガラス、ガラス状カーボン、アモルファスカーボン等のガラス状物質や、アルミナ、二酸化珪素、窒化珪素、窒化タンタル、炭化チタン等のセラミック材料や、ポリイミド樹脂等の樹脂等が挙げられる。」

F 「【0047】
[表1及び表2に記載の研磨液組成物の調製方法]
表1及び表2に記載のコロイダルシリカ(シリカA?L)と、硫酸(和光純薬工業社製 特級)及びHEDP(1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、ソルーシア・ジャパン製 ディクエスト2010)と、過酸化水素水(旭電化製 濃度:35重量%)とをイオン交換水に添加し、これらを混合することにより、以下に記載の組成を有する研磨液組成物を調製した。混合する順番としては、まず、イオン交換水に硫酸及び/又はHEDPを加えた後、過酸化水素水を加え、次いでコロイダルシリカスラリーをゲル化しないように攪拌しながら配合した。配合比は以下のとおりとした。なお、実施例12?28及び比較例8?11の研磨液組成物は、いずれも酸価が4.9mgKOH/gであり、かつpHが1.5であった。
実施例1?9及び比較例1?6:シリカ5重量%、硫酸0.4重量%、過酸化水素0.3重量%(HEDPは添加せず)
実施例10,11及び比較例7:シリカ7重量%、HEDP2重量%、過酸化水素0.6重量%(硫酸は添加せず)
実施例12?28及び比較例8?11:シリカ7重量%、硫酸0.4重量%、HEDP0.1重量%、過酸化水素0.4重量%」


上記Aには、研磨速度の低下を抑制できる、水と、シリカ粒子と、酸、酸の塩及び酸化剤から選ばれる少なくとも1つとを含有する研磨液組成物に関するものであることが記載され、上記Eにはその用途として窒化珪素基板の研磨用とされる旨が記載されている。

上記Bには、シリカ粒子としてコロイダルシリカを用いることができる旨が記載されている。

上記Cには、酸、酸の塩として、硫酸、リン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸およびこれらの塩が挙げられる旨が記載されている。

上記Dには、酸、酸の塩の含有量が、充分な研磨速度を発揮する観点から、0.0001?5重量%が好ましく、より好ましくは0.0003?4重量%であり、さらに好ましくは0.001?3重量%、さらにより好ましくは0.0025?2.5重量%である旨が記載されている。

上記Fには、調整された研磨液組成物とその組成として、コロイダルシリカと0.4重量%の硫酸とを含む研磨液組成物とされる実施例1?9及び比較例1?6が記載されているとともに、コロイダルシリカと0.4重量%の硫酸と0.1重量%のHEDP(1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸)とを含む研磨液組成物とされる実施例12?28及び比較例8?11とが記載されている。

以上のことから、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

(引用発明1)
「窒化珪素基板研磨用組成物であって、
コロイダルシリカと、
硫酸、リン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸とされた酸、およびこれらの酸の塩、並びに酸化剤から選ばれる少なくとも1つと、
を含有し、
前記酸、酸の塩の含有量は、0.0001重量%以上5重量%以下とされ、
前記酸として硫酸を0.4重量%としたものである、
窒化珪素基板研磨用組成物。」

(2-2-2)引用文献2及び引用発明2
本願の原出願の優先日前に頒布され、原審の上記平成26年2月24日付けの拒絶理由通知において引用された、国際公開第2007/146065号(2007年12月21日公開、以下、「引用文献2」という。)には、以下の技術的事項が記載されている。(日本語訳は、引用文献2の日本語ファミリーである特表2009-540575号公報を援用し、括弧書きで付した。また、下線は、当審にて附加した。)

G 「[0001] This invention relates to polishing compositions and methods. More particularly, this invention relates to methods for polishing silicon nitride-containing substrates and compositions therefor.」
(【0001】
本発明は、研磨組成物および研磨方法に関する。より詳細には、本発明は、窒化シリコン含有基材を研磨する方法およびそのための組成物に関する。)

H 「[0019] The colloidal silica is present in the polishing composition in an amount in the range of 0.01 to 15% by weight. Preferably, the colloidal silica is present in the CMP composition in an amount in the range of 0.05 to 8% by weight, more preferably 0.1 to 4% by weight. The colloidal particles preferably have a mean particle size in the range of 1 run to 500 ran, more preferably 10 nm to 50 nm, as determined'by laser light scattering techniques, which are well known in the art.」
(【0019】
コロイダルシリカは、研磨組成物中に、0.01から15質量%の範囲の量で存在する。好ましくは、コロイダルシリカは、CMP組成物中に、0.05から8質量%、より好ましくは0.1から4質量%の範囲の量で存在する。コロイド状粒子は、当該分野で周知であるレーザー光散乱法で評価した場合に、好ましくは1nmから500nm、より好ましくは10nmから50nmの範囲の平均粒子サイズを有する。)

I 「[0022] As used herein and in the appended claims in reference to the compositions and methods of the invention, the term "at least one acidic component having a pKa in the range of 1 to 4.5" encompasses materials comprising at least one acidic hydrogen that has a dissociation constant corresponding to a pKa in the range of 1 to 4.5. Accordingly, materials having a single acidic hydrogen, as well as materials having two or more acidic hydrogens fall within the scope of the acid component of the compositions. Materials that have two or more acidic hydrogens (e.g., sulfuric acid, phosphoric acid, succinic acid, citric acid, and the like) have a plurality of successive pKa values corresponding to the successive dissociation of each acidic hydrogen. For example, phosphoric acid has three acidic hydrogens, and three pKa values (i.e., 2.1, 7.2, and 12.4) corresponding to dissociation of the first, second, and third hydrogens, respectively. For materials having multiple acidic hydrogens, only one of the pKa values must be in the range of 1 to 4.5. Any other acidic hydrogen in such compounds can have a pKa within the range of 1 to 4.5, can have a pKa less than 1, or can have a pKa greater than 4.5.
[0023] The acidic component comprises 0.001 to 10% by weight (10 ppm to 100,000 ppm) of the polishing composition. Preferably, the acidic component is present in the composition in an amount in the range of 100 to 5000 ppm, more preferably in the range of 500 to 2000 ppm.
[0024] The acidic component can be any inorganic or organic acid having a pKa in the range of 1 to 4.5. In some preferred embodiments, the acidic component can be an inorganic acid, a carboxylic acid, an organophosphonic acid, an acidic heterocyclic compound, a salt thereof, or a combination of two or more of the foregoing. Non-limiting examples of suitable inorganic acids include sulfuric acid (i.e., hydrogen sulfate ion, HSO_( 4)^( -) ), phosphoric acid, phosphorous acid, pyrophosphoric acid, sulfurous acid, and tetraboric acid). Non-limiting examples of suitable carboxylic acids include, monocarboxylic acids (e.g., benzoic acid, phenylacetic acid, 1 -naphthoic acid, 2-naphthoic acid, glycolic acid, formic acid, lactic acid, mandelic acid, and the like), and polycarboxylic acids (e.g., oxalic acid, malonic acid, succinic acid, adipic acid, tartaric acid, citric acid, maleic acid, fumaric acid, aspartic acid, glutamic acid, phthalic acid, isophthalic acid, terephthalic acid, 1,2,3,4-butanetetracarboxylic acid, itaconic acid, and the like). Non-limiting examples of suitable organic phosphonic acids include, include phosphonoacetic acid, iminodi(methylphosphonic acid), DEQUEST?2000LC brand amino-tri(methylenephosphonic acid), and DEQUEST?2010 brand hydroxyethylidene-l,l-diphosphonic acid, both of which are available from Solutia.」
(【0022】
本発明の組成物および方法に関して本明細書および添付の特許請求の範囲で用いる用語「pKaが1?4.5の範囲である少なくとも1種の酸性成分」は、1?4.5の範囲のpKaに対応する解離定数を有する少なくとも1つの酸性水素を含む物質を包含する。従って、単一の酸性水素を有する物質の他、2つ以上の酸性水素を有する物質が組成物の酸成分の範囲に入る。2つ以上の酸性水素を有する物質(例えば、硫酸、リン酸、コハク酸、クエン酸等)は、各酸性水素の一連の解離に対応する複数の一連のpKa値を有する。例えば、リン酸は、3つの酸性水素、および、第1、第2および第3の水素の解離にそれぞれ対応する3つのpKa値(すなわち、2.1,7.2および12.4)を有する。複数の酸性水素を有する物質について、pKa値のうち1つのみが1?4.5の範囲であればよい。このような組成物における任意の他の酸性水素は、1?4.5の範囲のpKaを有することができ、1未満のpKaを有することができ、または4.5超のpKaを有することができる。
【0023】
酸性成分は、研磨組成物の0.001?10質量%(10ppm?100,000ppm)含む。好ましくは、酸性成分は、組成物中に100?5000ppmの範囲、より好ましくは500?2000ppmの範囲の量で存在する。
【0024】
酸性成分は、pKaが1?4.5の範囲の任意の無機または有機の酸であることができる。幾つかの好ましい態様において、酸性成分は、無機酸、カルボン酸、有機ホスホン酸、酸性複素環化合物、これらの塩、またはこれらの2種以上の組合せであることができる。好適な無機酸の限定しない例としては、硫酸(すなわち、硫酸水素イオンHSO_(4)^(-))、リン酸、亜リン酸、ピロリン酸、亜硫酸、および四ホウ酸が挙げられる。好適なカルボン酸の限定しない例としては、モノカルボン酸(例えば、安息香酸、フェニル酢酸、1-ナフトエ酸、2-ナフトエ酸、グリコール酸、ギ酸、乳酸、マンデル酸等)、およびポリカルボン酸(例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、酒石酸、クエン酸、マレイン酸、フマル酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸、イタコン酸等)が挙げられる。好適な有機ホスホン酸の限定しない例としては、ホスホノ酢酸、イミノジ(メチルホスホン酸)、DEQUEST(登録商標)2000LC銘柄のアミノトリ(メチレンホスホン酸)およびDEQUEST(登録商標)2010銘柄のヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(これらは両者ともSolutiaから入手可能)が挙げられる。好適な酸性複素環化合物の限定しない例としては、尿酸、アスコルビン酸等が挙げられる。)

J 「[0026] The compositions and methods of the invention provide useful silicon nitride removal rates over a wide range of pH, colloidal silica concentration, and acid component concentration. In some particularly preferred embodiments, the silicon nitride removal rate is 250 Angstroms per minute (Å/min) or greater when polishing a silicon nitride blanket wafer on a table-top CMP polisher at a down force of 3.5 pounds per square inch (psi), a platen speed of 60 revolutions per minute (rpm), a carrier speed of 56 rpm, and a polishing slurry flow rate of 100 milliliters per minute (mL/min). As an added benefit, the compositions of the present invention can also provide for selective removal of silicon nitride in the presence of silicon oxide or polysilicon.」
(【0027】
本発明の組成物および方法は、幅広い範囲のpH、コロイダルシリカ濃度、および酸成分濃度に亘って有用な窒化シリコン除去速度を与える。幾つかの具体的に好ましい態様において、卓上CMP研磨機上で、ダウンフォース3.5ポンド毎平方インチ(psi)、プラテン速度60回転毎分(rpm)、キャリア速度56rpm、および研磨スラリー流速100ミリリットル毎分(mL/分)で窒化シリコンブランケットウエハを研磨する場合に、窒化シリコン除去速度は250オングストローム毎分(Å/分)以上である。付け加える利点として、本発明の組成物はまた、酸化シリコンまたはポリシリコンの存在下での窒化シリコンの選択的な除去を与えることができる。)

K 「[0039] The following examples further illustrate the invention but, of course, should not be construed as in any way limiting its scope. As used herein and in the following Examples and claims, concentrations reported as parts per million (ppm) are based on the weight of the active component of interest divided by the weight of the composition (e.g., as milligrams of component per kilogram of composition). For example, DEQUEST?2010LA is sold as a 60% by weight aqueous solution of hydroxyethylidene-l,l-diphosphonic acid; thus, 2000 ppm of DEQUEST?2010LA refers to 2000 milligrams of hydroxyethylidene- 1 , 1 -diphosphonic acid in one kilogram of the composition on an actives basis, which corresponds to 3300 milligrams of DEQUEST?2010LA product (60 percent aqueous solution) in 996.7 grams of the CMP composition.

EXAMPLE 1

[0040] This example illustrates the effectiveness of the compositions of the present invention for polishing silicon nitride substrates.

[0041] Ten different polishing compositions were used to separately chemically- mechanically polish similar silicon nitride blanket wafers (Compositions IA-I J). Each of the polishing compositions comprised 0.5 to 5% by weight of colloidal silica (having a mean particle size of 20 ran). The amount of silica, the amount and type of acid, the pH of the composition, and the pKa of the acid for each composition are shown in Table 2. Examples IB, ID, IF, and II are compositions of the invention, while Examples IA, 1C, IE, IG, and IH are comparative compositions in which the pH of the composition is outside the range of the invention.

[0042] The polishing compositions were utilized on a bench-top polisher to polish blanket wafers of silicon nitride under the following polishing conditions: down-force of 3.5 psi, platen speed of 60 rpm, carrier speed of 56 rpm, and a slurry feed rate of 100 rriL per minute (mL/min). The silicon nitride removal rate ("Nitride RR") obtained for each polishing composition was determined. The results are set forth in Table 2.

Table 2; Effects of acidic components and pH on silicon nitride removal rates

(略)

*DEQUEST?2010LA (hydroxyethylidene-l,l-diphosphonic acid)

[0043] As is apparent from the results set forth in Table 2, each of the inventive polishing compositions exhibited a silicon nitride removal rate of greater than 250 A/min. The comparative compositions exhibited considerably lower removal rates.」
(注:摘記中に「?」とされた箇所は、○にRとされた登録商標を意味する略記号である。)
(【実施例】
【0040】
以下の例は本発明を更に説明するが、無論決してその範囲を限定するものと解釈すべきでない。本明細書ならびに以下の例および特許請求の範囲において用いる部毎100万(ppm)として記録される濃度は、関係する活性成分の質量基準で、組成物の質量で除したもの(例えば、組成物のキログラム当たりの成分のミリグラムとして)である。例えば、DEQUEST(登録商標) 2010LAは、ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸の60質量%水溶液として販売され、従って、2000ppmのDEQUEST(登録商標) 2010LAは、活性物基準で、組成物1キログラム中の2000ミリグラムのヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸を意味し、これは、CMP組成物996.7グラム中の3300ミリグラムのDEQUEST(登録商標)2010LA生成物(60パーセント水溶液)に対応する。
【0041】
例1
この例は、窒化シリコン基材の研磨に対する本発明の組成物の有効性を示す。
【0042】
10個の異なる研磨組成物を用いて、同様の窒化シリコンブランケットウエハを別個に化学機械研磨した(組成物1A-1J)。各研磨組成物は、0.5?5質量%の(平均粒子サイズ20nmの)コロイダルシリカを含んでいた。各組成物についてのシリカの量、酸の量および種類、組成物のpHならびに酸のpKaを表2中に示す。例1B、1D、1Fおよび1Iは本発明の組成物であり、一方、例1A、1C、1E、1Gおよび1Hは、組成物のpHが本発明の範囲外である比較組成物である。
【0043】
研磨組成物を卓上研磨機上で用いて、以下の研磨条件:ダウンフォース3.5psi、プラテン速度60rpm、キャリア速度56rpm、およびスラリー供給速度100mL毎分(mL/分)で窒化シリコンのブランケットウエハを研磨した。各研磨組成物について得られる窒化シリコン除去速度(「窒化物RR」)を評価した。結果を表2中に記す。
【0044】
【表2】
(略)
【0045】
表2中に記載する結果から明らかなように、本発明の研磨組成物の各々は、窒化シリコン除去速度250Å/分超を示した。比較組成物は、顕著により低い除去速度を示した。)

上記Gには、窒化シリコン含有基材を研磨対象とする研磨組成物に関する発明である旨が記載されている。

上記H、Iには、研磨組成物に含まれる材料として、コロイダルシリカ、酸性成分が挙げられ、当該酸性成分の好適な例として、硫酸、リン酸、ピロリン酸の少なくとも1つが挙げられ、かつ、その組成物に対する含有量として、0.001?10質量%とする旨が記載されている。

上記Jには、これらの酸成分濃度を含む組成物が、有用な窒化シリコン除去速度を与える旨が記載されている。

以上のことから、引用文献2には、以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。

(引用発明2)
「窒化シリコン含有基材研磨用組成物であって、
コロイダルシリカと、
硫酸、リン酸、ピロリン酸の少なくとも1つからなる酸性成分を含み、
前記酸性成分の含有量は、0.001?10質量%である
窒化シリコン含有基材研磨用組成物。」


(2-3) 対比・判断

本件補正発明と引用発明1とを対比する。

引用発明1の「窒化珪素基板研磨用組成物」は、本件補正発明の「窒化ケイ素研磨用組成物」に相当し、
以下、同様に、
「コロイダルシリカ」は、「コロイダルシリカ」に相当し、
「硫酸」は、「リン酸系化合物および硫酸の少なくとも一方からなる研磨助剤」に相当し、
「前記酸、酸の塩の含有量は、0.0001重量%以上5重量%以下とされ」は、本件補正発明の「前記研磨助剤の含有量は、0.1重量%以上2.0重量%以下」に対し、数値範囲が0.1重量%以上2.0重量%以下の部分を共に有する点で共通する。
また、引用発明の「前記酸として硫酸を0.4重量%としたものである」は、本件補正発明の「前記研磨助剤の含有量は、0.1重量%以上2.0重量%以下であり」に合致する関係にある。

よって両者は、以下の点で相違し、その余の点で一致する。

(相違点1)
両者に共通して含有するとされた「酸」の含有量に関する範囲の特定として、本件補正発明は「0.1重量%以上2.0重量%以下」としているのに対して、引用発明1は当該「0.1重量%以上2.0重量%以下」を含みつつも、0.1重量%未満の範囲と2.0重量%を超える範囲をも好適な範囲としている点。

(相違点2)本件補正発明では、「前記リン酸系化合物のうち、リン酸一アンモニウムおよびリン酸二アンモニウムを除き、
前記コロイダルシリカのうち、表面の一部がアルミニウムで覆われているコロイダルシリカを除き、
窒素原子を含まない有機酸からなるゲル化抑制剤を除く」とされる除外の明示が積極的になされているのに対して、引用発明1では明示的に特定されていない点。

そこで、上記相違点1、2について検討する。

(相違点1について)
引用発明1は、本件補正発明に対し、「研磨助剤」として選択可能である「硫酸」を使用した態様に関して、含有量に関する本件補正発明の特定事項とされた「0.1重量%以上2.0重量%以下」に一致する0.4重量%の態様を含んでいるので、少なくともこの点で両者は同一になり、特許法第29条第1項第3号に該当するので、独立して特許を受けられるものではない。

加えて、上記相違点1に挙げた、研磨助剤の含有量として有効とされる数値範囲が完全に一致する関係にない点を検討する。
本件補正発明が「0.1重量%以上2.0重量%以下」を含有量の範囲と定めた理由に関して、審判請求人は手続の過程として挙げた平成26年9月4日付け提出の審判請求書で、「(d)本願発明と引用発明との対比」の「(d-1)特許法第29条第1項第3号による拒絶理由について」及び「(d-2)特許法第29条第2項による拒絶理由について」の2点を挙げている。
これら2点の主張は、概略すると、(d-1)に対しての酸性成分の含有量と研磨速度との関係の不開示、及び、(d-2)に対して本件補正発明が臨界的意義を有する点を挙げたものである。
しかしながら、(d-1)に対してした主張は、引用文献1の摘記事項Dに示すとおり、その含有量を定めた事情として「十分な研磨速度を発揮する観点」から、0.0001?5重量%を好ましい範囲と定めた旨、明記されており、酸性成分の含有量と研磨速度との関係が開示されていないとする請求人の主張は正しくない。
また、(d-2)に対してした主張の根拠は、本件で添付図面とされた図2の図示が根拠とされているが、当該図2は酸性成分とされる候補のうち、僅か1種(=ピロリン酸)の振る舞いを示す(本件明細書の【0075】?【0076】参照)に留まり、その振る舞いも臨界値であるとされる0.1重量%を境にして傾向が著しく異なるものではなく、その境界値の前後で単調増加の振る舞いでしかない。そうすると、(d-2)で請求人が言うほどの臨界状態は、開示された唯一の候補であるピロリン酸を含めてみてもなお不知というべきであって、酸性成分の未添加に比して研磨速度が向上するという定性的な観点で見る限り、引用発明1の開示内容と些かも性質を異とするものではないというべきである。
よって、上記相違点1で、酸性成分の含有量の数値範囲に共通しない不一致部分がある点は、研磨速度の向上としてどの程度を十分な向上を示すと扱うのかについての、両者の主観的な基準に起因する微差というべきであり、設計的事項と認められる。

(相違点2について)
リン酸系化合物、コロイダルシリカ、およびその他の含有物のいずれの点でも引用発明1が本件補正発明が課す除外条件に該当する点を呈さないことが明らかであるから、当該相違点2は結局のところ両者に実質的な相違を形成するものではない。


よって、本件補正発明と引用発明1とは、硫酸を0.4重量%含有する態様の点で同一であり、それ以外の含有量の数値範囲を定めるに至った技術的意義の観点でも大きな差はなく、研磨速度の一定以上の向上が認められる範囲内での範囲設定上の微差というべきであり、容易想到の範疇を脱し得ないと認められる。

続いて、本件補正発明と引用発明2とを対比する。

引用発明2の「窒化シリコン含有基材研磨用組成物」は、本件補正発明の「窒化ケイ素研磨用組成物」に相当し、
以下、同様に、
「コロイダルシリカ」は、「コロイダルシリカ」に、
「硫酸、リン酸、ピロリン酸の少なくとも1つからなる酸性成分」は、「リン酸、ピロリン酸、ポリリン酸およびこれらの塩から選ばれる少なくとも1つから」なるとされた「リン酸系化合物および硫酸の少なくとも一方からなる研磨助剤」に相当する。
また、引用発明2の「前記酸性成分の含有量は、0.001?10質量%である」は、本件補正発明の「前記研磨助剤の含有量は、0.1重量%以上2.0重量%以下」であることに、「0.1重量%以上2.0重量%以下」の範囲で共通する。

よって両者は、以下の点で相違し、その余の点で一致する。

(相違点3)
両者に共通して含有するとされた「酸」の含有量に関する範囲の特定として、本件補正発明は「0.1重量%以上2.0重量%以下」としているのに対して、引用発明2は当該「0.1重量%以上2.0重量%以下」を含みつつも、0.1重量%未満の範囲と2.0重量%を超える範囲をも好適な範囲としている点。

(相違点4)本件補正発明では、「前記リン酸系化合物のうち、リン酸一アンモニウムおよびリン酸二アンモニウムを除き、
前記コロイダルシリカのうち、表面の一部がアルミニウムで覆われているコロイダルシリカを除き、
窒素原子を含まない有機酸からなるゲル化抑制剤を除く」とされる除外の明示が積極的になされているのに対して、引用発明2では明示的に特定されていない点。

同じく、上記相違点3、4について検討する。

相違点3、4のうち、相違点4については引用発明1との間で既に行った相違点2と同様であるので、相違点3について以下に検討結果を示す。

(相違点3について)
引用文献2についても、上記摘記事項Iについて定めた酸性成分の含有量の範囲は、摘記事項Jに記載されているとおり、「有用な窒化シリコン除去速度を与える。」とされているところから見て、その含有量が研磨速度と関連して定められた関係にあるというべきである。よって、酸性成分の含有量と研磨速度との関係が開示されていないとする請求人の主張は正しくない。
また、酸性成分の含有量と研磨速度の関係に関して、更に引用文献2には上記摘記事項Kとして、有効性を示す酸性成分として、ホスホン酸の一種を2000ppm、すなわち0.2重量%添加したときの窒化シリコン除去速度が250Å/分超を示し、有効ではない物質を添加した比較例が「顕著により低い除去速度を示した。」とされ、酸性成分の添加により研磨速度が向上したとする効果の確認を示していることが見てとれる。故に、本件補正発明が呈する効果と、酸性成分の含有量の範囲が見かけ上異なる範囲とされた引用発明2との間に、少なくとも研磨速度の向上に関係した効果上の違いはなく、異質とも言えない。つまるところ両者は、含有量の数値範囲を定めるに至った技術的意義の観点でも大きな差はなく、研磨速度の一定以上の向上が認められる範囲内での範囲設定上の微差というべきであり、容易想到の範疇を脱し得ないと認められる。

よって、本件補正発明と引用発明2とは、両者に相違点3、4はあるものの、前者は設計的事項による微差であり、後者は実質相違しない関係にあるので、当業者が容易に想到できたと認められる。

(2-4)請求人の主張について

請求人は、審判請求書において、上記本件補正却下の決定が取り消されるべき理由として、

「(d)本願発明と引用発明との対比
(d-1)特許法第29条第1項第3号による拒絶理由について
引用例1?2,5,6のいずれも、無機酸等の含有量を0.1重量%以上2.0重量%以下に設定することを開示していない。
また、引用例5に記載のpH調整剤は、本願発明の研磨助剤と相違する。より具体的には、pH調整剤は、pHを調整するものであるのに対し、研磨助剤は、研磨を助けるものである。
従って、本願発明は、引用例1?2,5,6に記載の発明と相違する。
更に、本願発明の研磨助剤の含有量が引用例3,4に開示された酸系化合物の含有量の範囲に含まれていても、顕著な効果を有すれば、本願発明は、新規性を有する(東京高裁平成13(行ケ)67)。
そこで、具体的に検討する。引用例3は、酸性成分の含有量として、0.001?10質量%を開示しているが、酸性成分の含有量と研磨速度との関係を開示していない。従って、引用例3は、本願発明の上記効果を開示していないことになる。
引用例4は、Table5において、酸の含有量と研磨速度との関係を開示している。ここで、酸の含有量は、10ppm?1000ppm(=0.001重量%?0.1重量%)である。
10ppm?1000ppmの範囲で酸の含有量が増加すると、研磨速度は、大きくなる。しかし、酸の含有量が一定値以上になっても、研磨速度は、一定にはならない。
従って、引用例4も、本願発明の上記効果を開示していないことになる。
一方、本願発明においては、研磨助剤の含有量が0.1重量%以上2.0重量%以下である場合、研磨助剤を含まない比較例に比べて研磨速度を約1.6倍に大きくでき、かつ、その大きくなった研磨速度をほぼ一定に保持できる(図2参照)。つまり、研磨助剤の含有量が0.1重量%以上2.0重量%以下の範囲内において変化しても、研磨助剤を含まない場合に比べて研磨速度を約1.6倍に大きくでき、かつ、その大きくなった研磨速度をほぼ一定に保持できる。
従って、この効果は、引用例3,4に開示されていない異質な効果である。
また、引用例1?2,5,6のいずれも、本願発明の顕著な効果を得ることができる点を開示していない。
従って、本願発明は、引用例1?6に対して新規性を有する。
(d-2)特許法第29条第2項による拒絶理由について
本願発明の研磨助剤の含有量が引用例3,4に開示された酸系化合物の含有量の範囲に含まれていても、臨界的意義を有すれば、進歩性を有する(知的財産高等裁判所平成17年(行ケ)10202)。
本願発明においては、図2から明らかなように、研磨助剤の含有量としての0.1重量%は、研磨助剤の含有量と研磨速度との関係における変曲点である。従って、研磨助剤の含有量を0.1重量以上2.0重量%以下に設定することには、臨界的意義がある。
従って、当業者は、引用例1?6に基づいて本願発明に容易に想到することは困難である。
また、本願の請求項2?5は、請求項1に従属するので、当業者は、引用例1?6に基づいて本願の請求項2?5に係る発明に容易に想到することはできない。
(4)以上より、本願の請求項1?5に係る発明は、引用例1?6に記載された発明と相違し、引用例1?6に記載された発明から、当業者が容易に発明をすることができたものではない。」
と主張している。

上記主張は、「本願発明」として挙げられた特定事項中に、研磨助剤の含有量の事項を含みつつ主張が展開されているところを見ると、拒絶理由通知を対象としたものではなく、補正の却下の決定を対象とした主張であると見受けられる。そうすると、原審の処分のうち、補正の却下の決定で示された理由は、いわゆる独立特許要件に関する理由とした、上記「2 補正の却下の決定の理由」の理由(1)ないし理由(3)となる関係上、適用条文として特許法第29条第1項第3号に関する書証は、理由(1)に挙げられた特開2008-93819号公報(上記引用文献1)と、理由(2)に挙げられた国際公開第2007/146065号(上記引用文献2)であって、特許法第29条第2項に関する書証は、理由(3)に挙げられ、最後の拒絶理由通知で示した文献1ないし6となる。その関係上、請求人が想定する本願発明と文献と適用条文との関係は、上記主張どおりとはならない点をまず指摘しておく。
かかる整理を講じた上で、請求人の主張の論点をまとめると、特許法第29条第1項第3号により独立して特許できないとされた、引用文献1および2について、請求人は、以下の点を指摘している。
[請求人の指摘]
1)酸性成分の含有量と研磨速度との関係を開示していない、とするもの
2)効果が引用文献1、2に開示されていない異質な効果である、とするもの

しかしながら、請求人の指摘は、以下に示すとおりいずれも当たらない。

[請求人の指摘1)に関して]
引用文献1の摘記事項である上記Dには、酸性成分の含有量を0.0001?5重量%としたことの関連は、「十分な研磨速度を発揮する観点」で決めたとしており、研磨速度との関係に従って決めたことが窺い知れる。
同じく、引用文献2も、その摘記事項である上記Iにて、酸性成分も含めた組成物の含有量が、「有用な窒化シリコン除去速度を与える。」と説明しており、やはり研磨速度との関係を考慮してその含有量を定めたことが窺い知れる。
とすれば、係る指摘1)による請求人の主張は、十分な論理性を欠いたものと言え、失当である。

[請求人の指摘2)に関して]
上記指摘2)は、効果に関し「異質」との表現を用いているが、本件明細書ないし添付図面で確認できる作用効果のうち、請求人が審判請求書で訴えているものは、図2が示す、含有量0に対して研磨速度が向上した度合いであって、「約1.6倍」としているものの、当該測定は、ピロリン酸の添加に関する挙動を示したものとされる。
してみると、本件で「異質」とまで表現される、酸性成分の含有による効果は、ピロリン酸以外のリン酸、ポリリン酸、硫酸での結果を示すことなく行われた主張であって、かつ、前記指摘1)に関してした説示からも読み取れるとおり、引用文献1も2も、酸性成分の含有が研磨速度の発揮に有用との見地を表していることと比較すると、異質とまでもは必ずしも言えない状況と見てとれ、係る指摘2)による請求人の主張は、本件補正発明が示す範囲の全部に亘って想定外の作用効果に至ったものとは扱えず、不十分な指摘に留まるものと言わざるを得ない。

してみると、審判請求書における上記請求人の主張は、開示の有無の事実について、必ずしも妥当ではない主張を行うものであり、採用することができない。

また、上記「第1 手続の経緯」で示すとおり、審理再開に引き続き行った面接で合議体は、本件発明に関する効果について、請求人から図2を示されつつ、ピロリン酸含有量が0.1重量%以上、2.0重量%以下の領域で研磨速度が一部変動を伴うものの、500Å/minの前後で安定した挙動を示す点が、本件明細書【0044】に代表される、「選択比」の制御を可能とする効果を有するとの説明を受けた。しかし、係る効果は本件手続の過程で、請求人自身により平成25年11月21日付け手続補正書の提出により特許請求の範囲から削除された、当初請求項6に係る「選択比の制御方法」の発明に関係する効果であると判断され、審理の対象となった「研磨用組成物」自身が発現する効果とは一線を画すものと認められる。

更に、他に本件補正却下の決定を不適法とする理由もない。

4 補正の却下の決定の不服の申立について小括

以上のとおりであるから、本件補正発明は、引用発明1と同一とされ、特許法第29条第1項第3号の規定により独立して特許できるものではなく、かつ、引用例1ないし2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものとされ、同法同条第2項の規定により独立して特許できるものでもないから、本件補正に対し、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反し、同法第53条第1項の規定によって却下すべきものとした、本件補正の却下の決定は適法なものである。


第3 本願発明について

1 本願発明
上記第2の4で述べたとおり、平成26年6月24日付けでなされた、平成26年4月1日付け手続補正についての補正の却下の決定は適法なものであるから、本願請求項1ないし6に係る発明は、平成25年11月21日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される、上記第2の1の「<補正前の特許請求の範囲>」とされたとおりのものである。
そのうち、請求項1に係る発明を、「本願発明」とし、原審の査定について以下に論じる。

2 先行技術・引用発明の認定
上記「第2 補正却下の決定の適否」の3の(2-2)で示したとおり、本願の原出願の優先日前に頒布または電気通信回線を通じて公衆に利用可能となり、原審の拒絶の査定において引用された上記引用文献1、2には上記文献記載事項が記載されている。

そして、上記引用文献1ないし2には、上記第2の3の(2-2-1)ないし(2-2-2)で認定したとおりの引用発明1ないし2が記載されていると認められる。

3 対比・判断
上記第2の3の(2-3)で検討した本件補正発明は、実質的には本願発明に対し上記第2の3(1)で述べた、限定的減縮をしたものと認められるから、本願発明は、上記本件補正発明から当該限定的減縮により限定される要件を無くしたものに相当すると認められる。
そして、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の要件を付加したものに相当する上記本件補正発明は、上記第2の3の(2-3)に記載したとおり、引用発明1と同一であり、また、限定的減縮を考慮した場合であっても、引用発明1ないし2から当業者が容易に想到できたものである。
したがって、当該限定的減縮がない本願発明は、引用発明1と同一であることはもちろんのこと、引用発明1ないし2から当業者が容易に想到できたものでもある。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、その出願に係る原出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明と同一であり、また、これらの公知発明から当業者が容易に発明できたものでもあるから、特許法第29条第1項第3号ないし同条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本願の他の請求項についての検討をするまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-07-22 
結審通知日 2015-07-28 
審決日 2015-08-19 
出願番号 特願2011-96386(P2011-96386)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 113- Z (H01L)
P 1 8・ 56- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大光 太朗  
特許庁審判長 栗田 雅弘
特許庁審判官 西村 泰英
原 泰造
発明の名称 窒化ケイ素研磨用組成物およびこれを用いた選択比の制御方法  
代理人 川上 桂子  
代理人 坂根 剛  
代理人 松山 隆夫  
代理人 上羽 秀敏  

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