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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01Q
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01Q
管理番号 1306072
審判番号 不服2015-2205  
総通号数 191 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-02-04 
確定日 2015-10-01 
事件の表示 特願2013-206363「アンテナ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年12月26日出願公開、特開2013-258783〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2010年1月15日(優先権主張2009年4月28日、日本国)を国際出願日とする特願2011-511332号の一部を平成25年10月1日に新たな特許出願とした出願であって、原審において平成26年8月8日付けで拒絶理由が通知され、同年10月10日付けで手続補正されたが、同年12月12日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成27年2月4日に拒絶査定不服の審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正されたものである。

第2 補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成27年2月4日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本願発明と補正後の発明
上記手続補正(以下「本件補正」という。)は、本件補正前の平成26年10月10日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された

「高周波信号を入力或いは出力する高周波モジュールと、
前記高周波モジュールが搭載され、高周波モジュールとの間で高周波信号を伝搬する導波管を構成する中空管路が貫通して形成された基板と、
前記基板に重ねて配設され、前記基板に対向する面とその裏面の間で前記中空管路との接続箇所に設けられて導波路変換部を構成する変換器と、前記裏面に形成され該変換器から延び高周波信号が伝搬する伝送線路と、及び前記裏面に形成され該伝送線路に接続された複数のアンテナ素子とを有するアンテナ基板とを備え、
前記基板とアンテナ基板は、前記基板の前記アンテナ基板と対向する面の前記中空管路の周囲に、該中空管路から所定間隔離れて連続的に囲むように、前記基板と前記アンテナ基板との間に挟まれて設けられた接着剤により、相互に固定され、
前記中空管路は、複数組が併設され、前記接着剤は、複数組の前記中空管路をまとめて囲むように設けられて、前記複数組の中空管路は前記アンテナ基板における前記基板に対向する面により塞がれている
ことを特徴とするアンテナ装置。」

という発明(以下「本願発明」という。)を、

「高周波信号を入力或いは出力する高周波モジュールと、
前記高周波モジュールが搭載され、高周波モジュールとの間で高周波信号を伝搬する導波管を構成する中空管路が貫通して形成された基板と、
前記基板に重ねて配設され、前記基板に対向する面とその裏面の間で前記中空管路との接続箇所に設けられて導波路変換部を構成する変換器と、前記裏面に形成され該変換器から延び高周波信号が伝搬する伝送線路と、及び前記裏面に形成され該伝送線路に接続された複数のアンテナ素子とを有するアンテナ基板とを備え、
前記基板とアンテナ基板は、前記基板の前記アンテナ基板と対向する面の前記中空管路の周囲に、該中空管路から所定間隔離れて連続的に囲むように、前記基板と前記アンテナ基板との間隙に挟まれて設けられたシート接着剤により、相互に固定され、
前記中空管路は、複数組が併設され、前記シート接着剤は、複数組の前記中空管路をまとめて囲むように設けられて、前記複数組の中空管路は前記アンテナ基板における前記基板に対向する面により塞がれている
ことを特徴とするアンテナ装置。」

という発明(以下「補正後の発明」という。)に変更することを含むものである。

2.新規事項の有無、シフト補正、補正の目的要件について
本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において、補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された、「接着剤」に関し、「シート接着剤」と限定して、特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許法第17条の2第3項及び第4項の規定に適合するとともに、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3.独立特許要件について
本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、本件補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうか(特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に適合するかどうか)について以下に検討する。

(1)補正後の発明
上記「1.本願発明と補正後の発明」の項で補正後の発明として認定したとおりである。

(2)引用発明及び周知技術
1.引用例及び引用発明
原審の拒絶理由に引用された、本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2008-252207号公報(平成20年10月16日公開、以下「引用例」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.「【技術分野】
【0001】
この発明は、ミリ波帯、マイクロ波帯の高周波信号を入出力する高周波半導体を有する高周波パッケージと、高周波半導体を駆動するための電子回路部品が搭載されたバイアス・制御回路基板と、スロットアンテナが形成されたアンテナ基板とを有し、これら高周波パッケージ、バイアス・制御回路基板およびアンテナ基板に導波管が形成される高周波モジュールに関するものである。」(2?3頁)

ロ.「【0012】
図1?図4に示すように、高周波モジュール1は、高周波パッケージ2と、樹脂基板(誘電体基板)から成るバイアス・制御回路基板10と、樹脂基板から成り誘電体の平面アンテナ基板(誘電体アンテナ基板)を構成するアンテナ基板20、電子部品60などを備えている。アンテナ基板20上にバイアス・制御回路基板10が設けられ、バイアス・制御回路基板10上に高周波パッケージ2および電子部品60が搭載されている。
【0013】
高周波パッケージ2は、多層誘電体基板3と、多層誘電体基板3上に搭載されたMMIC(Monolithic Microwave Integrated Circuit)などの高周波半導体素子4と、多層誘電体基板3上に高周波半導体素子4を収納する空間を形成する導電性のカバー体5を有している。カバー体5は、多層誘電体基板3との間の収納空間が電磁的にシールドされるように、半田や溶接や導電性接着剤によって多層誘電体基板3上の導電面に接合される。
【0014】?【0017】(中略)
【0018】
バイアス・制御回路基板10は、FR-4(Flame Retardant Type 4)などの安価なガラスエポキシ系の樹脂基板で形成されている。バイアス・制御回路基板10には、多層誘電体基板3の導波管端子35に電気的に接続される導波管50が形成されている。導波管50は、樹脂内に形成された貫通孔の内周面に導体層51を形成するとともに、貫通孔の縁部周辺に導体層51と接続される接地導体52を形成することによって構成される。なお、導波管50の孔の内周に導体層51を設ける代わりに、孔の周辺に所定の間隔で複数の導電性スルーホールを配列して電磁シールド壁を構成しても良いし、導波管内部に誘電体を配しその周辺を取り囲むように所定の間隔で複数の導電性スルーホールを配列して電磁シールド壁を設けて誘電体導波管(誘電体導波路)を構成しても良い。高周波パッケージ2を構成する多層誘電体基板3は、導電性接合部材36を介してバイアス・制御回路基板10の上面の接地導体52に接合されている。
【0019】
図2に示すように、バイアス・制御回路基板10の表層には、信号接続用の導電性接合部材41が接合される導体端子40を有している。導体端子40は、バイアス・制御回路基板10の内層の導体ビア43に接続され、基板内層の導体線路44に接続される。導体線路44は導体ビア45を介してバイアス・制御回路基板10の表層の導体端子46に接続される。導体端子46は電気端子(リード端子)47を介して電子部品60の導体端子に接続される。電子部品60は、半導体集積回路や、電源回路、コンデンサー等から構成される。このような経路で、高周波パッケージ2内の高周波半導体素子4とバイアス・制御回路基板10上の電子部品60との間で、制御信号、モニタ信号、ビデオ信号や電源バイアス等の、低周波の電気信号を伝送することができる。
【0020】
バイアス・制御回路基板10はの下面(裏面)の接地導体52上には、導波管50の開口の周囲を取り囲むように所定の間隔をおいて、複数個の導電性接合部材53が接合されている。導電性接合部材53は、球状や樽型や円筒型の半田バンプ(半田ボール)、金バンプ等によりBGA(ボールグリッドアレイ)を構成している。
【0021】
アンテナ基板20は、バイアス・制御回路基板10と同様、樹脂基板で構成されている。この樹脂基板としては、バイアス・制御回路基板10のように、FR-4(tanδ=約0.02)のような通常の誘電体基板に比べて、充分に誘電正接(tanδ)が小さく、高周波特性上で誘電体損失の小さいものを採用する。例えば、アンテナ基板20として、誘電正接tanδが0.005以下のものを用いるのが良い。
【0022】
アンテナ基板20の下面側には、図4に示すように、送信用または受信用の複数のアンテナ素子(放射素子)21が設けられており、これらアンテナ素子21によって平面アレイアンテナを構成している。アンテナ基板20には、これらアンテナ素子21と、バイアス・制御回路基板10の導波管50を接続するための給電線路22が形成されている。図1においては、アンテナ素子21としては、正方形や長方形等の矩形形状のパッチアンテナ(或いはマクロストリップアンテナ)を示している。各アンテナ素子21はアンテナ基板20の表面で給電線路22に接続されたマイクロストリップ線路42に接続される。また、マイクロストリップ線路42に接続されるアンテナ基板20内部の給電線路22として、送信用の給電導波路および受信用の給電導波路を示している。
【0023】
給電線路22は、例えば、樹脂内に形成された垂直貫通孔および水平貫通孔の内周面に導体層24を形成するとともに、垂直貫通孔の縁部周辺に導体層24と接続される導体層25を形成することによって誘電体導波路が構成されている。給電線路22は、バイアス・制御回路基板10との対向面側の端部にて、バイアス・制御回路基板10の導波管に接続されるアンテナ給電用のRF(Radio Frequency)信号端子(アンテナ給電端子)を構成し、他の端部側がアンテナ素子21に接続される。
【0024】
導体層24の代わりに、垂直貫通孔の周辺に所定の間隔で複数の導電性スルーホールを配列して電磁シールド壁を構成しても良い。バイアス・制御回路基板10は、導電性接合部材53を介してアンテナ基板20の上面の導体層24に接合されている。なお、誘電体導波路の代わりに、マイクロストリップ線路およびトリプレート線路や同軸線路を設けて給電線路22を構成しても良い。
【0025】
また、バイアス・制御回路基板10は、補強用の接合部材26によってもアンテナ基板20に接合されている。導電性接合部材53および補強用の接合部材26は、球状や樽型の半田バンプ(半田ボール)、金バンプ等によりBGA(ボールグリッドアレイ)を構成している。接合部材26については接着剤や非導電性の金属を用いても良いが、半田バンプを用いる方が導電性接合部材53と同じ部材を用いて半田リフローにより、より簡便に接合することができる。
【0026】
図6は、アンテナ基板20の上面を示す斜視図である。図6に示すように、アンテナ基板20の上面における給電線路22の上面開口23の周りには、所定の間隔をおいて複数の導電性接合部材53が設けられている。また、アンテナ基板20の上面において、その周縁部には、補強用の接合部材26が設けられている。このように、アンテナ基板20とバイアス・制御回路基板10との間には、複数の導電性接合部材53および補強用の接合部材26が設けられており、これら導電性接合部材53,26によって、アンテナ基板20とバイアス・制御回路基板10とを接合固定する。すなわち、本高周波モジュールにおいては、ネジなどの機構的部品を用いることなく、導電性接合部材53,26によってアンテナ基板20とバイアス・制御回路基板10と接合固定する。なお、補強用の接合部材26は、必要に応じて設けられるものであり、導電性接合部材53のみによって所望の接合強度が得られる場合は、省かれる。
【0027】
かかる構成によれば、高周波半導体素子4から出力される高周波信号(送信信号)は、マイクロストリップ線路33を通じて誘電体導波管30に伝送され、導波管端子35から出力される。導波管端子35から出力された高周波信号は、バイアス・制御回路基板10の導波管50を通じて、アンテナ基板20の給電線路22に入力される。さらに、アンテナ20の給電線路22に入力された高周波信号は、給電線路22を介してアンテナ素子21に対し電気的に結合され、アンテナ素子21から送信電波が放射(出力)される。アンテナ素子21から出力された送信電波は外部の電波を反射する反射体で反射され、アンテナ20に返ってくる。アンテナ20に返って来た受信電波は、送信路と別の同様の受信路を経由して高周波半導体素子4に入力される。」(4?6頁)

上記引用例の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記ロ.の【0012】における「図1?図4に示すように、高周波モジュール1は、高周波パッケージ2と、樹脂基板(誘電体基板)から成るバイアス・制御回路基板10と、樹脂基板から成り誘電体の平面アンテナ基板(誘電体アンテナ基板)を構成するアンテナ基板20、電子部品60などを備えている。アンテナ基板20上にバイアス・制御回路基板10が設けられ、バイアス・制御回路基板10上に高周波パッケージ2および電子部品60が搭載されている。」との記載、及び図1によれば、引用例の高周波モジュール(1)は、高周波パッケージ(2)と、バイアス・制御回路基板(10)と、アンテナ基板(20)とを備えている。
また、上記ロ.の【0018】における「バイアス・制御回路基板10には、多層誘電体基板3の導波管端子35に電気的に接続される導波管50が形成されている。導波管50は、樹脂内に形成された貫通孔の内周面に導体層51を形成するとともに、貫通孔の縁部周辺に導体層51と接続される接地導体52を形成することによって構成される。」との記載、及び図1によれば、前述のバイアス・制御回路基板(10)は、高周波パッケージ(2)との間で高周波信号を伝搬する導波管(50)を構成する内周面に導体層(51)が形成された貫通孔が形成されている。
また、上記ロ.の【0022】における「アンテナ基板20の下面側には、図4に示すように、送信用または受信用の複数のアンテナ素子(放射素子)21が設けられており、これらアンテナ素子21によって平面アレイアンテナを構成している。・・・各アンテナ素子21はアンテナ基板20の表面で給電線路22に接続されたマイクロストリップ線路42に接続される。」との記載、及び図4によれば、前述のアンテナ基板(20)は、アンテナ基板(20)の下面に形成され高周波信号が伝搬するマイクロストリップ線路(42)と、アンテナ基板(20)の下面に形成されマイクロストリップ線路(42)に接続された複数のアンテナ素子(21)とを有している。
また、上記ロ.の【0020】における「バイアス・制御回路基板10の下面(裏面)の接地導体52上には、導波管50の開口の周囲を取り囲むように所定の間隔をおいて、複数個の導電性接合部材53が接合されている。」との記載、図1及び図2における、バイアス・制御回路基板(10)とアンテナ基板(20)の接合構造に着目すれば、バイアス・制御回路基板(10)とアンテナ基板(20)は、バイアス・制御回路基板(10)のアンテナ基板(20)と対向する面に導波管(50)が配置され、制御回路基板(10)とアンテナ基板(20)との間隙に挟まれて設けられた導電性接合部材(53)により、相互に固定されている。ここで、導電性接合部材(53)は、導波管(50)を構成する内周面に導体層(51)が形成された貫通孔の周囲に、貫通孔を取り囲むように設けられていることが読み取れる。
また、図1によれば、前述の内周面に導体層(51)が形成された貫通孔は、複数組が併設され、複数組の貫通孔は、アンテナ基板(20)におけるバイアス・制御回路基板(10)に対向する面により塞がれていることが見て取れる。

したがって、上記引用例には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「高周波信号を入出力する高周波パッケージ(2)と、
前記高周波パッケージ(2)が搭載され、高周波パッケージ(2)との間で高周波信号を伝搬する導波管(50)を構成する内周面に導体層(51)が形成された貫通孔が形成されたバイアス・制御回路基板(10)と、
前記バイアス・制御回路基板(10)に重ねて配設され、下面に形成され高周波信号が伝搬するマイクロストリップ線路(42)と、前記下面に形成され該マイクロストリップ線路(42)に接続された複数のアンテナ素子(21)とを有するアンテナ基板(20)とを備え、
前記バイアス・制御回路基板(10)とアンテナ基板(20)は、前記バイアス・制御回路基板(10)のアンテナ基板(20)と対向する面の前記内周面に導体層(51)が形成された貫通孔の周囲に、該貫通孔を取り囲むように、前記制御回路基板(10)とアンテナ基板(20)との間隙に挟まれて設けられた導電性接合部材(53)により、相互に固定され、
前記内周面に導体層(51)が形成された貫通孔は、複数組が併設され、前記複数組の貫通孔は、前記アンテナ基板(20)における前記バイアス・制御回路基板(10)に対向する面により塞がれている
高周波モジュール(1)。」

2.周知例及び周知技術
A 原審の拒絶理由に引用された、本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2006-253953号公報(平成18年9月21日公開、以下「周知例1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.「【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナ素子を備えたマイクロ波帯あるいはミリ波帯における通信用高周波モジュールおよびその製造方法に関する。」(3頁)

ロ.「【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、半導体装置とアンテナ素子を支持体のそれぞれの面に設け、支持体を貫通する導波管を設け、半導体装置とアンテナ素子を一体化し、支持体の基板コア材に樹脂材料を用いることにより、材料コストおよび導波管のための貫通孔の加工コストを低減することにより、低コストの通信用高周波モジュールおよびその製造方法を提供できる。」(5頁)

ハ.「【0016】
図2を参照するに、本実施の形態の通信用高周波モジュール10は、導波管15が形成された支持体11と、支持体11上に固着された配線基板21と、配線基板21上にフリップチップ実装された半導体装置31と、半導体装置31を覆うキャップ32と、支持体11の裏面に固着されたアンテナ素子41等から構成される。
【0017】?【0018】(中略)
【0019】
配線基板21は、樹脂材料からなる基板コア材22と、基板コア材22の上側に半導体装置31や外部の回路基板等との電気的な接続のための導体パターン24、26、27が設けられている。基板コア材22の下側には、接地電極28と導波管変換部29が設けられている。さらに、基板コア材22を貫通し、基板コア材22の上側と下側を電気的に接続する貫通ビア26b、27bが設けられている。
【0020】
図3(A)は、図2の配線基板を上側から見た平面図であり、図3(B)は、図2の配線基板を下側から見た平面図である。
【0021】
図3(A)および図3(B)を参照するに、配線基板21の上面、すなわち、基板コア材22の上側には、高周波信号の入出力を行う信号入出力電極24と、外部からの直流電源等が供給される電極25と、貫通ビア26bを介して導波管変換部29に接続される信号線パターン26と、接地電極27が設けられている。
【0022】
信号入出力電極24および信号線パターン26は、接地電極27が隣接して形成されたコプレーナ伝送線路により形成されている。信号入出力電極24は、一方が半導体装置31と電気的に接続され、他方が外部に設けられた、例えば、電圧制御発振回路(VCO)等とリボンを介して電気的に接続される。また、信号線パターン26は、一方が半導体装置31と電気的に接続され、他方が貫通ビア26bを介して導波管変換部29に接続される。接地電極27は、信号入出力電極24および信号線パターン26を囲むように設けられる。信号入出力電極24、信号線パターン26、および接地電極27は、各々、バンプ33を介して半導体装置31に電気的に接合される。
【0023】
配線基板21の下面、すなわち、基板コア材22の下側には、支持体の導波管に対向する位置に設けられた導波管変換部29と、導波管変換部29を離間して囲み、配線基板21の下面のほぼ全面を覆う接地電極28が設けられている。
【0024】
導波管変換部29は、例えば、リッジ導波管型やスロット結合型の公知の変換器を用いることができ、特に制限されない。導波管変換部29は、半導体装置31から信号線パターン26および貫通ビア26bを介して供給された電気信号としての送信信号を伝送波(TE波あるいはTM波)に変換する。かかる伝送波は導波管15を介してアンテナ素子41に供給される。また、導波管変換部29は、アンテナ素子41が受信した受信信号を伝送波として導波管15を介して供給される。導波管変換部29は、受信信号を電気信号に変換し、貫通ビア26bおよび信号線パターン26を介して半導体装置31に供給する。」(5?6頁)

ニ.「【0039】
図4(A)?(D)および図5(A)?(C)は、第1の実施の形態に係る半導体装置の製造工程図である。
【0040】?【0042】(中略)
【0043】
次いで図4(C)の工程では、支持体11の上面の導電膜13に銀ペースト等の導電性接着剤16を塗布する。次いで、別に用意した配線基板21を支持体11と位置合わせを行い、互いに導電性接着剤16を介して貼り合わせる。位置合わせは、配線基板の下面に形成された導波管変換部29と、支持体11の導波管15とが整合がとれるようにする。導電性接着剤16は、配線基板21の接地電極28の表面、あるいは接地電極28に対応する支持体11の位置に塗布して、配線基板21の接地電極28と支持体11の導電膜13が導通するように接着する。」(8頁)

したがって、上記周知例1の上記ハ.の【0023】における「配線基板21の下面、すなわち、基板コア材22の下側には、支持体の導波管に対向する位置に設けられた導波管変換部29・・・が設けられている。」との記載、及び図2にみられるように、「アンテナ装置において、伝送線路と導波管との接続箇所に導波管変換部を設けること。」は、周知の技術(以下「周知技術1」という。)ということができる。

B 当審で新たに引用する、本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2001-101365号公報(平成13年4月13日公開、以下「周知例2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は非接触ICカードと移動体識別システムに関する。
【0002】
【従来の技術】従来、非接触ICカードとしては特開平8-252995号公報に記載されたものが知られている。
【0003】図9に従来の非接触ICカードの構造を示す。ICカードは、上面に回路パターン902および送受信機能としてのアンテナパターン903が形成された基板901、開口部912及びヴィアホール906が設けられ上面904aに接地パターン905が形成された絶縁性のスペーサ904、スペーサ904と同様の開口部912及びスルーホール906が設けられ基板901の上面901aとスペーサ904の下面904bとの接着を行うシート接着フィルム911、スペーサ904の開口部912に配置され、端子としてバンプ908を有し、回路パターン902と電気的に接続するICチップ907のバンプ908と回路パターン902との電気的接続及び接着を行う異方性導電接着剤909、スペーサ904の開口部912とICチップ907との隙間を充填するエポキシ系のモールド剤910から構成される。」(2頁1?2欄)

したがって、上記周知例2の上記記載にみられるように、「アンテナ装置において、基板の接合部材として、シート接着剤を用いること。」は、周知の技術(以下「周知技術2」という。)ということができる。

(3)対比・判断
補正後の発明と引用発明とを対比する。
a.引用発明の「高周波パッケージ(2)」は、上記引用例の上記イ.の【0001】における「ミリ波帯、マイクロ波帯の高周波信号を入出力する高周波半導体を有する高周波パッケージ」との記載によれば、ミリ波帯、マイクロ波帯の高周波信号を入出力するものである。
一方、本願明細書段落【0020】における「マイクロ波やミリ波帯の高周波信号を入出力する高周波モジュール1」との記載によれば、補正後の発明の「高周波モジュール」は、マイクロ波やミリ波帯の高周波信号を入出力するものである。
したがって、引用発明の「高周波パッケージ(2)」は、補正後の発明の「高周波モジュール」と実質的な差異はない。
b.引用発明の「内周面に導体層(51)が形成された貫通孔が形成された」は、「内周面に導体層(51)が形成された貫通孔」が、中空管路が貫通したものといえるから、「中空管路が貫通して形成された」ということができる。
d.引用発明の「バイアス・制御回路基板(10)」、「下面」、「アンテナ基板(20)」及び「マイクロストリップ線路(42)」は、後述する相違点を除いて、補正後の発明の「基板」、「裏面」、「アンテナ基板」及び「伝送線路」にそれぞれ相当する。
e.引用発明の「前記バイアス・制御回路基板(10)のアンテナ基板(20)と対向する面の前記内周面に導体層(51)が形成された貫通孔の周囲に、該貫通孔を取り囲むように、前記制御回路基板(10)とアンテナ基板(20)との間隙に挟まれて設けられた導電性接合部材(53)」と、補正後の発明の「前記基板の前記アンテナ基板と対向する面の前記中空管路の周囲に、該中空管路から所定間隔離れて連続的に囲むように、前記基板と前記アンテナ基板との間隙に挟まれて設けられたシート接着剤」とは、上記b.及びd.の対比を考慮すると、後述する相違点を除いて、「前記基板の前記アンテナ基板と対向する面の前記中空管路の周囲に、該中空管路を囲むように、前記基板と前記アンテナ基板との間隙に挟まれて設けられた接合部材」という点で一致する。
f.引用発明の「高周波モジュール(1)」は、上記引用例の上記ロ.の【0027】における「高周波半導体素子4から出力される高周波信号(送信信号)は、・・・バイアス・制御回路基板10の導波管50を通じて、アンテナ基板20の給電線路22に入力される。さらに、アンテナ20の給電線路22に入力された高周波信号は、給電線路22を介してアンテナ素子21に対し電気的に結合され、アンテナ素子21から送信電波が放射(出力)される。アンテナ素子21から出力された送信電波は外部の電波を反射する反射体で反射され、アンテナ20に返ってくる。アンテナ20に返って来た受信電波は、送信路と別の同様の受信路を経由して高周波半導体素子4に入力される。」との記載によれば、レーダ用のアンテナ装置として機能するから、「アンテナ装置」ということができる。

したがって、補正後の発明と引用発明は、以下の点で一致ないし相違している。

(一致点)
「高周波信号を入力或いは出力する高周波モジュールと、
前記高周波モジュールが搭載され、高周波モジュールとの間で高周波信号を伝搬する導波管を構成する中空管路が貫通して形成された基板と、
前記基板に重ねて配設され、裏面に形成され高周波信号が伝搬する伝送線路と、及び前記裏面に形成され該伝送線路に接続された複数のアンテナ素子とを有するアンテナ基板とを備え、
前記基板とアンテナ基板は、前記基板の前記アンテナ基板と対向する面の前記中空管路の周囲に、該中空管路を囲むように、前記基板と前記アンテナ基板との間隙に挟まれて設けられた接合部材により、相互に固定され、
前記中空管路は、複数組が併設され、前記複数組の中空管路は前記アンテナ基板における前記基板に対向する面により塞がれている
アンテナ装置。」

(相違点1)
「アンテナ基板」の構成に関し、
補正後の発明は、「前記基板に対向する面とその裏面の間で前記中空管路との接続箇所に設けられて導波路変換部を構成する変換器」を有し、「該変換器から延び」高周波信号が伝搬する伝送線路を有するのに対し、引用発明は、その様な構成を備えているか明らかでない点。

(相違点2)
「前記基板の前記アンテナ基板と対向する面の前記中空管路の周囲に、該中空管路を囲むように、前記基板と前記アンテナ基板との間隙に挟まれて設けられた接合部材」に関し、
補正後の発明は、「前記基板の前記アンテナ基板と対向する面の前記中空管路の周囲に、該中空管路から所定間隔離れて連続的に囲むように、前記基板と前記アンテナ基板との間隙に挟まれて設けられたシート接着剤」であるのに対し、引用発明は、「前記バイアス・制御回路基板(10)のアンテナ基板(20)と対向する面の前記内周面に導体層(51)が形成された貫通孔の周囲に、該貫通孔を取り囲むように、前記制御回路基板(10)とアンテナ基板(20)との間隙に挟まれて設けられた導電性接合部材(53)」である点。

(相違点3)
「アンテナ基板における前記基板に対向する面により塞がれている」構造に関し、
補正後の発明は、「前記シート接着剤は、複数組の前記中空管路をまとめて囲むように設けられて」塞がれているのに対し、引用発明は、その様な特定がない点。

そこで、まず、上記相違点1について検討する。
上記(2)「2.周知例及び周知技術」の項Aのとおり、「アンテナ装置において、伝送線路と導波管との接続箇所に導波管変換部を設けること。」は、周知の技術(周知技術1)である。そして、アンテナ装置において、高周波信号を導波管から伝送線路へ伝搬させる場合、接続箇所に導波路変換部が必要であることは明らかである。
そうすると、上記周知技術1に接した当業者であれば、引用発明の「導波管(50)」と「マイクロストリップ線路(42)」の接続箇所に採用して、基板に対向する面とその裏面の間で中空管路との接続箇所に設けられて導波路変換部を構成する変換器を設け、該変換器から延び高周波信号が伝搬する伝送線路を有する構成とすること、すなわち上記相違点1に係る構成とすることは、容易に想到し得ることである。

次に、上記相違点2及び3についてまとめて検討する。
上記(2)「2.周知例及び周知技術」の項Bのとおり、「アンテナ装置において、基板の接合部材として、シート接着剤を用いること。」は、周知の技術(周知技術2)である。そして、アンテナ装置において、基板とアンテナ基板の接合強度を向上させることは周知の課題である。
また、例えば、上記周知例1の図2及び図4(C)にもみられるように、アンテナ装置において、基板の接合部材が、所定範囲内で連続する接着層からなる構成は普通の構成である。そして、基板の接合をする場合、接着層の面積、量をどの程度とするかは接合強度を考慮して決定される設計的事項である。
そうすると、引用発明は、「前記バイアス・制御回路基板(10)のアンテナ基板(20)と対向する面の前記内周面に導体層(51)が形成された貫通孔の周囲に、該貫通孔を取り囲むように、前記制御回路基板(10)とアンテナ基板(20)との間隙に挟まれて設けられた導電性接合部材(53)」であるところ、上記周知技術2を採用するとともに、接着層を連続的に配置するようにして、「前記基板の前記アンテナ基板と対向する面の前記中空管路の周囲に、該中空管路から所定間隔離れて連続的に囲むように、前記基板と前記アンテナ基板との間隙に挟まれて設けられたシート接着剤」とすること(相違点2)は、当業者が容易に想到し得ることである。その際、アンテナ基板における基板に対向する面により塞がれている構造について、「前記シート接着剤が、複数組の前記中空管路をまとめて囲むように設けられる」構成となること(相違点3)は当然である。

そして、補正後の発明の作用効果も、引用発明及び周知技術から当業者が容易に予測できる範囲のものである。

以上のとおり、補正後の発明は引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.結語
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成27年2月4日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は、上記「第2 補正却下の決定 1.本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりである。

2.引用発明
引用発明は、上記「第2 補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の項中の「(2)引用発明及び周知技術」の項中の「1.引用例及び引用発明」の項で認定したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は上記補正後の発明から本件補正に係る限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成に本件補正に係る限定を付加した補正後の発明が、上記「第2 補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の項で検討したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明できたものであるから、本願発明も同様の理由により、容易に発明できたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項に論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2015-07-31 
結審通知日 2015-08-04 
審決日 2015-08-17 
出願番号 特願2013-206363(P2013-206363)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01Q)
P 1 8・ 121- Z (H01Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高橋 宣博角田 慎治  
特許庁審判長 新川 圭二
特許庁審判官 大塚 良平
萩原 義則
発明の名称 アンテナ装置  
代理人 酒井 宏明  

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