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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H01S
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01S
管理番号 1306074
審判番号 不服2015-3600  
総通号数 191 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-02-25 
確定日 2015-10-01 
事件の表示 特願2013- 84925「発光装置、表示装置および照明装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月 3日出願公開、特開2013-201434〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成21年2月19日(優先権主張平成20年2月25日、平成20年11月28日、平成20年12月2日)を国際出願日とする特願2010-500662号(以下「遡及出願」という。)の一部を平成25年4月15日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成25年 4月15日 特許出願・上申書
平成26年 3月26日 拒絶理由通知(平成26年4月1日発送)
平成26年 6月 2日 意見書・手続補正書
平成26年11月18日 拒絶査定(平成26年11月25日送達)
平成27年 2月25日 本件審判請求・手続補正書
平成27年 6月19日 上申書

第2 平成27年2月25日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成27年2月25日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の概略
(1) 本件補正の内容
本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1?12を、補正後の特許請求の範囲の請求項1?4とする補正を含むものであり、補正前の特許請求の範囲の請求項1?3と、補正後の特許請求の範囲の請求項1は、それぞれ次のとおりである。

(補正前)
「 【請求項1】
ピーク波長が360nm以上420nm以下であるレーザー光を発光するレーザーダイオードと、このレーザー光によって励起されて赤色光、緑色光、青色光を発光する蛍光体層とを備え、出射光に含まれる前記レーザー光のエネルギーが0.4mW/lm以下であることを特徴とする発光装置。
【請求項2】
ピーク波長が360nm以上420nm以下であるレーザー光を発光するレーザーダイオードと、このレーザー光によって励起されて赤色光、緑色光、青色光を発光する蛍光体層を2次元方向に所定のパターンにより、粒径が5μm以上50μm以下の範囲にある青色、緑色、赤色発光蛍光体で形成した蛍光面とを備え、上記レーザー光を蛍光面上に2次元方向に走査してレーザー光による励起光によって画像を表示し、さらに出射光に含まれる前記レーザー光のエネルギーが0.4mW/lm以下であることを特徴とする表示装置。
【請求項3】
ピーク波長が360nm以上420nm以下であるレーザー光を発光するレーザーダイオードと、このレーザー光によって励起されて赤色光、緑色光、青色光を発光する蛍光体を混合して形成した蛍光膜と、この蛍光膜の表面に形成されたUV光吸収層とを備え、上記レーザー光を蛍光膜に照射して可視光を得ると共に、出射光に含まれる前記レーザー光のエネルギーが0.4mW/lm以下であることを特徴とする照明装置。」

(補正後)
「 【請求項1】
ピーク波長が360nm以上420nm以下であるレーザー光を発光するレーザーダイオードと、前記レーザーダイオードを封止し、第1の透明樹脂硬化物からなる透明樹脂層と、前記透明樹脂層を被覆し、第2の透明樹脂硬化物中に前記レーザー光を受光して赤色光、緑色光、青色光を発光し、2次元方向に形成された所定パターンの蛍光体層と、前記所定パターン以外の部分に黒色非発光層が形成されたスクリーンとを備え、前記蛍光体層は粒径が5μm以上50μm以下の範囲の青色、緑色、赤色発光蛍光体を含有し、前記透明樹脂層の厚さが0.1mm以上1.0mm以下で、前記蛍光体層の厚さが0.1mm以上1.5mm以下であり、前記レーザー光を蛍光面上に2次元方向に走査してレーザー光によって画像を表示し、さらに出射光に含まれる前記レーザー光エネルギーが0.4mW/lm以下であることを特徴とする表示装置。」

(2) 補正事項の整理
本件補正は、次の事項を含む補正である。

ア 補正事項1
補正前の請求項1、3?6、10?12を削除するとともに、それと整合するように、補正前の請求項2、7?9について請求項の番号を繰り上げ、引用する請求項の番号を修正すること。

イ 補正事項2
補正後の請求項1に、「前記レーザーダイオードを封止し、第1の透明樹脂硬化物からなる透明樹脂層」を備え、「前記透明樹脂層の厚さが0.1mm以上1.0mm以下」であるとの発明特定事項を追加すること。

ウ 補正事項3
補正前の請求項2に、
「このレーザー光によって励起されて赤色光、緑色光、青色光を発光する蛍光体層を2次元方向に所定のパターンにより、粒径が5μm以上50μm以下の範囲にある青色、緑色、赤色発光蛍光体で形成した蛍光面とを備え」とあったものを、
補正後の請求項1において、
「前記透明樹脂層を被覆し、第2の透明樹脂硬化物中に前記レーザー光を受光して赤色光、緑色光、青色光を発光し、2次元方向に形成された所定パターンの蛍光体層」を備え、「前記蛍光体層は粒径が5μm以上50μm以下の範囲の青色、緑色、赤色発光蛍光体を含有し」、「前記蛍光体層の厚さが0.1mm以上1.5mm以下であり」とすること。

エ 補正事項4
補正後の請求項1に、「前記所定パターン以外の部分に黒色非発光層が形成されたスクリーン」を備えるとの発明特定事項を追加すること。

オ 補正事項5
補正前の請求項2に、
「上記レーザー光を蛍光面上に2次元方向に走査してレーザー光による励起光によって画像を表示し」とあったものを、
補正後の請求項1において、
「前記レーザー光を蛍光面上に2次元方向に走査してレーザー光によって画像を表示し」とすること。

(3) 新規事項の追加の有無についての検討
補正事項2及び補正事項3が、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載された事項の範囲内においてなされたものであるか否かについて検討する。

ア 当初明細書等には、補正事項2により追加された「前記レーザーダイオードを封止し、第1の透明樹脂硬化物からなる透明樹脂層」を備えること(以下「補正事項2-1」という。)、「前記透明樹脂層の厚さが0.1mm以上1.0mm以下」であること(以下「補正事項2-2」という。)、及び、補正事項3により補正又は追加された「前記透明樹脂層を被覆し、第2の透明樹脂硬化物中に前記レーザー光を受光して赤色光、緑色光、青色光を発光し、2次元方向に形成された所定パターンの蛍光体層」を備えること(以下「補正事項3-1」という。)、「前記蛍光体層の厚さが0.1mm以上1.5mm以下」であること(以下「補正事項3-2」という。)に関連すると認められるものして、次の記載がある(当審注:下線は、当審が付与した。)。

(ア) 本発明で使用する白色LEDランプ、バックライトおよび照明装置について
「【0033】
[第1実施形態]
図1は、本発明で使用する白色LEDランプの第1実施形態の断面図である。図1に示すように、白色LEDランプ1は、絶縁部11上に導電部としての表面側電極12が設けられた基板10と、基板10の表面側電極12上に実装された発光ダイオードチップ20と、発光ダイオードチップ20を封止する透明樹脂層30と、透明樹脂層30を被覆する蛍光体層40とを備える。
・・・
【0043】
{透明樹脂層}
透明樹脂層30は、発光ダイオードチップ20を封止するものであり、第1の透明樹脂硬化物31からなる。
・・・
【0048】
透明樹脂層30の厚さは、通常0.1mm以上、好ましくは0.2mm以上、さらに好ましくは0.2mm以上1.0mm以下の範囲内にある。
【0049】
透明樹脂層30の厚さが0.1mm以上であると、白色LEDランプの発光効率が向上するため好ましい。
【0050】
一方、透明樹脂層30の厚さが大きすぎると、白色LEDランプが大きくなり、液晶表示装置のバックライト用光源や照明用光源として適さなくなるおそれがある。このため、白色LEDランプが、液晶表示装置のバックライト用光源や照明用光源として適した範囲内のサイズに収まるように、透明樹脂層30の厚さを1.0mm以下にすることが好ましい。
・・・
【0053】
{蛍光体層}
蛍光体層40は、透明樹脂層30を被覆するものであり、第2の透明樹脂硬化物41中に、発光ダイオードチップ20の1次光を受光してこの1次光より長波長の光(2次光)を発光する蛍光体粉末42が分散されたものである。
・・・
【0088】
蛍光体層40の厚さは、通常0.1mm以上、好ましくは0.1mm以上1.5mm以下、さらに好ましくは0.1mm以上0.8mm以下の範囲内にある。
【0089】
蛍光体層40の厚さが0.1mm以上であると、発光ダイオードチップ20からのUV光の白色LEDランプ1外への出射を抑制することができるとともに、2次光を効率よく取り出せるため好ましい。
【0090】
蛍光体層40の厚さが0.1mm未満であると、発光ダイオードチップ20からのUV光の白色LEDランプ1外への出射を抑制できないおそれがある。蛍光体層40の厚さが大きすぎると、2次光の取り出し効率が低下するおそれがある。
・・・
【0147】
本発明に係るバックライトは、上記白色LEDランプをたとえば液晶表示装置用の光源として用いたものである。
【0148】
本発明に係るバックライトは、たとえば、上記白色LEDランプを複数個、横に一直線状に並べて作製した光源ユニットと、この光源ユニットから放射される略帯状の光を側面から受光するとともに正面から出光する導光板と、を備えた構成とすることができる。
【0149】
本発明に係るバックライトによれば、上記白色LEDランプを光源として用い、白色LEDランプは、UV光をほとんど出射しないとともに熱をあまり放出しないため、たとえば液晶表示装置用の光源として用いることにより、導光板や輝度向上フィルムに黄変が生じて、液晶表示装置等の輝度が低下したり色度異常が生じたりすることが生じにくい。」

(イ) レーザー光を蛍光面上に2次元方向に走査してレーザー光による励起光によって画像を表示する表示装置について
「【0154】
さらに本発明に係る表示装置は、ピーク波長が360nm以上420nm以下であるレーザー光を発光するレーザーダイオードと、このレーザー光によって励起されて赤色光、緑色光、青色光を発光する蛍光体層を2次元方向に所定のパターンで形成した蛍光面とを備え、上記レーザー光を蛍光面上に2次元方向に走査してレーザー光による励起光によって画像を表示することを特徴とする。
【0155】
本発明に係る表示装置100は、例えば図7に示すように構成される。すなわち、1次元発光素子からなる光源101と、この光源101からの出射光を受けて映像光を発する1次元表示素子102と、この素子102から投写レンズ103を介して出射された映像光を反射する固定反射ミラー104と、この反射ミラー104によって反射された映像光をさらに反射する変位可能な反射ミラー(ポリゴンミラー)105と、この反射ミラー105によって反射された映像光を二次元映像として表示するスクリーン106とから構成される。これらの部品は厚さ100mm程度の薄い筺体(液晶プロジェクター)107内に配置される。上記スクリーンは、図8に示すように、ガラス基板上にブラックストライプで相互に区切られたBGRの3色の蛍光体層108が形成されている。
【0156】
本発明の表示装置はまず青色、緑色、赤色発光の蛍光体が所定のパターンで形成された蛍光面とそれらの蛍光体を励起、発光させる波長365nm以上420nm以下の近紫外UVレーザー光発生光源とから成る表示装置である。図8にはこの表示装置100の原理を示す。まずUV励起光光源より発生したレーザー光はストライプ状に形成されたBGR蛍光体を励起し発光させる。発光は蛍光体ストライプが形成されたガラスのような透明板を通してUV光源と反対側から画像として認識されるものである。原理的にはブラウン管と類似の方式となっている。
・・・
【0162】
蛍光体としては365nm以上420nm以下のレーザー光で効率よく励起されるものが好適であり、具体的には次のような組成範囲を有する蛍光体が好ましい。
・・・
【0166】
上記青、緑、赤色蛍光体の粒径は、5μm以上50μm以下の範囲にあることが好ましい。粒径が5μm未満の蛍光体では輝度が不十分となりまた蛍光体の生産効率が低下する傾向がある。一方、蛍光体の粒径が50μmを超えるようになると蛍光体膜の緻密度が低下すると共に、ストライプのエッジ部がきれいに形成できなくなる傾向が生じる。
・・・
【0170】
また蛍光面に青、緑、赤色蛍光体のストライプを形成する場合、そのストライプ幅は10μm以上2000μm以下の範囲であることが好ましい。ストライプ幅が2000μmを超えるようになると画像の精細度が低下する傾向が現れる。一方、ストライプ幅が10μm未満ではレーザービームのミスランディングにより、発光色の純度が低下したり、蛍光面形成時ストライプが剥離を起こしたりし易くなるなど好ましくない。」

(ウ) 本発明に係る表示装置の実施形態について
「【0359】
次に本発明に係る表示装置の実施形態について、以下の実施例および比較例を参照して具体的に説明する。
【0360】
[実施例101?120および比較例101?120]
各実施例および比較例の表示装置の蛍光体膜を形成するために下記組成の蛍光体を用意した。
・・・
【0362】
次に上記のように用意した各実施例用および比較例用の各青色、緑色、赤色を透明樹脂液に分散して蛍光体スラリーとし、さらに紫外線で硬化する樹脂を加え混合した。A4サイズのガラス板を用意し、その上に青色蛍光体スラリーを約100μm幅のストライプ状にスクリーン印刷した。ストライプとガラス板との接着強度を上げるために、紫外線にて硬化処理を行った。緑色、赤色蛍光体スラリーに対しても同様のプロセスにより約100μm幅のストライプをそれぞれ形成し、図8に示すような蛍光体層108を有する蛍光面を得た。この蛍光面をさらにレーザー光励起システム(UV光発生光源)109に組み込むことにより、各実施例および比較例に係る表示装置を調製した。
【0363】
上記のように調製した表示装置の性能評価に際しては、同一白色色度を表示したときの明るさ及びどの程度多くの色を表現できるかを示す色再現域(対NTSC標準比較(%))が重要である。上記実施例101?120および比較例101?120に係る表示装置で得られた蛍光面中心部の輝度及び色再現域を示すNTSC比を対比して添付の表4に示す結果を得た。
【0364】
表4に示す結果から明らかなように、本実施例に係る各表示装置によれば、従来組成の各蛍光体を使用した従来の表示装置と比較して輝度及びNTSC比が共に高く、優れた発光特性を有することが判明した。」

(エ) 本発明に係る表示装置の一実施形態を示す断面図である図7は、次のものである。


(オ) 本発明に係る表示装置の蛍光体層の構成例を示す断面図である図8は、次のものである。


イ 補正事項2について
(ア) 補正後の請求項1は、「レーザー光を蛍光面上に2次元方向に走査してレーザー光によって画像を表示」する「表示装置」である。

(イ) 「レーザー光を蛍光面上に2次元方向に走査してレーザー光による励起光によって画像を表示する」「表示装置」について記載している上記ア(イ)?ア(オ)には、補正事項2-1である「前記レーザーダイオードを封止し、第1の透明樹脂硬化物からなる透明樹脂層」を備えること、及び補正事項2-2である「前記透明樹脂層の厚さが0.1mm以上1.0mm以下」であることは記載されていない。

(ウ) 「白色LEDランプ、バックライトおよび照明装置について」記載している上記ア(ア)の【0043】、【0048】?【0050】によれば、「透明樹脂層30は、発光ダイオードチップ20を封止するもの」であり、「白色LEDランプの発光効率が向上」し、「白色LEDランプが、液晶表示装置のバックライト用光源や照明用光源として適した範囲内のサイズに収まるように」、「透明樹脂層30の厚さ」が「0.1mm以上・・・1.0mm以下の範囲内にある」ことが記載されている。
しかし、上記ア(ア)には、「レーザーダイオードを封止」する「透明樹脂層」は記載されていないし、当該「透明樹脂層の厚さ」は、「白色LEDランプ」に関する課題を解決するために規定されているものであって、「レーザーダイオード」を備える「表示装置」に関する課題を解決するために規定されているものではない。
また、上記ア(ア)の【0147】?【0149】には、「白色LEDランプをたとえば液晶表示装置用の光源として用いたもの」が記載されているものの、「白色LEDランプ」を「レーザー光を蛍光面上に2次元方向に走査してレーザー光によって画像を表示」する「表示装置」に用いることを示唆するような記載はない。

(エ) してみれば、「レーザー光を蛍光面上に2次元方向に走査してレーザー光によって画像を表示」する「表示装置」において、補正事項2-1である「前記レーザーダイオードを封止し、第1の透明樹脂硬化物からなる透明樹脂層」を備えること、及び補正事項2-2である「前記透明樹脂層の厚さが0.1mm以上1.0mm以下」であることは、いずれも当初明細書等の記載からみて自明な事項であるとは認められない。

(オ) したがって、補正事項2は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、「新たな技術的事項を導入しないもの」に該当しないから、当初明細書等の記載された事項の範囲内においてなされたものではない。
よって、補正事項2は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてなされたものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものではない。

ウ 補正事項3について
(ア) 補正後の請求項1は、「レーザー光を蛍光面上に2次元方向に走査してレーザー光によって画像を表示」する「表示装置」である。

(イ) 「レーザー光を蛍光面上に2次元方向に走査してレーザー光による励起光によって画像を表示する」「表示装置」について記載している上記ア(イ)?ア(オ)には、補正事項3-1である「透明樹脂層を被覆し・・・2次元方向に形成された所定パターンの蛍光体層」を備えること、及び補正事項3-2である「前記蛍光体層の厚さが0.1mm以上1.5mm以下」であることは記載されていない。
また、上記ア(イ)の【0155】、【0162】によれば、「スクリーン106」に形成されている「蛍光体層108」は、「365nm以上420nm以下のレーザー光で効率よく励起されるもの」であるところ、「レーザーダイオードを封止」する「透明樹脂層を被覆」する「蛍光体層」によって、上記ア(ア)の【0089】に記載のように「UV光の・・・出射を抑制する」と、「スクリーン106」に「365nm以上420nm以下のレーザー光」がほとんど照射されないため、「スクリーン106」に形成されている「蛍光体層108」を効率よく励起できないことは明らかである。してみれば、「レーザー光を蛍光面上に2次元方向に走査してレーザー光による励起光によって画像を表示する」「表示装置」において、補正事項3-1である「透明樹脂層を被覆し・・・2次元方向に形成された所定パターンの蛍光体層」を備えることは記載されていない。

(ウ) 「白色LEDランプ、バックライトおよび照明装置について」記載している上記ア(ア)の【0053】、【0088】?【0090】によれば、「蛍光体層40は、透明樹脂層30を被覆するもの」であり、「発光ダイオードチップ20からのUV光の白色LEDランプ1外への出射を抑制することができるとともに、2次光を効率よく取り出」し、「蛍光体層40の厚さが大きすぎると、2次光の取り出し効率が低下するおそれがある」ため、「蛍光体層40の厚さ」を「0.1mm以上1.5mm以下・・・の範囲内にある」ことが記載されている。
しかし、上記ア(ア)には、「レーザーダイオードを封止」する「透明樹脂層を被覆」する「蛍光体層」を備えること、及び当該「蛍光体層の厚さが0.1mm以上1.5mm以下」であることは記載されていない。
また、上記ア(ア)の【0147】?【0149】には、「白色LEDランプをたとえば液晶表示装置用の光源として用いたもの」が記載されているものの、「白色LEDランプ」を「レーザー光を蛍光面上に2次元方向に走査してレーザー光によって画像を表示」する「表示装置」に用いることを示唆するような記載はない。

(エ) してみれば、「レーザー光を蛍光面上に2次元方向に走査してレーザー光によって画像を表示」する「表示装置」において、補正事項3-1である「透明樹脂層を被覆し・・・2次元方向に形成された所定パターンの蛍光体層」を備えること、及び補正事項3-2である「前記蛍光体層の厚さが0.1mm以上1.5mm以下」であることは、いずれも当初明細書等の記載からみて自明な事項であるとは認められない。

(オ) したがって、補正事項3は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、「新たな技術的事項を導入しないもの」に該当しないから、当初明細書等の記載された事項の範囲内においてなされたものではない。
よって、補正事項3は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてなされたものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものではない。

2 本件補正についてのむすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成27年2月25日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成26年6月2日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
ピーク波長が360nm以上420nm以下であるレーザー光を発光するレーザーダイオードと、このレーザー光によって励起されて赤色光、緑色光、青色光を発光する蛍光体層とを備え、出射光に含まれる前記レーザー光のエネルギーが0.4mW/lm以下であることを特徴とする発光装置。」

2 引用文献1の記載事項、及び引用発明1
(1) 原査定の拒絶の理由で引用され、本願の遡及出願の最先の優先日前に頒布された刊行物である特開2006-278416号公報(平成18年10月12日出願公開。以下「引用文献1」という。)には、次の記載がある(当審注:下線は、当審が付与した。)。

ア 「【請求項1】
p型クラッド層と、n型クラッド層と、活性層と、を含み、1次以上の高次の水平横モードでレーザ光を出射する半導体レーザ素子であって、
前記p型クラッド層はp型不純物としてMgを含み、
前記p型クラッド層の平均屈折率n_(p)と前記n型クラッド層の平均屈折率n_(n)との間に、n_(p)<n_(n)なる関係があることを特徴とする、半導体レーザ素子。
・・・
【請求項12】
請求項1から11のいずれかに記載の半導体レーザ素子と、前記半導体レーザ素子から出射されたレーザ光が照射されることによって光を放出する蛍光体と、を含むことを特徴とする、応用システム。」

イ 「【0082】
(実施例4)
図5に、本発明の応用システムの好ましい一例である照明装置の模式的な断面図を示す。この照明装置500は、半導体レーザ素子501と、リードフレーム502、503と、リードワイヤ504と、透明アクリル樹脂505、507と、蛍光体506とを含んでいる。ここで、リードフレーム502にはカップ部が設けられており、その底面に半導体レーザ素子501が実装されている。半導体レーザ素子501は、実施例1の半導体レーザ素子と同一の構成の半導体レーザ素子である。また、リードワイヤ504は半導体レーザ素子501とリードフレーム503とを電気的に接続しており、半導体レーザ素子501は透明アクリル樹脂505、507によってモールドされている。また、透明アクリル樹脂505中には、半導体レーザ素子501から放射されたレーザ光(励起光)を吸収する赤色(Y_(2)O_(2)S:Eu^(3+))、緑色(ZnS:Cu,Al)、および青色(Sr、Ca、Ba、Mg)_(10)(PO_(4))_(6)Cl_(2):Eu^(2+)の蛍光体506が分散されている。
【0083】
このような構成の照明装置において、半導体レーザ素子501からレーザ光が出射すると、発振波長405nmのレーザ光が蛍光体506に照射され、白色の蛍光が放出される。このような照明装置500は、蛍光灯や白熱灯の代替装置として使用することができる。」

ウ 本発明の応用システムの好ましい一例である照明装置の模式的な断面図である図5は、次のものである。


(2) 引用発明1
上記(1)によれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。
「半導体レーザ素子501と、リードフレーム502、503と、リードワイヤ504と、透明アクリル樹脂505、507と、蛍光体506とを含み、
半導体レーザ素子は、p型クラッド層と、n型クラッド層と、活性層と、を含み、1次以上の高次の水平横モードでレーザ光を出射し、前記p型クラッド層はp型不純物としてMgを含み、前記p型クラッド層の平均屈折率n_(p)と前記n型クラッド層の平均屈折率n_(n)との間に、n_(p)<n_(n)なる関係があり、
半導体レーザ素子501は透明アクリル樹脂505、507によってモールドされ、
透明アクリル樹脂505中には、半導体レーザ素子501から放射されたレーザ光(励起光)を吸収する赤色(Y_(2)O_(2)S:Eu^(3+))、緑色(ZnS:Cu,Al)、および青色(Sr、Ca、Ba、Mg)_(10)(PO_(4))_(6)Cl_(2):Eu^(2+)の蛍光体506が分散され、
半導体レーザ素子501からレーザ光が出射すると、発振波長405nmのレーザ光が蛍光体506に照射され、白色の蛍光が放出される、
照明装置500。」

3 対比
(1) 本願発明と引用発明1を対比する。

ア 引用発明1の「p型クラッド層と、n型クラッド層と、活性層と、を含」み、「発振波長405nmのレーザ光」を「出射する」「半導体レーザ素子501」は、
本願発明の「ピーク波長が360nm以上420nm以下であるレーザー光を発光するレーザーダイオード」に相当する。

イ 引用発明1の「半導体レーザ素子501から放射されたレーザ光(励起光)を吸収する赤色(Y_(2)O_(2)S:Eu^(3+))、緑色(ZnS:Cu,Al)、および青色(Sr、Ca、Ba、Mg)_(10)(PO_(4))_(6)Cl_(2):Eu^(2+)の蛍光体506が分散され」た「透明アクリル樹脂505」は、
本願発明の「このレーザー光によって励起されて赤色光、緑色光、青色光を発光する蛍光体層」に相当する。

ウ 引用発明1の「照明装置500」は、「白色の蛍光が放出される」ものであるから、本願発明の「発光装置」に相当する。

(2) 以上より、本願発明と引用発明1との一致点及び相違点は、次のとおりである。

一致点:
「ピーク波長が360nm以上420nm以下であるレーザー光を発光するレーザーダイオードと、このレーザー光によって励起されて赤色光、緑色光、青色光を発光する蛍光体層とを備える、発光装置。」

相違点:
本願発明は、「出射光に含まれる前記レーザー光のエネルギーが0.4mW/lm以下である」のに対し、
引用発明1は、そのような特定がされるものではない点。

4 判断
以下、相違点について検討する。

(1) 紫外光(ピーク波長が360nm以上420nm以下である光)を発光する発光素子と、紫外光によって励起される蛍光体とを備える発光装置において、発光素子から発せられる紫外光が外部に漏出すると、人体や照射された物体に悪影響を与えるため、蛍光体の外側に紫外線を吸収する部材を設けて、紫外光の漏出を防止することは、本願の遡及出願の最先の優先日時点で周知の技術(必要ならば、以下の周知文献1?4参照。)である。
しかるところ、引用発明1の「半導体レーザ素子501」は、「発振波長405nmのレーザ光」を出射するものであるから、「半導体レーザ素子501から放射されたレーザ光(励起光)」が外部に漏出すると、人体や照射された物体に悪影響を与えるものである。
してみれば、引用発明1において、上記周知の技術を採用して、紫外光の漏出を防止することに、格別の困難性はない。
このとき、紫外光の漏出が少ないほど、人体や照射された物体に悪影響を与えないと認められることから、出射光に含まれるレーザー光エネルギーを十分に少なくすることは、当業者が当然に想到し得ることである。

(2) 次に、本願発明における、出射光に含まれるレーザー光のエネルギーの上限値である「0.4mW/lm」について検討する。
本願の明細書(特に【0094】、【0120】、【0141】)、特許請求の範囲及び図面を精査しても、本願発明において、出射光に含まれるレーザー光のエネルギーの上限値を「0.4mW/lm」とすることにより、格別な効果が生じているとは認められない。
したがって、本願発明において、出射光に含まれるレーザー光のエネルギーの上限値を「0.4mW/lm」とすることが、臨界的な意義を有するとはいえない。

(3) 以上のとおりであるから、引用発明1において、紫外光の漏出を防止するために、上記周知の技術を採用し、出射光に含まれるレーザー光のエネルギーを「0.4mW/lm以下」として、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項となすことに、格別の困難性はない。

ア 周知文献1
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の遡及出願の最先の優先日前に頒布された刊行物である特開2007-300043号公報(平成19年11月15日出願公開。以下「周知文献1」という。)には、次の記載がある(当審注:下線は、当審が付与した。)。

(ア) 「【請求項1】
380nm?420nmの範囲に主発光ピーク波長を有するLEDチップと、
前記LEDチップの光を吸収して発光する蛍光体を含む蛍光部と、
前記蛍光部を透過した前記LEDチップの光の内、410nm以下の光の透過率が10%以下である吸収部と、
を有する、発光装置。」

(イ) 「【0035】
なお、図5?図8に示すように、400nm以下の近紫外線を含む紫外線を吸収部材によって吸収することで、発光装置から外部に紫外線が漏れることはほとんどなくなり、その結果、紫外線により人体に悪影響を与えるおそれはほとんどなくなった。」

(ウ) 「【0019】
1.第1の実施形態
図1に示すように、第1の実施形態にかかる発光装置40のLED10は、ベース部材12のほぼ中央に設けられたステム13上に載置された発光するLEDチップ11が例えば樹脂成形体14中に封入されている。蛍光部20及び吸収部30は、樹脂成形体14の外側に被せられたキャップ状の成形体15,16として形成されている。樹脂成形体14の材質としては、LEDチップ11からの紫外線に対して安定な性質を有するシリコーン樹脂が好ましいが、透光性の樹脂例えばアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂などを用いることができる。」

(エ) 第1の実施形態である発光装置を模式的に示す縦断面図である図1は、次のものである。


イ 周知文献2
本願の遡及出願の最先の優先日前に頒布された刊行物である特開平11-145519号公報(平成11年5月28日出願公開。以下「周知文献2」という。)には、次の記載がある(当審注:下線は、当審が付与した。)。

(ア) 「【請求項1】第1の波長を有する1次光を放出する発光層と、
前記発光層の光取り出し側に設けられ、前記発光層から放出される前記1次光を吸収して前記第1の波長とは異なる第2の波長を有する2次光を放出するものとして構成されている波長変換部と、
前記波長変換部の光取り出し側に設けられ、前記波長変換部から放出される前記2次光に対する吸収率が低く、前記発光層から放出される前記1次光に対する吸収率が高いものとして構成されている光吸収部と、
を備えたことを特徴とする半導体発光素子。」

(イ) 「【0019】さらに、発光装置から放出される1次光の波長が380nm以下の紫外線である場合には、漏洩する1次光成分は、人体や周囲の部品などに対して悪影響を与え、実用上問題を生ずるおそれもある。例えば、モールド樹脂が発光素子からの紫外線により劣化し、黄変したり透過率が低下するという不具合を生ずる場合もある。」

(ウ) 「【0078】次に、本発明による半導体発光装置について説明する。図7は、本発明の実施形態に係る半導体発光装置を表す概略断面図である。同図に表した半導体発光装置100Aは、いわゆる「リード・フレーム・タイプ」の「LEDランプ」と称されるものである。すなわち、半導体発光素子900は、リード・フレーム110のカップの底部にマウントされている。そして、発光素子のp側電極およびn側電極は、それぞれ、リード・フレーム110および120に対して、ワイア130、130により接続されている。さらに、リード・フレームの先端部は、樹脂140によりモールドされ保護されている。
【0079】本実施形態においては、半導体発光素子900の表面に波長変換部FLが配置されている。さらに、樹脂140は、波長選択性を有する光吸収部ABとして作用するように構成されている。」

(エ) 本発明の実施形態に係る半導体発光装置を表す概略断面図である図7は、次のものである。


ウ 周知文献3
本願の遡及出願の最先の優先日前に頒布された刊行物である特開2000-208818号公報(平成12年7月28日出願公開。以下「周知文献3」という。)には、次の記載がある(当審注:下線は、当審が付与した。)。

(ア) 「【請求項1】 紫外線を発生する紫外線光源と、前記紫外線光源からの出射光を受けて蛍光を発光する蛍光部材とを具備し、前記蛍光部材は、紫外線に対して安定な材料中に少なくとも1種類の蛍光体を分散したものの成型体であることを特徴とする発光装置。
・・・
【請求項6】 前記蛍光部材の光出射面に対向するように紫外線吸収層を設けたことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の発光装置。」

(イ) 「【0023】なお、発光ダイオードチップ11から出射された紫外線が全て蛍光体15に吸収されることはほとんどあり得ず、一部は発光ダイオード10からの出射光に含まれる。そこで、図2に示すように、シリコン樹脂成型体14の外側に、紫外線吸収剤を含む樹脂製の紫外線吸収部材16を設けても良い。紫外線吸収剤としては、2-(2-ハイドロキシ-3.5-ジ-t-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール等を用いることができる。このように紫外線吸収部材16を用いることにより、発光ダイオード10から紫外線が出射されることはほとんどないので、人体に悪影響を及ぼす可能性がきわめて小さくなる。」

(ウ) 第1の実施形態の変形例の構成を示す図である図2は、次のものである。


エ 周知文献4
本願の遡及出願の最先の優先日前に頒布された刊行物である特開2005-317881号公報(平成17年11月10日出願公開。以下「周知文献4」という。)には、次の記載がある(当審注:下線は、当審が付与した。)。

(ア) 「【請求項1】
発光ダイオード素子をパッケージに搭載して蛍光体を含有した透光性樹脂で封止した発光ダイオードにおいて、前記封止樹脂の外周に紫外線吸収剤を含有した透明樹脂が被着してあることを特徴とする発光ダイオード。」

(イ) 「【0010】
しかしながら、LEDを照明用として使用する場合、紫外領域の短波長のLEDが3原色の蛍光体により全ては可視光に変換されず、パッケージから漏れる短波長の光が存在する。人間の可視域(380nmから780nm)より短波長側の光は、ちらつき、疲れ、ドライアイなどの目の症状の原因となったり、エネルギー的に大きいため長時間光が当たり続けると照射された物体の風化が早まったり、プラスチック、ガラスなどは黄変したりするという問題があった。」

(ウ) 「【0026】
図2において、20は本発明の第二の実施の形態であるLEDである。LED20は従来のLED110の封止樹脂15の外周に透明樹脂18を被着したものである。その他の構成は従来のLED110と同様なので同じ構成要素には同じ符号と名称とを付して詳細な説明を省略する。」

(エ) 本発明の第二の実施の形態である発光ダイオードを示す断面図である図2は、次のものである。


5 小括
以上によれば、本願発明は、当業者が引用発明1及び上記周知の技術に基いて容易に発明をすることができたものである。

6 むすび
本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-07-31 
結審通知日 2015-08-04 
審決日 2015-08-19 
出願番号 特願2013-84925(P2013-84925)
審決分類 P 1 8・ 561- Z (H01S)
P 1 8・ 121- Z (H01S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 百瀬 正之  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 星野 浩一
山口 裕之
発明の名称 発光装置、表示装置および照明装置  
代理人 特許業務法人東京国際特許事務所  
代理人 特許業務法人東京国際特許事務所  

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