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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C06D
管理番号 1306205
審判番号 不服2014-168  
総通号数 191 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-01-06 
確定日 2015-10-06 
事件の表示 特願2006-551561「ガスジェネレータおよび自発着火ブースター組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 8月11日国際公開、WO2005/072432、平成19年 7月19日国内公表、特表2007-519602〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、平成17年1月31日(パリ条約による優先権主張外国庁受理、平成16年1月29日、平成17年1月27日、平成17年1月28日、すべて米国)を国際出願日とする出願であって、平成18年9月4日及び平成19年2月13日に手続補正書が提出され、平成23年1月27日付けで拒絶理由が通知され、同年8月4日に意見書及び手続補正書が提出され、さらに平成24年5月9日付けで拒絶理由が通知され、同年11月14日に意見書が提出されたが、平成25年8月29日付けで拒絶査定され、これに対し、平成26年1月16日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され、その後、前置審査に付されたが同年5月1日付けで審査官により前置報告書が作成されたものである。

2.本願発明

本願の請求項1に係る発明は、平成26年1月16日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。
「 【請求項1】
250℃以下の自発着火温度を有する自発着火成分;および
合計の組成物の10-30重量パーセントでシリコーンを含むブースター成分;
を含む組成物、を含むガス生成システム。」

3.原査定の理由の概要

原査定の理由は、平成24年5月9日付けの拒絶理由通知書に記載された理由であって、その理由は、概略、以下のとおりである。
<理由>
本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

1.特開平07-232989号公報
(以下、「引用刊行物1」という。)

また、原査定においては周知文献として、下記の刊行物が挙げられている。

2.特表2004-501019号公報
(以下、「引用刊行物2」という。)

4.引用刊行物の記載事項

原査定において引用された上記引用刊行物1、2には、以下の事項が記載されている。
(1)引用刊行物1の記載事項
1a:
「【請求項7】 炭水化物、オキソハロゲン酸塩、金属酸化物及び合成樹脂を含む自動発火性火薬組成物。
・・・
【請求項9】 前記自動発火性火薬組成物の炭水化物が95.0?1.0重量%、オキソハロゲン酸塩が95.0?1.0重量%、金属酸化物が30.0?0.01重量%、合成樹脂が0.5?20.0重量%である請求項7記載の自動発火性火薬組成物。
【請求項10】 前記自動発火性火薬組成物の炭水化物とオキソハロゲン酸塩の片方または両方が金属酸化物でコーティングされている請求項7記載の火薬組成物。」

1b:
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ロケット等の飛翔体を急速に発射させる為のガス発生器、或いは車両等のエアバッグを急速に膨張させる為のガス発生器等に用いられる火薬組成物、もしくは火工品又は煙火等に使用する自動発火性火薬組成物に関する。」

1c:
「【0013】前記自動発火性火薬組成物における炭水化物はガス化成分であり、オキソハロゲン酸塩は酸素供給成分であり、両者の組合せによって所定の温度範囲にある発火温度を選択できる。この発火温度までの高温にさらされる使用態様が普通であるが、発火温度までの高温に対して特に金属酸化物は高温安定性に寄与する安定化成分である。合成樹脂は、前記自動発火性火薬組成物を造粒する為のバインダーであり、火薬組成物の熱伝導性の改善に寄与する。」

1d:
「【0014】所定の温度範囲にある発火温度及び適合する燃焼速度を得るために、炭水化物が好ましくは95.0?1.0重量%、オキソハロゲン酸塩が好ましくは95.0?1.0重量%、金属酸化物が好ましくは30.0?0.01重量%、合成樹脂が好ましくは0.5?20.0重量%である。この成分比は、炭水化物とオキソハロゲン酸塩が燃焼に必要な化学量論比を基準にし、ガス発生器の必要部位に適合する燃焼速度に合わせて上記成分範囲内で変化させて良い。特に、金属酸化物は好ましくは30.0?0.01重量%、特に好ましくは、10.0?1.0重量%である。そして、使用するガス発生器の内部構造による燃焼速度調節の為に適宜変えて良い。炭水化物がこの範囲外であると、燃焼速度が異状になる恐れがあり、オキソハロゲン酸塩がこの範囲外であると、自動発火機能が損なわれる恐れがあり、金属酸化物がこの範囲外であると、耐熱老化性と自動発火機能が損なわれる恐れがある。自動発火性火薬組成物に熱が伝わりにくい場合には、合成樹脂がこの範囲外であると、混合の程度により、自動発火温度が著しく変化する恐れがある。」

1e:
「【0016】金属酸化物の平均粒径が炭水化物とオキソハロゲン酸塩の少なくとも一方の平均粒径の1/10以下であり、炭水化物とオキソハロゲン酸塩の少なくとも一方が金属酸化物でコーティングされていると、確実な着火性と高温安定性が確保される。コーティング方法は、先ず、炭水化物と金属酸化物を混合し、炭水化物表面に金属酸化物をコーティングする。また別にオキソハロゲン酸塩と金属酸化物を混合し、オキソハロゲン酸塩表面に金属酸化物をコーティングする。次に両者を混合する。この操作により高温安定性が向上し、コーティング量により燃焼速度が調節される。」

1f:
「【0018】各成分のうちの炭水化物としては、蔗糖、乳糖、ブドウ糖、粉末セルロース、デキストリン、木粉等が単独又は混合物で使用出来る。好ましい自動発火温度165?220°Cを持つものとしては蔗糖を使用するのが好ましい。」

1g:
「【0021】各成分のうちの合成樹脂としては、シリコン樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル、アクリル樹脂、ブチルゴム等が使用出来る。一液室温硬化型シリコーン樹脂が取り扱い易さと熱安定性の観点から特に好ましい。尚、造粒は、炭水化物、オキソハロゲン酸塩、金属酸化物を混合した後に、合成樹脂を加えて混練することによりなされる。」

1h:
「【0022】
【作用】この種の自動発火性火薬組成物は、高温にさらされたり、長期間にわたって発火しないまま放置されることがあるため、発火機能が損なわれることがない高温安定性が求められる。この高温安定性は、上記自動発火性火薬組成物における金属酸化物によって達成される。すなわち、炭水化物とオキソハロゲン酸塩とが金属酸化物によって安定的に隔離された状態が確保され、自動発火前の高温で炭水化物が多少溶けても、オキソハロゲン酸塩に達することがなく、所定の自動発火温度で溶けた炭水化物がオキソハロゲン酸塩に至って発火する。」

1i:
「【0025】
【実施例】以下に実施例と比較例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明がこれらの実施例のみに限定されるものではない。まず、炭水化物/オキソハロゲン酸塩/金属酸化物/合成樹脂の4成分系自動発火性火薬組成物に関する実施例を説明する。尚、例中の%は重量%を表す。
【0026】〔実施例1?3,比較例1?6〕表1に示した組合せにおいて、下記割合で混合し自動発火性火薬組成物とした。
蔗糖(台糖株式会社製)
23.0重量%(実施例1,2と比較例1,4)
デキストリン(試薬:キシダ化学株式会社製)
23.0重量%(実施例3,4と比較例2,5)
セルロース(試薬:和光純薬工業製)
23.0重量%(実施例5,6と比較例3,6)
塩素酸カリウム(試薬:関東化学株式会社製)
74.0重量%(実施例1?6)
77.0重量%(比較例1?6)
MgO(試薬:和光純薬工業製)
2.0重量%(実施例1,2,5と比較例1)
ZnO(試薬:和光純薬工業製)
2.0重量%(実施例4と比較例2)
CaO(試薬:和光純薬工業製)
2.0重量%(実施例6と比較例3)
シリコーン樹脂(一液室温硬化型)(商品名「信越シリコーンKE441T」:信越化学工業株式会社製)(実施例1,3と比較例4?6)
ウレタン樹脂(商品名「ハイボン4601」:日立化成ポリマー株式会社製)(実施例2)
ブチルゴム(商品名「ハイボン1010A」:日立化成ポリマー株式会社製)(実施例4)
ポリエステル樹脂(商品名「ハイボン7031L」:日立化成ポリマー株式会社製)(実施例6)
【0027】尚、混合は炭水化物と、金属酸化物を混合し、別に塩素酸カリウムと金属酸化物を混合した後、両者を合わせて混合した。その後、合成樹脂を加え、30分間混練、造粒した後、48時間室温で放置、硬化させた。
【0028】得られた自動発火性火薬組成物は、内容積1リットルのステンレス製容器に圧力センサーを取り付けた試験装置を用いて、この容器中で粒のまま8gを燃焼させ、着火時間と発生圧力を測定した。(1リットルタンク試験)
【0029】尚、自動発火性火薬組成物の着火には、ロダン鉛点火玉とボロン/硝酸カリウム着火剤0.6g入りの雷管を用いた。着火時間は、雷管の着火電流が切れてから圧力が発生する迄の時間とした。
【0030】更に自動発火性火薬組成物は、120°C×100時間の温度履歴を与え、耐熱老化性を調べた。火薬組成物の自動発火温度は、示差熱分析装置(型名DSC220:セイコー電子工業株式会社製)をもちいて測定した。以上の試験の結果をまとめて表1に示した。
【0031】
【表1】

【0032】実施例1?6においては、本発明の仕様を満たす条件である為、初期性能と、120°C×100時間の耐熱老化後との間に、性能にほとんど変化は見られず、特に自動発火温度の再現性は良好であった。
【0033】比較例1?3は、合成樹脂が存在しなかった為、自動発火温度が高くなり、また120°C×100時間の耐熱老化後は更に自動発火温度は上昇した。比較例4?6は、金属酸化物が存在しなかった為、120℃×100時間の耐熱老化後は不着火となった。また自動発火温度も測定出来なかった。尚、耐熱老化後の性状は、実施例と比較例1?3が変化なかったのに比べ、比較例4?6では黒褐色に変色していた。
【0034】以上により、本発明の自動発火性火薬組成物は、特定の高温領域で自動発火する機能を持ち、120°C×100時間の耐熱老化後も安定した燃焼性能を維持した。」

(2)引用刊行物2の記載事項
2a:
「【請求項6】
所定の長さと、該長さ方向に沿って間隔を空けて設けた複数のガス排出口とを有すると共に、第1端および第2端を有する細長いハウジングと、
該ハウジング内に包含される推進剤体であって、前記ハウジングと略同延の長さを有すると共に、燃料として約10?15重量%のシリコーンの混合物と、約75?90重量%の酸化剤とを含み、ここで前記重量%の配合は前記推進剤体の重量に対する割合である前記推進剤体と、
該推進剤と略同延の着火体であって、略前記推進剤の長さにわたって前記推進剤と物理的に接触する前記着火体とを含み、
前記着火体に点火することによって、本質的に前記推進剤の全長にわたる均一な着火および燃焼がもたらされる、車両乗員保護システムのガス発生装置。」

2b:
「【0007】
好適な一実施態様においては、推進剤体は、燃料および酸化剤として、シリコーン混合物を含有する。シリコーンの柔軟性によって、ハウジングと同延の長い円筒体の押出し加工が容易となる。着火体は、推進剤の円筒体内に、例えば軸方向に配置して収納される。
燃料として使用されるシリコーンによって、燃焼が持続し、したがって持続する燃焼が得られる。着火体または急速爆燃コードによって、推進剤の長さ方向にわたって実質的に同時に着火と燃焼が起こる。結果として、ハウジングの長さ方向に間隔を空けて設けられたガス排出口から流出するガスが、ハンジングの全長の回りに密封されてハウジングに流体連通するエアバッグを均一に膨張させる。作動においては、衝突事象が発生すると、エアバッグが直ちに展開し、ハウジングの全長にわたって持続的かつ均一な膨張プロフィールを示す。
・・・
【0013】
推進剤16は一般に、燃料として約10?25重量%のシリコーン混合物と、過塩素酸アンモニウムまたは過塩素酸カリウムなどの酸化剤を約75?90重量%を含む。シリコーンは、燃料として作用するだけでなく、バインダとしてもはたらき、これによって柔軟な円筒形の推進剤押出し加工品の形成を容易にする。
推進剤16は好ましくは、燃料として重量で約10?25%のシリコーンと、アンモニウム、リチウム、またはカリウムの過塩素酸化物などの過塩素酸酸化剤と、冷却剤として過塩素酸ストロンチウムまたは炭酸ストロンチウムなどのストロンチーム塩とを含むのが好ましく、ここで酸化剤および冷却剤は、推進剤の重量の約75?95%を構成する。シリコーンは、例えばジェネラル・エレクトリック社(General Electric)またはその他の周知のサプライヤから購入することができる。その他のガス発生剤組成物は、サプライから購入するか、あるいは当該技術において公知の方法で製造することができる。
【0014】
推進剤組成物はより好ましくは、重量%で、10?25%のシリコーン、75?90%の酸化剤、1?30%の冷却剤、および1?20%のスラグ生成成分を含む。酸化剤は、例えば過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム、過塩素酸アンモニウム、硝酸カリウム、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム、相安定化硝酸アンモニウムなどの、無機物過塩素酸化物および硝酸化物から選択してもよい。冷却剤としては例えば、水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸ナトリウムなどの金属炭酸化物、およびシュウ酸カルシウム、シュウ酸ストロンチウム、およびシュウ酸アンモニウムなどの無機シュウ酸化物から選択してもよい。スラグ生成成分は例えば、アルミニウム酸化物および鉄酸化物などの金属酸化物から選択してもよい。シリコーンおよび過塩素酸酸化剤を含有するガス生成組成物は、本発明による冷却剤を混合物に添加する場合には、比較的低い温度で燃焼することがわかった。結果として、インフレータ10内で生成されるガスの冷却要件が、大幅に緩和される。」

5.当審の判断

(1)引用発明
引用刊行物1には、摘記事項1aの【請求項9】、摘記事項1dのとおり、炭水化物が95.0?1.0重量%、オキソハロゲン酸塩が95.0?1.0重量%、金属酸化物が30.0?0.01重量%、合成樹脂が0.5?20.0重量%である自動発火性火薬組成物が記載され、当該自動発火性火薬組成物は、摘記事項1bによると、車両等のエアバックを膨張させるためのガス発生器等に用いられるものであることが理解できる。
そうすると、引用刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されていると認められる。
「炭水化物が95.0?1.0重量%、オキソハロゲン酸塩が95.0?1.0重量%、金属酸化物が30.0?0.01重量%、合成樹脂が0.5?20.0重量%である自動発火性火薬組成物を具備するガス発生器。」

(2)本願発明と引用発明との対比
ここで、本願発明と引用発明を対比する。
引用発明における自動発火性火薬組成物を構成する「炭水化物」及び「オキソハロゲン酸塩」はそれぞれ、ガス化成分及び酸素供給成分であって、所定の自動発火温度範囲で発火するように選択されるものである(摘記事項1c参照)。
また、引用発明における自動発火性火薬組成物を構成する「金属酸化物」は、上記炭水化物とオキソハロゲン酸塩の少なくとも一方をコーティングし、それらの確実な着火性と高温安定性を確保するためのものである(摘記事項1aの【請求項10】、摘記事項1c、摘記事項1e、摘記事項1h参照)。
そうすると、引用発明における自動発火性火薬組成物を構成する「炭水化物及びオキソハロゲン酸塩」、あるいは、これらに金属酸化物を加えた「炭水化物、オキソハロゲン酸塩、及び金属酸化物」は、所定の自動発火温度範囲での自動発火を可能ならしめる成分であるということができ、本願発明における「自発着火成分」に相当するものと認められる。
そして、引用発明における「自動発火性火薬組成物」及び「ガス発生器」はそれぞれ、本願発明における「組成物」及び「ガス生成システム」に相当するものといえる。
してみると、引用発明における「自動発火性火薬組成物」は、上記のとおり、本願発明の自発着火成分に相当する成分を有するものの、その自発着火温度の範囲については明示しておらず、また、当該組成物は、合成樹脂を含むものの、それがシリコーンであるか否かやブースター成分であるか否かを明示するものではないことから、本願発明と引用発明との間には、以下に示す一致点及び相違点が存在するといえる。
<一致点>
自発着火成分および合成樹脂を含む組成物、を含むガス生成システム。 <相違点>
1.本願発明における組成物中の自発着火成分は、「250℃以下の自発着火温度を有する」のに対して、引用発明はその点の明示がない点。
2.本願発明における組成物は、「合計の組成物の10-30重量パーセントでシリコーンを含むブースター成分」を含むのに対して、引用発明のものは、合成樹脂を0.5?20.0重量%含むものの、その点の明示がない点。

(3)相違点の検討
(3-1)相違点1(自発着火温度に関する相違)について
引用刊行物1の摘記事項1fには、炭水化物に関し、「好ましい自動発火温度165?220°Cを持つものとしては蔗糖を使用するのが好ましい。」と記載され、さらに、同刊行物の摘記事項1iの表1に記載された自動発火性火薬組成物に係る実施例をみても、その自動発火温度は、173?226℃である。
これらの記載を斟酌すると、引用発明における自動発火性火薬組成物を構成する「炭水化物及びオキソハロゲン酸塩」、あるいは、これらに金属酸化物を加えた「炭水化物、オキソハロゲン酸塩、及び金属酸化物」(上記のとおり、これらの成分は本願発明の「自発着火成分」に相当する成分である。)は、上記した165?220℃あるいは173?226℃程度の温度範囲にて確実に自動発火することを所望された成分であると解され、本願発明における「250℃以下の自発着火温度を有する自発着火成分」と本質的に相違しないことが理解できる。
したがって、上記相違点1に係る技術的事項は、引用発明が既に具備する事項ないし引用発明が当然に予定する事項というのが相当であるから、当該相違点1は外見上のものにすぎず、実質的なものではない。

(3-2)相違点2(ブースター成分に関する相違)について
(3-2-1)シリコーンの容易想到性について
引用発明における自動発火性火薬組成物を構成する「合成樹脂」は、バインダーとして添加されるものであるところ(摘記事項1c参照)、特に好ましい具体例として、シリコーン樹脂が例示されており(摘記事項1g参照)、実施例として、その実際的使用を確認することができる(摘記事項1i参照)。

ここで、本願発明におけるシリコーンの役割等について確認するため、本願明細書を俯瞰すると、その段落【0013】、【0017】には、以下のように記載されている(なお、下線は当審にて付したもの)。
「【0013】
・・・好ましい自発着火/ブースター組成物は、粒状の自発着火組成物、合計の組成物の約10-35重量パーセントのシリコーンから形成された燃料/バインダー、および合計の組成物の約35-55重量%のブースター酸化剤(好ましくは過塩素酸カリウム)を含む。ここに使用される用語「シリコーン」はその総括的な意味として理解される。Hawleyはシリコーン(オルガノシロキサン)を、ケイ素に結合した様々な有機基を有する、交互のケイ素原子と酸素原子から成る構造に基づいたシロキサンポリマーの任意の大きなグループと述べる」
「【0017】
本発明の組成物中のシリコーンの使用によって実現された利点としては、次のものを含む:
自発着火組成物内のブースター機能;
シリコーンが硬化された際の圧縮可能な弾性構造の形成、それによるインフレータアセンブリー内のポジショニングおよびリテンションの容易化の促進と、インフレータの外側表面との密接な熱接触の保証;
シリコーンが未硬化の場合には押し出し成形可能なチキソトロピックな組成物であり、それによるインフレータアセンブリー内への挿入の容易化の促進;および
自発着火インプット、およびシリコーン/酸化剤組成物の燃焼からの比較的熱い燃焼温度からの第一のガス生成物質の点火の容易さ。」

これらの記載から、(i)本願発明における「シリコーン」とは、シロキサン結合による主骨格を持つ、有機ケイ素化合物を総称したものであると解され、「シリコーン樹脂」を包含するものであること、(ii)本願発明における「シリコーン」は、自発着火組成物内のブースター機能のみならず、自発着火組成物の設置や成形を容易化する機能、すなわち、バインダーと同等の機能をも果たすものであること、を把握することができる。

また、原査定において周知文献として挙げられた上記引用刊行物2には、引用発明と同じ技術分野に属する「車両乗員保護システムのガス発生装置」が開示され(摘記事項2a参照)、当該刊行物の摘記事項2bには、
「シリコーンの柔軟性によって、ハウジングと同延の長い円筒体の押出し加工が容易となる。着火体は、推進剤の円筒体内に、例えば軸方向に配置して収納される。
燃料として使用されるシリコーンによって、燃焼が持続し、したがって持続する燃焼が得られる。」(摘記事項2bの段落【0007】参照)
「シリコーンは、燃料として作用するだけでなく、バインダとしてもはたらき、これによって柔軟な円筒形の推進剤押出し加工品の形成を容易にする。」(摘記事項2bの段落【0013】参照)
と記載されているから、当該技術分野において、シリコーンは、バインダーとしての機能と燃料として燃焼を持続させる機能を両立するものとして知られていたことが分かる。

これらの点を併せて考えると、引用発明における合成樹脂として、引用刊行物1が特に好ましいと示唆する、シリコーン樹脂(本願発明におけるシリコーンに相当)を採用することは当業者にとって容易なことといえ、この場合、当該シリコーン樹脂は、バインダーとしての機能はもとより、引用発明における自動発火性火薬組成物が発火する際には、当然、燃焼を持続させる機能、すなわち、ブースター機能をも果たすと考えるのが妥当であるから、ブースター成分に該当するということができる。
さらに、本願発明におけるシリコーンは、上記のとおり、ブースター成分としての機能に加えて、バインダー成分としての機能をも奏するものであるし、引用発明においてシリコーン樹脂(シリコーン)を採用した場合、当該シリコーンを、「ブースター成分」と呼称するか(「ブースター成分」として含有させるか)、「バインダー成分」と呼称するかといった呼称の差異は、組成物の成分組成自体に影響を与えるものではないから、引用発明においてシリコーン樹脂がブースター成分として捉えられているか否かは、本願発明と引用発明に係る組成物の異同の判断を左右するものはない。そして、組成物中に同じ成分が存在する以上、当該成分は、同等の機能を発現すると解すべきである。

(3-2-2)シリコーン含有量の容易想到性について
上記のように、引用発明における合成樹脂として、シリコーン樹脂を採用する場合、その含有量が問題となるが、引用発明は合成樹脂の含有量を、組成物全体の0.5?20.0重量%の範囲で調整し得るとしているのであるから、本願発明がシリコーンの含有量として規定する、「10-30重量パーセント」と重複する、10?20重量%程度に調整することも、引用発明が当然に予定するところであって、その重複範囲の選択に何ら困難な点は見い出せない。
そして、本願明細書を仔細にみても、当該シリコーンの含有量に関し、
「【0009】
・・・ブースター成分は、自発着火成分、および過塩素酸カリウムのような酸化剤と一緒にされた、合計の組成物の約10-30の重量パーセントとなる量のシリコーンから形成されることができる。」
「【0013】
本発明の組成物は、既知の任意の自発着火組成物、および約10-35重量パーセントのシリコーンを含む。・・・」
「【0019】
好ましい自発着火/ブースター組成物は組成物の重量%で、約25%のシリコーン、約35%の自発着火粒子、および約40%の過塩素酸カリウムを含む。・・・」
との記載が認められるにとどまり、当該含有量を特定することの技術的意義を認めるに足りる記載(実施例等)は何ら開示されていないから、本願発明が規定する上記「10-30重量パーセント」という数値範囲を選択することによる有利な効果を確認することはできない。

(3-2-3)相違点2の検討のまとめ
以上検討のとおり、引用発明における合成樹脂として、シリコーンを採用すること、及び当該シリコーンの含有量を、本願発明に規定する数値範囲内に調整することは、当業者にとって容易なことと認められるとともに、当該シリコーンは、バインダー成分のみならず、ブースター成分としても機能すると解するのが相当であるから、本願発明の上記相違点2に係る技術的事項についても容易想到の域を脱せず、この点に特許性を見い出すことはできない。

(4)審判請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書において、
「引用発明と本願発明とを比較すると、本願発明では金属酸化物を使用しな
い点において相違します。
引用発明はオキソハロゲン酸塩及び金属酸化物を含む自動発火性火薬組成物とは記載されていますが、その要点は炭水化物とオキソハロゲン酸塩の少なくとも一方を金属酸化物でコーティングし、炭水化物とオキソハロゲン酸塩とを金属酸化物によって隔離する点にあります。引用発明の実体は単なる混合物ではありません。
これに対して本願発明では、燃料と酸化剤とを混合して自発着火成分を得て、得られた自発着火成分にシリコーン樹脂を混合しています。すなわち本願発明では燃料と酸化剤とは一体の混合物にされます。
この点において本願発明は引用発明とは技術的思想が相違し、また実際の態様も相違しています。」(3頁参照)
と主張する。
しかしながら、以下の(i)?(iii)の点を勘案すると、当該審判請求人の主張は、特許請求の範囲の記載に基づくものとは認められず、採用することはできない。
(i)本願発明に係る組成物はあくまで、
「250℃以下の自発着火温度を有する自発着火成分;および
合計の組成物の10-30重量パーセントでシリコーンを含むブースター成分;
を含む組成物」(下線は当審において付したもの)
であって、金属酸化物を排除するものではないこと。
(ii)本願明細書の段落【0020】、【0021】には、
「【0020】
したがって、本発明のブースター成分はシリコーン、および、所望の場合にはブースター酸化剤を含む。・・・一般に、たとえば、乗り物乗員保護システム内の使用のための多くの既知のガス生成物質組成物が、シリコーンおよび任意のブースター酸化剤に加えて、本発明の組成物の第2のブースター成分として使用されることができる。・・・
【0021】
第一のブースター燃料としてのシリコーンに加えて、第2のブースター燃料は、・・・をはじめとする燃料の群から選択されることができる。ブースター成分酸化剤は、所望の場合には、非金属または金属の塩素酸塩、過塩素酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、過マンガン酸塩、酸化物および混合物から選ばれることができる。・・・第2のブースター燃料は、ブースター成分の約0-25重量パーセントで提供される。ブースター酸化剤は、ブースター成分の0-75重量パーセントである。・・・」(下線は当審において付したもの)
と記載されており、本願発明に係る組成物は、金属酸化物を追加的に添加することを許容するものと認められること。
(iii)本願発明における「自発着火成分」は、「250℃以下の自発着火温度を有する自発着火成分」と特定されるにとどまり、これがさらにどのような成分から構成され、どのような形態であるのかまで特定されているわけではないから、引用発明における「炭水化物」、「オキソハロゲン酸塩」及び「金属酸化物」がどのような形態で存在しているか(請求人が主張する金属酸化物によるコーティング形態など)は、本願発明と引用発明の異同の判断に影響しないのであって、上記「(2)本願発明と引用発明との対比」の項にて説示したとおり、引用発明におけるこれらの成分は、本願発明における「自発着火成分」に相当するということができること。

(5)小括
上記のとおりであるから、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に想到し得るものと認められる。

6.むすび

以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-04-30 
結審通知日 2015-05-11 
審決日 2015-05-25 
出願番号 特願2006-551561(P2006-551561)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C06D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 古妻 泰一近藤 政克  
特許庁審判長 山田 靖
特許庁審判官 豊永 茂弘
日比野 隆治
発明の名称 ガスジェネレータおよび自発着火ブースター組成物  
代理人 辻永 和徳  

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