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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1306232
審判番号 不服2014-4879  
総通号数 191 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-03-13 
確定日 2015-10-08 
事件の表示 特願2011- 97196「太陽電池モジュール」拒絶査定不服審判事件〔平成24年11月22日出願公開、特開2012-230968〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年4月25日の出願であって、平成25年6月25日付けで拒絶理由が通知され、同年8月30日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正書が提出されたが、同年12月10日付けで拒絶査定がなされた。本件は、これに対して、平成26年3月13日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。
その後、当審において、平成27年5月7日付けで平成26年3月13日付けの手続補正の補正の却下の決定がなされるとともに、同日付けで拒絶理由(最後)が通知され、同年7月13日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正書が提出された。


第2 平成27年7月13日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
上述のとおり、平成26年3月13日付けの手続補正は平成27年5月7日付けの補正の却下の決定により却下されているから、本件補正により、本願の特許請求の範囲は、本件補正前の(平成25年8月30日付けの手続補正により補正された)特許請求の範囲である、
「【請求項1】
反射防止膜を有する前面ガラスの前記反射防止膜とは逆側に封止材が形成され、
太陽電池素子の前記前面ガラス基板側にポリマーで被覆された蛍光体を有する波長変換膜が前記太陽電池素子に積層され、
前記波長変換膜と前記太陽電池素子の積層体は前記封止材によって封止されており、
前記蛍光体は、前記波長変換膜の屈折率をa、蛍光体の屈折率をbとするとき、屈折率cのポリマーで表面コートされており、前記ポリマーコート材料の屈折率はa<c<bであることを特徴とする太陽電池モジュール。
【請求項2】
反射防止膜を有する前面ガラスの前記反射防止膜とは逆側に封止材が形成され、
前記封止材に太陽電池素子が封止された太陽電池モジュールであって、
前記反射防止膜にはポリマーで被覆された蛍光体が混練され、
前記蛍光体は、前記反射防止膜の屈折率をa、蛍光体の屈折率をbとするとき、屈折率cのポリマーで表面コートされており、前記ポリマーコート材料の屈折率はa<c<bであることを特徴とする太陽電池モジュール。
【請求項3】
前面ガラスの外側に波長変換膜が形成され、前記波長変換膜の外側に反射防止膜が形成され、
前記前面ガラスの内側に太陽電池素子が封止材によって封止され、
前記波長変換膜はポリマーで被覆された蛍光体を含み、
前記蛍光体は、前記波長変換膜の屈折率をa、蛍光体の屈折率をbとするとき、屈折率cのポリマーで表面コートされており、前記ポリマーコート材料の屈折率はa<c<bであることを特徴とする太陽電池モジュール。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の太陽電池モジュールにおいて、
前記蛍光体がMMgAl_(10)O_(17):Eu,Mnであり、MはBa,Sr,Caの一種または複数種の元素であることを特徴とする太陽電池モジュール。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の太陽電池モジュールにおいて、
前記蛍光体の母体材料が(Ba、Sr)_(2)SiO_(4)、(Ba、Sr、Ca)_(2)SiO_(4)、Ba_(2)SiO_(4)、Sr_(3)SiO_(5)、(Sr、Ca、Ba)_(3)SiO_(5)、(Ba、Sr、Ca)_(3)MgSi_(2)O_(8)、Ca_(3)Si_(2)O_(7)、Ca_(2)ZnSi_(2)O_(7)、Ba_(3)Sc_(2)Si_(3)O_(12)、Ca_(3)Sc_(2)Si_(3)O_(12)のいずれかを含むことを特徴とする太陽電池モジュール。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の太陽電池モジュールにおいて、
前記蛍光体の母体材料がMAlSiN_(3)で表され、MはBa、Sr、Ca、Mgのいずれか一種または複数種の元素であることを特徴とする太陽電池モジュール。
【請求項7】
請求項4乃至6のいずれか1項に記載の太陽電池モジュールにおいて、
前記蛍光体の平均粒径が1μm以上、50μm以下であることを特徴とする太陽電池モジュール。」
から、
「【請求項1】
反射防止膜を有する前面ガラスの前記反射防止膜とは逆側にEVAを主成分とした封止材が形成され、
太陽電池素子の前記前面ガラス基板側に波長変換膜が前記太陽電池素子に積層され、
前記波長変換膜は、前記封止材にアクリルで被覆された蛍光体を混練したものであり、
前記蛍光体は、MMgAl_(10)O_(17):Eu,Mnであり、MはBa,Sr,Caの一種または複数種の元素であり、
前記封止材の屈折率をa、前記蛍光体の屈折率をbとし、前記アクリル樹脂の屈折率をcとするとき、a<c<bの関係を有することを特徴とする太陽電池モジュール。
【請求項2】
反射防止膜を有する前面ガラスの前記反射防止膜とは逆側にEVAを主成分とした封止材が形成され、
太陽電池素子の前記前面ガラス基板側に波長変換膜が前記太陽電池素子に積層され、
前記波長変換膜は、前記封止材にアクリルで被覆された蛍光体を混練したものであり、
前記蛍光体の母体材料は(Ba、Sr)_(2)SiO_(4)、(Ba、Sr、Ca)_(2)SiO_(4)、Ba_(2)SiO_(4)、Sr_(3)SiO_(5)、(Sr、Ca、Ba)_(3)SiO_(5)、(Ba、Sr、Ca)_(3)MgSi_(2)O_(8)、Ca_(3)Si_(2)O_(7)、Ca_(2)ZnSi_(2)O_(7)、Ba_(3)Sc_(2)Si_(3)O_(12)、Ca_(3)Sc_(2)Si_(3)O_(12)のいずれかを含み
前記封止材の屈折率をa、前記蛍光体の屈折率をbとし、前記アクリル樹脂の屈折率をcとするとき、a<c<bの関係を有することを特徴とする太陽電池モジュール。
【請求項3】
請求項1または2に記載の太陽電池モジュールにおいて、
前記蛍光体の平均粒径が1μm以上、50μm以下であることを特徴とする太陽電池モジュール。」
に補正された。 (下線は、請求人が付したものである。)

2 本件補正前の請求項1について
本願の出願当初の明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、単に「当初明細書等」という。)の全記載事項を検討すると、当初明細書等には、「太陽電池モジュール1」として、以下の4つの構造例が挙げられている。

・構造例1(当初明細書等の段落【0013】?【0016】、【0036】?【0038】、図1)
「太陽電池セル(太陽電池素子)4」を封止する「封止材3」に、「波長変換材料7」が混練されたもの
・構造例2(当初明細書等の段落【0017】、図2)
「太陽電池セル(太陽電池素子)4」上に、「波長変換材料7」が混練された「波長変換層8」を積層したもの
・構造例3(当初明細書等の段落【0018】,図3)
「前面ガラス2」上に積層した「反射防止膜6」に、「波長変換材料7」が混練されたもの
・構造例4(当初明細書等の段落【0019】,図4)
「反射防止膜6」と「前面ガラス2」の間の「波長変換層8」に、「波長変換材料7」が混練されたもの

これら4つの構造例の中で、「波長変換材料7」が混練された「波長変換膜8」が「太陽電池セル(太陽電池素子)4」上に積層されたものは、上記構造例2のみである。
(なお、当初明細書等の段落【0020】に「その中でも、図1に示す波長変換材料7を封止材3に混練して用いる方法は製造方法が簡素化でき、波長変換材料7を設置する方法として優れている。」と記載され、当初明細書等の請求項1は、
「蛍光体が太陽電池を保護する封止材中に混合されており、
前記蛍光体は封止材の屈折率をa、蛍光体の屈折率をbとするとき、屈折率cのポリマーで表面コートされており、前記ポリマーコート材料の屈折率はa<c<bであることを特徴とする太陽電池に用いる封止材シート。」
であって、上記構造例1に対応するものである。)
その後、平成25年8月30日付けで手続補正書が提出され、併せて、提出された意見書において、
「3.補正の根拠の明示
請求項1は段落0017および図2に、請求項2は段落0018および図3に、請求項3は段落0019および図4に記載されています。また、請求項1および3における波長変換膜の屈折率a、蛍光体の屈折率b、ポリマーの屈折率cの関係、および、請求項2における反射防止膜の屈折率a、蛍光体の屈折率b、ポリマーの屈折率cの関係は、段落0022の記載から自明であると思料いたします。」(下線は、当審が付した。)
と主張していることも参照すると、本件補正前の請求項1に係る発明は、上記構造例2に対応するものであると認められる。

3 本件補正後の請求項1が示す技術事項について
請求人は、本件補正後の請求項1について、平成27年7月13日付けの意見書において、
「2.出願人は、本意見書と同時に提出する手続き補正書によって特許請求の範囲を補正しました。この補正によって、請求項1を補正するとともに請求項4を加入しました。また、請求項1を補正し、かつ、請求項5を加入して新請求項2としました。旧請求項2-6を削除しました。旧請求項7を新請求項3として、新請求項1および2に従属させました。」(下線は、当審が付した。)
と主張しており、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1は、本件補正前の請求項1を引用する請求項4をさらに減縮することを意図したものと認められる。
すると、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)は、本件補正前の請求項1に係る発明と同様、上記構造例2に対応するものであると認められる。
そして、本件補正前の請求項1、当初明細書等の段落【0017】及び図2の記載から、本件補正前の請求項1に係る発明では、「蛍光体」(「波長変換材料7」)は、「太陽電池素子の前記前面ガラス基板側に」「前記太陽電池素子に積層され」た「波長変換膜」(当初明細書等の段落【0017】及び図2に記載された「波長変換膜8」に対応)が「有する」ものであって、「前記波長変換膜と前記太陽電池素子の積層体」を「封止する」「封止材」(当初明細書等の段落【0017】及び図2に記載された「封止材3」に対応)が有するものではない。

そこで、本件補正発明の
「反射防止膜を有する前面ガラスの前記反射防止膜とは逆側にEVAを主成分とした封止材が形成され、
太陽電池素子の前記前面ガラス基板側に波長変換膜が前記太陽電池素子に積層され、
前記波長変換膜は、前記封止材にアクリルで被覆された蛍光体を混練したものであり、
前記蛍光体は、MMgAl_(10)O_(17):Eu,Mnであり、MはBa,Sr,Caの一種または複数種の元素であり、
前記封止材の屈折率をa、前記蛍光体の屈折率をbとし、前記アクリル樹脂の屈折率をcとするとき、a<c<bの関係を有することを特徴とする太陽電池モジュール。」(下線は、当審が付した。)
における、「前記波長変換膜は、前記封止材にアクリルで被覆された蛍光体を混練したものであり、」が示す技術事項について検討するに、
この記載からは、「前記封止材」が「EVAを主成分とした封止材」を指し、この「EVAを主成分とした封止材」に「蛍光体」を混練すると解し得るが、上述のとおり、本件補正発明は上記構造例2に対応するものであり、「蛍光体」は、「波長変換膜」に混練されるものであって、「封止材」に混練されるものではない。
すると、「前記波長変換膜は、前記封止材にアクリルで被覆された蛍光体を混練したものであり、」という記載自体が示す構成は必ずしも明らかではないが、上記構造例2との対応を考慮すると、「前記封止材」は、「EVAを主成分とした封止材」ではなく、その主成分である「EVA」を指すものであって、「前記波長変換膜は、前記封止材にアクリルで被覆された蛍光体を混練したものであり、」は、「波長変換膜は、」EVAに、「アクリルで被覆された蛍光体を混練したものであ」る構成を意味すると解するのが相当である。

すると、本件補正発明の「前記波長変換膜は、前記封止材にアクリルで被覆された蛍光体を混練したものであり、」は、「前記波長変換膜は、前記EVAにアクリルで被覆された蛍光体を混練したものであり、」という技術事項を示すものと認められる。

4 当初明細書等の記載
当初明細書等には、「波長変換膜8」についての記載は、図1及び4の他に、
「従って、太陽電池モジュールの構造としては、図1に示す構成のほか、図2に示すように封止材3の太陽電池セル側に波長変換層8を形成することができる。波長変換膜8は、波長変換材料7を含む膜である。」(段落【0017】)
「また、図4に示すように反射防止膜6と前面ガラス2の間に波長変換膜8を形成することができる。この場合には前面ガラス2による紫外光の吸収がない表面に波長変換膜8を形成するため、紫外光を可視光?近赤外に波長変換することができる。」(段落【0019】)
「また、ポリマー72で表面コートされた発光材料を混合した波長変換膜8は1層でもよく、または重ねて多層構造とすることもできる。」(段落【0023】)
という記載が存在するのみであって、「波長変換膜8」がどのような材料に「蛍光体」を混練したものであるかの記載は存在しない。

5 本件補正発明について
すると、本件補正発明の、上記「3」で示した「前記波長変換膜は、前記EVAにアクリルで被覆された蛍光体を混練したものであり、」という技術事項のうちの「EVAに」「蛍光体を混練した」という技術事項は,当初明細書等に記載されたものではないことは明らかである。
さらに、太陽電池素子の前面ガラス基板側に積層された波長変換膜がEVAに蛍光体を混練したものであることが、本願の出願当時、当業者の技術常識であった等という事情もない。

6 判断
したがって、本件補正発明は、当初明細書等に記載したものではないから、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内でしたものではない。

7 請求人の主張について
請求人は、本件補正後の請求項1について、平成27年7月13日付けの意見書において、
「3.補正の根拠の明示
請求項1の補正は、明細書段落0036における「<太陽電池モジュールの作製> 次に、前記波長変換材料を用いて太陽電池モジュールを作製した。以下は第1の実施形態による太陽電池モジュールである。透明樹脂(EVA)に有機過酸化物、架橋助剤及び接着向上材を少量添加し、1.0重量%の割合で(Ba,Ca,Sr)MgAl_(10)O_(17):Eu,Mn蛍光体をアクリル樹脂で表面コートした波長変換材料を混合して、80℃に加熱したロールミルを用いて混練した後、2枚のポリエチレンテレフタレート間にプレスを用いて挟んで、厚さ500μmのEVAを主成分とした封止材3を作製した。また、前記蛍光体組成は1種または複数種の組成を混合して用いてもよい。次に、この封止材3を室温まで放冷し、ポリエチレンテレフタレートフィルムを剥がして、前面ガラス2、太陽電池セル4、バックシート5と共に図1のように積層して、150℃に設定した真空ラミネータで予備圧着した。」の記載の基づくものです。したがって、請求項1の補正事項は、出願当初の明細書に明確に記載されていたものであると思料いたします。」
と主張しているが、当初明細書等の段落【0036】に記載された「太陽電池モジュール」は、図1に示されるような「封止材3」に蛍光体を混練したものであって、本件補正発明に対応する、図2に示されるような「波長変換膜8」に蛍光体を混合したものではないから、段落【0036】の記載は、本件補正発明が当初明細書等に記載されていたことの根拠にならないことは明らかであって、上記請求人の主張は採用し得るものではない。

8 結論
以上のとおり、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではないから、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
上述のとおり、本件補正は却下され、また、平成26年3月13日付けの手続補正は平成27年5月7日付けの補正の却下の決定により却下されているから、本願の特許請求の範囲は、本件補正前の(平成25年8月30日付けの手続補正により補正された)特許請求の範囲であって、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2」「[理由]「1」の本件補正前の【請求項1】として記載されたとおりのものである。

2 引用刊行物
(1)当審で通知した拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である、特開2010-34502号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線は当審が付した。)

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池用の波長変換フィルム及びこれを用いた太陽電池モジュール、並びにこれらの製造方法に関するものである。さらに詳しくは、発電に寄与しない波長域の光を、発電に寄与する波長域の光に波長変換することにより発電効率を高くしうる太陽電池モジュール、それに用いる波長変換フィルム、及びこれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のシリコン結晶系の太陽電池モジュールの概略図(断面図)を図3に示す。表面の保護ガラス(カバーガラスともいう)201は、耐衝撃性を重んじて強化ガラスが用いられており、封止材202(通常、エチレンビニルアセテートコポリマーを主成分とする樹脂、充填材ともいう)との密着性をよくするために、片面はエンボス加工による凹凸模様が施されている。
【0003】
また、その凹凸模様は内側(すなわち、図3では保護ガラス201の下面)に形成されており、太陽電池モジュールの表面は平滑である。また保護ガラス201の下側には太陽電池セル100及びタブ線203を保護封止するための封止材202及びバックフィルム204が設けられている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
しかし、上記した従来の太陽電池モジュールでは、太陽電池セル100と封止材202の屈折率差が大きいため、セル-封止材界面で光反射が起きて光を効率よく利用できない難点がある。
【0005】
なお、斜めを含むあらゆる角度からの外部光を、反射損失を少なくして効率よく取り入れる手法の一つに、moth-eye(昆虫の目)構造があることは古くから知られている。これは微細な円錐や三角錐、四角錐等の透明形状物を、フィルムの表面に百nmスケールで規則的に配列する構造を形成することで、反射損失を少なくし効率よく外部光を取り入れる技術である(例えば、非特許文献2参照)。
これを改良して太陽電池モジュールに応用したものが特許文献1に示されている。
【0006】
一方、蛍光物質(発光材料ともいう)を用い、太陽光スペクトルのうち、発電に寄与しない紫外域又は赤外域の光を波長変換することにより、発電に寄与しうる波長域の光を発光する層を太陽電池受光面側に設ける手法は、多数提案されている(例えば、特許文献2?14参照)。
・・(中略)・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2?14にある、発電に寄与しない光を発電に寄与しうる波長域の光に波長変換する提案で、波長変換フィルムには蛍光物質が含有されているが、この蛍光物質は一般的に形状が大きく、入射した太陽光が波長変換フィルムを通過する際に、散乱して太陽電池セルに十分届かず、発電に寄与しない割合が増加する。その結果、波長変換フィルムで紫外域の光を可視域の光に変換しても、入射した太陽光に対する発電される電力の割合(発電効率)があまり高くならないという課題がある。
また、蛍光物質は耐湿性及び耐熱性等がなく、劣化しやすい問題がある。さらに、分散媒樹脂中の蛍光物質の濃度を上げていくとある濃度以上だと濃度消光が起こるため、一定
濃度以上では使用できないという問題がある。
【0010】
本発明は、上記のような問題を軽減しようとするもので、耐湿性、耐熱性に優れ、分散性が良く、濃度消光を抑制した蛍光物質を用いることにより、太陽電池モジュールにおける光利用効率を向上させ、発電効率を安定的に向上させることを目的とする。たとえば、シリコン結晶系太陽電池では、太陽光のうち、400nmよりも短波長、1200nmよりも長波長の光が有効に利用されず、太陽光エネルギーのうち約56%が、このスペクトルミスマッチにより太陽光発電に寄与しない。本発明は、耐湿性、耐熱性に優れ、分散性が良く、濃度消光の起こらない蛍光物質を用い、波長変換し、効率よく且つ安定的に太陽光を利用することにより、スペクトルミスマッチを克服しようというものである。
【0011】
即ち、本発明の波長変換フィルムは、耐湿性及び耐熱性に優れ、分散性が良く且つ濃度消光の起こらない蛍光物質を含有することを目的とする。また、本発明の波長変換フィルムは、入射した太陽光のうち太陽光発電に寄与しない光を発電に寄与する波長へ変換するのと同時に、その光を散乱なしに、太陽電池セルへ効率よく導入することを目的とする。
・・(中略)・・
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、太陽電池モジュールに適用したときに、入射した太陽光のうち太陽光発電に寄与しない光を発電に寄与する波長へ変換するための蛍光物質が、耐湿性及び耐熱性に優れ、分散性が良く且つ濃度消光が起こらないため、効率よく且つ安定的に太陽光を利用できる波長変換フィルムを提供できる。また、太陽光を散乱なしに、太陽電池セルへ効率よく導入できる波長変換フィルムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の波長変換型ライトトラッピングフィルムをモジュールに組み込んだ場合の概略図である。
【図2】太陽電池セルへ波長変換型ライトトラッピングフィルムを形成させる工程を説明するための概略図である。
【図3】従来型の太陽電池モジュールの構造図(断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<波長変換フィルム及びその製造方法>
本発明の波長変換フィルムは、複数の光透過性層と太陽電池セルとを有する太陽電池モジュールの、光透過性層の一つとして用いられ、蛍光物質及び分散媒樹脂を含み、前記蛍光物質は、蛍光物質粒子と、該蛍光物質粒子の周囲を覆った被覆層と、を有する被覆蛍光物質粒子であることを特徴とする。これにより、蛍光物質粒子の耐湿性及び耐熱性が向上し、分散性が良く且つ濃度消光を抑制することができる。
【0023】
被覆蛍光物質粒子の被覆層と波長変換フィルムの分散媒樹脂との屈折率は、それぞれ1.5?2.1であることが好ましく、且つ前記複数の光透過性層を、光入射側から層1、層2、・・・、層mとし、またこれらの屈折率をn1、n2、・・・、nmとしたとき、n1≦n2≦・・・・≦nmが成り立つことが好ましい。また、前記被覆層と分散媒樹脂との屈折率の差を小さくすると、太陽光の散乱損失は小さくできることからより好ましい。屈折率がこれを満たさないと、その層界面での反射が大きくなり、光損失も大きくなる傾向がある。
【0024】
即ち、本発明の波長変換フィルムにおいて、あらゆる角度から入り込む外部光が反射損失少なく、効率よく太陽電池セル内に導入するために、波長変換フィルムの屈折率が、該波長変換フィルムより光入射側に配置される光透過性層、すなわち、反射防止膜、保護ガラス、封止材、型フィルム等の屈折率より高く、且つ該波長変換フィルムの反光入射側に配置される光透過性層、すなわち、太陽電池セルのSiNx:H層(「セル反射防止膜」ともいう)及びSi層等の屈折率よりも低くすることが好ましい。
具体的には、波長変換フィルムより光入射側に配置される光透過性層、すなわち、反射防止膜の屈折率は、1.25?1.45、保護ガラス、封止材、型フィルム等の屈折率は、通常1.45?1.55程度のものが用いられる。該波長変換フィルムの反光入射側に配置される光透過性層、すなわち、太陽電池セルのSiNx:H層(セル反射防止膜)の屈折率は、通常1.9?2.1程度及びSi層等の屈折率は、通常3.3?3.4程度のものが用いられる。以上のことより、本発明の波長変換フィルムの屈折率を1.5?2.1とし、好ましくは1.5?2.1とする。
【0025】
なお、光透過性層のその他の層の好ましい屈折率は、以下に示す通りである。例えば、光透過性層の光入射側から3層をa層、b層、c層としたとき、それぞれの層の屈折率na、nb、ncが、下記式を満たすか、近似していることが好ましい。
nb=√na・nc」

イ 「【0035】
本発明は、波長変換フィルムに用いる、被覆層材料として、シリコンアルコキシドを用いたゾルゲル法で、蛍光物質表面に成膜したシリカガラスであることが望ましい。ゾルゲル法を用いることで、低温且つ簡単なプロセスで被覆蛍光物質粒子の形成が可能であるので、低コストで波長変換型トラッピングフィルムを製造することが可能になる。
なお、ここで「シリカガラス」とは、酸化チタン、酸化ニオブ、アルミナ、窒化シリコン、酸窒化シリコン等を適宜含んでいてもよい。
【0036】
蛍光物質は一般的に酸素や水分によって劣化してしまい、波長変換効率が時間と共に劣化してしまうという問題がある。そのため、被覆層材料としてシリカガラスで蛍光物質粒子の周囲を覆うことで、シリカガラスが酸素や水分を遮断して、蛍光物質の波長変換効率が劣化するのを防ぐという効果が得られる。
【0037】
蛍光物質粒子をゾルゲル法によりシリカガラスで被覆する方法は、公知の方法で行えばよく、特に制限はないが、蛍光物質粒子を、溶媒中、シリコンアルコキシドと処理して、
加熱処理することにより、行うことができる。
シリカガラスの屈折率は、1.45程度であるが、酸化チタン、酸化ニオブ、アルミナ、窒化シリコン、酸窒化シリコン等を適宜含ませ、分散媒樹脂との屈折率を同程度とするよう調整することも好ましい。」

ウ 「【0052】
なお、蛍光物質としては、ユーロピウム錯体が好ましい。具体的には、中心元素のユーロピウム(Eu)の他、配位子となる分子が必要であるが、本発明では、配位子を制限するものではなく、ユーロピウムと錯体を形成する分子であれば、何でもよい。このようなユーロピウム錯体からなる蛍光物質の一例としては、N.Kamata, D.Terunuma, R.Ishii, H.Satoh, S.Aihara, Y.Yaoita, S.Tonsyo, J. Organometallic Chem.,685,235,2003.に挙げられているEu(TTA)_(3)phen等が利用できる。Eu(TTA)_(3)Phenの製造法は、例えば、Masaya Mitsuishi, Shinji Kikuchi, Tokuji Miyashita, Yutaka Amano, J.Mater.Chem.2003, 13, 285-2879に開示されている方法を参照できる。
【0053】
ユーロピウム錯体を用いることで、高い発電効率を有する太陽電池モジュールを実現できる。ユーロピウム錯体は、紫外線域の光を高い波長変換効率で赤色の波長域の光に変換し、この変換された光が太陽電池セルで発電に寄与する。」

エ 「【0055】
本発明の波長変換フィルムは、後述するように、上記被覆蛍光物質粒子と分散媒樹脂とを混合して樹脂組成物を作製し、フィルム状にすることにより作製される。本発明の波長変換フィルムは、微細な凹又は凸形状の多角錐若しくは円錐等を有する形状も好ましい。
微細な凹又は凸形状の多角錐若しくは円錐等を有さなくとも、よく、この場合は製造工程が簡易となる。
【0056】
上述のように、波長変換フィルムより光入射側に配置される光透過性層、すなわち、反射防止膜の屈折率は、1.25?1.45、保護ガラス、封止材、型フィルム等の屈折率は、通常1.45?1.55程度のものが用いられる。該波長変換フィルムの反光入射側に配置される光透過性層、すなわち、太陽電池セルのSiNx:H層(セル反射防止膜)の屈折率は、通常1.9?2.1程度及びSi層等の屈折率は、通常3.3?3.4程度のものが用いられる。以上のことより、本発明の波長変換フィルムの屈折率を1.5?2.1とし、好ましくは1.5?2.1とする。
波長変換フィルムの屈折率を1.5?2.1とするには、分散媒樹脂及び被覆蛍光物質粒子の屈折率をこの範囲とすればよい。
【0057】
フィルムの分散媒樹脂に導入される被覆蛍光物質粒子は、そこでの光散乱が少ないことが望まれる。そのためには、波長変換フィルムの分散媒樹脂として好ましく用いられる材料(屈折率1.5?2.1)に、被覆層材料の屈折率を合わせるよう調整することが好ましい。」
・・(中略)・・
【0059】
本発明において、太陽電池モジュールは、反射防止膜、保護ガラス、封止材、波長変換フィルム、該波長変換フィルムの凹又は凸部形成の鋳型となる型フィルム、太陽電池セル、バックフィルム、セル電極、タブ線等の中の必要部材から構成される。これらの部材の中で、光透過性を有する光透過性層としては、反射防止膜、保護ガラス、封止材、本発明の波長変換フィルム、型フィルム、太陽電池のSiNx:H層(セル反射防止膜)及びSi層等が挙げられる。
【0060】
本発明において、上記で挙げられる光透過性層の積層順は、通常、太陽電池モジュールの受光面から順に、必要により形成される反射防止膜、保護ガラス、封止材、必要により形成される型フィルム、本発明の波長変換フィルム、太陽電池セルのSiNx:H層(セル反射防止膜)、Si層となる。
【0061】
なお、本発明の波長変換フィルムは、太陽電池セルの受光面上に配置されることが好ましい。そうすることで、太陽電池セル受光表面の、セル電極等を含めた凹凸形状に隙間なく追従できる。
【0062】
本発明の波長変換フィルムは、複数の光透過性層と太陽電池セルとを有する太陽電池モジュールの、光透過性層の一つとして用いられるものであり、より詳しくは、片面は太陽電池セルの表面(受光面)の凹凸形状に隙間なく追従し、他面は微細な凸又は凹形状を隙間なく多数敷き詰めるように形成され、前記微細凹部又は凸部の各々の形状は、略同一形状の円錐状若しくは多角錐状であり、その屈折率は1.5?2.1で、且つ前記被覆蛍光物質粒子を含有し、複数の光透過性層を光入射側から層1、層2、・・・層mとし、またこれらの屈折率をn1、n2、・・・nmとしたとき、n1≦n2≦・・・・≦nmが成り立つことを特徴とする波長変換フィルムである。
また、本発明は、太陽電池モジュールに用いる型フィルム付波長変換フィルム、すなわち、上記波長変換フィルムと、その波長変換フィルムの微細凹又は凸部側に、その微細凹若しくは凸部に相補(隙間無く、完全に噛み合う)して接着する微細凸又は凹部が隙間なく多数形成され、且つその屈折率が波長変換フィルムにおける屈折率よりも小さい型フィルム(フィルムの凹又は凸部形成の鋳型となる型フィルム)とが重層されてなる、外観は平滑な型フィルム付きフィルムも提供する。なお、型フィルムは、本発明の波長変換フィルムの微細な凸又は凹形状の多角錐若しくは円錐が受光面に隙間なく多数敷き詰めるように形成するための鋳型として用いられるものである。
【0063】
本発明の波長変換フィルムは、前記複数の光透過性層を、光入射側から層1、層2、・・・、層mとし、またこれらの屈折率をn1、n2、・・・、nmとしたとき、n1≦n2≦・・・・≦nmが成り立つことが好ましい。屈折率がこれを満たさないと、その層界面での反射が大きくなり、光損失も大きくなる傾向がある。」

オ 「【0100】
<太陽電池モジュール及びその製造方法>
本発明は、上記波長変換フィルム又は型フィルム付き波長変換フィルムを用いた太陽モジュールも範囲とする。
本発明の波長変換フィルムは、複数の光透過性層と太陽電池セルとを有する太陽電池モジュールの、光透過性層の一つとして用いられる。
【0101】
本発明の波長変換フィルムに用いる蛍光物質にユーロピウム錯体を用いることで高い発電効率を有する太陽電池モジュールを実現出来る。ユーロピウム錯体は紫外域の光を高い波長変換効率で赤色の波長域の光に変換し、この変換された光が太陽電池セルで発電に寄与する。
【0102】
本発明の波長変換フィルムとなる、フィルム状の樹脂組成物層を用いて、太陽電池セル上に波長変換フィルムを形成し、太陽電池モジュールを製造する一つの方法について、図2を用いて説明する。
【0103】
図2の(a)に示すように、基材であるPET等の基材フィルム304と、PP等のセパレータフィルム306に挟まれた半硬化状態の、被覆蛍光物質粒子を含有した半硬化状態の樹脂組成物層305を、太陽電池セルへ貼り付ける場合、まずセパレータフィルム306を剥がす。
【0104】
次に、図2の(b)に示すように、真空ラミネータを用い、太陽電池セル100に半硬化状態のユーロピウム錯体からなる蛍光物質を含有した半硬化状態の樹脂組成物層305を、基材フィルム304をつけたまま貼り付ける。
【0105】
その後、図2の(c)に示すように、前記基材フィルム304を剥がし、半硬化状態の樹脂組成物層305上に型フィルム301を載せ、図2の(d)に示すように、さらに真空ラミネータで、微細凹凸形状の転写を行い、波長変換フィルム300a(硬化前)を得る。
【0106】
硬化前の波長変換フィルム300aを得た後、さらに光又は熱で半硬化状態のユーロピウム錯体からなる蛍光物質を含有した、波長変換フィルム300aを硬化させ、波長変換フィルム300b(硬化後)を得る。硬化後は、このまま型フィルム301を残し、保護ガラス201、封止材202及びバックフィルム204に挟みモジュール化してもよい。
【0107】
また、図2の(e)のように、(d)の状態から型フィルム301を剥がした後、図1に示すように、保護ガラス201、封止材202及びバックフィルム204に挟みモジュ
ール化してもよい。
・・(中略)・・
【実施例】
【0111】
以下に、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0112】
<被覆蛍光物質粒子の作製>
(被覆蛍光物質粒子A?Hの作製)
まず、蛍光物質粒子を合成する。4,4,4-トリフルオロ-1-(チエニル)-1,3-ブタンジオン(TTA)200mgを7mlのエタノールに溶解し、ここへ1Mの水酸化ナトリウム1.1mlを加え混合した。7mlのエタノールに溶かした62mgの1,10-フェナントロリンを先の混合溶液に加え、1時間攪拌した後、EuCl_(3)・6H_(2)O 103mgの3.5ml水溶液を加え、沈殿物を得る。これをろ別し、エタノールで洗浄し、乾燥する。ヘキサン-エチルアセテートにより再結晶精製をし、蛍光物質粒子Eu(TTA)_(3)Phenを得た。なお、蛍光物質粒子の一次粒子径は10?50nmであった。
【0113】
上記で得られたEu(TTA)_(3)Phenを用い、表1に示す配合量でゾルゲル用溶液を作製した。ここで、表1中に記載されている数字はモル比を示している。なお、Eu(TTA)_(3)Phenの使用量はモル比で、TEOSに対して1/160モルである。また、TEOSはテトラエトキシシラン、DMFはジメチルホルムアミド、NH_(3)はアンモニアを示す。
【0114】
表1に記載された比率で作製した溶液中に、上記で得られた蛍光物質粒子(ユーロピウム錯体(Eu(TTA)_(3)phen))(一次粒子径:10?50nm)を混合し、10分間攪拌を行った。次に、ガラス基板上にキャスト法で塗布して、120℃、1時間の条件で加熱処理を行い、被覆蛍光物質粒子A?Hを作製した。
【0115】
得られた被覆蛍光物質粒子(Eu(TTA)_(3)phen蛍光物質粒子の周囲をシリカガラスで覆った粒子)の形状を電子顕微鏡で観察を行い、一次粒子径の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0116】
【表1】

・・(中略)・・
【0128】
(実施例2)
<太陽電池モジュールの作製>
微細形状を含まない波長変換フィルムを設けた太陽電池モジュールを作製した。
(1)波長変換フィルム用の被覆蛍光物質粒子を含む樹脂組成物の調製
メチルメタクリレートポリマ(和光純薬社製)100質量部に対し、トルエンを163質量部加え、数日攪拌し、溶液化した。この樹脂溶液にさらに上記で合成した被覆蛍光物質粒子Aを0.3質量部加え、樹脂組成物2とした。
【0129】
(2)波長変換フィルムの作製
タブ線接続され、あらかじめ太陽電池特性を測定してある太陽電池セル上に、上記で得られた樹脂組成物2を滴下し、アプリケータにて、タブ線の厚みをギャップとして塗布した。100℃の熱風対流式乾燥機で、15分間かけて乾燥し、波長変換フィルムを作製し、波長変換フィルム付太陽電池セルを得た。
(3)波長変換フィルム付太陽電池モジュールの作製
保護ガラスとしての強化硝子(旭硝子(株)製)、封止材としてのEVA樹脂((株)三井ファブロ製、商品名:ソラエバ)、上記で得られた被覆蛍光物質粒子を含む層のある太陽電池セル、(受光面を下に向ける)、前記EVA樹脂、バックフィルムとしてPETフィルム(東洋紡社製、商品名:A-4300)を重ね、真空ラミネータを用いてラミネートし、波長変換フィルム付太陽電池モジュール2を得た。
なお、各層の屈折率は以下の通りである。保護ガラス(1.50)、封止材(1.49)、波長変換フィルム2(1.49)、太陽電池セルのうちSiNx:H層(2.1)、Si層(3.4)。
各層の屈折率、層厚を表3に示す。
(4)太陽電池モジュール特性
太陽電池モジュール2を実施例1と同様の方法で評価した。そのデータを表4に示す。」

カ 「【図1】

【図2】

【図3】



すると、上記引用文献1の記載事項から、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「メチルメタクリレートポリマ100質量部に対し、トルエンを163質量部加えた樹脂溶液に、被覆蛍光物質粒子(Eu(TTA)_(3)phen蛍光物質粒子の周囲をシリカガラスで覆った粒子)を0.3質量部加え、樹脂組成物2とし、
タブ線接続され、あらかじめ太陽電池特性を測定してある太陽電池セル上に、上記で得られた樹脂組成物2を滴下し、アプリケータにて、タブ線の厚みをギャップとして塗布し、100℃の熱風対流式乾燥機で、15分間かけて乾燥し、波長変換フィルムを作製し、波長変換フィルム付太陽電池セルを得て、
保護ガラスとしての強化硝子、封止材としてのEVA樹脂、上記で得られた被覆蛍光物質粒子を含む層のある太陽電池セル(受光面を下に向ける)、前記EVA樹脂、バックフィルムとしてPETフィルムを重ね、真空ラミネータを用いてラミネートして得られた、波長変換フィルム付太陽電池モジュール2。」

(2)当審で通知した拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である、特開2009-293035号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線は当審が付した。)

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、青色発光ダイオード(青色LED)又は紫外発光ダイオード(紫外LED)を光源とする白色発光ダイオード(白色LED)への利用可能な蛍光体とその製造方法、並びにLEDに関する。」

イ 「【0009】
また、白色LED用蛍光体は、エポキシ等の封止材料中にサブミクロン?ミクロンサイズの粒子として分散して使用されるのが一般的であるが、その分散状態や封止材料との相性は、LEDの光の取り出し効率に大きな影響を与える。更に、蛍光体の発光効率向上や劣化防止を目的として、蛍光体の表面コートも検討されているが、その効果は蛍光体によって異なったり、全く効果の無い場合もあり、不確定である(特許文献7?9)。
【特許文献7】特開2001-303037号公報
【特許文献8】特開2000-204368号公報
【特許文献9】国際公開第WO96/09353号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記従来技術の状況に鑑みてなされたもので、発明者が最終的に発光効率に優れるLED、特に白色LEDを提供することを目的に、そこに用いられる蛍光体の発光特性の向上、更に封止材料への分散を考慮して光の取り出し効率を向上するための検討を進め、その結果としてなされたものである。
・・(中略)・・
【0015】
本発明の目的は、上記従来技術の有する問題を解決し、発光効率に優れるLED、例えば、白色LED、特に青色LEDまたは紫外LEDを光源とする白色LEDを提供するとともに、それに好適な蛍光特性に優れる蛍光体を産業規模で安定して提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、窒化物蛍光体や酸窒化物蛍光体について各種の実験的検討を行い、蛍光体中の酸素量、蛍光体粒子表面の状態、表面コート、封止樹脂等の各種の要因を適切に組み合わせることによって当該蛍光体の蛍光特性が大きく左右されるとの知見を得て、本発明に至ったものである。
【0017】
即ち、本発明は、一般式:(M1)_(X)(M2)_(Y)(Si)_(12-(m+n))(Al)_(m+n)(O)_(n)(N)_(16-n)(但し、M1はLi、Mg、Ca、Y及びランタニド金属(LaとCeを除く)からなる群から選ばれる1種以上の元素であり、M2はCe、Pr、Eu、Tb、Yb、Erから選ばれる1種以上の元素で、0.3≦X+Y≦1.5、0<Y≦0.7、0.6≦m≦3.0、0≦n≦1.5、X+Y=m/2)で示されるαサイアロン型化合物(以下、単にα型サイアロンという)からなる蛍光体であって、当該α型サイアロン粉末に含まれる酸素量が、前記一般式に基づいて計算される値より0.4質量%以下多いことを特徴とする蛍光体であり、好ましくは、前記M1がCaであり、かつ、M2がEuであることを特徴とする前記の蛍光体である。
【0018】
また、本発明は、金属の窒化物または酸窒化物の粒子から構成される粉末状の蛍光体であって、前記金属の窒化物または酸窒化物の粒子の少なくとも一部表面に、厚さ(10?180)/n(単位:ナノメートル)の透明膜を有していることを特徴とする蛍光体である。ここで、nは透明膜の屈折率で1.2?2.5である。そして、本発明の好ましい実施態様として、透明膜の屈折率が1.5以上2.0以下であり、当該蛍光体がサイアロン粒子から構成される粉末状であることが好ましく選択される。
【0019】
また、本発明は、前記の蛍光体と、発光波長の最大強度が240?480nmにあるLEDと、を構成要素として含んでいることを特徴とする発光素子である。好ましくは、この発光素子は、LEDと、窒化物または酸窒化物蛍光体と、を屈折率1.58?1.85の同じ樹脂層に埋め込み、該樹脂層表面を屈折率1.3?1.58の樹脂で覆うことを特徴とする。」

ウ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明者は、本発明を達成するべく、窒化物蛍光体や酸窒化物蛍光体について各種の実験的検討を行った結果、(1)特定組成のαサイアロンであってしかも酸素量が特定含量に制限するときに優れた蛍光特性を確保できること、或いは(2)窒化物または酸窒化物蛍光体を構成する粒子の少なくとも一部表面に所定の屈折率の透明材料を所定厚さ設けられた構造を達成することによっても優れた蛍光特性を確保できることをも見いだし、本発明に至ったものである。
・・(中略)・・
【0033】
次に、(2)について詳述する。この発明は、前記(1)に係る発明をなしたときに得られた知見を基に、更に実験を重ねることでなしたものである。
【0034】
本発明は、窒化物または酸窒化物粉末状蛍光体を構成する粒子の少なくとも一部表面に、所定厚さの特定の透明膜を配置した構造をもたせることで、当該蛍光体の蛍光特性が向上するという知見、つまり、粒子表面に所定材質の透明膜を所定厚み設ける時に、蛍光体の蛍光特性を高めることができるという知見に基づいている。
【0035】
発明者が詳細に検討したところ、粒子表面に設ける透明膜については、適当な厚み範囲が存在し、あまりに薄くなると、均一性の高い透明膜を設けることが難しくなり、また、蛍光体粒子表面の欠陥を低減させたり、粒子表面での蛍光体を励起する光(単に励起光という)の反射を防止する等の効果が小さくなるし、厚すぎれば膜自身による光の吸収が起きるために蛍光体の発光効率は低下する傾向がある。加えて、発明者が詳細に検討したところ、優れた蛍光特性を再現性高く得るためには単に厚みを定めるだけでは不十分であり、透明膜の屈折率をも考慮して定めるべきことを見いだし、本発明に至ったものである。
【0036】
つまり、本発明に於いては、蛍光体が金属の窒化物または酸窒化物の粒子から構成される粉末状の蛍光体であり、その構成粒子の少なくとも一部表面に、屈折率n(1.2?2.5)の透明膜を、厚さ(10?180)/n(単位:ナノメートル)で設けた構造を有することを特徴としている。当該構成を採用することで、蛍光体の粒子表面の欠陥における光の反射や吸収を防止するとともに、励起光の蛍光体に於ける吸収率が向上し、高効率な蛍光体が安定して提供される。前記数値範囲外では、前記した通りに、透明膜の厚さが適当な厚さの範囲を必ずしも達成することができないので本発明においてはこれを選択しない。尚、本発明の透明膜を有する粒子は、理想的には粒子表面全体に設けられていることが望ましく、このような構造は走査型電子顕微鏡を用いると図1に例示されるとおりに観察されるが、本発明に於いては、粒子表面の一部、概ね半量以上が覆われていれば、本発明の効果が達成される。
【0037】
前記透明膜を構成する材質は、前記屈折率nが1.2?2.5を有する透明な(特に用途に応じて紫外線から青色領域、特に240?480nm領域、において透過係数が80%以上の透明性を有するものが望ましい)材質のものであればどのようなものでも用いることができるが、このような物質として、シリカ、チタニア、アルミナ、マグネシア、フッ化マグネシウム等の無機物質、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリメチルスチレン等の樹脂を例示することができる。このうち、蛍光体の表面欠陥の低減効果を持たせるためには、無機物質を選択することが好ましい。
【0038】
また、蛍光体はLED等の用途に適用される時、蛍光体を樹脂に埋め込んで使用される例が多いが、この場合、前記樹脂と蛍光体表面との間に前記透明膜層が介在することになる。この場合には、透明膜の屈折率は、前記樹脂の屈折率と蛍光体構成粒子の屈折率との間の値であることが光学的に望まれる。
【0039】
例えば、窒化珪素の屈折率は2.0であり、LEDを構成する封止樹脂として広く使われているエポキシ樹脂や、紫外線LED用に検討されているはシリコン樹脂の屈折率は、どちらも1.5付近である。窒化物または酸窒化物蛍光体の屈折率について公表データがないが、実験的に確認すると比較的屈折率は大きいことが分かった。蛍光体と封止樹脂との折率差が大きいので、封止樹脂を通過して蛍光体表面に達した励起光がその表面で反射される原因となる。そこで、蛍光体表面に適切な屈折率を持つ膜を形成することは反射率低減、従い蛍光体の蛍光効率向上に役立つ。従って、透明膜の屈折率については、更に好
ましい範囲が存在し、発明者の検討に拠れば、1.5以上2.0以下である。更に好ましくは、1.6以上1.9以下である。このような物質としては、マグネシアやアルミナが例示される。
【0040】
透明膜の材質とその厚さについては、透明膜材料と用途に応じて適切に選択することが望まれる。具体例を挙げれば以下の通りである。即ち、マグネシアは屈折率が1.75付近なので、その膜厚を5?100nm、蛍光体を紫外励起型白色LED用に使う場合には、透明膜の厚さを5?70nm、好ましくは10?60nmに、青色励起型白色LED用に使う場合には、透明膜の厚さを10?100nm、好ましくは15?80nmとするのが良い。」

エ 「【0060】
得られた粉末の金属成分分析値から計算して得た、α型サイアロン粉末の組成は、Ca_(0.48)Eu_(0.05)Si_(10.4)A_(l1.6)O_(0.5)N_(15.5)であり、組成X+Y=0.53、Y/(X+Y)=0.09であった。組成から計算される酸素量は、1.36質量%であった。得られたサイアロン蛍光体の酸素量をLECO社製酸素分析計で測定したところ、1.40質量%であった。また、蛍光特性について日立製作所製蛍光分光光度計を用いて測定したところ、励起波長400nmで測定した発光スペクトルのピーク波長は580nmであった。
【0061】
他の実施例、比較例との発光特性の対比については、本実施例の時のピーク波長における発光強度を100とし、他の実施例、比較例における、励起波長400nmで測定した発光スペクトルのピーク波長における発光強度を相対的に比較することとした。」

3 対比
(1)本願発明と引用発明との対比
ア 引用発明の「保護ガラス」、「封止材」、「太陽電池セル」、「波長変換フィルム」及び「太陽電池モジュール2」が、それぞれ、本願発明の「前面ガラス」、「封止材」、「太陽電池素子」、「波長変換膜」及び「太陽電池モジュール」に相当する。

イ 引用発明の「タブ線接続され、あらかじめ太陽電池特性を測定してある太陽電池セル上に、上記で得られた樹脂組成物2を滴下し、アプリケータにて、タブ線の厚みをギャップとして塗布し、100℃の熱風対流式乾燥機で、15分間かけて乾燥し、波長変換フィルムを作製し、波長変換フィルム付太陽電池セルを得」ることにおいて、「波長変換フィルム」の作用から見て、「波長変換フィルム」は「太陽電池セル」の受光面側に設けられることは明らかであり、また、引用発明は、「保護ガラスとしての強化硝子、封止材としてのEVA樹脂、上記で得られた被覆蛍光物質粒子を含む層のある太陽電池セル(受光面を下に向ける)、・・を重ね」るのであるから、引用発明の「波長変換フィルム」は「太陽電池セル」の「保護ガラス」側に設けられることは明らかである。
また、引用発明の「被覆蛍光物質粒子(Eu(TTA)_(3)phen蛍光物質粒子の周囲をシリカガラスで覆った粒子)」と、本願発明の「ポリマーで被覆された蛍光体」は、「被覆された蛍光体」で一致する。
すると、引用発明の
「メチルメタクリレートポリマ100質量部に対し、トルエンを163質量部加えた樹脂溶液に、被覆蛍光物質粒子(Eu(TTA)_(3)phen蛍光物質粒子の周囲をシリカガラスで覆った粒子)を0.3質量部加え、樹脂組成物2とし、
タブ線接続され、あらかじめ太陽電池特性を測定してある太陽電池セル上に、上記で得られた樹脂組成物2を滴下し、アプリケータにて、タブ線の厚みをギャップとして塗布し、100℃の熱風対流式乾燥機で、15分間かけて乾燥し、波長変換フィルムを作製し、波長変換フィルム付太陽電池セルを得」ることと、本願発明の
「太陽電池素子の前記前面ガラス基板側にポリマーで被覆された蛍光体を有する波長変換膜が前記太陽電池素子に積層され」ることは、
「太陽電池素子の前記前面ガラス基板側に被覆された蛍光体を有する波長変換膜が前記太陽電池素子に積層され」ることで一致する。

ウ 引用発明の「保護ガラスとしての強化硝子、封止材としてのEVA樹脂、波長変換フィルムを貼り付けた太陽電池セル(受光面を下に向ける)、前記EVA樹脂、バックフィルムとしてPETフィルムを重ね」た構成と、本願発明の「反射防止膜を有する前面ガラスの前記反射防止膜とは逆側に封止材が形成され、」「前記波長変換膜と前記太陽電池素子の積層体は前記封止材によって封止されて」いる構成は、
「前面ガラスに封止材が形成され、」「前記波長変換膜と前記太陽電池素子の積層体は前記封止材によって封止されて」いる構成で一致する。

(2)一致点
以上のことから、両者は、
「前面ガラスに封止材が形成され、
太陽電池素子の前記前面ガラス基板側に被覆された蛍光体を有する波長変換膜が前記太陽電池素子に積層され、
前記波長変換膜と前記太陽電池素子の積層体は前記封止材によって封止されている太陽電池モジュール。」
で一致し、次の各点で相違する。

(3)相違点
ア 相違点ア
本願発明は、「反射防止膜を有する前面ガラスの前記反射防止膜とは逆側に封止材が形成され」ている(特に、下線部)、すなわち、「前面ガラス」の「封止材」とは逆側に「反射防止膜」が形成されているのに対して、引用発明は、「保護ガラス」の「封止材」とは逆側に反射防止膜が形成されていない点。

イ 相違点イ
本願発明では、「ポリマーで被覆された蛍光体」であるのに対して、引用発明では、「被覆蛍光物質粒子(Eu(TTA)_(3)phen蛍光物質粒子の周囲をシリカガラスで覆った粒子)」である点、すなわち、蛍光体を被覆する材料が、本願発明では「ポリマー」であるのに対して、引用発明では「シリカガラス」である点。

ウ 相違点ウ
本願発明では、「前記蛍光体は、前記波長変換膜の屈折率をa、蛍光体の屈折率をbとするとき、屈折率cのポリマーで表面コートされており、前記ポリマーコート材料の屈折率はa<c<bである」のに対して、引用発明では、「樹脂溶液」、「Eu(TTA)_(3)phen蛍光物質粒子」、「シリカガラス」すなわち「Eu(TTA)_(3)phen蛍光物質粒子」の周囲を覆う被覆材料の屈折率の大小関係が不明である点。
なお、本願発明の「前記波長変換膜の屈折率をa」の「波長変換膜の屈折率」は、「波長変換膜」を形成し、「蛍光体」を含有させる材料の屈折率を示すと解するのが相当であり、引用発明の「樹脂溶液」の屈折率に相当すると認められる。

4 判断
(1)相違点アについて
太陽電池モジュールにおいて、前面ガラスの封止材とは逆側、すなわち、光入射面側に反射防止膜を形成することは、特開平9-298307号公報(「無反射コーティング層13」参照)、また、特開2003-152202号公報(反射低減コーティング層15」参照)に示されるように周知であり、引用文献1においても、「保護ガラス201」の受光面側に反射防止膜を形成することが、段落【0024】(上記「2」「(1)」「ア」参照)、段落【0056】、【0059】、【0060】(上記「2」「(1)」「エ」参照)に示唆されていることから、引用発明の「保護ガラス」の「封止材」とは逆側に反射防止膜を形成し、上記相違点アに係る本願発明の発明特定事項を得ることは当業者が容易に想到し得ることである。

(2)相違点イについて
引用文献2には、蛍光体の発光効率向上や劣化防止を目的として、蛍光体の表面をコーティングすることが記載され(段落【0009】:上記「2」「(2)」「イ」参照)、また、青色LEDや紫外LEDを光源とする白色LEDに用いられる、光源光を黄色光(波長580nm程度)に変換する蛍光体(段落【0060】:上記「2」「(2)」「エ」参照)において、そのコーティングとしての透明膜を構成する材料として、シリカのような無機物質の他に、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリメチルスチレン等の樹脂が挙げられている(段落【0037】:上記「2」「(2)」「ウ」参照)。
そして、引用発明の「Eu(TTA)_(3)phen」は、紫外線域の光を赤色の波長域の光に変換するものであり、引用発明の蛍光体と、引用文献2に記載された蛍光体は、青色や紫外といった短波長の光を、黄色や赤色といった長波長の光に変換する蛍光体である点で共通するものであり、また、蛍光体の劣化を防止するために表面コーティングを有する点で共通する。
また、引用発明において、蛍光体を被覆する材料であるシリカガラスを、引用文献2で、シリカのような無機物質の他に挙げられたポリスチレン、ポリカーボネート、ポリメチルスチレン等の樹脂とすることに、阻害要因も、格別困難である事情も見当たらない。
すると、引用発明の「シリカガラス」を、引用文献2に記載された、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリメチルスチレン等の樹脂として、上記相違点イに係る本願発明の発明特定事項を得ることは当業者が容易に想到し得ることである。

(3)相違点ウについて
引用文献2には、蛍光体粒子の表面の透明膜が、粒子表面での蛍光体を励起する光(単に励起光という)の反射を防止することができること、そのために、透明膜の屈折率が、透明膜を構成する樹脂の屈折率と、蛍光体粒子の屈折率の間の値であることが好ましいことが記載されている(段落【0035】?【0039】:上記「2」「(2)」「ウ」参照)。
引用文献1に、「前記被覆層と分散媒樹脂との屈折率の差を小さくすると、太陽光の散乱損失は小さくできることからより好ましい。屈折率がこれを満たさないと、その層界面での反射が大きくなり、光損失も大きくなる傾向がある。」(段落【0023】:上記「2」「(1)」「ア」参照)と記載され、「被覆蛍光物質粒子」の層界面による反射も好ましくないことが示唆されているから、引用発明において、「Eu(TTA)_(3)phen蛍光物質粒子」の周囲を覆う被覆材料の屈折率を、「樹脂溶液」の屈折率と、「Eu(TTA)_(3)phen蛍光物質粒子」の屈折率の間の値とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
そして、積層体からなる光学素子一般において、光入射面側から、屈折率が段々大きくなるような積層構造とすると、各界面での反射が低減されることが技術常識であること(引用文献1の段落【0023】にも、「前記複数の光透過性層を、光入射側から層1、層2、・・・、層mとし、またこれら
の屈折率をn1、n2、・・・、nmとしたとき、n1≦n2≦・・・・≦nmが成り立つことが好ましい。」と記載されていることも参照)から、引用発明の「被覆蛍光物質粒子」において、「Eu(TTA)_(3)phen蛍光物質粒子」の周囲を覆う被覆材料の屈折率、「樹脂溶液」の屈折率、「Eu(TTA)_(3)phen蛍光物質粒子」の屈折率を、光入射面側から、「樹脂溶液」の屈折率<「Eu(TTA)_(3)phen蛍光物質粒子」の周囲を覆う被覆材料の屈折率<「Eu(TTA)_(3)phen蛍光物質粒子」の屈折率として、上記相違点ウに係る本願発明の発明特定事項を得ることは当業者が容易に想到し得ることである。

(4)効果について
本願発明が奏し得る効果は、引用発明、引用文献2に記載された技術事項、周知技術及び技術常識から当業者が予測し得る範囲のものであって格別なものではない。

(5)請求人の主張について
請求人は、平成27年7月13日付けの意見書で、
「これらの発光素子は、特定の発光スペクトルを持つLEDからの光を可視光に変換するものです。これに対して、太陽電池は、広いスペクトルを持つ太陽光を太陽電池素子の変換効率の高いスペクトルに変換するものであり、発光素子とは、逆の作用を持つものです。したがって、当業者は、LEDを有する発光素子に使用される蛍光体をそのまま太陽電池用に使用できるとは考えないはずであると思料いたします。」
と主張する。
確かに、白色LEDと太陽電池では全体としては逆の作用を奏するために蛍光体を利用しているが、上述のとおり、両者とも、蛍光体単体としては、青色や紫外光といった短波長の光を黄色や赤色といった長波長の光に変換する波長変換材として使用するのであるから、白色LEDと太陽電池では全体としては逆の作用を奏することが、白色LEDの蛍光体を太陽電池の蛍光体として使用することを阻害する要因になるとは認められない。

(6)結論
したがって、本願発明は、引用発明、引用文献2に記載された技術事項、周知技術及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


第4 むすび
以上のとおり、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-08-04 
結審通知日 2015-08-11 
審決日 2015-08-24 
出願番号 特願2011-97196(P2011-97196)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
P 1 8・ 55- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 眞壁 隆一  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 伊藤 昌哉
山口 剛
発明の名称 太陽電池モジュール  
代理人 ポレール特許業務法人  

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