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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1306365
審判番号 不服2014-20292  
総通号数 191 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-10-08 
確定日 2015-10-07 
事件の表示 特願2010- 90381「波長変換部材およびそれを用いてなる半導体発光素子デバイス」拒絶査定不服審判事件〔平成23年11月 4日出願公開、特開2011-222751〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年4月9日の出願であって、平成25年10月23日付けで最初の拒絶の理由が通知され、同年12月17日に手続補正がなされ、平成26年1月28日付けで最後の拒絶の理由が通知され、同年3月31日に意見書の提出がなされたが、同年7月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年10月8日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされ、その後、当審において、平成27年4月21日付けで最初の拒絶の理由が通知され、同年6月9日に手続補正がなされ、同年6月17日付けで最後の拒絶の理由(以下「当審最後の拒絶理由」という。)が通知され、同年7月23日に手続補正がなされ、さらに、同年8月3日に手続補正がなされたものである。

第2 平成27年7月23日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成27年7月23日付け手続補正(以下「本件補正1」という。)を却下する。

[理 由]
1 補正内容
(1)本件補正1は、特許請求の範囲についてするものであり、本件補正1前に(平成27年6月9日になされた手続補正後に)、

「【請求項1】
無機蛍光体粉末とガラス粉末を含む混合粉末の焼結体からなり、ガラスマトリクス中に無機蛍光体粉末が分散してなる波長変換部材であって、ガラスマトリクスの一部にウォラストナイト及びガーナイトから選択される少なくとも1種が析出していることを特徴とする波長変換部材。
【請求項2】
ガラスマトリクスと析出結晶の屈折率差が0.05以上であることを特徴とする請求項1に記載の波長変換部材。
【請求項3】
JIS K7105に準拠して測定した平行光線透過率が5%以下、ヘイズが90%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の波長変換部材。
【請求項4】
セラミック粉末を0.1?10質量%含有することを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の波長変換部材。
【請求項5】
無機蛍光体粉末が、酸化物、窒化物、酸窒化物、硫化物、酸硫化物、希土類硫化物、アルミン酸塩化物およびハロリン酸塩化物から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の波長変換部材。
【請求項6】
無機蛍光体粉末を1?30質量%含有することを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載の波長変換部材。
【請求項7】
ガラスマトリクスがSiO_(2)-B_(2)O_(3)-RO系ガラス(RはMg、Ca、Sr、Baの少なくとも1種)からなることを特徴とする請求項1?6のいずれかに記載の波長変換部材。
【請求項8】
SiO_(2)-B_(2)O_(3)-RO系ガラスが、組成としてモル%で、SiO_(2) 30?80%、B_(2)O_(3) 1?40%、MgO 0?10%、CaO 0?30%、SrO 0?20%、BaO 0?40%、MgO+CaO+SrO+BaO 5?45%、Al_(2)O_(3) 0?10%、ZnO 0?10%を含有することを特徴とする請求項7に記載の波長変換
部材。
【請求項9】
請求項1?8のいずれかに記載の波長変換部材を用いたことを特徴とする半導体発光素子デバイス。」
とあったものを、

「【請求項1】
無機蛍光体粉末とガラス粉末を含む混合粉末の焼結体からなり、ガラスマトリクス中に無機蛍光体粉末が分散してなる波長変換部材であって、ガラスマトリクスが組成としてモル%で、SiO_(2) 30?80%、B_(2)O_(3) 1?40%、MgO 0.1?10%、CaO 0?30%、SrO 0?20%、BaO 0?40%、MgO+CaO+SrO+BaO 5?45%、Al_(2)O_(3) 0?10%、ZnO 0?10%を含有し、ガラスマトリクスの一部にウォラストナイト及びガーナイトから選択される少なくとも1種が析出していることを特徴とする波長変換部材。
【請求項2】
ガラスマトリクスと析出結晶の屈折率差が0.05以上であることを特徴とする請求項1に記載の波長変換部材。
【請求項3】
JIS K7105に準拠して測定した平行光線透過率が5%以下、ヘイズが90%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の波長変換部材。
【請求項4】
セラミック粉末を0.1?10質量%含有することを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の波長変換部材。
【請求項5】
無機蛍光体粉末が、酸化物、窒化物、酸窒化物、硫化物、酸硫化物、希土類硫化物、アルミン酸塩化物およびハロリン酸塩化物から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の波長変換部材。
【請求項6】
無機蛍光体粉末を1?30質量%含有することを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載の波長変換部材。
【請求項7】
請求項1?6のいずれかに記載の波長変換部材を用いたことを特徴とする半導体発光素子デバイス。」
と補正するものである(なお、下線は、当審で付した。以下同じ。)。

2 補正目的
(1)請求項1についての上記補正は、本件補正1前の請求項1を引用する請求項7に係る発明をさらに引用する請求項8に係る発明を独立形式で書き直すとともに、「ガラスマトリックス」について、本件補正1前に「MgO 0?10%」とあったものを「MgO 0.1?10%」に特定するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものと認められる。

(2)よって、本件補正1後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明1」という。)について、これが特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)否かを、以下に検討する。

3 独立特許要件
(1)刊行物に記載された事項
当審最後の拒絶理由に引用し、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2003-258308号公報(以下「引用文献」という。)には、図とともに以下の記載がある。

ア 「【請求項1】 青色光源から発せられる青色光の一部を黄色光に変換し、残部の青色光と合成して白色光を得るための発光色変換部材であって、軟化点が500℃より高いガラス中に無機蛍光体が分散してなることを特徴とする発光色変換部材。」

イ 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、青色光源、特に青色発光ダイオード(LED)素子からの青色光を白色に転換するための発光色変換部材に関するものである。」

ウ 「【0014】本発明の発光色変換部材は、部材の厚みが0.2mm未満であると実用的な機械的強度が得難い。このため機械的強度が要求される用途では、0.2mm以上の厚みを有するようにすることが好ましい。またこの場合、無機蛍光体の含有量は0.01?15体積%であることが好ましい。蛍光体が0.01体積%未満であると、黄色光が不足して白色光になりにくく、逆に15%を超えると蛍光体に遮蔽されて青色光の光量が少なくなりすぎ、光が黄色にシフトする。場合によっては黄色光自体も遮蔽されて発光効率が著しく低下する。より望ましい蛍光体の含有量は、0.05?10%、特に0.08?8体積、さらには0.1?3体積%である。」

エ 「【0015】また本発明の発光色変換部材は、図1に示すような円盤状の変換部材10、図2に示すような円筒キャップ状の変換部材20等、種々の形状に成形して使用することができる。なお図1中、11は無機蛍光体を、12はガラスを示している。また図3に示すように、発光色変換部材30と、これを支持する支持部材40とからなる複合部品として使用することも可能である。支持部材としては種々の形状のものを採用可能であり、例えば図3に示すような円筒形状のものを使用できる。支持部材は、樹脂、セラミック、金属等の異種材料からなる。材料の選択は、機械的強度、膨張等の条件を考慮して適宜選定すればよい。また変換部材の取り付けは、嵌着、接着等の方法で行えばよい。
【0016】以上の構成を有する本発明の発光色変換部材は、ガラス中に蛍光体が分散してなるため、入射した青色光の一部が無機蛍光体によって黄色光に変換され、また残部の青色光が透過、散乱する。この変換された黄色光と、透過、散乱した青色光とが合わさって白色光に近いスペクトルを合成することにより、青色光が白色光に転換される。
【0017】なお入射した光の散乱が小さい場合、得られる白色光は、強く明るい光となり、散乱が大きい場合は柔らかな光となる。」

オ 「【0020】まず上記特徴を有するようなガラス粉末と無機蛍光体粉末を用意する。ここで得られる変換部材の散乱を大きくしたい場合には、粒度の小さいガラス粉末を、散乱を小さくしたい場合には粒度の大きいガラス粉末を使用すればよい。……つまりガラス粉末の最大粒子径が150μmを超えると、焼結体中に粗大ガラス粒子が形成する透明部分が散在することになり、また光を散乱しにくくなるために、均一な散乱体にならず、白色光が青みを帯び易くなる。また平均粒子径D50が2μm未満であると、焼結体が光を過剰に散乱させるために青色光の透過性が著しく低下し、発光効率が低下するばかりでなく、白色光が黄色みを帯び易くなる。
【0021】次に、無機蛍光体粉末とガラス粉末を混合し、発光色変換部材用材料を得る。混合割合は、作製する部材の厚みを勘案して調整すればよい。即ち、部材の厚みが薄い場合は蛍光体粉末の割合を高めに設定し、逆に厚い場合は割合を低めに設定すればよい。
【0022】続いて樹脂バインダーを添加して加圧成型し、所望の形状の予備成型体を作製する。
【0023】その後、予備成形体を焼成し樹脂バインダーを除去して焼結させ、発光色変換部材を得る。複合部品とする場合は、得られた変換部材を、別に用意した支持部材に取り付ければよい。」

カ 「【0025】
【実施例】以下、実施例に基づき、本発明を説明する。
【0026】表1?3は、本実施例で使用するガラス試料(試料A?M)を示している。
【0027】は、省略。
【0028】
【表2】


【0029】は、省略。」

キ 「【0033】表4?7は、上記したガラス粉末試料と、無機蛍光体粉末を焼結させてなる発光色変換部材の実施例を示している。
【0034】ないし【0036】は、省略。
【0037】
【表7】


ク 上記エで引用する図1は、以下のものである。


(2)引用文献に記載された発明
ア 上記(1)ア及びイの記載によれば、引用文献には、
「青色発光ダイオード素子から発せられる青色光の一部を黄色光に変換し、残部の青色光と合成して白色光を得るための発光色変換部材。」
が記載されているものと認められる。

イ 上記(1)ウないしオの記載に照らして、図1を見ると、
上記アの「発光色変換部材」に入射した青色光の一部が無機蛍光体によって黄色光に変換された黄色光と、透過、散乱した青色光とが合わさって白色光に近いスペクトルを合成することにより、青色光が白色光に転換され、入射した光の散乱が小さい場合、得られる白色光は、強く明るい光となり、散乱が大きい場合は柔らかな光となることが理解できる。

ウ 上記(1)オないしキの記載に照らせば、
上記アの「発光色変換部材」は、具体的(試料Jを参照。)には、
酸化物換算のガラス組成として、SiO_(2)、B_(2)O_(3)、Al_(2)O_(3)、ZnO、CaO及びBaOを含むガラス粉末に、無機蛍光体粉末を混合した発光色変換部材用材料を焼結したのであってもよいものと認められる。

エ 上記アないしウより、引用文献には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「青色発光ダイオード素子から発せられる青色光の一部を黄色光に変換し、残部の青色光と合成して白色光を得るための発光色変換部材であって、
酸化物換算のガラス組成として、SiO_(2)、B_(2)O_(3)、CaO、BaO、Al_(2)O_(3)及びZnOを含むガラス粉末に、無機蛍光体粉末を混合した発光色変換部用材料を焼結したものであり、
発光色変換部材に入射した青色光の一部が無機蛍光体によって黄色光に変換された黄色光と、透過、散乱した青色光とが合わさって白色光に近いスペクトルを合成することにより、青色光が白色光に転換され、入射した光の散乱が小さい場合、得られる白色光は、強く明るい光となり、散乱が大きい場合は柔らかな光となる、
発光色変換部材。」

(3)対比・判断
ア 対比
本願補正発明1と引用発明を対比する。
(ア)引用発明の「無機蛍光体粉末」は、本願補正発明1の「無機蛍光体粉末」に相当し、以下同様に、
「ガラス粉末」は「ガラス粉末」に、
「発光色変換部材」は「波長変換部材」に、それぞれ、相当する。

(イ)引用発明の「発光色変換部材」は、「ガラス粉末」と「無機蛍光体粉末」とを混合した発光色変換部用材料を焼結したものであることに照らせば、
引用発明の「無機蛍光体粉末」が、ガラスマトリックス中に分散していることは、当業者にとって明らかである。

(ウ)してみると、引用発明と本願補正発明1とは、
「無機蛍光体粉末とガラス粉末を含む混合粉末の焼結体からなり、ガラスマトリクス中に無機蛍光体粉末が分散してなる波長変換部材。」
である点で一致している。

(エ)本願明細書には、本願補正発明1の析出結晶である「ウォラストナイト」及び「ガーナイト」に関連して、以下の記載がある。

a 「【0037】
本発明の波長変換部材において、ガラスマトリクスは析出結晶を含有してなるものである。析出結晶はガラスマトリクスの種類に応じて異なるが、例えばウォラストナイト、アノーサイト、ガーナイト、スピネル等が挙げられる。……ガラス粉末と無機蛍光体粉末を含む混合粉末を調製しプレス成形等で圧粉体を作製した後、熱処理を施して結晶を析出させてもよい。
【0038】
ガラスマトリクス中における析出結晶の含有量は、0.1?10質量%、特に1?8質量%であることが好ましい。析出結晶の含有量が0.1質量%未満であると、励起光を散乱させる効果が得られにくく、配光特性に劣る傾向がある。一方、析出結晶の含有量が10質量%を超えると、散乱損失が大きくなり発光強度が低下する傾向がある。
【0039】
析出結晶のサイズは長径で1?30μm、特に10?20μmであること
が好ましい。結晶サイズが長径で1μm未満であると励起光を散乱させる効果が得られにくく、配光特性に劣る傾向がある。一方、析出結晶のサイズが30μmを超えると、散乱損失が大きくなり発光強度が低下する傾向がある。」

b 上記aの記載からして、
本願補正発明1の「ウォラストナイト」及び「ガーナイト」は、光を散乱させるものであって、ガラスマトリックス中にその結晶を析出させることにより、本願補正発明1の「波長変換部材」は、光を散乱させる特性を備えているものと解される。

c 一方、引用発明も、(発光色変換部材に)入射した光の散乱が小さい場合、得られる白色光は、強く明るい光となり、散乱が大きい場合は柔らかな光となるもの、つまり、引用発明の「発光色変換部材」も、光を散乱させる特性を備えているものであるといえる。

d してみると、引用発明と本願補正発明1とは、
「波長変換部材が光を散乱させる特性を備えている」
点で一致する。

(オ)引用発明の「ガラス粉末」は、「酸化物換算のガラス組成として、
SiO_(2)、B_(2)O_(3)、CaO、BaO、Al_(2)O_(3)及びZnOを含む」ものであることに照らせば、
引用発明と本願補正発明1とは、「ガラスマトリックスが、組成として、SiO_(2)、B_(2)O_(3)、CaO、BaO、Al_(2)O_(3)及びZnOを含有する」
点で一致する。

(カ)以上のことから、本願補正発明1と引用発明とは以下の点で一致する。
<一致点>
「無機蛍光体粉末とガラス粉末を含む混合粉末の焼結体からなり、ガラスマトリクス中に無機蛍光体粉末が分散してなる波長変換部材であって、
ガラスマトリックスが、組成として、SiO_(2)、B_(2)O_(3)、CaO、BaO、Al_(2)O_(3)及びZnOを含有し、
波長変換部材が光を散乱させる特性を備えた、波長変換部材。」

(キ)一方で、本願補正発明1と引用発明とは、以下の点で相違する。
<相違点>
ガラスマトリクスに関して、
本願補正発明1では、
a 「組成としてモル%で、
SiO_(2) 30?80%、
B_(2)O_(3) 1?40%、
MgO 0.1?10%、
CaO 0?30%、
SrO 0?20%、
BaO 0?40%、
MgO+CaO+SrO+BaO 5?45%、
Al_(2)O_(3) 0?10%、
ZnO 0?10%を含有し」(以下「相違点a」という。)、
b 「ガラスマトリクスの一部にウォラストナイト及びガーナイトから選択される少なくとも1種が析出している」(以下「相違点b」という。)のに対して、
引用発明では、「MgO」や「SrO」を含むガラスではなく、ウォラストナイトやガーナイトが析出しているか否か不明である点。

イ 判断
(ア)上記「相違点a」について検討する。
a 酸化物換算のガラス組成として、「MgO」や「SrO」を「5モル%」程度含有させることで、軟化点を下げられるなどの効果のあることが、当審最後の拒絶理由で引用した特開2007-39303号公報(【0038】及び【0040】)の他に、特開2009-256116号公報(【0042】及び【0044】)及び特開2009-234816号公報(【0035】及び【0037】)に記載されているように、本願の出願時点で周知(以下「周知技術1」という。)であることに照らせば、
引用発明の「ガラス粉末」に、酸化物換算で「MgO」や「SrO」を「5モル%」程度含有させ、
酸化物換算のガラス組成として、
SiO_(2)、
B_(2)O_(3)、
MgO、
CaO、
SrO、
BaO、
Al_(2)O_(3)、
ZnOを含有するものとすることは、当業者が必要に応じて適宜なし得たことである。

b その際、(酸化物換算の)「組成としてモル%で、
SiO_(2) 30?80%、
B_(2)O_(3) 1?40%、
MgO 0.1?10%、
CaO 0?30%、
SrO 0?20%、
BaO 0?40%、
MgO+CaO+SrO+BaO 5?45%、
Al_(2)O_(3) 0?10%、
ZnO 0?10%を含有する」ものとすることは、当業者が引用文献に記載された表2(試料J)(摘記カを参照。)に示された割合を参考にして、適宜なし得たことである。

(イ)上記「相違点b」について検討する。
a 引用発明において、(発光色変換部材に)入射した光をどの程度散乱させるかは、当業者が引用発明を実施する際に適宜定めるべきところ、
蛍光体を含むガラスからなる波長変換部材において、ガラスマトリックス中に結晶を析出させることで、光を散乱させることが、当審最後の拒絶理由で引用した国際公開第2009/116531号([0011]を参照。)、国際公開第2005/097938号([0016]を参照。)、特開2007-39303号公報(要約を参照。)及び特開2006-265012号公報(【0013】を参照。)に記載されているように、本願の出願時点で周知(以下「周知技術2」という。)であることに照らせば、
引用発明においても、ガラスマトリックス中に結晶を析出させることで、光を大きく散乱させ、柔らかな光とすることは、当業者が容易に着想し得たことである。

b その際、引用発明の「ガラス粉末」に、酸化物換算として「SiO_(2)」及び「CaO」が含まれていることに照らせば、
ウォラストナイト(CaO・SiO_(2))を析出させることに、何ら困難性は認められない。

(ウ)以上の検討によれば、引用発明において、上記<相違点>に係る本願補正発明1の発明特定事項を備えることは、当業者が引用文献に記載された事項、上記周知技術1及び2に基づいて容易になし得たことである。

(エ)効果
本願補正発明1の奏する効果は、当業者が引用発明、引用文献に記載された事項、周知技術1及び2から予測し得る範囲内のものである。

(4)独立特許要件についてのまとめ
本願補正発明1は、当業者が引用発明、引用文献に記載された事項、周知技術1及び2に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 補正却下の決定のむすび
上記「3」のとおり、本願補正発明1は特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正1は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反する。
したがって、本件補正1は、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 平成27年8月3日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成27年8月3日付け手続補正(以下「本件補正2」という。)を却下する。

[理 由]
1 補正内容
(1)本件補正2は、特許請求の範囲についてするものであり、本件補正2前に(平成27年6月9日になされた手続補正後に)、
「【請求項1】
無機蛍光体粉末とガラス粉末を含む混合粉末の焼結体からなり、ガラスマトリクス中に無機蛍光体粉末が分散してなる波長変換部材であって、ガラスマトリクスの一部にウォラストナイト及びガーナイトから選択される少なくとも1種が析出していることを特徴とする波長変換部材。
【請求項2】
ガラスマトリクスと析出結晶の屈折率差が0.05以上であることを特徴とする請求項1に記載の波長変換部材。
【請求項3】
JIS K7105に準拠して測定した平行光線透過率が5%以下、ヘイズが90%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の波長変換部材。
【請求項4】
セラミック粉末を0.1?10質量%含有することを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の波長変換部材。
【請求項5】
無機蛍光体粉末が、酸化物、窒化物、酸窒化物、硫化物、酸硫化物、希土類硫化物、アルミン酸塩化物およびハロリン酸塩化物から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の波長変換部材。
【請求項6】
無機蛍光体粉末を1?30質量%含有することを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載の波長変換部材。
【請求項7】
ガラスマトリクスがSiO_(2)-B_(2)O_(3)-RO系ガラス(RはMg、Ca、Sr、Baの少なくとも1種)からなることを特徴とする請求項1?6のいずれかに記載の波長変換
部材。
【請求項8】
SiO_(2)-B_(2)O_(3)-RO系ガラスが、組成としてモル%で、SiO_(2) 30?80%、B_(2)O_(3) 1?40%、MgO 0?10%、CaO 0?30%、SrO 0?20%、BaO 0?40%、MgO+CaO+SrO+BaO 5?45%、Al_(2)O_(3) 0?10%、ZnO 0?10%を含有することを特徴とする請求項7に記載の波長変換部材。
【請求項9】
請求項1?8のいずれかに記載の波長変換部材を用いたことを特徴とする半導体発光素子デバイス。」
とあったものを、

「【請求項1】
無機蛍光体粉末とガラス粉末を含む混合粉末の焼結体からなり、ガラスマトリクス中に無機蛍光体粉末が分散してなる波長変換部材であって、ガラスマトリクスが組成としてモル%で、SiO_(2) 30?80%、B_(2)O_(3) 1?40%、MgO 0?10%、CaO 0?30%、SrO 0.1?20%、BaO 0?40%、MgO+CaO+SrO+BaO 5?45%、Al_(2)O_(3) 0?10%、ZnO 0?10%を含有し、ガラスマトリクスの一部にウォラストナイト及びガーナイトから選択される少なくとも1種が析出していることを特徴とする波長変換部材。
【請求項2】
ガラスマトリクスと析出結晶の屈折率差が0.05以上であることを特徴とする請求項1に記載の波長変換部材。
【請求項3】
JIS K7105に準拠して測定した平行光線透過率が5%以下、ヘイズが90%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の波長変換部材。
【請求項4】
セラミック粉末を0.1?10質量%含有することを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の波長変換部材。
【請求項5】
無機蛍光体粉末が、酸化物、窒化物、酸窒化物、硫化物、酸硫化物、希土類硫化物、アルミン酸塩化物およびハロリン酸塩化物から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の波長変換部材。
【請求項6】
無機蛍光体粉末を1?30質量%含有することを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載の波長変換部材。
【請求項7】
請求項1?6のいずれかに記載の波長変換部材を用いたことを特徴とする半導体発光素子デバイス。」
と補正するものである。

2 補正目的
(1)請求項1についての上記補正は、本件補正2前の請求項1を引用する請求項7に係る発明をさらに引用する請求項8に係る発明を独立形式で書き直すとともに、「ガラスマトリックス」について、本件補正2前に「SrO 0?20%」とあったものを「SrO 0.1?20%」に特定するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものと認められる。

(2)よって、本件補正2後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明2」という。)について、これが特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)否かを、以下に検討する。

3 独立特許要件
(1)刊行物に記載された事項
当審最後の拒絶理由に引用した引用文献及びその記載事項は、上記「第2 3(1)及び(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
ア 対比
本願補正発明2と引用発明を対比する。
(ア)引用発明の「無機蛍光体粉末」は、本願補正発明2の「無機蛍光体粉末」に相当し、以下同様に、
「ガラス粉末」は「ガラス粉末」に、
「発光色変換部材」は「波長変換部材」に、それぞれ、相当する。

(イ)引用発明の「発光色変換部材」は、「ガラス粉末」と「無機蛍光体粉末」とを混合した発光色変換部用材料を焼結したものであることに照らせば、
引用発明の「無機蛍光体粉末」が、ガラスマトリックス中に分散していることは、当業者にとって明らかである。

(ウ)してみると、引用発明と本願補正発明2とは、
「無機蛍光体粉末とガラス粉末を含む混合粉末の焼結体からなり、ガラスマトリクス中に無機蛍光体粉末が分散してなる波長変換部材。」
である点で一致している。

(エ)本願明細書には、本願補正発明2の析出結晶である「ウォラストナイト」及び「ガーナイト」に関連して、以下の記載がある。

a 「【0037】
本発明の波長変換部材において、ガラスマトリクスは析出結晶を含有してなるものである。析出結晶はガラスマトリクスの種類に応じて異なるが、例えばウォラストナイト、アノーサイト、ガーナイト、スピネル等が挙げられる。……ガラス粉末と無機蛍光体粉末を含む混合粉末を調製しプレス成形等で圧粉体を作製した後、熱処理を施して結晶を析出させてもよい。
【0038】
ガラスマトリクス中における析出結晶の含有量は、0.1?10質量%、特に1?8質量%であることが好ましい。析出結晶の含有量が0.1質量%未満であると、励起光を散乱させる効果が得られにくく、配光特性に劣る傾向がある。一方、析出結晶の含有量が10質量%を超えると、散乱損失が大きくなり発光強度が低下する傾向がある。
【0039】
析出結晶のサイズは長径で1?30μm、特に10?20μmであること
が好ましい。結晶サイズが長径で1μm未満であると励起光を散乱させる効果が得られにくく、配光特性に劣る傾向がある。一方、析出結晶のサイズが30μmを超えると、散乱損失が大きくなり発光強度が低下する傾向がある。」

b 上記aの記載からして、
本願補正発明2の「ウォラストナイト」及び「ガーナイト」は、光を散乱させるものであって、ガラスマトリックス中にその結晶を析出させることにより、本願補正発明2の「波長変換部材」は、光を散乱させる特性を備えているものと解される。

c 一方、引用発明も、(発光色変換部材に)入射した光の散乱が小さい場合、得られる白色光は、強く明るい光となり、散乱が大きい場合は柔らかな光となるもの、つまり、引用発明の「発光色変換部材」も、光を散乱させる特性を備えているものであるといえる。

d してみると、引用発明と本願補正発明2とは、
「波長変換部材が光を散乱させる特性を備えている」
点で一致する。

(オ)引用発明の「ガラス粉末」は、「酸化物換算のガラス組成として、
SiO_(2)、B_(2)O_(3)、CaO、BaO、Al_(2)O_(3)及びZnOを含む」ものであることに照らせば、
引用発明と本願補正発明2とは、「ガラスマトリックスが、組成として、SiO_(2)、B_(2)O_(3)、CaO、BaO、Al_(2)O_(3)及びZnOを含有する」
点で一致する。

(カ)以上のことから、本願補正発明2と引用発明とは以下の点で一致する。
<一致点>
「無機蛍光体粉末とガラス粉末を含む混合粉末の焼結体からなり、ガラスマトリクス中に無機蛍光体粉末が分散してなる波長変換部材であって、
ガラスマトリックスが、組成として、SiO_(2)、B_(2)O_(3)、CaO、BaO、Al_(2)O_(3)及びZnOを含有し、
波長変換部材が光を散乱させる特性を備えた、波長変換部材。」

(キ)一方で、本願補正発明2と引用発明とは、以下の点で相違する。
<相違点>
ガラスマトリクスに関して、
本願補正発明2では、
c 「組成としてモル%で、
SiO_(2) 30?80%、
B_(2)O_(3) 1?40%、
MgO 0?10%、
CaO 0?30%、
SrO 0.1?20%、
BaO 0?40%、
MgO+CaO+SrO+BaO 5?45%、
Al_(2)O_(3) 0?10%、
ZnO 0?10%を含有し」(以下「相違点c」という。)、
d 「ガラスマトリクスの一部にウォラストナイト及びガーナイトから選択される少なくとも1種が析出している」(以下「相違点d」という。)のに対して、
引用発明では、「MgO」や「SrO」を含むガラスではなく、ウォラストナイトやガーナイトが析出しているか否か不明である点。

イ 判断
(ア)上記「相違点c」について検討する。
a 酸化物換算のガラス組成として、「MgO」や「SrO」を「5モル%」程度含有させることで、軟化点を下げられるなどの効果のあることが、本願の出願時点で周知(上記「周知技術1」を参照。)であることに照らせば、
引用発明の「ガラス粉末」に、酸化物換算で「MgO」や「SrO」を「5モル%」程度含有させ、
酸化物換算のガラス組成として、
SiO_(2)、
B_(2)O_(3)、
MgO、
CaO、
SrO、
BaO、
Al_(2)O_(3)、
ZnOを含有するものとすることは、当業者が必要に応じて適宜なし得たことである。

b その際、(酸化物換算の)「組成としてモル%で、
SiO_(2) 30?80%、
B_(2)O_(3) 1?40%、
MgO 0?10%、
CaO 0?30%、
SrO 0.1?20%、
BaO 0?40%、
MgO+CaO+SrO+BaO 5?45%、
Al_(2)O_(3) 0?10%、
ZnO 0?10%を含有する」ものとすることは、当業者が引用文献に記載された表2(試料J)(摘記カを参照。)に示された割合を参考にして、適宜なし得たことである。

(イ)上記「相違点d」について検討する。
a 引用発明において、(発光色変換部材に)入射した光をどの程度散乱させるかは、当業者が引用発明を実施する際に適宜定めるべきところ、
蛍光体を含むガラスからなる波長変換部材において、ガラスマトリックス中に結晶を析出させることで、光を散乱させることが、本願の出願時点で周知(上記「周知技術2」を参照。)であることに照らせば、
引用発明においても、ガラスマトリックス中に結晶を析出させることで、光を大きく散乱させ、柔らかな光とすることは、当業者が容易に着想し得たことである。

b その際、引用発明の「ガラス粉末」に、酸化物換算として「SiO_(2)」及び「CaO」が含まれていることに照らせば、
ウォラストナイト(CaO・SiO_(2))を析出させることに、何ら困難性は認められない。

(ウ)以上の検討によれば、引用発明において、上記<相違点>に係る本願補正発明2の発明特定事項を備えることは、当業者が引用文献に記載された事項、上記周知技術1及び2に基づいて容易になし得たことである。

(エ)効果
本願補正発明2の奏する効果は、当業者が引用発明、引用文献に記載された事項、周知技術1及び2から予測し得る範囲内のものである。

(4)独立特許要件についてのまとめ
本願補正発明2は、当業者が引用発明、引用文献に記載された事項、周知技術1及び2に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 補正却下の決定のむすび
上記「3」のとおり、本願補正発明2は特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正2は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反する。
したがって、本件補正2は、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第4 本願発明
1 本願発明
本件補正1及び本件補正2は、上記「第2」及び「第3」に記載したとおり却下されたため、本願の請求項1に係る発明は、前記「第2 1」にて本件補正1前の請求項1として記載したとおりのものであると認められる。
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)を再掲すると以下のとおりのものである。

「無機蛍光体粉末とガラス粉末を含む混合粉末の焼結体からなり、ガラスマトリクス中に無機蛍光体粉末が分散してなる波長変換部材であって、ガラスマトリクスの一部にウォラストナイト及びガーナイトから選択される少なくとも1種が析出していることを特徴とする波長変換部材。」

2 引用文献
当審最後の拒絶理由で引用した引用文献及びその記載事項は、前記「第2 3(1)及び(2)」に記載したとおりである。

3 対比・判断
(1)引用発明と本願発明を対比すると、以下の点で一致し、以下の点で相違する。

<一致点>
「無機蛍光体粉末とガラス粉末を含む混合粉末の焼結体からなり、ガラスマトリクス中に無機蛍光体粉末が分散してなる波長変換部材であって、
波長変換部材が光を散乱させる特性を備えた、波長変換部材。」

<相違点>
ガラスマトリクスに関して、
本願発明は、「ガラスマトリクスの一部にウォラストナイト及びガーナイトから選択される少なくとも1種が析出している」のに対して、
引用発明では、ウォラストナイトやガーナイトが析出しているか否か不明である点。

(2)上記<相違点>について検討する。
前記「第2 3(3)イ(イ)」で検討したように、引用発明において、ウォラストナイト(CaO・SiO_(2))を析出させることに、何ら困難性は認められない。

(3)また、本願発明の奏する効果は、当業者が引用発明及び上記周知技術2から予測し得る範囲内のものである。

4 まとめ
以上の検討によれば、引用発明において、上記<相違点>に係る本願発明の発明特定事項を採用することは、当業者が上記周知技術2に基づいて容易になし得たことである。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が引用発明及び上記周知技術2に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-08-13 
結審通知日 2015-08-14 
審決日 2015-08-25 
出願番号 特願2010-90381(P2010-90381)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
P 1 8・ 575- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 道祖土 新吾森口 忠紀門 良成  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 星野 浩一
山口 裕之
発明の名称 波長変換部材およびそれを用いてなる半導体発光素子デバイス  

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