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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1306366
審判番号 不服2012-13355  
総通号数 191 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-07-12 
確定日 2015-10-07 
事件の表示 特願2007-523166「前立腺癌発病予防および前立腺肥大(BPH)の総合的症状の効果的な治療のための、化学的な予防効果を有する、中国緑茶またはその他の野菜から抽出したカテキン、さらに正確にはポリフェノールの混合物」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 2月 9日国際公開、WO2006/013420、平成20年 3月21日国内公表、特表2008-508252〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.本願発明
本願は、2005年7月21日(パリ条約による優先権主張 2004年7月27日及び2005年2月16日、イタリア国)を国際出願日とする出願であって、平成24年3月5日付けで拒絶査定がなされたのに対して、平成24年7月12日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に、明細書及び特許請求の範囲を補正する誤訳訂正書が提出されたものである。
そして、本願の請求項1?3に係る発明は平成24年7月12日付けの誤訳訂正書の特許請求の範囲に記載されたとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明は以下のとおりである(以下、「本願発明」という。)。

「【請求項1】
前癌病変部PINと診断された人間における前立腺癌の発症を、前記人間の睡眠を阻害することなく防止するための、経口投与組成物の製造における化合物混合物の使用であり、
(a)化合物混合物が少なくとも総カテキン量80%を含み、総カテキンの少なくとも50%がEGCGであり、総カテキンの20%未満が没食子酸およびその他のカテキンであり、
(b)組成物は少なくとも6ヶ月を越える期間にわたって、人間の前立腺癌の発症を予防するのに効果的なスケジュールと濃度でもって投与され、
(c)前記化合物混合物の有するカフェインが、1.5%未満である
ことを特徴とする使用。」

2.引用例に記載の発明
原査定における拒絶の理由で引用した、本件優先日前に頒布されたことが明らかな Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, August 28, 2001, vol.98, no.18, p. 10350-10355(以下、「引用例」という。)には、「緑茶ポリフェノールの経口注入によるTRAMPマウスでの前立腺癌発症の抑制」と題して、以下の事項が記載されている。(原文は英文なので、訳文で示す。)

(1) 「ヒトの前立腺癌(CaP)に対する効果的な化学防御剤の開発は、密接にヒトの疾病を模倣する動物モデルの有効性の決定的な証拠を必要とする。自然発生的に転移性CaPを発症する自然発症性のマウス前立腺のトランスジェニック腺癌(TRAMP)モデルはヒトの疾病の進行形態を模倣するそのようなモデルの1つである。オスのTRAMPマウスを用いて、我々はヒトの達成可能な用量(1日に6カップの緑茶と等しい)において緑茶から分離されたポリフェノール性画分(GTP)の経口注入が有意にCaP発症を抑制して、そしてこれらのマウスで生存期間を増加させることを示す。2つの別個の実験で、20匹の未治療のマウスの32週齢で明白な腫瘍の累積的な発生率は100%(20匹中20匹)であった。これらのマウスでは、動物の95%(20匹中19匹)、65%(20匹中13匹)、40%(20匹中8匹)及び25%(20匹中5匹)がそれぞれリンパ節、肺、肝臓及び骨へ遠隔部位転移を示した。しかしながら、8?32週齢までTRAMPマウスに液体飲料の唯一のソースとして提供された0.1 %GTP(wt/vol)は、水を与えたTRAMPマウスと比較して、次のことをもたらした。(i) MRIによって連続的に評価されるように、原発腫瘍発生率と全身腫瘍組織量で有意の遅れ、(ii)前立腺(64%)と尿生殖器の(GU)(72%)重量の有意の減少、(iii) 血清インスリン様増殖因子-Iの有意の抑制及びインスリン様増殖因子結合蛋白質-3レベルの回復及び (iv) 前立腺の増殖性細胞核抗原(PCNA)のタンパク質発現の顕著な減少。この研究のきわだった観察はGTP注入が遠隔部位転移のほとんど完全な抑制をもたらしたことであった。さらに、GTP摂取がもしかすると、CaP細胞のかなりのアポトーシスを起こし、そしてそれは癌細胞の減少した播種をもたらし、それによって前立腺癌発症、進行及び遠隔器官部位へCaPの転移の抑制をもたらした。」
(10350頁、要約の項)

(2) 「マウス前立腺のトランスジェニック腺癌(TRAMP)はヒトの病気の進行形態を密接に模倣するCaPのモデルの1つである。このモデルで、SV40の初期遺伝子(T及びt坑原、Tag)の発現が前立腺内で細胞形質転換に導く前立腺特異的プロモータであるプロバシンによって促進させられる。オスのTRAMPマウスの100%が化学的又はホルモン治療を何もしないとCaPを発症する。さらに、このモデルでのCaPは、前立腺上皮内腫瘍(prostatic intraepithelial neoplasia)からリンパ節、肺、肝臓と骨への転移性癌腫という組織癌まで、42週間のメジアン生存期間で12?28週間にわたって連続的に進行する。我々の研究所及びほかからの最近の研究によりCaP化学防御の研究用のこれらのマウスの有益性が確立された。本研究で、我々はヒトで達成可能な用量でこのモデルにおいてCaP発症及び進行に関して緑茶から分離されたポリフェノール性画分(今後GTPと呼ばれる)の経口注入の結果を決定した。我々の結果はGTPの経口注入が発症、進行及び遠隔器官部位へのCaPの転移において有意の抑制をもたらすことを示す。」(10350頁右欄16?34行)

(3) 「GTP(>95%濃縮製剤)はNatural Resources & Products(Charlottesville 、VA)から得られた。この混合物のクロマトグラフ的分析によりそれが4つの主要なポリフェノール性成分を含んでいることが示された:エピガロカテキン-3-ガラート(62%)、エピカテキン-3-ガラート(24%)、エピガロカテキン(5%)、エピカテキン(6%)とカフェイン(約1%)。TRAMPマウスでの前立腺癌発症に対するGTP摂取の効果は2つの個々の実験で研究された。それぞれの実験の間じゅうずっと、動物は飼料に自由にアクセスした。それぞれの実験のために、8週齢の20匹のオスTRAMPマウスが等しく2つのグループに分けられた。水道水中 0.1%のGTPの新たに調製された溶液が24週間飲料液体の唯一のソースとして毎週月曜日、水曜日、と金曜日、実験用動物に供給された(GTP注入グループ)のに対して、動物のコントロールグループは実験の間じゅうずっと同じ水道水を供給された(水供給グループ)。」(10351頁左欄1?16行)

(4)「本研究で、我々はTRAMPモデルで前立腺癌発症に対してGTPの化学防御の可能性を評価した。我々の結果はGTP浸出液が有意にCaP発症を阻害することに効果があったこと及び完全に遠隔転移を消滅させた。事前の発表された研究が、緑茶中に存在するポリフェノールとカフェインが癌の化学防御効果を持つことを示した。観察されたCaPの化学防御の効果におけるカフェインの役割が除外されなかったけれども、我々はGTP混合物によってこの研究で観察された効果が、低い濃度の存在(約1%)のためにカフェインよりむしろポリフェノール成分のためであるであろうと信ずる。」(10354頁右欄31?42行)

(5)「我々の結果はTRAMPマウスに対するGTP注入が腫瘍性前立腺細胞の大規模なアポトーシスをもたらすことを示し、そしてさらに、GTPがプログラム死によって癌状態及び前癌状態細胞の優先的な除去の効果的な薬剤であり得ることを示唆する。」(10355頁左欄22?26行)

引用例には、オスのTRAMPマウスを用いて、ヒトで可能な用量(1日に6カップの緑茶と等しい)において緑茶から分離されたポリフェノール性画分(GTP)の経口注入が有意に転移性前立腺癌(CaP)発症を抑制して、これらのマウスで生存期間を増加させること、8週齢から24週間、TRAMPマウスに液体飲料の唯一のソースとして与えた0.1 %GTP(wt/vol)は、水を与えたTRAMPマウスと比較して、(i) MRIによって連続的に評価されるように、原発腫瘍発生率と全身腫瘍組織量で有意の遅れ、(ii)前立腺(64%)と尿生殖器の(GU)(72%)重量の有意の減少、(iii) 血清インスリン様増殖因子-Iの有意の抑制及びインスリン様増殖因子結合蛋白質-3レベルの回復及び (iv) 前立腺の増殖性細胞核抗原(PCNA)のタンパク質発現の顕著な減少をもたらしたことから、GTP注入がCaPの遠隔部位転移のほとんど完全な抑制をもたらしたこと及びGTP摂取が、おそらくCaP細胞のかなりのアポトーシスを起こし、そしてそれは癌細胞の播種の減少をもたらし、それによって前立腺癌発症、進行及び遠隔器官部位へCaPの転移の抑制をもたらしたと考えたこと(上記 (1))が記載され、TRAMPマウスは自然発生的に転移性前立腺癌(CaP)を発症するヒトの疾病の進行形態を模倣するモデルの1つであること(上記 (1))、オスのTRAMPマウスは、化学的又はホルモン治療を何もしないとCaPを発症し、このモデルでのCaPは、前立腺上皮内腫瘍から組織癌へ、リンパ節、肺、肝臓と骨への転移性癌腫へと、42週間のメジアン生存期間で12?28週間にわたって連続的に進行すること及びこれらのマウスがCaP化学防御の研究用に有益であること(上記 (2))が記載され、TRAMPマウスに摂取させたGTP(>95%濃縮製剤)は、カフェイン(約1%)及び主要なポリフェノール性成分としてエピガロカテキン-3-ガレート(62%)、エピカテキン-3-ガレート(24%)、エピガロカテキン(5%)及びエピカテキン(6%)を含んでいること(上記 (3))が記載されている。

そうすると、引用例にはヒトCaP発症モデル動物であるTRAMPマウスにエピガロカテキン-3-ガレート(62%)、エピカテキン-3-ガレート(24%)、エピガロカテキン(5%)、エピカテキン(6%)、とカフェイン(約1%)を含んでいるGTPを水道水に0.1%添加した溶液を、8週齢から24週間経口注入することによって、前立腺癌の発症及び転移を抑制したことが記載されており、前立腺癌の発症及び転移を抑制したことは前立腺癌の発症の予防するのに効果的なスケジュールと濃度でもってGTPを含む組成物が経口投与されたといえる。
つまり、引用例には、「TRAMPマウスにおける前立腺癌の発症を防止するための経口投与組成物の製造におけるGTPの使用であって、(a)GTPがエピガロカテキン-3-ガレート(62%)、エピカテキン-3-ガレート(24%)、エピガロカテキン(5%)、エピカテキン(6%)を含んでおり、(b)組成物が前立腺癌の発症を予防するのに効果的なスケジュールと濃度でもって8週齢から24週間にわたって投与され、(c)前記GTPの有するカフェインが1%程度であることを特徴とする使用」についての発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

3.対比・判断
本願発明と引用発明を対比する。
本願発明における化合物混合物の割合について、本願明細書中に、被験者に投与された生のポリフェノール(カテキン)混合物として下記の表が


(【0023】)記載され、この表には成分に対応する数値の単位が記載されていないものの、数値自体が本願発明と一致している上、【0024】に「抽出物は脱カフェインすることでカフェイン含有量を非常に低レベル(1.5 %未満)にまで落としてあり、」と、数値が一致するカフェインについて%と明記されていることから、上記の表における数値の単位は%と解され、この表が、本願発明の化合物混合物が記載されているものであって、この表の記載から、本願発明における総カテキンとは、(-)-エピカテキン(EC)、(-)-エピカテキン-3-ガラート(ECG)、(-)-エピガロカテキン(EGC)、(-)-ガロカテキン-3-ガラート(GCG)及び(-)-エピガロカテキン-3-ガラート(EGCG)を含む群を、また、没食子酸およびその他のカテキンは、上記表の最下行の化合物群を意味するものと認められる。

そこで、このことを前提として引用例のGTPに含まれる化合物の割合について算定すると、総カテキン量(EGCG、ECG、EGC及びEC)97%、EGCGが総カテキンの64%であり、カフェインが1%程度であり、没食子酸およびその他のカテキンを含まない、つまり総カテキンの20%未満である。
そうすると、引用発明におけるGTPは本願発明における化合物混合物に相当するものである。

してみると、両者の一致点及び相違点は以下の点である。

・一致点
前立腺癌の発症を防止するための経口投与組成物の製造における化合物混合物の使用であり、
(a)化合物混合物は総カテキン量97%、総カテキンの64%がEGCGであり、総カテキンの20%未満が没食子酸およびその他のカテキンであり、
(b)組成物を前立腺癌の発症を予防するのに効果的なスケジュールと濃度でもって投与され、
(c)カフェインが、1.5%未満である使用

・相違点1
組成物の投与対象が前者は、前癌病変部PINと診断された人間であるのに対して、後者は8週齢TRAMPマウスである点。

・相違点2
組成物の投与期間が、前者は少なくとも6ヶ月を越える期間であるのに対して、後者は24週間である点

・相違点3
前者では、組成物が、投与対象の「睡眠を阻害することなく」前立腺癌の発症を防止するためのものであるのに対し、後者では、投与対象の「睡眠を阻害することなく」という点が特定されていない点

そこで、これらの相違点について検討する。
・相違点1について
引用例には、TRAMPマウスが、前立腺上皮内腫瘍(prostatic intraepithelial neoplasia)、すなわち、PINを経過して前立腺癌へと進行(上記 (2))することが記載されているところ、本願の優先日当時において、8週齢程度のTRAMPマウスがPINを有することは当業者に周知であったものと認められる(例えば、The Prostate,55:219-237(2003)(特に、Table III)、The Prostate,36:59-63(1998)(特に、Table I及び61頁左欄)、Prostate Cancer and Prostatic Diseases(1999)2,70-75(特に、72頁及びFigure2)参照)。そうすると、引用例においては、組成物を投与したTRAMPマウスがPINを有しているかについての確認は行っていないものの、投与開始時の8週齢でも既にPINを有している可能性が高いものと認められることから、引用例には、PIN状態のものも含めて、前立腺癌の発症が抑制できることが開示されているものと認められる。そして、引用例に記載された実験が、PINからの前立腺癌への発症をも検討の対象にしていたことは、上記(5)に摘示したように、引用例の筆者が、前癌状態の細胞の除去について評価を行っていることからも理解できる。
そして、上記 (1)及び (2)に摘示したように、TRAMPマウスはヒトの前立腺癌に対するモデル動物であり、かつ、ヒトの前立腺癌もPINを経過して癌へと進行することは周知である。そうすると、引用例に開示されたTRAMPマウスを用いた実験は、ヒトの前立腺癌への適用を想定したものといえるから、引用発明における投与対象を、TRAMPマウスからヒトに代えることはきわめて自然であり、その際に、前立腺癌へ進行するリスクが高いことが周知であるPINを有するヒトを投与対象とすることにも困難性は認められない。

したがって、引用発明における投与対象を、TRAMPマウスに代えて、前癌病変部PINと診断された人間とすることは当業者が容易になし得るものである。

・相違点2について
引用発明では、GTPをTRAMPマウスに24週間にわたって投与している。24週間は、6ヶ月を越える期間ではないが、さらに長い期間投与すればより発症予防に効果的であることは自明であり、かつ、マウスの平均寿命が2?3年であって、ヒトに比べて平均寿命が非常に短いことも考慮すると、ヒトを投与対象とした場合に、投与の期間を6ヶ月を越える期間とすることは、容易になし得るものと認められる。

・相違点3について
引用発明において、前立腺癌の発症予防のための有効成分として認識されているものは、緑茶に含まれるポリフェノール成分であり(上記(4))、上記(4)の記載によると、ポリフェノール成分の効果を評価するために、引用例の実験では、カフェインが低濃度で含まれるポリフェノール分画であるGTPが用いられたものと理解できる。
一方、緑茶にはカフェインが多く含まれること、及び、カフェインが中枢神経興奮作用を有し、精神機能を促進し、思考力を高め、疲労をとるが、過度に摂取すると、不眠、動悸、頭痛、耳鳴り、目のかすみなどの不快な症状をもたらすことは周知である。
そうすると、引用発明においては、カフェインは低濃度でしか含まれないことから、カフェインを多量に摂取した場合に生じる不眠症状も生じないことは明らかであり、引用発明には、投与対象の「睡眠を阻害することなく」という点が明記されていなくとも、カフェイン含有量が非常に低レベルの化合物混合物を用いていることで、既に、「睡眠を阻害することなく」という条件を満たしているといえるし、また、カフェイン含有量が非常に低レベルの化合物混合物を用いていることにより、当業者にとって自明な作用を記載したにすぎないともいえる。

したがって、引用発明において、組成物の投与対象を、「前癌病変部PINと診断された人間」とし、投与期間を、「少なくとも6ヶ月を越える期間とし、組成物を「睡眠を阻害することなく」前立腺癌の発症を防止するためのものとして、本願発明の構成に想到することは、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易にできたものである。
また、前立腺癌の発症を抑えることができたとの本願発明の効果についても、引用例の記載から予期できる範囲内のものであり、格別顕著な効果とは認められない。
よって、本願発明は、引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

なお、請求人は、次のことを主張している。
(1)平成23年12月26日付け意見書において、参考文献1としてBritish Journal of Cancer (2006) 95, PP.371-373 を、平成26年2月3日付け回答書では参考文献、特に参考文献9(Eur. J. Cancer Prev., 2002, 11, 497-501)、参考文献10(Cancer, 2003, 97, 1442-1446)及び参考文献11(Cancer Sci., March 2004, 95, 3, 238-242)を提出して、引用発明のヒトへの適用について追試がなされており、その作用効果について疑いがあるとの技術常識が醸成されていた。
(2)引用例はヒトのCaPの進行に対する緑茶の作用効果は定かでなく後の研究に委ねる旨が結論されており、「TRAMPマウスでの実験結果を記録して後のヒトでの実験につなげること」を課題としている。

しかし、(1)については、意見書における参考文献1、回答書における参考文献9及び10は、ヒトに対する緑茶そのものの摂取について、同じく参考文献11は魚や大豆製品などの伝統的な日本食の摂取についての前立腺がんの予防又は治療効果に関するものである。これらの参考文献に記載されている緑茶そのもの(緑茶の抽出物)や伝統的な日本食は、本願発明における化合物混合物及び引用発明におけるGTPのカテキン等の組成とは異なっていることは明らかである。(例えば、NUTRITION AND CANCER, 47(1),p.13-23(原審の引用例4)の15頁、表1を参照されたい。)
そうすると、これらの参考文献が緑茶等の摂取による前立腺癌に対する効果について言及していても、ヒトに摂取させる組成物が異なっていれば、これらの結果は直ちに比較できるものでない以上、これらの参考文献の結果から請求人の主張する技術常識が醸成されるとは認められない。

また、(2)の主張は、引用例が動物モデルでの実験にすぎず、ヒトでの効果を確認したものではないことを指摘するものと認められるが、そのこと自体が、ヒトへの適用を妨げる根拠とはならない。そして、引用発明から、本願発明の構成に想到することが当業者にとって容易であることは上述したとおりである。

したがって、これらの請求人の主張は採用できない。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-04-28 
結審通知日 2015-05-12 
審決日 2015-05-26 
出願番号 特願2007-523166(P2007-523166)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安居 拓哉原田 隆興  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 辰己 雅夫
前田 佳与子
発明の名称 前立腺癌発病予防および前立腺肥大(BPH)の総合的症状の効果的な治療のための、化学的な予防効果を有する、中国緑茶またはその他の野菜から抽出したカテキン、さらに正確にはポリフェノールの混合物  
代理人 特許業務法人川口國際特許事務所  

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